日本語版主観的運動体験尺度を用いた運動後の感情変化に関する研究 [ PDF
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(2) 表2. 運動後におけるSEES-JとPOMSの相関係数 SEES- J: 運動後 PD PWB POMS: 運動後 FAT F 0.80 * * 0.69 * * - 0.24 * TMD 0.58 * * 0.84 * * - 0.34 * * V - 0.20 * - 0.43 * * 0.82 * * SEES. FAT PD PWB V F TMD. POMS. 疲労感 * * p<.01 心理的ストレス * p<.05 積極的安寧 活力 疲労 トータルムードディスターバンス. において 0.82 であり,運動後にも 0.81 と強いものであ ったが,サッカーの標準化共分散係数は,運動前に 0.81 であるが,運動後には 0.26 と弱くなっていた. これらの結果は,サッカーの疲労感の高まりが著しい ものであるにも関わらず,心理的ストレスには種目間の 差が生じていないことを結びつけるものであった. 以上のことから,動的な運動による疲労感が必ずしも ネガティブ感情に結びつくものではないことが示された. 3)感情変化に関係する疲労感の違い 第 4 章においては,前章によって示された疲労感の影 響について更に細かく分析を試みるため,疲労感の変化 パターンと運動前後の感情変化,及び感情の因子間の相. ら,収束妥当性,弁別妥当性が示された.. 互関係を明らかにすることを目的とした.. 以上のことから,信頼性及び妥当性が確認され,「疲. 調査対象者は,大学生及び短大生 727 名であった.. 労感」 「心理的ストレス」 「積極的安寧」各4項目による. SEES-J によって調べられた疲労感因子の得点を標準化. 3 因子構造をなす質問紙,日本語版主観的運動体験尺度. して,2 つのカテゴリーに分類した.運動前後の組み合. が作成された.. わせから A 群から D 群までの 4 群を抽出した.. 2)感情変化に関係する運動様式の違い. A 群:運動前に低疲労に位置した人が,運動後にも低. 第 3 章においては,運動様式の異なる種目の感情変化 の違いを分析した.運動課題としては,静的な運動であ. 疲労のままであった人たちの群. B 群:運動前に低疲労だった人が,運動後に高疲労に. るストレッチと動的な運動であるサッカーが採用された. 調査対象者は大学生 257 名(ストレッチ 103 名,サッ. なった人たちの群. C 群:運動前に高疲労であった人が,運動後に低疲労. カー154 名)であり,体育実技の前後に調査を行った.. になった人たちの群. D 群:運動前に高疲労であった人が,運動後にも高疲. ストレッチ前. ストレッチ後. サッカー前. サッカー後. 労のままであった人たちの群.. 25. 得点. 20. つまり何らかの運動を行って疲労感に変化が生じた のは,B 群と C 群であり,B 群は運動によって疲労感が. 15. 増した者,C 群は運動によって疲労感の訴え,愁訴が減. 10. 少した者の群と考えられる.. 5 0 疲労感. 心理的ストレス. 積極的安寧. 図1. ストレッチとサッカーのSEES-Jの得点変化. チにおいて,疲労感と心理的ストレスは低下,積極的安 寧は増加を示した.一方でサッカーは,疲労感と心理的 ストレスは増加,積極的安寧は減少を示していた.心理 的ストレスは種目間の主効果に有意差はなく,積極的安 寧は運動前後の主効果にも有意差は示されなかった.そ して,すべての因子で有意な交互作用がみられたため, ストレッチとサッカーでは変化のパターンが異なるもの と思われた. また,運動後の因子間の関わりは,運動の様式によっ て異なるものであった.ストレッチにおいて疲労感因子 と心理的ストレス因子との標準化共分散係数は,運動前. 得点. その得点の変化を図1に示した.分析の結果,ストレッ. 14 12 10 8 6 4 2 0. 運動前 運動後. A群. B群. C群. D群. 図2. 心理的ストレス得点の変化. 図 2 は各群の心理的ストレス因子の得点における運動 前後の変化を示したものである.有意な変化を示した群 は B 群と C 群であり,その変化の方向は異なり,B 群は 増加,C 群は減少を示した. 図 3 は各群の積極的安寧因子の得点を同様に示したも.
(3) 運動前 運動後. 20. 明らかとなった. 4)感情変化に関係する運動前の疲労感. 15 得点. 感情とポジティブ感情の負の関わりを引き起こすことが. 第 5 章においては,運動前の疲労感が感情変化に及ぼ. 10. す影響を確認し,疲労感が運動指導の有効な事前情報と. 5. 成り得るかを確認することを目的とした.調査対象者は. 0 A群. B群. C群. D群. 図3. 積極的安寧得点の変化. 大学生及び,短期大学生 727 名であった.運動前の疲労 感を標準化して 2 つのカテゴリーに群分けし,種目別に 感情の変化が確認された.. のである.B 群以外は有意な改善が運動後にみられたが, 得点自体は B 群の方が好ましい心理状態にあることが示. した結果,低疲労から高疲労に変化した B 群だけに心理. e2. e3. e4. 落胆した. つまらない. 悲しい. ひどい. バ. e1. 高疲労群の運動後の得点. ス ケ ッ トボ ー ル イン デ ィア カ ス トレ ッ チ. 的ストレス因子と積極的安寧因子間に負の相関が生じた.. 高疲労群の運動前の得点. 16 14 12 10 8 6 4 2 0. テ ニ ス サ ッ カ ー ド ッシ ゙ホ ゙ー ル バ ド ミン トン. 得点. 次に,因子間の関連を多母集団同時分析によって比較. 低疲労群の運動後の得点. 卓 球. された.. 低疲労群の運動前の得点. 図 5. 種目別心理的ストレス因子得点の変化 .61. .79. .80. 心理的ストレス因子の変化を図 5 に示した.心理的ス. .60. トレス因子の変化としてはインディアカとサッカーを除 PD. き有意な交互作用がみられた.そして,比較的低強度の 運動であろうと考えられる種目を実施した後に,高疲労. - .39. 群の心理的ストレス因子は減少している傾向が示された. PWB. また,積極的安寧因子の変化を図 6 に示した.積極的 .72. 積極的な. 素晴らしい. 力強い. e8. e7. e6. e5. 得点. 希望に満ちた. 的ストレス因子が高い人は積極的安寧因子が低く,心理 的ストレス因子が低い人は積極的安寧因子が高い状態に. 高疲労群の運動前の得点. 高疲労群の運動後の得点. 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0. バ. このことは,身体的に疲労感の高まった状態では,心理. 低疲労群の運動後の得点. ス ケ ッ トボ ー ル イン デ ィア カ ス トレ ッ チ. 図4. 心理的ストレス因子と 積極的安寧因子の相互関係(B群). 低疲労群の運動前の得点. テ ニ ス サ ッ カ ー ド ッシ ゙ホ ゙ー ル バ ド ミン トン. .87. 球. .73. 卓. .77. 図 6. 種目別積極的安寧因子得点の変化. あることを示した.図 4 は B 群のモデルにおける因子負. 安寧因子の変化としては,バスケットボールとサッカー. 荷量に等置制約を加えたものである.等置制約を加えな. 以外の種目において,運動前後の主効果が有意であり増. いモデル,共分散にも等置制約を加えたモデルと比較し. 加が示された.しかしながら,高強度運動実施者の得点. た場合,GFI=0.936,RMSEA=0.041 の値を示し,赤池. そのものは望ましい水準であった.. 情報量からも因子負荷に等置制約を加えたモデルが採択 された. これらのことから,身体的な疲労だけが,ネガティブ. これらの結果から,運動前に疲労感の高い者は,低強 度の運動をすることによって心理的ストレス因子が減少.
(4) することが示しており,運動前の疲労感が高い者には, 低強度の運動実施が適切であることが示唆された.. 般則である適合度の基準を満たすものであった. 各パラメータを運動種目ごとに比較すると,疲労感因. 次に,運動前の疲労感の違いによって SEES-J におけ. 子から心理的ストレス因子への影響は運動強度が高まる. る各因子の得点が異なったのかを明らかにするために,. にしたがって関係が弱くなり,心理的ストレス因子と積. 各因子の関わりを確認した.. 極的安寧因子における共変動は,運動強度が高まるにし. そこで,SEES-J が FS に及ぼす影響を確認するため. たがって関係が強くなっていたことが示された.. に,比較的サンプル数の多い種目のみを抜粋して,運動. 図8は疲労感因子から心理的ストレス因子への影響. 前後と運動種目ごとの多母集団同時分析をそれぞれ行っ. を示したものである.このグラフの横軸は,先行研究に. た.図 7 は運動後における FS を SEES-J の因子によっ. よって示された運動強度を基にして強度が高いほど右側. て推定したモデルである.図中の Q は SEES-J における. に順に配列している.この図から,運動強度が高まるに. 質問項目の番号を示している.運動前後の同時分析のモ. つれ,必ずしも疲労感がネガティブに受け止められるの. デルにおいて GFI は 0.942,RMSEA は 0.052 と一般則. ではないことが示唆された.. である適合度の基準を満たすものであった. 1.0. おいて,運動前は-0.32 であったが,運動後の係数は-0.09. 0.8. と 小さく,フィーリングスケールの評価に対し,運動前 の疲労感因子の影響は大きいが,運動後の疲労感因子の 影響は小さなものであることが示された.そして,FAT 因子から PD 因子への標準化係数は,運動前が 0.79 であ. 標準化係数. FAT 因子によって示される疲労感から FS への係数に. 0.6 0.4 0.2 0.0 ストレッチ. ったが,運動後には 0.51 と関わりが弱くなっていた.こ. 卓球. テニス. サッカー. のことから,運動前の疲労感は心理的ストレスと関連が 強く,運動前の疲労感の高さが高い心理的ストレス状態. 図8. 疲労感(FAT)因子から 心理的ストレス(PD)因子への影響. を招くため改善の余地が大きく,運動による効果が得や これらのことから,運動前の疲労感による感情変化は. すかったと考えられる. また,同様の配置である運動種目の同時分析の結果, 適合度としては,GFI は 0.903,RMSEA は 0.034 と一. FAT 因子と PD 因子の関わりによる影響と,運動強度に よる影響が考えられた. 3.要約 1) 運動前に疲労感の高い者が低強度の運動をすると,. e1. e2 .71. Q2. e3 .49. .68. Q5. Q11. .83. .79. .24. PD. e13. .26. - .50. る傾向があった.. .62. Q8. .70. .85. ネガティブ感情が減少し,ポジティブ感情が増加す. e4. e14 .67. Q1. .59 - .09. FS. .82 .86. FAT. .91 .50. .02. .85. .13. PWB .80. Q3. Q9. .54. e7. e9 .75. Q4 Q7. .83. e6. 4.運動指導への示唆. e11. 運動実施者や指導者は運動が心理的に好ましい状況. e12. で行われているかを確認することが必要である.そのた. .72. Q10. め,運動前の疲労感を確認し,運動実施の内容を選択す ることは,ネガティブ感情の改善に有効であると考えら. .77. Q12 .76. .34. e10. e15 .87. Q6 .64. e8. .73. 労感は運動強度によっては必ずしもネガティブ感情 には結びつかないということが明らかにされた.. - .19. .51. 2) 感情因子の関わりは運動強度に依存することと,疲. .60. e5. れる.過度に高強度となる運動では,望ましい感情変化 は期待できないため,運動強度が高まりすぎないように することが大切である. 運動前後の質問紙実施によって, 好ましい感情状態を保つように心がけることが重要とな. 図7. 運動後感情尺度(FS)推定モデル. るであろう..
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