最新デバイスの耐放射線性強化技術に関する検討委員会 平成 24 年度 成果報告書
作成元 HIREC 株式会社 Prepared by
High-Reliability Engineering & Components Corporation
2014 年 2 月 February 2014
宇宙航空研究開発機構
Japan Aerospace Exploration Agency
目 次
ページ
1 はじめに ... 1
2 業務の目的 ... 1
3 業務実施結果 ... 1
3.1 委員会運営および耐放射線性強化技術の概要 ... 1
3.1.1 耐放射線性強化技術に関する検討材料の調査 ... 1
3.1.2 検討委員会の設置 ... 4
3.1.3 委員会活動 ... 5
3.1.4 耐放射線性強化技術 ... 6
3.1.4.1 半導体素子に対する放射線照射効果の動向 ... 6
3.1.4.2 調査文献 ... 6
3.1.4.3 SET関連の発表 ... 7
3.1.4.4 SEU関連の発表 ... 10
3.1.4.5 SEGR, TID, DD関連の発表 ... 17
3.1.4.6 まとめ ... 23
3.2 検討文献... 24
3.2.1 次世代パワーシステム用SETフリーのデジタル制御型POLレギュレータ ... 24
3.2.2 90nm 相変化メモリでのシングルイベント効果 ... 34
3.2.3 耐放射線性強化デザインの32, 45 nm SOI ラッチ ... 41
3.2.4 RHBDフリップフロップチェーンで発生するSEUと分布 ... 48
3.2.5 40nm Dual WellおよびTriple Well Bulk CMOS SRAMにおける単発電荷収集 および反転現象 ... 53
3.2.6 SEUおよびMCUにおけるHigh-Z材料と中性子エネルギーの影響 ... 60
3.2.7 フローティングゲートメモリにおける重イオン誘起エラーの角度依存性 ... 69
3.2.8 パワーMOSFETのSEGRにおけるイオン原子数影響について ... 75
3.2.9 リニアバイポーラトランジスタにおけるドーズレート効果... 83
3.2.10 超低線量率における低線量率増感(ELDRS)効果 ... 92
3.2.11 α粒子照射によるTiO2 メモリスタの電気的特性変化 ... 103
4 検討委員会の運営 ... 109
5 成果のまとめ ... 110
6 添付資料 ... 110
<添付>
添 付6-1 検討委員会 議事録 添 付6-2 検討委員会 配付資料
添 付6-3 第2回半導体デバイスの放射線照射効果研究会 開催報告
1 はじめに
本書は、JAXA 殿の業務委託 JX-PSPC-353085B「平成 24 年度 部品プログラム業務 調達仕 様書(請負)」の 4.5項(1)に基づいてHIREC株式会社が実施した「最新デバイスの耐放射線性強化 技術に関する検討委員会の開催支援」の業務結果についてまとめたものである。
2 業務の目的
半導体デバイスは、高機能化/高集積化の要求に伴い微細化、低消費電力化が進んでいる一方 で、放射線による影響も受けやすくなってきており、放射線によって発生する様々な現象も従来のもの と異なってきている。また、従来の耐放射線性試験方法についても、適正に判断できる試験方法を調 査し確立していく必要がある。これらについて有識者で構成される検討委員会を設置し、国内外の文 献等を調査した上で試験方法を含めた耐放射線性強化技術動向に関する調査検討を行った。
3 業務実施結果
3.1 委員会運営および耐放射線性強化技術の概要
3.1.1 耐放射線性強化技術に関する検討材料の調査
半導体デバイスの微細化、高密度化及び高機能化は目覚ましいものがあり、それに伴い、新たに 確認された放射線照射効果もあり世界中の学会で活発に議論されている。また従来、問題視されな かった宇宙線に起因した中性子による地上半導体デバイスのシングルイベント現象も報告されている。
このような技術革新が進む中、いかに半導体デバイスの耐放射線性を適正に評価するかが重要な課 題となっている。
これらの背景を踏まえて、本年度の耐放射線性強化技術に関する検討材料の調査は、対象デバイ スとしてSOIデバイス、バルクデバイス、FPGA、フラッシュメモリ、パワーデバイス、相変化メモリ、メモ リスタ等について、現象としてトータルドーズ現象、シングルイベント現象、陽子・中性子核反応シング ルイベント現象、変位損傷についての情報を調査した。
調査の結果、半導体デバイスに対する耐放射線性を研究する学会では世界最高峰の IEEE Nuclear and Space Radiation Effects Conference(NSREC:2011年7月Las Vegasで開催)で 発表された論文から特に重要なものをピックアップし、計11件を検討材料として選定した。
選定した検討材料の文献一覧を表 3.1.1-1に示す。
表 3.1.1-1 検討材料の文献一覧
分類 文 献 名 対応の本書項番
出典(1)ページ数 SET
次世代パワーシステム用SETフリーのデジタル制御型POLレギュレータ 3.2.1項 An SET-Free, All-Digital Controlled Point-of-Load Regulator for
Next-Generation Power Systems: ADC-POL P3011
SET
90nm 相変化メモリでのシングルイベント効果 3.2.2項
Single Event Effects in 90-nm Phase Change Memories P2755
SEU
耐放射線性強化デザインの32, 45 nm SOI ラッチ 3.2.3項 32 and 45 nm Radiation-Hardened-by-Design (RHBD) SOI Latches P2702
SEU
RHBDフリップフロップチェーンで発生するSEUと分布 3.2.4項 Single-Event Upsets and Distributions in Radiation-Hardened
CMOS Flip-Flop Logic Chains P2695
SEU
40nm Dual WellおよびTriple Well Bulk CMOS SRAMにおける単発電
荷収集および反転現象 3.2.5項
Single-Event Charge Collection and Upset in 40-nm Dual- and
Triple-Well Bulk CMOS SRAMs P2761
SEU
SEUおよびMCUにおけるHigh-Z材料と中性子エネルギーの影響 3.2.6項
The Effects of Neutron Energy and High-Z Materials on Single Event
Upsets and Multiple Cell Upset P2591
SEU
フローティングゲートメモリにおける重イオン誘起エラーの角度依存性 3.2.7項 Angular Dependence of Heavy-Ion Induced Errors in Floating Gate
Memories P2621
SEGR
パワーMOSFETのSEGRにおけるイオン原子数影響について 3.2.8項
Effects of Ion Atomic Number on Single-Event Gate Rupture (SEGR)
Susceptibility of Power MOSFETs P2628
TID
リニアバイポーラトランジスタにおけるドーズレート効果 3.2.9項 Dose Rate Effects in Linear Bipolar Transistors P2816
TID 超低線量率における低線量率増感(ELDRS)効果 3.2.10項 Enhanced Low Dose Rate Sensitivity at Ultra-Low Dose Rates P2983
DD
α粒子照射によるTiO2 メモリスタの電気的特性変化 3.2.11項 Impact of Alpha Particles on the Electrical Characteristics of TiO2
Memristors P2838
(1)出典:IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE, VOL.57, NO.6, DEC.2010
3.1.2 検討委員会の設置
3.1.1 項で選定した検討材料を検討するために、大学、公的研究機関、企業等の学識有識者から
構成される検討委員会を組織し、各委員に委嘱した。委嘱した委員名と所属、役職を表 3.1.2-1 に 示す。
表 3.1.2-1 検討委員一覧表(敬称略)
区分 委員名 所属名 役職
1 委員長 伊部 英史 株式会社日立製作所 横浜研究所 IEEEフェロー
2 副委員長 高橋 芳浩 日本大学 教授
3 委員 石井 茂 三菱重工業株式会社 主席技師
4 委員 深田 孝司 みずほ情報総研株式会社 シニアコンサルタント 5 委員 猪俣 輝司 NEC東芝スペ-スシステム株式会社 マネージャー 6 委員 新保 健一 株式会社日立製作所 横浜研究所 研究員
7 委員 北村 明夫 富士電機株式会社 課長
8 委員 佐々木 修 高エネルギー加速器研究機構 教授
9 委員 川口 博 神戸大学大学院 准教授
10 委員 沖原 将生 ラピスセミコンダクタ株式会社 サブグループリーダ 11 委員 小野田 忍 日本原子力研究開発機構 研究員
3.1.3 委員会活動
3.1.1 項で選定した検討材料は、各委員に割り当て検討を依頼した。各委員の報告する検討内容
について当該委員会にて討議し、それらを議事録としてまとめた。
表3.1.1-1に示した論文の調査検討に加え、さらに国際会議やシンポジウムなども調査し、以下の通
り報告した。
・第1回(伊部委員長より):SELSE*1(2012年3月@米国Illinois)
・第2回(伊部委員長より):IOLTS*2(2012年6月@スペインSitges)/
(事務局より):NSREC(2012年7月@米国Miami)
・第3回(事務局より):RADECS*3(2012年9月@仏国Biarritz)
また最終回では、伊部委員長から、本委員会を統括して本年度の耐放射線分野の動向についてまとめ を報告し、事務局より委員会運営結果について報告した。
第1回~第5回における委員会の日時・議題等を表 3.1.3-1に示す。
表 3.1.3-1 委員会の日時、議題など
回数 日時、議題など
第1回 開催日時:2012年7月6日(金)
開催場所:HIREC(株) 川崎事業所 主な議題:本年度検討内容の概要
各委員担当論文の発表及び討議(1件)
2012年SELSE 第2回 開催日時:2012年9月26日(金)
開催場所:HIREC(株) 川崎事業所
主な議題:各委員担当論文の発表及び討議(2件)
2012年NSREC報告 2012年IOLTS報告 第3回 開催日時:2012年10月26日(金)
開催場所:HIREC(株) 川崎事業所
主な議題:各委員担当論文の発表及び討議(4件)
2012年RADECS報告 第4回 開催日時:2012年12月7日(金)
開催場所:HIREC(株) 川崎事業所
主な議題:各委員担当論文の発表及び討議(4件)
第5回 開催日時:2013年3月8日(金)
開催場所:HIREC(株) 川崎事業所 主な議題:委員会運営の報告
本年度の検討論文に関するまとめ
*1: Workshop on Silicon Errors in Logic–System Effects
*2: International On-Line Testing Symposium
*3: European Workshop on Radiation Effects on Components and Systems
3.1.4 耐放射線性強化技術
3.1.4.1 半導体素子に対する放射線照射効果の動向
半導体素子の微細化が進む中で、集積回路の高密度化、大規模化が進んでいる。これまで は宇宙用半導体素子で重要な問題点であった集積回路の放射線による劣化(TID, DD)、誤動 作(Soft-, Hard Error)が、地上で使われる素子においても、宇宙線中性子によるシングルイベ ントとして問題が顕在化してきている。半導体素子に使用される材料も多岐に亘っており、それ らを宇宙放射線環境で用いる場合の問題を明らかにする取り組みも行われている。また、耐放 射線強化技術も、材料、素子構造、回路的な面から多くの提案がなされている。さらに新しい傾 向としてより階層が上のアプリケーションで対策を講じるアプローチや、相変化メモリ、FinFET など次世代メモリのソフトエラー耐性に関する報告も増加しつつある。今年度はこのような状況 の中から、2011 年 7 月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された、IEEE (The Institute of Electrical and Electronics Engineers)の2011 NSREC (Nuclear and Space Radiation Conference, Las Vegas, Nevada, July 25-29)で発表された論文でIEEE Trans. Nuc. Sci., Vol. 58, No.6 に掲載されたものから、重要と思われるものを選択して調査した。
3.1.4.2 調査文献
今年度の調査文献は次表の11編で、SET (Single Event Transient)関係2編、SEU (Single Event Upset)関係5編、TID (Total Ionizing Dose)関係2編、DD (displacement damage)、 SEGR (Single-Event Gate Rupture)各1件である。
個別の内容については 3.2 節で項番に従って詳述するが次節以降で、分類項目ごとの概況とト ピックスをまとめる。
表3.1.4-1 調査文献一覧
分類 Chapter ページ タ イ ト ル 著 者
3.2.1 3011- 3017
An SET-Free, All-Digital Controlled Point- of-Load Regulator for Next-Generation Power Systems: ADC-POL
P. C. Adell≪Jet Propulsion Lab.≫, T. Liu, B. Vermeire, B.
Bakkaloglu, and D. Aveline
3.2.2 2755-
2760 Single Event Effects in 90-nm Phase
Change Memories S. Gerardin≪Univ. di Padova≫, M. Bagatin, A. Paccagnella, A.
Visconti, M. Bonanomi, F. Pellizzer, M. Vela, and V. Ferlet-Cavrois
3.2.3 2702-
2710 32 and 45 nm Radiation-Hardened-by- Design (RHBD) SOI Latches
K. P. Rodbell≪IBM≫, D. F. Heidel, J. A. Pellish, P. W. Marshall, H.
H. K. Tang, C. E. Murray, K. A. LaBel, M. S. Gordon, K. G. Stawiasz, J. R. Schwank, M. D. Berg, H. S. Kim, M. R. Friendlich, A. M. Phan, and C. M. Seidleck
3.2.4 2695- 2701
Single-Event Upsets and Distributions in Radiation-Hardened CMOS Flip-Flop Logic Chains
P. E. Dodd≪Sandia National Laboratories≫,M. R. Shaneyfelt, R. S.
Flores, J. R. Schwank, T. A. Hill, D. McMorrow, G. Vizkelethy, S. E.
Swanson, and S. M. Dalton 3.2.5 2761-
2767
Single-Event Charge Collection and Upset in 40-nm Dual- and Triple-Well Bulk CMOS SRAMs
I. Chatterjee≪Vanderbilt Univ.≫, B. Narasimham, N. N. Mahatme, B. L. Bhuva, R. D. Schrimpf, J. K. Wang, B. Bartz, E. Pitta, and M.
Buer
3.2.6 2591- 2598
The Effects of Neutron Energy and High-Z Materials on Single Event Upsets and Multiple Cell Upset
M. A. Clemens≪Vanderbilt Univ.≫, B. D. Sierawski, K. M. Warren, M. H. Mendenhall, N. A. Dodds, R. A. Weller, R. A. Reed, P. E.
Dodd, M. R. Shaneyfelt, J. R. Schwank, S. A. Wender, and R. C.
Baumann 3.2.7 2621-
2627 Angular Dependence of Heavy-Ion Induced
Errors in Floating Gate Memories S. Gerardin≪Univ. of Padova≫, M. Bagatin, A. Paccagnella, A.
Visconti, S. Beltrami, M. Bonanomi
SEGR 3.2.8 2628- 2636
Effects of Ion Atomic Number on Single- Event Gate Rupture (SEGR) Susceptibility of Power MOSFETs
J.-M. Lauenstein≪NASA/GSFC≫, N. Goldsman, S. Liu, J. L. Titus, R. L. Ladbury, H. S. Kim, A. M. Phan, K. A. LaBel, M. Zafrani, and P. Sherman
3.2.9 2816-
2823 Dose Rate Effects in Linear Bipolar
Transistors A. H. Johnston≪Jet Propulsion Lab.≫, R. Swimm, R. D. Harris, and D. Thorbourn
3.2.10 2983-
2990 Enhanced Low Dose Rate Sensitivity at Ultra-Low Dose Rates
D. Chen≪NASA≫, R. Pease, K. Kruckmeyer, J. Forney, A. Phan, M.
Carts, S. Cox, S. Burns, R. Albarian, B. Holcombe, B. Little, J.
Salzman, G. Chaumont, H. Duperray, A. Ouellet, S. Buchner, and K.
LaBel DD 3.2.11 2838-
2844
Impact of Alpha Particles on the Electrical
Characteristics of TiO2 Memristors H. J. Barnaby≪Arizona State Univ.≫, S. Malley, M. Land, S.
Charnicki, A. Kathuria, B. Wilkens, E. DeIonno, and W. Tong SET
SEU
TID
3.1.4.3 SET関連の発表
表3.1.4-2にSET関連の発表概要をまとめる。
表3.1.4-2 SET関連の発表概要
項番 概要
3.2.1 次世代パワーシステム用 SETフリーのデジタル制 御型POLレギュレータ
■次世代電力システム向けのデジタル制御プログラマブルPOL(ポイント・オブ・ロー ド)を提案。
■新しいデジタル制御方式では、SETを最小化するように設計できる。⇒ループ伝送 を効果的にプログラミングすることでSET耐性と過渡応答時間をトレードオフ可能。
■AMI社0.7μmCMOSプロセスで製作し、JPLのパルスレーザーシステムで評価し た。
3.2.2
90nm 相変化メモリでの シングルイベント効果
■フローティングゲート技術を用いたNVM1はSEUに対するしきいLETの減少が報 告されており、 その代替候補である128Mbit,90nm 相変化メモリ(PCM2)のシング ルイベントエフェクトを評価。
■相変化メモリセルは重イオン照射に対して強健であることが過去の実験で知られて いるが、スケーリングの影響は未知。
■重イオン照射により発生すると予想される物理メカニズムについて検討し、将来の世 代での不安定性について議論する。
■今回の実験で観察されたリードエラーやSEFI(Single Event Functional Interrupts) 等の誤動作は周辺回路へのイオン照射によるものであると考えられる。
1:Non-Volatile Memory, 2:Phase Change Memory
(1) 次世代パワーシステム用SETフリーのデジタル制御型POLレギュレータ Adell (JPL)らは、宇宙で使用される電
源はアナログ系だが、SET による障害が多 いことや、FPGA, DSP, ASIC などの低電 力化が進み、電圧マージンが小さくなって いる(図3.1.4-1)ことに着目し、制御容易化、
SET耐性の向上を目的として電源のデジタ ル化を図った。
図3.1.4-2は無損失負荷電流センシング 回路付きDC-DC コンバータPOL (Point
Of Load)と称する実際の構成を示すもので、負荷電流を検出し、PID 制御の係数の初期設定
や更新をすることにより、負荷電流変動の最小化を図ることができる。0.7μm-CMOS プロセス、
最大入力電圧:5.5V、出力電圧:1~4.5V、最大負荷電流 1A、ロスレス負荷電流センス機能付 きである。
さらに、この回路を用いて、
ピコ秒パルスレーザーシス テム(@JPL)で SET 試験を 実施した。Ti サファイヤの 出 力 ビ ー ム 800nm, 400~600mW( 重 イ オ ン 換 算 : LET1~150MeV ・ cm2/mg 相当)、幅 2ps の
図3.1.4-1. FPGAやASICコア電圧の変遷
図3.1.4-2. 無損失負荷電流センシング回路付きDC-DCコンバー タPOL (Point Of Load)の構成
レーザーパルスを対物レンズで集光し、分解能 100nm 以上でSET に脆弱な部位をサーチし た。
結果の一例を図3.1.4-3に示す。赤丸で囲ったADC-VCO回路のバイアス生成回路のほか、
DLL 回路のトランジスタが脆弱であ ることが分かったが、SET はレギュ レータウィンドウの範囲内で対応可 能であった。また、感応領域は小さく、
エネルギースレッショルドは~10pJ (~30MeV・mg/cm2) と大きいため、
厳しい環境での SET 発生確率は十 分小さいことが分かった。さらに恒久 的な故障も発生しなかった。
(2) 90nm 相変化メモリでのシングルイベント効果 Padova大学のGerardinらは、
Numonyx社製128Mbit 90nm GST (Ge2Sb2Te5) を用いたPCM (Phase Change Memory)のシングルイベント効果 を重イオン照射により調べた。
図3.1.4-4に示すように、180nmのセルに 対して8MeV電子線照射した実験例 (Gasperin, 2008)ではRESETの分布が低 抵抗側に大きくシフトすることが分かっていた が、スケーリングの影響が懸念されたため、
90nmのデバイスでデータを取得した。
図3.1.4-5に相変化メモリの構造と等価回 路を示す。
図3.1.4-6にAgイオン照射後の電流分布 を示す。SET状態での電流がAgイオン照 射により、5%以下減少。ArイオンのGST部 分の飛跡部分(図3.1.4-7)のthermal spike効果により、5%のVolumeがアモル ファス化と推測し、モデル評価により、32nm では40%になり、エラーの原因となりうると結 論づけた。
図3.1.4-3. ADC-VCO回路のSETレーザマッピング
エネルギースレッショルドは約12~15pJ(35~40MeV・cm2/mg)
図3.1.4-5. 相変化メモリの構造と等価回路 図3.1.4-4. 30Mradの照射により、抵抗が大きく流れる 電流の低いRESETのピークが高電流側にシフトする。
図3.1.4-6. Agイオン照射による90nm PCMの 電流分布の変化
図3.1.4-7. イオン飛跡のアモルファス化モデル
3.1.4.4 SEU関連の発表
表3.1.4-3にSEU関連の発表概要をまとめる
表3.1.4-3. SEU関連の発表概要
項番 概要
3.2.3 耐放射線性強化 デザインの32, 45 nm
SOI ラッチ
■重イオンを用いたSOI (32nm and 45nm) ラッチのSEUの実験(DICE含む)
■Monte Carlo modeling
– 現実的な重イオントラック構造の適応. – 角度依存断面積(微分断面積)の導出。
– 断面積の視覚化. – ラッチ回路の改良,デザイン限界の速やかな検証が可能に。
■32nm SOI Latches : 実験とMonte Carlo予想の合致。
3.2.4 RHBDフリップフロッ プチェーンで発生する
SEUと分布
■0.35mm/0.45mm の CMOS/SOI プロセスで試作した、フィードバック抵抗有/無 3000-DFFチェーン回路を使用し、DFF内のSEUに敏感なトランジスタを、ブロード重 イオン照射、レーザー照射、マイクロビーム照射の結果から、回路上にマッピングし、回 路パラメータとSEU耐性の相関を調べた。
3.2.5 40nmデュアル、トリプル ウェルバルクSRAMのシ ングルイベント電荷収集
とアップセット
■Dual well上とTriple well上の40nmSRAM SERの評価
■低LETではDual wellが低SER,Triple wellが収集電荷量が多く,高SER
■高LETでは、Dual wellが高SER,Triple wellがCharge confinementのため低 SER
3.2.6 SEUとMCUに及ぼ
す中性子エネルギー と重元素の影響
■タングステンのようなHigh-Z材料は 高エネルギー中性子(>100MeV)の相互作用に よって、半導体デバイスのSEUおよびMCU断面積を増加させる。
■臨界電荷量が低いデバイスであれば、約2倍以内で2bit-MCU(2BU)応答をシミュ レーションできることを確認。14MeV 中性子では、SEU~2BU までは評価できるが、3 ビット以上のMCUは正しく評価できないことを示した。
3.2.7 フローティングゲートメ モリにおける 重イオン 誘起エラーの角度依
存性
■NOR、NAND 型フローティングゲートメモリについて、重イオン照射実験、Geant-4 シミュレーションを行った。
■照射重イオンの効果を入射角の関数として解析した。反転の角度依存性は複雑で、
基準電圧に依存する。
(1) 耐放射線性強化デザインの32, 45 nm SOI ラッチ
Rodbell (IBM) らは SOIプロセスのDICE を含め5種類のラッチに重イオンを照射し、SEU耐 性を角度依存性まで含めて評価し、IBMのソフトエラーシミュレータSEMM2で飛跡の沿った電荷 発生部の径の影響を解析した。図3.1.4-8に用いたラッチの構造と等価回路を示す。
図3.1.4-8. ラッチの構造と等価回路
角度依存性は図3.1.4-9に示すように上下方向(Tilt角)と平面方向(Roll角)について調べた。
Tilt角は60~70°の範囲で一桁SEU断面積が増加したが、Roll角はStacked (shared node)ラッ チは0°~90°で3桁減少したが、それ以外のラッチは、角度依存性は小さい(図3.1.4-10)。
45nmのStacked(Shared node)はLET依存性大(図3.1.4-11)でそれ以外のラッチのLET依 存性は32nmラッチ含め(図3.1.4-12)顕著でははない。DICEを除いては、Stacked(side by side) が最強も耐性が高い。
さらに、LET依存性が従来のラインモデル(発生した電荷が飛跡の径方向に広がりを持たない)
では実験結果を再現できず、広がりを考慮したモデル(図3.1.4-13)により、再現できることを示した
(図3.1.4-14)。
図3.1.4-12. 32nmラッチのSEU断面積 のLET依存性
図3.1.4-11. 45nmラッチのSEU断面積 のLET依存性
図 3.1.4-13. 発生電荷の広がりを考慮 したモデルの概念図
図3.1.4-14. LET依存性の実測値とシミュレー ション計算結果の比較
図3.1.4-9. Roll角、Tilt角の定義
図3.1.4-10. Roll角依存性
(2) RHBDフリップフロップチェーンで発生するSEUと分布
Dodd (Sandia National Lab.) らは、Body tie付SOIの3000段マスタースレーブ型DFF(図 3.1.4-15)チェーンのSEU耐性に影響するパラメータをフィードバック抵抗R1/R2含めて重イオン、
集束マイクロ ビーム、レー ザー照射により 評価した。
表3.1.4-4に 用いたDFFの パラメータをまと めた。
図3.1.4-16にフィードバック抵 抗(1squareは30kΩ)の影響をま とめた。フィードバック抵抗が大き いほど閾LETが高くなり、SEU耐 性が向上することがわかる。
図3.1.4-17に重イオン照射によるエラー数と対応するDFF数分布を示す。抵抗があるとエラー数
分布は低い方にシフトするが幅はほとんど変化しない。
レーザー照射により、SEUエネルギー閾値計測を行い、SEUに敏感なトランジスタを
N10/N11/N12 、P10/P11/P12(図3.1.4-15参照)と特定した。さらに、マイクロビームにより、弱いト ランジスタをデータパターンCheckerboardではN10/P10/P11/P12、All “0”では、P4/N6/N9/P12 と特定した。
(3) 40nmデュアル、トリプルウェルバルクSRAMのシングルイベント電荷収集とアップセット
Chatterjee(バンダービルト大)らは、Dual ウェルと Triple ウェルのソフトエラー耐性について実 験の結果・見解が大きく分かれていること着目し、これにに決着をつけるため、40nm SRAMで重イ オン照射実験をすると共に、TCADシミュレーションでメカニズムを検討した。
図3.1.4-15. マスタースレーブ型DFF(丸印で囲われた部分がフィードバック抵抗)
表3.1.4-4. DFFのパラメータ
図3.1.4-16. フィードバック抵抗の影響 図 3.1.4-17. 重イオン照射によるエラー数と 対応するDFF数分布。
図3.1.4-18はSEU断面積のLET依存性の一例を示したもので、正面からと、左右WL方向30°
からの照射いずれの場合も、データパターンによらず低LETでTriple、高LETでDualが悪いと いう結果が得られた。これを、SBU (Single Bit Upset)とMCU (Multi-Cell Upset:複数のビットが 1 回 の イ ベ ン ト で 反 転 す る こ と 。 論 文 で は 、MBU
(Multi-Bit Upset)と記載されているが、MBUは同一 ワード内のMCUで、1ビット修復のECCで救済でき ないものを指すので誤用)についてみると、低 LET で はTripleウェルがSBU, MCUとも多い(図3.1.4-19) が、高 LET(図 3.1.4-20)では Triple ウェルの方が SBU, MCUともDualウェルより少ない結果が得られ ている。
さらに、ウェルタップ(64 ビットごとに給電コンタクトが配 置されている。)からの距離依存性を見ると、図 3.1.4-21 に示すように、タップ位置でエラー数が少ない(発生した 電荷が流出・再結合するため)ことは良く知られているが、
中央付近でTripleウェルの落ち込みが顕著なことがわか る。この原因について、TCAD シミュレーションをした結果、
電荷密度が高くなる Triple ウェルの中央付近では、図
3.1.4-22 に示すように一度反転したビットが、連続して反
転(SEU reversal)してもとに戻るというモデルを提案し、こ のSEU reversalが高LETでTripleウェルの耐性が高 く見える原因と結論している。
図3.1.4-21. エラー数のタップ位置からの距離依存性
図3.1.4-19. 低LETでのSBUとMCU 図3.1.4-20. 高LETでのSBUとMCU 図3.1.4-18. SEU断面積のLET依存性
図3.1.4-22. SEU reversalのTCAD シミュレーション結果
(4) SEUとMCUに及ぼす中性子エネルギーと重元素の影響
Clemens(Vanderbilt大)らは、コンタクトに用いられるWなど、重元素がLETも高いため、SEU, MCUに及ぼす影響が高い可能性に着目し、タングステンを多く含んだ層を有するダイオード(図 3.1.4-23)と含まないダイオードを作成し、ロスアラモスのSpallation中性子源を用いて照射実験を 行った。
図3.1.4-24は波高から求めた収集電荷量のヒストグラムで、収集電荷量の多いところで、Wを含
んだダイオードの方が発生エラーが多いと結論している。この結果をソフトエラーシミュレータ
MRED-CEMで合わせこんだ上で、SRAMモデルを用いてソフトエラーシミュレーションを行った。
結果をSBUと2ビットMCUについて示したのが、図3.1.4-24で、臨界電荷量27fC以上の SRAMではWの影響が強く現れると結論している。
コメント:本研究の結果は、Wの影響 は電荷量の大きい裾野に現れるだけで、
全体的な影響は無視できる(E. Ibe, Y.
Yahagi, H. Yamaguchi, and H.
Kameyama, "SEALER : Novel Monte-Carlo Simulator for Single Event Effects of
Composite-Materials
Semiconductor Devices," 2005 RADECS, Sep.19-23, Palais des Congres, Cap d'Agde, France, 2005, No.E-4.の結論)と考えるべき。臨界電
荷量27fCのSRAMも現存しない(高々数fC)。
(5) フローティングゲートメモリにおける 重イオン誘起エラーの角度依存性
フローティングゲート(FG)セルの重イオン照射効果の研究については、物理的なメカニズムとSV
(鋭敏領域)のサイズと形状は、あまりわかっていない。
主要なモデルは以下の3通りがある。
①高濃度の放射誘起キャリアによる トンネル酸化物のエネルギーバンド構造の破壊[文献7]
図3.1.4-23. Wを含有するダイオード構造と波高測定系
図3.1.4-24. SRAMのソフトエラーのシミュレーション結果
②過渡欠陥によるTrap-Assist-Tunnel[文献11]
SVがFGより広い領域に対応している
③Transient Carrier Fluxモデル[文献10]
電荷消去を重イオン打込みによる生成キャリアの トンネル酸化膜への出入りに帰している NOR型とNAND型のFGセルの重イオン照射により、メカニズムを検討した。
DUTはNOR型が長方形セル(L>W)で65nmプロセス、NAND型が正方形セルで41nm プ ロセスのものでNumonyx製Multi Level(L0-L3、4値) Cell を用いた。重イオン源INFN LNL
(Legnaro国立研究所、Padova)のSIRAD (3×107ions/cm2)を用いた。
図3.1.4-25にNOR型セルのSEU断面積の実効LET依存性を示す。Si, Ni,Agイオンを用い、
垂直入射と斜め入射を行ったが、実効LETによりよく整理できることがわかる。
図3.1.4-26はNi照射前後のL3レベルのVth変化を示したもので、照射前には比較的狭い幅で 分布していたものが、照射により、低い方にシフトすることが分かる。シフトしたVthの低い方のピーク を2ndピークと呼び、この領域は1, 0の判定基準より小さくなるのでエラーとなる。
図3.1.4-27はNOR型セルにNiイオン照射後のL3レベルの2ndピークの総セル数とエラー数 を断面積に置き換えたものと、FGとトンネル酸化膜(Tun. Ox.)の投影断面積(図3.1.4-28)を傾き角 の関数として表示したもので、2ndピークよりもエラー断面積の方が高い。
図3.1.4-29はNOR型セルにSiイオン照射後のL3レベルの2ndピークの総セル数とエラー数 を断面積に置き換えたものと、FGとトンネル酸化膜(Tun. Ox.)の投影断面積(図3.1.4-28)を傾き角
図3.1.4-25. NOR型のSEU断面積のLET 依存性(黒:垂直入射、白:斜め入射)
図3.1.4-26. Ni照射時のVthシフト
図3.1.4-27. NOR型Niイオン入射時のL3レベ ルの2ndピーク、エラー断面積、FG、トンネル酸化 化膜実投影面積との比較
図3.1.4-28. 実投影面積のイメージ
の関数として表示したもので、Niイオン照射時と逆に2ndピークがエラー断面積より高い結果になっ ている。
NORデバイスとNANDデバイスについて、実験とGeant-4シミュレーションを組み合わせて、FG セルにおける重イオンの効果を入射角の関数として解析し、NAND型及びNOR型も同様に、SV がFGと同程度の大きさでトンネル酸化膜より十分厚いと、重イオン誘起の第2ピークに属するセル の断面積がSVと符合することを示した。これらの結果から、照射効果のメカニズムは主要な3モデ ルのうち、”Transient Carrier Fluxモデル”が妥当と結論している。
図3.1.4-29. NOR型Siイオン入射時のL3レベルの2ndピーク、
エラー断面積、FG、トンネル酸化膜実投影面積との比較
3.1.4.5 SEGR, TID, DD関連の発表
表3.1.4-5にSEGR, TID, DD関連の発表概要をまとめる
表3.1.4-5. SEGR, TID, DD関連の発表概要
項番 概要
3.2.8 (SEGR) パワーMOSFETの SEGRにおけるイオン
原数影響について
■縦型パワーMOSFETにおけるSEGR (Single-Event Gate Rupture)故障での重 イオンと酸化膜、エピ層、ドレイン基板中のイオン化されたチャージの相互作用の相対 的な重要性を実験的に調査した。
■結論として、エピ層中のイオン化されたチャージとイオン原子数が SEGR 故障の重 要なパラメータであることを示した。
3.2.9 (TID) リニアバイポーラトラン ジスタにおける線量率
効果
■リニアバイポーラトランジスタのドーズレート効果を検証
■バイポーラ・トランジスタは低ドーズレート照射でダメージ量増大
・高ドーズレートでは室温でダメージの約50%がアニールされる
・試験規格の変更が必要
■低温でパルス照射後、ダメージは3000秒以上増加
・CTRWモデルによるシミュレーションと一致 3.2.10
(TID) 超低線量率下での ELDRS加速現象
■様々な種類の民生、耐放射線性、ELDRSフリー素子に対して、線量率が10, 5, 1, 0.5 mrad(Si)/sにおけるELDRSを調べた。
•10mrad(Si)/s以下の線量率でELDRSが発現した素子もあった。
•線量率が違うと、ELDRSの発生する線量が大きく変動する。
•耐放射線性素子と ELDRS フリー素子でも超低線量率において ELDRS が発生し た。
3.2.11 (DD) α粒子照射による TiO2メモリスタの電気
的特性変化
■TiO2メモリスタのα線照射効果について検討
・各状態における照射による抵抗低下(電流増加)
→ 照射による酸素空位の発生が原因 ;基本的劣化メカニズム=変位損傷
・1015cm -2 のα線照射後も,良好なスイッチング特性を維持
→ 優れた耐放射線性を確認 ∵ 作製後の TiO2膜内に既に高密度の酸素 空位が存在(〜1%) → 特性変化を引き起こすためには高ドーズが必要
TIDに関する発表はいずれもELDRSに関する発表である。
(1) パワーMOSFETのSEGRにおけるイオン原子数の影響について
Laurenstein(NASA/CSFC)らは、パワーMOSFET に重イオンを照射し、SEGR の入射イオン の原子数、LET依存性について調べた。DUTはRad-Hard 200V n-type 縦型パワーMOSFET
(図3.1.4-30)で、照射後、PIGS (Post-irradiation gate stress)試験を実施し、ゲートリークを測定 しリーク電流100nAでSEGRと判定した。
図3.1.4-30. パワーMOSFETの断面構造。エピ層で
発生した電荷がSEGRの引き金となる 図3.1.4-31. イオン種とエピ層内LET
SEGRはn-エピ層で発生した電荷が引き金となるので、エピ層で発生した電荷が第一義的に重 要である。この研究では、LETとイオン種(原子数)の影響を評価することが目的なので、図
3.1.4-31に示すように、エピ層内でのLET分布が異なるイオン種で同等となるエネルギーとの組み
合わせ①~③を選んだ。①はCu:422MeVとKr:1089MeV、②はAg:1405MeVとXe:2950MeV、
③はAg:740MeVとXe:1618MeVである。
結果を図3.1.4-32(①)、3.1.4-33(②③)にまとめる。いずれもエピ層内LETは同程度だが、原子 数の少ないイオン種の方に高いSEGR耐性を示す(SEGR発生平均ドレインーソース電圧が高い)。
この傾向はLETが高くなると弱くなる。
SEGRの臨界ゲート-ソース間臨界電圧を原子番号の関数としてプロットすると図3.1.4-34のよう にTitus-Wheatley型の近似式でよくフィッティングできることが分かった。同式を用いて宇宙の SEGR環境をLETと原子番号、フラックスの3次元座標上で示すと図3.1.4-35のようになり、実際 にあり得るLETと原子番号の組合せの中で、Safe、Unknown threat, Known Threatの3領域 が示される。Known Threat領域は広いがフラックスは極めて小さいことなどがよみとれる。
図3.1.4-32. エピ層内LET同程度(①)だが、原 子数の小さいCuの方がSEGR耐性が高い。(発 生電圧が高い)
図3.1.4-33. エピ層内LET同程度(②③)で も原子数の小さいAgの方がXeよりSEGR耐 性が高い。
LETが大きくなると、この傾向は弱くなる。
図3.1.4-34. SEGR発生の臨界ゲートーソー ス間電圧依存性のTitus-Wheatley 型の近 似式(上式)によるフィッティング結果
図3.1.4-35. 宇宙のSEGR環境を宇宙線のイオン毎 のフラックスで近似式を用いて評価した。色が濃いほ ど低フラックス。
(2) リニアバイポーラトランジスタにおける線量率効果
Johnston (JPL)らはELDRS (Enhanced Low Dose Rate Sensitivity)は20年前に観測され たが、現象は未解明のままとし、リニアバイポーラトランジスタLM111(National Semiconductor社 製、図3.1.4-36)をCo-60と電子線で照射してメカニズム解明を試みた。
図3.1.4-37に低線量率時(0.005rad (SiO2)/s)のLM111の基礎データとしてCo-60照射時の入 力バイアス電流の増加を示す。総線量 8.5krad(SiO2)を基準とした。図 3.1.4-38 は JPL の Dynamitronを用いて1.3MeVの電子ビームを真空中で種々の線量率で照射 (8.5krad(SiO2))し た直後の入力バイアス電流の変化を示したもので照射直後の値から明確に ELDRS 効果とその後 の入力バイアス電流の減少からアニール効果が確認できる。アニール効果のスロープに大きな差が ないことから、アニール効果には線量率依存性なしと結論した。
ELDRSのメカニズムについて図3.1.4-39の正孔の移動時間の3段階を示すCTRWモデルを 用いて議論した。図3.1.4-39の横軸の正孔の酸化膜内の移動時間は全体の50%が界面に移動し た時間を1として正規化してあり、実際の値は温度、電界、酸化膜厚効果に依存する。本研究で用 いたLM111では0.5秒程度。ELDRSのメカニズムを以下のように展開した。
図3.1.4-38. LM111にCo-60を用いて線量率0.005rad(SiO2)/sで 照射した時の入力バイアス電流の変化
図3.1.4-36. LM111の回路図と諸元
図3.1.4-37. LM111にCo-60を用いて線量率 0.005rad(SiO2)/sで照射した時の入力バイアス 電流の変化
【ELDRSメカニズム】
■高ドーズレートでの照射
・①の領域だけで、過渡状態にある残り90%のホールの輸送を遅らせる電界を形成するのに十 分な電荷が蓄積される→アニール(ホールと電子との再結合)多い
■低ドーズレートでの照射
・酸化膜の中間領域にある大部分のホールはほとんど影響なく輸送される
・ホールの界面捕獲に起因する、ホールの輸送を遅延させる電界はトータルドーズがかなり高い レベルに達するまで影響する水準まで高まらない→アニール少ない
■中間領域での照射
・電界の影響が強くなる前にホールが界面に達する可能性が有る
・強いドーズレート依存性を示す
(コメント:水素の影響については言及していない)
(3) 超低線量率下でのELDRS加速現象
ELDRSが現れる分岐点は従来10mrad(Si)/s (MIL-STD-883G TEST METHOD 1019.8 (2010.2.26))とされてきたが、Chen(NASA)らは、様々なパーツで10mrad(Si)/s以下における
ELDRSを評価し、超低線量率下でのELDRS加速現象を発見した。
実験はCo-60用いたガンマ線照射で、室温、4~5素子/条件で行った。
線量率は10, 5, 1, 0.5 mrad(Si)/s で100krad(Si)に到達するまで継続した。0.5mrad(Si)/sの 場合、実験期間6年4か月を要した。端子を接地して照射した。数種類については電圧印加試験も 実施した。
図3.1.4-40は可変電圧レギュレータLM317KTTR(民生素子)の出力電圧のELDRSを示した もので、出力電圧の減少(劣化)幅が、線量率0.5mrad(Si)/sまで線量率が小さいほど大きい明確な ELDRSが現れている。図3.1.4-41は「ELDRSフリー素子」LM158とLM117のLDF FF*を示し たもので、線量率1mrad(Si)/s前後以下でLDF FFが1.5を超え、ELDRSを示していることが分 かる。
*低線量率増感係数(LDR FF):低線量率におけるパラメータの変化と高線量率における変化の 比率。LDR FF > 1.5以上でELDRSの影響を受けると判断(MIL-STD-883G)。
図3.1.4-39. LM111にCo-60を用いて線量率0.005rad(SiO2)/s で照射した時の入力バイアス電流の変化
図3.1.4-42は低飽和型電圧レギュレータ TL750L05CDRの最初に故障を起こす(パストラン ジスタが原因)線量を線量率の関数として示したもの で、1mrad(Si)/s以下でも線量率が低いほど低い線 量で故障を起こす、ELDRSを示すことが分かる。
本研究では、これらの結果を受けて、耐性保証や 規格の見直しについて議論をしている。
(4) α粒子照射によるTiO2メモリスタの電気的特性変化
Barnaby(Arizona State大)らは、Hewlett - Packard 研究所で開発されたメモリスタデバイス
(通過電荷により抵抗が変化する受動素子)のα線照射による電気的特性の変化について調べ、モ デル評価した。
メモリスタ基本構造について図3.1.4-43に示す。メモリスタは酸素空位を持つTiO2膜と酸素空位 を持つTiO2-x膜をPt電極で挟む構造になっており、図3.1.4-44に示すようにOFF状態では電圧
図 3.1.4-40. 可 変 電 圧 レ ギ ュ レ ー タ LM317KTTR( 民 生 素 子 ) の 出 力 電 圧 の ELDRS
図 3.1.4-41. ELDRS フ リ ー 素 子 の LDF FF>1.5 (MIL-STD-883G) ELDRSフリー素 子といえども、超低線量率(0.5mrad(Si)/s)で はELDRSが発現する
図3.1.4-43. メモリスタ基本構造 図3.1.4-44. メモリスタ基本特性
図 3.1.4-42. 低 飽 和 型 電 圧 レ ギ ュ レ ー タ TL750L05CDR:が最初に故障を起こす線量 と線量率の関係
を印加しても電流は流れないが、電圧を印加して-2~-1Vに維持すると、TiO2膜に酸素空位が発生 して導電性を保つ ON 状態になり、電圧に応じて電流が流れるようになる。逆にON 状態で電圧を 1-2V に保つと TiO2膜内の酸素空位が消失して導電性がなくなる。こうした特性のため、ナノサイズ 不揮発性メモリ、ロジックデバイスとして有望視さえるだけでなく、電荷捕獲ではなく、イオン伝導によ り動作するため、耐放射線性不揮発性メモリとして期待されている。
図 3.1.4-45 は ON 状 態 で の α 線(1MeV)照 射 効 果 を 示 し た も の で 抵 抗 が 若 干 減 少 (4.5kΩ→1kΩ)している。図 3.1.4-46 は OFF 状態でのα線照射効果を示したもので、照射量が 1013cm-2から1014cm-2になると抵抗が急激に4桁減少している。
このメカニズムを検討するためにTiO2膜を厚さ5nm、バンドギャップ3.2eVの半導体としたモデ ルで、OFF状態ではTiO2中の酸素空位密度が低く、Pt-TiO2はSchottky接合で高抵抗、ON状 態ではTiO2中の酸素空位密度が高く、Pt-TiO2はトンネル接合で低抵抗とした。
照射により、酸素空位が発生(Frenkel欠陥)すると してKinchin-Peaseモデルを適用した。
図3.1.4-47はシミュレーション結果と実験値を併せ て示したもので、シミュレーションでは照射量が
1014cm-2を超えると電流が20倍になり、実験結果と定 性的に一致する結果が得られた。
こうした顕著な照射効果が現れるものの、スイッチン グ特性は良好に保たれるのでメモリスタは優れた耐放 射線性を持つ、と結論づけている。
図 3.1.4-46. OFF 状態でのα線(1MeV) 照射効果:抵抗が4桁減少
図3.1.4-45. ON状態でのα線(1MeV)照射 効果:抵抗が若干減少(4.5kΩ→1kΩ)
図3.1.4-47. 1014→1015cm-2で電流20倍に
(トンネル電流で説明)
3.1.4.6 まとめ
2011年発行のVol.58、No.6の発表論文11編を精読、抄録にまとめた。
2012年度の半導体デバイス・装置の放射線照射効果研究の動向の特徴を以下にまとめた。
①宇宙・航空機・地上の夫々で、微細化に伴う半導体デバイスのエラーがモードと共に拡大、深 刻化
②LETだけでは整理できない現象の指摘増加(パワーデバイスのSEGRなど)。
③宇宙ではTID,SEB,SEGRが中心。超低線量率でのELDRSの報告あり。
④中性子ソフトエラー含め、地上の障害の発表件数が増加に反転 RADECS2012では一日特別セッション(RADGROUND)設定
⑤次世代デバイス(相変化メモリ、メモリスタ、Fin FETなど)に評価範囲拡大。
⑥JESD89A発行以来、ISO26262(2011)、IEC62396など多くの規格にソフトエラーが含まれる 傾向継続。MIL規格も見直し提案あり。
3.2 検討文献
3.2.1 次世代パワーシステム用SETフリーのデジタル制御型POLレギュレータ 文献名 An SET-Free, All-Digital Controlled Point-of-Load Regulator for Next -
Generation Power Systems: ADC-POL
出 典 IEEE Transaction on Nuclear Science, Vol. 58, No. 6, pp. 3011-3017, Dec. 2011.
著者名 P. C. Adell , T. Liu, B. Vermeire, B. Bakkaloglu, and D. Aveline 対象デバイス デジタル(AMI i2t100 0.7μmCMOSプロセス)
実験設備 JPL Laser Pulse System
照射線種及び エネルギーの区分
レーザー
エネルギー:10pJ~30pJ 単発現象又は
積算線量効果の区分
単発反転現象 (SET) 実験又は理論の区分 実験
(1) 概要
本論文は、次世代の電力システム用デジタル制御型プログラマブル・ポイント・オブ・ロードレギュ レータ(POL:point-of-load) について述べる。新しいデジタル制御方式は、SEEによるトランジェン ト効果を最小化するようにデザインされている。制御ループ特性を適切にプログラミングすることで、
POLのSET耐性と過渡応答時間とをトレードオフできる。この ICは、入力動作電圧 1~5.5V、出 力電圧 1~4.5V、高効率(最大効率 94%)、出力電力 5W 以上である。AMI 社 i2t100 0.7μm CMOSプロセスで製造し、JPLのパルスレーザーシステムでキャラクタライズした。
(2) 序論
宇宙機の低-中レベルの電力配分システムの殆どでは、絶縁分離されたDC-DCコンバータを供 給元とするPOLを用いて2~3ステージを介した構成となっている。これらのシステムは、複数の電力 消費源を介すため、末端までの効率は選択された民生部品にも依存するが、概ね30%程度の低い 値となる。それらが能力を制限する一方で、個々のレギュレータは、負荷の階層化、デバイス故障検 出、ビルトインセルフテストのないまま、個別に動作している。
FPGA、DSP、その他の ASIC などの宇宙機のボードで使用されるデジタル集積回路(IC)では、
劇的な微細化製造技術を背景に、高速化の要求が高まってきている。図3.2.1-1より、デバイスの実 行ゲート長が減少し、コア電圧が10年前の2.5Vから1V付近にまで低下してきていることが分かる。
これは、パワーデジタル IC などの標準的な スイッチング・コンバータやレギュレータの動 作マージンを劇的に減少させている。
その結果、フレキシブルなPOLレギュレー タの必要性が増している。次世代の電力分 配方式には、サブミクロン技術に対応した新 しい戦略が必要となるだろうし、また、デザイ ンの柔軟性やより良い故障管理が要求され
るだろう。加えて、殆どの宇宙用のDC-DCコ 図3.2.1-1. FPGAやASICコア電圧の変遷