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過冷却促進物質

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Academic year: 2021

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過冷却促進物質

1. はじめに

 過冷却促進物質とは非束一的に水の 凍結温度を低下させる物質の総称であ り,束一的現象である濃度依存のモル 凝固点降下に比べ,100 分の 1 から 1 000 分の 1 の低濃度で同等以上の凍 結温度の低下をもたらす.このように 低濃度で水を凍りづらくする過冷却促 進物質はさまざまな応用の可能性を持 つが(図 1),実際の応用には今後さ らなる研究を待たねばならない.ここ では過冷却促進物質の研究の現状を述 べる.

2. 過冷却促進物質の多様性

 われわれは寒冷地の樹木において,

-40℃まで過冷却して越冬する細胞に 過冷却を促進させる 4 種類のフラボノ イド配糖体および 4 種類の加水分解型 タンニンが存在することを明らかにし た.さらに,これらポリフェノールの 類似物質として,26 種類のフラボノ イド配糖体(1)および 25 種類のタンニ ン関連化合物(2)が過冷却促進物質であ ることを明らかにした.これらに加え,

これまでに,不凍たんぱく質,不凍糖 たんぱく質,バクテリア由来の分泌た んぱく質と多糖,テルぺノイド類,フェ ニールプロパノイド類,ポリビニール アルコール,ポリグリセロール(リス トは文献(3)参照),エチレングリコー ルおよび多数の界面活性剤(4)が過冷却 促進物質として同定されている.この ように非常に多様な化合物が過冷却活 性を示すことがわかってきた.

3. 氷核の違いによる活性の変化

 上述の過冷却促進物質が示す過冷却 活性は最大で 10℃前後(過冷却促進 物質の有無による凍結温度の違い)で あるが,この活性は過冷却促進物質の 種類と,水溶液中に含まれる氷核の種 類の違いにより大きく変動する.われ われの実験では,氷核形成物質として,

2 種類の氷核形成細菌,ヨウ化銀,フ ロログルシノールあるいは意図せずに 水溶液中に含まれる夾きょう雑物のみを含む 水溶液に過冷却促進物質を添加して活 性を測るが,過冷却活性の度合いの違 いとともに,ある種の氷核には活性を 示すが,ほかには示さない物質が多く

見られ,これら用いたすべての氷核に 対して活性を示す過冷却促進物質は少 数であった.また,これら過冷却促進 物質単独では,水分子自体が氷核にな る(均質核形成による)凍結には作用 せず,溶液中に含まれるなんらかの異 物が氷核になる(不均質核形成による)

凍結にのみ作用することが明らかに なった.過冷却促進物質の構造的多様 性とともに,氷核の種類による過冷却 活性の変動は,過冷却促進物質による 過冷却促進のメカニズムの解明を難し くしている.

4. 水量・振動による影響

 上述の過冷却促進物質による過冷却 活性はいずれも,エマルジョン凍結法

(オイルに分散した直径 10

μm 以下の

小液滴),またはドロップレット凍結 法(銅板上の液量約 2

μL の小水滴=

直径 2~3mm)による,いずれも非常 に少量の水について得られた結果であ る.しかし,実際の応用においては,

なんらかの容器に入れた,大容量の水 を,これも過冷却の破れの重要な要素 として考えられている振動のある状態 で過冷却させる必要がある.このよう な実験はほとんどなされてこなかった が,われわれはポリエチレン容器に入 れた,1mL の水溶液を,強振動させ た状態で過冷却活性を測定している.

その結果,過冷却促進物質は他の溶質

(糖や塩など)との相互作用により,

過冷却活性の上昇と安定性が得られる ことを明らかにした.現在,複数の過 冷却促進物質と低濃度の溶質を加える ことにより 1mL の水溶液を振動下で も -20℃まで安定的に過冷却できるよ うになっている.

5. おわりに

 水の凍結をコントロールする物質と して,これまでに氷核形成物質と不凍

(糖)たんぱく質が知られており多く の研究がなされてきた.しかし,過冷 却促進物質はようやくその存在が明ら かになったばかりであり,今後,多く の基礎的および応用的研究が行われる ことにより,過冷却促進物質の広範な 応用が期待される.

(原稿受付 2016 年 1 月 6 日)

〔藤川清三 北海道大学名誉教授〕

●文 献

( 1 )Kuwabara, C., ほ か,Freezing Activities of Flavonoids in Solutions Containing Dif- ferent Ice Nucleators, Cryobiology, 64

(2012),279-285.

( 2 )Kuwabara, C.,ほか,Analysis of Super- cooling Activity of Tannin-related Polyphe- nols, Cryobiology, 67(2013),40-49.

( 3 )Kasuga, J.,ほか,Deep Supercooling Xy- lem Parenchyma Cells of Katsura Tree Contain Flavonol Glycosides Exhibiting High Anti-ice Nucleation Activity, Plant Cell Env., 31(2008),1335-1348.

( 4 )Kuwabara, C.,ほか, Analysis of Super- cooling Activities of Surfactants, Cryobiol- ogy, 69(2014),10-16.

図1 過冷却促進物質の応用の可能性 凍結保存から過冷却保存への転換

凍結制御剤

過冷却水の作成

植物への低温耐性の付与 降雪量調節 材料表面の塗装による結氷防止

冷却剤

・臟器保存 ・生鮮食品の保存 ・食品原料(ジュースなど)

    原料の輸入

・凍結しないと 80 cal/g の    エネルギー削減

・大型コンピューター,車の  エンジン冷却剤など,石油  系に代わる冷却剤としての  応用

・凍結保存への応用

・過冷却機

予熱器

・冷凍庫着霜防止 ・車窓ガラス曇り防止 ・トンネル結露防止

過冷却 解消器 氷スラリー

貯氷糟

需要端

・氷点下温度で 凍結しないで生 長する植物の作出

・雲への散布により氷晶 化を抑制することで,

降雪量を調整 

・氷蓄熱・輸送システムによる電力利用の平準化

─ 41 ─

日本機械学会誌 2016. 3 Vol. 119 No.1168 161

責_P041_13_藤川氏.indd 41 2016/02/25 23:53:07

参照

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