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原発性胆汁性肝硬変に関する研究   

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Academic year: 2021

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厚生労働科学研究費補助金  (難治性疾患等政策研究事業) 

難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究  分科会総括研究報告書 

 

原発性胆汁性肝硬変に関する研究   

研究分担者  田中  篤 

帝京大学医学部内科学講座  教授

 

 

 

A.研究目的・方法 

平成 26 年度〜28 年度における本研究班 においての原発性胆汁性肝硬変(PBC)分 科会の目的は、まず、最近発表された国内 外のエビデンスに基づいて、平成 25 年度 に作成した診療ガイドラインを改訂する ことであり、あわせて現行のガイドライン に不足している箇所のエビデンスを新た に創出することである。続いて患者向けガ イドラインの改訂を行う。 

この目的を達成するため、平成 27 年度 には以下の活動を行った。 

1.PBC 全国調査に基づく全国調査におけ る肝移植症例の検討 

2.肝不全に至った PBC 症例の調査研究  3.大西班において登録されたベザフィブ ラート投与 PBC 症例の追跡調査 

4.肝不全進行例、高齢症例を中心とした PBC の臨床病理学的検討 

5.PBC における胆管細胞破壊に関与する 細胞集団の階層性研究 

6.ベザフィブラート投与 PBC 症例におけ る UDCA 投与量の検討 

7.日本人 PBC 患者における生活の質の検 討 

 

B.研究結果・考察 

1.PBC 全国調査に基づく全国調査におけ る肝移植症例の検討(廣原研究協力者) 

本邦における PBC 全国調査は、当班に 所属する関西医科大学の廣原研究協力者 らにより、1980 年から継続して 15 回実施 されている。この全国調査によって本邦に おける PBC 患者多数例の実態および経過 が明らかになり、指定難病である PBC に対 する政策立案に大きく貢献している。 

今年度は、全国調査によって登録された 8,509 例の PBC 症例中、141 例(男性 10 例  女性 131 例、移植時平均年齢 51.3 歳、

診断から移植までの平均期間 67.2 ヶ月、

移植後観察期間 63.9 ヶ月)の肝移植例に 焦点を当て検討を行った。その結果、年代 別検討では予測死亡率のやや高い症例に 対して移植が施行される傾向にあり、肝移 植群は予測死亡率約 80%の段階で施術さ れており、移植時の余命は約 2〜3 ヶ月で あったと推定された。結論として、本邦に おける PBC の肝移植は適切な時期に実施 されており、移植後 5 年生存率は 86.4%、

10 年生存率は 82.0%と本邦における PBC の肝移植は適切な時期に実施され良好な 成績を納めていることが明らかとなった。

これは現在移植時期の判定に用いられて いる判定基準の妥当性を裏付けるもので ある。 

 

2.肝不全に至った PBC 症例の調査研究

(中村研究協力者) 

ウルソデオキシコール酸(UDCA)治療に より PBC の予後は改善しつつあるが、未だ 肝不全に進行し肝移植が必要となる症例 が少なからず存在する。これらの症例の重 症化機構の解明と新しい治療法の開発は、

PBC 研究に残された重要な課題のひとつ である。肝不全・肝移植に至った症例を解 析した結果、その特徴として、経過観察開 始時から既に総ビリルビンが 1.5mg/dl 以 上と進行している症例が多いこと(71.8%)

が明らかとなった。これは、PBC を発症し ていても、早期に発見・診断され、適切な 治療を受けることなく経過し、進行してか らはじめて PBC と診断される症例が肝不 全・肝移植に至る可能性が高いことを意味 する。また、gp210 抗体陽性、UDCA 治療に 対する ALT 反応性不良であることが、肝不 全・肝移植の危険因子(順に OR 10.1,  13.9)であることが確認された。さらに、

GWAS の解析から黄疸・肝不全進行に関連

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した疾患関連遺伝子protein Xを同定した。

これらの結果から、PBC の早期診断の重要 性、また PBC 症例の中でも重症化しやすい 症例や UDCA 不応例に対する追加治療の必 要性が改めて確認された。 

 

3.大西班において登録されたベザフィ ブラート投与 PBC 症例の追跡調査(松崎 研究協力者) 

現在,ランダム化二重盲検比較試験で PBC に対する長期予後の改善効果が証明 されている薬剤は UDCA のみであるが,

UDCA の単独投与で生化学的改善が得られ ない症例が 20%程度存在する。ベザフィブ ラート(BF)は高脂血症治療薬であるが,

PBC 患者の胆汁うっ滞を改善させること が本邦より多数報告され,過去の当研究班

(大西班)で行われた多施設共同無作為化 臨床試験にて,PBC 患者に対する短期的効 果が確認された(Iwasaki et al. Hepatol  Res 2008; 38: 557‑564)。しかし,その長 期予後改善効果はいまだ明らかにされて おらず,上記の多施設共同無作為化臨床試 験に参加した症例のその後の転帰も不明 である。 

本研究では,同臨床試験において UDCA と BF の比較投与試験が行われた症例の追 跡調査を行い,症例回収率 92.5%,施設回 収率 86.4%が得られた。血清 ALP の低下効 果は BF のほうが UDCA より強く,UDCA 単 独より UDCA+BF のほうが長期にわたり低 く維持される傾向があった。一方,γGTP の低下効果は UDCA のほうが BF より強く,

UDCA 単独と UDCA+BF で差がない可能性が 示唆された。PBC 関連死亡例は,試験開始 時点で既に肝・胆道系酵素が高値で,いず れも治療によってトランスアミナーゼが 正常化しない症例であり、ここでも UDCA(+BF)不応例に対する追加治療の必要 性が裏付けられた。 

 

4.肝不全進行例、高齢症例を中心とし た PBC の臨床病理学的検討(橋本研究協 力者) 

また、他の high volume center におい て、肝不全進行例・超高齢者症例の検討を 行った。肝移植施行・登録例としては、末

期 PBC に対し生体部分肝移植施行 20 例(移 植時年齢中央値 50 歳、女性 19 例、肝移植 後 6−180 ヶ月)と脳死肝移植登録した 1 例(56 歳男性)中、移植前に PBC+自己免 疫性肝炎(AIH)を合併したオーバーラッ プ例が 5 例(全例 PBC と AIH が同時診断、

診断時年齢中央値 42 歳、男性 2 例)が含 まれ、最近 5 年の肝移植 5 例中 4 例がオー バーラップ例で、3 例が gp‑210 抗体陽性 であった。移植後 10 年以上経過した 10 例の肝組織では、5 例で PBC 再発を確認、

4 例で PBC 再発に矛盾しない所見を認め、

直近肝組織の Ludwig 分類は全例 Stage1 か 2、であった。<オーバーラップ例>PBC 全 582 例のうち、オーバーラップ例でステ ロイド投与適応と判断されたのは 40 例で、

実際にステロイドが投与された 27 例中 78%が著効した。ステロイド無効例の特徴 は、ALP 高値、SMA 抗体陰性、gp210 陽性 であり、ステロイド治療への反応性で予後 が異なった。<高齢 PBC の特徴>PBC 全 582  例のうち、経過中 80 歳以上まで生存確認 しえた超高齢群は 61 例で、超高齢群の肝 病態は非高齢者と差異を認めないが、死因 は異なり、肝細胞癌、心血管病変、他臓器 悪性腫瘍、感染症が増加した。PBC+AIH オーバーラップ例には比較的若年で肝不 全に進行する例がある。生体肝移植した PBC では、PBC 再発を認めるが組織学的進 行は Stage 2 までに留まり、注意すべき病 態は、脂肪肝、de Novo AIH、他臓器癌な どの合併である。オーバーラップ例でもス テロイドは約 80%著効し、著効例の予後 は良好であった。超高齢 PBC 群の死因では 肝細胞癌非合併肝不全が減少し、高齢者に 伴いやすい疾患による死亡が増加した。 

 

5.PBC における胆管細胞破壊に関与す る細胞集団の階層性研究(下田研究協力 者) 

このように、UDCA 不応例に対する新規薬 剤の開発が PBC に対する臨床研究の中心 的課題の一つとなっている。しかし、PBC をはじめとする臓器特異的自己免疫疾患 において、自然免疫の異常と獲得免疫の異 常の両者の関係について明らかにした研 究に乏しく、自然免疫と獲得免疫の両方に

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関わる分子あるいはパスウェイが今後の 治療標的になる可能性が高いと考えられ る。このような視点から、胆管細胞での AE2 発現低下が胆管細胞に及ぼす影響、NK 細胞による胆管破壊が自然免疫ならびに 獲得免疫に与える影響について、生体肝移 植時の摘出肝由来の胆管細胞を用いて検 討した。胆管細胞は疎水性胆汁酸刺激によ ってケモカインの産生を亢進させ、このケ モカインによって誘導される NK 細胞は、

NK 細胞/胆管細胞の比率が高い場合に胆 管細胞を破壊し、破壊された胆管細胞から は抗ミトコンドリア抗体の対応自己抗原 であるピルビン酸脱水素酵素 E2 コンポー ネント(PDC‑E2)を含むミクロ粒子が放出 された。このミクロ粒子を貪食した抗原提 示細胞は PDC‑E2 反応性自己 T 細胞を活性 化し T 細胞からの IFN‑γ産生を促した。

一方、NK 細胞/胆管細胞の比率が低い場合 には、NK 細胞は胆管細胞を破壊せず、IFN‑

γを産生し、IFN‑γは胆管細胞での HLA  class I 発現を亢進させ、以後の NK 細胞 による胆管細胞傷害は回避された。 

以上より、胆管細胞を介した NK 細胞と 自己反応性 T 細胞の反応は IFN‑γによっ て制御されていることが明らかになった。 

 

6.ベザフィブラート投与 PBC 症例にお ける UDCA 投与量の検討(山際研究協力者) 

本研究班より発行された PBC 診療ガイド ラインでは、治療の第一選択として体重に 関わらず UDCA 600mg/day 投与が推奨され,

効果不十分の場合には BF 追加投与前に 900mg/day への増量が推奨されている。BF 投与 PBC 症例における UDCA 投与の現状に ついて解析し、BF 追加前の UDCA 増量の必 要性や、BF 追加後の UDCA 減量の可能性に ついて検討することを目的として、新潟県 内の多施設共同研究に登録された PBC 359 例を対象として BF に併用されている UDCA 投与量別に臨床背景などを解析した。BF 併用により UDCA 投与量に関わらず ALP 値 とγ‑GTP 値の有意な低下が認められたが,

UDCA 600mg/day では体重 1kg 当りの投与 量が欧米のガイドラインで推奨されてい る下限値の 13mg/kg BW/day 未満となる症 例が多く,効果不十分な場合には

900mg/day への増量を考慮した上で BF 投 与の必要性について十分に検討する必要 があると考えられた。 

 

7.日本人 PBC 患者における生活の質の 検討(田中研究分担者) 

PBC 患者は潜在的に様々な自覚症状を有 しているが、日本人 PBC 患者におけるその 実態は明らかになっていない。われわれは PBC 特異的 QOL 評価尺度である PBC‑40、お よび疲労度評価尺度 FFSS を用いて、外来 通院中の日本人 PBC 患者 180 例を対象とし て日本人 PBC 患者の自覚症状を解析した。

その結果、疲労・皮膚掻痒・乾燥それぞれ の症状について 26%、31%、54%の PBC 患者 が中等度以上という評価をしており、すべ ての症状に対して「なし」、あるいは軽度 という評価をしたのは全体の 32%であっ た。皮膚掻痒は肝硬変の有無と、乾燥は年 齢との間に相関がみられた。 

従来、本研究班の全国調査では、PBC 患 者の自覚症状は医師による評価・報告に 基づいて評価され、症状のない無症候性 PBC は全体の 70〜80%を占めると報告され てきた。しかし、今回のように調査票を用 いた患者の報告に基づく評価を行うと、症 状のない患者は全体の 3 分の 1 程度にとど まる。近年、QOL が重要なアウトカムであ るという概念をより明確にするため、QOL に代わって「患者報告アウトカム

(patient‑reported outcome; PRO)」とい う語句がしばしば用いられるが、PBC にお いても、医師によるのではなく、患者によ る自覚症状の評価(PRO)はさらに重視さ れるべきであると思われる。 

 

8.PBC の病名変更  –  原発性胆汁性

「肝硬変」から原発性胆汁性「胆管炎」

へ   

原発性胆汁性肝硬変(primary biliary  cirrhosis)という病名は、この疾患が発 見された当時はそのほとんどの症例が肝 硬変まで至った状態で発見されていたた め、妥当な病名であったと考えられる。し かし、その後抗ミトコンドリア抗体など診 断技術の進歩、ウルソデオキシコール酸の

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導入により,現在はもっと手前,無症候性 の段階で診断がつき,進行も阻止できるた め、実際には肝硬変まで進展していない症 例がほとんどである。すなわち,原発性胆 汁性「肝硬変」という病名は,多くの患者 の病状とは乖離しているのが実情であっ た。このため、2015 年欧米では本症の病 名が Primary Biliary Cholangitis に変更 されたが、本研究班 PBC 分科会および AIH 分科会でも 2014 年に班員に対しアンケー ト調査を行い、原発性胆汁性肝硬変という 病名変更についての意識調査を行った。そ の結果、病名変更には 100%の同意が得ら れた。これを受け、2015 年 12 月に日本消 化器病学会・日本肝臓学会に対し、研究班 として PBC の病名変更(原発性胆汁性「肝 硬変」から原発性胆汁性「胆管炎」)につ いての提言を行った。 

参照

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