総 説
薬・異物や生体内化合物の代謝を制御するmicroRNA
中島 美紀
金沢大学医薬保健研究域薬学系 薬物代謝化学研究室
要 旨
microRNA (miRNA) はタンパク質をコードしない 22 塩基程度の小さな RNA であり,標的とする mRNA の主に 3 −非翻訳領域に結合して翻訳を抑制あるいは mRNA 分解を促進することにより,遺 伝子発現を負に制御する。ヒトでは 2,000 種以上の miRNA が同定され,全遺伝子産物の 60%以上が miRNA によって発現制御されると推定されている.miRNA は様々な生命現象や病態の発症・進行 に関わっていることから,新しい治療標的またはバイオマーカーとして注目を集めている.著者らは,
主要な薬物代謝酵素であるシトクロム P450 のヒトにおけるいくつかの分子種が miRNA によって発 現制御されていることを明らかにしてきた.また,核内受容体や転写因子が miRNA によって制御さ れることが,その下流遺伝子の発現にも影響を与えている.シトクロム P450 は薬物のみならず環境 汚染物質の解毒や代謝的活性化,内因性化合物の生合成も触媒することから,miRNA による発現制 御が薬の効果や副作用に認められる個人差の要因となり,また発癌感受性およびホルモンバランス を左右していると考えられる.異物やストレス,病態などによる miRNA の発現変動とその影響の解 析および miRNA を絡めた遺伝子多型解析は,薬物代謝能の個人差の理解につながり,創薬や薬の適 正使用に有用な情報を与えるであろう.
キーワード :転写後調節,薬物代謝酵素,薬物動態,個人差,感受性
1.はじめに
ゲノム DNA の全塩基配列の解読により生物遺 伝情報が明らかになると,それを利用して個々 の遺伝子の働きを解析する研究活動が展開され た.次いで,ポストゲノム時代の象徴ともいえる トランスクリプトーム解析が進められ,膨大な 数のノンコーディング(タンパク質をコードしな い)RNA が転写されていることが明らかになっ た.ヒトゲノムの 98%はノンコーディング領域で,
タンパク質をコードしている領域はわずか 2%に 過ぎない1).そして,特別な生理活性をもたない と考えられていたノンコーディング RNA に遺伝 子発現制御などの重要な機能が備わっていること が明らかになってきた.このような機能性 RNA の1つに microRNA (miRNA)がある.miRNA
は標的とする mRNA に結合して翻訳を抑制した り mRNA の分解を促進したりすることで,発 現を負に制御する.ヒト全 mRNA の 60%以上が miRNA によって発現調節されていると推定され ており2),さまざまな生物学的プロセスや疾患の 発症・進行など,多岐にわたる生命現象に関与す ることが示されている.
主要な薬物代謝酵素であるシトクロム P450 は,
薬や環境汚染物質などの解毒や代謝的活性化,な らびに生体内化合物の生合成を触媒する.そのほ とんどは核内受容体による転写制御を受け,また 遺伝子多型が存在することが,発現量や酵素活性 の個人差の要因と考えられてきた.しかし,代 謝能の個人差を完全には説明できていなかった.
近年,シトクロム P450 や核内受容体の発現調節
sapiens)とマウス(Mus musculus)でオルソログで あることを意味する.1 または 2 塩基のみ配列が 異なるパラログは接尾辞により hsa−miR−27a と hsa−miR−27b の よ う に 区 別 さ れ る. 異 な る 遺伝子座から転写された前駆体から同じ成熟型 miRNA が産生されるとき,その前駆体は hsa−
mir−125b−1 と has−mir−125b−2 のように数字で 区別される.RISC に取り込まれる機能的一本鎖 RNA はガイド鎖,他方はパッセンジャー鎖と呼 ばれる.パッセンジャー鎖は hsa−miR−126* のよ うにスターマークで表記され,一般的には分解さ れやすいと考えられている,しかし,近年,機能 的に作用しているパッセンジャー鎖も多く明らか になり,スター表記に換えて,ヘアピン構造の中 で 5 側と 3 側のどちらに位置するかを意味する hsa−miR−148a−5p と hsa−miR−148a−3p の よ う に表記するようになってきている.本稿ではヒト miRNA についてのみ触れるため,miRNA の表 記における hsa は省略する.
2 − 2. miRNA の標的 mRNA の同定
miRNA が標的とする mRNA に結合する際,配 列全体にわたる完全相補性は必要なく,miRNA の 5 末端 2−7 塩基の配列(seed 配列と呼ばれる)
が標的 mRNA と相補的であることが重要と言わ れている(図 2).一方,seed 配列が相補的であっ ても必ずしも作用を発揮するとは限らない.従っ て,miRNA の標的 mRNA の予測は容易ではな い.1 つの miRNA は数百種類もの mRNA を標的 とし,また 1 つの mRNA が複数の miRNA によっ て制御されることもある.さらに,miRNA/ 標 的 mRNA の機能的な組み合わせが,ある組織で 同定されても,他の組織でも同様に制御されると は限らない.当該 miRNA と標的 mRNA の発現 量の違いのみならず,その miRNA の標的となる 別の mRNA 群の存在も影響するためである.し たがって,ある遺伝子の発現調節に miRNA が機 能的に働いているかどうかは実験による証明が必 要である.一般的に用いられる方法が以下の4つ である。
に miRNA が関与していることが明らかになり3), これまで説明できなかった個人差の解明に一石を 投じ,その生理学的意義も示されつつある.本稿 では,miRNA について概説した後,miRNA が ヒトにおける薬や異物,生体内化合物の代謝のコ ントロールにどのように関わっているか明らかに なった例を紹介する.
2.miRNA とは
miRNA は 20 〜 25 塩 基 の 小 さ な 一 本 鎖 RNA である.1993 年に線虫で最初に発見され,2001 年にヒトにも存在することが明らかになった.
miRNA は初めに数百から数千塩基の転写産物 primary miRNA (pri−miRNA)として転写され る(図1).その後,核内でヘアピン構造部分が Drosha などによりプロセッシングを受けて,約 70 塩基の precursor miRNA (pre−miRNA)とな る.pre−miRNA は Exportin−5 を介して細胞質 に輸送され,Dicer によってプロセッシングを受 けて約 22 塩基の二本鎖 miRNA:miRNA* となり,
Dicer,Agonoute 2 (Ago2),tar−RNA−binding proteins (TRBP) な ど で 構 成 さ れ る RNA−in- duced silencing complex (RISC)と複合体を形成 する.そして,一本鎖化された mature miRNA がガイド鎖となり,標的 mRNA の主に 3 −非翻 訳領域 (untranslated region, UTR) に存在する 認識配列 (miRNA recognition element, MRE)に 結合する.すると,RISC がリボソーム・サブユニッ ト会合の阻害,リボソームの脱落,キャップ構造 の脱離,脱アデニル化など,種々のメカニズムを 介して翻訳抑制または mRNA 分解を引き起こし,
遺伝子サイレンシングを起こす4).
2 − 1. miRNA の命名法5)
ヒトではこれまで 2,000 種類以上の miRNA が 同定されている.miRNA は同定された順に番号 付けされる.成熟型は miR−, 前駆体は mir−で 表記される.種を区別するために 3 または 4 字の アルファベットからなる接頭辞が付与され,hsa
−miR−101 や mmu−miR−101 のように表記され る.このように同じ番号の miRNA はヒト(Homo
Pre-miRNA Nucleus Cytoplasm
Pri-miRNA
AAAAA Exportin 5
Drosha DGCR8
Dicer
Ago2 Dicer
TRBP
Mature miRNA
RISC
mRNA degradationor
G7mpppG Translational repression
Ribosome
G7mpppG AAAAA
TRBP
ts Z*W></
4
4:Z^U[
mRNA9Z ? 0
06=
!
!
図1 microRNA の生合成と転写後調節
ゲノム上のあらゆる領域から pri − miRNA として転写され,核内でプロセッシングを受けて pre − miRNA となる.pre − miRNA は Exportin − 5 を介して細胞質に輸送され,プロセッシングを受けて二本鎖 miRNA:miRNA* となり RNA − induced silencing complex (RISC)と複合体を形成する.一本鎖化された mature miRNA が標的 mRNA に結合して翻訳を抑制または mRNA 分解を促進することにより遺伝子発現を負に制御する.
図2 標的 mRNA に対する miRNA の結合と seed 配列の相補性
miRNA は 標 的 mRNA の 主 に 3 − 非 翻 訳 領 域 (untranslated region, UTR) に 存 在 す る 認 識 配 列 (miRNA recognition element, MRE)に結合する.miRNA の 5 末端 2 − 7 塩基の配列は seed 配列と呼ばれ , 標的 mRNA と相補的であることが重要 といわれている.ORF: オープンリーディングフレーム
m7GpppN AAAAA
5’-ACAGAC-UCUUACGUGGAGAGUGCACUGA-3’
3’-UGUUUCAAGA---CA----UCACGUGACU-5’
..
ORF
miRNA
miRNA miRNA Recognition
Element (MRE)
Seed sequence
us #- YT` Z2W BZ.8
1)予測プログラムを用いたmiRNAの推定 TargetScan, MicroCosm, PicTar, miRNA.
org など,いくつかの予測プログラムが無料で 利用可能である.しかし,それぞれのプログラ ムで用いるアルゴリズムが異なっており,予測 される miRNA が異なることも多い.偽陽性の 確率も未だ高いことが難点であり,実際に機能 的かどうかは実験で確かめなければわからな い.また,予測プログラムでは miRNA の発現
量は考慮されていないため,当該遺伝子が発現 している組織にその miRNA がどの程度発現し ているかは別途考慮する必要がある.
2)ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼ遺伝子の下流に MRE を組み 込み,miRNA の過剰発現またはアンチセンス オリゴヌクレオチド (AsO)による阻害によっ てルシフェラーゼ活性に変動が認められるか調 べる。また,MRE への変異の導入や欠失,複
られる.このような背景のもと,miRNA による 発現制御の可能性を検討した結果,CYP1B1 の 3
−UTR に miR−27b が結合し,翻訳を抑制するこ とで発現を負に制御していることを明らかにし た.これは miRNA が薬物代謝酵素の発現制御に 関わっていることを示した世界初の例である.乳 癌組織では非癌部と比べて miR−27b 発現量が低 下しており,それが癌組織で CYP1B1 タンパク 質が高発現する原因であることが考えられた(図 3).従って,miR−27b による CYP1B1 の発現制 御は乳癌の発症・進行に関わっていると考えられ る.
3 − 2. ビタミン D 受容体7)と CYP24 8)を制 御する miR − 125b と乳癌との関係 ビタミン D3 は血中カルシウム濃度の恒常性維 持や骨代謝に重要な役割を担う一方,細胞増殖抑 制作用や分化誘導およびアポトーシス誘導作用 を有しており,抗癌薬としての可能性が期待さ れている.ビタミン D3 の作用はビタミン D 受容 体 (VDR)を介して発揮される一方,活性型ビタ ミン D3 は CYP24 により代謝されてその作用を失 う.従って,VDR と CYP24 はビタミン D3 の効 果を左右する重要な因子であり,どちらも正常部 位に比べて癌部位で高発現している.興味深いこ とに,両者ともに miR−125b によって制御されて いること,癌部位では miR−125b の発現が低下し ており,それが両者の高発現の原因となっている ことを明らかにした(図 4).miR−125b による両 者の発現制御が,ビタミン D3 による細胞増殖抑 制作用にどのような影響をもたらすか MCF−7 細 胞の増殖能で検討した.その結果,活性型ビタミ ン D3 処置により細胞増殖能は有意に抑制され,
その抑制効果は pre−miR−125b の導入により低 下したことから,miR−125b は VDR に対する抑 制効果を優先的に示すことが明らかになった.す なわち癌組織では miR−125b の発現が低下してい ることで,VDR を介した抗腫瘍作用が増大して いる可能性が考えられた.
数連結などによるルシフェラーゼ活性の変動を 調べることで,MRE の機能性を確認すること も有用である.
3) miRNA発現量の変動による当該タンパク質 またはmRNA発現量の変化
細胞に miRNA を過剰発現させる,あるい は AsO によって内因性 miRNA を阻害した時,
当該タンパク質または mRNA の発現量が変化 するか調べる。しかし,このような実験では,
miRNA の作用が直接的なものか,別の標的遺 伝子に作用した二次的な結果なのか判断できな い.その点,上記のルシフェラーゼアッセイで は,MRE への直接的な影響か調べられる利点 がある.
4) 当該タンパク質とmiRNAの発現量との相関関 係
細胞内の miRNA の発現量を人為的に変動さ せることなく,常在的な状態で miRNA の関 与を提唱するには,当該タンパク質発現量と miRNA の発現量に負の相関関係が認められる か調べることが有用である.正常細胞と癌細胞 の比較,複数の細胞株間での比較,複数の個人 サンプル間の比較など,さまざまなパターンで 適用できる.
3. miRNA による発現制御を受けるヒトシトク ロム P450 と核内受容体
miRNA が発現制御に関与することが明らかに なったヒトシトクロム P450 や核内受容体とその 薬理学的および生理学的意義を以下に紹介する.
3 − 1. CYP1B1 を制御する miR − 27b と乳癌 との関係6)
CYP1B1 は多環芳香族炭化水素や芳香族アミ ンの代謝的活性化を触媒し,またエストロゲン を DNA 損傷性の代謝物に変換することから,発 癌に関与している分子種である.CYP1B1 は卵 巣,子宮,乳腺などの組織において mRNA レベ ルでは高く発現しているものの,タンパク質レベ ルではほとんど検出できないことから,転写後調 節の寄与が示唆された.また,正常組織と比べて 癌組織で CYP1B1 タンパク質の発現が高く認め
とその発現に重要な役割を果たすプレグナン X 受容体 (pregnane X receptor, PXR)の 3 −UTR に共通して miR−148a 認識配列が存在すること を見出し解析したところ,miR−148a は CYP3A4 には直接作用しないが,PXR の発現を抑制的に 制御し,CYP3A4 の発現量に影響を与えている ことを明らかにした(図 5).タンパク質は DNA 3 − 3. プレグナン X 受容体を制御する miR −
148a と CYP3A4 発現量への影響9)
CYP3A4 は肝臓および小腸に高く発現し,医 薬品代謝の約 50% に関与する最も重要な薬物代 謝酵素である.CYP3A4 の発現量や酵素活性に は 50 倍以上の大きな個人差が認められるが,遺 伝子多型でも個人差を説明できない.CYP3A4
miR-27b
Cap Poly A
CYP1B1 mRNA
miR-27b
Cap Poly A
CYP1B1 mRNA
vs Y_` Z,)W+WZE
CYP1B1 CYP1B1
CYP1B1 CYP1B1 CYP1B1
CYP1B1
miR-125b
VDR
poly A VDR mRNA
Normal
n = 14
Cancer P < 0.0005
Human breast tissues miR-125b level (arbitary unit)
0 1 2 3 4 5
VDR/RXR
ws Y_` W Z,)W+WZE m
mh7113
%
%A ++AA
miR-125b ,,)D
miR-125b
CYP24
poly A CYP24 mRNA
図3 miR-27b による CYP1B1 の発現制御と癌との関係
正常組織では miR − 27b が CYP1B1 の 3 − UTR に結合して発現を負に制御している.一方,癌組織では miR − 27b 発現量が 低いために CYP1B1 が高発現すると考えられる.
図4 miR-125b による VDR と CYP24 の発現制御と癌との関係
miR − 125b は VDR と CYP24 の 3 − UTR に結合して発現を負に制御する.癌組織では miR − 125b の発現が低下しており,
それが癌組織における VDR と CYP24 高発現の原因と考えられる.CYP24 は VDR により転写活性化されるため,miR − 125b による VDR 発現変動の二次的影響も受けていると考えられる.
の P450 とは異なり,その誘導機構には核内受容 体は関与せず,転写後調節や翻訳後調節による ものと考えられている.肝臓における CYP2E1 mRNA 発現量とタンパク質発現量との間に正の 相関関係が認められないことは,常在的発現に おける転写後調節の関与を示唆する.miRNA による転写後調節の関与を検討した結果,ヒト CYP2E1 の 3 −UTR に miR−378 が結合して発現 を負に制御していることが示された.ヒト肝臓 中の miR−378 発現量には 18 倍の個人差が認めら れ,miR−378 発現量と CYP2E1 タンパク質発現 量および翻訳効率との間に有意な逆相関の関係が 認められた(図 6)ことから,miR−378 はヒト肝臓 における CYP2E1 の常在的発現を制御し,解毒 能または毒性発現に個人差をもたらす要因の1つ となっていると考えられる4).
miR−378 をコードする遺伝子はコアクチベー タ ー で あ る peroxisome proliferator−activated receptor γ coactivator 1 β (PGC1 β)のイント ロン上に存在する.このような場合,共通のプ ロモーターで転写制御されるため,両者の発現 量は平衡関係にあると一般的に考えられている.
PGC1 βは脂質合成を制御する因子であり,糖尿 から転写された mRNA に基づいて合成されるた
め,必ず転写レベルでの調節を受けている.従っ て,転写調節と転写後調節の寄与を考慮する必 要がある.25 検体のヒト肝試料において,PXR の mRNA 発現量とタンパク質発現量との間に正 の相関関係が認められず (r = 0.1),転写後調節 が大きく寄与していることが示唆された.一方,
CYP3A4 では mRNA 発現量とタンパク質発現量 との間に有意な正の相関関係が認められた (r = 0.67, P < 0.001 )ことから,転写調節が主要であ り,miRNA による転写後調節の寄与は大きくな いことが示された.miR−148a の発現量にも約 100 倍の大きな個人差が認められ,PXR の発現制 御を介して CYP3A4 発現量に個人差をもたらす 原因になっていると考えられる.
3 − 4. ヒ ト CYP2E1 を 制 御 す る miR − 378 と代謝活性の個人差への影響10)
ヒ ト CYP2E1 は ア セ ト ア ミ ノ フ ェ ン や ハ ロ タンなど,比較的構造の小さい化合物を代謝す る.生成した代謝物が毒性を示すことが多く,
薬理学的および毒性学的に重要な P450 である.
CYP2E1 はアルコールなどで誘導されるが,他
poly A GpppG7m
PXR
CYP3A4 PXR/RXR
miR-148a
poly A CYP3A4 mRNA
GpppG7m
CYP3A4 PXR mRNA
>
></
0 10 20 30 40 50 60
@V[; VRXP ,)DZRX 60
50 40 30 20 10 MMONJLKGeepld== 0
I
IHHZ
xs Y_` Z,)W ,)D]ZF
1 2 3 4 5 6 7 8 910 qqqqq 23 24 25
図5 miR-148a による PXR の発現制御と CYP3A4 発現量への影響
ヒト個人肝 25 サンプルを用いたウェスタンブロット分析により CYP3A4 タンパク質発現量には 50 倍以上の大きな個人差 が認められる.miR − 148a の発現量にも約 100 倍の個人差が認められ, CYP3A4 の転写活性を制御している PXR の発現を miR
− 148a が負に制御していることが CYP3A4 発現の個人差の原因となっている.
を抑制するネガティブフィードバック機構が存在 するが,そのメカニズムは不明であった.本研究 では,胆汁酸によるプロテインキナーゼ C の活性 化や活性酸素種の産生を介したシグナル伝達経路 の活性化が miR−24 および miR−34a の発現を増 加させ,それが HNF4 αの発現低下をもたらして いることを示し,メカニズムの一因に miRNA が 関わっていることを 明らかにした(図 8).
3 − 6. 芳香族炭化水素受容体(AhR)と AhR 核移行因子を制御する miRNAs と異物 応答への影響
ダイオキシン受容体として知られる芳香族炭 化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor, AhR)
は 神 経 系 に 特 異 的 に 発 現 し て い る miR−124 に よって制御されており,神経芽腫細胞では miR−
124 の発現が欠落しているために AhR 発現が増 大し,細胞の分化を亢進することが報告されて いる12).一方,AhR や 低酸素誘導因子 hypoxia inducible factor−1 α (HIF−1 α )と ヘ テ ロ ダ イ マーを形成して異物や低酸素に応答して多くの遺 伝子の転写を活性化する AhR 核移行因子 (AhR nuclear translocator, ARNT)は肝臓中で miR−24 病および肥満によってその発現量は低値を示し,
一方インスリン処置によって増大する.対して CYP2E1 はそれらと全く逆の発現変化を示すこ とが知られており,すなわち,糖尿病および肥満 において CYP2E1 発現量は増加し,インスリン 処置によって低下する.このような CYP2E1 発 現量の変化にも miR−378 が関与している可能性 があることも興味深い.
3 − 5. 肝細胞核因子 4 αを制御する miR − 24 と miR − 34a と胆汁酸合成への影響11)
肝臓や腎臓,腸管などに発現しており,非常に 多くの遺伝子発現を制御することからマスターレ ギュレーターとよばれる肝細胞核因子 4 α (hepa- tocyte nuclear factor 4 α , HNF4 α) が miRNA で制御されている可能性を検討した.興味深いこ とに,miR−34a は 3 −UTR に結合して翻訳を抑 制し,miR−24 は翻訳領域に結合して mRNA の 分解を介して発現を抑制することを明らかにした
(図 7).この発現制御は肝臓中において HNF4 α の下流遺伝子である CYP7A や CYP8B などの胆 汁酸合成酵素の発現低下を招くことが示された.
胆汁酸は HNF4 αの発現を低下させ,胆汁酸合成
18-fold 10-fold
7-fold
ys Y_` Z,)
0 5 10 15 20 25
0 5 10 15 20
miR-378 expression (/U6 snRNA) Translational efficiency (CYP2E1 protein/mRNA)
r = - 0.53 P < 0.01
0 50 100 150 200 250
0 2 4 6 8 10 12
CYP2E1 protein level (pmol/mg)
r = - 0.55 P < 0.05
CYP2E1 mRNA level (/GAPDH mRNA)
CYP2E1 e epld==
CYP2E1eepld= ,,)D(pmol/mg) CYP2E144:( (eepld==/mRNA)
miR-378,,)D (/U6 snRNA) CYP2E1 mRNA ,,))D
(/GAPDH mRNA)
図6 miR-378 による CYP2E1 の発現制御
miR − 378 は CYP2E1 の 3 − UTR に結合して発現を負に制御する.ヒト個人肝 25 サンプルにおける CYP2E1 タンパク質発 現量と mRNA 発現量との間に正の相関が認められないことから転写後調節の寄与が示され,miR − 378 発現量が CYP2E1 翻訳 効率と有意な逆相関を示したことから miR − 378 による発現制御がヒト肝臓中 CYP2E1 発現を左右していることが示された.
ORF: オープンリーディングフレーム
変化の一因となっていると考えられる.
3 − 7. ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α を制御する miR − 21 と miR − 27b と脂 肪酸代謝への影響15)
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 (peroxi- some proliferator−activated receptor, PPAR)
αは主に肝臓に発現し,脂肪酸やフィブラート系 高脂血症薬をリガンドとして,脂肪酸代謝や脂質 によって制御されていることを明らかにした13).
この制御機構は,多環芳香族炭化水素類によって 誘導される CYP1A1 や低酸素状態で誘導される 炭酸脱水素酵素 IX(膜結合型炭酸脱水素酵素の アイソザイムの1つ)の発現に影響を与えること が示された.ARNT タンパク質発現量は活性酸 素種への曝露により低下することが知られている
14).活性酸素種により miR−24 の発現量が増加す ることも示され11) ,ARNT タンパク質発現量の
**P < 0.001
5
5&CZ
miR-24: mRNA9Z ? miR-34a: 44:
HNF4 AAAAA
HNF4eepld=Z,,)
CYP7A1, CYP8B1QQ_\CYP27A1 Z
Z,) 0.0 CYP7A1 CYP8B1 CYP27A1
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
Control miR-24 miR-34a
Relative mRNA level
HNF4 target gene
****
** ** **
**
zs W Y_` Z,)
m7GpppN
HNF4ZZ'@@
mRNA..-,,)D
{s Y_` Z,)aSU5&CZ jcgbonbrikfd$"
PKC
MEK1/2 ERK1/2
miR-23a miR-27a miR-24-2
U0126 MKK3/6
p38 SB202190
miR-24 CYP7A1
miR-34a HNF4
図7 miR-24 と miR-34a による HNF4 αの発現制御
miR − 34a は 3 − UTR に結合して翻訳を抑制し,miR − 24 は翻訳領域に結合して mRNA 分解を促進して HNF4 αの発現を 負に制御する.ヒト肝癌由来 HepG2 細胞にこれらの miRNA を過剰発現させると,CYP7A1 や CYP8B1 などの HNF4 αの下 流遺伝子の発現量が有意に低下する.
図8 miRNA による HNF4 αの発現制御を介した胆汁酸合成のネガティブフィードバック機構 胆汁酸はプロテインキナーゼ C の活性化や活性酸素種の産生を介してシグナル伝達経路を活性化する.このシグナルが miR
− 24 および miR − 34a の発現を増加させる.それによって HNF4 αの発現が低下し,胆汁酸合成酵素の発現を抑制して胆汁酸 産生を抑えるネガティブフィードバック機構が働いている.PKC: プロテインキナーゼ C, ERK: 細胞外シグナル調節キナーゼ,
MEK: MAPK/ERK キナーゼ,MKK: MAP キナーゼキナーゼ
的 mRNA への結合能に影響を及ぼす.一方,pri
−miRNA や pre−miRNA 上 に SNP が あ る 場 合,
成熟過程に影響を与え,mature miRNA の発現 量が変化する場合もある19).ファーマコジェネ ティクスと miRNA 研究の融合により,これまで 解明できなかった薬効・副作用の個人差が解明で きる可能性がある.
5.おわりに
以上のように,薬・異物代謝における miRNA の役割について情報が蓄積されてきている20, 21). miRNA の発現は様々な疾患において変動し22). 薬物,毒物,発癌物質などの曝露や,ストレスに 応答して miRNA の発現が変動することも示され ている3).このような miRNA 発現の変動が,薬 物の体内動態にどの程度影響を及ぼしているか解 明することが今後の課題である.
謝 辞
本研究に携わった金沢大学薬学系薬物代謝化学 研究室の学部生,大学院生ならびに横井毅教授,
また共同研究としてご協力くださいました先生方 に深謝致します.
文 献
1) Mattick, J.S.: Non−coding RNAs: the archi- tects of eukaryotic complexity. ENBO re- ports, 2, 986−991 (2001)
2) Friedman, R.C., Farh, K.K., Burge, C.B., et al.: Most mammalican mRNAs are con- served targets. Genome Res., 19, 92−105
(2009)
3) Nakajima M., Yokoi T., MicroRNAs from bi- ology to future pharmacotherapy: regulation of cytochrome P450s and nuclear receptors.
Pharmacol. Ther., 131, 330−337 (2011)
4) Fabian, M.R., Sonenberg, N., Filipowicz, W.:
Regulation of mRNA translation and stabil- ity by microRNAs. Annu. Rev. Biochem., 79, 351−379 (2010)
5) Griffi ths−Jones, S., Saini, H.K., van Dongen, 輸送,エネルギーのホメオスタシスに関わる遺伝
子の発現を制御している核内受容体である.ヒト PPAR αの 3 −UTR は 8.4 kb と長く,結合する可 能性のある miRNA が多く予測されるが,複数の プログラムで共通して予測された miRNA の中か ら,miR−21 お よ び miR−27b が PPAR α の 翻 訳 抑制に働いていることを明らかにした15).これら の miRNA は PPAR αの下流遺伝子であるアシル CoA 合成酵素の常在的発現量だけでなく,フィ ブラート系高脂血症薬による発現誘導も抑制し,
脂肪酸代謝に影響を与えていることが示された.
軟骨細胞における PPAR αは miR−22 によって 制御されていることが報告されている16)が,著 者らにおけるヒト肝癌由来細胞株を用いた実験で は,miR−22 による PPAR αの発現への影響は認 められず,組織や細胞によって発現制御に関わる miRNA が異なることを示す一例となった.
4.miRNA とファーマコジェネティクス
ファーマコジェネティクス(薬理遺伝学)は薬物 代謝酵素が中心となって発展してきた分野であ る.薬物代謝酵素に遺伝子変異が存在すると,酵 素活性や発現量が変動することで,薬効や副作 用に個人差を生じる.これまで,翻訳領域や 5
−上流領域に存在する遺伝子変異についてはかな り研究されてきたが,3 −UTR に存在する遺伝 子変異についてはその影響の解析が見過ごされて きた,あるいは未解明である例が多い.miRNA は主に 3 −UTR に結合することから,3 −UTR に存在する遺伝子変異,特に一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)に注意を払う必 要性がある.実際,ジヒドロ葉酸還元酵素 (di- hydroforate reductase, DHFR)17)や硫酸転移酵 素 (sulfotransferase, SULT) 1A118)の 3 −UTR に 存在する SNP が,miRNA の結合能に影響を及ぼ し,酵素発現量に個人差をもたらす原因となるこ とが示されている.
SNP は 300 〜 1000 塩基に1つの割合で全ゲノ ム中に認められることから,当然,miRNA また はその前駆体上にも認められる.mature miR- NA,特に seed 配列上に SNP が存在する場合も標
nuclear translocator: a mechanism of tumor growth inhibition. Mol. Pharmacol., 70, 1664
−1671 (2006)
15) Kida, K., Nakajima, M., Mohri, T., et al.:
PPARα is regulated by miR−21 and miR−
27b in human liver. Pharm. Res., 28, 2467−
2476 (2011)
16) Iliopoulos, D., Malizos, K.N., Oikonomou, P., et al.: Integrative microRNA and proteomic approaches identify novel osteoarthritis genes and their collaborative metabolic and infl ammatory networks. PLoS ONE, 3, e3740 (2008)
17) Mishra, P. J., Humeniuk, R., Mishra, P. J., et al.: A miR−24 microRNA binding−site poly- morphism in dihydrofolate reductase gene leads to methotrexate resistance. Proc. Natl.
Acad. Sci. USA, 104, 13513−13518 (2007)
18) Yu, X., Dhakal, I.B., Beggs, M., et al.: Func- tional genetic variants in the 3'−untrans- lated region of sulfotransferase isoform 1A1
(SULT1A1) and their eff ect on enzymatic activity. Toxicol. Sci., 118, 391−430 (2010)
19) Borel, C., Antonarakis, S.E.: Functional ge- netic variation of human miRNAs and phe- notypic consequences. Mamm. Genome, 19, 503−509 (2008)
20) Yokoi, T., Nakajima, M.: microRNAs as me- diators of drug toxicity. Annu. Rev. Phar- macol. Toxicol., 53, 377−400 (2013)
21) Yokoi, T., Nakajima, M., Toxicological impli- cations of modulation of gene expression by microRNAs. Toxicol. Sci., 123, 1−14 (2013)
22) Lu, M., Zhang, Q., Deng, M., et al.: An analy- sis of human microRNA and disease asso- ciations. PLoS One 3, e3420 (2008)
S., et al.: miRBase: tools for microRNA ge- nomics. Nucleic Acids Res., 36, D154−D158
(2008)
6) Tsuchiya, Y., Nakajima, M., Takagi, S., et al.:
MicroRNA regulates the expression of hu- man cytochrome P450 1B1. Cancer Res., 66, 9090−9098 (2006)
7) Mohri, T., Nakajima, M., Takagi, S., et al.:
MicroRNA regulates human vitamin D re- ceptor. Int. J. Cancer, 125, 1328−1333 (2009)
8) Komagata, S., Nakajima, M., Takagi, S., et al.: Human CYP24 catalyzing the inactiva- tion of calcitriol is post−transcriptionally regulated by miR−125b. Mol. Pharmacol., 76, 702−709 (2009)
9) Takagi, S., Nakajima, M., Mohri, T., et al.:
Post−transcriptional regulation of human pregnane X receptor by micro−RNA aff ects the expression of cytochrome P450 3A4. J.
Biol. Chem., 283, 9674−9680 (2008)
10) Mohri, T., Nakajima, M., Fukami, T., et al.:
Human CYP2E1 is regulated by miR−378.
Biochem. Pharmacol., 79, 1045−1052 (2010)
11) Takagi, S., Nakajima, M., Kida, K., et al.:
MicroRNAs regulate human hepatocyte nuclear factor 4 α , modulating the expres- sion of metabolic enzymes and cell cycle. J.
Biol. Chem., 285, 4415−4422 (2010)
12) Huang, T.C., Chang, H.Y., Chen, C.Y., et al.:
Silencing of miR−124 induces neuroblasto- ma SK−N−SH cell diff erentiation, cell cycle arrest and apoptosis through promoting AHR. FEBS Lett., 585, 3582−3586 (2011)
13) Oda, Y., Nakajima, M., Mohri, T., et al.: Aryl hydrocarbon receptor nuclear transloca- tor in human liver is regulated by miR−
24. Toxicol. Appl. Pharmacol., 260, 222−231
(2012)
14) Choi, H., Chun, Y.S., Kim, S.W., et al.: Cur- cumin inhibits hypoxia inducible factor−
1 by degrading aryl hydrocarbon receptor
MicroRNAs regulating metabolism of drugs, xenobiotics and endobiotics
Miki Nakajima
Drug Metabolism and Toxicology, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Kanazawa University
Abstract
MicroRNAs (miRNAs) are endogenous 〜 22−nucleotide non−coding RNAs that regulate gene expression through the translational repression or degradation of target mRNAs. The human genome contains over 2,000 miRNAs and over 60% of human mRNAs are predicted to be targets of miRNAs. The miRNAs have roles in fi ne−tuning the expression of their target genes forming intricate networks. Research on miRNA is growing exponentially, and it is now clear that miRNAs can potentially regulate every aspect of cellular and physiological processes. The roles of miRNAs in the metabolism of xenobiotics and endobiotics have recently been revealed. This review describes the current knowledge on the regulation of cytochrome P450s and transcriptional factors by miRNAs, and its physiological and clinical significance, which were disclosed in our studies.
Drugs, chemicals, carcinogens, hormones, stress, or diseases readily alter the miRNA expression.
The dysregulation of specifi c miRNAs might lead to changes in the drug metabolism potency or pharmacokinetics as well as pathophysiological changes. In the field of pharmacogenomics, the evaluation of miRNA−related polymorphisms would provide useful information for personalized medicine.
Key words : post−transcriptional regulation, drug−metabolizing enzymes, pharmacokinetics, interindividual variability, sensitivity
Received 20 April 2013 ; accepted 14 May 2013