名古屋工業大学学術機関リポジトリ Nagoya Institute of Technology Repository
イオン伝導性ポリマーを用いた電気化学デバイスに 関する研究
著者 朝野 剛
学位名 博士(工学)
学位授与番号 13903乙第241号 学位授与年月日 2008‑03‑14
URL http://id.nii.ac.jp/1476/00002855/
博士論文
イオン伝導性ポリマーを用いた 電気化学デバイスに関する研究
2008 年
目次
第1章 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1 研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2 イオン伝導性ポリマーの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.3 エレクトロクロミック調光ガラスの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.4 色素増感太陽電池の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1.5 研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1.6 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第2章 新規対向電極を用いた固体電解質型エレクトロクロミック調光ガラス
の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2.2.1 素子作製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2.2.2 測定・評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2.3.1 着消色機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2.3.2 サイクリックボルタモグラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2.3.3 着消色応答性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.3.4 ΔODmax の被覆率依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.3.5 着色時間の温度依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 2.4 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2.5 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 第3章 新規紫外線吸収剤を用いたエレクトロクロミック調光ガラスの耐光性
改善検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 3.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
3.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
3.3.1 WO3 のフォトクロミック特性の紫外線波長依存性・・・・・・・・・・・・・33
3.3.2 紫外線カットフィルター装着 ECW の駆動耐光性試験・・・・・・・・・・・33
3.3.3 新規紫外線吸収層の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 3.4 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 3.5 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 第4章 低コスト ECW 用新規エレクトロクロミック材料の開発・・・・・・・・・・45 4.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 4.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 4.2.1 フェロセン結合型ビオロゲンの合成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 4.2.2 調光素子の作製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 4.2.3 測定・評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 4.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
4.3.1 ドナー-アクセプター型エレクトロクロミック材料の電気化学物性
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 4.3.2 ECW の光学、電気化学性能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 4.3.3 固体電解質の適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 4.3.4 ECW の耐光性評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 4.4 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 4.5 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 第5章 固体電解質型色素増感太陽電池の特性評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 5.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 5.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 5.2.1 素子作製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 5.2.2 測定・評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 5.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
-
5.4 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 5.5 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71 第6章 固体電解質型色素増感太陽電池のモデル化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 6.1 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 6.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 6.2.1 素子作製・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 6.2.2 測定・評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 6.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84 6.3.1 短絡電流の I3-拡散定数依存性のモデル化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84 6.3.2 イオン伝導性ポリマーに要求される拡散定数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 6.3.3 電流-電圧特性の等価回路解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 6.4 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90 6.5 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91 第7章 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97
著者発表の論文・特許・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104
第1章 緒言 1.1 研究の背景
経済(Economy)・エネルギー(Energy)・環境(Environment)の“3E”の三 つどもえ(トリレンマ)の問題は、21 世紀の重要な課題である。持続的に発展 可能な社会を築いて行くためには、これら“3E”の調和を図っていく必要があ る。こうした中で、省エネルギーや新エネルギーに関わる新技術の開発が切望 されている。
本研究では、従来、エネルギー関連分野では電池や電気二重層キャパシター などの用途に限られていたイオン伝導性ポリマー技術を用いた、新たなエネル ギー関連電気化学デバイス技術の開発を目指して、省エネルギーデバイスとし て、エレクトロクロミック調光ガラス、新エネルギー製造デバイスとして、色 素増感太陽電池の開発を行った。
1.2 イオン伝導性ポリマーの概要
イオン伝導性ポリマーは、固体状態でイオンを拡散できる機能性材料であり、
電気化学デバイスに適用することで、以下のような優れた特長を得ることがで きる。
①電解液の漏洩がなく,耐久性が向上する。
②デバイスの薄型化,大面積化が可能となる。
③デバイス破損時に電解液の飛散がなく,安全性が向上する。
イオン伝導性ポリマーには,以下の図に示すように、固体タイプとゲルタイ プの2種類がある1)。固体タイプは、基本的に溶媒を含まず、ポリマーと支持電 解塩から構成されており、イオンの解離、輸送はポリマーが担っている。それ に対して、ゲルタイプは、ゲル化剤として機能するポリマーマトリックス中に,
プロピレンカーボネート(PC)や γ-ブチロラクトン(GBL)のような高誘電率 溶媒に支持電解塩が溶解した液体電解質が含まれた構成となっている。この場 合は,固体形状を保持しているが,イオンの解離、輸送は液体電解質中で起こ る。そのため,ゲルタイプの方が固体タイプより高いイオン伝導度,つまりよ り大きいイオン拡散係数を持ち,優れたデバイス特性を示す。
固体タイプ= ポリマー + 電解塩
イオン伝導性ポリマー 【塩の解離と輸送】
ゲルタイプ= 溶媒 + 電解塩 + ポリマー
固体タイプは内部に溶媒を含んでいないため,究極のイオン伝導性ポリマー と見なすことができる。また学問的にも,ポリマー中でのイオン伝導機構に興 味が持たれており,多くの研究開発がなされているが,十分なイオン伝導度を 有する材料はまだ開発されていない。固体タイプのイオン伝導性ポリマーの研 究開発は,P.V.Wrightがポリエチレンオキサイド中をナトリウムイオンが伝導す ることを発見したことに端を発する 2)。図 1-1 に,リチウムイオンを例として,
そのイオン伝導機構を示す。ポリエチレンオキサイドの酸素原子がイオン解離 を行い,そのポリマー鎖運動によりイオンが移動する。つまりイオン伝導機構 は,WLF(Williams-Landel-Ferry)機構で表すことができる 3)。すでに述べたよ うに,溶媒成分がイオン解離・輸送を担っているゲルタイプとは,大きくイオ ン伝導機構が異なる。エチレンオキサイドユニットは,イオン解離・輸送機能 に最適であるため,イオン伝導性ポリマーの構成ユニットとして非常に良く活 用されている。
将来,固体タイプでゲルタイプと同等のイオン伝導度を有するポリマーが開 発されれば,電気化学デバイス分野で大きなブレークスルーが達成されると期 待できるが、現状では実際のデバイスには,内部に溶媒を含んでいることによ る欠点はあるものの,イオン伝導度が非常に高いゲルタイプが主に使用されて いる。
ゲルタイプは、使用されるゲル化剤の違いにより,高分子ゲル電解質と低分 子ゲル電解質に分類できる。さらに,高分子ゲル電解質は,架橋の種類により 化学架橋タイプと物理架橋タイプに分かれる。化学架橋とは,強固な共有結合 で架橋を形成するものであり,物理架橋とは,水素結合や疎水結合等の弱い結 合で架橋を形成するものである。
このようなイオン伝導性ポリマーは、これまで、電池やキャパシターといっ た比較的小型の電気化学素子への応用が主であった。それに対して、本論文で 研究対象としているエレクトロクロミック調光ガラスや色素増感太陽電池のよ うな大型で非常に長期に渡る耐久性を求められる電気化学素子では、このイオ ン伝導性ポリマーの適用は必須となる。
1.3 エレクトロクロミック調光ガラスの概要
エレクトロクロミック調光ガラス(ECW:Electrochromic Window)は、エレ クトロクロミズムと呼ばれる,電気を流すことで物質の酸化還元状態が変わり,
色が変化する現象を利用して、透過率を任意に調節できるガラスのことである
4), 5)。例えば,図1-2に示すように、夏場の日中に調光ガラスを着色させると,
太陽エネルギーの室内への流入を抑制でき,冷房負荷を低減することが可能と なる。米国エネルギー省(DOE)の試算によると,調光ガラスを有効に活用す
れば,米国での年間全消費エネルギーの5%を削減できるという報告もある6) ECWの一般的な構成は,以下の三種類の要素からなっており,エレクトロク
ロミック電極と対向電極の間に電解質が挟み込まれた構成になっている。
①エレクトロクロミック電極:電気により着色する電極
②対向電極:エレクトロクロミック電極と逆の電気化学反応を行う電極
③電解質:イオン媒体
このECWに電源を繋いで外部から電気を流すと,エレクトロクロミック電極 に電荷が流れ込むとともに電解質からイオンが注入されてその酸化状態が変化 するため,着色することになる。また逆向きに電気を流すと元の酸化状態に戻 り,透明になる。原理的には,充放電が可能な二次電池と全く同じである。エ レクトロクロミック電極としては各種金属酸化物が検討されているが,酸化タ ングステン(WO3)が最も有望な材料である 7)。WO3 は電気化学的に安定であ り,着消色の駆動寿命も非常に長い。WO3を用いたECWに使用される対向電極 としては,視覚的にほとんど透明で,電気化学的に安定な材料が要求される。
これまで種々の材料が検討されてきたが,充分な電気化学的安定性を有する対 向電極は見出されていなかった。また、建材用の窓ガラスとして使用するECW
は、通常の電気化学デバイスと異なり、建材として使用されるため、10 年以上 の長期に亘る耐久性が求められる。
1.4 色素増感太陽電池の概要
色素増感太陽電池(DSC:Dye-sensitized Solar Cell)は、Grätzelらにより開発 された電気化学反応を利用して太陽光を電気に変換できる新しいタイプの太陽 電池であり、低コスト太陽電池として非常に期待されている8)-10)。色素増感太陽 電池の一般的な構成は、図1-3に示すように、色素を吸着させたナノサイズ酸化 チタン(TiO2)電極と白金薄膜付きの対向電極およびその間に挟まれた電解質か らなる。このDSCの発電機構は、図1-4 に示すように以下の過程からなってい る。
① 光吸収したルテニウム色素から、TiO2伝導帯への電子注入
② 注入された電子のTiO2膜中の拡散と外部回路への取り出し
③ 光吸収により生成した色素酸化体のI-による還元
④ 色素酸化体とI-との反応で生成したI3-のPt対極への拡散とその還元によるI- の再生成
現在,世界中でその商品化に向け,耐久性改善と光電変換効率の向上を目指 した研究が,精力的に実施されている。このうち耐久性改善においては,一般 に使用される液体電解質の漏洩・飛散防止を目的とした,電解質の固体化に関 する検討が行われている 11)-20)。液体電解質中の電荷移動機構としては、図 1-5 に示すような、I-が直接移動する拡散機構が一般的に考えられている。ただ、ヨ ウ素イオン濃度が高い場合には、拡散機構と併せて電子(ホール)のホッピン
グによる Grotthus 機構によっても電荷移動が起こることが明らかにされている
21)。従って、DSC の固体化にはイオン伝導体だけでなく電子(ホール)伝導体 も使用可能である。実際、電子(ホール)伝導体として図1-6に示すような電子 伝導性ポリマーを用いた固体化が検討されているが、その変換効率は非常に低
い22), 23)。その原因として、ポリマー鎖のTiO2ナノ孔中への侵入が困難であるこ
分子ゲル電解質を色素増感太陽電池に適用した例としては,東芝・早瀬(現在,
九州工大)等の研究,シャープ・韓等の研究が注目されている24), 25)。また,低 分子ゲル電解質を用いて,阪大・柳田等が特性の良いセルの作製に成功してい る 26)。これらの研究では,いずれも擬固体化ゲル電解質の欠点であるイオン伝 導度の低下を最小限に抑えており,液体電解質並みの光電変換特性を得てはい るが、固体電解質の強度など耐久性も含めた改良の余地が多く残されている。
1.5 研究の目的
共に、大面積の電気化学デバイスであり、屋外で10年以上の長期に亘り使用 されるという共通点がある。従って、高い性能を維持しつつ、いかに長期耐久 性を確保するかが、これらのデバイス開発を行う上で重要となる。本研究では 以下の観点から、それぞれのデバイスの耐久性向上を目指した。
(エレクトロクロミック調光ガラス)
①電解質の固体化
②新規対極材料の検討
③新規紫外線吸収材料の開発
④新規発色材の検討
(色素増感太陽電池)
①電解質の固体化
②発電機構のモデル化による固体電解質系の性能低下要因把握
③シミュレーションによる太陽光吸収量増加時の電解質への要求条件明確化
本研究では、イオン伝導性ポリマーの適用を中心として、高い性能を維持し つつ、長期耐久性を確保することを目的として、以下の各章の概要に示すよう な検討を行った。
第 2 章では、エレクトロクロミック調光ガラスの耐久性向上を目的として、
高分子ゲル電解質を用いた電解液の固体化、および大容量活性炭電極の対向電
能とし、1m角調光ガラスの作製に成功した。
第 3 章では、WO3−活性炭電極系エレクトロクロミック調光ガラスの耐光性 改善を目的とし、WO3 膜のフォトクロミック特性の耐光性への影響を検討し、
400nm 以下の紫外線をほぼ完全に遮断することで、大幅に耐光性が改善される
ことを確認した。また、このような長波長までの紫外線遮断性能を長期に亘り 維持するために、ガラス基板表面ではなく、ガラス基板と透明導電膜の間に紫 外線吸収層を設けることを検討し、透明導電膜を成膜する高温、高真空のスパ ッタリング条件下でも長波長までの紫外線吸収性能を維持できる新規な紫外線 吸収材料を開発した。
第 4 章では、用途拡大・低コスト化のため、電解液に溶解できる、レドック ス型の発色材(ビオロゲン誘導体)の検討を行い、従来のビオロゲン誘導体と フェロセン誘導体が混合した系に比べ、ビオロゲン誘導体とフェロセン誘導体 をメチレン鎖で結合した新規なエレクトロクロミック材料を用いることで、大 幅に耐光性が改善されることを確認した。
第 5 章では、色素増感太陽電池の大型化に伴う電解質の漏洩などの課題解決 を目的とし、電解液の固体化検討を行い、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオ ロプロピレン(PVDF-HFP)共重合体をゲル化材とした物理架橋タイプのゲル電 解質を用い、使用する溶媒の種類や、ゲル化材含有量、電解質の厚みを制御す ることで、ほぼ液体電解質並みの性能を維持したまま、固体化が可能であるこ とを確認した。さらにはPVDF-HFP系PSEの耐熱性を向上させるため化学架橋
型PVDF-HFP系PSEの検討を行い、高い性能を維持したまま、架橋により高温
でも流動しないPSE系を確立することができた。
第 6 章では、固体化色素増感太陽電池の高性能化の指針を得るため、発電機 構のモデル化・シミュレーションを検討し、色素の吸収スペクトルから算出さ れる短絡電流の理論値を得るためには、電解質の拡散定数と厚みに一定の条件 が必要であることを見出した。また、液体電解質では問題にならないチタニア から色素への逆電子移動が固体電解質系では短絡電流の低下に寄与している可 能性があることを確認した。
1.6 参考文献
1) 河野通之,渡邉正義,表面,38, 253(2000).
2) P. V. Wright, Brit. Polym. J., 7, 319(1975).
3) M. L. Williams, R. E. Landel, J. D. Ferry, J. Am. Chem. Soc., 77, 3701(1955).
4) P. M. S. Monk, R. J. Mortimer and D. R. Rosseinsky, Electrochromism:
Fundamentals and Applications, VCH, Weinheim (1995).
5) C. G. Granqvist, Handbook of Inorganic Electrochromic Materials, Elsevir, Amsterdam, (1995).
6) C. M. Lampert, Solar. Energy Mater., 11, 1(1984).
7) S. K. Deb, Appl. Opt. Suppl. 3, 192 (1969).
8) B. O'Regan, M. Grätzel, Nature, 353, 737(1991).
9) A. Hagfeldt, M. Grätzel, Acc. Chem. Res., 33, 269(2000).
10) 荒川裕則監修,色素増感太陽電池の最新技術,シーエムシー (2001).
11) W. Kubo, K. Murakoshi, T. Kitamura, Y. Wada, K. Hanabusa, H. Shirai, S. Yanagida, Chem. Lett., 1241(1998).
12) M. Matsumoto, Y. Wada, T. Kitamura, K. Shigaki, T. Inoue, M. Ikeda, S. Yanagida, Bull, Chem. Soc. Jpn., 74, 387(2001).
13) C. Longo, A. F. Nogueira, M-A. De Paoli, H. Cachet, J. Phys. Chem. B, 106, 5925(2002).
14) P. Wang, S. M. Zakeeruddin, I. Exnar, M. Grätzel, J. Chem. Soc., Chem. Comm., 2972 (2002).
15) S. Mikoshiba, S. Murai, H. Sumino, S. Hayase, Chem. Lett., 918(2002) 16) W. Kubo, Y. Makimoto, T. Kitamura, Y. Wada, S. Yanagida, Chem. Lett.,
948(2002)
17) M. Kaneko, T. Hoshi, Chem. Lett., 872(2003)
18) T. Asano, T. Kubo, Y. Nishikitani, J. Photochem. Photobiol. A: Chem., 164, 111(2004).
19) S. Sakaguchi, H. Ueki, T. Kato, T. Kado, R. Shiratuchi, W. Takashima, K. Kaneto, S. Hayase, J. Photochem. Photobiol. A: Chem., 164, 117(2004).
21) W. Kubo, K. Murakoshi, T. Kitamura, S. Yoshida, M. Haruki, K. Hanabusa, H. Shirai, Y. Wada, and S. Yanagida, J. Phys. Chem.B, 105, 12809 (2001).
22) K. Murakoshi, R. Kogure, Y. Wada, and S.Yanagida, Chem. Lett., 471 (1997).
23) D. Gebeyehu, C. J. Brabec, F. Padinger, T. Fromherz, S. Spiekermann,
N. Vlachopoulos, F. Kienberger, H. Schindler, and N. S. Sariciftci, Synth. Metals, 121, 1549 (2001).
24) S. Mikoshiba, H. Sumino, M. Yonetsu, S. Hayase, Preprint of 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exibition, Glasgow(2000).
25) L. Han, R. Komiya, R. Yamanaka, T. Mitate, 14th International Conference on Photochemical Conversion and Storage of Solar Energy, W1-O-5, Sapporo, Japan(2002).
26) W. Kubo, K. Murakoshi, T. Kitamura, Y. Wada, K. Hanabusa, H. Shirai, S. Yanagida, Chem. Lett., 1241(1998).
O O
O O O O
O O
O O
O O
Li+
O O
O O O O
O O
O O O O
O O
O O
O O
O O
O O
O O
Li+ Li+
O O
O O O
O
O O
O O
O O Li+
O O
O O O
O
O O
O O
O O Li+
Li+ Li+
O O
O O
O O
O O O O
O O
Li+ O O
O O
O O
O O O O
O O
t0 t1 t2
Electric field and/or concentration gradient of Li+
Fig.1-1 Mechanism of Li+ diffusion in poly(ethylene oxide).
Sun
100%
70% 30%
(Indoor) (Outdoor)
ECW
10%
90%
Normal Glass
Fig.1-2 Energy saving effect of ECW.
Ruthenium dye
Pt-coated counter electrode I3−
I−
N N
N Ru
NCS NCS CO2H
HO2C
HO2C
CO2H N
= Nanostructured
TiO2electrode
Liquid electrolyte(LE)
Fig.1-3 Schematic cross-section of DSC.
SnO2 TiO2 Ru dye Electrolyte Pt
LUMO
HOMO
−
I−/I3−
−
Diffusion mechanism
Grotthus mechanism Grotthus mechanism
Dye
+ Dye
+
+
I−
I− I−
I3− I3− e−
Ion diffusion
Dye
+ Dye
+
+
I3− I3− I−
I−
e− I5− II33−− II−−
Electron hopping
Electron transfer Hole transfer
Fig.1-5 Mechanism of charge transfer in electrolyte.
NH n
S n
S O O
n
PPy PEDOT
POT
N N O n
P-TPD
TTA-AA
N CH3
CH CH3
n
Fig.1-6 Chemical structure of electrically conducting polymers used for solid-state
DSC.
第2章 新規対向電極を用いた固体電解質型エレクトロクロミック調光ガラス の開発
2.1 序論
第1章で述べたように、一般的なECWはエレクトロクロミック電極と対向電 極の間に電解質が挟み込まれた構成になっている。例えば、エレクトロクロミ ック電極として酸化タングステン(WO3)薄膜付き電極を用いた場合には、ECW に電圧を印加するとエレクトロクロミック電極の酸化タングステンに電子が注 入され還元反応が起こり,着色すると共に、対極では電荷バランスを保つため に正孔が蓄電される。また,イオン伝導層中の電解塩(MA)はカチオン(M+) とアニオン(A-)に解離しており,それぞれエレクトロクロミック層と対極へ 移動し,電気的中性条件を満足する。印加電圧の極性を反転すると逆反応が進 行し,元の状態となる。このような色変化が可逆的に進行することで,ECWが 動作することになる。
エレクトロクロミック電極としては上述したWO3が電気化学的安定性に優れ、
着消色の繰り返し安定性が高いことから最も有望な材料である1), 2)。それに対し て、対向電極は、エレクトロクロミック層と相補的にイオンを蓄えることので きる材料が必要とされ、これまで種々の材料が検討されてきたが,充分な電気 化学的安定性を有する対向電極は見出されていないのが現状である。例えば,
還元反応により着色するWO3に対して,酸化により着色するエレクトロクロミ ック材料として、プルシアンブルー3)-5)、ポリアニリン 6), 7)、酸化ニッケル 8)-14) などが検討されているが、WO3 並みの電気化学安定性を有する材料が見つかっ ていない。
また、建材用の窓ガラスとして使用するECWは大面積であるため,液体電解 質を使用するとその自重(静圧)でガラス下部が歪んでしまう。また,破損時 の液漏れによる安全性の問題もある。そのため液体電解質は使用できず,固体 状のイオン伝導性ポリマーを使用する必要がある。
本章では、WO3 の対向電極として、電気化学反応を伴わず、正孔を蓄電する
2.2 実験 2.2.1 素子作製
2.2.1.1 WO3 薄膜付き電極の作製
5×5cmサイズのITO基板(10Ω/sq)上に、厚み550nmのWO3薄膜を、タング ステンターゲットを用いた反応性DCマグネトロンスパッタリングにて、以下の 条件で成膜した。
全圧:3Pa
導入ガス:アルゴン/酸素=1/3 放電出力密度:1.2W/cm2
2.2.1.2 活性炭電極の作製
比表面積2000m2/gの活性炭粉末と熱硬化性樹脂からなる活性炭ペーストを用 いて、ITO基板上にスクリーン印刷法にて均一なドット形状で被覆率が異なる5 種類(被覆率 11、17、23、29、35%)の活性炭電極を形成した。その後、基板
を180℃で熱処理を実施した。更なる詳細は特許を参照15)。
2.2.1.3 調光素子および電気二重層キャパシターの作製
図2-1に示すように、上記で作製したWO3薄膜付き電極と活性炭電極の間に、
γ-ブチロラクトン(GBL)、LiClO4、架橋ポリオキシエチレンメタクリレートか らなるゲル電解質を配置し、周辺をシールして、調光素子(ECW)を作製した。
また、同じ被覆率の活性炭電極 2 枚の間に、同様のゲル電解質を配置し、周辺 をシールして、電気二重層キャパシター(EDLC)を作製した。
2.2.2 測定・評価
2.2.2.1 サイクリックボルタモグラム測定
ポテンショスタット(EG&G、PARC273)を用い、活性炭電極側を参照電極 兼対極として、ECW の両極に-1.5 から+1.0V の電圧範囲で、20mV/s の速度で ECWに電圧掃引して測定した。
以下の式から光学密度変化(ΔOD)を求めた。
ΔOD=-log(Tc/Tb)
ここで、Tc、Tbはそれぞれ着色時、消色時の透過率を表す。
また、光学密度変化の最大値(ΔODmax)は、ΔODが飽和するまで電圧を印加し 続けることで測定した。
2.2.2.3 温度依存性評価
恒温槽内に設置したECW に活性炭電極側を参照電極兼対極として-1.5Vの電 圧を印加してΔODが 0.7まで着色し、その後、+1.0Vの電圧を印加して初期状 態まで消色するという測定を-20℃から80℃の温度範囲で実施した。また、EDLC に関しても同様に、恒温槽内に設置して、-20℃から80℃の温度範囲で測定を実 施した。
2.2.2.4 等価回路解析による容量、抵抗の算出
ECWやEDLCの電気化学応答性は抵抗、容量、電源からなる図2-2に示すよ うな等価回路でそれぞれ表すことができる16), 17)。
ECW、EDLCの容量CECW、CEDLCはそれぞれ下式で与えられる。
carbon WO
carbon WO
ECW C C
C C C
3 3
+
= × (2-1)
2
CEDLC = Ccarbon (2-2)
ここで、CWO3とCcarbonはそれぞれ、WO3電極および活性炭電極の容量である。
各温度でのECWの容量(CECW)と抵抗(RECW)は、光学密度変化(ΔOD)の 測定結果から、下式を用いてシミュレーションを行うことで算出した。
[ ]
S
) /
exp(
1 V
CECW a t RECWCECW
OD − −
=−η
(t)
Δ (2-3)
印加して充電した後、1mA(i0)の定電流で放電を行い、得られた充放電曲線か ら下式により算出した。
) / ( 2
CCarbon = i0 Δt ΔV 、RCarbon =ΔV0/i0 (2-4)
ここで、i0は放電電流、ΔV0は放電初期の電圧降下、ΔV/Δtは放電曲線の傾きを 表す。
2.3 結果と考察 2.3.1 着消色機構
図2-3に,今回作製したECWの構成と,外部電圧を印加した時の着消色過程 を示す。この着消色機構は,下記の反応式で表すことができる。
エレクトロクロミック電極
WO3(透明)+xLi++xe- ⇔ LixWO(青色) (3 2-5) 対向電極
C+ClO4- ⇔ C+…ClO4-+e- (2-6)
ここで,Cは活性炭電極を,C+…ClO4- は電気二重層を表す。なお電気二重層 とは,組成の異なる 2 層の接触界面(この場合は,活性炭電極とイオン伝導性 ポリマー)でそれぞれの層に余分の電荷が存在し,全体としては電気的に中性 な状態を意味する。この ECW に電圧を印加すると,WO3に ITOから電子が,
イオン伝導性ポリマーからリチウムイオンが挿入(インターカレーション)さ れる。つまり,タングステン原子が 6 価から部分的に 5 価に変化して着色サイ トであるW6+−W5+種(混合原子価状態)が生成するため,色調が透明から青色 に変化する。一方対向電極では,電気二重層によるプラス電荷の蓄積が起こる。
つづいて逆電圧を印加すると,全てのタングステン原子が 6 価の状態に戻り,
色調が青色から透明になるとともに活性炭電極に蓄えられたプラス電荷は放出 される。この過程は,外部電源の向きを変えることにより何度も繰り返すこと ができる。対向電極での電荷の蓄積,放出機構は,電気二重層キャパシターと 全く同じであり,イオンのインターカレーションは起こっていない。またこの ECWは,外部電源を取り外して開回路にしてもそのままの着色状態で留まって おり,メモリー性を有している。そのため,駆動のための消費エネルギーが少 なく,省エネルギーの観点から大きな特徴となっている。
は、電気化学反応は全く起こっておらず、単なるイオンの受け皿として、活性 炭電極とPSE界面で電気二重層を形成しているだけであることが分かる。
2.3.3 着消色応答性
図 2-5 には,ECW を-1.5V で着色,1.0V で消色を行った時の光学密度変化
(ΔOD)の値を示す。この図より,着色には 150秒(ΔODが1.0になる時間), 消色には5秒を要することが分かる。消色時間が着色時間に比較して非常に短 い理由として,着色過程で発生した起電力が消色過程においてはリチウムイオ ンのWO3からのデインターカレーションを加速する方向に働くことが考えられ
ている19-21)。また,着色過程で起こるリチウムイオンのWO3へのインターカレ
ーションの方が,消色過程でのデインターカレーションに比較して活性化エネ ルギーが大きいことも理由として挙げられる22)。なお本報告では,ΔODの飽和 値をΔODmaxと定義している。この図の場合は,ΔODが1.0になるとほとんど変 化しなくなるため,それがΔODmaxに対応する。
ところで ECW は,これまで述べてきたように電流駆動型のデバイスである。
そのため応答速度は,デバイスの全体の抵抗で決まるようになる。特に大型の ECWでは,透明導電膜の抵抗が支配的となり,それで応答速度が決まるためか なり遅くなる。ちなみに我々の作製した1m角ECWの写真を図2-6に示したが、
この場合の応答速度は約15分であった。
2.3.4 ΔODmaxの被覆率依存性
ECWを建材用の窓ガラスに使用する場合は,十分な透明性を要求される。活 性炭電極を対向電極としたECWでは,活性炭が光を完全に遮断するため,ある 程度被覆率(透明電極に対する活性炭ドットの占有率)を下げる必要がある。
ただ被覆率を小さくすると,活性炭電極の容量(Ccarbon)が低下し,ECW とし て十分な着色性能を得られない可能性がある。そこで,活性炭電極の容量とECW のΔODmaxの被覆率依存性を測定した。その結果を図2-7,2-8に示す。図2-7よ り,被覆率が増すに従って,活性炭電極の容量が直線的に増加することが分か る。またこの直線は,原点を通る直線となる。これは,透明電極として使用し
あることが分かる。
Ccarbon=2.9y(yは活性炭ドットの被覆率(%)) (2-7)
図 2-8 には,ECW の ΔODmaxが活性炭電極の被覆率にどのように依存するかを 示す。被覆率が増すに従って ΔODmaxが大きくなっており,ECW が良く着色す ることが分かる。このΔODmaxは図のような等価回路を想定し、上記関係を用い ると、被覆率との関係は式(2-2)のように表すことができる。
S V 2.9y C
9 . 2 η C
S V C
C
C η C
S ηQ
ΔOD a
WO a WO
carbon WO
carbon WO
max
3 3
3 3
+
− ⋅ + =
− ⋅
=
−
= y
(2-8)
ここで,QはWO3に注入された電荷量,SはECWの面積,ηは着色効率(WO3
単位面積に注入された電荷量当たりのΔODの変化量),Vaは印加電圧(=1.5V)
である。
この式を用いて、図2-8の結果のカーブフィティングを行った結果を図中の実 線で示した。これによりηは46.2cm2/C ,CWO3は38mF/cm2と算出された。着 色効率は成膜条件や方法により変わることが知られているが23), 24)、今回得られ た値は、典型的な値であり、妥当であると考える。また、WO3 の容量に関して は、その報告値が 10〜100mF/cm2と大きく幅があるが 17)、今回得られた値はこ の範囲内には入っている。
ところでこの ECW は,被覆率が約 10%でも十分な着色度を得ることができ る。これは,ITO上に作製された活性炭ドットの容量が非常に大きいことに対応 している。
2.3.5 着色時間の温度依存性
ECWの着色時間の温度依存性は,基礎的物性として非常に重要である。特に 低温での着色応答性の低下は,商品として大きい問題となる。図2-9には,ECW
導度が低下するためであると考えられる。
図2-10には、ECWおよびEDLCの抵抗成分の温度依存性を示す。絶対値は違 うものの、温度依存性の傾向はどちらも同じである。これは、20℃での値を元 にノーマライズするとより明確になる。ECWとEDLCに共通しているのは活性 炭電極と高分子ゲル電解質であるが、活性炭電極の電子伝導性はこの温度範囲 ではほとんど変化しない。したがってECWおよびEDLCの抵抗成分の温度依存 性は主に高分子ゲル電解質のイオン伝導度の温度依存性によっていることが分 かる。図2-11には,活性炭電極とWO3の容量の温度依存性を示す。温度の上昇 とともにWO3の容量は増大するが,活性炭電極の容量はほとんど変化しないこ とが分かる。この結果は,活性炭を電極としたキャパシターの容量は,温度変 化の影響をほとんど受けないという報告と一致している25), 26)。
ところで,WO3の着色過程は図2-12に示すような以下のステップで説明でき る27)。
ステップ1:イオン伝導性ポリマー中のリチウムイオンのWO3/イオン伝導性ポ リマー界面への拡散.
ステップ2:リチウムイオンへのWO3からの電子移動による中間種 (Li+, e-) の形成
ステップ3:中間種 (Li+, e-)のWO3/イオン伝導性ポリマー界面からの WO3 膜中への拡散
ステップ4:(Li+, e-) と W6+ との間の電荷移動による着色サイト W6+−W5+ 種の形成
このうち,ステップ3とステップ4が律速過程と考えられているが,ステッ プ3は抵抗に対応するものである。つまり,ステップ4のポテンシャル障壁に 対応する電荷移動の温度依存性が,WO3 の容量の温度依存性を表していると推 定できる。
2.4 総括
ECWの構成要素の中で、エレクトロクロミック電極としては電気化学安定 性に優れたWO3が最も有望な材料として存在している。それに対して対向電極 は、種々の材料が検討されているが、WO3 の性能を十分引き出すことのできる ものは見出されていないのが現状である。また、電解液に関しては、実際の建 材として使用するためには、固体化を行う必要がある。
そこで、本章では、WO3 の対向電極として、電気化学反応を伴わず、正孔を 蓄電するために、電気二重層キャパシター材料として利用されている活性炭電 極の適用検討を行った。また、大型調光ガラス作製を目的として、液体電解質 の代わりにイオン伝導性ポリマーの適用検討を行った。
活性炭の電気二重層を利用した対向電極を用いることで、低電圧で高い着色 性能を得ることができ、また電気化学反応を伴わないことから、着消色駆動特 性が良好で耐久性が高いECWを作製することが可能になった。さらには、イオ ン伝導性ポリマーと組み合わせることで、建材用として利用できる1m角サイズ のECWの試作、駆動にも成功した。但し、活性炭を用いた対向電極は、完全な 透明体にすることは不可能であるという欠点もある。しかしながら、電極作製 にはスクリーン印刷法を用いているため,製法が容易であり自由なパターンの 活性炭電極を作製することができる。使用する用途やユーザーの好みに合わせ て,様々な形状の活性炭電極を作製することで、これらの問題を解決すること ができると考えている。