討論者 群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学 教授
鈴木 和浩
先生 司会者 慶応義塾大学医学部 泌尿器科学教室 教授大家 基嗣
先生 討論者 近畿大学医学部 泌尿器科学 教授植村 天受
先生 大阪府立成人病センター (大阪国際がんセンター) 泌尿器科 部長西村 和郎
先生 討論者CRPCに対する
最新治療戦略
2016年11月11日(金) 前立腺癌診療ガイドラインが2016年に改訂されたが、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の 逐次療法については十分なエビデンスはなく、明確な治療アルゴリズムは提示されな かった。現在、我が国にはCRPCの治療選択肢として、従来から標準治療として用いられ ている化学療法剤であるドセタキセルに加えて、同じく化学療法剤のカバジタキセル、 アンドロゲン受容体(AR)標的薬であるアビラテロン、エンザルタミドが存在する。今後 のCRPC治療では、これらの薬剤をどのように使いこなしていくのか、4剤の使い分けや 投与順序などについて検討することが重要な課題である。そこで今回、CRPC治療の エキスパートの先生方にお集まりいただき、CRPCの治療アルゴリズムの考え方、そして 化学療法の位置づけについて討議していただいた。のAR標的薬による治療成功期間(TTF)は、3ヵ月未満 がアビラテロンで11.8%、エンザルタミドで8.4%、3~6ヵ月 がそれぞれ50.8%、48.8%を占め(図2)、約60%の患者 でTTFが6ヵ月未満でした。本来、AR標的薬にプライマ リーレジスタンスを示す患者には化学療法が望ましく、アク 鈴木:去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の治療薬として、 化学療法剤のカバジタキセル、アンドロゲン受容体(AR) シグナル伝達経路を標的とした薬剤(以下、AR標的薬) であるアビラテロン、エンザルタミドが登場して2年近くが 経過しましたが、従来から用いられてきたドセタキセルを含 めてこれらの薬剤を、どのような患者にどのような順番で 投与するかについてはコンセンサスが得られていません。 そうした中、2016年には前立腺癌診療ガイドラインが改訂 されました。そこで今までに得られているエビデンスやガイ ドラインを参考に、現在考えられるCRPCの治療アルゴリ ズム、そして化学療法の位置づけについて議論し整理し たいと思います。植村先生、実臨床ではCRPCに対する 治療はどのようになっているのでしょうか。 植村:従来のCRPC治療では主にドセタキセルが投与さ れてきましたが、AR標的薬が登場したことで多くの患者 さんに1st-lineでAR標的薬が使用され、次いで2nd-line でもAR標的薬が選択されるケースが散見されます。しか しCRPC患者では、最初からAR標的薬に抵抗性を示す プライマリーレジスタンスが一定の割合で存在することが ワイヤードレジスタンスでも2剤目のAR標的薬の効果は限 定的であることが予想されることから、化学療法を実施す べきだと考えています。COU-AA-302試験で投与された アビラテロンの後治療を解析すると、アビラテロン投与後 のドセタキセルのPSA奏効率(50%以上低下)は27%と、 ドセタキセルの治療効果が示されました(図3)2)。このよう な知見からAR標的薬を投与後のCRPCには、化学療法 剤であるドセタキセルを積極的に検討すべきだと考えてい ます。 1st-lineにAR標的薬、2nd-lineにドセタキセルを投与 後の3rd-lineの治療選択肢について、大阪腎泌尿器疾 患研究財団に所属する専門医に調査したところ、58.2% がカバジタキセルを投与すると回答しています。カバジタキ セルは、前治療のAR標的薬に対する治療反応性に関 係なく、効果が得られることが示されています3)。また、ドセ タキセル投与後の治療順序を検討したシステマティックレ ビューでは、12ヵ月生存率はカバジタキセル後のAR標的 薬投与群が76.4%、AR標的薬後のカバジタキセル投与 群が61.3%、AR標的薬の2剤連続投与群が28.5%であり、 ドセタキセル→カバジタキセル→AR標的薬の順に投与す る逐次療法が生存期間を最も延長すること、カバジタキセ ル後であってもAR標的薬は有効であることが示されまし 分かっています。また、AR標的薬の投与後に耐性を示 すアクワイヤードレジスタンスも知られており、両者を合わせ るとCRPC患者の約60%がAR標的薬に対し耐性を示す と報告されています(図1)1)。実際に、我々が所属する大 阪腎泌尿器疾患研究財団で行った検討では、1st-line 図1 AR標的薬に対する反応パターン
Mukherji D, et al. Cancer Metastasis Rev 33(2-3):555-566, 2014
1st-lineのAR標的薬の約60%が プライマリー or アクワイヤードレジスタンス 本来ならば最初から 化学療法に進むべき 症例 抵抗性 (プライマリー レジスタンス) AR標的薬の連続治療に感受性あり AR標的薬の2剤目 の効果は限定的 時間 腫瘍 の 増殖 アクワイヤード レジスタンス
de Bono JS, et al. Eur Urol 2016 [Epub ahead of print] 図3 よるPSA奏効率:COU-AA-302試験アビラテロン投与後のドセタキセルに (海外データ) 対 象:COU-AA-302試験でアビラテロンを投与後、後治療としてドセ タキセルを投与したmCRPC患者100例 方 法:事後解析として後治療のドセタキセルの有効性を検討した 評価項目:PSA奏効率、PSA無増悪期間 安 全 性:論文中に記載なし 60 40 20 0 P S A 50% 以上低下率 (%) 27% 後治療のドセタキセル投与群 (n=100) ■ PSA50%以上低下率 ■ PSA奏効率(50%以上低下) 40%
AR標的薬の耐性を考慮した薬剤選択
図2 1st-lineのAR標的薬による治療成功期間(TTF):大阪腎泌尿器疾患研究財団 提供:近畿大学医学部 泌尿器科学教 教授 植村天受 先生(http://ourf.or.jp/wp-content/themes/ourf/questionnaire.pdf) 対象:関西の11大学及び関連施設に勤務する臨床医240例 方法:平成27年9~10月に去勢抵抗性前立腺癌に対する処方の実態についてアンケート調査を実施した ■アビラテロン ■エンザルタミド 1st-lineのAR標的薬のTTF:約60%は6ヵ月未満 3ヵ月未満 23例(11.8%) 12ヵ月以上 5例(2.6%) 3~6ヵ月 99例(50.8%) 6~9ヵ月 50例(25.6%) 9~12ヵ月 18例(9.2%) 3~6ヵ月 105例(48.8%) 6~9ヵ月 61例(28.4%) 3ヵ月未満 18例(8.4%) 9~12ヵ月 25例(11.6%) 12ヵ月以上 6例(2.8%) 図4 CRPCの治療アルゴリズム(近畿大学医学部) 提供:近畿大学医学部 泌尿器科学教 教授 植村天受 先生 2nd-line 3rd-line 1st-line mCRPC プライマリーレジスタンス アクワイヤードレジスタンス の症例ではAR標的薬を 2剤続けない エンザルタミド or アビラテロン エンザルタミド or アビラテロン エンザルタミド or アビラテロン エンザルタミド or アビラテロン カバジタキセル エンザルタミド or アビラテロン カバジタキセル ドセタキセル カバジタキセルは3rd-line までの導入を考慮する ドセタキセル カバジタキセル ラジウム223 ①症候性の骨転移 ②骨以外に病変がないの班長を務めた大家先生に、CRPCの薬物療法につい て改訂のポイントを紹介いただきましょう。 大家:今回の改訂ではCRPCに対する薬物療法として、 ドセタキセル、ドセタキセル再燃後のカバジタキセル、AR 標的薬であるエンザルタミド、アビラテロンのいずれも推奨 グレードAとなりました(表1)。ドセタキセルは70~75mg/ m2の3週毎投与+プレドニゾロン10mgの連日併用投与を 推奨しています。今回の改訂を行う上で頭を悩まされたの が逐次療法です。エンザルタミドとアビラテロンの間に認 められる交叉耐性は、次の治療選択の際に参考にはなり ますが、確立された逐次療法は存在しません。前立腺癌 た4)。これらのエビデンスから当院では、1st-lineでAR標 的薬を投与後のCRPCには、AR標的薬を2剤続けるので はなく、ドセタキセルを積極的に投与し、ドセタキセルの次 にはカバジタキセルを投与する治療アルゴリズムを採用し ています。予後改善を考慮すれば、3rd-lineまでにカバジ タキセルを投与することが重要だと考えています(図4)。 カバジタキセルは治療効果が高く、副作用が比較的少 ないと評価する医師がいる一方で、血液毒性が強く、高 齢者に使いにくいといったイメージを持っている医師も少 なくありません。そこで当院でカバジタキセルを投与した CRPC患者23例について検討したところ、導入時のPSA 中央値が91.1ng/mL、前治療のドセタキセル投与サイク ル中央値が7.5サイクル、75歳以上の高齢者は7例含まれ ていました。国際老年腫瘍学会(SIOG)からは2014年に 高齢者の機能評価として、食事状況、体重変化、患者 の活動性などの8項目を総合的に評価するG8スクリーニン グを用いた高齢前立腺癌患者の治療選択が提示されて おり(図5)5)、このG8スクリーニングで身体機能が保たれ ていると判断できた場合(合計点が14点超)は、高齢者 であってもドセタキセルやカバジタキセルを用いた化学療 法を検討しています。 AR標的薬に耐性のCRPC患者では、適切なタイミン の不均一性、アンドロゲン依存性と非依存性の前立腺癌 の混在を考慮してどちらが優性であるかを判断する必要 があります。つまりCRPCの不均一性を根拠に薬剤を使い 分ける時代が訪れたことを意味しており、実臨床では有 用なバイオマーカーの発見が期待されています(表2)。現 段階ではCRPCに対する画一的な逐次治療を示唆する エビデンスはないことから、患者背景や前治療の効果、 薬剤耐性機序を考慮し、個々の患者に応じた逐次療法 を考慮することを推奨グレードC1としました(表3)。裏付け となるデータについて具体的に示すと、初回ホルモン療 法の奏効期間が短い患者では二次ホルモン療法やAR グで化学療法を実施することにより、さらなる予後改善が 期待できます。またカバジタキセルの投与後であってもAR 標的薬による治療効果は期待できます。患者さんの状態 を暦年齢だけでなく、身体機能を総合的に判断して化学 療法を積極的に検討し、ベネフィットが十分に期待できる 3rd-lineまでにカバジタキセルを投与することが重要だと考 えています。 鈴木:AR標的薬に耐性を示すなど化学療法が必要な 患者には、高齢であっても健康状態が保たれていれば積 極的に化学療法を実施することが重要ですね。 植村:化学療法の効果を得るためには、身体機能が保 たれているうちに実施することが重要です。発熱性好中 球減少症の予防がペグフィルグラスチムの登場である程 度可能になった現在では、ドセタキセルの副作用が辛いよ うであれば、早めにカバジタキセルへ変更した方が、総合 的にはベネフィットが大きいのではないかと思います。 鈴木:2016年10月に4年ぶりに前立腺癌診療ガイド ライン6)が改訂されました。ガイドライン作成班としてCPRC 図5 G8スクリーニングを用いた高齢前立腺癌患者の治療選択:国際老年腫瘍学会(SIOG)勧告 2014
Droz JP, et al. Lancet Oncol 15(9):e404-414, 2014
■G8スクリーニングの評価項目 ■G8スクリーニングによる治療選択 項目 回答と点数 G8スクリーニング Vulnerable Fit 合計スコア 14点超 合計スコア14点以下 標準治療 Frail 患者に合わせた治療 可逆的 ・ADL異常:1~2項目 ・栄養障害リスク ・抑うつ ・合併症CISR-G: Grade 2 不可逆的 ・IADL異常 ・ADL異常:3項目以上 ・重度栄養障害 ・認知機能障害 ・合併症CISR-G: Grade 3~4 老年医学的 介入 老年医学的介入 0点:食事量の重度減少 1点:食事量の中等度減少 2点:食事量の減少なし 過去3ヵ月間で食欲不振、消化器系 の問題、咀嚼・嚥下困難により食事 量が減少したか? A 0点:ベッドや椅子で過ごす 1点:ベッドや椅子から立ち上がれるものの、外出不可 2点:外出可能 活動性 C 0点:体重減少が3kg超 1点:不明 2点:体重減少が1~3kg 3点:体重減少なし 過去3ヵ月間の体重減少 B 0点:重度認知症または抑うつ 1点:軽度認知症 2点:心理的問題なし 神経心理学的問題 D 0点:19.0kg/m2未満 1点:19.0~20.9kg/m2 2点:21.0~22.9kg/m2 3点:23.0kg/m2以上 BMI E 0点:不良 0.5点:不明 1点:同程度 2点:良好 同年齢の人と比べた患者の 健康状態は? G 0点:85歳超 1点:80~85歳 2点:80歳未満 年齢 H 0点:はい 1点:いいえ 1日あたり3種類超の処方薬を服用 しているか? F 0~17点 合計スコア 暦年齢だけで投与の可否を判断するのではなく、総合的に評価することが重要 日本泌尿器科学会 編. 前立腺癌診療ガイドライン2016年版, メディカルレビュー社, 大阪, 2016より転載 表2 去勢抵抗性前立腺癌(新規ホルモン薬、化学療法薬) 総論:前立腺癌診療ガイド ライン2016年版 総論(一部抜粋) 現在我々が悩んでいるのはCQ6で取り上げた逐次療法で ある。効かなくなった際の次の一手はどの薬剤か、という問 題である。エンザルタミドとアビラテロンに交叉耐性があ ることが指摘されているので参考にはなるが、確立された 逐次療法は存在しない。ここでも前立腺癌の不均一性を考 慮する必要がある。アンドロゲン依存性と非依存性の前立 腺痛の混在を考慮し、どちらが優勢であるかを判断の指標 にする。CRPCの不均一性を根拠に薬剤のポジショニング を考慮する時代が訪れたことを強調したい。さらには、より 簡便に施行できる日常診療に応用可能なバイオマーカー の発見が期待されている。
CRPCの薬物治療ではドセタキセル、
カバジタキセル、AR標的薬が
推奨グレードA
日本泌尿器科学会 編. 前立腺癌診療ガイドライン2016年版, メディカルレビュー社, 大阪, 2016より転載 表3 去勢抵抗性前立腺癌(新規ホルモン薬、化学療法薬) CQ6:前立腺癌診療ガイド ライン2016年版 CQ 6 推奨グレード C1 去勢抵抗性前立腺癌に対する 至適な逐次療法はあるか? 去勢抵抗性前立腺癌に対するエビデンスのある画一的 な逐次療法は存在しない。患者背景(自覚症状や臓器転 移の有無、全身状態)や前治療の効果、薬剤耐性機序を 考慮した個々の患者に応じた逐次療法を考慮すべきで ある。 表1 去勢抵抗性前立腺癌(新規ホルモン薬、化学療法薬):前立腺癌診療ガイドライン2016年版 日本泌尿器科学会 編. 前立腺癌診療ガイドライン2016年版, メディカルレビュー社, 大阪, 2016より転載 CQ 1 去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてドセタキセルは推奨されるか?また投与する際の至適投与方法、注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか? 推奨グレード A CQ 2 去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてエンザルタミドは推奨されるか?また注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか? 推奨グレード A CQ 3 去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてアビラテロンは推奨されるか?また注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか? 推奨グレード A CQ 4 ドセタキセル療法再燃後の去勢抵抗性前立腺癌に対する治療として、カバジタキセル は推奨されるか? またカバジタキセルを投与する際の至適投与方法、注意すべき有害事象にはどのよう なものがあるか? 推奨グレード A CQ 5 ドセタキセルやカバジタキセルならびに新規アンドロゲン受容体シグナル阻害剤(エンザルタミド・アビラテロン)の投与開始の判断あるいは効果判定のために、どのような 評価方法(バイオマーカー、画像診断等)が推奨されるか? 推奨グレード C1 CQ 6 去勢抵抗性前立腺癌に対する至適な逐次療法はあるか? 推奨グレード C1 ドセタキセルの「前立腺癌」に対する用法及び用量は、「通常、成人に1日1回、ドセタキセルとして75mg/m2(体表面積)を1時間以上かけて3週間間隔で点滴静注する。 なお、患者の状態により適宜減量すること。」である。法(ADT)の奏効期間が12~16ヵ月以上と比較的長い 場合にはエンザルタミド又はアビラテロンのどちらかを投 与し、その後ドセタキセル、カバジタキセルの逐次療法を 行っています。なおAR標的薬は、実質臓器転移のある 患者やステロイド薬を使用できない患者にはエンザルタミ ド、テストステロン濃度が高い患者にはアビラテロンを選 択します。初回ADTの奏効期間が12ヵ月未満ならドセタ キセルを投与します。その後AR標的薬のどちらかを投与 し、次いでカバジタキセルを投与します。新たに登場した ラジウム223についてはまだ当院のアルゴリズム内には組 み入れていません。 植村:先生の施設では、比較的早い時期からドセタキセ ルを導入していますね。 大家:我々は化学療法を積極的に実施しています。PSA が20~30ng/mLぐらいまでには、導入します。ドセタキセ ルを投与後、AR標的薬を選択せずにカバジタキセルを 投与することもあります。 鈴木:次に、CRPCに対する新たな治療法を検討した臨 床試験として、ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法に 標的薬の効果が劣ることから、早めに化学療法を実施す ることで予後の改善が期待できます。またドセタキセル導 入のタイミングについては、TAX327試験のサブ解析によ り「内臓転移」「疼痛」「貧血」「骨転移の増悪」の4つの 因子を用いたリスク分類が提唱されており、病勢進行が 顕著でない早めの段階から導入することで高い効果が期 待できます。一方、AR標的薬による逐次療法の臨床的 なエビデンスは不足しています。AR標的薬の耐性機序 については、グルココルチコイド受容体による耐性化、AR の点突然変異、ARのsplicing variant formの一種であ るAR-V7発現などが報告されていますが、これらの多くは ついて検討した日本・多国間臨床試験機構(JMTO)の 研究、Pca10-01試験(第Ⅱ相)について西村先生から紹 介いただきたいと思います。 西村:本試験では、日本国内の20施設からCRPC患者 76例が登録されています。ドセタキセル75mg/m2をday1 に投与、デキサメタゾン1.0mg/日を連日投与し21日間を1 サイクルとし、最大10サイクルまで投与しました(図7)。対 象の年齢(中央値)は71歳、体重は64kgで、前治療とし てホルモン療法を3レジメン以上実施していた患者が約 7割を占め、大半はPS 0でした。ドセタキセルの累積投与 量(中央値)は959mg、投与期間は162日、相対用量強度 (RDI)(中央値)は100%、デキサメタゾンではそれぞれ 177mg、182日、100%でした。安全性解析対象となった75 例のプロトコル完遂率は40%、投与サイクル中央値は8サ イクルで、投与量の減量例が24%、投与延期例が20%で した。有効性解析対象69例において、主要評価項目で あるPSA奏効率(50%以上低下)は76.8%(53/69例)で した(表4)。これまでに行われたドセタキセルの臨床試験 におけるPSA奏効率は、TAX327で45%、SWOG9916で 50%、国内第Ⅱ相試験で44%ですから、ドセタキセル+デ キサメタゾン併用療法の治療効果は高いと評価できます。 PSA変化率のwaterfall plotをみると、PSA奏効例のPSA エンザルタミドとアビラテロンで共通していることから、両薬 剤には交叉耐性があると考えられます。なお基礎試験の 結果から、カバジタキセルはドセタキセルやAR標的薬の 耐性例に対する抗腫瘍効果が期待でき、国内臨床では ドセタキセル投与後のアビラテロンの治療効果は若干低 下するとの報告があります7,8)。このように患者背景、前治 療の効果、薬剤耐性機序を考慮して、個々の患者に応じ た逐次療法を検討することが推奨されています。 当院ではこのガイドラインの内容を参考にした上で、前 治療の効果や患者背景を考慮して、CRPCに対する薬 物療法を選択しています(図6)。初回アンドロゲン遮断療 図7 ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法:試験デザイン
Tanaka N, et al. Jpn J Clin Oncol 2017 [Epub ahead of print]
■日本・多国間臨床試験機構(JMTO)研究 Pca10-01試験(PhaseⅡ) ホルモン不応前立腺癌患者に対するドセタキセルとデキサメサゾンによる併用療法の有効性・安全性の検討 治療プロトコール 対 象:2011年1月~2014年2月に登録された 化学療法未治療のCRPC患者76例 方 法:ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法 の有効性及び安全性を検討した 評価項目:主要評価項目…PSA奏効率(≧50%低 下)、副次評価項目…安全性、PSAフレ ア、PSA増悪までの期間、治療完遂率 安 全 性:Grade 3以上の有害事象が97%に認め られ、好中球減少が最も多く認められた (Grade 3で17.3%、Grade 4で80%) 有効性解析対象69例、安全性解析対象75例を検討 ドセタキセル 75mg/m(day 1)2 デキサメタゾン 1.0mg/日 (day) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11~21 最大10サイクル 連日 図6 CRPCの治療アルゴリズム(慶應義塾大学病院) 提供:慶応義塾大学医学部 泌尿器科学教室 教授 大家基嗣 先生 CAB: combined androgen blockade
初回アンドロゲン除去療法:CAB ドセタキセル ドセタキセル カバジタキセル エンザルタミド エンザルタミド 骨転移例:Ra223 治験 ・ 臨床試験 奏効期間(12~16ヵ月) 短い 長い *:画像精査、生検の適応 局所放射線・手術の可能性 神経内分泌性癌の除外 ステロイドの漸減 ・実質臓器転移の有無 ・ステロイド併用の可否 ・テストステロン濃度 残ったARシグナル阻害剤、Dex 治験・臨床試験 BSC or * * * * or ・実質臓器転移の有無 ・テストステロン濃度 12ヵ月まで待たない アビラテロン アビラテロン
臨床試験で検討中のドセタキセル+
デキサメタゾン併用療法の可能性
図8 ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法:PSA変化率のwaterfall plotTanaka N, et al. Jpn J Clin Oncol 2017 [Epub ahead of print]
・PSA奏効例(50%以上低下)のPSA低下率 平均89%(中央値93%)
対 象:2011年1月~2014年2月に登録された化学療法未治療のCRPC患者76例(有効性解析対象69例) 方 法:ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法の有効性及び安全性を検討した
評価項目:主要評価項目…PSA奏効率(≧50%低下)、副次評価項目…安全性、PSAフレア、PSA増悪までの期間、治療完遂率 安 全 性:Grade 3以上の有害事象が97%に認められ、好中球減少が最も多く認められた(Grade 3で17.3%、Grade 4で80%)
120 PSA変化率 (%) ■PSA奏効例(50%以上低下) ■PSA非奏効例 -100 80 40 0 -30 -60
鈴木:ここからはCRPCの治療アルゴリズムについて、よ り具体的に討論したいと思います。CRPCの治療アルゴリ ズムとしては、2015年にChiらによって提示されたものが有 名です(図10)9) 。このアルゴリズムでは、1st-line、2nd-lineでAR標的薬を連続投与するケースは、AR標的薬の 奏効例やADTの長期奏効例などです。したがって、AR 標的薬に耐性を示す患者にはドセタキセルを優先的に投 与すべきであり、一般にはAR標的薬を2剤続けて投与す るケースは極めて少ないと考えられます。 植村:実臨床では患者さんが化学療法を嫌う傾向にあ り、同意を取得できないためにAR標的薬を選択せざる 得ない現状があります。しかしAR標的薬を2剤続けて投 与しても、多くの場合は短期間に再燃します。結果的にド セタキセルの導入が遅れてしまうため、ドセタキセルで得ら れるべき予後改善が損なわれていると考えられます。2nd-lineでドセタキセルに切替えることの有用性を示すエビデ ンスの構築が急務だと思います。 鈴木:AR標的薬の連続投与によって得られるベネフィッ トは限定的であることを十分に考慮して、2nd-line治療を 選択することが重要です。また、1st-lineでドセタキセルが 投与されるのは1割、AR標的薬が投与されるのは9割で あるのが現状ですが、西村先生から紹介のあったドセタ キセル+デキサメタゾン併用療法の腫瘍縮小効果を考慮 すると、1st-lineでドセタキセルを投与すべき患者さんはも う少し多いように思います。 植村:日本では前立腺癌に対するホルモン療法の導入 が早く、その多くが複合アンドロゲン阻害療法(CAB)であ るため、LH-RHアゴニスト・アンタゴニスト単独療法が主 流の海外に比べてAR標的薬が奏効しにくい状況もありま す。日本ではドセタキセルによる1st-line治療が適した患 者は多く、そうした患者では治療効果を最大化するために も1st-lineからドセタキセルを検討すべきです。 鈴木:CRPCに対する薬物療法の効果を最大化するため には、AR標的薬に耐性を示す患者群を早期に判定し、 直ちに化学療法へと移行することが重要です。AR標的 薬のプライマリーレジスタンスを検討した試験では、プライ マリーレジスタンスの予測因子としてAR標的薬投与開始 1ヵ月後のPSA低下率50%未満が同定されています10)。 低下率中央値は93%と(図8)、強いPSA低下作用が認め られました。有害事象は非血液毒性として疲労71%、脱毛 症69%、末梢性感覚ニューロパチー57%などが認められ、 Grade 3以上の有害事象は好中球数減少97%、白血球 減少81%、リンパ球数減少20%などでした。なお、上部消 化管出血、誤嚥性肺炎による死亡がそれぞれ1例認めら れたため、有害事象の十分な管理が必要ですが、CRPC に対するドセタキセル+デキサメタゾン併用療法は有効な 選択肢になり得ると考えています。 現在の当院におけるCRPCの治療アルゴリズムを紹介 します(図9)。当院では初回ホルモン療法の奏効期間が 1年以下、急速なPSA上昇、症状あり、内臓転移ありなど の症例には、1st-lineからドセタキセルを投与し、初回ホル モン療法で長期間奏効が得られた症例にはAR標的薬 を選択します。AR標的薬の投与後は、患者さんから拒 否されない限りドセタキセルを選択します。やはりドセタキセ ルの投与タイミングを逃さないことが重要であり、ドセタキセ ルの次にはカバジタキセルを選択しています。 鈴木:デキサメタゾンとの併用で得られるドセタキセル 75mg/m2の有効性は魅力的です。これほどの腫瘍縮小 効果が得られるのであれば、ドセタキセルの位置づけを 見直すべきではないでしょうか。 西村:プレドニゾロンとドセタキセル75mg/m2の併用試験 ではPSA奏効率は50%以下ですから、ドセタキセル+デ キサメタゾン併用療法で得られる臨床効果は優れている と思います。Grade 3以上の有害事象には注意が必要 ですが、ドセタキセルの腫瘍縮小効果が改めて確認され たと言えます。ただし臨床試験であるため、実臨床よりも 早期から導入していた可能性を考慮する必要があると思 います。 図10 CRPCの治療アルゴリズム
Chi K, et al. Ann Oncol 26(10):2044-2056, 2015 1st-line 4th-line 3rd-line 2nd-line 優先 (②を考慮) 優先 (②を考慮) DOC CBZ DOC CBZ AR標的薬★ AR標的薬★ DOC:ドセタキセル、CBZ:カバジタキセル ※ラジウム223は化学療法が不適格で軟部組織に病変を認めない、 症候性の骨転移例に適応 優先 優先 (①を考慮) (②を考慮) CBZ 優先 (①を考慮) DOC AR標的薬★ CBZ CBZ CBZ ADT後に増悪したmCRPC患者※ 考慮ポイント ①PS良好かつ化学療法への忍容性があり、以下の基準を1つ以上 満たす患者を考慮 ADT奏効が1年未満、自覚症状あり、内臓転移あり ②以下の基準を1つ以上満たす患者を考慮: AR標的治療に奏効、ADT奏効>1年、症状なし又は軽度な症状 あり、内臓転移なし
AR標的薬 AR標的薬 AR標的薬
AR標的薬★ AR標的薬★ AR標的薬★ ★AR標的薬の治療経過を注意深くモニタリングし、必要であれば 直ちに化学療法に切り替える 図9 CRPCの治療アルゴリズム(大阪府立成人病センター) 提供:大阪府立成人病センター(大阪国際がんセンター) 泌尿器科 部長 西村和郎 先生 ・初回ホルモン1.0年以下 ・PSA rapid riser ・症状あり ・内臓転移あり など mCRPC 1st-line 4th-line 3rd-line 2nd-line ドセタキセル カバジタキセル (AR標的薬) (AR標的薬) AR標的薬 ドセタキセル カバジタキセル AR標的薬 ドセタキセル カバジタキセル AR標的薬 約3 : 1 長期奏効例 カバジタキセル AR標的薬 AR標的薬
AR標的薬耐性例では
早期にドセタキセルの投与を検討
AR標的薬投与後の2nd-lineでは
ドセタキセルを選択
表4 ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法:PSA奏効率(50%以上低下)[主要評価項目]Tanaka N, et al. Jpn J Clin Oncol 2017 [Epub ahead of print]
対 象:2011年1月~2014年2月に登録された化学療法未治療の CRPC患者76例(有効性解析対象69例、安全性解析対象75例) 方 法:ドセタキセル+デキサメタゾン併用療法の有効性及び安全性を 検討した 評価項目:主要評価項目…PSA奏効率(≧50%低下)、副次評価項目…安 全性、PSAフレア、PSA増悪までの期間、治療完遂率 安 全 性:Grade 3以上の有害事象が97%に認められ、好中球減少が最 も多く認められた(Grade 3で17.3%、Grade 4で80%) 全症例 PSA奏効例 90%信頼区間 (95%信頼区間) 非奏効例 66.9-84.9 (65.1-86.1) 症例数 69 53 16 % 76.8% 23.2%
我々が行った検討でも、エンザルタミド投与開始4週後の PSA奏効がCRPC患者の予後に影響を及ぼし、PSAが 50%以上低下したPSA奏効群では、非奏効群に比べて 無増悪生存期間及び生存期間が延長しました(図11)11)。 植村:AR標的薬でPSA低下が認められない患者は 早めにドセタキセルへ切り替え、ドセタキセルでPSA低 下が認めらない患者はカバジタキセルへの切り替えを 検討します。 鈴木:ドセタキセルやカバジタキセルへの適切な切り替え タイミングを逸しないことが重要ですね。 大家:AR標的薬のアクワイヤードレジスタンスを判断す るには、PSAだけでなくCT等の画像診断をこまめに実施 し、腫瘍径の拡大を見逃さない必要があります。患者さ んに自覚症状があれば化学療法への切り替えはスムーズ ですが、自覚症状がない場合は同意が得づらく、今後の 課題だと考えています。 西村:また、化学療法へ切り替える際には、患者さんに あらかじめ副作用の可能性について話しておくことも重要 です。 鈴木:ドセタキセルとカバジタキセルでは副作用のプロ ファイルが大きく異なります。ドセタキセルでは脱毛、爪障 害、末梢神経障害、味覚障害の発現が目立ちますが、 カバジタキセルではそれらの発現は減少します。カバジタ キセルでは発熱性好中球減少症の発現に注意が必要 ですが、ペグフィルグラスチムを使用することでコントロー ルが可能です。 植村:1st-lineのAR標的薬後の治療選択において、高 齢者では副作用を懸念して化学療法を避け、2剤目にも AR標的薬を選択するケースもあるようですが、G8スクリー ニングなどを用いて患者さんの健康状態を適切に評価し、 身体機能に問題がないと判断できる場合には、ドセタキセ ルやカバジタキセルを投与した方が得られるベネフィットは 大きいと考えています。 鈴木:本日はお忙しい中、貴重な討議をいただきありがと うございました。これらの知見を明日からの実臨床にいか していただければと思います。 文献
1)Mukherji D, et al. Cancer Metastasis Rev 33(2-3): 555-566, 2014 2)de Bono JS, et al. Eur Urol 2016 [Epub ahead of print]
3)Pezaro CJ, et al. Eur Urol 66(3): 459-465, 2014
4)Maines F, et al. Crit Rev Oncol Hematol 96(3): 498-506, 2015 5)Droz JP, et al. Lancet Oncol 15(9): e404-414, 2014
6)日本泌尿器科学会 編. 前立腺癌診療ガイドライン2016年版, メディカルレビュー社, 大阪, 2016
7)Satoh T, et al. Jpn J Clin Oncol 44(12): 1206-1215, 2014 8)Matsubara N, et al. Jpn J Clin Oncol 44(12): 1216-1226, 2014 9)Chi K, et al. Ann Oncol 26(10): 2044-2056, 2015
10)Caffo O, et al. Future Oncol 10(6): 985-993, 2014 11)Kato H, et al. Anticancer Res 36(11): 6141-6149, 2016
エンザルタミド投与開始4週後のPSA奏効(50%以上低下)と無増悪生存期間及び生存期間 (群馬大学医学部附属病院)
図11
Kato H, et al. Anticancer Res 36(11):6141-6149, 2016
対 象:2014年8月~2015年1月に群馬大学医学部附属病院にてエンザルタミドを投与したmCRPC患者51例 方 法:日本人におけるエンザルタミド治療の早期PSA奏効と予後を検討した 評価項目:PSA PFS、PFS、OS 安 全 性:論文中に記載なし 100 80 60 40 20 0 無増悪生存率 (%) 0 20 40 60 80 100 追跡期間 ■無増悪生存期間(PFS) ■生存期間(OS) (週) 100 80 60 40 20 0 生存率 (%) 0 20 40 60 80 100 追跡期間 (週) p=0.002 Log-rank test PSA奏効例 PSA非奏効例 未達 63.7週 OS中央値 p<0.001 Log-rank test PSA奏効例 PSA非奏効例 47.9週 20.1週 PFS中央値 PSA奏効例 PSA奏効例 PSA非奏効例 PSA非奏効例