K 0 2 1 2 報 告 5 6 8
「伝統と文化」を大切にし,
地域で学ぶ強みを生かす子どもの育成(1年次)
-京都に根ざす「伝統と文化」を体感し,関心を深める学習プログラムの提示-
今井 大介(京都市総合教育センター研究課 研究員)
いま,グローバル化が急速に進展してきている。そのような中,国際社 会の一員として生きる日本人としての自覚とともに,郷土や我が国の「伝 統と文化」を大切にする心をもつことがますます重要になってきている。
これを受け,本市「学校教育の重点」においては「伝統と文化を受け継 ぎ,次代と自らの未来を切り拓く子ども」という子ども像が示されており,
「伝統と文化」を重視した教育活動を推進することが求められている。
そこで,本研究では,「京都に根ざす『伝統と文化』を体感し,関心を深 めること」に焦点を当て,第3学年の国語科及び道徳,第6学年の社会科 及び道徳の実践授業を通して,「伝統と文化」を大切にする教育活動の充 実を図った。
その結果,地域素材を教育課程に効果的に位置付けることで,過去と現 在のつながりを感じたり,地域のよさに気付いたりするなど,地域で学ぶ 強みを生かそうとする子どもたちの姿が見られた。
目 次
はじめに ···
1第1章 「伝統と文化」を大切にする教育 とは
第1節 いま,なぜ「伝統と文化」を大切に する教育が求められるのか
(1)国際社会を生きる日本人としての自覚 ··· 1
(2)教育基本法と学習指導要領から見る 動向 ··· 2
第2節 「伝統と文化」に関する教育活動の
現状
(1)全国の小学校での取組 ··· 4
(2)京都市内の小学校での取組 ··· 6
第2章 「伝統と文化」を大切にする授業 づくり
第1節 京都に根ざす「伝統と文化」を体感し,
関心を深める授業づくりに向けて
(1)体感することで付けたい力や態度 ···· 8
(2)「伝統と文化」に係る学習内容 ··· 9
第2節 本市指導計画への位置付け ··· 11
第3章 「伝統と文化」を大切にする教育 実践
第1節 第3学年「道徳」‐京都や地域の よさを感じ取るようにする取組‐
··· 14
第2節 第3学年「国語科」‐京都や地域の
素材を生かす取組‐ ··· 15
第3節 第6学年「社会科」‐文化を点 ではなく線でとらえる取組‐ ···· 21
第4節 第6学年「道徳」‐京都の「伝統と 文化」を大切にする心を育む取組‐
··· 25
第4章 地域で学ぶ強みを生かす子どもの 育成のために
第1節 研究の成果と課題 ···
27第2節 いま,目の前にある素材を生かす
···
30おわりに ···
30<研 究 担 当> 今井 大介 (京都市総合教育センター研究課研究員)
<研究協力校> 京都市立室町小学校 京都市立朱雀第六小学校
<研究協力員> 坂本 亜樹 (京都市立室町小学校教諭)
廣瀬 淳一 (京都市立朱雀第六小学校教諭)
はじめに
「伝統と文化」という言葉を聞いたとき,どの ような印象をもつであろう。筆者は,「何だか堅苦 しいこと」「特定の人が行っている特別なこと」「古 くからのしきたり」といった印象を抱いた。
「伝統と文化」に関わる事柄を例示すると,正 座や座礼の仕方・ふすまの開け閉めなどの和室で の振舞を中心とした礼儀作法,食事の作法や箸の 使い方・お寿司・おせち料理・和菓子など日本の 伝統食を挙げることができる。また,百人一首・
折り紙・羽根つき・こま回し・おはじきなどの伝 承遊び,七夕・七五三・正月・ひな祭りなどの伝 統行事,漢字・ひらがな・書道・敬語の使い方,
風呂敷の使い方,和太鼓,昔話,日本の歴史,寺 社仏閣,着物,茶道,華道,武道など,数多くの ものを思い付く。
では,我々が住む京都の「伝統と文化」につい てはどうだろう。筆者が思い浮かべるものは,葵 祭,大文字の送り火,京野菜,京菓子,金閣・銀 閣などである。筆者は三十数年間京都で育ち,京 都で過ごしてきている。しかし,これらについて 説明を求められると,曖昧に答えてしまう自分が いる。京都では,1,200年を超える歴史の中で,様々 な文化が発展し,今もなお,数多く存在している。
それにも関わらず,京都の「伝統と文化」のよさや 価値について,どの程度の人が自信をもって語るこ とができるだろうか。
今回,筆者は,京都市総合教育センター研究課 の研究員として伝統文化教育について研究する機 会をいただいた。その際,ある本に書かれていた 言葉を思い出した。それは,サッカー日本代表監 督を務めたイビチャ・オシムの「私は日本の生活 を代表する多くのものを見てきたが,それらは常 に優雅であり美しく,その多くは他の国と全く異 なるように感じた。もちろん,これだけのことで 私がすべてを学んだと言うつもりは毛頭ない。な ぜなら,ここ日本で長く生活する日本人でさえも,
まだ自分で自分を分かっていないと私は思うから だ」(1)という言葉である。この言葉を借りると「京 都で長く生活している者でさえも,京都の『伝統 と文化』についてわかっていない」と言い換える ことができる。
本市「平成25年度学校教育の重点」においては
「伝統と文化を受け継ぎ,次代と自らの未来を切 り拓く子ども」という目指す子ども像が示されて おり,「伝統と文化」を重視した学校教育を推進す
ることが求められている。「伝統と文化」を重視し た学校教育を具現化するためには,様々な教科等 で取り組んでいくことが考えられるが,本研究で は,国語科・社会科・道徳に視点を当てた取組を 進める。京都に根ざす「伝統と文化」に関する教 材を国語科・社会科・道徳の学習活動に位置付け ることで,子どもたちが京都や地域には素敵な「伝 統と文化」が数多くあることに気付いたり,それら を大切にしようとしたりする気持ちをもつことが できると考える。
一人でも多くの子どもが京都の「伝統と文化」
について学び得たことやそのよさを実感し,それ らについて語ることができるよう,取組を検証し,
考察した上で小学校における伝統文化教育の学習 プログラムを提示する。
(1) イビチャ・オシム『日本人よ!』 新潮社 2007.6 p.16
第1章 「伝統と文化」を大切にする教育とは
第1節 いま,なぜ「伝統と文化」を大切にする 教育が求められるのか
(1)国際社会を生きる日本人としての自覚
いま,日本社会・日本人の意識は転換期にある。グローバル化,日常生活のニーズの変化,IT技術 の発達などは,アイディアや知識,人材をめぐる 国際競争を加速させる一方で,異なる文化や文明 との共存や国際協力の必要性を増大させている。
また,日本人が外国に出かけ,異なる文化にふれ る機会や,日本を離れて国際社会の中で暮らした り働いたりすることが増えてきている。ヨーロッ パで活躍するサッカー選手が,度々話題にしてい るように「個」の力を,国際舞台で通用できるよ うにすることも求められている。このように,国 際社会に出ていけば出ていくほど,自らを日本人 として意識する機会が増え,日本の存在について 無関心でいることはできないであろう。更に,国 際社会の中で我が国のよさを広めようとしたり,
地位を高めようと努力したりする機会も増えてく る。これからの時代には,国際社会の一員として 生きる日本人としての自覚とともに,郷土や我が 国の「伝統と文化」を大切にする心をもつことが ますます重要になる。そして,日本が世界で認め られる国家であり続けるためには,日本人がもつ 能力の向上を図り,国際社会に通用する優れた人 材を育成していくことが必要である。
このことに関わって,中央教育審議会答申「新し い時代にふさわしい教育基本法と教育振興計画の 在り方について」では,新たに規定する理念として,
次のようなものが挙げられた。
これは,教育活動を通して,日本人としてのア イデンティティ(「伝統と文化」を尊重し,郷土や 我が国を愛する心)と,国際性(国際社会の一員 としての意識)をもった日本人の育成を目指すこ とを示しているのである。
安野は,「伝統と文化」を大切にする教育が求 められている視点として,特に重要であることを 以下のように挙げている。
安野の言葉の中に不易とあるが,筆者も我が国 において古来より続いてきた「伝統と文化」には 普遍的価値があると考える。子どもの頃,父母の 実家に行くと,祖父母が子守唄を唄ってくれたり,
昔話を話してくれたりしたことを思い出す。いま,
親となった私自身も,子どもの頃の様子や昔話を 子どもに聞かせることがある。
また,だれかに何かを話したり,伝えたりする とき,私たちは言葉を用いて思考し,思考した結 果を言葉で表現している。日本人であれば我が国 の言語は全ての思考及び情緒の基盤となっている。
それを通じて郷土や我が国の四季や情緒などを感 じている。我が国の言語も急に生まれたわけでな く,昔からの素晴らしい「伝統と文化」として私 たちの生活に根付いてきたものであり,これから も大切にしていきたいものである。
グローバル化が進み,社会が激しく変化する中,
教育活動を通して,国際社会で生かすことのでき る力を育成することが求められており,その基盤 として,郷土や我が国の「伝統と文化」を正しく 理解し,大切にすることが重要だと考える。
次項では,義務教育,特に,小学校における「伝 統と文化」を大切にする教育のねらいを明らかに していく。
(2)教育基本法と学習指導要領から見る動向
「伝統と文化」を大切にする教育が目指すもの は何か。その手掛かりを,教育基本法及び学校教 育法,学習指導要領の記述から探る。表1-1は,教 育基本法の記述である。
表1-1 教育基本法にみられる「伝統と文化」に関する記述
(一部抜粋) (4) 新教育基本法
前文
我々日本国民は,たゆまぬ努力によって築いてき た民主的で文化的な国家を更に発展させるととも に,世界の平和と人類の福祉の向上に貢献すること を願うものである。
我々は,この理想を実現するため,個人の尊厳を 重んじ,真理と正義を希求し,公共の精神を尊び,
豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期す るとともに,伝統を継承し,新しい文化の創造を目 指す教育を推進する。
ここに我々は,日本国憲法の精神にのっとり,我 が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し,その振 興を図るため,この法律を制定する。
第二条(教育の目標)
教育は,その目的を実現するため,学問の自由を 尊重しつつ,次に掲げる目標を達成するよう行われ るものとする。
(一~四 略)
五 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんでき た我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重 し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養 うこと。
また,学校教育法には,この教育に関わって,
次のような記述がある。
教育基本法及び学校教育法の記述からは,教育 基本法の下で実施する義務教育では,我が国や郷 土の「伝統と文化」を大切にする子どもを育成す るといった理念を読み取ることができる。
第二十一条
三 我が国と郷土の現状と歴史について,正しい理解に 導き,伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた 我が国と郷土を愛する態度を養うとともに,進んで外 国の文化の理解を通じて,他国を尊重し,国際社会の 平和と発展に寄与する態度を養うこと。 (5) 日本の伝統・文化の尊重,郷土や国を愛する心と国際
社会の一員としての意識の涵養 (2)
◇「不易」への対応の視点
伝統や文化を大切にする心については,次代に伝 えていくべき価値あることであり,21世紀の教育に おいても大切にはぐくんでいかなければならない。
◇「変化」への対応の視点
グローバル化が進展する中で,民族,宗教,文化 の違いに根ざした様々な問題が顕在化し,国家間の 友好関係を強化し信頼を醸成していく国際協調の必 要性も増大している。このため,民族,宗教,文化 の多様性を再認識し,異なる文化を理解し,尊重する 精神を涵養すること,地域社会の中で他国の人々と 共生していくことの重要性も高まっている。このこ とは同時に,自らのアイデンティティをいかにしっ かりもつかという課題が課せられているということ でもある。 (3)
「伝統と文化」を大切にする教育が目指すもの は,郷土や我が国に,前の世代から伝わる古きよ き文化があることを理解し,それについて自分が 感じ得たものを大切にし,次の世代へ引き継いで いこうとする態度を養うことと考える。
一方,現行の小学校学習指導要領は,平成20年 3月に改訂され,平成23年度から全面実施となっ た。表1-2は,「伝統と文化」について,総則や各 教科等の小学校学習指導要領解説に記述されてい る教育内容を,一部抜粋したものである。
「小学校学習指導要領における『伝統と文化』に関する内容の記述」総則と関わって(小学校学習指導要領解説より一部抜粋)
総則
◇道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を 家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち, 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんで きた我が国の郷土を愛し,個性豊かな文化の創造を図るとともに公共の精神を尊び,民主的な社会及び国家の発展に努め,
他国を尊重し,国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため,その基盤とし ての道徳性を養うことを目標とする。(第1 教育課程編成の一般方針)
「小学校学習指導要領における『伝統と文化』に関する内容の記述」各教科等と関わって(小学校学習指導要領解説より一部抜粋)
国語科
◇伝統的な言語文化に関する事項
昔話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合ったりすること。(第1・2学年)/易しい文語調の短 歌や俳句について,情景を思い浮かべたり,リズムを感じ取ったりしながら音読や暗唱をしたりすること。(第3・4学年)/長い 間使われてきたことわざや慣用句,故事成語などの意味を知り,使うこと。(第3・4学年)/親しみやすい古文や漢文,近 代以降の文語調の文章について,内容の大体を知り,音読すること。(第5・6学年)/古典について解説した文章を読み,昔 の人のものの見方や感じ方を知ること。(第5・6学年)
◇伝統的な言語文化に関する指導については,各学年で行い,古典に親しめるよう配慮すること。
◇教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。
我が国の伝統と文化に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。
社会科
◇県(都,道,府)内の特色ある地域の人々の生活
伝統や文化などの地域の資源を保護・活用している地域,伝統的な工業などの地場産業の盛んな地域。
◇我が国や諸外国には国旗があることを理解させ,それを尊重する態度を育てるように配慮すること。(第3・4学年,第5学年)
◇我が国の歴史
神話・伝承/日本風の文化が起こったこと/室町文化が生まれたこと/町人の文化が栄え新しい学問が起こったこと/欧米 の文化を取り入れつつ近代化が進められたこと/科学の発展(第6学年)
◇歴史学習全体を通して,我が国は長い歴史をもち伝統や文化をはぐくんできたことに気付くようにすること。(第6学年)
◇国宝,重要文化財に指定されているものや,そのうち世界文化遺産に登録されているものなどを取り上げ,我が国の代表的 な文化遺産を通して学習できるように配慮すること。(第6学年)
◇我が国の国旗と国歌の意義を理解させ,これを尊重する態度を育てるとともに,諸外国の国旗と国歌も同様に尊重する態度 を育てるよう配慮すること。
算数科
◇数と計算
・そろばんによる数の表し方について知り,そろばんを用いて簡単な加法及び減法の計算ができるようにする。(第3学年)
・そろばんを用いて,加法及び減法の計算ができるようにする。(第4学年)
音楽科
◇鑑賞教材
我が国及び諸外国のわらべうたやあそびうた(第1・2学年)/和楽器の音楽を含めた我が国の音楽,郷土の音楽(第3・
4学年)/和楽器の音楽を含めた我が国の音楽や諸外国の音楽など文化とのかかわりを感じ取りやすい音楽(第5・6学年)
◇国歌「君が代」は,いずれの学年においても歌えるよう指導すること。
◇各学年で取り上げる打楽器は,木琴,鉄琴,和楽器,諸外国に伝わる様々な楽器を含めて,演奏の効果,学校や児童の実態を考 慮して選択すること。
図画工作科
◇自分たちの作品や身近な美術作品や製作の過程などを鑑賞して,よさや面白さを感じ取ること。
伝統的な玩具(第3・4学年)
◇自分たちの作品,我が国や諸外国の親しみのある美術作品,暮らしの中の作品などを鑑賞して,よさや美しさを感じ取ること。(第 5・6学年)
家庭科
◇米飯やみそ汁が我が国の伝統的な日常食であることにも触れること。
「配膳」については,食器の位置に配慮し,例えば,米飯及びみそ汁,はしなどを配膳する際には,我が国の伝統的な配膳 の仕方があることが分かるようにする。
体育科
◇体つくり運動
伝承遊びや集団による運動遊びを行うこと。
◇表現運動
伝承されてきた日本の地域の踊りや外国の踊りから,踊り方の特徴をとらえ,基本的なステップや動きを身につけて,音楽 に合わせてみんなで楽しく踊って交流することができるようにする。また,踊りを通して日本のいろいろな地域や世界の文 化に触れるようにする。(第5・6学年)
道徳
◇主として集団や社会とのかかわりに関すること。
郷土の文化に親しみ,愛着をもつ。(第1・2学年)/郷土の伝統と文化を大切にし,郷土を愛する心をもつ。(第3・4学 年)/我が国の伝統と文化に親しみ,国を愛する心をもつとともに,外国の人々や文化に関心をもつ。(第3・4学年)/郷 土や我が国の伝統と文化を大切にし,先人の努力を知り,郷土や国を愛する心をもつ。(第5・6学年)/外国の人々や文化 を大切にする心をもち,日本人としての自覚をもって世界の人々と親善に努める。(第5・6学年)
外国語活動
◇日本と外国の言語や文化について,体験的に理解を深める。
異なる文化をもつ人々との交流等を体験し,文化等に対する理解を深めること。
◇外国語活動を通して,外国語や外国の文化のみならず,国語や我が国の文化についても併せて理解を深めることができるよ うにすること。
総合的な学習の時間
◇学習活動については,学校の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題につい ての学習活動,児童の興味・関心に基づく課題についての学習活動,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特 色に応じた課題についての学習活動などを行うこと。
特別活動 ◇入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。
表1-2 小学校学習指導要領における「伝統と文化」に関する内容の記述(小学校学習指導要領解説より一部抜粋)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
表1-2からわかるように,「伝統と文化」はどの 教科等の学習内容とも関わりがある。例えば,国 語科では,伝統的な言語文化に関する事項として 全学年に関連している。社会科では第3・4学年 で学習する地域の人々の生活や,第6学年で学習 する歴史をはじめ,様々な学習内容が関連してい る。音楽科と図画工作科では鑑賞,家庭科では米飯 やみそ汁の調理,道徳では地域の先人や取組を資料 にした学習というように,決して特別な教育活動で はないということがわかる。
だからこそ,学校現場では,それらを「伝統と 文化」を大切にする教育であると認識して,また,
各教科等の特質や役割を確実にとらえた上で「伝 統と文化」に関する教育活動を実践していくこと が重要だと考える。
次節では「伝統と文化」という視点から,どの ような教育活動が行われているのか,全国や京都 市内の小学校における先行実践事例をもとに整理 する。
第2節 「伝統と文化」に関する教育活動の現状
(1)全国の小学校での取組
本項では,全国の研究指定校での「伝統と文化」
に関する教育活動の取組を概観する。
国立教育政策研究所では,教育基本法改正に向 けた審議が進められていた平成18年4月に,『我が 国の伝統文化を尊重する教育に関する実践モデル 事業』を立ち上げた。
本事業に関わって,平成18・19年度は,小学校・
中学校・高等学校・特別支援学校を合わせて全98 校の研究指定校のうち,42校の小学校が研究を 行っている。平成20・21年度は,同様に全110校の うち,49校の小学校が研究を行っている。平成18 年度から21年度にかけての事業の概要には「児童 生徒が我が国の伝統や文化にふれる機会を充実す るため,教育課程への位置付け,指導内容,指導 方法,外部人材との連携等について実践的な研究 を実施する」(18)と示されている。
そして,平成22・23年度は「地域等の課題に応 じた教育課程研究事業『伝統文化教育実践研究』」
という名で,同様に全41校の内,22校の小学校が 研究を行っている。平成22・23年度の事業の概要 には「各教科等における我が国の伝統や文化に関 する学習指導についての実践研究を行うことによ り,学校教育において児童生徒が我が国の伝統や 文化にふれ,関心や理解を深め,それらを大切に
しようとする態度を育て,豊かに生きる力をはぐ くむことに資するとともに,教育課程の基準の改 善の参考となる資料を得る」(19)と示されている。
更に,平成24・25年度は「教育課程研究指定校 事業『2 学校の教育活動全体に関する研究課題』」
の(3)伝統文化教育に関する指導とその評価方法 の工夫改善についての実践研究を全5校の研究指 定校が行っている。その校種の内訳は,小学校3 校,中学校1校,高等学校1校である。平成24・25 年度の事業の概要には「グローバルに活動,貢献 する人材の育成として,児童生徒に自らの国や郷 土の伝統や文化についての理解を深め,尊重する 態度を身に付けさせるため,伝統的な言語文化,
歌唱及び和楽器,行事食・郷土食,産業,和服の 基本的な着装その他の伝統的な事項にかかる指導 を学校全体として各教科等の連携を図り有機的に 行うことにより,各教科等での指導効果を高める 実践研究を行う」(20)と示されている。
研究指定校のうち,小学校の数をみると,平成 18・19年度は42校,平成20・21年度は49校,平成 22・23年度は22校,平成24・25年度は3校となって いる。平成20・21年度の研究指定校数が最も多い ことから,学習指導要領の改訂に伴って,先行実 践事例を充実させたいという国立教育政策研究所 の意図がうかがえる。平成22・23年度には,2分の 1程度に減り,平成24・25年度にはその7分の1程度 になったが,学習指導要領の全面実施後も継続的 な伝統文化教育の実践研究の検証を求めていると 推測できる。更に,概要からは,子どもが「伝統 と文化」にふれる機会の充実,各教科等における 指導,評価方法の工夫改善,学校全体で指導効果 を高める研究の推進を図っていると推測できる。
そして,グローバル化が進む中で,郷土や我が国の
「伝統と文化」を尊重したうえで国際社会に貢献 する,そのような人材の育成を意図していること がわかる。
では,全国の研究指定校における「伝統と文化」
に関する教育活動の実例にはどのようなものがあ るのだろう。そこから研究実践の特徴を分析し,
「伝統と文化」を大切にする教育を推進するため の授業づくりのヒントにしていきたい。
現行の小学校学習指導要領は平成23年度から 全面実施されている。その時期と重なる平成22・
23年度に国立教育政策研究所が「地域等の課題に 応じた教育課程研究事業『伝統文化教育実践研 究』」で委嘱した研究指定校が取り扱った教材・題 材は次のとおりである。
研究指定校が取り扱った教材・題材(抜粋)
詩,短歌,百人一首,俳句,かるた,昔話,落語,歳 時記,和太鼓,お囃子,篠笛,尺八,琴・筝,三味線,
地域の歌,郷土料理,みそづくり,和菓子,京料理,
茶の湯・茶道,生け花・華道,書道,武道,和装,箔 押し,友禅染,組紐,水引,木彫,水墨画,能楽,舞,
歴史,遺跡,伝統行事,しめ縄づくり,餅つき,昔の 遊び,凧づくり など (21)
このように,研究指定校で取り扱っている教 材・題材を列挙すると,言語,音楽,料理,作法,
産業,歴史など,そのカテゴリーは多岐にわたっ ていることがわかる。
上記のような教材・題材を取り扱った研究指定 校の実践の中には,例えば,外部指導者の篠笛に 対する思いを聞いて伝統文化の大切さに気付くと ともに,作業手順を理解しながらていねいに篠笛 を作ることをねらいにした取組がある。また,学
習発表会や能の発表会を設定し,保護者や地域の 人々に学んだことを発信することをねらいにした 取組がある。
そこで,平成22・23年度の研究指定校全22校が どの学年及び教科等で「伝統と文化」に関する教 育活動を行っているのかを調べ,表1-3のようにま とめた。
表1-3から,研究指定校においては,全22校中 21校が「伝統と文化」に関する教育活動を総合的 な学習の時間に位置付けて実践していることを読 み取ることができる。次いで,音楽科(12校),社 会科(10校),道徳(9校),国語科(8校)に位置 付けて実践している。
一方,部活動でそろばんを扱っている研究指定 校もあるが,算数科,理科,体育科において実践 している小学校はなかった。
教科等
学校 国語科 社会科 算数科 理科 生活科 音楽科 図画
工作科 家庭科 体育科 道徳 外国語 活動
総合的 な学習 の時間
特別 活動 生活
単元
A校 2,6 6 1 4,5,
6 3 5 3,4 特
B校 1~6 4~6 1~6 4,6 3~6 3~6
C校 3~6 3~6
D校 3~6 2 3,5 3~6 1~6
E校 3,5,
6 1~6 3,5,
6
F校 3,4 1,2 5,6 1~6 3~6
G校 6
H校 4~6 1~6 3~6 1~6
I校 5,6
J校 3~6 1~6
K校 1~6 3~6
L校 3~6
M校 1~6 3,4,
6 1,2 1,2,4,
5,6 5,6 1~6 3~6
N校 1~6 1~6 1~6 1~6 3~6 1~6
O校 4~6
P校 5,6
Q校 1,2 1~6 3~6
R校 1~6 3,5,
6 1,2 4 5,6 1~6 3~6
S校 1~6 1,4,
5,6
特 , 3
~6 1~6
T校 6 4,6 1~6 5,6 4,5
U校 6 6 6
V校 3,6 5,6 3,5
部活動(そろばん)2,3
表1-3 「伝統と文化」に関する教育を実践している学年及び教科等(数字は学年,特は特別支援学級) (22)
「伝統と文化」に関する教育活動の実践が,総 合的な学習の時間で取り組まれていることが多い 理由について,二つのことが考えられる。
一つめは,地域の人々の暮らしや「伝統と文化」
など,地域や学校の特色に応じた課題設定や学習 内容を定めることができるからである。このこと は,体験活動を問題の解決や探究活動の過程に位 置付けやすくもする。
二つめは,単元を構成する際,設定された枠内 であれば,授業時数を弾力的に運用できるからで ある。例えば,地域に伝わる祭りの面白さに関心 をもち,それについて追究していく場合には,祭 りの歴史や由来,どのような音楽が演奏されてい るのかを調査したり,地域の人々と関わりながら,
それを支えてきたおもいや願いを聞きとったりし,
結果をまとめて報告したり,発表したり,音楽を 演奏したり,実際に祭りに参加したりする学習を 構想することができる。しかし,このような活動 を総合的な学習の時間以外の教科,例えば,国語 科・社会科・音楽科等で充実したものにしようとす ると,本来の教科のカリキュラムを実践できなくな る可能性も危惧される。
たしかに,課題の設定,情報の収集,整理・分 析,まとめ・表現といった問題解決的な活動が発 展的に繰り返されていく一連の探究的な学習の 流れは,総合的な学習の時間の特性であり,授業 時数も学習内容に応じて設定できるという利点 がある。しかし,表1-2(p.3)からも明らかなよ うに,各教科等に「伝統と文化」に関する内容の 記述があることから,様々な教育活動において学 習を進めることが可能である。総合的な学習の時 間として,新たに学習活動を設定するだけではな く,既にある各教科等の指導計画を見直し,「伝 統と文化」に関する教育活動を重要視することが 大切である。
(2)京都市内の小学校での取組
前項では,全国の研究指定校での「伝統と文化」
に関する教育活動の取組を概観した。本市小学校 では,その教育活動をどのように行っているのだ ろうか。
本市小学校における平成24年度の「伝統と文 化」に関する教育活動の取組状況を調べたところ,
およそ8割(170校中139校)の小学校が総合的な学 習の時間において「伝統と文化」に関わる教育活 動に取り組んでいる。次に,その教育活動の内容 の一部を示す。
・○○の歴史あれこれ(第6学年)
…○○地域への愛着を深め,よりよい地域にしてい くために自分ができることを考え,地域の一員と してよりよく生きていこうとする。地域の歴史的 文化に触れ,親しみをもつ。
・日本の文化を知ろう(第5学年)
…○○会の方をゲストティーチャ―として招き,茶 道を体験することで,6年で学習する日本の文化 について興味・関心をもつ。
・伝統に生きる(第4学年)
…地域の伝統産業について調べたことをもとに,自 分たちの地域に誇りをもつ。
・○○はかせになろう(第3学年)
…社会科でまとめた地図から,校区には歴史を伝え るものがあることを知り,地域で○○○(伝統産 業)をしている人が多いことに気付く。
など
(下線及びゴシック体は,筆者によるもの)
下線及びゴシック体で示したとおり,地域,伝 統産業,歴史などといった言葉が数多く見られる。
このことから,「伝統と文化」に関する教育活動を 総合的な学習の時間で実践する際には,この時間 だけで行う場合ももちろんあるが,国語科の文学 や古典,社会科の地域学習(第3・4学年)や歴 史学習(第6学年),音楽科,家庭科等との関連を 図り,学習計画を構想していくことも一つの視点 や切り口になると考える。そうすることで,「伝統 と文化」に関する教育活動がより充実したものに なると考える。
前項では,全国の研究指定校での「伝統と文化」
に関する取組を述べたが,平成22・23年度の研究 指定校の中には,本市のT小学校も含まれている
(表1-3のT校)。
T小学校では,本事業に関わる研究テーマを
「伝統文化に関わる体験活動を通して創造力・表 現力や感謝の心を育成する」(23)としている。教 材・題材の取り扱いと実施している学年及び各教 科等は表1-4のとおりである。
表1-4 本市T小学校での伝統文化教育実践(内容抜粋)
教材・題材 学年 各教科等
茶道・生け花 第6学年 社会科 狂言 第6学年 社会科 短歌 第6学年 国語科 和菓子 第6学年 家庭科 京料理 第5・6学年 家庭科
箔押し 第5学年 総合的な学習の時間 友禅染 第4学年 社会科,総合的な学習の時間 そろばん 第2・3学年 特別活動(部活動)
陶芸 全学年 図画工作科
これらの教育活動を進めるねらいの一部を以下 に示す(24)。
第6学年 国語科 古典「短歌」
語感,言葉の使い方に対する感覚などに関心をも ち,表現の効果がよりはっきりするように工夫して 創作する。
第6学年 社会科 歴史学習「室町文化が生まれたこと」
華道・茶道・狂言の文化が生まれた時代背景を知 るとともに,実際に体験したり生で見学したりする ことを通して,わが国の歴史や伝統を大切にし,日 常生活に生かしていこうとする意欲を育てる。
第5・6学年 家庭科 「日常の食事と調理の基礎」(京料理)
京都に伝わる伝統的な料理(だしのとり方・おせ ち・おばんざい・京野菜)について学習し,実際に 調理することで先人の願いや知恵を知る。
上記のねらいから,T小学校では「伝統と文化」
に関する教育活動の内容とねらいを明らかにし,
例えば,国語科の古典「短歌」,社会科での歴史学 習「室町文化が生まれたこと」,家庭科においては,
京料理を「日常の食事と調理の基礎」に位置付け るなど,教科における取扱いを明確にし,実践し ていることがわかる。
「伝統と文化」を大切にする教育は,単に体験 活動を入れて「楽しく体験できればよい」とした り,「古いものを取り扱えばよい」と安易に取り組 んだりするものではない。郷土や我が国の「伝統 と文化」に関する教育活動をより充実したものに していくためには,「隗より始めよ」という言葉が あるように,奇をてらった実践ではなく,小学校 学習指導要領における「伝統と文化」に関する内 容の記述を把握した上で,自校の地域の実態に応 じて実践していくことが大切になる。
以上の先行実践事例から,「伝統と文化」を大切 にする授業を構築していく際の重要な視点として 三つ挙げることができる。
一つめは,国立教育政策研究所の研究指定校や 本市の先行実践事例を参考にして自校に合った教 材開発を行ったり,教育活動を進めたりすること が有効だということである。しかし,先行の実践 をそのまま真似するだけでは,「茶道の体験活動を 行ったけれど,子どもたちの感想には,『お茶がお いしかった。』と書いてあった。」「地域の方から昔 の遊びについて教えていただいたけれど,子どもた ちは他人事のように聞いていた。」などということ も起こりうるので,実態に即した実践になるように 留意する必要がある。
二つめは,学習内容や実施時期に合わせて,実 践を支える外部講師や施設の協力・支援を効果的 に得られるように準備しておくことである。茶道 体験を通して,「茶道は,室町時代から続く文化で
あることがわかった。また,茶道ではお茶を飲む ことだけが目的ではなく,お茶を点てたり,お茶 をいただいたりするときの作法を学ぶことも大切 な目的であることがわかった。」「昔の遊びは,古 いものだから自分には関係ないと思っていた。で も,地域の方から昔の遊びについての遊び方や作 り方を教えていただいて,自分でも竹とんぼを 作って遊んでみたいと思った。」などといった子ど もの姿を目指して取り組みたい。
三つめは,目の前にいる子どもの実態を把握 し,子どもに付けたい力や態度を明確にした上で,
単元・題材計画を見直したり加筆したりして,計 画を作成することである。「伝統と文化」に関する 教育活動において,子どもの学びが充実したもの になるためには,その実践が各教科等に適切に位 置付いているかを確かめながら推進することが大 切である。
次章では,「伝統と文化」を大切にする授業づく りのための具体的な方策について述べる。
(2) 中央教育審議会答申『新しい時代にふさわしい教育基本法と 教育振興計画の在り方について』答申の概要(平成15年3月 20日)2003.3 p.2
(3) 安野功「伝統・文化に関する教育を充実させるためのポイン ト」『初等教育資料』(№866 平成22年11月号)2010.11 p.3 (4) 文部科学省『改正前後の教育基本法の比較』http://www.me
xt.go.jp/b_menu/kihon/about/06121913/002.pdf(平成18 年法律120号)2014.2.20
(5) 『学校教育法第21条第3号』http://law.e-gov.go.jp/htmld ata/S22/S22HO026.html(最終改正:平成23年6月3日)2014.
2.20
(6) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 総則編』2008.8 pp..20~21
(7) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 国語編』2008.8 p.43,68,93,106,109
(8) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 社会編』2008.8 pp..45~46,pp..73~87,pp..97~99
(9) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 算数編』2008.8 p.102,124
(10) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 音楽編』2008.8 p.32,47,64,68,73
(11) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 図画工作編』2008.8 p.40,52
(12) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 家庭編』2008.8 p.30,33
(13) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 体育編』2008.9 p.24,40,pp..76~77
(14) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 道徳編』2008.8 pp..47~48,p.53,pp..61~62
(15) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 外国語活動編』
2008.8 p.9,20
(16) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間 編』2008.8 p.26
(17) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 特別活動編』2008.8 p.121
(18) 国立教育政策研究所『我が国の伝統文化を尊重する教育に 関する実践モデル事業(平成18~21年度)』 (平成18年4月) http://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div08-katei.
html 2014.2.20
(19) 国立教育政策研究所『教育課程研究センター,生徒指導・進 路指導研究センター関係研究指定校等事業便覧(平成23年 度)』 2011.7 p.55
(20) 国立教育政策研究所『教育課程研究センター,生徒指導・進 路指導研究センター関係研究指定校等事業便覧(平成24年 度)』 2012.7 p.29
(21) 前掲(19) pp..58~66 (22) 前掲(19) pp..58~66 (23) 前掲(19) p.66
(24) 国立教育政策研究所「地域等の課題に応じた教育課程研究事 業『伝統文化教育実践研究』成果報告書 ・資料(平成22・2 3年度)」http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidou/report /dentou_l22-23/dentou_l22-23_rpt_38_kyotoshi.pdf 2014.
2.20
第2章 「伝統と文化」を大切にする授業 づくり
第1節 京都に根ざす「伝統と文化」を体感し,
関心を深める授業づくりに向けて
本研究での「伝統と文化」のとらえを以下に示す。子どもたちにとって「伝統と文化」のとらえは,
抽象的なものであると考える。そこで本章では,
どのような学びの過程で子どもたちが「伝統と文 化」に対する学びを深めていくと想定しているの かについても後述する。
(1)体感することで付けたい力や態度
国際化の進展に伴い,日本人としてのアイデン ティティ(「伝統と文化」を尊重し,郷土を愛する
心)と,国際性(国際社会の一員としての意識)
をもった日本人を育成することが求められている ことについては,前章で述べたとおりである。こ れを今回の研究テーマに関連付けると,「京都の
『伝統と文化』」を大切にし,京都を愛する心をも つこと,京都に住む一員としての自覚をもつこと,
となる。では,教育活動において,どのような力 や態度を育むのか。ここでは,それを「京都に根 ざす『伝統と文化』を体感することで付けたい力 や態度」とする。
まず,「体感する」という言葉について,ここで は,「教育活動の中で,みたり,きいたり,よんだ り,触れたり,感じたり,親しんだりすること」
と定義する。
そして,京都に根ざす「伝統と文化」を体感す ることによって,次のような効果が期待できると 考えている。
また,総則及び各教科等の『小学校学習指導要 領解説』の総説に「21世紀は,新しい知識・情報・
技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる 領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増 す,いわゆる『知識基盤社会』の時代である」(25)
と示されている。知識基盤社会においては,学校 で確実に習得した知識・技能を生かして,社会で 生きて働く力,生涯にわたって学び続ける力を育 成することが重要である。
以上のことを踏まえて,「京都に根ざす『伝統 と文化』を体感することで付けたい力や態度」を 図2-1のように設定した。
「京都に根ざす『伝統と文化』」についての子 どもの学びの過程について以下のように考える。
まずは子どもが文化に出会うこと,次は子どもが 出会った文化について理解すること,更に,単元
○京都の「伝統と文化」の歴史的な意味や内容,それに携わっ てきた人のおもいや願いなどを理解できる。
○京都や地域を好きになったり,誇りをもったりできる。
伝統…ある集団社会において,歴史的に形成蓄積され,世代をこえ て受け継がれた精神的文化遺産や慣習
文化…学問・道徳・芸術など,主として精神的活動から生み出 されたもの
図2-1 京都に根ざす「伝統と文化」を体感することで 付けたい力や態度
「文化」をみる目(理解)
「文化」が伝統であるという気付き(理解)
「伝統と文化」を大切にする心(態度)
「文化」との出会い
や題材における学びを通して,出会った文化に対 する理解を積み重ねていくことで深まっていく。
例えば,第6学年社会科「江戸の文化と新しい学 問」の歴史学習の中で,歌舞伎と関わりの深い人 物として近松門左衛門が挙げられている。しかし,
実は,京都と縁のある出雲の阿国も歌舞伎と関わ りがある。出雲の阿国という人物を取り上げるこ とで,子どもたちは歌舞伎と近松門左衛門の関連 はもちろんのこと,「歌舞伎は京都とも関わりがあ るのだね。」「江戸時代の文化の一つである歌舞伎 は,京都でも行われていたのだね。そして,出雲 の阿国という人物が活躍していたのだね。」などと 理解を深めることができると考える。このような 学びを通して,子どもは「文化」が現在まで受け 継がれてきていること,つまり,「伝統」であるこ とに気付くことができると考える。
図2-1からもわかるように,子どもたちも含め て私たち大人が「伝統と文化」を認識し,それを大 切にしたり,好きになったり,自分もやってみた いというおもいをもったりするためには,「文化」
に関わる材料との出会いが必要だということであ る。何も材料がないところからは気付きや学びは 生まれない。材料が不足している中では,どのよ うな活動をしても認識の深まりはみられない。教 育活動においては,その材料が教材・題材である。
つまり,各教科等の学習に適切に位置付けられた
「京都や地域に関わりのある『文化』」を体感する ことで,子どもたちは,京都の「伝統と文化」の 歴史的な意味や内容,それに携わってきた人のお もいや願いなどを理解したり,京都や地域を好き になったり,誇りをもったりすることができるよ うになると考える。
(2)「伝統と文化」に係る学習内容
「伝統と文化」に係る学習内容にはどのような ものがあるのか,国語科・社会科・道徳を例に整 理していきたい。
<国語科>
現行の小学校学習指導要領の国語科では,〔伝 統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕が設 けられた。この事項では「我が国の歴史の中で創 造され,継承されてきた伝統的な言語文化に親し み,継承・発展させる態度を育てることや,国語 の果たす役割や特質についてまとまった知識を身 に付け,言語感覚を養い,実際の言語活動におい て有機的に働くような能力を育てる」ことに重点
を置くとしている。また,言語文化については,
「我が国の歴史の中で創造され,継承されてきた 文化的に高い価値をもつ言語そのもの,つまり文 化としての言語,また,それらを実際の生活で使 用することによって形成されてきた文化的な言語 生活,さらには,古代から現代までの各時代にわ たって,表現し,受容されてきた多様な言語芸術 や芸能などを幅広く指している」としている(26)。 これらのことから,国語科において,子どもたち が我が国や京都の言語文化について学ぶ機会をも つことはとても大切であると考える。
そこで,現行の本市小学校指導計画国語科の中 に〔伝統的な言語文化に関する事項〕を含む単元・
教材がいくつあるか調べたところ,6年間でおよそ 25教材あることがわかった。表2-1は,その中から 六つを事例として抽出したものである。
学年 単元名
教材名 領域
1年 「C読むこと」
むかしばなしがいっぱい 2年 きいてたのしもう
「C読むこと」
いなばの 白うさぎ 3年
声に出して楽しもう 一茶・百人一首など 4年
調べて,まとめて,読み合おう 「B書くこと」
「C読むこと」
一茶・蕪村など 5年 声に出して読もう
竹取物語・枕草子・平家物語
6年
伝統文化を楽しもう
「C読むこと」
伝えられてきたもの
狂言 柿山伏 柿山伏について
表2-1からわかるように,国語科の単元・教材の 中には,「B書くこと」や「C読むこと」の領域に
「伝統的な言語文化に関する事項」が含まれてい ることがある。一方で,単元・教材の中には,時 数が1時間や2時間というものがある。特に,時数 が1時間の単元・教材においては,音読したり,暗 唱したりして1時間の学習が終わることも考えら れる。それでは,「伝統と文化」を体感することに はならない。だからこそ,どのようなことをねら い,どのように学習を展開すると,「『文化』をみ る目(理解)」や「『文化』が伝統であるという気 付き(理解)」,「『伝統と文化』を大切にする心(態 度)」を育むことができるのか,各教科等の目標や 表2-1 本市小学校指導計画国語科における「伝統的な言語文化
に関する事項」を含む単元・教材(事例)
学習内容を根拠にして,授業を構想する必要があ ると考える。
<社会科>
国語科と同様に社会科においても本市小学校 指導計画の社会科から,「伝統と文化」に関する教 育活動を行うことができると考えられる単元を調 べた。その際の視点としたことは「京都に根ざす
『伝統と文化』に関する教育活動を行うことがで きると考えられる単元」である。表2-2は,それら をまとめたものである。
学年
実施月 単元名
3年 4~7月
わたしたち の京 都市 1 わたし たち のまち 2 京都市 のま ちの様子
3年 8~12月
わたしたちのくらしとはたらく人びと ○ わたしたちのくらしとはたらく人びと ガイダンス
1 商店のはたらき 2 工場でつくられるもの
農家でつくられるもの [一つを選択]
3年 1~3月
地域や生活のうつり変わり
○ 地域や生活のうつりかわりガイダンス 1 昔を伝えるもの
2 地域の人びとが受けついできたもの 4年
11~12月
きょう土をひらく ○ きょう土をひらく
1 用水のけんせつ~琵琶湖疏水~
4年 1~3月
わたしたちの京都府 1 地図を広げて 2 京都府の様子
3 古くから受けつがれてきた産業の さかんな宇治市
4 豊かな自然に囲まれている南丹市美山町 5 京都府と各地とのつながり
6年 4~10月
日本の歴史
○ 歴史博物館へ行ってみよう 1 縄文のむらから古墳のくにへ 2 天皇中心の国づくり 4 今に伝わる室町文化 6 江戸の文化と新しい学問 7 明治の国づくりを進めた人々 8 世界に歩み出した日本 6年
3月
世界の中の日本
○ 人類共通の願い
1 日本とつながりの深い国々
表2-2にまとめたとおり,京都に根ざす「伝統と 文化」に関する教育活動は,第3・4学年の地域 学習と第6学年の歴史学習において実践すること が可能であると考える。この表では,第5学年の 単元を挙げていない。その理由として,第5学年 では,我が国の国土や産業について学習すること が具体的な対象になっている。第3・4学年と第 5学年の目標及び学習内容の違いをはっきりさせ ることで,第5学年の学習が,単なる地域につい ての学びにならないように留意したためである。
<道徳>
本市小学校指導計画道徳から,「伝統と文化」に 関する教育活動を行うことができると考えられる 主題(資料)を調べ,表2-3のようにまとめた。
学年 実施月 主題名(資料名)・内容項目 1年 3月 ぼくたちの町大すき(京のかどはき)・4‐(5)
2年
6月 すてきな京都(この町がすき)・4‐(5) 9月 すてきな京都(大文字)・4‐(5)
3年
7月 文化や伝統に親しむ(「ありがとう」の言葉)
・4‐(6)
10月 郷土を愛する心(動く はく物かん「時代祭」)
・4‐(5)
10月 外国の文化(マダン)・4‐(6)
3月 郷土を愛する(高せ川よ えい遠に)・4‐(5)
4年
7月 文化や伝統を大切に(メルヘンを二人の手で)
・4‐(6)
10月 郷土を愛する心(伏見人形)・4‐(5) 1月 郷土を愛する心(疏水をひらく)・4‐(5) 2月 日本のこころ(ふろしき)・4‐(6)
5年
6月 郷土を愛する心(京焼・清水焼の町 蛇ヶ谷)
・4‐(7)
1月 ふ る さ と を 愛 す る 心 ( ひ び け , 心 の ハ ー モ ニー)・4‐(7)
2月 文化の違いを越えて(ペルーは泣いている)
・4‐(8)
6年
10月 郷土を守る(羽束師川)・4‐(7) 1月 日本の心(目ざめよ日本)・4‐(8) 2月 隣の国の人々と(雨森芳洲と朝鮮通信使)
・4‐(8)
道徳教育は「伝統と文化」を大切にする教育活 動と深く関連している。小学校学習指導要領解説 総則編に,道徳教育の推進に関して「伝統と文化を 尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛 し,個性豊かな文化の創造を図る」(27)とある。また,
道徳の内容は四つの視点があるが,特に,視点4 の内容項目「主として集団や社会とのかかわりに 関すること」には,郷土や我が国の「伝統と文化」
に関する事項が系統的に示されている。例えば,
第5学年及び第6学年の視点4の(7)には「郷土や 我が国の伝統と文化を大切にし,先人の努力を知 り,郷土や国を愛する心をもつ」(28)ことが掲げ られている。そこで,実践を行う際には,道徳と 教科等との相互の関連を意識しながら取り組んで 表2-2 京都に根ざす「伝統と文化」に関する教育活動
を行うことができると考えられる単元
表2-3 京都に根ざす「伝統と文化」に関する教育活動を行う ことができると考えられる主題(資料)
いきたいと考えている。なぜなら,道徳の時間が,
学校の教育活動を通じて行われる道徳教育の「要」
の時間としての役割,つまり,道徳の時間以外の 道徳教育を補充,深化,統合する役割を担ってい るからである。
更に,図2-1(p.8)で示したとおり,「伝統と文 化」について理解したり,それを大切にしたりす る態度は,学びの積み重ねによって身に付くもの だと考える。そして,各教科等で意図的に関連付 けることで,よりいっそう「『文化』をみること(理 解)」や「『文化』が伝統であるという気付き(理 解)」「『伝統と文化』を大切にする心(態度)」を 育み,「伝統と文化」を大切にし,地域で学ぶ強み を生かす子どもの育成につながると考える。
第2節 本市指導計画への位置付け
本節では,「伝統と文化」を大切にする授業を つくる際に留意することとして,「各教科等の目標 を実現することを前提に『伝統と文化』を大切に する教材・題材を位置付けること」と「各教科等 の目標を実現する単元・題材を構成する1時間の授 業において,『伝統と文化』の視点をどこに位置付 け,どのように指導・支援するのかということ」
について述べる。
<授業づくりの視点①-各教科等の目標の実現->
授業づくりにおいては,各教科等の目標を実現 することを前提に「伝統と文化」を大切にする教 材・題材を位置付けることが大切である。「伝統と 文化」に関する教育活動は,各教科等の時間に行 われることが多い。各教科等にはそれぞれの目標 及び内容が学習指導要領に示されており,指導者 はそれを踏まえて指導・支援している。具体的に は,本市小学校指導計画を根拠に単元や題材,主 題のどの部分に「伝統と文化」に関する学習の教 材を盛り込むことができるのかを考えたい。つま り,「伝統と文化」を大切にする授業をつくるため には,「何を」「どこで」「どのように」指導・支援 するのかという,指導者の明確な授業構想が必要 になってくると考える。そこで,本市小学校指導 計画の学習活動の中に「伝統と文化」に関する教 材・題材を位置付ける方法で構想した事例【事例
①】と,本市小学校指導計画に示されている目標
を踏まえた上で,単元・題材ごと「伝統と文化」に関する学習に差し替える方法で構想した事例
【事例②】を提示する。
【事例①】
本市小学校指導計画の学習活動の中に「伝統と 文化」に関する教材・題材を位置付ける方法につ いて,国語科第1学年の教材「むかしばなしが いっぱい(全5時間)」を事例にして考えてみたい。
この教材で進める学習は,学習指導要領の内容「C 読むこと」,〔伝統的な言語文化と国語の特質に関 する事項〕(1)アの「(ア) 昔話や神話・伝承など の本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合っ たりすること」(29)に該当する。表2-4は,本市小 学校指導計画国語科において示されている目標と 学習活動に基づいて作成したものである。
目 標
・昔話や伝承の本や文章を読んだり,読み聞かせを聞い たりし,感想を発表することができるようにする。
・昔話の本を選んで読むことができるようにする。
時 学習活動
1
○教科書の挿絵を見ながら,知っている話について話し合う。
・知っている日本の昔話や外国の昔話について発表し合 い,読んでみたい話を見つける。
2
○教科書に載っている「おはなしにっき」や「どくしょ けいかく」の書き方を知り,読書記録をつける。
・今まで読んだ本を「おはなしにっき」に書いたり,読 んでみたいと思ったお話を「どくしょけいかく」に書 いたりする。
3
○「むかしばなし紹介」の計画を立てる。
・興味をもったお話ごとにグループを作る。
・歌,指人形,簡単な劇遊びなど既習の表現を使って紹 介の練習をする。
・これから読んでみたいお話を「どくしょけいかく」に書く。
4 ○「むかしばなし紹介」の発表をする。
・グループごとに発表する。
5 ・興味をもった本を読む。
例えば,第3時の学習活動「『むかしばなし紹介』
の計画を立てる」の中に「これから読んでみたい お話を『どくしょけいかく』に書く。」とある。
このときに京都に関する民話を教材として準備し,
それを読書計画に書いてもよいことにすると,「そ れを進んで読んでみたい」「友だちに紹介しよう と思う」といった子どもの意欲が高まり,学びが 深まった姿を引き出すことにつながると考える。
また,京都に関する民話を学習活動に位置付ける ことは,ただ単に子どもの興味・関心に働きかけ るだけでなく,本教材の目標を具現化することに もつながる。更に,京都に関する民話を教材・題 材として学習活動に位置付けることで,「伝統と 文化」を大切にし,地域で学ぶ強みを生かすこと ができる。なぜなら,子どもの感想に自分の体験 や京都との関わりが見られたり,子ども自らが京 都に関する本を選ぶきっかけになったりすると考 えるからである。
表2-4 本市小学校指導計画国語科に示されている目標 と学習活動 (30)