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勉強ができないことに関係する要因
著者 片岡 真理, 杉村 健
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 33
ページ 95‑100
発行年 1997‑03‑01
その他のタイトル Factors relating to poor academic performances URL http://hdl.handle.net/10105/6955
勉強ができないことに関係する要因*
片岡 真理・杉村 健**
(心理学教室)
要旨:大学生に、自分(学生)、教師、親の立場から、小学2年生、5年生、
中学2年生の勉強ができない原因と関係がある12の項巨=こついて、6段階で 評定してもらった。全体的に、教師の教え方と熱意、子どもの学習意欲と学 習習慣が勉強ができないことと強い関係があると考えている。子どもの学習 方法、基礎学力、学習習慣、学習意欲、友人との人間関係、テストの内容、
および学習塾は、学年とともに関係が強くなると考えている。殆どの項目 で、学生や教師よりも親の場合に、勉強できないことと強い関係があると考
えている。
キーワード:学業成績、原因帰属、学年差、立場の差
学業成績の原因帰属に関する研究は、子ども自身に成績が良かった、または悪かった原因を 尋ねたものが多い。例えば速水・長谷川(1979)は、中学2年生について能力、努力、先生、
運の要因を取り上げ、国語、数学、英語では努力要因が特に重視され、社会と理科では教師要 因が比較的重視されていることを示した。
杉村・藤田・玉瀬(1983)は、小学2、4、6年生について能力、努力、テス下こ教師の教 え方を取り上げた。全体的に、学業成績が良かった原因では努力が多くて能力が少なく、悪か った原因ではテストが多くて先生の教え方が少なかった。学年とともに、学業成績が良かった 原因では努力が増加して先生が減少し、悪かった原因では4年生まではテストが多く、6年生 になると努力不足が多くなった。教科別に学業成績が良かった原因は、国語と算数では努力が テストよりも多く、社会と理科では努力が減少してテストが増加する傾向があった。悪かった 原因は理科では努力とテストがほぼ同じであり、他の3教科ではテストが多かった。
以上の研究は、子どもの学業成績が良かった、または悪かった原因を子ども自身がどのよう に考えるかといった、学業成績の原因に対する自己評定を求めたものである。これに対して、
子どもの学業成績が良かった原因や悪かった原因について、教師や親など周囲の人々がどのよ うに考えるかといった、学業成績の原因に対する他者評定を求めた研究がある。
速水(1981)は、子どもが学業不振に陥る原因について教師、母親、学生がどのように考え ているかを調べ、興味ある結果を得ている。例えば、母親は教師よりも、教師の教え方や両親
*Factorsrelatingtopooracademicperformances
**MariKataokaandTakeshiSugimura(DepartmentqfPycho10gy,旭mthliversi砂qfEducation,
肋和630)
の指導のまずさが原因であると考え、教師は母親よりも、本人の能力の低さや性格上の欠陥が 原因であると考えている。
教師がそのように考えているならば、学業不振児に対して適切な教え方や指導の仕方を工夫 しないかもしれない。反対に、教え方や熱意に原因があると考える教師は、自分の教え方を改 善して熱心に教えようと努力するに違いない。一般に、子どもの学業成績が良かった原因や悪
かった原因をどのように考えるかによって、その人の子どもへの対応が異なるといえる。この ように、他者評定による学業成績の原因帰属は、子どもの教育や指導に対する貴重な資料を提 供する。
本研究の目的は、奈良教育大学の学生が、子どもの勉強ができない原因をどのように考えて いるかを検討することである。従来の研究を参考にして、子どもの勉強に関係があると考えら れる教師、子ども、親、人間関係、それに学習塾に関する12項吉を設定した。次に、評定者の 立場として自分(学生)、教師、親の3つを取り上げた。また、評定される子どもの学年によ っても異なると考えられるので、小学校低学年として2年生、高学年として5年生、それに中 学2年生を評定の対象とした。このようにして本研究では、大学生が自分(学生)の立場、教 師の立場および親の立場から、小学2年生、5年生、中学2年生の勉強できない原因につい て、それぞれ12項目の評定を行った。
方 法
調査対象:奈良教育大学学生男子68名(1回生26名、2回生14名、3回生22名、4回生6 名)と女子125名(1回生47名、2回生10名、3回生46名、4回生22名)の合計193名。
実験計画,:各項目について評定者の立場(自分、教師、親)×被評定者の学年(小学2年 生、5年生、中学2年生)の要因計画で、いずれも被験者内要因。
調査項目:教師に関する項目として(》教師の熱意と(参教師の教え方、子どもに関する項目と して③子どもの学習方法、④子どもの基礎学力、⑤子どもの学習習慣、⑥子どもの学習意欲、
人間関係に関する項目として⑦教師との人間関係、⑧友人との人間関係、(9親との人間関係、
それに⑲親の教育的関心、⑪テストの内容、⑲学習塾の12項目。
調査方法:最初に『自分(学生)の立場』で、小学2年生、5年生、中学2年生について、
各項目が勉強ができない原因と「関係がある」から「関係がない」までの6段階で評定しても らった。次に『教師の立場』、そして最後に『親の立場』で同様な6段階評定をしてもらった。
従って、各項目について9つずつ、合計9×12=108の評定をしてもらった。
結果と考察
「関係がある」と評定した場合に1点、「関係がない」と評定した場合に6点、その中間に は2点、3点、4点、5点を与え、項目ごとに評定の平均値を算出した。従って、平均値が低 いほど、勉強ができないこと(学業成績)と強い関係があると考えていることになる。評定平 均の期待値は3.50であり、それよりも小さいほど学業成績と関係があり、大きいほど学業成績
と関係がないことを示す。
項目ごとの全体の平均評定値:全体の傾向をみるために、評定者の立場と被評定者の学年を こみにした平均値を算出した。表1は、平均評定値が小さい項目から順に並べたものである。
12項目の平均値(Sか)は2.50(0.51)であり、テストの内容と学習塾以外は学業成績と関 係があると考えている。平均値が特に低いのは、教師の教え方と教師の熱意、子どもの学習意 欲と子どもの学習習慣であった。このことから、評走者の立場と被評定者の学年にかかわら ず、教師の教え方がまずく、熱意が乏しいために、また、子どもの学習意欲が乏しく、学習習 慣ができていないために、子どもの勉強ができないと考えていることが明らかである。他方、
テストの内容と学習塾は平均値が期待値に近く、テスト問題の難易や学習塾への通塾の有無 は、学業成績とあまり関係がないと考えている。
表1項目ごとの平均評定値 教師の教え方
子どもの学習意欲 教師の熱意 子どもの学習習慣 教師との人間関係 子どもの学習方法
9 3 9 9 4 00
7 8 0 1 3 3
1 1 2 2 2 2
親との人間関係 親の教育的関心 子どもの基礎学力 友人との人間関係 テストの内容 学習塾
0 2.5 1 3 4
6 6 6 00 1 5
2 2 2 2 3 3
平均評定値の分散分析:項目ごとに、被評定者の学年と評定者の立場について平均評定値と 標準偏差を算出し、3(学年)×3(立場)の分散分析を行った。7つの項目で学年の主効 果、11の項目で立場の主効果、8つの項目で交互作用が有意であった。標準偏差が小さいうえ に、2つの要因が被験者内要因であるので、僅かな差でも主効果と交互作用が有意になりやす かった。その点を考慮して、以下では学年と立場の主効果を取り上げて考察する。
被評定者の学年ごとの平均評定値:麦2は、項目ごとに被評定者の学年別の平均評定値を示 したものである。最下行に示した12項目の平均値は学年とともに減少しており、全項目を通じ て、学年とともに勉強ができない原因との関係が強くなると考えている。
教師の要因である教師の教え方はどの学年でも評定値が低く、教師の教え方がまずいために 子どもの勉強ができないと考えている。他の項目と異なって教師の熱意だけが、小学生よりも 中学生での評定値が高い。これは、中学生になると教師の熱意の重要性が減少し、同じように 教師の要因でも、教師の熱意よりも教え方が重要であることを示唆する。
子どもの要因である学習方法、基礎学力、学習習慣、それに学習意欲では学年差が大きく、
いずれも小学2年生から中学2年生にかけて平均評定値が著しく減少しており、被評走者の学 年とともに、これらの項目と学業成績との関係が強くなると考えている。特に、中学2年生の 場合には、子どもの基礎学力や学習意欲が乏しいから、また、学習方法がまずく、学習習慣が できていないから勉強ができないと考えている。
表2 被評定者の学年ごとの平均評定値
項 目 小2 小5 中2 最大差 子どもの学習方法
学習塾
子どもの基礎学力 子どもの学習習慣 子どもの学習意欲 友人との人間関係 テストの内容 教師の熱意 親との人間関係 教師との人間関係 親の教育的関心 教師の教え方
3.01 2.41 4.18 3.55 3.28 2.58 2.77 2.17 2.13 1.85 3.13 2.74 3.30 3.16 2.01 2.04 2.56 2.59 2.35 2.29 2.56 2.61 1.79 1.79
1.70 1.31 2.90 1.28 1.08 1.20 1.62 1.15 1.52 0.61 2.56 0.57 2.94 0.36 2.23 0.22 2.65 0.10 2.37 0.08 2.59 0.05 1.78 0.01
平 均 2.76 2.48 2.16
且か 0.67 0.52 0.60
友人との人間関係では学年とともに評定値が減少し、学業成績との関係が強くなるが、親と の人間関係と教師との人間関係、それに親の教育的関心は、学年による評定値の違いが少な
く、学年によって学業成績との関係があまり適わないと考えている。
学習塾に通っているかいないか、テストが難しいか易しいかは、全体的に学業成績との関係 が乏しいが、学年とともに、学習塾に通わないことやテストの問題が姓しいことが、勉強がで きない原因になると考えるようになる。
各学年の中で評定値が特に小さい項目として、小学2年生では、教師の教え方と教師の熱意 があげられ、小学校の低学年では教師の要因が勉強ができない原因と最も関係があると考えて いることを示す。小学5年生では、教師の教え方と熱意に加えて子どもの学習意欲があげら れ、小学校高学年では子どもの要因のなかでも学習意欲を育てることが重要であることを示唆 している。中学2年生では、基礎学力、学習意欲、学習習慣、学習方法、それに教師の教え方 が、勉強ができない主な原因としてあげられている。
このように、学年が進むにつれて子どもの要因が重要であると考えるようになる。しかし、
これらの項目は一朝一夕にして子どもが習得できるものではなく、小学生の頃から基礎的内容 をしっかりと教えて定着させ、適切な勉強の仕方や勉強する習慣を身につけさせ、そして、自
ら進んで学ぶ意欲を育てるような教師の指導が必要である。
評定者の立場ごとの平均評定値:表3は、項目ごとに評定者の立場別の平均評定値を示した ものである。最下行に示した項目の平均値は、親の立場が最も低くて学生の立場が最も高く、
全項目を通じて、親の立場からみた場合に勉強ができない原因と最も関係があると考えてい る。
表3 評定者の立場ごとの平均評定値
項 目 学生 教師 親 最大差 学習塾
教師の熱意 テストの内容 教師の教え方 友人との人間関係 親の教育的関心 子どもの学習方法 子どもの学習習慣 教師との人間関係 子どもの基礎学力 子どもの学習意欲 親との人間関係
3.80 3.81 3.02 0.79 2.51 1.99 1.77 0.74 3.37 3.09 2.94 0.43 2.02 1.72
2.98 2.81 2.77 2.63 2.50 2.41 2.31 2.22 2.43 2.40 2.72 2.70 1.92 1.79 2.68 2.58
1.62 0.40 2.64 0.34 2.46 0.31 2.21 0.29 2.04 0.27 2.18 0.25 2.53 0.19 1.79 0.13 2.55 0.13
平 均 2.67 2.51 2.31
gか 0.53 0.58 0.45
どの立場でも、勉強ができない原因とあまり関係がないと考えられている項目は、学習塾と テストの内容である。学生の立場で勉強ができない原因と最も関係があると考えている項目 は、教師の教え方と子どもの学習意欲である。教師の立場では教師の教え方と教師の熱意、そ れに子どもの学習意欲であり、親の立場では教師の教え方と教師の熱意、それに子どもの学習 意欲と学習習慣である。
このように、どの立場でも勉強ができない最も重要な原因として、教師の教え方と子どもの 学習意欲をあげており、教師が日々の授業で常に教え方を工夫し、子どもが自ら学ぶ意欲を育 てることがいかに大切であるかを示唆している。学生よりも教師と親の立場では、教師の熱意 が重要であると考えられている点も注目に値する。
立場による違いが最も大きい項目は学習塾であり、学生と教師に比べて親の立場の評定値が 著しく低い。学生と教師の立場では期待値よりも高いので、学業成績とあまり関係がないと考 えているが、親の立場に立つと、学習塾に適わないから勉強ができないと考えがちである。
教師の要因である教師の熱意と教師の教え方、それにテストの内容でも立場の違いが大き く、特に教師の教え方では学生よりも教師と親が著しく低い。教師と親の立場からみたとき、
教師の熱意が乏しいから、教え方がまずいから、それにテストの問題が難しいから勉強ができ ないと考えがちである。
子どもの要因である子どもの学習方法、学習習慣および基礎学力は、学生と教師よりも親の 立場からみたとき、勉強と関係があると考えているが、学習意欲では学生よりも教師と親の立 場で関係があると考えている。全体的に、教師の要因の方が子どもの要因よりも立場による違 いが大きい傾向がある。
今後の課題:①本研究では、学生が教師の立場と親の立場に立って、小中学生の勉強ができ ない原因について評定したので、実際に教師や親がどのように評定するかわからない。可能で あれば、教師や親に評定してもらうとともに、同じ項目について子どもの自己評定の結果と比 較することが望ましい。②本研究では、勉強ができない原因について評定してもらったが、そ れは必ずしも勉強ができる原因の逆であるとはいえない。従って、同じ項目について勉強がで
きる原因と勉強ができない原因について評定してもらう必要がある。③本研究では、学業成績 に関係があると考えられる12項目を設定したが、その際、一般に子どもの要因と考えられてい る知能や性格はあえて除外し、基礎学力や学習意欲とした。この種の研究の結果は、用いる項
目に依存していると考えられるので、適切な項目を選択する必要がある。
引用文献
速水敏彦1981学業不振児の原因帰属−ケース評定尺度によるアプローチー教育心理学研 究,29,287−296.
速水敏彦・長谷川孝1979 学業成績の原因帰着 教育心理学研究,27,197−205.
杉村 健・藤田 正・玉顔耕治1983 小学生における学業成績の原因帰属 奈良教育大学教 育研究所紀要,19,105−112.
《付記≫ 資料の収集と統計的分析にあたりに、心理学専攻生3回生の阪田美智代さん、杉下 幸子さん、外川みちえさん、松尾美代子さんの協力を得ました。また、統計的分析に際し、心 理学教室豊田弘司先生と奈良保育学院清水益治先生のご教示をいただきました。心から感謝し
ます。