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表1:病院内急変への対応体制

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Academic year: 2021

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(1)

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様式 C CC C- -- -19 19 19 19

科学研究費補助金研究成果報告書 科学研究費補助金研究成果報告書 科学研究費補助金研究成果報告書 科学研究費補助金研究成果報告書

平成21年 3月27日現在

研究成果の概要:危機管理に関する医学・医療領域からの新しい取り組みとして「緊急事態対 応医学」という概念を提唱した。「緊急事態対応医学」は all-hazard approach、cross-sectoral function、lessons-learned approach、service continuity planning を 4 原則として体系化 することが可能で、具体的な緊急事態や災害事例の検証ならびに諸外国の状況に関する調査を 通じて有用性が示された。

交付額

(金額単位:円)

直接経費 間接経費 合 計

2006年度 2,900,000 0 2,900,000

2007年度 2,000,000 600,000 2,600,000 2008年度 2,000,000 600,000 2,600,000

年度 年度

総 計 6,900,000 1,200,000 8,100,000

研究分野:医歯薬学

科研費の分科・細目:境界医学・医療社会学

キーワード:危機管理、緊急事態、院内救急、災害医療、救急医療、中毒、NBCテロ

1.研究開始当初の背景

(1) 社会活動における危機管理は優れて今 日的な課題であるが、医学領域からのアプロ ーチはいわゆる医療過誤対策を中心になさ れてきた。しかし、医療および医療機関の社 会的役割を考慮すると、医療過誤のみならず、

院内での緊急事態(院内急変、院内救急、院 内感染、針刺し事故、その他の事故)から「地 域」(二次医療圏レベル)における種々の災 害(地震、台風、水害など)、NBC テロ、感染 症アウトブレーク(SARS など)などを含む不 測の事態(contingency)に対応することが求 められている。

(2) 医学・医療に限らず、種々の緊急事態や 災害はその種類別の問題として対応策が検

討され、各組織は固有の役割に限定した問題 としてとらえているのが現状である。そこで 医学・医療からの新たな取り組みとして、本 研究は「緊急事態対応医学」という概念を導 入して、広義の(医療)リスクマネジメント として「病院内」から「地域」(二次医療圏 レベル)へ連続的に拡大して整備、実践する ことを提唱し、臨床医学と社会医学の壁を越 えた新たな展開をめざした。

緊急事態対応医学の確立においては、災害 医学領域の新たな概念である、すべての緊急 事 態 を 対 象 と す る 観 点 ( all-hazard approach)と、組織横断的なシステムの構築

(cross-sectoral function)、ならびに、経 験に学ぶ(lessons-learned approach)とい 研究種目:基盤研究(B)

研究期間:2006~2008 課題番号:18390160

研究課題名(和文) 緊急事態対応医学の体系化とシステム整備:院内救急からテロ・災害 時の地域連携まで

研究課題名(英文) A Study on the Systematic Approach to Emergency Management Medicine:

From Inpatient Collapse to Local Cooperation for Disaster and Terrorism.

研究代表者

嶋津 岳士 (SHIMAZU TAKESHI) 近畿大学・医学部附属病院・教授 研究者番号: 50196474

(2)

う手法を暫定的な基本として採用した。

2.研究の目的

(1) 本 研 究 の 目 的 は 緊 急 事 態 対 応 医 学 (Emergency Management Medicine)という概 念と基本原理を確立して、その体系化を行う ことである。

(2) 具体的な事例の検証を積み上げること により緊急事態対応医学を実践する際に生 じる問題と課題について検討する。

① 緊急事態対応の核となるべき「総合的 な対応計画」の要件、ならびに病院内および 地域内における種々の部署、組織、機関の分 担と連携モデル(組織論)に関する具体的な 問題点と対応策について検討を行う。

② 緊急事態対応においては、構成員に対 する教育と訓練の実施が重要な役割を果た すと予想されため、人材養成に関する問題と 課題を明らかにする。

3.研究の方法

代表的な災害・危機事例での対応を検討し、

関与する組織、例えば、院内では救急部、集 中治療部、リスクマネジメント(安全管理)

部、感染症対策部、事務部、各診療科など、

また地域では医療機関、消防、保健所、医師 会、警察、行政などの役割と連携について評 価・検討を行った。その上で、対応計画の作 成、構成員の教育と訓練、組織間連携の確立、

責任体制と指揮体系に関する問題点を検討 した。

評価に際しては、緊急事態対応医学の原則と して、(a)災害や危機をその種類別の問題と して捉えずに、あらゆる不測事態(病院内の 急変から地域での各種災害、NBC テロ、感染 症アウトブレーク)を対象とする all-hazard approach と、(b)病院内のみならず地域にお ける他組織(機関)における二重の意味での 組織横断的なシステムの構築、ならびに(c) 経験に学ぶ、という観点からの評価を行った。

同時に、上記の 3 つ以外にも基本とすべき視 点がないかについて考慮した。

以下の事項について検討を行った。

(1)病院内 CPR コール活動の分析と改善:

病院内で発生した心停止および急変事例に 対する援助要請(CPR コール)の内容を分析 し、その際に必要とされた緊急対応の内容、

当該部署で実施された対処、ACLS 講習会参加 の有無、事前の教育の有無とその効果などを 分析し、システムの改善点を明らかにする。

特に、医療職以外の職員の積極的な関与の可 能性について検討を行った。

(2)災害に対する病院での対応体制の整備:

災害時の病院における対応に関するテキス ト(“Hospital MIMMS”-これは災害時の病 院における具体的な対応について体系的に 記述した世界で唯一のテキストである)が新

たに 2005 年 9 月に公開されたのでその翻 訳・出版を行う。また、これまで実施してき た 災 害 に 対 す る 医 療 対 応 の 教 育 コ ー ス

(MIMMSコース)を継続して実施するとと

もに新たにHospital MIMMS のコースを開 催する。これらの活動を通じてHMIMMSで 示されたシステム、方法の詳細な検討、評価 を行い、本邦においても災害現場から病院へ と連続的な対応を行うことが可能となるよ うなモデルを構築する。

(3)緊急事態管理(Emergency Management) 活動および教育に関する研究:本邦および諸 外国でのEM活動、特に医療分野での状況に ついて調査を行う。

(4)地域レベルでの緊急事態管理計画に関す る研究:海外の事例分析を行い、わが国にお ける地域レベルでの対応計画について検討 を行う。

(5)地域での対応を必要とした代表的災害事 例に対する緊急事態管理医学の観点からの 再評価:

(6)地域・病院内における組織間連携に関す る研究(勉強会活動):

4.研究成果

救急医療と災害医療は、類似点はあるものの 大きく異なっている(医療需要と資源の関係、

個人と集団の優先順位の観点から)ことがす でに指摘されている。今回の研究からは救急

(緊急、emergency)と不測の事態(偶発事態、

contingency)もまた区別すべきであると考 えられる。区別することにより、それぞれに 求められる対応体制もまた異なってくるこ とが理解される。すなわち、救急は個人にと っては突然の事態(偶発事態)であるが、社 会(集団)全体としてみると一定数の事例が 常に発生しており、それに対して備えること は社会的にも正当化しやすい。一方、偶発事 態は個人にとってはもちろん、社会にとって も低頻度事象であり、その備えが役に立つか 否かは不確実である。緊急事態対応医学では、

救急から偶発事態に至るまで広いスペクト ラムの事象に対する合理的な対処の指針を 示すことが求められる。

(1)病院内 CPR コール活動の分析と改善:

研究期間中に研究代表者が所属した大阪大 学医学部附属病院(A病院)と近畿大学医学 部附属病院(B病院)において病院内での急 変事例への対応の状況を調査し検討した。平 成17年から20年の事例を対象とし、過去の 事例については可能な限り記録を参照して 調査した。両病院の規模はほぼ同等で、コー ルを発動させたのは看護師が一番多いこと、

看護師と研修医に ALS 講習会の参加が多い ことは共通であった。しかし、院内急変に対 するシステムはさまざまな点で異なってい た(表1)。

(3)

特に、発生頻度が約8倍異なることが注目さ れるが、これは発生場所が外来だけか、病棟 も含むかという差によるものと思われた。欧 米の報告では1000入院につき11.2回の心肺 停止(code blue)が発生すると報告されてお り、1日入院患者数850、平均在院日数14日 とすると、この規模の病院では年間約250回 の心肺停止が発生することになり、この2病 院のデータと大きく異なっている。本邦では 病院内における心肺停止の発生頻度に関す るデータのないこと自体が問題であるが、病 院に入院する患者の種類や病態(重症度、末 期疾患、DNRなど)、社会的背景の相違など についてさらに検討を行う必要がある。また、

近年欧米では心肺停止(code blue)になるまで に 患 者 の 異 変 を 察 知 し て 対 応 す る Rapid response systemが普及しつつあるが、これ はまさに緊急事態対応医学の目指すところ であり、わが国においても病院内急変の発生 頻度などの基礎的な統計データを明らかに することがより求められている。

今回の検討で病院内急変の症状、理由として 多かったのは、心肺停止(直後の回復例を含 む)56 例(42%)、呼吸障害(呼吸苦、SpO2 低 下)49 例(37%)、意識低下 12 例(9%)、血圧低 下 10 例(8%)、薬剤ショック(造影剤、キシ ロカイン)6 例(5%)であった。

このような病態に対応するためには、発生状 況を評価して、院内各部署での救急カートの 整備ならびに現場へ急行する医師の装備、訓 練を見直すことが重要である。われわれは蘇

生用具一式、酸素ボンベ、エアウェイスコー プなどを発生場所に応じて分担して持参す る体制を構築し、スタッフへの心肺蘇生教育 の強化を行っている。また、処置中の情報を 共有してチームとしての取り組みを促進す る一環として、処置室に蘇生・急変に適した 装備を設置して効果をあげている(図1)。

(2)災害に対する病院での対応体制の整備:

①MIMMSテキスト(第二版)と併用して現

場において使用可能な備忘録である「大事故 災害における管理システム:医療対応のため の 現 場 活 動 メ モ ( 原 書 Blackwell Publishing)」を翻訳し、2006 年 11 月に永 井書店より出版した。これは災害現場での役 割に応じた具体的なアクションカード(例:

医療指揮者、トリアージ担当者など)が多数 提示されており、本邦における同様の整備を 行う上で有用な資料となった。

②Hospital MIMMS の テ キ ス ト ( 原 書 Blackwell Publishing)を翻訳し、「Hospital

MIMMS ホスピタル・ミムズ:大事故災害へ

の医療対応 病院における実践的アプロー チ」として2009年3月に永井書店より出版 した。本書は病院での災害対応に関する唯一 のテキストであるとともに、MIMMSテキス トで示された現場対応の原則とも整合性を 持ったシステムを構築していることが重要 である。このテキストより学ぶべき点は多く あり、災害時の病院内での運営組織を構築す る 際 の 、「 折 り た た み 可 能 な 階 層 構 造 (collapsible hierarchy)」、「病院対応のフェー ズ(プレホスピタル期、受入れ期、根本治療 期、回復期)」、「人に役割(アクション)を 与えるのではなく、役割に人を当てはめる」

などの考え方はわが国の病院対応計画にも 取り入れる必要があると考えられた。

③Hospital MIMMSコースの開催

日本 MIMMS 委員会の一員(委員長)として 2007 年 10 月に英国人講師 2 名を招いて、本邦で 初めてHospital MIMMSコースを開催した。

これまでに計 4 回のコースを大阪、東京、三 重(津)、滋賀(大津)において開催し、参 加者は医師、看護師を中心に計約 110 名であ った。参加者の評価は非常に高く、各病院で の対応計画、マニュアルを作成する際に非常 に参考になるというものであった。各地の病 院や医師会からもコース開催の要望が多数 あり、指導者の養成も今後の大きな課題であ る。また、医師、看護師以外の職の病院スタ ッフの参加を促すことも必要である。

④近畿大学医学部附属病院の災害対応マニ ュアルの一次改訂ならびに災害訓練(H21 年 1 月)、院内での災害勉強会(H20 年 6 月、H21 年 3 月)を実施した。災害対応マニュアルの 改訂は未整備の部分を補うことが主たる目 的の暫定的なものであったため、院内で検討 図1:処置室での情報共有

バイタルサインと時計

(経過時間)の拡大表示

表1:病院内急変への対応体制

外来 病棟・外来

主な発生場所

狭山コール CPRコール

名称

必要に応じて あり

事後検証

必要に応じて あり

事後報告書

6.5件(3~11件)

55件(30~75)

年間発生件数(*)

全医師 専従医

対応医師

あり なし

全館放送の有無

942 ベッド数 1076

B-病院 A-病院

(*) H17からH20の4年間

(4)

委員会を組織して体系的なマニュアルを作 成する予定である。2 回の勉強会には計 120 名以上が参加し、災害医療の基本、トリアー ジについて理解を深めることができた。特に、

2 回目の勉強会では ER 部の看護師が中心とな って机上演習や模擬患者を用いたトリアー ジも実施することができ、病院内の多くの部 署から参加者を得たこともあり、非常に高い 評価が得られた。このような勉強会を継続、

発展させていくことが今後の課題である。

(3)緊急事態管理(Emergency Management) 活動および教育に関する研究:

欧米においては緊急事態管理(EM)の概念 が普及しており、米国では緊急事態管理者 (emergency manager)、英国では緊急対応計 画者(emergency planning officer)という職 種が公的組織および民間組織に広く設けら れている。そして緊急事態管理の専門家を養 成するための高等教育機関(専門大学あるい は大学学部、講座)も多数存在する。英国で は1994年コベントリー(Coventry)大学に 開講されたのを嚆矢として多くの大学に開 設 さ れ て い る 。 ま た 、 政 府 ( 内 閣 府 ) に Emergency Planning Collegeが1989年に設 置され、省庁を超えた領域でのセミナー、コ ースを多数開催していることが注目される。

米国では緊急事態管理に関する大学院博士 課程が North Dakota 州立大学を始めとし て8つの大学に設けられている。修士、学士 のコースは各地の大学の様々な領域に渡っ て多数存在する。本邦でも千葉科学大学危機 管理学部や明治大学危機管理研究センター などが開設されたが、その数はまだ限られて いる。欧米では緊急事態管理の資格、受講証 が就職や専門家としての活動の機会につな がることが大きな要因であると考えられる。

また、緊急事態管理計画を立案し構成員への 教育、訓練を請け負う民間会社や、緊急事態 管理者の組織として全国緊急事態管理者学 会(NEMA、米国)や国際緊急事態管理学会

(IAEM)などが存在して、緊急事態管理の 活動を支援するとともに社会にとって不可 欠なものとしている。

民間組織ではemergency managementより もbusiness continuity planningという用語 を用いる場合が多いが、医療組織では「サー ビスの継続(service continuity)」を主要な 目標の1つとすべきと考えられる。米国では 1996年の法律(The Health and Portability and Accountability Act (HIPAA))により、

事業継続計画と災害時の機能回復の策定が すべての医療機関の必須事項となっている。

(4)地域レベルでの緊急事態管理計画に関す る研究(海外の対応計画の分析を含む):

研究代表者は今回の研究の成果を踏まえて

大阪府医師会の災害対応計画(「災害時にお ける医療施設の行動基準(第 2 版)」、2007 年、救急・災害医療部会)の作成に参画し、

個々の病院から府レベルでの災害対応計画 を作成した。また、大阪府 DMAT の災害訓 練の一部として大阪空港災害訓練(机上演 習)を開発し、過去3年間に渡って実施した。

その結果、参加(実施)者の災害医学に関す る基礎知識を高めること、各病院レベルでの 災害対応を標準化することの重要性が認識 された。

一方、最近の海外の状況を見ると、米国で開 発 さ れ た HICS (Hospital Incident Command System:病院有事統制システム) が病院、地域(市)、州、政府レベルでの対 応とも整合性を有するという点で非常に注 目される。英国から世界に広まった災害医療 教 育 コ ー ス で あ る MIMMS、Hospital MIMMS、また米国医師会の災害医療研修コ ースで近年急速に普及しつつある Basic / Advanced Disaster Life Support (BDLS/ASLS) では病院を越えた地域レベル での活動には直接ふれていない。HICSは、

カリフォルニア州救急医療公社が作成した 病 院 緊 急 事 態 指 揮 対 応シス テ ム (HEICS, Hospital emergency incident command system, 1991 年)から発展した。もともと ICS (Incident Command System) を応用し た病院の危機管理手法で、災害の種類、規模、

病院の大小、災害発生後の時相を問わずに応 用ができる汎用性の高いシステムである。

HICS では災害時の病院組織図が系統的に示 されており、災害の種類や規模に応じて必要 な役割を立ち上げてゆく。また、病院の職種 毎に要求される業務の内容(アクションカー ド)と指揮系統、他職種との連携が明示され て い る 。 組 織 は 指 揮 (command)、 現 場

(operation)、企画運用(planning)、後方 支 援 (logistics)、 経 理 ・ 管 理 (finance / administration)の5部門からなるが、これ はICSの基本骨格と同様である。

HICS では、まさに病院内での対応システム と地域(二次医療圏レベル;消防、警察、行 政組織を含む)での対応システムは共通の原 理に基づく相似形(入れ子構造)となってお り、地域モデルを拡張させると県や国単位で の対応システムへと発展可能という仕組み を実現している。これは緊急事態対応医学の 基本構想の一つに相当するものであり、わが 国においても、個別の病院レベルにとどまら ず、都道府県および地域(二次医療圏)レベ ルにおける緊急事態対応計画の優れたモデ ルとして参考にすべきであると考えられる。

(5)地域での対応を必要とした代表的災害事 例に対する緊急事態管理医学の観点からの 再評価:

(5)

わが国の災害について特に医療対応の観点 から経過と課題について検討を行ったが、特 に教訓的な2つの事例について報告する。

①堺市学童集団下痢症(1996 年)では病原性 大腸菌O157によって9500名を越える感染 患者が発生し、120名以上が重篤な合併症で ある溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した。

堺市の小児医療機関は早い段階で飽和して おり、重症患者を受け入れる余裕はなかった ため、大阪府救急医療情報センターが中心と なって、大阪府下の 15 の救命救急センター および集中治療施設に患者の分散収容を誘 導し、近隣の医療機関の積極的な協力を得ら れたため、混乱の中でも円滑な対応が可能と なった。また、各施設の治療経過を集積した データベースを作成し、病態や治療に関する 検討が行われた(大阪府HUS研究会)。 この事例は災害時に生じた医療需要と医療 資源のミスマッチを地域全体(大阪府)で再 調整することにより需給バランスを回復す ることが可能となった点に大きな意義があ る。1995 年の阪神淡路大震災の翌年の事例 であり、大阪府下では震災時の協力体制が維 持・強化されていたことも影響しているが、

地域の連携が適切に機能した好例である。

また、このとき収容先の医療施設で医療従事 者が消化器感染症状を呈する事例があり、不 安が広まった。SARSの際に台湾や中国の病 院から医療従事者が逃げ出したという報道 からも推察されるように、生物テロや感染症 災害時にはNC災害を含む他の災害の場合よ りも、医療従事者の安全の確保、不安の解消 に留意することの重要性が示された。

②東海村JCO臨海事故(1999年)は3名の 作業員が致死量の中性子線を浴びた N 災害 であるが、複数の被ばく傷病者が発生した際 の対応に関する問題が明らかとなった。現在 わが国では原子力発電所立地道府県におい て原子力安全研究協会による緊急被ばく医 療の講習会が開催されているが、複数の被ば く患者が発生した際の対応についてはほと んど検討がなされていない。現在の施設運営 上は複数(2、3名以上)の被ばく患者が発生 することはないという前提で対応が準備さ れている点に限界があると考えられる。

複数の被ばく患者が発生した際には、他の災 害時と同様にトリアージが必要であるが、被 ばく患者のトリアージ(古賀ら)が提唱され ている。一般の傷病者に関するトリアージは かなり普及しつつあるが、NBC などの特殊 災害におけるトリアージ手法の開発と普及、

医療施設への収容を効率的に行うための「サ ージ・キャパシティ (surge capacity)」とい う概念の導入、災害発生時などに入院患者を 安全に避難させるための「リバーストリアー ジ (reverse triage)」など、トリアージに関 するさらなる研究が必要である。

(6)地域・病院内における組織間連携に関す る研究(勉強会活動を含む):

①院内感染(ノロウィルス)事例への対応:

院内で数十名の患者が発生し(2000年)、研 究代表者らは院内の一部門(ER 部)として 対応を行ったが、その際の院内の組織間の連 携について検討を行った。対策本部、感染対 策部(ICT)を中心に検査部門、外来部門、

救急部門、病棟部門、手術部門が協力体制を 構築して早期に終息させることができたが、

必要な情報を、適切なタイミングで、必要と する人に、双方向に伝達することが最も重要 な課題であった。

②その他の自経例における問題点の検討:過 去3年間の自経例においては、情報伝達およ び指揮命令系統に関する問題が最も多かっ た。これは、まさにMIMMSが災害時の対応 の 基 本 と し て 提 唱 す る CSCATTT の C

(command、指揮命令)とC(communication、

情報伝達)と一致する。CSCATTTの概念を 災害だけではなく緊急対応の原則として医 療従事者に普及させることが今後の課題で ある。そのためには学生、研修医、新規採用 などの機会を利用することが考えられる。

③地域での勉強会活動(1):北摂地域において 医療機関、消防、警察、保健所、中毒情報セ ンター、行政の関係者とともにBC災害に関 する勉強会を 2001 年より行ってきたが、

2006年には初めて核・放射線(N)災害に関 するテーマを取り上げて実施した。過去の活 動によりBC災害に関する知識は向上したが、

N災害に対してはまず基本的な知識の普及が 必要であることが判明した。

④地域での勉強会活動(2):南河内地域では近 畿大学の公開講座の一環として地震災害に 関する講義を行った(2008年)。また、近畿 大学内では職員を対象とした勉強会、災害訓 練を実施した。

⑤教育:近畿大学医学部5年生のクリニカル クラークシップの一環として、災害医学の基 本ならびにトリアージの演習を実施した。災 害医療に興味を持つ学生は少なくないが、医 学・医療の社会的な役割に関する認識を高め ることが必要である。特に、他組織との連携 を行うためには消防や警察、行政などのシス テムを理解することが必須である。同時に救 急隊などの関係者へ病院のシステムについ て周知することの必要性が認められた。

5.主な発表論文等

(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線)

〔雑誌論文〕(計 14件)

①嶋津岳士(他6名、1番目)、緊急事態に対 する病院の新しい取り組み:院内急変からテ ロ・災害時における地域連携まで、近畿大学 医学雑誌、査読無、33、2008年、257-263

(6)

②嶋津岳士、救急医療と救急科専門医-その 現状と展望、医学のあゆみ、査読無、226、 2008年、717-722

③嶋津岳士(他4名、1番目)、北海道洞爺湖 サミットの救急医療体制-各論⑤NBC テロ 対策、救急医療ジャーナル、査読無、16、2008 年、58-59

④嶋津岳士、日本における災害医療の教育コ ースのすべて-MIMMS、別冊ERマガジン、

査読無、5、2008年、238-241

⑤嶋津岳士(他1名、2番目)、脾臓出血(外 傷性脾損傷)、救急医学、査読無、32、2008 年、655-658

⑥嶋津岳士(他5名、1番目)、救命救急セン ターにおける先端技術の導入と展望、医科器 械学、査読無、77、2007年、148-155

⑦嶋津岳士(他 2 名、3 番目)、外来での診療 の実際-転送する場合の患者管理-気道と 呼吸の管理、救急・集中治療、査読無、19、

2007 年、1179-1184

⑧嶋津岳士(他 6 名、2 番目)、災害医療にお けるシミュレーション学習の実際-MIMMS、

救急医学、査読無、31、2007 年、1529-1534

⑨嶋津岳士、中毒診療特異的治療法 輸液、

尿のアルカリ化、救急・集中治療、査読無、

19、2007 年、360-365

⑩嶋津岳士、大阪府における初期被ばく医療 機関のあり方について、「緊急被ばく医療」

ニュースレター、査読無、21、2007 年、3-4

⑪松本直也、嶋津岳士、総合評価-MOF と MODS、

救急医学、査読無、31、2007 年、325-327

⑫清水健太郎(他 12 名、1 番目)、田崎修(9 番目)、嶋津岳士(12 番目)、SIRS 患者にお ける腸内細菌叢、腸内環境の変化とシンバイ オテッィクス療法の有効性、日本救急医学会 雑誌、査読有、17、2006 年、833-844

⑬嶋津岳士(他 1 名、1 番目)、MIMMS-英国 における災害教育システム、Emergency Care、

査読無、19、2006 年、1145-1150

⑭嶋津岳士(他 1 名、1 番目)、サリチル酸中 毒の治療指針、救急・集中治療、査読無、18、

2006 年、775-777

〔学会発表〕(計 9件)

① 嶋津岳士、特別報告 北海道洞爺湖サミ ット NBC 対応、第 36 回日本救急医学会、2008 年 10 月 15 日、札幌

② 嶋津岳士、広域医療搬送訓練における大 阪 DMAT の活動と連携、第 36 回日本救急医学 会、2008 年 10 月 14 日、札幌

③ Haruhiko Nakae 、 Does splenic preservation treatment improve immunologic functions and long-term prognosis of splenic injury?、第 67 回米 国外傷外科学会、2008 年 9 月 24 日、USA

④ 冨吉浩雅、ER 部での応需困難症例に関す る検討、第 11 回日本臨床救急医学会、2008 年 6 月 7 日、東京

⑤ 城有美、全国の救急施設の現状-リクル ートブースに出展した施設へのアンケート から、第 11 回日本臨床救急医学会、2008 年 6 月 7 日、東京

⑥ 中江晴彦、外傷性脾損傷の治療の現状-

全国の救命センター・救急部アンケートの結 果から、第 22 回日本外傷学会、2008 年 5 月 29 日、那覇

⑦ 鵜飼勲、救命センターのインシデントに 対するリスクマネジメント効果について、第 35 回日本救急医学会、2007 年 10 月 17 日、

大阪

⑧ 藤野裕士、重症 ARDS の治療、第 29 回日 本呼吸療法医学会、2007 年 7 月 6 日、岡山

⑨ 嶋津岳士、化学テロ・災害への準備と対 応-除染の重要性を中心に、第 34 回日本救 急医学会、2006 年 10 月 31 日、福岡

〔図書〕(計 7件)

① 嶋津岳士、永井書店、(翻訳)Hospital

MIMMS ホスピタル・ミムズ:大事故災害へ

の医療対応 病院における実践的アプロー チ、2009年、3-21ぺージ

② 嶋津岳士、南山堂、災害医学(改訂2版)、 2009年、290-296ページ

③嶋津岳士、医学書院、今日の治療指針2009 年版、2009年、110-111 及び 1231-1262ペ ージ

④嶋津岳士、じほう、急性中毒標準治療マニ ュアル、2008年、47-49及び79-86ページ

⑤ 嶋津岳士、中外医学社、熱傷治療マニュ アル、2007年、407-412ページ

⑥ 嶋津岳士、永井書店、多数傷病者対応、

2007年、199-206ページ

⑦ 嶋津岳士(他 2 名、2 番目)、永井書店、

(翻訳)大事故災害における管理システム:

医療対応のための現場活動メモ、2006 年、

107ページ 6.研究組織 (1)研究代表者

嶋津 岳士 (SHIMAZU TAKESHI) 近畿大学・医学部附属病院・教授 研究者番号:50196474

(2)研究分担者 (3)連携研究者

田崎 修 (TASAKI OSAMU) 大阪大学・医学系研究科・助教 研究者番号:90346221

清水 健太郎 (SHIMIZU KENTAROU) 大阪大学・医学系研究科・医員 研究者番号:60379203

松本 直也 (MATSUMOTO NAOYA) 大阪大学・医学系研究科・医員 研究者番号:50359808

藤野 裕士 (FUJINO HIROSHI) 大阪大学・医学系研究科・講師 研究者番号:50252672

参照

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