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凶器の存在が目撃者の有効視野に及ぼす影響 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)凶器の存在が目撃者の有効視野に及ぼす影響 キーワード:凶器集中効果,有効視野,目撃証言,数字同定課題,認知. 行動システム専攻 原田 佑規. 問題と目的. 周辺に呈示された数字を同定する課題である。. 強盗事件の犯人が凶器(銃や刃物など)を握っていた場. この実験の結果, 注視点と数字の偏心度が 6 度もしくは 9. 合,そうでない場合よりも,犯人の人相や衣服についての. 度の条件において,凶器あり不快条件と凶器なし不快条件. 目撃者の記憶成績は低下する。この現象は凶器集中効果. の成績は凶器なし中性条件よりも有意に低かった。一方で,. (weapon focus)と呼ばれており,目撃者証言の信憑性を. 凶器あり不快条件と凶器なし不快条件との間には有意差が. 低下させる要因の 1 つとして知られている(Loftus, Loftus,. 見られなかった。この結果は,不快な情動が有効視野を縮. & Messo, 1987) 。. 小させるという考えを支持する一方で,凶器の存在による. この現象の生起機序について,大上・大沼・箱田(2006). 縮小を支持するものではなかった。. は有効視野の関与による影響を示唆した。われわれの通常. しかしながら,山川(2009)の実験では,以下の 2 つの. 視野の中でも,特に深い認知処理ができる範囲は限られて. 疑問点がみられた。1 つ目は,中心課題を課すことによる有. おり,この範囲を有効視野という(Mackworth, 1965) 。有. 効視野への影響である。有効視野は認知負荷により縮小す. 効視野は注視点を中心とした円形をしているとされており,. ることが示されている。そのため,中心課題によって生じ. その大きさは認知の必要性に応じて縮小することが知られ. た認知負荷により凶器の存在の影響を測定できなかった可. ている。そこで,大上ら(2006)は,凶器の存在が目撃者. 能性がある。2 つ目は,各条件の刺激における背景情報の差. の有効視野を縮小させるという可能性に言及した。もしも. 異である。山川(2009)の実験で用いられた刺激は,凶器. 凶器が有効視野を縮小させるのであれば,有効視野外にあ. の存在以外の背景情報が各条件間で大きく異なっていた。. る周辺情報(犯人の人相や衣服)は認知されなくなる。そ. そのため,凶器の存在以外の剰余変数が結果に影響してし. のため,周辺情報の獲得は妨害される。そして,妨害の結. まった可能性がある。. 果として,その情報の記憶成績は低下するという仮説であ. さらに,山川(2009)の実験においては,刺激を目撃し. る。. ている際の有効視野の大きさについて測定されていなかっ. そこで,山川(2009)は,凶器の存在が有効視野に及ぼ. た。凶器を目撃しているとき,目撃者がどの程度の視空間. す影響を検討するために,数字同定課題を用いた実験を行. 的範囲を認知できるのかを明らかにすることは,目撃証言. った。その実験の中で,凶器あり不快刺激,凶器なし不快. の信憑性を査定するうえで重要なものであると考える。. 刺激,そして凶器なし中性刺激のいずれかの刺激が 200ms. そこで本研究では,山川(2009)の実験でみられた 2 つ. 呈示された。刺激の呈示が終了した瞬間,凝視点の位置に. の疑問点を改善した手続きを用いることで,以下の 2 つの. “L”もしくは“R”のアルファベットが 200ms 呈示され,. ことを検討した。1 つ目は,凶器の存在が目撃者の有効視野. それと同時に凝視点から斜め 4 方向のいずれかへ任意の偏. を縮小させるのかを検討することであった。 2 つ目は凶器を. 心度の位置(3 度,6 度,9 度のいずれか)に数字が 200ms. 目撃している際の目撃者の有効視野はどの程度の大きさな. 呈示された。この実験において,参加者の課題は中心課題. のかを検討することであった。. と周辺課題の 2 つであった。中心課題は,凝視点の位置に. 実験 1. 呈示されたアルファベットに応じてマウスをクリックする 課題である。すなわち, “L”が呈示された場合は左クリッ. 実験 1 の目的は,山川(2009)の実験でみられた 2 つの. クを押し, “R”が呈示された場合は右クリックを押す課題. 疑問点を改善することにより,凶器の存在が目撃者の有効. であった。この課題は,数字呈示中の参加者の視線(以降. 視野を縮小させるのかを明らかにすることであった。. 注視点とする)を凝視点に強制するために課された。注視. 1 つ目の疑問点に対しては,参加者の視線の位置に応じて. 点を強制する理由は,注視点と数字の偏心度を任意の距離. 周辺に数字を呈示する手続きを用いることで,中心課題の. (3 度,6 度,9 度)に統制するためであった。周辺課題は,. 省略を試みた。具体的には,アイマークレコーダを用いて. 1.

(2) 参加者の視線の位置を算出し,その位置に応じて数字の呈. を用いた。眼球運動の測定については,EMR-8 により参. 示位置を操作した。. 加者の眼球に赤外線を照射し,その角膜反射像を検出する. 2 つ目に対しては,各条件間(凶器条件,中性条件)の刺. ことで視線の定位を試みた。. 激の背景情報を統制することで対処した。すなわち,各条. 手続き. 件間で凶器の存在以外の情報(構図や背景のオブジェクト. 山川(2009)の用いた数字同定課題を修正したものを使 用した。参加者はモニターから 57cm 離れた位置に座り,. など)が同一の刺激を用いた。. 顎台に顎と頭を固定され,アイマークレコーダのキャリブ レーションを行った。そして,数字同定課題の練習試行を 8. 方法. 試行行い,その次に本試行を行った。数字同定課題の 1 試. 実験参加者 九州大学の学生,大学院生 10 名(男性 4 名,女性 6 名). 行の流れは以下の通りであった(Figure 2) 。まず,スペー. が参加した。. スキーを押すと“+”の凝視点が 500ms 呈示され,次に凶. 刺激. 器刺激か中性刺激かフィラー刺激のいずれかが 200ms,も. 日常的な場面を描写した写真を2 セットずつ各24 場面作. しくは 500ms 呈示された。その際,刺激の呈示が終了する. 成した(Figure 1) 。その 2 セットの写真の背景に描写され. までの 100ms 間(すなわち,200ms 呈示条件では 100ms. ている情報や構図はセット毎に同一であり,中心にある情. から200ms, 500ms 呈示条件では400ms から500ms の間). 報のみが異なっていた。一方の写真には,中心に凶器(ナ. における視線の軌跡を記録し,その中央値を算出した。さ. イフや包丁,もしくは銃など)が存在し,残りの一方には. らに,刺激の呈示終了と同時に,その中央値の座標位置か. 中性的な情報(携帯電話や財布,シャープペンシルなど). ら斜め 4 方向のいずれかへ 9 度離れた位置に数字が 150ms. が存在していた。さらに,中性的な場面を描写した写真を. 呈示された。この数字の種類は 1,3,4,7 のいずれかであ. フィラー刺激として 12 枚作成した。このフィラー刺激は分. り,その大きさは高さ 0.6 度×幅 0.4 度であった。その後,. 析とは無関係であった。フィラー刺激を用いた理由は,凶. モニター全体にランダムドットのマスクが500ms呈示され. 器刺激を目撃することによる慣れを軽減するためであった。. た。そして, 「数字に気づきましたか?」という質問が呈示. すなわち, 凶器刺激と中性刺激の2 種類のみを用いた場合,. された。この質問に対して,参加者は「はい」か「いいえ」. 総試行の半分の試行で凶器刺激が呈示される。その場合,. のいずれかによって回答した。このとき, 「いいえ」と回答. 凶器刺激の呈示頻度が多いため,凶器に対する慣れが生じ. した場合,その質問は終わり,次の試行が始まった。 「はい」. る可能性があったためである。. と回答した場合,次に「その数字は何でしたか?」という 質問が追加で出題された。この質問に対しては「1」 , 「3」 , 「4」 , 「7」 , 「わからない」のいずれかによって回答した。 この質問が終わると次の試行が始まった。 この課題の総試行数は,凶器の存在条件(凶器条件,中 性条件)×呈示時間条件(200ms,500ms)×6 枚+フィ ラー刺激 12 枚の 36 試行であった。. Figure 1. 実験 1 で用いられた刺激の一例。左が凶器条件, 右が中性条件の例である。 実験装置 刺激の呈示にはモニター(DELL)を用いた。モニター の幅は 33.21 度,高さは 26.65 度であった。刺激の統制と データの収集にはパーソナルコンピュータ(DELL の DIMENTION 8300)を用いた。数字同定課題のプログラ ムには Mathworks 社の Matlab を用いた。また,コンピュ ータのリフレッシュレートは 60Hz であった。参加者の眼. Figure 2. 実験 1 における 1 試行の流れ。. 球運動の測定には NAC 社のアイマークレコーダ EMR-8. 2.

(3) 実験 1 で用いられた刺激 24 枚に加えて,新たに 36 枚が. 結果と考察 「数字に気付きましたか?」という質問に対して「はい」. 作成された。すなわち,凶器条件と中性条件×60 セットの. と回答した試行の中で, 「その数字は何でしたか?」に正答. 120 枚が使用された。. した割合を算出し,その割合を数字同定成績とした(Figure. 実験装置. 3) 。この成績について,2 要因分散分析を行った結果,凶. 実験 1 と同様であった。. 器条件の成績は中性条件より有意に低いことが示された(F. 手続き. (1,9) = 9.54, p <0.05) 。この結果は,凶器が存在することに. 実験 1 の手続きを修正したものが用いられた。参加者は. より,周辺にある情報の認知が困難になることを示す。し. アイマークレコーダを装着しつつ実験に参加した。スペー. たがって,凶器の存在が目撃者の有効視野を縮小させると. スキーを押すと凝視点が 500ms 呈示され,次に凶器刺激か. いう仮説は支持された。. 中性刺激のいずれかが 500ms 呈示された。その際,刺激の 呈示が終了する 1 フレーム前(刺激の呈示が始まって. また,呈示時間条件及び,凶器条件と呈示時間条件の交. 483.3ms 経過時)の注視点の座標位置が記録された。さら. 互作用は有意でなかった。. 凶器. に,刺激の呈示終了と同時に,その視線の座標位置から斜. 中性. め 4 方向のいずれかにおける 1 度,3 度,6 度,9 度,11. 平均同定率(%). 100. 度のいずれか離れた位置に数字が 100ms 呈示された。この. 80. 数字の種類は 1,3,4,7 のいずれかであった。その後,モ. 60. ニター全体にランダムドットのマスクが500ms 呈示された。. 40. なお,実験 2 においては,全体の半分の試行(60 施行)で のみ,この数字が呈示されなかった。そして,呈示された. 20. 数字についての質問が行われた。質問の内容と回答の方法. 0 200m s. は実験 1 と同様であった。. 500m s. 課題の総試行数は,凶器の存在(凶器,中性)×偏心度. 呈示時間. (1 度,3 度,6 度,9 度,11 度)×数字の有無(あり,な. Figure 3. 実験 1 における各条件の平均数字同定成績。誤差. し)×6 枚の 120 試行であった。なお,実験 2 においては,. 棒は標準誤差を示す。. フィラー刺激を用いなかった。その理由は,凶器条件と中 性条件だけで試行数が多いため(120 回) ,実験参加者の負. それでは,凶器の存在は目撃者の有効視野をどの程度ま. 担を軽減する必要があったためであった。. で縮小させるのであろうか。言い換えれば,凶器を目撃し. 結果と考察. ている時,目撃者はどの程度の範囲の情報を正確に認知で きるのであろうか。この疑問に答えるために実験 2 を行っ. 実験 1 と同様の方法で数字同定成績は求められた。各条 件におけるこの成績とチャンスレベルである 25%との間に. た。. 有意差があるかについて t 検定を行った(Figure 4) 。この 25%という値は, 「数字は何でしたか?」という質問に対す. 実験 2 実験 2 の目的は,凶器を目撃している際の有効視野は,. る回答が「1」 , 「3」 , 「4」 , 「7」の 4 つであったので,当て. どの程度の大きさなのかを明らかにすることであった。こ. ずっぽうに回答しても 25%の確率で正答するという理由に. のことを検討するために,数字同定課題を施行する際,注. 基づいている。. 視点と数字の呈示位置における偏心度を 5 段階設けた。. その結果,凶器条件においては,1 度,3 度,6 度の成績 がチャンスレベルよりも有意に高かった(それぞれ, (t (23) = 14.16, p <.0001) , (t (23) = 17.77, p <.0001) , (t (23) =. 方法. 4.73, p <.0001) ) 。9 度,11 度の成績は有意差がみられなか. 参加者. った(それぞれ, (t (23) =1.58, p = .13) , (t (23) = 0.74, p. 九州大学の学生,大学院生 24 名(男性 14 名,女性 10. = .47) 。これらの結果は,注視点から 9 度以上離れた位置に. 名)が参加した。. 呈示された情報に対する認知が出来ていないことを示す。 したがって,凶器条件における有効視野の大きさは半径 6. 刺激. 3.

(4) 度から 9 度の間にあると考えられる。. 今後の検討事項. 一方で中性条件においては,1 度,3 度,6 度,9 度の成. 大上ら(2006)の仮説によると,凶器の存在が有効視野. 績がチャンスレベルよりも有意に高かった(それぞれ, (t. を縮小させ,その視野外にある情報について記憶成績の低. (23) = 37.90, p <.0001) , (t (23) = 11.80, p <.0001) , (t (23). 下が生じるとされている。つまり,記憶成績の低下が見ら. = 9.97, p <.0001) , (t (23) = 3.97, p <.001) ) 。11 度の成績. れるか否かは,その情報が有効視野の内側にあるか外側に. は有意差がみられなかった(t (23) = 0.06, p = .95) 。この結. あるかに依存するといえるであろう。実験 2 において,凶. 果から,中性条件における有効視野の大きさは半径 9 度か. 器を目撃している際の有効視野は半径 6 度から 9 度程度で. ら 11 度の間にあると考えられる。. あることが示された。したがって,凶器が存在する場合に,. 平均同定率(%). 凶器. ある情報の記憶成績の低下が見られるか否かは,その情報. 中性. 75. が半径 6 度から 9 度の範囲外に配置されているかに依存す. 55. ると予測される。 そこで,この仮説を検証するために,凶器の存在による. 35. 記憶成績の低下が見られた先行研究の刺激を見直す必要が. 15. あろう。具体的には,記憶成績の低下が生じた情報と凶器. -5. との偏心度が半径 6 度から 9 度の範囲外であるか否かを明. -25. 1度. 3度. 6度. 9度. らかにする。この見直しにより,凶器集中効果における有. 11度. 効視野仮説の妥当性を検証することが出来ると考える。. 偏心度 Figure 4. 実験 2 における各条件の平均数字同定成績から. 現場への応用. チャンスレベル(25%)を引いた成績。誤差棒は 95%の信. 本研究で得られた結果は,凶器を持った強盗事件の被害. 頼区間を示す。. 者や目撃者から得られた証言の取り扱いに注意を投げかけ るものである。実験 2 の結果から,凶器を目撃している際 の目撃者の有効視野の大きさは半径 6 度から 9 度程度であ. 総合考察. ることが示唆された。そのため,凶器から明らかに半径 9. 本研究のまとめ 本研究の目的は,山川(2009)の実験で見られた 2 つの. 度以上離れた位置にある情報について目撃者が証言した場. 疑問点を改善し,凶器の存在が目撃者の有効視野に及ぼす. 合,その証言の信憑性は高くないことが予想される。した. 影響を検討することであった。. がって,そのような証言に関しては慎重に取り扱うべきで. 実験 1 では,アイマークレコーダを用いることにより,. あろう。. 注意点の位置に応じて数字の呈示位置を操作することと,. 主要引用文献. 刺激の背景情報を統制することで,凶器の存在による数字 同定成績への影響を測定した。その結果,同定成績は凶器. Loftus, E. F., Loftus, G. R., & Messo. J. (1987). Some. 条件のほうが中性条件よりも有意に低いことが明らかとな. facts about “weapon focus”. Law and Human. った。この結果から,凶器の存在は目撃者の有効視野を縮. Behavior, 11, 55-62.. 小させることが示された。. Mackworth, N, H. (1965). Visual noise causes tunnel. また,実験 2 においては,注視点と数字の呈示位置にお. vision. Psychonomic Science, 3, 67-68.. ける偏心度を複数水準設けることによって,凶器を目撃し. 大上渉・大沼夏子・箱田裕司(2006). 凶器の視覚的特徴. ている際の有効視野の大きさを測定した。その結果,凶器. が目撃者の認知に及ぼす影響. を目撃している際の有効視野の大きさは半径 6 度から 9 度. 心理学研究,77,. 443-451.. 程度であることが示された。この大きさは,中性条件のそ. 山川朗生(2009). 不快画像刺激における凶器の存在が与. れ(9 度から 11 度程度)よりも小さかった。したがって,. える有効視野への影響 九州大学大学院人間環境学府. この結果からも,凶器の存在が有効視野を縮小させるとい. 平成 21 年度修士論文.. う仮説が支持された。. 4.

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