発達障害児の「自己評価」と「自尊感情」からみた「他者評価認知」のあり方 [ PDF
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(2) ②自尊感情尺度:田中・中山(2007)にならい Harter. **. の子どもの自己認識尺度における全体的自己感のうちの. 9.00. 5項目を自尊感情尺度として使用した(5件法) .. 8.00. ③他者評価認知尺度:①の尺度に対応する形で,母親か. 7.00. ** **. ** **. *. **. *. 6.00. らの自分に対しての評価を問う形に各項目及び回答の表. 5.00. 現を変更し作成 (5件法) . その際に容貌に関する項目は,. 小学4年生 小学5年生 中学1年生 中学2年生 中学3年生. 4.00. 臨床的配慮に基づき削除した.. 3.00. またそれぞれの回答に対する理由を問う質問を選択肢. 2.00 学業. からの選択と自由記述により求めた. 選択肢は, 「①お母. 運動. 容貌. 社会性. 振る舞い. Fig1.定型発達群における自己評価の学年間比較. さんからそのようにいわれたことがあるから」 , 「②自分 ではそう思うから」 , 「③友達からそういわれたことがあ るから」 , 「④なんとなく、 特に理由はない」 , 「⑤その他」. 9.00. の 5 つであった.. 8.00 1. 2. 3. 4. 5. 共通性. .802 .734. .101 -.036. -.162 .143. .032 -.018. .009 -.026. .636 .608. -.089 .258. .933 .757. .010 .025. .020 -.012. .047 -.055. .849 .763. -.190 .260. .030 -.005. .930 .740. -.001 .001. .085 -.092. .820 .727. -.144 .357. .074 -.110. -.014 .024. .903 .674. .014 .014. .802 .669. -.198 .411. .028 -.038. .028 -.010. .096 -.116. .863 .698. .786 .689. 3.00. 2.00 学業. 学業(α =.531) 宿題をするのは難しい 学校での勉強はうまくいっている. 小学4年生 小学5年生 中学1年生 中学2年生 中学3年生. 4.00. 社会性(α =.636) 友達をつくるのは難しい 友達はたくさんいる. +. 5.00. 運動(α =.736) スポーツが同級生のようには上手にできない スポーツはうまくできる. *. 6.00. 容貌(α =.589) 自分の体型はこのままでいいと思う 自分の見た目に特に不満はない. + + *. 7.00. Table2.自己評価尺度の因子分析表. **:. ** **. 運動. 社会性. 振る舞い. Fig2.定型発達群における他者評価認知の学年間比較. 振る舞い(α =.603) してはいけないと分かっていることをしてしまう いつも正しい行いをしている. **. 実施の際は,定型発達群に対しては,各クラスの担任. 17.00 **. を通しての一斉実施による集団形式で実施した.. 16.00. 臨床群に対しては個別に半構造化面接を行い,面接者. 15.00. が各質問項目を読み上げ,回答を求める形で実施した.. 14.00 13.00. 3.結果. *. 12.00. 1)定型発達群について. 11.00. ①自己評価・他者評価認知・自尊感情の学年間比較. 10.00 小学4年生 小学5年生 中学1年生 中学2年生 中学3年生. 定型発達群における自己評価・他者評価認知・自尊感. Fig3.定型発達群における自尊感情の学年間比較. 情の学年間での差の検討をするために,各得点を従属変 数とした分散分析を行った.結果を Table3 に示す.. ②自己評価と他者評価認知の差. (Fig1,2,3). 自己評価. 自己評価と他者評価認知の間に差があるかを検討す. Table3.定型発達群の学年間比較 学業 小学生 > 中学生 運動 小学4年生 > 中学生 容貌 小学4年生 > 小学5年生,中学生 社会性 小学生 > 中学生 小学4年生 > 中学生 振る舞い 小学5年生 > 中学2年生 学業. 小学生 小学4年生 運動 小学5年生 他者評価認知 社会性 小学生 小学4年生 振る舞い 小学5年生. > > > > > >. 中学生 中学生 中学1年生 中学2・3年生 中学2・3年生 中学2年生. 小学4年生 小学5年生 中学1年生. > > >. 中学生 中学2・3年生 中学2年生. 自尊感情. るために,小学生と中学生で群分けし,各群ごとに自己. F (4,551)=24.17,p <.01 F (4,551)=7.57,p <.01 F (4,551)=11.09,p <.01 F (4,551)=25.42,p <.01. 評価と他者評価認知の容貌を除いた 4 領域の得点に差が あるかについてt検定を行った.結果,小学生において は,学業,運動,社会性の領域に関して有意な差が見ら. F (4,551)=6.53,p <.01. れ,学業と社会性の領域においては,他者評価認知より. F (4,551)=12.00,p <.01. も高い自己評価を,運動の領域では自己評価よりも高い. F (4,551)=7.69,p <.01. 他者評価認知を行っていることが明らかになった.中学. F (4,551)=7.87,p <.01. 生においては,運動,社会性,振る舞いの領域に関して. F (4,551)=4.54,p <.01. 有意な差が見られ,運動,社会性,振る舞いの領域に関 して,自己評価よりも高い他者評価認知を行っているこ とが明らかになった. (Fig4). F (4,551)=16.98,p <.01. 2.
(3) ⑤他者評価認知の理由について. ③定型発達群と臨床群との比較. 定型発達群における他者評価認知の理由の選択につい. 定型発達群と臨床群で自己評価に差があるかを検討. て,各領域ごとに選択した理由の割合を小中学生ごとに. するために,小学生と中学生に群分けし,自己評価の 5. 算出し,それぞれの領域において,小中学生間に選択肢. 領域の得点を従属変数としたt検定を行った.結果,小. の割合に差があるかを検討するため,χ二乗検定を行っ. 学生においては運動の領域において有意な差が見られ,. た.結果,すべての領域において小学生の方が「自分で. 定型発達群の方が臨床群よりも運動の自己評価が高いこ. はそう思うから」という選択肢を,中学生の方が「なん. とが明らかになった. (Fig7). となく、特に理由はない」という選択肢を選ぶ割合が多 いということが明らかになった. 2)臨床群について ①臨床群の小学生と中学生の比較 臨床群において,小中学生間に自己評価・他者評価認 知・自尊感情に差があるかを検討するために各得点を従 属変数としたt検定を行った.結果,自己評価の学業に おいて有意傾向が見られ,小学生の方が中学生よりも学 業領域において高い自己評価を行っている傾向があるこ. 次に他者評価認知に差があるかを検討するために,小. とが明らかになった. (Fig5) 8. 学生と中学生に群分けし,他者評価認知の4領域の得点. +. を従属変数としたt検定を行った.結果,小学生におい. 小学生. 7. ては運動の領域において有意な差が見られ,定型発達群. 中学生. 6. 5. の方が臨床群よりも運動の他者評価認知が高いことが明. 4. らかになった. (Fig8). 3 2 学 業. 運 動. 容 貌. 社 会 性. 振 る 舞 い. 学 業. 運 動. 自己評価. 社 会 性. 振 る 舞 い. 他者評価認知. Fig5.臨床群における小学生と中学生の比較. ②自己評価と他者評価認知の差の検討 自己評価と他者評価認知の間に差があるかを検討す るために,小学生と中学生で群分けし,各群ごとに自己 評価と他者評価認知の容貌を除いた 4 領域の得点に差が. また自尊感情に差があるかを検討するために,小学生. あるかについてt検定を行った.結果,小学生において. と中学生に群分けし,自尊感情得点を従属変数としたt. は, 学業の領域に関して有意傾向が見られた. 小学生は,. 検定を行った. 結果, 小中学生ともに有意な差が見られ,. 学業の領域においては,他者評価認知よりも高い自己評. 小学生においては定型発達群の方が,中学生においては. 価を行なっている傾向があることが明らかになった.. 臨床郡の方が自尊感情が高いことが明らかになった.. (Fig6). (Fig9). 3.
(4) ①定型発達群との比較. **. 18.00. 自己評価と他者評価認知に関しての定型発達群と臨. *. 16.00. 床群の比較では,運動の領域のみ小学生において定型発. 14.00. 達群の方が高い自己評価と他者評価認知を行なっている.. 定型発達群 臨床群. 12.00. このことは運動やスポーツは単に身体能力だけでなく他. 10.00. 者との協力やルール理解など発達障害児が困難性を抱え. 8.00 小学生. る面を要求されるために彼らができていないということ. 中学生. を意識しやすいためではないかと思われる.このことを. Fig9.定型発達群と臨床群の自尊感情の差. 考慮すると,セラピー場面においても彼らが理解しやす ④他者評価認知の理由について. い形でルール説明を行うことやスポーツや遊びなどにお. 臨床群おける他者評価認知の理由では,殆どの領域に. いて成功体験を積むことができるように援助することが,. おいて,小学生・中学生共に「自分ではそう思うから」. 学業や振る舞いなどについてよりも彼らの自己を支援す. を選ぶ割合が 40%~50%と最も高いという結果であっ. る上で重要なことと考えることもできる.. た.. ②他者評価認知のあり方. 4.考察. 臨床群は,小中学生間の比較の中では自己評価の学業. 1)定型発達群の結果について. 領域において有意傾向が見られているだけである.この. ①学年間の比較. ことは,定型発達児と発達障害児との自己評価・他者評. まず自己評価・他者評価認知・自尊感情の学年間の比. 価認知の発達的な差異を示唆している.これは発達障害. 較の結果を見ると,大まかに見ると年齢を重ねるごとに. 児が,中学生になっても他者評価認知を行なうことに難. 自己評価・他者評価認知・自尊感情は低下していく傾向. しさを抱えていることを示唆すると思われる.他者評価. があることが見て取れる.このことは,溝上(1999)のい. 認知の理由に関して中学生でも 「自分ではそう思うから」. う「自己の否定性」の表れと解釈できる.しかし学年間. という理由を選択することが多いことからも考えられる.. で差が見られるものもあれば,見られないものもあり,. このことより,臨床場面においては彼らが適切な他者評. その表れ方はそれぞれである. 容貌に関する自己評価は,. 価認知を行うことができるように,彼らが受け入れられ. 小中学生の各学年間にも差が見られている.溝上(1999). る形で評価を伝えることや他者評価を認知する際の視点. は, 「自己の否定性」 を引き起こす環境の変化の一つに身. を伝えることが重要になると思われる.また前述したよ. 体環境の変化を挙げており,その身体環境の変化の影響. うに発達障害児は,その多くが自己評価の問題を示すと. を直接的に受ける身体的変化の影響を最も直接的に受け. 考えると,発達障害児は,小学生の時点ですでに自己評. る容貌の自己評価に関しては,学年間の差が大きく表れ. 価や他者評価認知が低いためとも考えられる.定型発達. るという結果になったと考えられる.. 児との比較においても運動領域に関しては,有意に低い. ②他者評価認知のあり方. 結果が得られており,小学校高学年の発達障害児は,自. 自己評価と他者評価認知の差の結果を見ると,小学生. 己の評価に関して問題性を抱えていることを示す結果と. では学業と社会性の面において他者評価認知よりも高い. 捉えることも出来る.このことは臨床群小学生における. 自己評価をしており,中学生は学業を除く3領域におい. 自尊感情の低さにも表れていると考えられる.. て自己評価よりも高い他者評価認知をしているという結. ③自尊感情について. 果が出ている.これは柏木(1983)がいうように小学生は,. 自尊感情では中学生においては,小学生の結果とは逆. いまだ発達の初期の段階にあり,自己を過大に認める傾. 転し臨床群の方が自尊感情が高いという結果が出ている.. 向が強いということを示していると考えられる.しかし. このことから発達障害児は,小学生時代に定型発達児に. ながら運動の領域においては,自己評価が他者評価認知. 比べ自尊感情が低下する事態に陥り,そのことの防衛と. よりも低い結果が出ており,その点を考慮すると,小学. して中学生になると自己に対する認知がゆがみ,自尊感. 4・5 年生という時期は,まさしく児童期から青年期への. 情がむしろ定型発達児と比べ高くなる可能性があると思. 移行期にあり,柏木(1983)や溝上(1999)のいう自己を他. われる.または,本研究において対象とした発達障害児. 者の視点から捉えるなど自己意識の変容がなされていく. は,対人関係上の困難性を主訴としてグループセラピー. 時期にあると推察される.. に参加しており,そういった環境や経験の影響により自. 2)臨床群の結果について. 尊感情が支えられているとも考えられる. 4.
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