学位論文要約(博士(工学))
論文著者名 白川 雄三
論文題名:バイオエタノールを用いた排熱回収燃料改質エンジンシステムの
高効率化に関する研究
本文
近年,内燃機関のための石油代替燃料のひとつとしてバイオエタノールが注 目されている.しかし,バイオエタノールはガソリンに比べて単位発熱量あた りの燃料価格が高いことから,従来のエンジンで使用すると出力あたりの燃料 コストが高いという問題がある.そのため,バイオエタノールの製造コスト低 減やバイオエタノールを利用したエンジンシステムの高効率化が求められる.
バイオエタノールは,製造工程において蒸留および脱水により高濃度化され 無水エタノールとされる.これに対して,蒸留を簡略化して脱水を行なわない 含水エタノールは,無水エタノールに比べて製造に必要なエネルギーを大幅に 削減できる.
一般に,エンジンに供給される燃料がもつ化学的エネルギーのうち 40%程度 が仕事に変換されるが,残りは排気損失や冷却損失として捨てられる.排気損 失は供給燃料エネルギーの30~40%程度と大きいため,排気熱の一部を回収して 動力に変換することができればエンジンの熱効率向上のために有効である.こ のような技術のひとつに,吸熱反応を利用して排気熱の一部を化学的に回収す る手法がある.エタノールと水を反応させて水素を含むガスを生成する水蒸気 改質は吸熱反応であり,その反応熱としてエンジンの排気熱を利用することで 排熱回収が可能である.含水エタノールはこの反応に必要な水を含んでおり,
そのまま改質用の燃料として使用することが可能である.
そこで,本研究では含水エタノールを用いた燃料改質エンジンシステムを提 案し,バイオエタノールの高効率利用の可能性について検討を行った.さらに,
排気損失の次に大きな冷却損失を低減することも熱効率向上のために有効であ る.とくに,排気熱を利用して燃料改質を行うエンジンシステムにおいては,
冷却損失の低減による排気熱の増大もシステム総合効率の向上に寄与すること が考えられる.そこで,通常のアルミニウム合金製のピストンに比べて熱伝導 率の小さいマグネシウム合金製のピストンを用いることによる燃焼室の遮熱化 を試み,燃焼および熱効率因子に与える影響についても検討を行った.
これらの詳細を以下の6章からなる構成で論文にまとめた.
第1章「緒論」では,本研究の背景,目的および研究動向を述べた.
第 2 章「システム構成および特長」では,含水エタノールを用いる燃料改質 エンジンシステムの構成を示すとともに,理論的な効率向上効果についての検 討および含水エタノールの濃度が改質ガス組成に与える影響についての化学平 衡計算による検討についても記述した.
第 3 章「燃料改質エンジンシステムにおける含水エタノール利用の検討」で は,含水エタノールのエンジン燃料としての利用可能性を検討するために,燃 料改質エンジンシステムにおいてエタノール濃度の変化および改質ガスの供給 がエンジンの燃焼および各種熱効率因子へ与える影響を検討した実験結果をま とめ考察を行った.本システムによりエタノール濃度 60wt%未満の含水エタノ ールを用いた運転において,通常の無水エタノールを用いた従来型のエンジン と同程度の熱効率および低い窒素酸化物(NOx)排出濃度が実現できることなど を示した.
第4章「燃料改質エンジンシステムにおけるバイオエタノールの高効率利用」
では,エタノールの水蒸気改質による組成を模擬した模擬改質ガスを用いたエ ンジン実験による水素混合燃焼および高圧縮比化の効果について検討するとと もに,エンジンの排気系に改質反応器を取り付けてエタノールを改質すること による排熱回収効果について検討を行った実験結果をまとめ考察を行った.含 水エタノールを改質器に供給し,無水エタノールをエンジンに直接噴射するこ とで,燃焼速度の大きい水素による燃焼促進,高圧縮比化による理論熱効率の 向上,および燃料改質による排熱回収の効果により48.5%という高い熱効率を達 成できることなどを示した.
第5章「燃焼室の遮熱化が燃料改質エンジンシステムの熱効率に与える影響」
では,熱伝導率の異なるアルミニウム合金製ピストンとマグネシウム合金製ピ ストンを用いたエンジン実験を行い,燃焼室の遮熱化が燃料改質エンジンシス テムの各種熱効率因子に与える影響について検討を行った結果をまとめ考察を 行った.ピストンの低熱伝導率化によりエンジン燃焼室の遮熱化の効果が得ら れ,エンジンの熱効率の向上と排気熱量の増大が可能であり,とくに排熱回収 燃料改質エンジンシステムの高効率化のために有効であることなどを示した.
第6章「結論」では,本研究により得られた結果を結論としてまとめた.