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本邦のイールド・カーブ 変動パターンの測定 ⑴

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(1)

I.

は じ め に

 本稿は,金利リスク・ヘッジも視野に入れて,円(JPY),米ドル(USD) 金利スワップ市場と国債流通市場におけるイールド・カーブを計測し,主 成分分析の手法を活用することで,もとになる変動要因を集約する高橋

[2017]での分析範囲を拡張する試みである。

 円金利スワップ市場に関しては1996年4月から2014年1月までの期間に ついてイールド・カーブを計測,すなわち,6か月もの円LIBORと円ス ワップ金利のデータから,いわゆるcoupon strippingによりディスカウン ト・ファクターを推計し,得られたディスカウント・ファクターからスポ ット・レートを推計する。これらのイールド・カーブの状況をグラフでと らえたのち,イールド・カーブの変動要因を測定するため,日次データに よる主成分分析を行っている。イールド・カーブの変動パターンの要因分

 169 商学論纂(中央大学)第59巻第1・2号(2017年9月)

本邦のイールド・カーブ 変動パターンの測定 ⑴

高 橋 豊 治

   目   次

Ⅰ.は じ め に

Ⅱ.イールド・カーブの計測

Ⅲ.イールド・カーブ変動要因の測定

Ⅳ.イールド・カーブ計測結果

Ⅴ.イールド・カーブの共通変動要因

(2)

析によれば,イールド・カーブ変動の影響要因として3つのファクターが 想定されることに加え,0.5年とその他のスポット・レートは異なった動 きをしていると考えられることを確認した。3つのファクターについて は,第1のファクターはイールド・カーブの平行シフト要因と考えること ができること,第2のファクターは,イールド・カーブの傾きを変える

(緩やかにしたり,きつくしたりする)要因であると考えることができること,

そして最後に第3のファクターは,先行研究とは異なり,0.5年のスポッ ト・レートの変動要因と考えられることを発見している。ただし,この動 きは,次号で検討する計測期間の後半では大きく変化している。

 一方,国債流通市場に関しては,まず毎月20日(休業日の場合は翌営業日)

のディスカウント・ファクターを,ディスカウント・ファンクションとし て3次の自然スプライン関数を想定することでスプラインのパラメータを 推計する。その後,得られたパラメータをもとに,3か月刻みのディスカ ウント・ファクターを推計し,イールド・カーブを構築する。こうして構 築したイールド・カーブをもとに,長期国債については2006年1月から 2014年1月まで半年刻みのゼロクーポンレートの変動を主成分分析に集約 することで変動の特徴を明らかにしている。

 本稿の構成は以下の通りである。まず,Ⅱ節において,国債流通市場,

金利スワップ市場のそれぞれについて,イールド・カーブの構築手法とし て利用されている,代表的なディスカウント・ファクター,スポット・レ ートの推計手法を紹介する。次いで,Ⅲ節では,イールド・カーブ変動パ ターンを集約するための主成分分析の手法を簡単に整理し,リスク・ヘッ ジの目的からの利用方法を確認する。さらに,Ⅳ節において,実際のイー ルド・カーブを計測しグラフによる観察から変動パターンを確認した後,

Ⅴ節で主成分分析により,それぞれの市場でのイールド・カーブの動きの 特徴を明らかにする。

(3)

 なお,金利スワップ市場と長期国債市場の2014年1月以降の動きも含め た分析と,超長期国債(20年)については次号で扱う。

Ⅱ.イールド・カーブの計測

1 国債流通市場でイールド・カーブ計測  1.1 基本的概念

 固定利付債価格は,将来のキャッシュ・フローの割引現在価値として評 価することができる。例えば,基準日(一般には受渡日)からti日後のキャ ッシュ・フローC(ti)の割引現在価値は,ti日後のディスカウント・ファ クターd(ti)を利用して,C(ti)・d(ti)と評価することになる。そこで,図1 に示されているような額面100,残存利払い回数n回,クーポンが年2回

(半年に1回)C/2ずつ支払われる固定利付債価格(利込値)PAは,各キ ャッシュ・フローに対応するディスカウント・ファクターd(ti)を用いて 評価すると

    C n‑1      

PA=─

Σ

d(tj)+(100+─C)d(tn)

    2 j=1        2

となる1)

1) ここで,tjは,基準日(受渡日)から当該債券のj番目(j=1, 2, . . . , n)

の利払い日までの日数,d(t)は基準日からt日のディスカウント・ファクタ ーである。

図1 債券キャッシュ・フロー

0 1 2 3 4 … n−2 n−1 n

P+A

̶C

2 ̶C

2 ̶C

2 ̶C

2 ̶C

2 ̶C

2 100+̶C2

(4)

 ⑴式より当該債券の第n回の利払い日tnに対応するディスカウント・

ファクターd(tn)は,

として与えられる。ここで当該債券の銘柄属性や価格等の取引情報,さら には満期前(第1回から第n−1回)の利払い日に対応するディスカウン ト・ファクターの情報がマーケットで得られる場合には,つまり,利込値 PA,クーポンC,ディスカウント・ファクターd(ti)(ただし,1<−j

n−1)がわかれば,⑵式を用いて第n回の利払い日tn(当該債券の満期日 時点)のディスカウント・ファクターd(tn)を明らかにすることができる。

利込値は取引の結果から,クーポンは銘柄ごとに発行時に決まっているの で,満期前の利払い日に対応するディスカウント・ファクターの情報が明 らかになれば,満期時のディスカウント・ファクターを明らかにすること ができる訳である。この手法は,クーポン・ストリッピング(coupon stripping),「 逐 次 代 入 方 式 」, 最 近 で は ブ ー ト・ ス ト ラ ッ ピ ン グ(boot strapping)などと呼ばれている2)

 この手法は,各満期日に1銘柄が対応し,市場価格は完全に⑴式で表 される場合には問題なく実行可能であるが,同一の満期日の銘柄が複数あ るようなケース,あるいは逆に十分な銘柄の取引が行われていない場合で は,そのまま実行できない3)。この点を表1に掲載した2006年1月20日公

2) 「クーポン・ストリッピング」は高橋琢磨[1988]第3章で,「逐次代入方 式」は小峰ほか[1989]で言及されている呼び名である。

3) この点に関して,小峰ほか[1989](p. 19)では,「また,実際には同じ 満期日の銘柄が複数あるケースは希であり,推計値の個数の割にデータの個

        C n‑1     P+A−─

Σ

d(tj)

        2 j=1

d(tn)=──────── ⑵

      

     100+─C         2

(5)

表の長期国債流通市場情報(説明に必要な部分のみ掲載)を例に確認してみ よう。

 表1の長期国債の満期は3月,6月,9月,12月の4種類であるが,満 期以前に半年ごとに利払いがなされるので,満期が3月や6月の長期国債 は3月と6月に,6月や12月の長期国債は6月と12月に利払いがなされる ことになる。例えば,長期国債188は2006年3月20日に利払いがなされ 2006年9月20に償還,長期国債192は2006年3月20日および9月20日に利 払いがなされ2007年3月20日に償還される。そこで,クーポン・ストリッ ピングの考え方は,国債185の情報から2006年3月20日に対応するディス カウント・ファクターを推計し,その結果を利用して長期国債188の2006 年3月20日に支払われるクーポンの現在価値を求めることで,2006年9月 20日に対応するディスカウント・ファクターを推計する。さらにこれらの

数が少ないという計算上の問題点もある。」と指摘しているが,前者に関し ては,現時点では同じ満期日の銘柄が複数あるケースの方が,むしろ一般的 であろう。

表1 長期国債流通市場の情報(2006年1月20日)

銘柄名 償還期日 利率 単価(平均値)

長期国債 185 2006/3/20 3.1 100.50 長期国債 186 2006/3/20 3.2 100.52 長期国債 187 2006/6/20 3.3 101.37 長期国債 188 2006/9/20 3.2 102.13 長期国債 189 2006/9/20 3.1 102.06 長期国債 190 2006/12/20 2.9 102.62 長期国債 191 2006/12/20 2.8 102.53 長期国債 192 2007/3/20 2.7 103.04 長期国債 193 2007/3/20 2.6 102.93

以下省略

(6)

結果を利用し長期国債192の2006年3月20日および9月20日に支払われる クーポンの現在価値を求めることで2007年3月20日に対応するディスカウ ント・ファクターを推計するという具合に,償還期日の近いものから順に ディスカウント・ファクターを推計することができるというものである。

前述の通り,各償還期日に1銘柄が対応しているならば,順にディスカウ ント・ファクターを推計することができるが,表1をみればわかるよう に,2006年3月20日を償還期日とする銘柄は,長期国債185だけでなく長 期国債186も存在する。同様に,2006年9月20日を償還期日とする銘柄も 長期国債188だけでなく長期国債189も存在している。

 複数の銘柄が同一の償還期日に存在していても,推計されたディスカウ ント・ファクターが同じならば問題ないのであるが,実際には利用する銘 柄によって推計結果の数値が異なるのが一般的である。

 対応策は大きく2通りのものが考えられる。第1の対応策は,何らかの 方法で,満期日ごとに銘柄をひとつに絞り込む方法である。同一満期日の 複数の銘柄のうち,イールド・カーブ計測に関して指標となるものは1銘 柄のみで,他の銘柄はイールド・カーブ計測には活用しないというもので ある。この手法では,どのような基準で銘柄を絞り込むかということが大 きな問題となる。例えば,同一満期日の銘柄のうち最も取引量が大きいも のが市場を代表するものであると考えることも,ひとつの可能性としては ありうる。ただし,今回利用した日本証券業協会のデータは,実取引のデ ータではないことから,こういった基準での銘柄選別は難しい。さらに は,1銘柄のみが正しい情報で,他の銘柄はミス・プライスされていると 仮定するのは,いささか乱暴でもある。

 もうひとつの方法は,1銘柄のみが正しい情報を提供していると考える のではなく,すべての銘柄の市場価格には何かしら誤差を含んだ価格付け がなされているとする立場である。次に,その考え方に従った計測手法を

(7)

検討しよう。

 1.2 市場価格に誤差を想定する方法

 前述のように,各満期日に1銘柄が対応する場合には⑴式で表すこと が可能であるが,同一の満期日の銘柄が複数あるようなケースでは,次の

⑶式のように,市場価格には何らかの誤差が含まれていると考え,⑴式 に誤差項を付け加えることにより対応する方法が考えられる。

    Ci n‑1      

Ci

Pi+Ai=─

Σ

d(ti, j)+(100+─)d(ti, n)+εi

    2 j=1        2

 ここで,εiは誤差項である。市場価格に含まれる誤差は,銘柄ごとにそ の程度が異なるであろうが,全体として誤差はできるだけ小さくなるよう な価格設定がなされているはずである。

 このように考えれば,誤差が最小となるような水準が,流通市場で参加 者が想定しているディスカウント・ファクターであるとみることができよ う。したがって,市場価格を被説明変数,クーポン等のキャッシュ・フロ ーを説明変数として,⑶式における誤差が最小となるようなディスカウ ント・ファクターを回帰分析(最小二乗法)により推計することが可能に なる。この手法では,ディスカウント・ファクターを回帰パラメータとし て直接推計することになるが,小峰ほか[1989]の指摘にあるように,

「……推計値の個数の割にデータの個数が少ないという計算上の問題点も ある。」ということが言える4)

 そこでこの問題に対処するため,ディスカウント・ファクターを直接推 計するのではなく,各ディスカウント・ファクターと年数tとの関係を示

4) さらに,パラメータ数とデータ数との相対的な関係だけでなく,パラメー タの絶対数が多いという問題もある。例えばMicrosoft Excel®で簡単に検証 しようと試みても,推定するパラメータが多い(説明変数が多い)ため推計 できないなどがその典型例である。

(8)

すディスカウント・ファンクション(discount function)に特定の関数関係 を仮定することで,ディスカウント・ファクターを推計する方法が考えら れる。推定するパラメータを減らす工夫である。

 ディスカウント・ファンクションとして設定する関数型にはいくつかの ものが考えられるが,代表的なもののひとつが3次の自然スプライン関数 である。ここで,ディスカウント・ファンクションが節点(knot)k個の 3次の自然スプライン関数(Cubic Natural Spline Function)で与えられるも のとすると,

         k

d(t)=a0+a1t+

Σ

blmax(t−tl , 0)3

       l=1 と示すことができ,⑶式は

    Ci n‑1       k

Pi+Ai=─

Σ {

a0a1tj

Σ

bl max(tj−tl , 0)3

    2 j=1       l=1

         Ci       k

     +

100+─

{ )

a0+a1tn

Σ

bl max(tn−tl , 0)3

+εi

        2      l=1

となる。⑷式は,パラメータに関して線型の関係になっているので,線 型回帰によりスプラインのパラメータを推定することができる。

 さらに,基準日のディスカウント・ファクターに1という制約を課すこ とも考えられる。この場合,

d(0)=a0=1

となることから,⑷式は,

        n Ci Cin‑1     k

Pi+Ai−100−

Σ

─=─

Σ {

a1tj

Σ

bl max(tj−tl,0)3

       j=1 2   2 j=1      l=1

        Ci     k

          +

100+─

{ )

a1tn

Σ

bl max(tn−tl,0)3

+εi

        2    l=1

(9)

       Ci Ci n‑1    k

Pi+Ai−100−n・─=─

Σ {

a1tj

Σ

blmax(tj−tl,0)3

        2   2 j=1       l=1 ⑸          Ci    k

           +

100+─

{ )

a1tn

Σ

bl max(tn−tl,0)3

+εi

       2    l=1

と表すことができる。⑸ 式も ⑷ 式同様,パラメータに関して線型の関係 になっているので,線型回帰によりスプラインのパラメータを推定するこ とができる。

 イールド・カーブの構築にあたっては,そこで得られたパラメータを元 にディスカウント・ファクターを推計し,その結果からスポット・レート を求めることができる。例えば,国債の第n回の利払い日に対応する(連 続複利表示の)スポット・レート0rnは,地主・岡本・高橋[2004]で示し た通り,求められたディスカウント・ファクターd(tn)から

0rn=−1nd(tn)・365/tn

として求めればよい。

2 金利スワップ市場でのイールド・カーブ計測 5)

 金利スワップ市場でのi期のスワップ・キャッシュ・フローは,図2に 示されている通りである。図2をもとに考えれば,j番目の固定金利キャ ッシュ・フローSi, jと変動金利キャッシュ・フローlj ,j番目のキャッシ ュ・フローが発生する時点ti, jに対応するディスカウント・ファクター d(ti, j)との関係は,

    n        n

Σ

Si,j d(ti,j)=

Σ

lj d(ti,j)

j=1       j=1

5) ここでの手法の,より詳細な解説に関しては,例えば,高橋[2002]を参 照のこと。

(10)

となり,スワップ・レートSwi(act/365)とLIBOR Lj(act/360),ディスカ ウント・ファクターの関係は,想定元本Fの場合には,

      ti, j−ti, j‑1

Si, j=Swi・────・F       365     ti, j−ti, j‑1

lj=Lj・────・F     360 であるから,

      n    ti, j−ti, j‑1     n     ti, j−ti, j‑1

Swi

Σ

────・d(ti, j)=

Σ

L・────・j d(ti, j)

j=1  365      j=1   360 として与えることができる。

 さらに⑺式におけるLIBORキャッシュ・フローの現在価値合計は,

n     ti, jti, j‑1

F

Σ

Lj・────・d(ti, j)F{1−d(ti, n)} ⑻ j=1   365

で与えられるので,⑺式,⑻式から,     n  ti, jti, j‑1

Swi

Σ

────・d(ti, j)1−d(ti, n) ⑼   j=1  365

という関係があることがわかる6)。以上のことから,金利スワップ市場の 6) スワップ・レートSwiがact/365のday-count basisであるため関係がわか りにくいが,これが国債等のクーポン・レートと同様のものであれば,

図2 スワップ・キャッシュ・フロー

0 1 2 3 4 5 6 …n−5 n−4 n−3 n−2 n−1 n

si, 1

l1 si, 2

l2 si, 3

l3 si, 4

l4 si, 5

l5 si, 6

l6 si, n−5

ln−5 si, n−4

ln−4 si, n−3

ln−3 si, n−2

ln−2 si, n−1

ln−1 si, n

ln

(11)

ディスカウント・ファクターの推計は,⑼式より,

       n‑1  ti, j−ti, j‑1

     1−Swi

Σ

────・d(ti, j)

       j=1 365

d(ti, n)=────────────

        ti, n−ti, n‑1

     1+Swi・────

       365

として行えばよいことがわかる。この手法は,1.1の逐次代入方式に対応 するものであり,短いディスカウント・ファクターから長いものへと順次 推計することになる。そのためには,キャッシュ・フローに対応するスワ ップ取引が行われていることが必要である。より具体的には,スワップ期 間が半年刻みでスワップ取引が行われていることに加え,その金利情報が 必要である。さらに,こうして推計されるディスカウント・ファクター は,キャッシュ・フローの発生する6か月刻みについてであるが,スワッ プの評価のためには,固定金利キャッシュ・フローの評価に関しては,少 なくともキャッシュ・フローが発生する時点のディスカウント・ファクタ ーが必要になる。また,変動金利キャッシュ・フローの評価のためには,

変動金利キャッシュ・フローの期間の始めと終わりの時点に対応するディ スカウント・ファクターをもとにしたフォワード・レートが必要である。

しかしながら,利用可能なデータの存在する点(これを「グリッド・ポイン ト」と呼ぶ)だけでは,こうした情報を入手できない。そこで利用される

⑼ 式は,

 Swi    n

 ─

Σ

d(ti,j)=1−d(ti,n)

  2 j=1

 つまり,

 Swi   n‑1       Swi

 ─

Σ

d(ti,j)+(1+─ )d(ti,n)=1

  2 j=1        2

 となるから,⑴ 式と比較すると,クーポンSwiのパー・ボンド(par bond:

価格が額面に等しい)の評価式となっていることがわかる。

(12)

方法が補間(interpolation)である。補間とは,各グリッド・ポイントの間 の値をグリッド・ポイントの値から推計する方法である。

Ⅲ.イールド・カーブ変動要因の測定

 金利リスク測定の目的のひとつは,金利リスクへ対応すること,すなわ ちリスク・ヘッジにある。リスク・ヘッジのためには,イールド・カーブ 変動パターンの測定が重要となるが,ヘッジ目的のためにはヘッジ手段を できるだけ少ないものにすることも重要となる。この観点から考えると,

イールド・カーブの変動パターンをより根源的な変動要因からとらえるこ とが重要となる。この目的で,主成分分析が利用されることが多い。

 主成分分析は,いくつかの変数から 主成分(principal components) と いう互いに無相関な合成変数を作るための多変量解析の一手法である7)。 いま,p個の量的変数があり,互いに1次従属の関係にはないとすると,

最大p個の主成分(第1主成分,第2主成分,……,第p主成分)を作ること ができる。それぞれの主成分は,もとの変数の線型結合,すなわち各変数 に重みを付けて足し合わせたものである。式で書けば,第i主成分ziは,

  p Zi

Σ

wjxj

k=1

として表すことができる(ただし,i=1, 2, . . . , p)。ここで,wjは変数xjに かかる重み係数であり,どのオブザベーションに対しても共通の値が使わ れる。

 オブザベーション数をnとすると,ひとつの主成分はn次の縦ベクト ルとして考えることができる。個々の得点を 主成分得点(principal com- 7) 本節の,主成分分析に関する記述は,イールド・カーブの動き,⑴ 式の ポートフォリオの分析などの部分を除き,市川・大橋[1987]の第8章をイ ールド・カーブ変動パターンの測定の観点からまとめたものである。

(13)

ponent score) という。このような主成分ベクトルをm個並べたn×mの 行列をZとし,それぞれに対応する重み係数を並べたp×mの行列をW とすれば,

Z=XW

と表現される。Xはn×pのデータの行列であり,それぞれの変数は,平 均0,分散1に標準化してあるものとする。標準化を行うのは,主成分の 計算に対する各変数の寄与分を等しくするためである。特に,互いの単位 の異なる変数を用いるときは,このように標準化を行うのが普通である。

 重み係数はデータの相関行列R(サイズはp×p)の固有ベクトル(Eigen

vector)として求められる。この固有ベクトルは,

p

Σ

k=1wj=1

になるようにしておく。そしてRの固有値(Eigen value)を大きい順に並 べたとき,

第1固有値λ1に対応する固有ベクトルを重み係数として計算される 主成分を第1主成分

第2固有値λ2に対応する固有ベクトルを重み係数として計算される 主成分を第2主成分

p固有値λpに対応する固有ベクトルを重み係数として計算される 主成分を第p主成分と呼ぶ。

 以上のことから,主成分分析とは,もとの変数群の持つばらつきを最も よく表現するような合成変数を次々に求めていく手法と考えることができ る。

 第k主成分の表現するバラツキは分散λkであるが,これが,もとの変

(14)

数群の持つ分散の総和に対して占める比を 寄与率(contribution) とい う。また,第1主成分から第k主成分までの寄与率の和を 累積寄与率

(cumulative contribution) という。主成分をどこまで採用するかは,

•累積寄与率が十分大きい(扱う問題によるが,例えば80%)とみなされ るところまで

•主成分の分散が1(すなわちもとの変数1個の分散)より大きいところま で

•固有値の大きさが急に小さくなる手前まで という基準のどれかによることが多い。

 ここで,もとのデータ行列X(n×p)を,従属変数をp個並べたものとみ なし,

X=PQ+E

という回帰モデルを考える。ここでPは説明変数の値を並べたn×mの行 列,Qは回帰係数を並べたm×pの行列,Eはn×pの残差行列である。

このmを固定して考えたとき,Eの要素の2乗和を最小化するP,Qは,

最初のm個の主成分,すなわちP=Z,Q=WTによって与えられる(Wは 重み係数を並べたp×mの行列で,WTWの転置行列。)。

 このことから,もとの変数xjは,主成分z1, z2, . . . , zmを用いて,

m

xj

Σ

wj, kZk+ej

k=1

と表現できる。ejzmまでの主成分では説明しきれない残差の部分であ り,wjkは,第k主成分に対する第j変数の重みである。もしp個すべて の主成分を使えば,

  p

ej

Σ

wj, mkZk

k=1

(15)

と表現することができる。主成分Zkの分散は対応する固有値λkに等しい から,分散1に標準化した主成分得点    ZF  㲋λk=──̅k

k̅  を用いて書き換えれば,

m

xj

Σ

aj, kFk+ej

k=1

と な る。 こ こ で,aj, k= √λ̅̅kwj, kで あ り, こ れ は 因 子 負 荷 量(factor

loading) と呼ばれている。

 この考え方により,ポートフォリオの価値変化を考えるための1階の全 導関数dPは,

  m    n  ∂V

dP=

ΣΣ

──rjaj, kFk

  k=1 j=1∂xj

となる。

 これよりポートフォリオの価値変化を,イールド・カーブ変動について のm個のファクターによって説明することができる。このポジションを ヘッジするためのヘッジ・ツールも,同様にして,m個のファクターで 説明できることから,単純に考えればヘッジ・ツールとしてm種類のも のが用意されていれば,イールド・カーブについてのm個のファクター の累積寄与率分の動きについてはヘッジすることができることになる。

Ⅳ.イールド・カーブ計測結果

 以上の考え方に従い,国債流通市場と金利スワップ市場の金利の期間構 造,すなわち国債流通市場のイールド・カーブ(いわゆるJGBカーブ)と 金利スワップ市場のイールド・カーブ(いわゆるスワップ・カーブ)の比較 を試みることにした。国債流通市場でのイールド・カーブ計測に当たって は,ディスカウント・ファンクションとして3次の自然スプライン関数を 仮定し,前述の基準日でのディスカウント・ファクターが1という制約を 課した⑸式に従い,回帰分析によりスプラインのパラメータを求める方

(16)

法を採用した。推計に利用したデータは,日本証券業協会の公社債店頭売 買参考統計値である。図3は2006年8月21日における,公表されている国 債種類別の残存年数と平均最終利回りを図示したものである。この図から わかるように,われわれのディスカウント・ファクター推計のために必要 な情報をカバーしているのは,10年長期国債と20年超長期国債である。よ りわかり易いようにこの2種類のみを図4に示しておいた。今回は10年長 期国債の銘柄属性と平均単価のデータを用いて,2006年1月から2016年10 月までの期間について,毎月20日(休日の場合は翌営業日)時点のイール ド・カーブを構築した8)

 一方,金利スワップ市場でのイールド・カーブ計測にあたっては,今回 は半年ごとのスポット・レートの推計から構築されるイールド・カーブの 変動パターンの測定を行うことから,紹介した手法のうち最も簡便な,市 場のスワップ金利を線型補間することで6か月ごとのディスカウント・フ ァクターを推計する方法を採用した。スポット・レート推計に当たって は,国債の場合と同様求めたディスカウント・ファクターから⑹式を利 用してスポット・レートを推計した。利用したデータは,6か月もの LIBORは英国銀行協会(British Bankers Association:BBA)並びにICEの公

表するLIBOR 6moを,スワップ金利は国際スワップ・デリバティブ協会

(International Swaps and Derivatives Association, Inc.:ISDA)並びにICEの公表

するISDAFIXである。ISDAFIXおよびその継承としてのデータが利用で

きる期間,具体的には,JPYに関しては1998年10月8日から2014年1月24 日までの期間を分析対象とした。今回の分析対象期間全体にわたって利用 可能なスワップ金利は1年から10年までの1年刻みのものであることか 8) ただし,後述する今回の長期国債市場での主成分分析においては,金利ス ワップ市場との対比のため2014年1月までの期間を分析対象としている。全 期間での分析は次号で行う。

(17)

30年

0 5 10 15 20 25

図3 国債残存期間ごとの平均最終利回り(2006年8月21日)

2.5

2.0 1.5 1.0 0.5

0.0

中期国債(2)

長期国債

中期国債(4)

超長期国債 超長期国債(30)中期国債(5) 長期国債(6)

(%)

20年 18 図4 国債残存期間ごとの平均最終利回り;

   長期国債と超長期国債(2006年8月21日)

2.5 2.0 1.5 1.0 0.5

0.0

超長期国債 長期国債

16 14 12 10 8 6 4 2 0

(%)

(18)

ら,イールド・カーブ分析の対象として,0.5年から10年までの0.5年刻み のスポット・レートとした。

 こうして得られたイールド・カーブの動きを,まずはグラフにより確認 しよう。国債流通市場のイールド・カーブの計測結果は,1年刻みのゼロ クーポンレートの時系列的な推移を図5に,また,2006年から2016年まで の期間について毎年6月20日(休日等の場合は翌営業日)のイールド・カー ブを図6にグラフにした。

 図6の国債流通市場のイールド・カーブの動きをみると,2006年から 2009年の平行シフトに近いような動きや,2010年から2015年までの傾きの 変化による動き,2015年から2016年の傾きの変化とともに水準が変化する

図5 国債流通市場のゼロクーポンレートの推移(長期国債)

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0

−0.5

2016/01/20

2015/01/20

2014/01/20

2013/01/20

2012/01/20

2011/01/20

2010/01/20

2009/01/20

2008/01/20

2007/01/20

2006/01/20

1YR 2YR 3YR 4YR 5YR

6YR 7YR 8YR 9YR 10YR

(%)

(19)

(傾きの変化と平行シフトの合成のような)動きが観察できる。

 金利スワップ市場のイールド・カーブについては,計測した日次のもの のうち,JPYについては図7に1998年から2013年までの16年間にわたって,

毎年10月8日(休日等の場合は翌営業日)のイールド・カーブの状況をグラ フにした。JPYのイールド・カーブの動きは,1年ごとの動きをみる限り,

平行シフトというよりは傾きの変化を基調としているようにみることがで きる(いずれも10月8日前後の比較)。1998年から1999年の変化は2年のスポ ット・レートを回転の中心にして傾きが急に(短期は低下・長期は上昇), 1999年から2000年の変化は6年のスポット・レートを回転の中心にして傾 きがやや緩やかになっている(短期の上昇が大きく,長期の下落は小幅)。そ の後2001年には全体的な水準を大きく下げ,2001年から2002年は0.5年の スポット・レートを回転の中心にして傾きが緩やかになっている(短期の

図6 国債流通市場のイールド・カーブの推移(長期国債)

2.2

1.7

1.2

0.7

0.2

−0.4

10

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

2006/06/20 2007/06/20 2008/06/20 2009/06/22 2010/06/21 2011/06/20 2012/06/21 2013/06/20 2014/06/20 2015/06/22 2016/06/20

(%)

(20)

下落は小さく,長期の下げ幅は大きい)。その後は0.5年のスポット・レートを 回転の中心にして回転シフトしている。2002年から2003年は形状の変化

(より直線的に)も伴いながら傾きが急に,2004年には4年のスポット・レ ートまでは大きな変化はなくそれより長期のものは上昇した。2005年は形 状(曲率)が変化している。2005年から2006年は上方に平行シフトしてい る。このように,比較的平行シフトに近いのは,2000年から2001年の変化 と2005年から2006年の変化のみで,あとは回転シフトが中心とみることが できそうである。

Ⅴ.イールド・カーブの共通変動要因

 グラフによるイールド・カーブの動きの直観的な理解ができたところ 図7 金利スワップ市場でのイールド・カーブの動き(JPY)

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0

10

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

1998/10/8 1999/10/8 2000/10/9 2001/10/8 2002/10/8 2003/10/8 2004/10/8 2005/10/10 2006/10/9 2007/10/9 2008/10/8 2009/10/8 2010/10/8 2011/10/11 2012/10/9 2013/10/8

(%)

(21)

で,イールド・カーブの変動要因を測定するため主成分分析を行うことに しよう。イールド・カーブの動きについて,スポット・レートrjの変化 率xjをリスク・ファクターとして,drj=r・j x~

jを想定しているので,スポ ット・レートrjの変化率xj=─rj

drj

─ に対する主成分分析を行う。

 スポット・レートの変化率の相関は,国債流通市場が表2に,円金利ス ワップ市場については表3に示されている。

 これらの表をみればわかるように,隣り合わせの年限のスポット・レー トとの相関が高く,離れるほど,相関が低くなるのが一般的であるが,表 2の国債市場,表3のJPYをみると,0.5年のスポット・レートと他の年 限のスポット・レートの相関が,0.5年と1年のスポット・レートの相関 係数は,それぞれ0.1848,0.2806などのように,他の通貨のそれに比べ大 幅に低いことがわかる9)

 ついで,長期国債についてスポット・レートの変化率の相関行列の固有 値の推計結果を表4に示した。長期国債については,第1主成分の固有値

が14.7であるのに対し,第2主成分,第3主成分は固有値がそれぞれ3.6,

1.0,寄与率も18%,5%とかなり小さいものとなっている。その次の第4

主成分は固有値が1を切っていて,寄与率も2%と第1から第3主成分に 比べると影響が小さい,さらには,第3主成分までの累積寄与率が96%を 占めていることを総合すると金利スワップ市場のイールド・カーブ変動要 因と同様,第3主成分までをイールド・カーブの変動パターンを決定する 共通要因として採用する。

 円金利スワップ市場については,相関行列の固有値の推計結果を表6に 示しておいた。表6の固有値をみると,第1主成分と第2主成分では固有 値にかなりの違いがあるものの,第3主成分までが1に比較的近い数字と

9) 例えば,高橋[2017]などを参照。

(22)

表2 スポット・レートの変化率の相関行列(長期国債) 0.5YR1.0YR1.5YR2.0YR2.5YR3.0YR3.5YR4.0YR4.5YR5.0YR5.5YR6.0YR6.5YR7.0YR7.5YR8.0YR8.5YR9.0YR9.5YR10.0YR 0.5YR10.15480.20080.20540.19130.17490.15590.14250.14160.13930.12760.11230.09720.08460.07430.06480.05630.04790.04010.0324 1.0YR0.154810.94230.88030.84370.82150.75450.66790.65660.63900.57390.49380.41880.36370.32790.30300.28580.26940.25220.2271 1.5YR0.20080.942310.98380.95130.92060.84590.75970.74750.72620.65960.57950.50590.45080.41390.38650.36490.34150.31550.2768 2.0YR0.20540.88030.983810.97860.95320.88570.80310.78950.76730.70470.63020.56120.50850.47210.44350.41950.39270.36220.3169 2.5YR0.19130.84370.95130.978610.98760.90460.80780.79610.77630.70770.62570.54920.49140.45080.41900.39310.36500.33390.2893 3.0YR0.17490.82150.92060.95320.987610.95180.86930.85790.83860.77610.70040.62760.57150.53160.50000.47430.44690.41640.3715 3.5YR0.15590.75450.84590.88570.90460.951810.97600.96240.93960.89960.84910.79560.75070.71660.68780.66330.63740.60920.5642 4.0YR0.14250.66790.75970.80310.80780.86930.976010.99230.97210.94930.91580.87570.83860.80890.78250.75970.73590.71120.6692 4.5YR0.14160.65660.74750.78950.79610.85790.96240.992310.99290.97510.94110.89860.86030.83070.80580.78500.76410.74250.7034 5.0YR0.13930.63900.72620.76730.77630.83860.93960.97210.992910.99080.96100.92010.88300.85510.83230.81390.79590.77720.7409 5.5YR0.12760.57390.65960.70470.70770.77610.89960.94930.97510.990810.98890.96250.93490.91220.89260.87610.85990.84350.8093 6.0YR0.11230.49380.57950.63020.62570.70040.84910.91580.94110.96100.988910.99200.97650.96070.94460.92930.91380.89770.8635 6.5YR0.09720.41880.50590.56120.54920.62760.79560.87570.89860.92010.96250.992010.99570.98650.97400.96030.94520.92870.8929 7.0YR0.08460.36370.45080.50850.49140.57150.75070.83860.86030.88300.93490.97650.995710.99700.98880.97760.96370.94650.9075 7.5YR0.07430.32790.41390.47210.45080.53160.71660.80890.83070.85510.91220.96070.98650.997010.99720.98990.97850.96110.9181 8.0YR0.06480.30300.38650.44350.41900.50000.68780.78250.80580.83230.89260.94460.97400.98880.997210.99750.98980.97350.9277 8.5YR0.05630.28580.36490.41950.39310.47430.66330.75970.78500.81390.87610.92930.96030.97760.98990.997510.99700.98400.9397 9.0YR0.04790.26940.34150.39270.36500.44690.63740.73590.76410.79590.85990.91380.94520.96370.97850.98980.997010.99410.9582 9.5YR0.04010.25220.31550.36220.33390.41640.60920.71120.74250.77720.84350.89770.92870.94650.96110.97350.98400.994110.9829 10.0YR0.03240.22710.27680.31690.28930.37150.56420.66920.70340.74090.80930.86350.89290.90750.91810.92770.93970.95820.98291

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