小川智史 飯島啓 佐藤将 兵藤則行 柴田安司 中村將 平井俊朗
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補足資料
コイ各臓器のヘマトキシリン・エオシン染色像に対するブアン固定液のpHの影響
小川智史 飯島啓 佐藤将 兵藤則行 柴田安司 中村將 平井俊朗
・補足1:供試個体の生殖腺の発達状況
・補足2:体腎
・補足3:脾臓
補足説明
補足1.供試個体の生殖腺の発達状況
精小嚢が形成され、明確に精巣としての組織構築 を形成していた(補足図S1a-f)。さらに精小嚢内腔 には精子が多数観察されたことから、本供試個体は 完全な性転換(雄化)を起こしていたものと推察さ れる。精子頭部(核)は、適正な固定条件では非常 に濃い青藍色となるが、長期浸漬試料では茶赤色を 帯びるようになる(補足図S1g-i)。また、精母細胞 の核も同様の傾向を示すが、改変ブアン液では細胞 質が僅かに色素嫌性になっているため、細胞内の様 相が、やや観察しやすくなっていた。
補足2.体腎
体腎の概観標本では、尿細管各部が様々な角度の 断面として観察される(補足図S2a-c)。従来液(補
足図S2d、g)では、全体的に赤色単色化しており、
尿細管の部位間の色調差が小さい。これに対して pH3液(補足図S2e、h)とpH4液(補足図S2f、i)
では、近位尿細管(補足図S2e、f)のエオシン染色 性が維持されるのに対して、遠位尿細管(補足図 S2h、i)では、エオシン染色性が低下し、両者の識 別が容易になる。近位部の特徴として、内腔を構成 する上皮細胞の頂端部に微絨毛と線毛の層で構成さ れた刷子縁(さっしえん)が観察される(補足図 S2d-f)。遠位部の内腔でも微絨毛と線毛が観察され るが、その密度は低く、繊毛は長い傾向がある(補 足図S2g-i)。糸球体は特徴的な断面像を呈するため、
赤色単色化した従来液による標本でも識別可能であ るが、pH3液やpH4液では間質のエオシン染色性が 低下することで、より識別しやすくなる(補足図 S2j-l)。
補足図S1 雄性化した生殖腺
a, d, g:従来液(pH1.6)、b, e, h:pH3液、c, f, i-k:pH4液、a-c:切片の全体像、d-f:光顕レベルの概観像、g-i:精小嚢、矢じ り:精子、スケールバー=1mm(a-c)、100µm(d-f)、50µm(g-i)
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コイ各臓器のヘマトキシリン・エオシン染色像に対するブアン固定液のpHの影響
補足3.脾臓
硬骨魚類には哺乳類の骨髄に相当する組織が無い ため、主要な造血部位は腎臓、特に、頭腎のリンパ 様組織であると考えられている1〜3)。それに対し、
脾臓は造血機能を有する一方、循環器系における主 な役割としては、赤血球の一時的な貯蔵所としての 機能であるとされている2)。さらに、隆島(1982)
は、魚類の脾臓では赤血球芽細胞、未熟赤血球、成 熟赤血球、リンパ球、単核球、マクロファージなど が密に存在しているとしている2)。ちなみに、魚類 の赤血球は、ほぼ楕円板状で有核である1、4)。
血球の形態観察では、ギムザ染色、メイ・グリュ ンワルド・ギムザ染色およびライト染色を施した塗 抹標本が汎用される5)が、今回、予備実験として、
比較のために血液塗抹標本にHE染色を施したとこ ろ、細胞質は強いエオシン好性のため濃赤色、核は ヘマトキシンにより青藍色に染色された。適正固定 時間で作製したパラフィン切片においても同様の色 調が得られるが、本研究で観察した長期保存試料で は、ヘマトキシリン染色性の低下が生じ、全ての血
球で赤色単色化が進行することによって細胞種の分 別が難しくなった。
脾臓内には表面を覆う漿膜に連なった結合組織が 嵌入(かんにゅう)しており2)、これらについては 改変ブアン液で従来液よりも良好な結果が得られ た。すなわち、従来液では血球と同様の色調で識別 しづらかったものが、結合組織や上皮細胞のエオシ ン染色性が抑えられたことで明瞭に識別できるよう になり、組織構造の把握が容易になった。この効果 はpH4液の方がpH3液よりも若干優れているよう であった。
脾臓全域に黄褐色の歪(いびつ)な球形の沈着物 が散在していた。これは老化した赤血球の崩壊過程 で生じるヘモジデリン(血鉄素)2)と考えられ、こ れらの色調や形態は、ブアン液の酸性度によって影 響されることはなかった。斉藤(1954)は、コイを 含む魚類9種で3つの造血器官(腎臓、脾臓、肝 臓)の鉄含量を比較し、その結果、魚種によって数 値は異なるものの、同一魚種では脾臓の鉄含量が共 通して最大であったと報告している6、7)。本実験に 補足図S2 体腎
a, d, g, j:従来液、b, e, h, k:pH3液、c, f, i, l:pH4液、a-c:光顕レベルの概観像、d-f:近位細尿管、g-i:遠位細尿管、j-l:糸球 体、矢じり:刷子縁、青矢じり:線毛と微絨毛、スケールバー=100µm(a-c)、10µm(d-l)
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おいても、ヘモジデリンは、これらの臓器のうち、
脾臓で最も高頻度に観察され、上記の結果を反映す るものと思われる。
また、本実験で作製された脾臓試料は、過固定に より、他の臓器に比して硬化の進行が早く、かなり 慎重な薄切操作が求められた。特に、スライドグラ スからの剥離が起こりやすく、このことが染色ムラ を頻発させたことから、さらなる技術改良が必要と 思われた。
補足資料・文献リスト
1.森友忠昭:魚類造血機構の解明.魚病研究,49
(3):85-92,2014.
2.隆島史夫:脾臓.日比谷京(編),魚類組織図 説(正常組織と病理組織),東京,講談社,
1982,pp. 64-65.
3.鈴木譲:生体防御.会田勝美(編),魚類生理 学 の 基 礎, 恒 星 社 厚 生 閣, 東 京,2002,pp.
128-154.
4.横手元義:血液.日比谷京(編),魚類組織図 説(正常組織と病理組織),東京,講談社,
1982,pp. 64-73.
5. 原 島 三 郎:Giemsa, May-Grünwald-Giemsaお よびWright染色法の歴史的考察.日本臨床細 胞学会雑誌,25(4):602-609,1986.
6.斎藤要:魚類血液の生化学的研究-Ⅳ(造血器 官及び血液の鉄含量と肉色に就て).日水誌, 20(3):202-205,1954.
7.斎藤要:魚類血液の生化学的研究-Ⅲ(血液及 び血漿比重と一般成分に就て).日水誌,20
(3):196-201,1954.
補足図S3 脾臓
a, d:従来液、b, e:pH3液、c, f:pH4液、a-c:光顕レベルの概観像、d-f:矢印が示す血管周囲の上皮組織、矢印:血管、矢じ り:脾臓内に含まれる膵臓外分泌部、青矢じり:ヘモジデリン、スケールバー=100µm(a-c)、50µm(d-f)