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Wald の方法によるエントロピーの解析力学的導出

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Academic year: 2021

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(1)

Wald

の方法によるエントロピーの解析力学的導出

Derivation of entropy in Wald’s approach based on analytical mechanics

中央大学大学院理工学研究科 物理学専攻 修士2 神山 雄理

アブストラクト

本研究では、ブラックホールのエントロピーを解析力学的に導出するWaldの方法を取り扱った。具体的には、

非平衡定常状態に対してAdS/CFT対応を用いた古典的な重力理論の解析を行うために、アインシュタイン重力 理論にスカラー場やマクスウェル場を加えたモデルに対して、Waldの方法による解析を行った。その結果とし て、スカラー場を加えた場合はカイラル凝縮とクォークの質量の寄与が現れること、マクスウェル場を加えた場 合は電荷と化学ポテンシャルの寄与を得る上で、正準エネルギー運動量テンソルと対称エネルギー運動量テンソ ルの差がルジャンドル変換の役割を果たすことが判明した。

研究の目的

AdS/CFT対応とは、ゲージ場の量子論と高次元の曲がった時空上の一般相対性理論を等価とする対応のこと

である。[1, 2, 3] この応用として、平衡状態や非平衡定常状態の物理を、Dブレーンが高次元ブラックホール時

空上に存在するモデルに置き換えられるものもある。(Dブレーンとは、超弦理論における開いた弦の多体系を記 述する膜状の物体である。) しかし、非平衡定常状態との対応では、外力が加わった非平衡系のDブレーンの解 析を行わなければならず、自由エネルギーの変分からエントロピーを導出する従来の方法が使用できない。そこ で我々は、平衡状態から非平衡定常状態に上手に拡張できるような処方を探すことにした。そこで着目したのが Waldの方法である。Waldの方法は、一般座標変換に対する不変性からネーターカレントを通じて、ブラックホー ルのエントロピーや熱力学の第一法則を導出する方法である。[4] Waldの方法自体は解析力学的な手法であるた め、系に何らかの対称性が存在すればエントロピーに相当する量を導出できる可能性がある。そのため、Wald 方法を用いて平衡系や非平衡系のDブレーンのエントロピーに相当する量や熱力学第一法則に類似した恒等式を 導出できれば、AdS/CFT対応と組み合わせることで平衡状態から非平衡定常状態に拡張できる基本法則を見出 すことができると考えられる。

1: AdS/CFT対応の非平衡定常状態への応用 2: Waldの方法に着目する理由

(2)

内容・成果

本研究においては、Waldの方法の基礎とアインシュタイン重力理論の解析を紹介し、Dブレーンへの応用の準 備段階として、アインシュタイン重力理論にスカラー場及びマクスウェル場を加えた場合の解析を行った。

Waldの方法の基礎

アインシュタイン重力理論のWaldの方法による解析を紹介する。アインシュタイン重力理論のラグランジア ン密度

LEH =

√−g 16πGR

から、一般座標変換に対する不変性から求まるネーターカレントの時間成分は、

Jt[ξ] =∂Qtr+

√−g 8πGGtνξν となる。これを用いると一般座標変換を生成する生成母関数の変分は、

0 =δH[ξ] = δ

dd1xJt[ξ] + (境界項),

= (境界項) +δ

dd2xQtr |r=−δ

dd2xQtr |r=rH

dd1x

√−g 8πGGtνξν

= 1 κ

(

δE− κ

δA 4G

)

上式において、ブラックホールのホーキング温度Tを用いて、κ =Tとおけば、4GA =Sと見なすことにより、

熱力学第一法則dE =T dSとブラックホールのエントロピーを導出することができる。本研究では、このWald の方法の応用として、アインシュタイン重力理論にスカラー場やマクスウェル場を加えたモデルの解析を行った。

Waldの方法の応用1〜スカラー場を加えた場合〜

アインシュタイン重力理論にスカラー場を加えたモデルのラグランジアン密度は L=LEH +Lϕ, Lϕ=−√

−g1

2µϕ∂νϕGµν

となる。ネーターカレントの時間成分に対するスカラー場の寄与をJϕt とおくと、生成母関数の変分は、

0 =δH[ξ] = δ

dd1x(Jt[ξ] +Jϕt[ξ]) + (境界項),

= (境界項) +δ

dd2xQtr |r=−δ dd2xQtr |r=rH

dd1x

√−g

8πG(Gtν 8πGT˜tνν. ここでスカラー場の正準エネルギー運動量テンソルT˜tνは対称であり、アインシュタイン方程式に現れるエネル ギー運動量テンソルと等しいから、アインシュタイン方程式により、第4項をゼロとすることができる。さらに 境界項の寄与を具体的に計算することで、0 =δε−T δS−Cδϕが求まる。ここで、AdS時空中のスカラー場の ようにrϕ= 0となる例を考えると、通常の熱力学第一法則dE=T dSを導くことができる。また、Dブレーン を用いたモデルでは、C ̸= 0の例も存在し、この場合、Cの値はカイラル凝縮の期待値に対応し、δϕはクォーク の質量の変分に相当することがわかる。[5]

(3)

Waldの方法の応用2〜マクスウェル場を加えた場合〜

またアインシュタイン重力理論にマクスウェル場を加えた場合のラグランジアン密度は、

L=LEH +LA, LA=−√

−g1

4FµνFµν, Fµν =µAν−∂νAµ

である。ネーターカレントの時間成分に対するマクスウェル場の寄与をJAt とおくと、生成母関数の変分は、

0 =δH[ξ] = δ

dd1x(Jt[ξ] +JAt[ξ]) + (境界項),

= (境界項) +δ

dd2xQtr |r=∞−δ

dd2xQtr |r=rH

dd1x

√−g

8πG(Gtν8πGT˜tnuν ここでマクスウェル場の正準エネルギー運動量テンソルT˜tνは非対称であるから、T˜tνξν =Ttνξν+νQAとして、

対称なエネルギー運動量テンソルTtν による項とそれ以外の項νQµνA に分けると、Ttν を含む項の寄与は、アイ ンシュタイン方程式によりゼロとすることができるから、生成母関数の変分は,

δH[ξ] = (境界項) +δ

dd2xQtr |r=

δ

dd2xQtr |r=rH

dd1x√

−g∂rQtrA

ここで無限遠方の境界の積分と正準エネルギー運動量テンソルの反対称な項に関する積分にそれぞれ境界項を足 し合わせることで、

δH[ξ] = 1 κ

(

δE− κ

δA

4G (dd2x)tr

−gδFtrAt|r=

) . ここで、κ =T4GA =Sに加えて、

(dd2x)tr

√−gδFtr |r==δQ, At=µ

と置くことにすると、熱力学第一法則は

dE =T dS+µdQ

となり、化学ポテンシャルや電荷の変分に相当する項が現れることがわかる。よって、マクスウェル場が加わっ た場合については、熱力学第一法則における化学ポテンシャルと電荷の寄与が得られ、ネーターの定理から導出 される正準エネルギー運動量テンソルとアインシュタイン方程式で用いる対称エネルギー運動量テンソルの差が、

ルジャンドル変換に対応していることがわかる。

結論・今後の展望

アインシュタイン重力理論にスカラー場やマクスウェル場を加えた場合のWaldの方法による解析は、既存の 結果と整合する矛盾のない結論を与えることが判明した。Dブレーンはスカラー場とマクスウェル場を一般化し たようなものであるため、本研究で得られた知見を通じて、Waldの方法による平衡系や非平衡系のDブレーン の解析、さらには、AdS/CFT対応とWaldの方法による非平衡定常状態への解析を目指していきたい。

(4)

参考文献

[1] J. M. Maldacena, “The large N limit of superconformal field theories and supergravity,” Adv. Theor. Math.

Phys. 2 (1998) 231 [Int. J. Theor. Phys.38 (1999) 1113] [arXiv:hep-th/9711200] .

[2] S. S. Gubser, I. R. Klebanov and A. M. Polyakov, “Gauge theory correlators from non-critical string theory,”

Phys. Lett. B428 (1998) 105 [arXiv:hep-th/9802109] .

[3] E. Witten, “Anti-de Sitter space and holography,” Adv. Theor. Math. Phys. 2 (1998) 253 [arXiv:hep- th/9802150] .

[4] R. M. Wald, “Black hole entropy is the Noether charge,” Phys. Rev. D48(1993) no.8, R3427 [gr-qc/9307038]

.

[5] J. Erdmenger, N. Evans, I. Kirsch and E. Threlfall, “Mesons in Gauge/Gravity Duals - A Review,” Eur.

Phys. J. A35 (2008) 81 doi:10.1140/epja/i2007-10540-1 [arXiv:0711.4467 [hep-th]].

参照

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