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資本性金融商品に係る減損 ―EFRAG における議論を手掛かりとして―

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資本性金融商品に係る減損

―EFRAG における議論を手掛かりとして―

根 岸 亮 平

1. はじめに

 本稿の目的は,欧州財務報告諮問グループ(EuropeanFinancialReportingAdvisory Group:以下,EFRAG という)における議論を通じて,金融商品とりわけ資本性金融商 品(EquityInstruments)の減損について予備的検討を行うことである。

 2014 年に金融商品に係る包括的な会計基準である IFRS 第 9 号「金融商品」(以下,

IFRS9 という)が IASB より公表され,エンドースメントアプローチを取る欧州連合

(EuropeanUnion)は EFRAG にエンドースすべきかの助言を求めた。これに対し EFRAG は,IFRS9 のエンドースメント自体を支持する一方,資本性金融商品に係る会計 処理に関して懸念を示した。この EFRAG によるエンドースメントに関する助言を受け,

欧州委員会(EuropeanCommission:以下,EC という)は,IFRS9 を 2016 年 11 月にエ ンドースを決定する一方,IFRS9 における資本性金融商品に係る会計処理が,欧州にお ける長期投資に与える潜在的な影響について調査することを EFRAG に要請した。

 この要請を受けて EFRAG は,当該会計処理に係る調査活動を行い,その一環として,

2018 年 3 月 に 公 開 草 案「資 本 性 金 融 商 品 ― 減 損 お よ び リ サ イ ク リ ン グ(Equity Instruments-ImpairmentandRecycling)」(以 下,EFRAG(2018) と い う), お よ び 2020 年 1 月に補助資料「長期間の資本性金融商品に係る代替的会計処理(Alternative AccountingTreatmentsforLong-termEquityInvestments)」(以下,EFRAG(2020)

という)を公表した。

 そこで本稿では,EFRAG によるこれらの公表物にみられる議論を手掛かりに,資本性 金融商品に係る減損について整理を行い,予備的な検討を行う。具体的に,本稿の構成は 次のとおりである。まず,第 2 節において IFRS9 における会計処理とその論拠について 確認を行う。次に,第 3 節および第 4 節において,EFRAG(2018)および EFRAG(2020)

における減損モデルについて整理を行う。そして,第 5 節において資本性金融商品に係る 減損について予備的な検討を行い,第 6 節において本稿の総括および今後の課題を示す。

2. IFRS9 における会計処理およびその論拠

 IFRS(2014)では,特定の金融資産の管理に関する企業のビジネスモデルおよび金融 資産の契約上のキャッシュ・フローの特性に該当しない場合,金融資産は純損益を通じて 公正価値(Fair.ValueThroughProfitorLoss:以下,FVPL という)で測定しなければ ならない(IFRS9,par.4.1.4)。ただし,特定の資本性金融商品については,当初認識時に,

〔研究ノート〕

(2)

この FVPL による測定ではなく,事後の公正価値の変動をその他の包括利益に表示する

(FairValueThroughOtherComprehensiveIncome:以下,FVOCI という)という取 消 不 能 の 選 択(以 下,FVOCI オ プ シ ョ ン と い う) を 行 う こ と が で き る(IFRS9, par.4.1.4)。ここで,特定の資本性金融商品とは,売買目的保有でも IFRS 第 3 号が適用さ れる企業結合における取得企業の条件付対価でもない資本性金融商品である(IFRS9, par.5.7.5)。

 当該 FVOCI オプションは,金融商品ごと(すなわち株式ごと)に選択することができ るが,FVOCI オプションが選択された場合には,その他の包括利益に表示された金額を 事後的に純損益に振り替えること(すなわち,リサイクリング)は禁止されている(IFRS9, par.B5.7.1)(1)。この場合,公正価値の変動はその他の包括利益で認識されるが,当該資本 性金融商品を売却したとしても純損益へのリサイクリングが行われず,また減損という手 続自体が不要となる(2)

 IASB は,基本的に資本性金融商品についてはキャッシュ・フローが元本及び利息のみ の支払ではないため,当該金融商品を保有するビジネスモデルを問わず,FVPL による測 定が目的適合的であると考えている(IFRS9,BCE.67)。しかし,特定の資本性金融商品 について,FVOCI オプションを認める理由を IASB は次のように説明している。

「一部の資本性金融商品については,公正価値に関する情報が純損益に関連性がない と考えられる可能性がある場合があること(金融商品が戦略目的で保有される場合な ど)を承知している。したがって,IFRS 第 9 号は,投資を売買目的で保有していな い限り,企業が資本性金融商品に係る公正価値変動をその他の包括利益に表示するこ とを選択することを認めている。」(IFRS9,BCE.67)

 資本性金融商品には,契約上のキャッシュ・フローの回収や売却などの目的で保有する というビジネスモデル以外に,他の企業と長期的な関係を作り出す,またはそれを維持す る戦略投資を目的として保有するビジネスモデルがあることを認め,当該目的で保有する 場合には FVOCI を適用すべき(公正価値の変動を純損益に認識するべきではない)とい うことである。

 一方で,FVOCI が適用された資本性金融商品についてリサイクリングを認めない理由 については,次のように説明している。

「主な理由の 1 つは,リサイクリングを行うとこれらの持分投資について減損の検討 を行う必要が生じることである。IAS 第 39 号における資本性金融商品についての減 損の要求事項は非常に主観的であり,国際的な金融危機の間に最も批判を受けた会計 処理の要求事項の 1 つであった。これと対照的に,IFRS 第 9 号には,資本性金融商

(1) ただし,利得または損失の累計額を資本の中で振り替えることはでき,資本性金融商品に対する配当は,配 当が明らかに投資原価の一部回収である場合を除き,純損益に認識される(IFRS9,par.B5.7.1)。

(2) 一方で,ビジネスモデルとキャッシュ・フローの特性により,FVOCI で測定される金融資産については,

減損が適用される(IFRS9,par.5.2.2)。

(3)

品に対する投資についての減損の要求事項は含まれていない。」(IFRS9,BC4.153(a))

「それ(資本性金融商品の減損―筆者)は金融資産に関する財務報告を大幅に改善す ることにも,複雑性を減少させることにもならない。したがって IASB は,資本性金 融商品の認識の中止を行う際の利得及び損失の純損益へのリサイクリングを禁止する ことを決定した。」(IFRS9,BC5.25)

 すなわち,主観的かつ複雑性をもたらす減損の会計処理を避けるために,FVOCI オプ ションが適用された資本性金融商品にリサイクリングを行わないということである。ここ で言及されている IAS 第 39 号「金融商品:認識および測定」(以下,IAS39 という)お よび IFRS9 における資本性金融商品の会計処理方法をまとめると図表 1 のとおりである。

 IAS39 においては,資本性金融商品について「減損しているという客観的な証拠

(objectiveevidence)」が存在するときに減損が認識される(IAS39,par.58)。特に,

FVOCI で測定される資本性金融商品は,「公正価値の著しいまたは長期にわたる下落

(significantorprolongeddecline)」 が 減 損 の 客 観 的 な 証 拠 と さ れ て い る(IAS39, par.61)。これらの減損の認識に係る要件が主観的または複雑な会計処理をもたらしてい たため,IFRS9 ではリサイクリングを採用しなかったのである。

図表 1 資本性金融商品の会計処理方法

分類 測定 評価差額 減損

IFRS9

原則(下記以外) FVPL 純損益に認識 N/A FVOCI を指定 FVOCI OCI に認識

ノンリサイクリング N/A

IAS39

売買目的で保有

FVPL を指定または FVPL 純損益に認識 N/A

売却可能金融資産 FVOCI OCI に認識 リサイクリング

公正価値が著しくまたは長期に わたって下落している時に認識

(ただし,戻入れは禁止)

公表価格がない

資本性金融商品 取得原価 N/A 減損の客観的な証拠(3)が存在す る時に認識

(ただし,戻入れは禁止)

IFRS9,pars.4.1.4and5.4.4 および IAS39,pars.9,58,61,66,67and69 より筆者作成

(3) 具体的には,資本性金融商品の発行体に係る技術的,市場的,経済的又は法律的な環境に生じた,不利な影 響を伴う重大な変化に関する情報で,当該投資の取得原価が回収できないかもしれないことを示す証拠であ る(IAS39,par.61)。

(4)

3. EFRAG(2018)における議論(4)

 第 1 節で述べたとおり,EFRAG は,EC より IFRS9 における資本性金融商品に係る会 計処理が,欧州における長期投資に与える潜在的な影響についての調査を要請された。こ の要請を受けて公表された EFRAG(2018)では,資本性金融商品を FVOCI により測定 し,リサイクリングを採用することを前提として,以下の 2 つの減損モデルについて検討 を行っている。

 ・再評価モデル(revaluationmodel)

 ・主観性を減じた IAS39 と類似の減損モデル(impairmentmodelsimilartoIAS39 withlesssubjectivity:以下,類似モデルという)

 さらに別のアプローチとして,細部まで開発されたわけではないが,戦略投資モデル

(strategicinvestmentapproach)について検討がなされている。

 本節では,EFRAG(2018)における資本性金融商品に係る減損の議論として,これら 3 つの減損モデルについて取り上げることとする。

(1) 再評価モデル

 再評価モデルでは,資本性金融商品は公正価値で測定され,公正価値の下落およびその 後の回復のみを純損益に認識し,取得時の価格を超える公正価値の上昇は OCI に認識す る(par.4.5)。当該モデルでは,公正価値の測定に係る判断はさておき,減損の認識に係 る判断はすべて排除され,客観性と比較可能性に関する懸念を払拭することができる

(par.4.9)。

 しかしながら,公正価値の下落が,資本性金融商品の発行者の経済状況における客観的 かつ識別可能な不利な変化の影響によるものであるかどうかについて断定することではで きない(par.4.10)。また,本来 IFRS9 における FVOCI オプションは,保有時における純 損益の変動を排除するものであるが,再評価モデルでは公正価値が下落する限り,その目 的を達成することはできない(par.4.11)。

(2) 主観性を減じた IAS39 と類似の減損モデル

 類似モデルは,IAS39 に類似する減損モデルであるが,特に「公正価値の著しいまたは 長期にわたる下落(significantorprolongeddecline)」に関する主観性を排除しようとし ている(par.4.15)。具体的には,「公正価値の著しい下落」に公正価値が下落している特 定の割合を定義し,「公正価値の長期にわたる下落」に公正価値が下落している特定の期 間を定義することにより,主観性を排除することを提案している(par.4.18)。

 このように,減損の認識に係る閾値を量的に定義することにより,比較可能性を向上さ せ,偏向のリスクを減らすことができる。そして,再評価モデルと異なり,公正価値の下

(4) 本節では,EFRAG(2018)から引用を行っている場合,パラグラフのみを示している。

(5)

落を減損とそれ以外の部分に区別することができる。しかしながら,原則主義から離れる ことになり,目的適合性を損ねることになる。

 これに対するオプションとしては,各企業に「公正価値の著しい下落」および「公正価 値の長期にわたる下落」を定義させる方法である。これにより,投資家の平均保有期間や 資本性金融商品の種類をより反映することができる(par.4.21)。ただし,各企業に定義さ せる場合には,開示と一貫した適用を義務付けることにより改善はできるが,比較可能性 が損なわれる(par.4.22)。

(3) 戦略投資モデル

 戦略投資モデルでは,資本性金融商品を資金生成単位(以下,CGU という)に配分し,

IAS 第 36 号「資産の減損」と同様に減損を行う(par.4.26)。具体的には,次のステップ により行う(par.4.27)。

 (a)戦略投資となる資本性金融商品の取得時の価格を,CGU の帳簿価額に含める  (b)CGU の帳簿価額と回収可能価額とを比較する

 (c)負の差額が生じた場合,OCI の残高がなくなるまで,戦略投資となる資本性金融 商品の公正価値の変動を OCI から純損益に振り替える

 (d)負の差額に残額がある場合,CGU の他の資産に比例的に配分する。

 戦略投資モデルは,戦略投資目的で保有している資本性金融商品が,保有している他の 資産のリターンに貢献するという考え方に基づいている。そのため,資本性金融商品の回 収可能価額は,その配当や売却による利得のみで評価されるべきではなく,関連するシナ ジーによりキャッシュ・フローが影響を受ける他の資産との組み合わせで評価されるべき であるとしている(par.4.26)。

 しかし,EFRAG は,戦略投資という区分を定義するためには過度な判断や複雑性が生 じることから,戦略投資モデルについてこれ以上の検討を行っていない(par.4.29)。具体 的に,企業は,資本性金融商品を様々な理由で保有しており,その理由は時の経過ととも に変わる可能性がある。また,戦略投資目的であるかどうかを継続的に再評価する必要が あり,それに応じて利得または損失を表示すべき場所が変わる可能性もある。

4. EFRAG(2020)における議論(5)

 EFRAG(2018)の後に行われた調査によれば,第 3 節で示した減損モデルのうち回答 者の 30%が IAS39 の減損モデルを改善すること(すなわち類似モデル)に前向きであっ たという。また,回答者は IAS39 の減損モデルを出発点として,過度なコストをかけず に頑健な減損モデルを開発できると考えており,次の点について主観性を排除する追加的 な指針を開発するが必要であるという(pars.3.62and3.63)。

(5) 本節では,EFRAG(2020)から引用を行っている場合,パラグラフのみを示している。

(6)

(a)「著しいまたは長期にわたる」という概念について定義および規準を開発する

(b)減損損失の戻入れを許容する

(c)回収可能価額を決定する方法を明確にする

(d)追加的な開示を規定する

(e)業績や分散効果を管理するために用いられる会計単位に減損の測定を整合させるた めのポートフォリオ・アプローチを検討する

 これらの調査結果から,EFRAG(2020)では定性的減損モデルおよび定量的減損モデ ルに大別し,IAS39 にもとづく減損モデルに加えて,いくつかの減損モデルについて検討 をしている。本節では,EFRAG(2020)における資本性金融商品に係る減損の議論として,

これらの減損モデルについて取り上げることとする。

(1) 定性的減損モデル

 EFRAG(2020)における定性的減損モデルの特徴をまとめると,次の図表 2 のとおり である。

(2) 定量的減損モデル

 定量的トリガーを用いる減損モデルでは,「著しいまたは長期にわたる」という概念は,

IAS39 において売却可能金融資産に分類される資本性金融商品の減損モデルに類似する

名称 特徴

定性的 IAS39 減損モデル

(pars.3.65-3.69)

当該モデルは,帳簿価額が回復不可能であるとみなされたときに減損を認識し,著しい または長期にわたる公正価値の下落が減損の客観的な証拠となる。

IAS39 ですでに利用されてきたので,適用や理解が容易である。

資本性金融商品の原価が回復しないということを意味する下落と短期的な市場由来の公 正価値の変動とを区別することができ,意図しない損益の変動を避けることができる。

しかしながら,「著しいまたは長期にわたる」についてのこれまでの適用や解釈において,

首尾一貫性がなく比較可能性を低下させるような実務がみられた。

定性的 IFRS9 減損モデル

(pars.3.70-3.73)

当該モデルは,負債性金融商品について「当初認識時以降の信用リスクの著しい増加」

という概念および将来予測的なアプローチ(forward-lookingapproach)にもとづいて いる。減損モデルの包括的なレビューを通じて,負債性金融商品の減損を評価するために用い られる方法と同様に,株式評価(equityvaluation)と関連する要因を識別する変数を 特定することは可能である。当該モデルは,公正価値ヒエラルキーのいずれのレベルに おいても適用可能である。

IAS36 における指標 に基づく減損モデル

(pars.3.74-3.78)

当該モデルは,減価償却の対象となる資産について,種々の指標にもとづいて減損損失 が発生したかどうかを評価する。この減損の指標のリストについて,同様のアプローチ を資本性金融商品の減損にも適用することができる。減損損失の指標が存在する場合,

当該資産の回収可能価額を算定する。

当該モデルを適用する場合,1 株あたり利益,税引後純利益などの測定値にもとづく減 損のトリガー,または企業の信用格付けが引き下げられた場合や企業が属する業界が困 難な状況にある場合などを定性的トリガーとして識別する。

しかしながら,これらの指標が将来の期待値などの要因にもとづく株式評価モデルによ る場合,比較可能性の低下や複雑性の増加など,概念的な制約が生じることになる。

図表 2 定性的減損モデルの特徴

EFRAG(2020)をもとに筆者作成

(7)

ことになる(par.3.79)。しかしながら,公正価値の下落が減損損失の客観的な証拠を表し ているかどうかどうかを表現する判断の範囲を減少させた定量的トリガーを適用すること により,企業間や期間の比較可能性は向上する(par.3.79)。

 しかしながら,明確な定量トリガーを検討しない理由としては,次のとおりである

(par.3.81)。

 (a)単一の数値規準(bright-line)が,すべての状況や資本性金融商品に適切ではない 可能性がある

 (b)原則主義ではない

 (c)ビジネスモデルの特性やポートフォリオを考慮せず,目的適合性に影響を与える  もし定量的トリガーを用いる場合,それを下回る限り減損は存在しないという推定が生 じうるため,設定された割合まで期間が経過するまたは価格が下落する前に,減損損失を 認識する必要があるかもしれない(par.3.82)。

 一方で,以下のような定量的トリガーが提案されている(par.3.83)。

 (a)例えば未実現損失が取得原価の 20%を超えたときなど,著しい下落は,取得原価 から下落の特定の割合として定義されるべきである。

 (b)例えば 6ヶ月を超えたときなど,長期にわたる下落は,公正価値が取得原価以下に なってからの特定の期間として定義されるべきである。

 (c)資本性金融商品についてのソルベンシーⅡ基準と類似したアプローチ  (d)定量的減損トリガーを企業に明示させ,開示を要求する

5. 資本性金融商品に係る減損の予備的検討

 前節まで,資本性金融商品に係る減損に関する EFRAG における近年の議論を整理し てきた。これまでの金融商品に係る減損の議論において,負債性金融商品に係る議論は多 くみられたものの,資本性金融商品に絞った議論はみられなかった。

 EFRAG における議論を踏まえると,資本性金融商品に係る減損は,減損の認識トリガー にもとづいて減損モデルの分類が行われていることが分かる。これは,資本性金融商品の 多くが公正価値により測定することが可能であり,測定属性が問題となることが少ないた めであろう。また,これまでの金融商品に係る減損の議論ではみられなかった論点として,

(1)戦略投資目的の資本性金融商品,(2)減損とリサイクリングが挙げられる。本節では,

これら 2 つの点を取り上げて予備的な検討を行うこととする。

(1) 戦略投資目的の資本性金融商品

 EFRAG の議論において特筆すべきは,戦略投資目的の資本性金融商品について検討が 行われていることである。戦略投資目的に関する定義は明確にされてはいないが,金融商 品に係る契約上のキャッシュ・フローの回収や売却などの目的ではなく,他の企業と長期 的な関係を作り出す,またはそれを維持する目的を意味していると考えられる。我が国に

(8)

おいては,このような目的で保有される株式は,政策保有株式や持ち合い株式と呼ばれる。

 このような戦略投資目的で保有する場合,IFRS9 でも言及されていたとおり,公正価 値の変動を損益に認識しない FVOCI による測定が適切である。さらに,これを減損の議 論にまで拡張した場合,EFRAG ではこれまでの金融商品に係る減損とは異なり,金融商 品に係る減損の対象とはならない IAS36 の減損モデルが検討されていた。最終的には,

減損モデルとしての詳細な検討は行われなかったが,金融商品以外の資産とグルーピング を行い減損を適用するという視点は,外形的な特徴による会計処理ではなく,本質的な特 徴による会計処理を検討する上で大きな示唆を含んでいる。

(2) 減損とリサイクリング

 これまで,リサイクリングの実施の要否については,様々な論点において議論が行われ てきた。しかしながら,減損との関係においてリサイクリングが議論されることは,ほと んどみられなかった。

 資本性金融商品について,単なる公正価値の下落と区別して,減損を認識することは,

特に確認価値を有しており,意思決定有用性を高める可能性がある。また,リサイクリン グを行うことにより,純損益の総額と OCI 累計額から純損益にリサイクリングされた金 額とを比較することにより,「利益の質」を評価することができる(企業会計基準委員会 2018,p.4)。このように,それぞれの会計処理は,一定の情報の有用性を有している。し かしながら,資本性金融商品に係るこれら 2 つの会計処理を併用することにより,有用な 情報を提供することができるのか否かについては,さらなる検討が必要となるであろう。

6. おわりに

 本稿は,EFRAG による公表物にみられる議論を手掛かりに,金融商品とりわけ資本性 金融商品に係る減損について整理を行い,予備的な検討を行った。IFRS9 においては,「公 正価値の著しいまたは長期にわたる下落」を減損の客観的な証拠とする場合,主観的また は複雑な会計処理をもたらすことになるため,資本性金融商品について減損は適用されな かった。それに対し,EC から要請を受けた EFRAG は,資本性金融商品に係る減損につ いて検討を行い,EFRAG(2018)および EFRAG(2020)を公表した。

 EFRAG における議論では,これまでの金融商品に係る減損の議論においてみられな かった点について議論が行われた。本稿では,特に(1)戦略投資目的の資本性金融商品,

(2)減損とリサイクリングの議論について取り上げ,予備的な検討を行った。

 しかしながら本稿は,資本性金融商品に係る減損の議論についての整理および予備的な 検討に留まっている。この資本性金融商品に係る減損の議論を手掛かりに,金融商品に係 る減損についての包括的な検討が必要であろう。この点については,今後の検討課題とし たい。

〔参考文献〕

EuropeanFinancialReportingAdvisoryGroup(EFRAG).2015.Endorsement Advice on

(9)

IFRS 9 Financial Instruments.

———.2018.Equity Instruments-Impairment and Recycling.DiscussionPaper.(EFRAG

(2018))

———. 2020 . Alternative accounting treatments for long-term equity investments.

SupportingMaterial.(EFRAG(2020))

International Accounting Standards Board(IASB). 2003 . Financial Instruments:

Recognition and Measurement.IAS39.(企業会計基準委員会・財務会計基準機構日本語 訳監修 .(2005).『国際財務報告基準書(IFRSs)2004』レクシスネクシス・ジャパン .)

(IAS39)

———.2014 .Financial Instruments.InternationalFinancialReportingStandardNo. 9 .

(企業会計基準委員会・財務会計基準機構監訳 .(2015).『国際財務報告基準(IFRS)[特 別追補版]改訂 IFRS 第 9 号「金融商品」』中央経済社 .)(IFRS9)

企業会計基準委員会 .2018.『ディスカッション・ペーパー「資本性金融商品―減損及びリ サイクリング」に対するコメント』.

(2020.5.20 受稿,2020.6.15 受理)

(10)

〔抄 録〕

 本稿は,EFRAG による公表物にみられる議論を手掛かりに,金融商品とりわけ資本性 金融商品に係る減損について整理を行い,予備的な検討を行っている。IFRS9 においては,

「公正価値の著しいまたは長期にわたる下落」を減損の客観的な証拠とする場合,主観的 または複雑な会計処理をもたらすことになるため,資本性金融商品について減損は適用さ れてなかった。それに対し,EC から要請を受けた EFRAG は,資本性金融商品に係る減 損について検討を行い,EFRAG(2018)および EFRAG(2020)を公表した。EFRAG における議論では,これまでの金融商品に係る減損の議論においてみられなかった減損モ デルや論点について議論が行われた。本稿では,それらの議論の中から,特に(1)戦略 投資目的の資本性金融商品,(2)減損とリサイクリングの議論について取り上げ,予備的 な検討を行っている。

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