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発達障害児の「自己評価」と「自尊感情」からみた「他者評価認知」のあり方 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)発達障害児の「自己評価」と「自尊感情」 からみた「他者評価認知」のあり方 キーワード:発達障害児,他者評価認知,自己評価,自尊感情 人間共生システム専攻 松藤 光生 1.問題と目的. 中山・田中 2007) ,発達障害児の自己評価や自尊感情の. 1)発達障害児の社会性の問題. 問題を考える上でも「他者評価認知」は,重要なことと. 近年,通常の小・中学校に在籍するような知的障害を. なる.また定型発達児においても,特に思春期から青年. 伴わない発達障害児に対する支援が注目されてきている.. 期にかけては, 「自己の否定性」(溝上,1999)が起こるこ. 知的障害を伴わない発達障害児には代表的なものに学習. ともあり,自己に関する問題は重要な問題である.. 障害(LD) ,注意欠陥多動性障害(ADHD) ,高機能. 4)本研究の目的. 広汎性発達障害(HFPDD)がある.LD,ADHD,. 本研究では,定型発達児の「他者評価認知」のあり方. HFPDDは,別々の障害であるが共通特性も多く,思. を自己評価と自尊感情との関連から捉え,それとの差異. 春期から青年期にかけての児では,社会性の問題が共通. から発達障害児の「他者評価認知」のあり方を検討する. の課題となっている(三橋,1999) .我々が社会生活にお. ことを目的とする.. いて円滑な対人関係を形成するためには他者の感情に適. 2.方法. 切に反応し理解することが必要である(笹屋,1997)ため. 1)対象. 軽度発達障害児が抱える社会性の問題の中でも,他者認. ①定型発達群:小学4年生 102 名・5年生 98 名の計 200. 知に関する研究は,今まで多くなされてきている.. 名,中学1年生 130 名・2年生 127 名・3年生 95 名の. (Baron-Cohen ら,1986;Hobson,1986 宮本,1999;三. 計 352 名. 橋,2004 等). ②臨床群:小学 4 年生~中学 3 年生の発達障害児の計 12. 2)発達障害児の他者評価認知. 名(Table1) Table1.臨床群対象児詳細. 他者認知の中には,他者の表情や感情の認知だけでな く他者が自分をどのように認知し,評価しているかとい うことに関する認知がある.本研究では,この認知を「他 者評価認知」とし「他者が自分をどのように評価してい るかということに関する認知」と定義する.自己の行動 調整を行うには, 「他者評価認知」 を適切に行うことが重 要であると考えられる(柏木,1983;田中・中山,2007) が,他者認知に困難性を抱える発達障害児は,この「他 2)手続き. 者評価認知」にも困難性を抱えていることが予想され,. 測定尺度は,「自己評価尺度」「自尊感情尺度」「他者. そのことが彼等の行動修正を困難にしている要因となっ ているとも考えられる.. 評価認知尺度」の3つの尺度により構成された.. 3) .自己評価・自尊感情と他者評価認知. ①自己評価尺度:Harter の子どもの自己認識尺度の日本. 発達障害児は,その多くが失敗体験や周囲の無理解か. 語版(Tanaka,2006)の自己評価の 5 領域(学業・運動・. ら自己肯定感の低下や劣等感の強まりといった自己評価. 容貌・社会性・振る舞い)の各因子から因子付加量の高. や自尊感情に関する問題を示すと考えられてきている.. いものを 2 項目選び出し,計 10 項目を自己評価尺度と. しかし発達障害児の自己評価に関する研究では一貫した. して使用した(5件法).因子分析(主成分法・プロマッ. 結果が得られていない.自己評価と自尊感情は,類似し. クス回転)を行い想定した5つの因子を確認した.各因. た概念であるが,自己評価は「自己に対する認知的評価」. 子を構成する項目を合計し,それぞれを学業・運動・容. 自尊感情は「自己に対する感情的評価」と考えることが. 貌・社会性・振る舞いに関する自己評価得点とした(α. できる(中山・田中,2007) . 「他者評価認知」は,自己評. =.54~.73).得点が高いほどそれぞれの自己評価が高い. 価や自尊感情に影響を与えるものであり(長谷川,2007;. ことを意味する.(Table2) 1.

(2) ②自尊感情尺度:田中・中山(2007)にならい Harter. **. の子どもの自己認識尺度における全体的自己感のうちの. 9.00. 5項目を自尊感情尺度として使用した(5件法) .. 8.00. ③他者評価認知尺度:①の尺度に対応する形で,母親か. 7.00. ** **. ** **. *. **. *. 6.00. らの自分に対しての評価を問う形に各項目及び回答の表. 5.00. 現を変更し作成 (5件法) . その際に容貌に関する項目は,. 小学4年生 小学5年生 中学1年生 中学2年生 中学3年生. 4.00. 臨床的配慮に基づき削除した.. 3.00. またそれぞれの回答に対する理由を問う質問を選択肢. 2.00 学業. からの選択と自由記述により求めた. 選択肢は, 「①お母. 運動. 容貌. 社会性. 振る舞い. Fig1.定型発達群における自己評価の学年間比較. さんからそのようにいわれたことがあるから」 , 「②自分 ではそう思うから」 , 「③友達からそういわれたことがあ るから」 , 「④なんとなく、 特に理由はない」 , 「⑤その他」. 9.00. の 5 つであった.. 8.00 1. 2. 3. 4. 5. 共通性. .802 .734. .101 -.036. -.162 .143. .032 -.018. .009 -.026. .636 .608. -.089 .258. .933 .757. .010 .025. .020 -.012. .047 -.055. .849 .763. -.190 .260. .030 -.005. .930 .740. -.001 .001. .085 -.092. .820 .727. -.144 .357. .074 -.110. -.014 .024. .903 .674. .014 .014. .802 .669. -.198 .411. .028 -.038. .028 -.010. .096 -.116. .863 .698. .786 .689. 3.00. 2.00 学業. 学業(α =.531) 宿題をするのは難しい 学校での勉強はうまくいっている. 小学4年生 小学5年生 中学1年生 中学2年生 中学3年生. 4.00. 社会性(α =.636) 友達をつくるのは難しい 友達はたくさんいる. +. 5.00. 運動(α =.736) スポーツが同級生のようには上手にできない スポーツはうまくできる. *. 6.00. 容貌(α =.589) 自分の体型はこのままでいいと思う 自分の見た目に特に不満はない. + + *. 7.00. Table2.自己評価尺度の因子分析表. **:. ** **. 運動. 社会性. 振る舞い. Fig2.定型発達群における他者評価認知の学年間比較. 振る舞い(α =.603) してはいけないと分かっていることをしてしまう いつも正しい行いをしている. **. 実施の際は,定型発達群に対しては,各クラスの担任. 17.00 **. を通しての一斉実施による集団形式で実施した.. 16.00. 臨床群に対しては個別に半構造化面接を行い,面接者. 15.00. が各質問項目を読み上げ,回答を求める形で実施した.. 14.00 13.00. 3.結果. *. 12.00. 1)定型発達群について. 11.00. ①自己評価・他者評価認知・自尊感情の学年間比較. 10.00 小学4年生 小学5年生 中学1年生 中学2年生 中学3年生. 定型発達群における自己評価・他者評価認知・自尊感. Fig3.定型発達群における自尊感情の学年間比較. 情の学年間での差の検討をするために,各得点を従属変 数とした分散分析を行った.結果を Table3 に示す.. ②自己評価と他者評価認知の差. (Fig1,2,3). 自己評価. 自己評価と他者評価認知の間に差があるかを検討す. Table3.定型発達群の学年間比較 学業 小学生 > 中学生 運動 小学4年生 > 中学生 容貌 小学4年生 > 小学5年生,中学生 社会性 小学生 > 中学生 小学4年生 > 中学生 振る舞い 小学5年生 > 中学2年生 学業. 小学生 小学4年生 運動 小学5年生 他者評価認知 社会性 小学生 小学4年生 振る舞い 小学5年生. > > > > > >. 中学生 中学生 中学1年生 中学2・3年生 中学2・3年生 中学2年生. 小学4年生 小学5年生 中学1年生. > > >. 中学生 中学2・3年生 中学2年生. 自尊感情. るために,小学生と中学生で群分けし,各群ごとに自己. F (4,551)=24.17,p <.01 F (4,551)=7.57,p <.01 F (4,551)=11.09,p <.01 F (4,551)=25.42,p <.01. 評価と他者評価認知の容貌を除いた 4 領域の得点に差が あるかについてt検定を行った.結果,小学生において は,学業,運動,社会性の領域に関して有意な差が見ら. F (4,551)=6.53,p <.01. れ,学業と社会性の領域においては,他者評価認知より. F (4,551)=12.00,p <.01. も高い自己評価を,運動の領域では自己評価よりも高い. F (4,551)=7.69,p <.01. 他者評価認知を行っていることが明らかになった.中学. F (4,551)=7.87,p <.01. 生においては,運動,社会性,振る舞いの領域に関して. F (4,551)=4.54,p <.01. 有意な差が見られ,運動,社会性,振る舞いの領域に関 して,自己評価よりも高い他者評価認知を行っているこ とが明らかになった. (Fig4). F (4,551)=16.98,p <.01. 2.

(3) ⑤他者評価認知の理由について. ③定型発達群と臨床群との比較. 定型発達群における他者評価認知の理由の選択につい. 定型発達群と臨床群で自己評価に差があるかを検討. て,各領域ごとに選択した理由の割合を小中学生ごとに. するために,小学生と中学生に群分けし,自己評価の 5. 算出し,それぞれの領域において,小中学生間に選択肢. 領域の得点を従属変数としたt検定を行った.結果,小. の割合に差があるかを検討するため,χ二乗検定を行っ. 学生においては運動の領域において有意な差が見られ,. た.結果,すべての領域において小学生の方が「自分で. 定型発達群の方が臨床群よりも運動の自己評価が高いこ. はそう思うから」という選択肢を,中学生の方が「なん. とが明らかになった. (Fig7). となく、特に理由はない」という選択肢を選ぶ割合が多 いということが明らかになった. 2)臨床群について ①臨床群の小学生と中学生の比較 臨床群において,小中学生間に自己評価・他者評価認 知・自尊感情に差があるかを検討するために各得点を従 属変数としたt検定を行った.結果,自己評価の学業に おいて有意傾向が見られ,小学生の方が中学生よりも学 業領域において高い自己評価を行っている傾向があるこ. 次に他者評価認知に差があるかを検討するために,小. とが明らかになった. (Fig5) 8. 学生と中学生に群分けし,他者評価認知の4領域の得点. +. を従属変数としたt検定を行った.結果,小学生におい. 小学生. 7. ては運動の領域において有意な差が見られ,定型発達群. 中学生. 6. 5. の方が臨床群よりも運動の他者評価認知が高いことが明. 4. らかになった. (Fig8). 3 2 学 業. 運 動. 容 貌. 社 会 性. 振 る 舞 い. 学 業. 運 動. 自己評価. 社 会 性. 振 る 舞 い. 他者評価認知. Fig5.臨床群における小学生と中学生の比較. ②自己評価と他者評価認知の差の検討 自己評価と他者評価認知の間に差があるかを検討す るために,小学生と中学生で群分けし,各群ごとに自己 評価と他者評価認知の容貌を除いた 4 領域の得点に差が. また自尊感情に差があるかを検討するために,小学生. あるかについてt検定を行った.結果,小学生において. と中学生に群分けし,自尊感情得点を従属変数としたt. は, 学業の領域に関して有意傾向が見られた. 小学生は,. 検定を行った. 結果, 小中学生ともに有意な差が見られ,. 学業の領域においては,他者評価認知よりも高い自己評. 小学生においては定型発達群の方が,中学生においては. 価を行なっている傾向があることが明らかになった.. 臨床郡の方が自尊感情が高いことが明らかになった.. (Fig6). (Fig9). 3.

(4) ①定型発達群との比較. **. 18.00. 自己評価と他者評価認知に関しての定型発達群と臨. *. 16.00. 床群の比較では,運動の領域のみ小学生において定型発. 14.00. 達群の方が高い自己評価と他者評価認知を行なっている.. 定型発達群 臨床群. 12.00. このことは運動やスポーツは単に身体能力だけでなく他. 10.00. 者との協力やルール理解など発達障害児が困難性を抱え. 8.00 小学生. る面を要求されるために彼らができていないということ. 中学生. を意識しやすいためではないかと思われる.このことを. Fig9.定型発達群と臨床群の自尊感情の差. 考慮すると,セラピー場面においても彼らが理解しやす ④他者評価認知の理由について. い形でルール説明を行うことやスポーツや遊びなどにお. 臨床群おける他者評価認知の理由では,殆どの領域に. いて成功体験を積むことができるように援助することが,. おいて,小学生・中学生共に「自分ではそう思うから」. 学業や振る舞いなどについてよりも彼らの自己を支援す. を選ぶ割合が 40%~50%と最も高いという結果であっ. る上で重要なことと考えることもできる.. た.. ②他者評価認知のあり方. 4.考察. 臨床群は,小中学生間の比較の中では自己評価の学業. 1)定型発達群の結果について. 領域において有意傾向が見られているだけである.この. ①学年間の比較. ことは,定型発達児と発達障害児との自己評価・他者評. まず自己評価・他者評価認知・自尊感情の学年間の比. 価認知の発達的な差異を示唆している.これは発達障害. 較の結果を見ると,大まかに見ると年齢を重ねるごとに. 児が,中学生になっても他者評価認知を行なうことに難. 自己評価・他者評価認知・自尊感情は低下していく傾向. しさを抱えていることを示唆すると思われる.他者評価. があることが見て取れる.このことは,溝上(1999)のい. 認知の理由に関して中学生でも 「自分ではそう思うから」. う「自己の否定性」の表れと解釈できる.しかし学年間. という理由を選択することが多いことからも考えられる.. で差が見られるものもあれば,見られないものもあり,. このことより,臨床場面においては彼らが適切な他者評. その表れ方はそれぞれである. 容貌に関する自己評価は,. 価認知を行うことができるように,彼らが受け入れられ. 小中学生の各学年間にも差が見られている.溝上(1999). る形で評価を伝えることや他者評価を認知する際の視点. は, 「自己の否定性」 を引き起こす環境の変化の一つに身. を伝えることが重要になると思われる.また前述したよ. 体環境の変化を挙げており,その身体環境の変化の影響. うに発達障害児は,その多くが自己評価の問題を示すと. を直接的に受ける身体的変化の影響を最も直接的に受け. 考えると,発達障害児は,小学生の時点ですでに自己評. る容貌の自己評価に関しては,学年間の差が大きく表れ. 価や他者評価認知が低いためとも考えられる.定型発達. るという結果になったと考えられる.. 児との比較においても運動領域に関しては,有意に低い. ②他者評価認知のあり方. 結果が得られており,小学校高学年の発達障害児は,自. 自己評価と他者評価認知の差の結果を見ると,小学生. 己の評価に関して問題性を抱えていることを示す結果と. では学業と社会性の面において他者評価認知よりも高い. 捉えることも出来る.このことは臨床群小学生における. 自己評価をしており,中学生は学業を除く3領域におい. 自尊感情の低さにも表れていると考えられる.. て自己評価よりも高い他者評価認知をしているという結. ③自尊感情について. 果が出ている.これは柏木(1983)がいうように小学生は,. 自尊感情では中学生においては,小学生の結果とは逆. いまだ発達の初期の段階にあり,自己を過大に認める傾. 転し臨床群の方が自尊感情が高いという結果が出ている.. 向が強いということを示していると考えられる.しかし. このことから発達障害児は,小学生時代に定型発達児に. ながら運動の領域においては,自己評価が他者評価認知. 比べ自尊感情が低下する事態に陥り,そのことの防衛と. よりも低い結果が出ており,その点を考慮すると,小学. して中学生になると自己に対する認知がゆがみ,自尊感. 4・5 年生という時期は,まさしく児童期から青年期への. 情がむしろ定型発達児と比べ高くなる可能性があると思. 移行期にあり,柏木(1983)や溝上(1999)のいう自己を他. われる.または,本研究において対象とした発達障害児. 者の視点から捉えるなど自己意識の変容がなされていく. は,対人関係上の困難性を主訴としてグループセラピー. 時期にあると推察される.. に参加しており,そういった環境や経験の影響により自. 2)臨床群の結果について. 尊感情が支えられているとも考えられる. 4.

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