修士学位論文
機能別実効筋理論 を用いた
動的運動 中にお ける筋活動制御手法の提案 と 筋力 トレーニング‑の応用
ProposalofMuscleActivityControlMethod durl●ngDynamicExercise
UsingnlnCtionalE鮎ctiveMuscleTheory anditsApplicationtoStrengthennaining
平成21年度
三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻
村上 洋輔
目 次
第 1章 緒 言
1.1 研 究 の背 景 ‥ ‥ ‥ .‥ ‥ .‥
1.2 リハ ビ リテー シ ョンの実情 と問題 点 .
1.3 研 究 の 目的 .‥ ..‥ ...‥
1.4 本論 文 の構 成 .‥ ...‥ ..‥ . 第2章 筋 力 トレー ニ ングの基礎
2.1 筋力 トレー ニ ング ‥ ....‥ ‥ .
2.2 筋力 トレー ニ ングの原則 ‥ ...‥
2.3 筋力 トレー ニ ングの種類 と負荷強度 . 第3章 機 能 別実効筋理 論
3.1 機 能別 実効 筋 ..
3.2 出力分布 .‥ ‥
3.3 4点計測 法 .‥ .
3.4 筋活動 パ ター ン .
3.5 筋骨格 モデル ‥
第4章 提 案 す る筋活 動制御 手法
4.1 Hillの特性 式 を用 いた 出力分布 の拡 張 ‥ .‥
4.2 出力 分布 と筋活動パ ター ンに よる筋活動制御 .
4.3 下肢 運動療 法支援 マ ニ ピュ レー タ‑ の適 用 ‥ 第5章 筋 活 動制御 実験
5.1 静 的状態 にお け る筋 出力 の推 定
5.2 EMG計測 に よる評価 ‥ ...
第6章 筋 活 動制御 の筋 力 トレー ニ ングへ の応 用
6.1 筋活 動 制御 を用 いた トレー ニ ング負 荷 強度設 定 .
1 1 3 4 6 7 7 8 9 10 10 12 13 14 15 16
16 18 20
6.2 初動負荷理論 の適用 .‥ . 6.3 初動負荷 トレーニ ングの実現 6.4 トレーニ ング効果 の検証 ..
第7章 緒言 参考文献 謝辞 研究業績
33 35 37 38
第
1章 緒言
1.1 研究の背景
近年,我が国では諸外国に例 を見ない早 さで人 口の高齢化 が進 んでお り,図1.1に 示す よ うに,65歳以上の高齢者 の総人 口に占める割合 は20%を超 え,2055年 には40
%を超 えると予想 されている.その一方で,勤労人 口は1995年頃をピークに年々減少 している.このため,高齢者や障害者の増加 に伴い,医療現場で働 く医師や理学療法士 (physicalTherapist,以下PT)の人数が不足す ることが予想 され, リハ ビリテーシ ョ ンを必要 とす る高齢者及び障害者が満足な治療 を受 けることができない とい う問題が 生 じる.このよ うに,手足の麻疹及び筋力低下等の運動器 に関す る疾患を患 う高齢者 ・ 障害者 の介護, 自立の援助が大 きな社会問題 となっている.
80%
70%
6
0 % 5 0 %
40%
30%
20%
Workingage(15‑64)
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図 1.1:日本の人 口年齢構成[1】
1
第 1章 緒言
これ まで,上記 の問題 を解決す るために,様 々な機器 が開発 され てきた.術後 な ど 麻疹や硬縮 で本人 が動 かせ ない,または動 か しに くい部分 を他者 が動 か し関節 可動 訓 練 を実現す る機器 (CPMな ど)や ,バイ タル が安定 した時期 において単関節 で等速性 筋収縮運動 を行 う機器 (BIODEX社製cybexな ど)な どである・これ らの機器 は,従来 pTが患者 の運動 に対 して支援 していた行為 を代替す るものであ り,PTの負担 の軽減 や人手不足 の解 消 に貢献 してい る.一方 で, これ らの機器 は高額 であ り,適用 で きる 筋群 に制 限がある とい う問題 もある.我 々研 究 グループで も,PTでは困難 な治療効果 のある医療行為 が可能 な機器 を開発す ることを 目的 とし,図1.2に示す下肢運動療法支 援 マニ ピュ レー タの開発 を行 って きた[2】.本マニ ピュ レー タでは, リハ ビ リ現場 で実 際に使 用 され ,成果 を上 げてい る関節等速運動機 による トレーニ ングを多 関節運動 に 適用 し,股 関節 ・膝 関節 に対 して同時に等速性筋収縮運動 を実現 してい る.等速性筋 収縮運動 とは,筋 肉の急激 な収縮 を抑 えるこ とで強化 ・治療 目的である関節 回 りの角 速度 をほぼ一定 に保 って行 う トレーニ ングの こ とであ る. この機器 は,将来的 には患 者 に能動的に働 きか け,熟練 したPTの手技 のテ ィーチ ングプ レイバ ックによる他動運 動や遠 隔医療 ,熟練度 の低 いPTに対す る教育養成機器 な ど‑ の機 能 的拡 張 も可能 で
ある と考 え られ る.
図 1.2:下肢運動療法支援 マニ ピュ レー タ
第 1章 緒言
1.2 リハ ビリテーシ ョンの実情 と問題点
一般 的 に リハ ビ リテー シ ョン とは,病気や事故等 に よ りケガや 障害 を負 った人 に対 し,予想 され る障害 を最小 限に くい止 め, 日常復帰 が出来 るよ うに行 う機 能 回復 訓練 の こ とで ある. リハ ビ リテー シ ョンは理学療法,作業療法,言語聴 覚療法 の大 き く三 っ に分 け ることがで き, 中で も理学療 法 は,運動療法 と物理療法 か ら成 り,医師 の指 示 を受 けたPTの もとで行 われ る.運動療法 は,規則的な運動 によ り身体の麻壊 した部 分 の回復 ,関節 の動 きの改善,筋力 ・持久力 の向上 を図るものであ り,物理療法 は,運 動療 法 の前処置 として行 われ ることが多 く,熱 ,電気,水 な どの物理 的エネル ギー を 刺激 と して用 いて痛み の軽減 な どの治療 を行 うもので ある.多 くの人 が リハ ビ リテー シ ョン として思 い浮 かべ る大抵 の ものは, この理学療法である.
リハ ビ リテー シ ョンは,患者 とPTとの コ ミュニケー シ ョンが 円滑 に行 われ ,問題 に対す る共通認識 を持 ち,PTが計画 した効果的かつ無理 のない医療計画,あるいは指 示 に基づ いて患者 自身 が医療活動 に積極 的 に取 り組 み実行 してい くこ とで,は じめて 治療効果 が得 られ る医療行為 である. しか し実際は,PTと患者 の間で専門知識 に差が あるた め,患者 がPTの治療計画 を正確 に理解 し実行す るこ とは困難 である. さらに, pTは 自らの経験 に基づいて患者 の治療 を行 ってお り,患者 の治療効果 がPTの経験 に 左右 され る とい う問題 がある.
Plannl●ngOfeffective treatment
Correctunderstandingand executionoftreatment 図 1.3:リハ ビ リテー シ ョンの理想 的治療ループ
3
第 1章 緒言
1.3 研究の 目的
ここで,上記 の リハ ビ リテー シ ョンにお ける問題 を解決す るため,機器 を用いた リ ハ ビ リテー シ ョンシステ ムが期待 され る.機器 を用いた リハ ビ リテー シ ョンを行 うこ とによ り,PTの負担 を軽減 し,かつPTの経験 に頼 らず均一な治療効果 が期待できる と考 え られ るか らである. この よ うな治療体系 として,近年 ではパ ワー リハ ビリテー シ ョンが注 目され てい る[3].パ ワー リハ ビ リテー シ ョン とは,主 に要支援 ・要介護高 齢者 を対象 にマ シン トレーニ ングによる動作性能力 の改善 と,活動 的な生活‑の行動 変容 を 目的 とし,新 しい治療体系 として行 われてい るもので ある. このパ ワー リハ ビ
リテー シ ョンは,高齢者 の リハ ビ リテーシ ョンを必要 とす る病院や診療所 ,老人保健 施設,通所 リハ (デイケア), さらに特別養護老人 ホー ム,通所介護 (デイサー ビス)等 で近年急速 に普及 してい る.この背景 として,厚生労働省 は 2005年 に介護保 険制度 の 見直 しを行 い,介護予防の施策 を発表 してい る.介護予防の施策 の一つ に高齢者 の筋 力系 トレーニ ングを行 うことがあげ られてお り,筋力 トレーニ ング‑ の取 り組みが各 地で行 われてい る[4日5].高齢者 が筋力 を維持す ることは,転倒予防,介護予防,さらに は高い生活 の質(QualityofLife:QOL)を 目指 して, よ り充実 した健康的な生活 を送 るた めにも重要で ある.また,高齢者 の筋力 トレーニ ングは医療費 の抑制 にもつ なが る と考 え られ る. これ らの ことか ら,高齢者 の筋力 トレーニ ングの普及 と実施 が我 が 国の高齢化社会 にお ける大 きな課題 となってい る.
筋力 トレーニ ングは,低 下 した筋力 を増強 ・維持す るた めに行 われ る.筋力 トレー ニ ングを行 うにあたっては, 目的や条件 な ど多 くの こ とを考慮 しなけれ ばな らないが, 中で も特 に トレーニ ング負荷 の設 定が重要である.一般 的に,負荷強度 は最大筋力 に 対す る割合 として設定 し,繰 り返 し回数 によって量 を調整す る. しか し,対象 とす る 人 によって負荷強度 に対す る最大繰 り返 し回数 が異な ることが報告 されてい る[22].こ のた め,設定 した負荷強度 の信頼性 が得 られない ことや,筋力 トレーニ ングの適切 な 運動 回数 が分か らない とい う問題 がある.また,負荷強度 と目的の筋 の活動度 との関 係 があいまいで あ,るため,設定 した負荷強度 によ り, 目的の筋が トレーニ ングに必要 な筋活動 を得 られ てい るか分 か らず,一様 な トレーニ ング効果 を得 るこ とが難 しい と 考 え られ る. このため,筋活動 の面か ら筋力 トレーニ ングを検討す ることも行 われて い る.筋活動 とは,筋 の活動状態 を表す ものであ り,筋が収縮す る際に発生す る活動 電位(EMG:Electromyogram)を計測す ることで評価 を行 う・特定の筋の筋力 を計測す るこ とは困難 で あるが,筋活動 は計測 が可能であ り,評価 を行 いやすい. この筋活動
第 1章 緒言
の筋 しか計測 で きない こ とや ,計測 に衣服 の着脱 が必要 で手 間 と煩 わ しさが伴 うとい う問題 が あ る. このた め,筋電位 計 を用 い る こ とな く筋活動 を推定 し,望み の筋活動 を実現す る手法 が望 まれ る.
一般 的 に, 関節 を動 か さない静 的状態 にお いては筋 出力 の増大 が筋活動 の増大 と比 例 関係 にあ るこ とが報告 され てお り【211,望み の筋活動 を実現す ることはそれ ほ ど困難 ではない. これ まで,静 的状態 において機器 に よる上肢 の姿勢 と手先 ‑ の外力 を制御 す る こ とで,対象 の筋 に対 し望みの筋力 を実現す る手法 な どが提案 され てい る[24]が, 筋活動 に関 しては述べ られ ていない.そ の一方 で, 関節 を動 かす動 的状態 においては 筋活動 に関す る報告 はない. しか し,筋力 トレー ニ ングにおいては動 的 トレーニ ング の方 が静 的 トレー ニ ング よ りも トレー ニ ング効果 が大 きい こ とが報告 され てお り【12], 動 的状態 において望み の筋活動 を実現す るこ とは重要 である と考 え られ る.
そ こで本研 究 で は,動 的運動‑ と適用 可能 な筋活動制御 手法 の提案 を行 う.筋活動 制御 を行 うにあた り,熊本 らに よる3対6筋 の機 能別 実効筋 と呼 ばれ る筋骨格 モデル を用 い る【6]. このモデル と筋活動パ ター ンを用 い るこ とで,静 的状態 にお いて各筋 に 対す る任意 の筋活動 を実現す る出力方 向が示 され てい る【7].また, ヒ トが 出せ る最大 力 の大 き さと方 向 を表す六角形 を出力分布 と定義 し, あ る姿勢 にお ける出力分布 を基 に姿勢 が変化 した時の出力分布 を推 定す る方 法 が提案 され てい る[8]. しか し, これ ま で提案 され てい る出力分布 は静的状態 にお ける もので あ り,動 的運動 に用 い るこ とが で きない. したが って,Hillの特性 式 を用 い,筋 の動特性 を考慮 した 出力分布 ‑ と拡 張す る. この拡 張 した出力分布 と筋活動パ ター ンを関節等速運動 が可能 な開発 したマ ニ ピュ レー タに適 用 し,先端力 の方 向 と大 き さに よ り望み の筋活動 を実現す る.また,
この筋活動制御 手法 を筋力 トレーニ ング‑ と応 用 し,筋活動 に基づ く トレーニ ング負 荷 強度 の設 定 を行 う. さらに, トレーニ ング負荷 の設 定 に有効 な理論 として知 られ る 初動負 荷理論 を適 用 し,効果 的な筋力 トレーニ ングの実現 を図 る.
5
第 1章 緒言
1.4 本論文の構成
本論文 の構成 は以下の とお りで あ る.まず,第2章では,本研 究 で扱 う筋力 トレー ニ ングの基礎 について述べ る.次 に,第3章では,提案す る筋活動制御 手法 に用 い る 機 能別実効筋理論 について述べ る.また,第4章では,提案 す る筋活動制御 手法 につ いて述べ る. さらに,第5章では,提案手法の有効性 を確認す るための実験 を行 う.そ して,第6章では,提案手法 を筋力 トレーニ ング‑ と応用す る.最後 に,第7章では, 結論 として本研 究成果 のま とめ と今後 の課題 について述べ る.
第
2章 筋 力 トレーニ ングの基礎
2.1 筋力 トレーニング
筋力 とは,筋が抵抗 に打 ち勝 って発揮す る張力 のことをい う.一般的には,最大張 力を筋力 (最大筋力)とい う・筋力は,その状態によって静的筋力(staticstrength)ある いは等尺性筋力(isometricstrength)と動的筋力(dynamicstrength)に分けられ る・後 者 はさらに等張性筋力(isotonicstrength)と等速性筋力(isokineticstrength)に分 け ら れ る.
筋力 トレーニ ングは,低下 した筋力 を増強,維持す るために行われ,訓練 され る筋 の筋力により,他動運動,自動介助運動,自動運動,抵抗運動の四つに分けられ る.他 動運動は,PTが患者 の関節 を他動的に動かす ものである.自動介助運動は,患者が随 意的に筋収縮 を行い,PTがその運動 を介助 し,ゆっ くり関節運動 を行 うものであ り, 筋力の増加 に従い,介助量 を減 らしてい く. 自動運動 は,重力 に抗 して随意収縮 を行
うものであ り,抵抗運動 は,意図的に与えた抵抗 に抗す るよ う随意収縮 を行 うもので ある.抵抗運動 には,方法 として以下に示す ものがある.
。等張性筋収縮運動 :一定の負荷で筋が短縮 ・伸張す る収縮運動
。等尺性筋収縮運動 :関節 を動か さず (筋の長 さを変 えず)行 う収縮運動
●等速性筋収縮運動 :筋の収縮速度が一定の収縮運動
筋力 トレーニングにおいては,等速性筋収縮運動が最 も有効であるといわれ る【12]が, pTの補助では達成が困難であ り,1.1節で示 したよ うな専用の機器 が必要である.
7
第 2章 筋力 トレーニ ングの基礎
2.2 筋 力 トレーニングの原則
筋力 トレーニ ングを行 う際 には,考慮 しな けれ ばな らない重要 な原則 が ある[13日23] これ らの原則 に従 うことで効果 的な筋力 トレーニ ングが実現可能 とな る.
●過負荷 の原則
負荷強度 が通常用いてい るもの よ り強 くなけれ ば,身体の適応性 を利用 して筋力 の向上 を期待す ることがで きない.
● 特異性 の原則
ある種 の能力 は,同類 の運動 を用いた トレーニ ングによって効果 的に高 め られ る.
●漸進性 の原則
用い る負荷強度 は段階的に増加 させ るべ きであ り,急激 に増加 させ てはいけない.
●反復性 の原則
トレー ニ ングは継続 的 に繰 り返 し行 って こそ,初 めて 目に見 え る効果 が期待 で きる.
● 自覚性 の原則
トレーニ ングを行 う目的 を正確 に理解す ることで,十分 な効果 が期待 で きる.
●個別性 の原則
年齢 ,性別 ,運動歴 な どを考慮 し,個人差 に応 じた トレーニ ングでなけれ ばな ら ない.
●全面性 の原則
体力 は様 々な要素で構成 され てお り,可能 な限 り全ての体力要素 を高 める トレー ニ ングを実施すべ きである.
この 中で も,過負荷 の原則 は最 も一般 的であ り, トレーニ ング負荷 強度 の決 定 におい て重要 な原則 である.
第 2章 筋力 トレーニングの基礎
2.3 筋力 トレーニングの種類 と負荷強度
筋力 トレーニ ングの種類 は, 目的別 に筋肥大,筋力 向上,パ ワー 向上,ス ピー ド向 上の大 き く4つ に分 け られ る.また, 目的が変われ ば トレーニ ングに必要な負荷強度 は異なる[141.
●筋肥大
筋肥大 とは,筋 肉の量 を増やす ことを 目的 とす る トレーニ ングであ り,スポーツ や 日常動作に必要な筋 肉の量 を得 ることが課題 となる.筋肥大 に有効 とされ る負 荷強度 は,最大負荷 の 70‑80パーセ ン ト以上である.
●筋力 向上
筋力 向上 とは,特定の部位 の筋出力 を高めることを 目的 とす る トレーニングであ る.筋力 向上 に有効 とされ る負荷強度 は,最大負荷 の 70‑80パーセ ン ト以上で ある.
●パ ワー向上
パ ワーは短期間で大 きな力 を発揮す る能力のことであ り,パ ワー向上は,・この能 力 を高めることを 目的 とす る トレーニングである.パ ワー向上に有効 とされ る負 荷強度 は,最大負荷 の 30‑60パーセ ン ト程度である.
● ス ピー ド向上
ス ピー ド向上 とは,瞬発性や敏捷性 の能力 向上 を 目的 とす る トレーニ ングであ る.ス ピー ド向上 に有効 とされ る負荷強度 は,最大負荷の 0‑30パーセ ン ト程度 である.
9
第 3 章 機 能 別実効 筋 理 論
3.1 機能別実効筋
これまで,複雑 で冗長であるとされてきた四肢 の筋群 を,四肢の見かけ上の2関節 2自由度の2次元的な運動 に対 して,各関節 に独立に作用す る2対の括抗‑関節筋 と, 両関節 に同時に作用す る1対の括抗二関節筋の3対6筋 を図3.1に示す機能別実効筋 (FunctionalEffectiveMuscle‥FEM)と定義す る【6]・ ここで, リンクは基底部 (体幹), 第1リンクll(上腕 あるいは大腿),第2リンクl2(前腕 あるいは下腿)か らな り,関節Jl, J2を6つの筋によって駆動す る.関節Jlお よびJ2の単関節筋である機能別実効筋が, それぞれelとfl,e2とf2,両関節 に作用す る二関節筋がe3とf3である.また,01,02 はそれぞれ関節Jl,J2の関節角度であ り,03は先端J3と関節Jl,J2を結んだ線分の なす角度である.
図3.1:機能別実効筋(3対6筋)
第 3章 機能別実効筋理論
Fel,Ffl,Fe2,Ff2,Fe3,Ff3は先端J3での各機能別実効筋 による出力 であ り,そ の出力方 向はそれぞれ以下の よ うにな る.
・Fel,Ffl :関節J2と先端J3を結ぶbeの方 向
・
Fe2,Ff2 :関節Jlと先端J3を結ぶadの方 向・
Fe3,Ff3 :関節Jlと関節J2を結ぶcfの方 向さらに,Teュ,Tfl,Te2,Tf2,Te3,Tf3は先端 での各筋 出力 に よって関節 Jl,J2で発 揮 され る関節 トル クであ り,機 能別 実効筋力 (FunctionalEffectiveMuscleStrength:
FEMS)と呼ばれ る.これ ら機 能別実効筋力 と先端 での各筋出力 との関係 はそれぞれ以 下の よ うにな る.
Eel‑
Fe2‑
Fe3‑
Tel
llSinO2
℃ 2
l2SinO3
℃ 3
l2SinO2
Ffl‑
Ff2 ‑ Ff3‑
Tfl
llSinO2
Tf2
l2Sin O3
Tf3
l2Sin02
(3.1)
また,姿勢 が変化す る と,それ に伴 い先端 の各筋 出力 は変化す る.つ ま り,姿勢が 角β2,β3か ら・角β;,♂;‑変化す ることで,姿勢変化後の各筋 出力 は次式 とな る【81・
F :1
F :2
F :3‑
FelSin02
sin♂;
Fe2Sin03
sin♂;
Fe3Sin02 sin♂;
FflSin02
iFl
(3・2)
第 3章 機 能別 実効筋理論
3.2 出力分布
図3.2に示す よ うに,先端 にお ける各筋の出力 を足 し合 わせ ることで得 られ るA‑Fの 六角形 を出力分布 と定義す る[6].出力分布 とは, ヒ トが 出力 で き る力 の大 き さと方 向
を表す もので あ り, 出力分布 の各辺 は以下の よ うにな る.
Fel+Ffl‑AF‑CD, AF//CD//be Fe2+Ff2‑EF‑BC, EF//BC//ad Fe3+Ff3‑DE‑AB, DE//AB//cf ここで,出力FelとFflの比 が与 え られれ ば,
Ffl‑AU
として,点Uを定 め ることがで きる. これ よ り, Fe2‑SU, Fe3‑TU
(3.3)
(3.4)
(3.5)
として,出力 Fe2,Fe3を求 めることができる.同様 に して,Feュ,Ff2,Ff3を求 めるこ とがで きる.この よ うに,1対 の筋 出力比が与 え られれ ば,出力分布 よ り,すべての筋 出力 を推 定す るこ とがで きる.本論文 では, この1対 の筋 出力比 を生理 学的筋断面積 [15]か らFf3とFC3の比 を100‥45として,各筋 出力 の推 定 を行 う・
■●■■■■■●■■■
■■■暮■■■●■t
1̲++
沖が料脚抑脚が蛸博
\ 了 +.+...‑
■■■■■■■■●■■tt■
図3.2:出力分布
第3章 機能別実効筋理論
3.3 4点計測法
図3.2に示す 出力分布 は,4点計測法[9]と呼ばれ る測定法を用いて測定 され る.この 測定法 は,計測点を極力少 な くして被験者 の負担 を軽減す ることを 目的 として考案 さ れた方法である.原則的には,2次元平面の前方Fl,後方F2,上方F3,下方 F4の4点 を等尺的,最大努力で力 を発揮 して出力 を計測す る.また,図3.2の特徴 を利用 し,以 下の手順 で出力分布 を推定す る.
steplFlをA点 とし,A点を通 り第1リンク及び第2リンクに平行 な線 を引 く・
step2F3,F4を通 り,関節Jlと先端J3を結ぶ線 に平行な線 を引 く・・
step3F2が六角形のCDあるいはDEの直線上に くるよ うに,かつ(3・3)式の関係 を 満たす よ うに直線 を引き,それぞれの交点を求 める.
この測定法は下肢 を固定 して行 うものであ り,得 られ る出力分布 はあ くまで静的状態 にお けるものである.また,この測定法によ り得 られ る出力分布 には,最大10パーセ ン ト程度 の誤差が存在す る.
図3.3:4点計測法
13
第 3章 機 能別実効筋理論
3.4 筋活動パ ター ン
これ まで,最大 出力 時 にお いて各筋 に対す る任意 の活動度 を実現す る出力方 向が示 され てお り, これ を筋活動パ ター ン と呼ぶ【6].この筋活動パ ター ンを図3.4に示す.筋 活動パ ター ンは,任意 の姿勢 において等尺的 にあ らゆ る方 向に最大力 を発揮す るこ と
に よ り得 られ る.図 中の実線 は理想 的な協調活動パ ター ンで あ り,a〜fは図3.1に示す 筋骨格モデル の先端 での方 向 を表す.例 えば,括抗す る筋flと筋elにおいて,d方 向 か らf方 向の間‑ の出力 では筋flの活動度 が 0パーセ ン ト,筋elの活動度 が100パー セ ン トで あるのに対 し,a方 向か らC方 向の間‑ の出力 では筋flの活動度 が100パーセ ン ト,筋elの活動度 が0パ ーセ ン トであ るこ とを示 してい る. これ は他 の括抗す る2 組 の筋 に対 して も同様 で あ る. この活動パ ター ンは, 出力 が小 さくな るほ ど個人差 が 大 き くな りば らつ きが見 られ る[18].
100
e1 50 11 o0050000
︻%]9言出 50000124)
I
I I Il I I l l lI
I I l 1
d e どX a b c d Forcedirectionlrad]
図 3.4:筋活動パ ター ン
第 3章 機能別 実効筋理論
3.5 筋 骨格 モデル
図3.1に示す筋骨格モデル と,本研究で扱 う下肢大腿部 ・骨盤部 にお ける筋 肉の対応 を以下 に示す【7].
表 3.1:大腿部 ・骨盤 部 の筋 肉
e 1 9 M.psoasmaJ●Or 10 M.iliacus 2 13 M.M.VVasasttusmeuslatediraalliiss
4 M.Vastusintermedius 3 2 M.rectusfemoris
f 1 ll M.gluteusmaximus 2 5 M.bicepsfemorisshorthead 3 67 M.M.sesmiemimetembrndinosanosusus
l
l(fl)Rearview
7(f3)
10(el) 9(el)
FIPntView eMuscleorigin O insertion ◎ Via一pint
図 3.5:下肢筋骨格モデル
15
第
4章 提案す る筋活動制御手法
本章では,提案す る筋活動制御手法 について述べ る.提案す る筋活動制御手法では, 前章で述べた出力分布 と筋活動パ ター ンを用いる. しか し,前章で述べた測定法か ら 得 られ る出力分布 はあ くまで静的状態 における出力分布であると考 え られ,動的運動 に用い ることができない.そ こで,Hillの特性式を利用 し,筋の動特性 を考慮 した出力 分布‑ と拡張 を行 う.この拡張 した出力分布 と筋活動パ ター ンを基 に,被験者 の先端 力 の方 向 と大 きさによって 目的の筋に対す る望みの筋活動 を実現す る.
4.1 Hillの特性式 を用 いた出力分布の拡張
静的状態 における出力分布 に対 し,Hillの特性式【16】を用いることで,筋の動特性 を 考慮 した出力分布‑ と拡張を行 う.
筋 には図4.1に示す よ うな筋力 と収縮速度 の関係 曲線がある. これ を式 を用いて表
93J Od
Velocity
図4.1:筋力ー速度関係 曲線
第 4章 提案す る筋活動制御手法
す と
(P+a)(V+b)‑b(Po+a)‑const (4.1) とな り,この式 をHillの特性式 と呼ぶ.ここで,Pは筋の出九 Vは筋の収縮速度,Po は静的状態 にお ける筋の最大九 aは熱定数,bはエネル ギー遊離定数である.(4.1)式 を変形す ると,次式 となる.
P=bPo‑aV
V+b (4.2)
4点計測法によ り求 めた出力分布 か ら推定 した各筋出力 は,静的状態における各筋の最 大出力 を表す.つ ま り,(3.2)式は姿勢の変化 を考慮 した静的状態 にお ける各筋の最大 出力 を表す.この(3.2)式 を(4.2)式の P.8こ代入す ると次式 とな り,筋の動特性 を考慮
した各筋 出力 を表す.
Pel‑
Pe・2‑
Pe3‑
bF:1‑aVel
Vel+ b bFi2‑aVe2
Ve2+b bF:3‑aVe3
V e3 + b
Pfl‑
Pf2‑
Pf3‑
bF;1‑aVfl Vfl+b bFi2l aVf2
Vf2+b
bF;3‑aVf3
Vf3+b
ここで,収縮速度Vは各筋 ごとに以下の式 よ り決定す る.
l12233>U竹>V竹>V竹
γ 0 γ 0
0 γ 0 r
㍗ ㍗
㍗ ㍗
(4.3)
(4.4)
o'1,0'28ま関節角速度であ り,rEまモーメン トアームである.本論文では,熱定数は13・21[kg], ェネル ギー遊離定数 は1.95[m/S],モーメン トアームは0・05[m]を用いる[16][17】・(4・3)式 の各筋 出力 を姿勢 ・速度 の変化 に ともない推定 し,足 し合 わせ ることによって,筋の 動特性 を考慮 した出力分布 を構成す る.
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第 4章 提案す る筋活動制御手法
4.2 出力分布 と筋活動パ ター ンによる筋活動制御
Hillの特性式 によ り筋 の動特性 を考慮 した出力分布 と図3.4に示 した筋活動パ ター ン を用 いて,先端力 の大 き さと方 向による筋活動制御 手法 について述べ る.
図4.2に示す よ うに,あるⅩ方 向に対す る先端カベ ク トル をJとし,Jを延長 し,筋 の動特性 を考慮 した出力分布 との交点 までのベ ク トル を‑Fとす る と, この時の筋活動 度 は筋活動パ ター ンに よ り得 られ るⅩ方 向にお ける活動割合αXiを用いて次式 とな る.
・i‑ αⅩi・妄 (4・5)
ここで,iは筋el,fl,e2,f2,e3,f3を表す.例 えば,図4.2のⅩ方 向‑先端力 を発 揮 した とす る と,各筋 の活動度 は以下の よ うにな る.
Jl ∫
h12.′ニダ′二ダ二二
α∫l=2・F αJ2‑0 αJ3‑0
(4.6)
(4.5)式 を基 に,望みの筋活動 の実現 を図 る・例 えば,筋e3を50パーセ ン ト活動 さ せ るこ とが 目的であれ ば,図4.2に示す よ うに筋e3が100パーセ ン ト活動す るe‑a方 向 に筋 の動特性 を考慮 した出力分布 の50パーセ ン トの先端力 を発揮すれ ば良い.また同 様 に して,複数 の筋 を同時に制御す るこ とも可能 であ る. 例 えば,筋e3と筋e2を同
図 4.2:出力分布 に対す る先端力
第 4章 提案す る筋活動制御手法
時 に50パーセ ン ト活動 させ ることが 目的であれば,筋e3と筋e2が共 に100パーセ ン ト活動す るf‑a方 向に筋の動特性 を考慮 した出力分布 の50パーセ ン トの先端力 を発揮 すれ ば良い.
この よ うに,筋活動パ ター ンによ り目的の筋が100パーセ ン ト活動す る方 向‑,ま た 目的の筋が複数 であれ ば100パーセ ン トの活動方 向が重 な る方 向‑,筋 の動特性 を 考慮 した出力分布 に対す る 目的の活動度 に応 じた大 きさの先端力 を発揮す ることで望 みの筋活動 の実現 を行 う.
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第 4章 提案す る筋活動制御 手法
4.3 下肢運動療法支援マニ ピュ レー タへの適用
4.2節 で述べ た筋活動制御 手法 を図1.2に示す我 々の研 究 グル ープが開発 した下肢運 動療 法支援 マニ ピュ レー タ‑ と適用 し,筋活動制御 システ ム を構築す る.関節等速運 動 が可能 なマニ ピュ レー タを用 い るこ とによ り,運動 中の慣性力 に よる影 響 は比較 的 小 さく抑 え るこ とがで きる.また,マニ ピュ レー タが下肢 を支 えるこ とに よ り,下肢 の重力 に よる影響 を抑 え,計算 に よ り先端力 か ら取 り除いてい る.計算 に必要 な下鹿 の姿勢や 関節角速度 は,マニ ピュ レー タの関節 のエ ン コー ダか ら運動 学 に よ り得 てお り,運動 中の被 験者 の先端力 は,マニ ピュ レー タ先端 に設置 したカセ ンサか ら得 る.
提案す る筋活動制御 手法で は,マニ ピュ レー タか ら得 た下肢 の姿勢や速度情報 を基 に,Hillの特性式 を用 いて出力分布 の更新 を行 う.そ して,図4.3に示す よ うに更新 し た出力分布 に対す る 目的の活動度 に応 じた大 き さの力 を閥値 として設 定 し,マニ ピュ レー タの動作 の切 り替 えに用い る.先端力が闇値以上ではマニ ピュ レー タが動作 し, 冒 的の筋活動 が得 られ る.また,先端力 が閥値以下ではマニ ピュ レー タが静止 し, 目的の 筋活動 が得 られ ない.つ ま り,望みの筋活動 を実現す るた めには 目的の筋が100パーセ ン ト活動す る方 向‑ 閥値以上 の先端力 を発揮 し,マニ ピュ レー タを動作 させれ ば良い.
図 4.3:筋活動制御 システ ム
第 5章 筋活動制御実験
本章では,提案す る筋活動制御手法の有効性 を検証す るための実験 を行 う.まず,筋 活動制御 を行 うための準備 として3.3節 で述べた4点計測法 を用いて,ある姿勢 にお け る出力分布 の測定 と各筋 出力の推定 を行 う.次 に,4章で述べた筋活動制御手法の有効 性 を確認す るため,先端力 の大 き さによるEMG計測実験 を行 う.
5.1 静 的状態における筋 出力の推定
筋 の動特性 を考慮 した出力分布 を構成す るための準備 として,ある姿勢 での静的状 態 にお ける各筋 出力が必要 となる.そ こで,3.3節 で述べた4点計測法 を用 いて静的状 態 にお ける出力分布 の測定 を行 い,測定 した出力分布 か ら各筋 出力 の推 定 を行 う.被 験者 は24歳 の健 常男性 (身長167[cm],体重70[kg])であ り,表5・1の実験条件 で行 う・
測定 には,図5.1に示す開発 したマニ ピュ レー タを用い る.4点の測定値 を表5.2に示 し,測定 した出力分布 を図5.2に示す.また,測定 した出力分布 か ら推定 した静的状態 にお ける各筋 出力 を表5.3に示す.
図5.1:実験装置
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第 5章 筋活動制御 実験
︹td(uo!}331!PD33JOA 015■1■
1100 ・50 0 50 100 150 200 Force(xdirection)lN]
図5.2:出力分布 の測定結果
表 5.1:4点計測法の実験条件
0.40m 0.40m 1.05fad 2.09rad]
表 5.2:4点測定結果
Magnitude[N] 170.3 143.6 161.7 141.9
表 5.3:各筋出力 の推定結果
Forceofmuscles Ffl Ff2 Ff3 Fel Fe2 Fe3
Magnitude[N] 59.9 16.5 103.9 119.8 106.966.7