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外科的矯正治療における口唇と舌および咀嚼筋機能の変化について

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総 説

外科的矯正治療における口唇と舌および咀嚼筋機能の変化について

文献展望

石  研

Changes of the Lip, Tongue and Masticatory Muscle Functions

Due to the Surgical Orthodontic Treatment

Review of the Literature

KENJI SUEISHI

Abstract

 A literature review was performed concerning the changes of orthognathic functions, especially of the lip, tongue and masticatory muscle functions, by the treat-ment of dentofacial deformity. Improvetreat-ment of maxil-lofacial morphology by surgical orthodontic treatment results in normalization of the resting and functional be-haviors of the lip and tongue, and the lip pressure during rest and function decreases. No significant correlation has been reported among the changes in tongue pres-sure and amount of surgical correction and relapse. The importance of tongue posture associated with respiration is suggested.

 In patients with dentofacial deformity, the

mastica-tory muscle function was impaired before surgery, and also immediately after surgery. Muscle atrophy and functional deterioration due to surgical invasion and in-termaxillary fixation occur. After six months, functional recovery gradually occurred, and it reached that of the control group at 4 years or more. It is suggested that improvement of occlusion brings about this change and that the adaptation of masticatory muscle may differ depending on maxillofacial morphology. Although the ef-fectiveness of masticatory muscle training is advocated, further research is required.

 Key words : surgical orthodontic treatment(外科的矯正 治療),orofacial muscle function(口腔周囲筋の機能), treatment effect (治療効果) [Received Mar. 19, 2018]  顎変形症の治療において「調和のとれた形態と機能」は, 矯正歯科医および口腔外科医が目指す目標であり,その達 成が治療結果の安定に結びつくことは論を待たない。した がって,外科的矯正治療による顎口腔機能の変化について の知見を理解することが顎変形症の治療に従事する者に求 められている。本稿は顎変形症の治療による顎口腔機能の 変化のうち,口唇と舌および咀嚼筋機能の変化についての 文献を展望するものである。 1.口唇および舌の機能的変化について  口唇と舌は歯列の外側と内側に位置し,その形態と機能 が顎顔面と歯列咬合に影響を与える1)と考えられている。 また,顎矯正手術による顎顔面の形態的な変化が口唇と舌 に与える影響については,術後の安定性の観点からも大き な関心を集めてきた。口唇・舌機能の評価法のうち,以下 のものを挙げる。  1)口唇,舌の運動動態の観察,評価  2)口唇圧,舌圧による評価 東京歯科大学歯科矯正学講座(主任:末石研二教授)

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 3)筋電位計による評価 1)口唇,舌の運動動態の観察,評価  口唇および舌の運動動態のビデオ画像記録や直接的観察 による評価2︲6)では以下の報告がある。  Turveyら2)は外科的矯正治療を行った前歯部開咬患者 9 名を評価し,舌機能と発音の異常は,舌癖と発音の訓練な しに,術後期間において改善を示したとして,治療による形 態の正常化そのものが口唇,舌などの口腔機能が正常に発 現しうる環境をもたらし,適応したと結論した。Bruceら3) は,下顎枝矢状分割法(以下 SSRO)にて改善した骨格性 Ⅲ級患者 4 例について報告し,発音についての大幅な改 善と,タングスラストの残存を報告している。末石ら4)

外科的矯正治療(SSRO 7 名,SSRO+Le Fort Ⅰ型骨切 り術(以下 LF1) 8 名)を行った下顎前突症患者 15 名を 対象として,治療前後の口唇および舌の機能評価を行っ た。外科的矯正治療により口唇,舌などの口腔機能は正常 化がなされたが,口唇の筋緊張や習癖が残存し,機能的改 善の余地があるものも存在した。したがって,さらなる 機能的改善が必要であると報告している。Yamaguchi ら4) はさらに症例を増やし,同様の報告を行った。また, Hoppenreijsら6)は外科的矯正治療を行った,267 名の前 歯部開咬患者について,20%の者に術後の開咬を,19%に 頤筋の緊張を,そして 35%に口唇閉鎖不全の残存を報告 した。そして,前歯部ならびに臼歯部の咬合不全と舌位の 不正とに有意な関連を認めている。  これらの観察による評価では,報告により評価に違いを 認めるものの,顎顔面形態の手術による正常化が口唇と舌 の機能時動態の正常化をもたらしたとしている。 2)口唇圧,舌圧の評価について  Proffitら7)は LF1 にて上顎前方移動を行った患者 10 名 について評価し,安静時口唇圧の減少を報告し,口唇の適 応によると結論した。機能(嚥下,会話)時の口唇につい ては,手術後,生理的な適応があり,会話時と嚥下時の口 唇圧を維持するとした。また,石川8)は,骨格性下顎前突 者 14 名を被験者とし,手術前後の機能時唇舌圧を計測し た。発音時唇圧は術前後で変化を認めなかった。口唇閉鎖 時上唇圧は有意な変化を認めず,下唇圧は術後,増加傾向 を認めたが対照群よりも低い値であった。これは術後,口 唇閉鎖が容易となり,下口唇の機能が発現しやすくなった ためであろうと考察している。  舌圧に関して,Proffitら9)は,上顎前歯部の骨切り術を 行った上顎前突 10 症例を対象に,嚥下時の上顎歯列に対 する舌圧を計測した。外科的な前歯後方移動後,舌圧は治 療前の異常に低い値から正常値へと増加した。したがっ て,形態が機能に従うというよりは,機能 (嚥下)が口腔 形態に適応したと結論づけている。日比野ら10)は,SSRO および骨体部階段状骨切除術を行った下顎前突症患者 10 名を対象とした。術後,2 ~ 3 か月で嚥下時舌圧は増加傾 向を示した。手術後の舌圧および舌圧変化率は被検者間の ばらつきが大きく,1 年後では有意差を示さなかった。し かしながら,舌圧は術後の後戻りの原因の一つとして関与 していることが示唆されたと結論付けている。一方,冨田 ら11)は SSRO および骨体部階段状骨切除術を行った下顎 前突症患者 15 名を調査した。手術後,両手術法で嚥下時 舌圧は増加を示した。また,術式により,変化様相は異 なっていた。舌圧の変化は個体差が大きいため,舌圧の増 加が後戻りの程度に関連するかは明確ではないと述べてい る。成田12)は,下顎前突を治療した 21 症例における発音 時舌圧を計測した。1 年の間,前歯部における発音時舌圧 は持続して術前よりも低い値を示したと報告し,結論とし て SSRO 術後の舌圧増加はそれほど高くなく,部分的舌 切除が顎手術と同時に必要となることはないと述べてい る。同様に,Przygonskiら13)は下顎枝垂直骨切り術(以 下 IVRO)にて下顎前突症を治療した患者を調査した。舌 圧は下顎前突患者群で術後,減少を示した。下顎前突症に 対する外科的矯正治療は舌圧の上昇を示さなかったことか ら,舌縮小術を定型的術式として行う必要はないと結論し ている。  また,石川8)は骨格性下顎前突者 14 名の安静時および 発音時の舌圧を計測した。舌圧の変化と手術による歯列弓 および下顎位の変化に関連はなく,また,舌圧の変化と後 戻りの発現および下顎の後退量との間に関連は示されな かった。手術後,舌は新しい環境に短時間で適応すると考 察している。  以上,これらの研究は,口唇圧に関して,安静時,機能 時の口唇圧は手術方向によって想起される軟組織緊張を反 映していない。手術により軟組織の緊張が低減すること で,安静時口唇圧は減少する。術前,発音や嚥下時の口唇 閉鎖機能時に認めた過緊張が術後,軽減していることが, 口唇圧に反映し,圧の減少が生じることを示唆している。  また,舌圧に関しては,下顎の後方移動術の後,嚥下時 および発音時舌圧は増加するという報告と,逆の結果を示 す報告も存在した。舌圧の変化および後戻り量と外科的な 変化との間に有意の相関は報告されていない。また舌圧 は,大きな個体差を示した。したがって,個々の患者それ ぞれの保定における咬合の安定性を評価して,管理するこ との重要性が示唆される。  口唇閉鎖力に関しては,Uekiら14︲17)が一連の研究を報 告している。Uekiら14)は骨格性下顎前突の外科矯正手術 前および術後 6 か月で,口唇閉鎖力を調査した。最大口唇 閉鎖力には治療前と対照群において男女差があり,男女と もに手術前の最大口唇閉鎖力は対照群と比較して有意に

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小さく,手術後に手術前と比較して有意に増加すること を報告した。さらに,Uekiら15)は,骨格性下顎前突症を SSRO 単独あるいは LF1 との併用で治療した患者 63 名に ついて最大および最小口唇閉鎖力を調査した。手術後に, 男女ともに時間経過にしたがって両閉鎖力は増加した。 又,その変化には有意な男女差を認めている。最大口唇閉 鎖力は術 1 年後においても男女ともに対照群とは有意に低 いままであったと報告した。又,Uekiら16)は 54 症例の骨 格性下顎前突症を SSRO 単独あるいは LF1 との併用で治 療した患者の口唇閉鎖力と咬合力,咬合接触点の関連につ いて報告した。治療前と術後 6 か月,術後 1 年の比較にお いて口唇閉鎖力,咬合力および咬合接触点の経時的な増加 を認めたが,女性においては有意な咬合接触点の増加は認 めなかった。術前との比較では口唇閉鎖力の増加率は咬合 接触点の増加率と関連していた。Tsutsuiら17)は SSRO と LF1 との併用で治療した Class Ⅱおよび Class Ⅲ患者の口 唇閉鎖力について報告した。Class Ⅱ女性群では最大およ び最小口唇閉鎖力の術後の変化を認めなかった。しかしな がら,Class Ⅲ男性群では術後の最大および最小口唇閉鎖 力の有意な増加と,Class Ⅲ女性群での術後の最大口唇閉 鎖力の有意な増加を認めた。術後 6 か月における Class Ⅱ および Class Ⅲ患者群の最大口唇閉鎖力は対照群と比較し て小さいものであった。  以上,口唇閉鎖力は,正常咬合群と比較して術前には低 く,Class Ⅲ患者群は外科的矯正治療による顎顔面形態の 改善に伴い増加するが,ClassⅡ患者群は変化を認めてい ない。さらに,Class Ⅲ患者群においても術後 1 年後でも 正常咬合群のレベルには達していないことを示している。  その他にも,顎変形症患者において術後の口唇閉鎖力の 改善を認めない症例が存在するという報告18,19)があり,そ の改善に向けて,筋機能療法の必要性が示唆されている。 3)筋電位計測による評価について  吉田20)は SSRO にて治療した下顎前突症患者 23 名の術 前と,術後の 13 名を対象に舌の筋電位を計測した。術後 2 か月において嚥下時の EMG 活動性は有意に増加し,そ の後,減少した。また,安静時の活動性は減少した。術後 18 か月において,患者群と対照群に有意差を認めなかっ た。したがって,外科的矯正治療による新たな口腔環境に 対し,舌の EMG 活動性は適応することが示されたと結論 している。さらに,扁桃肥大を呈する患者 1 名について, 術後に過度な EMG 活動性を呈し,咬合が不安定となった ことを報告した。また,扁桃切除ののち,舌の EMG 活動 性は低下し,垂直被蓋,水平被蓋共に改善したとして,気 道を含めた舌の適応を阻害する因子を除去することの重要 性を示した。 2.咀嚼筋および咀嚼機能の変化について  外科的矯正治療の目的の一つは重篤な不正咬合の改善で あり,治療が咀嚼筋と咀嚼機能にどのような影響を与えて いるかが調査されてきた。咀嚼筋の適応性の評価は主とし て以下のパラメーターで評価されている21)  1)筋力:筋の活動性は発現する筋力で決定される。咀 嚼筋では咬合面で計測される咬合力がある。最大咬合力は 個々の筋の発現ではなく閉口筋全体の等尺性の筋力評価と なる。  2)Electromyography(EMG) : 筋の活動性を評価する 最も一般的な生理学的方法で,筋の運動単位の活動による 電位変化を増幅して計測する。臨床的には表面電極が多く 用いられ,ほぼ筋線維全体の活動を評価するが,筋に刺入 して用いる針電極では単一筋線維から発生する活動電位を 計測することが可能で,局所的な活動電位を評価すること になる。また,複数の表面電極を用いて,筋全体の発現電 位をマッピング表示することも行われている。  3)大きさ:筋の大きさはその長さ,厚径,断面積そ して体積などで評価されている。計測は,超音波検査 (ultrasonography),コンピュータ断層撮影(computed tomography : CT) お よ び 磁 気 共 鳴 画 像(magnetic resonance imaging :MRI) などが用いられている。  4)Myosin heavy chain (MyHC) isoform の 構 成21)

基本的に骨格筋は含まれる MyHC isoform で,遅筋線 維(typeⅠ)と速筋線維(typeⅡ)に分類され,速筋線 維(typeⅡ)はさらにⅡA,ⅡB,およびⅡX に分類され る。また,人の顎骨筋は他の骨格筋と異なっていて,四肢 の筋は TypeⅠと typeⅡ線維のモザイク状構造を示してい るが,閉口筋は比較的均質な typeⅠと typeⅡ線維の混合 体で構成されている。さらに健康成人の顎骨筋は MyHC-ⅡB を持たず,MyHC isoforms のうち,発育中の筋と心 筋 に 存 在 す る MyHC-foetal と MyHC-cardiac alpha を, typesⅠ,ⅡA および ⅡX に加えて有している。  顎骨の筋線維のタイプは MyHC isoforms のモノクロ ナール抗体を用いて,免疫組織学的に決定される。個々 の線維の横断面は筋の横断面の顕微鏡写真で計測される。 種々の MyHC の抗体で染色することにより,線維の横断 面は含有する線維のタイプに関係付けられる。 1)咬合力による評価  咬合力による評価として,Zarrinkelkら22)は,LF1 で治

療した上顎骨の垂直的過形成 (Vertical maxillary excess: VME) 患者 15 名を調査した。術後 6 週の時点で,下顎の 開口制限が生じていたが,6 ~ 12 か月後には対照値へと 回復した。治療前に最大咬合力は有意に対照群よりも低

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く,術後,徐々に増加し,2 年以内に正常値へと近づいた。 治療前に咬合力あたりの筋活動レベルは対照群と同等か やや低い状態であった。術後,数名の患者は咬合力あたり の筋活動レベルが有意に低い状態であった。本研究の結果 から,上顎の上方移動による VME の治療は機能的障害の 兆候の幾つかを改善することが示唆されたとしている。ま た,Ellis Ⅲ Eら23)は下顎前突症患者 24 名の最大咬合力を, 矯正治療前から術後 3 年の期間で計測した。治療前の咬合 力は対照群と比較して有意に小さかった。術後に咬合力は 徐々に増加し,2 ~ 3 年かけて対照群の値に近づいた。こ の結果から顎矯正手術による下顎前突の治療は機能的な利 益をもたらすと結論した。さらに,Iwaseら24)は下顎前突 症患者 23 名の手術(SSRO)前後の咬合力と咬合接触面 積を評価した。手術前では,対照群と比較して咬合力と咬 合接触面積は有意に低いことが示された。顎矯正手術によ り咬合力と咬合接触面積は改善されたが,術後 1 年では対 照群の値に達しなかったと報告した。同様に Choiら25)は, IVRO による下顎後方移動術後の咬合圧と咬合接触面積の 経時的な変化について下顎前突患者 78 名を対象に調査し た。咬合圧と咬合接触面積の計測を行い,経時的な変化と 関連因子を linear mixed model を用いて検討した。咬合 圧と咬合接触面積は術前矯正期間に減少し,術後 1 か月で 最少となり,その後徐々に増加した。咬合接触面積によっ て咬合圧の経時的な変化に有意差を認め,その増加が術後 の咬合圧改善に不可欠であると結論した。  顔面形態の違いでは,Huntら26)は垂直的な顎変形があ る患者 42 名を対象に最大咬合力を計測した。患者は short face 群と long face 群とに分類された。手術は下顎前方移 動,下顎後方移動,上下顎手術であった。治療前に short face 群は long face 群よりも有意に高い咬合力を示した。 術後 3 か月時点で咬合力は低下した。その後徐々に増加を 示した。short face 群では 1 年以内に術前の値と有意差を 示さなかったが,long face 群では術前の値よりも有意に高 い値を示した。手術法では下顎前方移動群は最も低い咬合 力を示し,上下顎手術群で咬合力の有意な増加を認めた。  手術術式との関連では,Yamashitaら27)は,骨格性下顎

前突症の SSRO 治療群のうち,骨縫合を bicortical screw と monocortical miniplate で行った群に分けて術後の咀嚼 機能と感覚神経の回復について比較した。手術 1 年後に は違いは最も小さくなっていて,miniplate 群では咀嚼機 能と感覚神経の障害からの回復が screw 固定群より早い が,有意な違いは認めなかった。さらに Yamashitaら28) は,追跡調査を術後 5 年まで行っている。咬合機能は両群 で同様の回復をみた。顎矯正手術は咬合力と咬合接触面積 を改善するが,術後の咬合機能が健康な個体と同様のレベ ルに達するのに術後 4 年以上の期間が必要であった。5 年 後においても咬合機能と神経感覚に関する指標に有意差 はなかった。Helkimo index を用いた顎関節機能の評価で は,screw 群は plate 群よりも有意に高い値を示したと報 告している。また,Uekiら29)は下顎前突症 16 名の患者を

SSRO, IVRO, SSRO with LF1 および IVRO with LF1 の 4 群に分類し,咬合力と咬合接触点の変化を調査した。最大 咬合力と咬合接触点は術後 3 ~ 6 か月の間に術前のレベル に回復した。咬合力と咬合接触点の経時的な変化には手術 群間で違いはなかったと報告した。  術後の機能訓練に関して,Katoら30)は外科的矯正治療 を行った下顎前突症患者 47 名をチューインガムを用いた 咀嚼訓練群 34 名と非訓練群 13 名に分け,さらに正常咬合 群 20 名とを比較した。手術前のすべての平均計測値は正 常咬合群よりも低く,特に咀嚼訓練群において術後に徐々 に増加したが,最終的な値は依然正常咬合群よりも低いも のであった。咀嚼訓練群の咀嚼訓練の平均実行率は 68.6% で,咀嚼訓練の実行率と咀嚼効率と最大咬合圧の改善率に は正の相関を認めた。顎変形症患者における顎矯正手術後 のチューインガムを用いた咀嚼訓練は咀嚼効率と最大咬合 圧の改善に有効であると結論した。  以上の報告から,顎変形症の治療前の咬合力は,対照群 と比較して低く,術直後,最大咬合力は減少する。この術 直後の咬合力と筋活動の減少は,筋への手術侵襲と顎間固 定による運動制限などがその要因として考えられている。 その後,半年程度で最大咬合力は徐々に増加する。これに は咬合接触面積の増加との関連が示唆されている。しかし ながら,矯正治療後も対照群のレベルに達していないが, 術後 4 年経過後に対照群に達したという報告も存在する。 この術後の反応に関しては,治療前の不正咬合の種類と顔 面形態ならびにそれに対応する手術法による違いがあると 考えられている。 2)EMG による評価  EMG による評価では,Moss31)は 3 種類の下顎単独手 術で治療した 31 名の骨格性下顎前突症患者について,セ ファロ分析とともに咬筋,側頭筋および下顎下制筋群の活 動を調査した。治療前の活動量は正常咬合群と比較すると 50 ~ 60%程度であった。手術後に,筋活動は減少し,と くに咬筋前腹で著明であった。保定後では,側頭筋と特 に咬筋前腹の活動が増加していた。咬合平面と前歯歯軸 を含めた垂直的,水平的顔面形態と筋活動との関連を認 め,それらを含めた保定期間の変化の考察を行った。ま た,Raustiaら32)は 18 名の顎変形症患者の治療前後の咬筋 および側頭筋の活動を調査した。被験者のうち,12 名は 下顎前突症で下顎後方移動を,6 名は下顎後退症で,下顎 の前方移動を SSRO にて実施した。術後 6 週時点で,筋 活動は大きく減少したが,1 年後には明らかに増加してい た。2 年後時点では,咀嚼運動での筋活動がわずかに増加

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したが,最大咬合力では変化がなかった。下顎後退症患者 よりも下顎前突症患者において筋活動の明らかな増加を認 めた。また,性別では男性が,そして年齢では高い方が明 瞭な変化を示したことを報告した。一方,Eckardtら33) 外科的矯正治療前後の咬筋の EMG 活動を 16 個の電極を 用いてマッピング処理を行い,筋全体の電位を調査した。 被験者は 32 名の成人患者で,Ⅱ級症例が 15 名,Ⅲ級症例 が 17 名で構成された。術前の活動電位パターンとの比較 では,Ⅱ級患者での術後の活動電位パターンが対照群と類 似することが示された。一方,Ⅲ級患者の治療後では最大 活動電位の頭側方向へのシフトを認め,Ⅱ級患者に認めた 調和を示さなかった。このⅢ級患者で見られた治療後の咬 筋活動パターンの不全と後戻りのリスクおよび保定期間の 延長への関連が示唆された。   さらに,Youssefら34)は 61 名の顎変形症患者の咀嚼運 動と咀嚼筋の EMG 活動量および算出した咬合力を評価し た。咀嚼運動では,咀嚼サイクルの長さと下顎運動経路 に対照群との有意差を認めず,また,手術前後でも有意 差はなかった。手術前に算出した咬合力は対照群と比較 して有意に低く,術後,6 週目では減少した。その後,増 加したが,対照群のレベルには達しなかった。EMG 活動 量は術後,6 週目では減少したが,その後上昇した。3 年 後では側頭筋活動量は対照群と有意差を示さなかったが, 咬筋活動量は対照群のレベルに達していないと報告した。 Nakataら35)は 36 名の下顎前突症患者の外科的矯正治療期 間を通じた顎口腔機能の変化を調査した。手術前に咬合接 触面積と最大咬合圧は減少し,術後に増加した。咬筋と側 頭筋の活動も手術前に減少し,しかしながら,術後におい ても実質的な増加はなかった。咬合と筋の質的評価は対 照群に対して,治療段階によらず,有意に低い値であっ た。筋活動量の左右差の指標 AI は術後減少した。また, 異常な咀嚼運動経路の出現比率 EI は術後,有意に減少し たが依然として対照群よりも有意に高い値であった。咀嚼 筋は術後に新たな環境に適応するが,その活動性は対照 群に比較すると依然として低いレベルにあると結論した。 Frongiaら36)は下顎前突症患者 17 名の外科的矯正治療前 後の咬筋および側頭筋前腹の筋電位を評価した。治療前と 外科的矯正治療後 6 ~ 8 か月の 2 時点での評価で,筋の activity index,asymmetry index および torque index に 有意な減少を認めた。術後の EMG 活動性は神経筋機構の 新たな咬合状態への良好な適応性を示し,さらなる治療が 必要と考えられる応答性に乏しい患者を評価する良い方法 であることが示唆されたとしている。  後戻りとの関連では,Koら37)は上下顎手術を行った骨 格性Ⅲ級患者 35 人を対象に,咀嚼筋活動の経時的変化を 調査し,下顎の安定群と後戻り群とで比較した。EMG デー タは術後 1 か月にかけて減少し,その後回復した。治療前 と術後 6 か月で有意差はなかった。後戻り群(relapse > 11%;n = 15)では安定群と比較して,術後 6 か月での 側頭筋前腹の安静時トーンが大きく,術前の overlapping coefficient の割合が大きく,すべての時点での最大嚙み しめ時の値が大きかった。後戻り群では,顔面高の減少 (2.18mm)が安定群(0.5mm)よりも大きかった。下顎後 退量の前後的後戻りは,大きな咀嚼筋活動を示す患者で生 じる。手術設計の変更やオーバーコレクションが手術前に 大きな咀嚼筋活動を認める患者で考慮されるべきであると 結論した。  これらの報告から,術前における咀嚼筋の EMG 活動性 は対照群よりも低く,手術後には低下することが示されて いる。これは咬合圧と同様の変化であり,手術侵襲と顎間 固定による運動制限の影響が考えられている。また,治療 後および保定時には徐々に筋活動性は向上することが報告 されている。不正咬合の種類では,Ⅱ級不正咬合よりもⅢ 級不正咬合での筋活動の向上が多いという報告がある一 方,咬筋の筋電位マッピングによる調査では逆の結果が示 されていて,議論のあるところと言える。治療後の評価で は,咀嚼筋活動は左右対称性の向上や異常波形の出現の減 少など,治療変化に適応し,治療前からの改善が認められ ているが,対照群(正常咬合)のレベルには達しないこと が示されている。また,咀嚼筋の活動量と術後の安定性と の関連も報告されている。 3)咀嚼筋の大きさ  骨格性下顎前突症患者を対象とした外科的矯正治療が咀 嚼筋の形態に与える影響に関して,Katsumataら38)は咬筋 の走行,長さ,断面積について術後 1 年までの変化を CT を用いて調査した。SSRO 群 17 名と IVRO 群 13 名を被験 者とした。術後,咬筋の前方傾斜が観察されたが,長さに は変化がなかった。術後 3 か月時点で咬筋断面積の有意な 減少を認めた。正常な形態への回復傾向を術後 6 か月か ら 1 年の間に認めた。手術術式による違いはなかった。本 研究の結果から咬筋は下顎後退手術の術後に可逆的な萎縮 を生じていることが示唆されたとしている。また,Ueki ら39)は,咬筋と下顎枝部の形態と咬合力との間の関連性 について,下顎前突症の患者 26 名に対する SSRO の手術 前後で評価した。咬筋の横断面については術前と術後 1 年 で有意差はなかった。しかしながら,術後の下顎枝の幅と 面積および術後の右側顎関節面積は術前よりも有意に増加 した。また,術後 1 年の咬合圧と咬合接触面積は術前より も有意に増加した。本研究は,術前から術 1 年後における 咬筋の面積には有意差はないが,咬合圧と咬合接触面積お よび下顎枝の面積と幅は SSRO の術 1 年後に有意に増加 したことを示した。さらに,Trawitzkiら40)はⅢ級の顎変 形症患者 13 名に対する外科的矯正治療と口腔筋機能療法

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の統合的な治療が咬筋厚径に及ぼす効果を分析した。手術 前を P1 群,同じ患者の手術後 3 年から 3 年 8 か月時点の P3 群および対照群 15 名の咬筋の超音波計測を安静時と咬 合時で行った。P3 群の咬筋厚さは P1 群と比較して有意に 高い値を示した。P3 群と対照群では右側の咬筋に安静時 と嚙みしめ時に,左側咬筋の安静時に有意差を認めた。外 科的矯正治療と筋機能療法はⅢ級の顎変形症患者の咬筋の 厚さに改善をもたらしたと結論している。長期の変化とし て,Leeら41)は顔面非対称を伴う骨格性Ⅲ級患者 17 名の 上下顎移動術(LF1 + IVRO)に伴う咬筋の形態変化を評 価した。CT による計測を T1(手術前),T2(術後 1 年), T3(術後 4 年)時点で行った。T1 時の咬筋最大断面積, 圧径,幅径に偏位側と非偏位側間の有意差はなかった。筋 の位置では,非偏位側は偏位側より垂直的であった。T2, T3 時点で両側の差は認めなかった。T1 時,咬筋の計測値 は対照群と比較し有意に小さかった。T1⊖T3 間で咬筋の 断面積,圧径,幅径は有意に増加し,T3 時点で被験群と 対照群間に有意差を認めなかった。術後,顔面非対称を伴 う骨格性Ⅲ級患者の咬筋計測値は 4 年間の観察期間をおい て対照群との有意差を認めなかった。したがって,新しい 骨格的な関係への適応と機能的な負荷の増加を示唆した。  以上の研究から,骨格性下顎前突症では,術前に咬筋の 断面積,幅径,圧径は対照群よりも小さく,手術後 3 か月 から 6 か月時点では可逆性の萎縮が生じている。術後 1 年 では,術前と有意差を認めず,術後 3 ~ 4 年目で対照群の 大きさに近づく傾向にあることが示唆されている。  一方,下顎後退症における外科的矯正治療が閉口筋の 形態に与える影響について,Dickerら42)は下顎後退症患

者 12 名を Short face 群と Long face 群に分類し,術前と 術後 10 か月から 48 か月後に MRI を用いて評価した。顎 矯正手術は,Short face 群では SSRO 単独であり,Long face 群の 4 症例では SSRO と LF1 を併用した。咬筋の最 大断面積と体積は両群で有意に減少した。有意ではない が,この現象は Long face 群でより優勢である傾向があっ た。内側翼突筋の断面積の変化は小さかった。垂直的顔面 形態によらず,下顎閉口筋は外科的前方移動後に有意に減 少した。さらに Dickerら43)は外科的な下顎前方移動によ る外側翼突筋と顎二腹筋前腹への影響を評価した。対象 の下顎後退症の患者 18 人を Short face 群 7 名(SSRO 単 独),Long face 群 11 名(LF1 + SSRO 8 名,SSRO 単独 3 名)に分類した。各群で手術前後の最大断面積と体積を比 較した。手術後(平均 27 か月後),SSRO 群で外側翼突筋 の断面積と体積は増加し,上下顎手術群で減少した。すべ ての群で,顎二腹筋前腹の一定しない増加と減少が観察さ れた。外側翼突筋は Short face 群と Long face,SSRO 単 独群で増加し,Long face,上下手術群で減少した。顎二 腹筋前腹の適応は予測できないものであったと報告してい

る。このように手術法と顔面の垂直的な形態によって,術 後の適応状態が異なることが示唆されている。

4)Myosin heavy chain (MyHC) isoform の構成

 Boydら44)は外科的矯正治療に伴う咬筋の適応反応を調

査するため,VME 患者 5 人の咬筋浅層前方深部から,手 術時と術後経過時(平均 8 か月)に検体を採取した。標準 的な染色法を用いて個々の筋線維を type Ⅰ, type Ⅱ,そ して intermediate type に分類した。VME 患者と対照群 の両者とも type Ⅰ線維が優勢で,対照群では type Ⅰ線 維の高い比率 (50% vs. 43%) を示した。平均では,type Ⅰ線維が最も広い面積を示した。手術後,type Ⅱ線維 の増加を認めた (30% vs. 52%)。上顎単独手術の 2 例で は,筋線維面積に変化はないか,わずかな増加であった。 他の 3 例は上下顎の手術を受けており,筋線維面積の減 少を示した。後者のうち 2 名は 脱神経,神経再支配過程 (denervation-reinnervation process ) の 病 像 を 示 し た。 したがって,人の咬筋は顎骨の手術に反応することが組織 生化学的に示され,その反応の種類と程度は実施される手 術術式によると結論している。  また,Gedrangeら45)は 5 名の遠心咬合患者と 5 名の 近心咬合患者,計 10 名の患者の下顎骨に対する顎矯正 手術 6 か月後の咬筋の適応を typeⅠと typeⅡx 線維の mRNA 発現レベルで調査した。MyHC mRNA の発現量 は遠心咬合患者よりも近心咬合患者の方が有意に少なく, 咬合接触点の違いによると考えられた。術後 6 か月時点 で,両群ともに約 87%の typeⅠおよび typeⅡx 線維の MyHC mRNA の減少を認めた。下顎近心咬合患者の減 少が大きいが,遠心咬合と有意差はなかった。術後 6 か 月時点での筋萎縮が示唆されることから,患者は咀嚼筋 の訓練期間を持つべきで,そのことが治療結果の安定を 改善し,後戻りを防ぐと結論づけている。同様に Harzer ら46)は,咬合接触点数の変化と手術前および 6 か月後に

おける咬筋における MyHC mRNA isoforms の相対的な 発現を同定し,その関連を調査した。下顎前突症と下顎 後退症の患者 30 名から,両側咬筋の前方部と後方部から 検体を採取し,typeⅠ,Ⅱa,およびⅡd/x の同定を行っ た。TypeⅠ(46% before, 37% after) から typeⅡa (29% before,42% after)への相対的組成のシフトを認めた。 また,咬合接触点数と関連していた。Isoform のシフト と咬合時の接触点数の関連から,高い咬合力が治療結果 を安定させることが示唆されたとしている。Maricicら47) は,下顎前突症および下顎後退症の成人患者 29 名を対象 とし,咬筋からの計 232 検体を術前と 6 か月後に採取し た。Mechano growth factor (MGF)と myostatin および MyHC isoforms の mRNA 発現を RT-PCR で定量化した。 MGF mRNA は有意に増加し,一方 myostatin mRNA は

(7)

有意な変化を示さなかった。MyHC isoform 発現のシフト が見られた。MyHC-I mRNA は減少し,一方 MyHC-Ⅱa mRNA は増加した。術後 6 か月での MGF 発現の増加と MyHC isoform のシフトの一貫性は適切な筋の適応とより 高い咀嚼活動を示唆するとしている。  Oukhaiら48)は,下顎前突患者(11 名)と下顎後退患者 (13 名)の成人患者(24 名)を対象とし,計 192 検体を 手術前および 6 か月後に両側の筋の 2 部位から採取した。 MYH3 と MYH8 の発現量を RT-PCR を用いて計測した。 絶対定量を threshold cycle values (CT 値)から求めた。 MYH3 は下顎前突群と下顎後退群で増加した。MYH8 は 下顎後退群のみで増加し,下顎前突群では減少した。下 顎後退患者で,治療前後の MYH3 値は相関を認めた。結 論として,MYH3 と MYH8 は顎矯正手術の術後の機能的 適応において重要な役割を果たしており,下顎後退と下 顎前突という骨形態の違いは遺伝的に定められた筋適応 の機構と関係していることが示唆されたとしている。同 様に Breuelら49)は,下顎後退および下顎前突を示す患者 35 名における筋の伸展因子について分析した。両側咬筋 の前方および後方部からの組織サンプルを手術前と術後 6 か月に採取した。MYH3 と MYH8,MYH 1,2,7,そ して伸展と組織再生に特異的な cyclo-oxygenase (COX) 2, forkhead transcription factor (FOX)O3a, calcineurin, および nuclear factor of activated T cells (NFAT)1c を 分析した。Class ⅡとⅢ患者の前後的,垂直的セファロ 分析値,ANB と ML-NL-angle との相関を求めた。2 群間 で MYH8,MYH1 および FOXO3a の発現量に有意差を 認めた。組織再生因子 COX2 は Class Ⅱで優勢であった。 外科的な咬合挙上(ML/NL angle)は伸展の指標である FOXO3a,calcineurin,そして NFAT1c と Class Ⅱ群の みで相関を認めた。これは,Class Ⅱ群での下顎の伸長と 咬合挙上が咬筋を伸展しており,Class Ⅲ患者と比べ,後 戻りを引き起こしやすいことを意味するとした。  以上の研究は,顎矯正手術は咬筋の適応を促し,typeⅡ 線維の増加が咬合接触の増加に伴い認められることを示し ている。また,手術侵襲による筋の萎縮が認められてい る。この術後の変化は,下顎前突と下顎後退,あるいは垂 直的顎顔面形態により異なり,遺伝的にも,また,顎矯正 手術による筋の伸展と引続く筋の萎縮の有無によっても異 なることが示唆されている。  外科的矯正治療による顎顔面形態の正常化は,多くの場 合,口唇と舌の安静時と機能時の動態の正常化をもたら し,それが反映して安静時および機能時の口唇圧は減少す る。舌圧の変化および後戻り量と外科的な変化との間に有 意の相関は報告されていない。また舌圧は,大きな個体差 を示した。呼吸との関連を含め,咬合の安定性を評価し て,管理することの重要性が示唆されている。  咀嚼筋に対する形態的,機能的および組織生化学的評価 では,術前の咀嚼筋機能の低下があり,さらに術直後に顎 矯正手術の侵襲と顎間固定による筋の萎縮と機能低下が生 じ,その後 6 か月後から徐々に機能回復が生じ,4 年以上 をかけて対照群に近づいていくことが示されている。この 咀嚼筋の適応は顎顔面形態により異なる様相を示すことが 示唆されている,また,咀嚼訓練の有効性が報告されてい るが,術後の咬合の安定との関連も含め,さらなる研究が 必要と思われる。  著者および所属講座に本論文に関し開示すべき利益相反(COI) はない。

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参照

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