移動・環境要因を用いた機械学習による猿の出現予 測
著者 中井 一文
発行年 2016‑12
出版者 静岡大学
URL http://doi.org/10.14945/00010237
(課程博士・様式7)(Doctoral qualification by coursework,Form 7)
学 位 論 文 要 旨
Abstract of Doctoral Thesis
専 攻: 情報科学専攻 氏 名:中井 一文 論文題目:移動・環境要因を用いた機械学習による猿の出現予測
論文要旨:
本論文は,猿による農作物への被害対策を目的に,猿の出現予測を行う手法を提案した.
研究では,猿の行動を数年間に渡りワイヤレスセンサーにより収集した移動情報と出現場 所周辺の環境情報を用いた機械学習等の計算機処理により出現予測を実現した.
序章では,本研究の背景,必要性,目的と,提案手法の有用性について述べた.
2章では,本研究の原理について説明した.本研究に関連する既存手法,先行研究や当該 研究分野の状況,動物の行動調査等についてまとめた.また,提案する猿の出現予測シス テムの原理を述べ,ワイヤレスセンサーネットワークを用いて構築した実験システムにつ いて説明した.さらに,実験システムにより長期間収集した猿の行動データについてまと めた.
3章では,猿の集落間の移動を時系列で表現した移動要因を適用したマルコフモデルベー スの予測手法を提案し,実験による予測結果をまとめた.実験データから,猿の 1 日単位 の移動情報をマルコフチェインを用いてモデル化し,マルコフの状態遷移確率を基に猿の 出現予測を行った.マルコフチェインの状態遷移確率を計算し,単純マルコフチェインを 状態遷移図として表現したところ,集落間の距離や集落毎の特性により,猿の移動が特徴 付けられる可能性を示した.マルコフチェインによる予測では,単純マルコフチェインか ら5重マルコフチェインまでを使って予測精度を比較した結果,2重マルコフチェインの予 測性能がもっとも良く,猿の出現・非出現を予測する2クラス問題では,57.5 %の正解率 が得られた.同様の手法を用いた,猿の出現する集落を予測するマルチクラス問題では,
正解率が31.5 %となった.集落毎の正解率を比較したとき,マルコフチェインの状態遷移
確率を計算するための教師データ数が多い場所ほど高い正解率が得られた.教師データ数 が多いほど,実際の猿の移動を近似したモデルになっていると考えられる.
4章では,天気,温度,曜日等の環境要因をパラメータとして,猿の出現との相関関係を 明らかにし,機械学習を用いた猿の出現予測を行った結果を示した.実験では,猿の出現
と環境要因の変化をSVM(Support Vector Machine)で機械学習することで,非線形な猿の 出現を予測した.ここでは,8種類の環境要因を用いることで,1時間単位の猿の出現予測 を実現した.さらに,論文の総括として,移動要因を用いたマルコフモデルと環境要因を 学習したSVMを組み合わせる予測手法を提案し,提案システムの有効性を示した.1時間 単位で猿の出現の有無を予測したところ,ベイズ推定では正解率が 14%であったのに対し て,SVMを用いた提案手法では31%の正解率が得られた.本実験で採用した環境要因は単 独では猿の出現と強い相関を持たないが,提案手法において 8 種類全ての環境要因を取り 入れ,機械学習を適用することで予測精度の向上を実現した.移動要因と環境要因は基本 的には独立した予測要因であり,マルコフモデルベースとSVMの手法を組み合わせて出現 予測を行うことで,SVM単独で予測した場合と比較して5%ほど予測精度を向上させるこ とができた.
5章では,本論文のまとめと今後の展望について述べた.本研究全体の成果として,移動 要因と環境要因の各要因に適した予測手法を適用し,其々の予測結果を統合することで,
予測精度が向上することを確認した.移動要因の観点からは,猿の 1 日単位の行動に線形 性が確認されたことから,マルコフモデルベースの予測を適用した.また,環境要因の観 点からは,猿の1時間単位の出現傾向に非線形性が見られたため,SVMによる機械学習を 用いて出現予測を実現した.さらに,マルコフモデルベースとSVMによる予測を組み合わ せることで,予測精度を向上させることに成功した.
本研究により,猿の獣害対策を目的とした新たな出現予測手法として有効な手法を提案 できた.現在までは農作物被害を予防するための猿の出現予測の手法が確立されていなか ったが,本研究の結果,猿の移動や環境要因との関連性を予測に取り入れることで,直接 的な指標がなくても猿の出現を予測できる可能性が示された.