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身体運動における運動記譜法の応用<1>

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(1)

Bulletin of Faculty of E(1ucation,Nagasaki University:Cuπiculum an(i Teaching1995,No・25,33−43

身体運動における運動記譜法の応用<1>

一運動の記録再現手段としての絵画的・言語的表現

        およびフィルムと運動記譜法との比較について一 堀  野  三  郎

(平成7年3月15日受理)

Applications of Dance and Movement Notation in Physical Movement<1>

一In a Comparison between Pictoria1,Verbal Expression and  Film and Dance and Movement Notation as Method of

Recording and Replaying Movement一 Saburo HORINO

(Received March15,1995)

 1 はじめに

 運動記譜法とは,人間に可能なあらゆる身体運動を記譜する方法である。運動を記譜す ることにより,我々は,運動を記録保存し,客観的に分析し,保存することが出来る。

現時点(1995年)で筆者が把握し得る範囲で実践的に活用されている運動記譜法には,主 としてクラシック・バレエ関係のステパノフ・システムStepanov System,モダンダンス 関係のローリン・システムLoring System,ラバン・システムLaban System,日本舞踊関 係の花柳流日本舞踊図譜,バレエや身体療法関係のベネッシュ・システムBenesh System等があるが,その中で,①既存の運動のみならず未知の運動も含めてあらゆる身 体運動を記譜することが可能なシステムであること,②運動の流れを身体各部位の時間的

・空間的な関連において立体的に,必要に応じて詳細にも簡略にも記譜でき、るシステムで あること,③運動の記録・分析・再現が視覚的に把握し易い体系化された記号からなるシ ステムであること,④現在の世界的な活用実績が高く,普遍性が高いシステムであること       で

等の視点から判断して,最優秀のシステムと目されるものは,ラバン・システムである。

 このシステムは,1928年にルドルフ・フォソ・ラバンRudolf von Labanにより考案さ れ,その後,彼の後継者達によって完成されたものであり,今日rラバソ記譜法;Labano−

tationlKinetographie Laban」の名称で,国立図書館等で公的運動記譜法として採用され たり,舞踊や演劇や体育分野のみならず,医学や心理学や工業的作業面等にもわたり広く 実用化されている。

(2)

34 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

 本論は,標題に関して前述のラバン記譜法と従来の運動記録・再現手段としてよく用い られる動作略画法とその説明的な言語記述法例との対応比較を行い,次いで,フィルムと 運動記譜法との原理的・技術的問題点について比較検討を行い,それらを踏まえて運動記 譜法の特性に関するより詳細な考察を行った。更に,ラバン記譜法による諸種の体育運動 への応用記譜例を報告する。

 なお,本論は既に口頭発表した小論r体育運動に於ける運動記譜法の応用」(その1)

一運動の記録再現手段としての絵画及び言語的表現と運動記譜法について一(日本体育学 会第11回大会・早稲田大学,キネシオロジー会場発表資料,1960)およびr体育運動に於 ける運動記譜法の応用」(その2)一運動の記録再現手段としてのフィルムと記譜法一,

一運動記譜法に於ける心理的表現一(日本体育学会第12回大会・名古屋大学,キネシオロ ジー会場発表資料,1961)の標題に関連する要旨を抽出し転載報告したものである。

◎[運動記譜法に関する各システムの譜例]

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(3)

堀 野:身体運動における運動記譜法の応用<1> 35

1[ 動作略画法と運動記譜法について

<譜例一V>

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〈図一A>

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 図一Aは,」.ウィナールズJane Winearls著「モダンダンスーヨース=リーダー・メ ソードーModemDance−TheJooss=LeederMethod」(1958年初版)より抽出・転載し たものである。同著者は,「ザ・ラバソ・アート・オヴ・ムーヴメント・センターThe Laban Art of Movement Centre」の所長も勤めた優れた舞踊指導者であり,当時のロソド ンの舞踊家の一人でもあった。同著書は,1930年代からイギリスのダーティングトソの rヨース=リーダー舞踊学校JossニLeeder Dance Schoo1」を拠点として,前記のラバン

・センター設立(1954年)以前のイギリスにおけるラバソ理論のアカデミックで実践的な モダンダンサー養成機関として,その先駆的な役割を果たしてきた著名な二人の舞踊家で あり舞踊指導者でもあったクルト・ヨースKurt Joossとシガード・リーダーSigurd Leederとのダンス・トレーニング・メソードを紹介したものである。なお,わが国では,

同著書の第二版(1968年版)による訳書が河井富美子・五十嵐英子・林悦子訳r創作ダソ ス入門」一ヨース=レーダー法によるダンスのトレーニングー(1970年)に大修館書店か

ら出版されている。

 さて,我々、は先ず,動作略画の記録性の観点から,同書の解説文には触れないで,図一 Aを見てみよう。

 我々は,それが左手であること,栂指と小指とが他の三本の手指より離れており,その

(4)

36 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

中の三本は伸ばされたまま互いに固く閉ざされていること,手掌は伸ばされていること,

手掌の方向は垂直または前方と考えられること,などを観察する。

 次に我々は,図一Aの下に示された言語r手掌前方」を読む。そこで,手掌の方向は垂 直ではなくて前方であることを知る。しかし,その前方とは,前方中位(譜例一Vのb またはb ;b は譜表内での表記ではなくて,普通の紙面上に記される場合)か,前方高位

(譜例一Vのc)か,あるいは前方低位(譜例一Vのd)かは判明しない。

 それと共に,左上肢の動きが垂直高位(譜例一Vのf)か,左上腕前方中位で左前腕垂 直高位(譜例一Vのg)か,あるいは左上腕左側方中位で左前腕垂直高位(譜例一Vの

h)かも判明しない。

 次に我々は,図一Aに付された説明文r両手はそれらの手掌が向いている方向で分類さ れる」を読む。そこで,左手のみならず両手について,手の方向が問題とされていること を知る。つまり,栂指,小指が閉じられても,または全手指が伸ばされていても開かれて いても関係がないことが判る。(なお,譜例一Vのeは,左上肢の動きには関係なく,左 手掌を伸ばし,左栂指・小指を他の三本から離し,他の三本は閉じた動作を示し,f−h は,前述の左上肢の動きを伴って,eの場合と同様の手指動作をすることを示している。)

 以上のように,動作略画法による認識過程とそれに次ぐ言語的付加説明法の過程から,

我々は多くの誤解的な認識や無駄な予測を経て,図一Aが手の方向を示そうとしているこ とを理解した。これらの誤解や不明点は,今においてもなお以下のように存在する。

 今度は,r手掌が前方の時の手の方向」の動作言語記述法について検討する。r手掌が前 方の時の手の方向」は,譜例一Vのf−9のように上肢や前腕が垂直高倖の場合だけでは なく,前腕の垂直低位や斜側方高位やその他の手首関節を支点とする手掌前方面の全ての 方向における動作に適用される。また更に,我々が日常的に用いる意味でのr手掌の前方

に」は,ラバン記譜法で用いられるr手掌斜前方」の概念も含まれることが一般的である から,それらを一回転させて出来る面を考えると,r手の方向は,手指前方垂直から手指 前方水平にわたり手首関節を中心として形成される半球体の全ての方向一ただし,その前 方水平を除く一に存在する」といえる。つまり,r手掌の方向は,手の方向を決定する全 ての要素ではなくて,その一部である」ことが判る。即ち,r手の方向を決定するのは,

手掌と手指の方向による」のであって,一般的に最も自然な手の方向は,伸ばされた手掌 と伸ばされた手指における手指の方向と同一方向である。故に,r手掌前方の記譜法は,

図一Aの上例または譜例一Vのa or a で必要かつ十分である。以上のように,微細な一 部位の静的ポーズについてさえ,従来の運動記録法は,多くの不備,不要または誤解を生 み易く,いわんや全部位の多様にして動的な運動の流れを,正確かつ詳細に記録すること が如何に困難かつ不適当であるかが理解される。

 皿 フィルムと運動記譜法について

 近年,科学技術の進歩に伴い,フィルム・メカニズム(スナップ撮影,ストロボ撮影,

OHP撮影など)や電子記録装置(VTR,CGなど)等による運動映像の記録再現手段の 発展は目ざましく,それらは運動科学の研究に多大の成果をもたらしつつある。しかしr運 動の記録再現手段」としてフィルムによる手法のみでは十全ではない。フィルムと記譜と

を比較する際,運動を記録再現するという目的に対して,運動記譜法と比較して,フィルム

(5)

堀野:身体運動における運動記譜法の応用<1> 37

は如何なる限界または欠点を有するかについて原理的・技術的視点から検討し,考察する。

1 原理的問題点

(1) r運動の独自性」とその運動を行う「行動者の独自性」とは次元が異なること。

  この両者の次元の違いを,過去の歴史的な経緯において,人々は往々にして混同し,

 同一視して誤解を生じ,運動の記録再現手段における発展に多くの不毛な面を生じた。

 この間の事情は,一方では,前章で考察した動作略画と運動記譜の場合と同様であり,

 他方では,音楽におけるレコードと楽譜との関係と同様である。後者の例を運動につ  いて考えてみると,運動自身の独自性は運動譜にあり,行動者自身の独自性は,運動  自身の独自性に立脚した上で,更に自分の表現意志の有無に関係なく行動者自身の独  自性も含有するものとしてフィルムに記録される。

(2)フィルムは運動の客体的立場であり,記譜は運動の主体的立場であること。

  即ち,フィルムは観客の立場からのみの視覚記録であり,特に再現手段としては後  述(本章の2を参照)のような多くの不都合を生じる。

(3)運動の芸術的内至心理的な記録・表現において,フィルムは運動作品の全てを常に  同一の視覚や距離や焦点で記録する必要はないこと。

  即ち,クローズアップやスローモーションやフェードイソ,フェードアウトやモソ  タージュ法等々の各種の撮影技法が駆使されてはじめて芸術的フィルム作品となる。

2 技術的問題点(特に再現手段としてのフィルムにおいて)

記録フィルムから運動を再現しようとする人は:

(1)運動記録が視覚的に左右反対であり,直観的に把握し難いこと。

(2)フィルム自体が二次元的記録故に,立体的な前後空間における正確な再現性が不明  であること。

  即ち,これは,個人的な運動においても,また,集団的な運動においても同様であ  り,また,他人や他の物体が前面を覆ったり横切ったりした場合も同様である。

(3)スローモーション撮影ではリズミカルな運動の流れが喪失すること。

(4)集団的な運動における中心人物(または物体)と他人(または他の物体)との焦点  や空間位置関係が不明であること。

(5)個人的な運動における一部位のクローズアップと他の部位などとの関係が不明であ  ること。

(6)運動の明確な心理的表現についても,主体的な表現性に乏しいこと。

(7)作品の中間場面のみを必要とする場合,全巻にわたる機械操作に要する労力,時間,

 施設経費等が多大であること。

(8)記録・普及手段として運動記譜法に比して高価かつ普及不便であること など。

  即ち,運動記譜法は,紙と鉛筆のみで記録され,安価かつ容易に的確な再現が可能  であり,しかも世界共通の運動文字として,広範な活用・普及が可能である。

 以上,フィルムは,本質的には運動の客体的な記録再現手段であり,行動者にとって不 可欠な運動の主体的な記録再現手段としては限界が多く,不適当であるといえる。

(6)

38 一長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

 lV 運動記譜法(ラバン記譜法)の特性

 ラバン記譜法による運動譜は,舞踊や演劇や体育の分野ばかりでなく,医学的運動療法 や心理学的療法などの科学分野から工業技術的生産面に至るまで,身体運動の記譜(記録

・保存・再現)を必要とする全ての分野に共通に使用できる。

1 運動の正確かつ完全な保存と再現ができること。

(1)運動および運動作品の独自性を常に表現できる。特に他の手段と比較して:

  O運動の流れにおいて,各部位からなる時間性と空間性との関連について詳細に理    解できる。

  ○伝えたい運動目的以外の不要な表現を省略できる。

  ○紙面上に,立体的記録(三次元的表現)ができる。

  ○運動の心理学的要因について,視覚的に直戴に理解できる。

(2)運動作者と運動者との分離も可能となり,両者の適材適所による共存ができる。即  ち,よきアイディアとよき技術の結合により,他の記録・再現手段による以上に内容   を高度化することができる。

(3)現代の諸分野への応用の外に,伝統的な運動文化への民俗学的研究やその他の科学  的研究のための運動資料を正確に提供できる。

(4)作業状態の簡素化が図れる。

 時間・労力の節約ができる。即ち,未知の運動を地方や家庭で自分の自由な時間に理  解し,記憶による不明確を除き,運動の推敲に時間や労力を集中できる。

2 運動の客観化ができること。

 運動分析ができ,運動力学や運動美における科学的な一手段とすることができる。

(1)自分の運動およびその作品で

   O自作自演から生ずる独断性を防止できる。

   O作品の全体構造を把握できる。

   ○作品歴の正確な回顧や反省ができる など。

(2)他人の運動およびその作品で

 分析,比較研究,反省などの一手段とすることができる。

(3)集団運動における自己の役割を総体的に確認できる(全体と自分との関係の理解が   容易である)。

3 運動作品の著作権を主張できること。

4 普遍性・普及性が大きいこと。

(1)世界共通の運動文字として,しかも各分野に共通の運動文字として,運動文化を世   界的に普遍できる。

(2)紙と筆記用具があれば記譜ができ,他の動的映像の運動記録法に比して,システム   自体容易かつ安価であり,従って普及手段として優れている。

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堀 野:身体運動における運動記譜法の応用<1〉

[アイオワ・ブレイス・テスト]

 第1テスト:片足一頭つけ

く方法>

左足で立つ,体を前に曲げて床に両手を つく。右足を後方へ伸ばす。床に頭をつ けてからバラソスを失うことなく立位の 姿勢にかえる。(失敗)床に頭をつける ことができない。バランスを失って右足 を床につけたり,または跳んだりする。

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    第1テスト

  <譜例一皿>

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40 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

  〈譜例一四>

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<譜例一K>

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42 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第25号

〈譜例一X>

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(11)

堀 野:身体運動における運動記譜法の応用〈1> 43

      [主要参考文献]

1)Hutchinson,Ann(1954)Labanotation.Mac(10na1(1&Evans LTD.

2)Winearls,Jane(1958)Modem Dance−The Jooss−Leeder Method一.Macdonald&Evans LTD.

3)J.ウィナールズ著:河井富美子・五十嵐英子・林悦子共訳(1970)創作ダンス入門一ヨース=レーダー  法によるダンスのトレーニングー。大修館書店

4)堀野三郎(1957)ラバン記譜法を中心とした舞踊譜の研究(卒業論文)

5)堀野三郎(1960)体育運動に於ける運動記譜法の応用(研究報告)

6)堀野三郎(1960)体育運動に於ける運動記譜法の応用(その1)一運動の記録再現手段としての絵画及   び言語的表現と運動記譜法について一。日本体育学会第11回大会発表資料

7)堀野三郎(1961)体育運動に於ける運動記譜法の応用(その2)一運動の記録再現手段としてのフィル   ムと記譜法一,一運動記譜法における心理表現一。日本体育学会第12回大会発表資料

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