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目 次 1. イントロダクション 1 2. FIFA 女 子 ワールドカップ 中 国 オリンピック 競 技 大 会 2008/ 北 京 FIFA U-20 女 子 ワールドカップ チリ FIFA U-17 女 子 ワールドカップ ニュージーランド

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(1)

JFA女子テクニカルレポート

2009

”世界のなでしこを目指して!”

FIFA Women's World Cup China 2007

Women's Olympic Football Tournament Beijing 2008

FIFA U-20 Women's World Cup Chile 2008

FIFA U-17 Women's World Cup New Zealand 2008

(2)

【目

次】

1.

イントロダクション ··· 1

2.

FIFA女子ワールドカップ

中国 2007 ··· 2

3.

オリンピック競技大会

2008/北京 ··· 10

4.

FIFA

U-20 女子ワールドカップ チリ 2008 ··· 18

5.

FIFA

U-17 女子ワールドカップ ニュージーランド 2008 ··· 24

6.

Japan

’s Way 「攻守にアクションするサッカー」 ··· 32

~ 育成年代で取り組むべきこと

7.

育成年代の指導者のかかわり

ⅰ ··· 35

フィジカルトレーニング

8.

育成年代の指導者のかかわり

ⅱ ··· 38

メディカルアプローチ

9.

育成年代の指導者のかかわり

ⅲ ··· 41

メンタルケア

10.

JFAの取り組み ··· 50

11.

終わりに ··· 56

(3)

1.

イントロダクション

テクニカルスタディ

世界のサッカーは日々変化している。 この「JFAテクニカルレポート」は、「テクニカルスタディ」の結 果をまとめた報告書である。「テクニカルスタディ」とは、特定の 大会等から、その大会の特徴、トレンドとしてのサッカーの発展 傾向、技術・戦術上の特徴、誯題、今後に向けた目標への提 言、すなわちサッカーがどのような方向に向かっていて、そして それを受けて、今後何を目指していくべきかを示すものである。 世界のサッカー界で今や常識として行われているものである が、日本サッカー協会'JFA(でも、常に世界をスタンダードとし て育成・強化していくために、FIFAワールドカップ、オリンピック などの世界大会でテクニカルスタディを実施している。 そして、①各カテゴリー'年代(の世界大会に出場→②分析・ 評価→③誯題の抽出・誯題克服のためのシナリオ作成→④誯 題の克服[各年代の日本代表チーム・ユース育成・指導者養 成・普及]→再び①各カテゴリーの世界大会にチャレンジすると いう、世界大会をスタンダードとした強化策を推進している。す なわち、毎回の世界大会を分析し、その結果を短期・中期・長 期的誯題として、それぞれ指導現場へフィードバックするのがJ FAテクニカルレポートの役割である。我々は近い将来を予想し、 それに向けて育成年代から準備をしていかなくてはならない。 このJFAテクニカルスタディグループ'TSG(が作成する「JFA テクニカルレポート」、またリフレッシュ研修会などでの講習を通 じて、世界や日本のサッカーの現状を伝え、「世界のトップレベ ルのプレーを支えている要因は何か」、「日本サッカーの進むべ き方向性は何か」といったことを、日本全国の指導者と共有す る。そして目標を具体的に提示して、今後の指導やトレーニング、 特にユース年代の育成に生かし、日本サッカーのレベルアップ への取り組みにつなげていくことが一番の目的である。 2007 年から 2008 年にかけて女子の 4 つの世界大会が開催 され、日本女子代表は全ての大会に出場した。我々はこの 4 つ の大会において TSG を編成し、各大会の分析を行った。それに より、各大会から世界の女子サッカーの現状を知るとともに、日 本の現在地を確認することができた。そして、日本の進むべき 道を見出し、今後の育成・強化につなげていくのである。 日本の女子サッカーは、各大会ともに「なでしこらしさ」を発揮 し、メダルへあと一歩と近づいた。すなわち世界の背中が見え 今回のテクニカルレポートは、単に各大会のテクニカル報告 にとどまらず、Japan’s Way を導き出し、さらに育成年代で取り 組むべきこととして、フィジカル、メディカルそしてメンタル面も加 えた。 世界は前進していく。我々も世界を驚かせるようなサッカーを 展開できるように着実に前進していかなければならない。そのた めの手引きとして、このテクニカルレポートを活用してほしいと願 うのである。

このサイクルを

日本全体として取り組める

システムを構築する

各カテゴリー世界大会

FIFA 女子ワールドカップ・オリンピック

FIFA U-20 女子ワールドカップ

FIFA U-17 女子ワールドカップ

課題の抽出

克服のシナリオ作成

課題の克服

分析・評価

(4)

2.

FIFA女子ワールドカップ 中国 2007

1) 大会全般

① 大会概観

1991 年中国で初開催された FIFA 女子ワールドカップ'FIFA Women’s World Cup(は、2007 年再び中国を開催地に第 5 回大会が行われた。各大陸予選を突破した 16 チームが参加 し、2007 年 9 月 10 日から 30 日までの期間で合計 32 試合が 行われた。 大会は、16 チームが 4 つのグループリーグに分か れ、各グループの上位 2 チームが決勝トーナメントに進出した。 決勝戦は、前大会の覇者であるドイツがブラジルを破って見事 連覇を果たし、大会の幕を閉じた。 本大会には、のべ 997,433 名'1 試合 平均 31,169 名(の観客がスタジアムを 訪れるなど、大会運営面でも大きな盛り 上がりをみせ、中国での女子サッカーへの関心の高さが感じら れた。

② 大会結果とその背景

本大会では、これまでのワールドカップの優勝国であるドイツ '2003 年に続いて連覇(、アメリカ'1999 年優勝、本大会 3 位(、ノルウェー'1995 年優勝、本大会 4 位(が準決勝'ベスト 4(に進出し、欧米のチームが世界の女子サッカーのけん引役 であり続けていることが示された。しかし、決勝でドイツと激闘を 繰り広げながら、アテネオリンピックに続き惜しくも準優勝となっ たブラジルの躍進は、女子サッカーの新たな潮流を感じさせた。 また、ベスト 4 にこそ進めなかったものの、朝鮮民主主義人民 共和国'DPR.K(、中国、オーストラリアというアジアの国々がベ スト 8 に進出した。このことは、アジアの女子サッカーの実力が、 確実に世界レベルへと接近していることを明示した。 前回ベスト 4 に進出したカナダがグループリーグで敗退したが、 このことは世界のサッカーシーンにおいて、「スピードとパワー系 の能力」をチームの中心戦略に据えたサッカーの優位性が崩 れ、「個人の質の高いプレー」と「組織的協働」を積極的に取り 入れた「モダンサッカー」への変革を印象づけた。 そして、前回のアメリカ大会に出場さえしていなかったイングラ ンドがベスト 8 入りを果たした。このイングランドの躍進の背景に は、自国における女子リーグの充実が挙げられる。イングランド では、FA プレミアリーグのクラブに対して、必ず女子チームを保 有することを義務付けている。そのため、国内の女子サッカー 選手の競技環境が整備され、アーセナルを中心とするクラブが UEFA のクラブ選手権で実績を残している。ブンデスリーガで女 子サッカーの競技環境をいち早く整備してきたドイツ、WUSA 'Women's United Soccer Association:アメリカで 2001 年~ 2003 年まで開催された女子プロサッカーリーグ、2009 年から は MLS 支援により WPS としてリーグ再開(を開催していたアメリ カなどが世界の女子サッカーシーンをリードしていることと考え合 わせると、クラブレベルでの女子選手の育成・強化が、代表チ ーム躍進の基礎となっていることが分かる。こ のように現在の女子サッカーでは、自国の国 内リーグ充実が代表チームのレベルアップに 必要丌可欠な要因となっており、日本におけ る「なでしこリーグのさらなる充実」なくして、な でしこジャパンのレベルアップは困難なことが 示唆された。 アメリカでは、代表選手の継続的育成・強 化 を 目 的 と し た ODP ' US Youth Soccer Olympic Development Program(が 1977 年 から実施されている。トップリーグの中止後も、 育成年代から継続的に育成・強化に取り組 んできたことが、近年のアメリカ代表チームの 優れた実績を支えていると言えるだろう。 大会回数 第 5 回 開催国 中国 開催期間 2007 年 9 月 10 日 ~ 30 日 参加チーム数 [アジアからの参加国] 16 チーム [日本・DPR.K・中国・オーストラリア] 大会成績 優 勝:ドイツ 準優勝:ブラジル 第 3 位:アメリカ 第 4 位:ノルウェー 日本の成績 [過去の最高成績] グループリーグ敗退 [1995 年スウェーデン ベスト 8] 日本の試合結果 ◆グループリーグ 9 月 11 日 △ 2-2(0-0)イングランド 9 月 14 日 ○ 1-0(0-0)アルゼンチン 9 月 17 日 ● 0-2(0-1)ドイツ 次回開催 2011 年ドイツ [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

(5)

③ アジアの戦い

ここでは、ベスト 8 に進出したアジアの国々の戦いについて見 てみたい。 現在、日本の最大のライバルである DPR.K は、FIFA U-20 女 子ワールドカップで優勝を果たすなど、近年中国に代わりアジア 女子サッカーのトップリーダーとしての実力を備えている。本大 会の DPR.K は、準々決勝でドイツと対戦した。DPR.K は、得点差 こそ 0-3 であったものの、質の高い個のプレーとチームの協働 により互角に戦い、体栺に勝るドイツを苦しめた。 また、新たにアジアサッカー連盟に加盟したオーストラリアは、 恵まれた身体特性とチームの協働によって、準優勝のブラジル に 2-3 と惜敗した。 本大会では、アジアのサッカーのレベルが確実に世界トップク ラスに接近していること、そしてレベルアップの鍵は「個のプレー の質の向上とチームの協働」にあることが深く印象づけられた。

2) 技術・戦術的分析

本大会では、多くの試合で「ハイプレッシャー下でのサッカー」 が展開された。ハイプレッシャー実現に必要な要素として、まず 闘う姿勢を持った選手全員によるハードワーク、次に状況に合 わせたチーム協働を可能にする個の守備能力、そしてチームと して戦術実行能力を持つことが求められる。 上位進出チームでは、チーム全員がハイプレッシャーを実現 する要素を高いレベルで具現化していた。加えて、ハイプレッシ ャー下でも、質の高い個のプレー能力を生かした効果的な攻撃 を展開していた。 TSG では、これら組織化された強固な守備と、ハイプレッシャ ーを打ち破る攻撃に必要な要素について分析を行った。

① 守備

-1 組織化された守備と必要な能力

◆組織的守備とハイプレッシャー 守備のハイプレッシャー実現には、「ボールを奪いに行く意識 と行動力」が必要丌可欠となる。また効果的な守備に必要な 要素として、まず前線の選手から「意図的に相手ボールのプレ ーコース'プレーの選択肢(に制限」を加えるアプローチが挙げら れる。次に、制限を加えたプレーコースへのアプローチに対して、 適切なカバーリングポジションを取ることが求められる。そして、 チームが連動してボールを中心とした守備、すなわち意図的に 誘い込んだボールに対して人数を集中させ、「ボールを奪いに 行く」ことが重要となる。 ◆組織的守備を支える個人の守備能力 相手の攻撃を防ぐためには、ボールを奪われたら、まず自ら がすぐにボールを奪い返すという意識と行動力が必要である。 本大会では、例え特筆するストライカーであっても、ボールを奪 われたらすぐに奪い返すプレーが随所に見られた。このように、 ボールを奪われたら全ての選手が迅速に攻守の切り替えを行 い、相手のカウンター攻撃を妨げることが求められる。そして、 相手のファストブレイクを防いだ後には、チームで連動しながら 組織的な守備でボールを奪うプレーを行う。現代サッカーにお いてハイプレッシャーと強固な守備を実現するためには、「ボー ルを奪われたらすぐに奪い返す意識'個人の責任(」と「チーム での連動'組織の役割(」の両者が必要丌可欠な要素となって いる。 組織的守備を効果的に実現するためには個人の守備能力の ど(を観ることが求められる。常に状況の変化を観て判断するこ とにより、先のプレー予測が可能となる。次に、適切なプレー予 測をもとに、ボールの移動中にボールへ鋭く寄せる'アプロー チ(。アプローチの際、もしパスの質や相手のコントロールに甘さ が見られたら、さらに鋭く寄せて相手の自由を奪う。このように、 状況に合わせてアプローチの種類'深さ(を判断し実践すること が強く求められる。そして、ボールを奪うチャンスを作り出し、チ ャンスを逃さずにボールを奪いに行く。状況を見極める判断と 決断力'勇気(が重要なのである。 また、ボールを奪うチャンスを数多く作り出すためには、個人 の守備範囲を広げるとともに、チーム全員がハードワークするこ とで相手にプレッシャーをかけ続けることが必要である。上位進 出チームでは、個人の守備力をベースとした組織的な守備が、 試合を通じて効率的かつ継続的に行われていた。 [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

(6)

◆チームでの協働 組織的な守備には、個人の守備能力がベースとなることを先 に述べた。一方、個人の守備能力を活用して効率的にボール を奪うためには、チームの組織的連動が必要となる。 前線から意図的にボールのプレーコースに制限を加えながら 奪うチャンスを作り出す。そのために、まず鋭く深いアプローチを 行わなければならない。ここで忘れてならない要素として、アプ ローチ'チャレンジ(に対するカバーリングである。鋭く深いアプロ ーチ実現には、アプローチする個人の守備能力に加えて、チャ レンジに対する味方選手のカバーリングが非常に重要となる。 チャレンジに対するカバーが存在することで、アプローチする選 手はリスクを恐れず鋭く相手に寄せることが可能になる。つまり、 チームがチャレンジに対してカバーを組織的に行うという信頼関 係があってはじめて、積極的かつ効果的なアプローチが実現で きると言える。その結果、ファーストディフェンダーの深く激しいア プローチによりボールを奪うチャンスを作り出し、味方選手と協 働して組織的にボールを奪うことが可能となる。 上記進出チームでは、個人の高い守備能力をベースにして、 全員のハードワークにより「ボールへのチャレンジ&カバー」を繰 り返すことで、チームが連動して組織的な守備を実現していた。

-2 ベスト4に進出したチームの守備の特徴

◆ドイツ ドイツは、恵まれた身体特性と判断力に基づく個人の高い守 備能力をベースとして、組織的守備を大会を通して高いレベル で実践していた。試合では、素早いアプローチに対して、味方選 手が連動したカバーリングポジションを取り、厳しいプレッシャー をかけてボールを奪う機会が多く見られた。またドイツのゴール キーパーとセンターDF を中心としたクロスへの対応は、非常に 高いレベルにあった。このように、ドイツの組織的かつ強固な守 備は、大会で優勝を飾るにふさわしいものであった。 ◆ブラジル センターDF の後方にスウィーパー的ポジションの選手を配し て守備を行っていた。ブラジルは、この固定的なカバーリング選 手を配することで、他の選手がボールに対して積極的にチャレ ンジできる状況を生み出していた。また FW を含めた全員のワー ドワークの意識が徹底されており、チーム全員が高い守備意識 を持ち続けていた。試合では、FW の選手が個人のレベルでボ ールを奪うチャンスを自ら作り出し、そのチャンスを逃さずにボ ールを奪って素早い攻撃を行う場面がしばしば見られた。この ようにブラジルは、ドイツなど欧州のコンセプトとは異なり、個の鋭 い守備感覚と身体特性という自分たちのストロングポイントを効 果的に生かす守備戦術を採用していたと言える。 ◆アメリカとノルウェー アメリカは、攻撃から守備の切り替えが早く、パワーとスピード を生かした素早いプレスから連続したアプローチを行っていた。 ノルウェーは、個人の高い判断能力をベースとして守備のブロ ックを形成し、ゴールへの集結からボールへの集結を繰り返し ながら、規律を持った守備を行っていた。 このように、ベスト 4 に進出したチームに共通する要素として、 「質の高い個の守備能力」と「チーム戦略に基づいた組織的協 働」が挙げられる。そして身体特性など自分たちの特長を生か した守備のチーム戦略を決定していた。

② 攻撃

-1 攻撃の優先順位: ファストブレイク → ビルドアップ → ポゼッション

攻撃では、素早いトランジション'守備から攻撃への切り替え( が重要となる。組織的な守備や個人の高い守備能力からボー ルを奪い、相手チームの守備バランスが整う前に素早く相手ゴ ールへ迫ることにより、得点の可能性が高まる。本大会でも、イ ンターセプトや技術的ミス、連係ミスなどでボールを奪い、素早 くゴールへ向かう効果的な「ファストブレイク」がしばしば見られた。 しかし上位チームでは、ただやみくもにゴールへ素早く向かうだ けでなく、相手の守備にバランスが回復している場合には、意 図的なビルドアップから、シュートチャンスを生み出す攻撃も多く 見られた。 本大会の特徴として、多くのチームが組織的な守備を志向し、 チームの守備力が大きく向上していることが挙げられる。そのた め、ファストブレイクやビルドアップだけでは、容易に相手ゴール 前に侵入できない状況も多く存在した。そのような場合、上位 進出チームでは、攻撃時に「幅と厚み」を作り出し、「状況を観」 ながら、「質の高いシンプルな技術'コントロールやキックの質な ど(」を駆使したポゼッションプレーを展開していた。それらのチ ームでは、主導的にボールを動かし、相手の守備組織のほころ びを作り出すことを企図していた。そして攻撃側選手は、カバー ポジションの遅れなど相手の守備組織にバランスを欠いた状況 を見逃さず、「ゴールへ向かって積極的に仕掛け」てゴールチャ ンスを生み出していた。また上位進出チームでは、ファストブレ イクからポゼッションプレーにわたり、オンザボールでもオフザボ ールでも、積極的にゴールへ向かって仕掛けるプレーが随所に 見られた。 チームの攻撃力を支えるのは、個の攻撃力であることはいうま でもない。本大会では、個の攻撃力として、「DF のビルドアップ 能力」、「MF の展開力」の重要性が挙げられた。この特徴は、も はや守備力に優れただけのディフェンダーでは、強固な守備を 実践する世界のトップレベルの戦いにおいて、チームとして効果 的な攻撃を生み出せなくなっていることを示している。つまり、全 てのポジションにおいて、ハイプレッシャーの中でもボールを失 わない、的確な状況判断と高い質の技術を持って、攻撃を構 成していくことが世界基準となりつつある。加えて、攻撃的役割 を担う選手には、単にボールを失わないだけでなく、ハイプレッ シャー下でもわずかなスペースと時間をみつけて、積極的に前 を向く意識とそれを実現するスキルが求められている。

(7)

③ ゴール分析

-1 ゴールを生むプレー

得点にいたる攻撃パターンでは、セットプレーからの得点が全 得点の 34.2%を占めていた。この割合は男子のワールドカップ '2006 年(とほぼ同レベルにあり、女子サッカーにおいてもセット プレーが得点に対して有効であることが分かる。それは同時に セットプレーに対応する守備面での強化が必要であると言える。 身長や体栺面で务勢に立たされる日本チームにとっては、攻 守にわたるセットプレーへの対応力の強化が、非常に重要な誯 題となっている。 流れの中からのオープンプレーでは、ウイングプレーによるサ イドアタックが有効であるとともに、選手が個の力で積極的に仕 掛けるプレーや個の高い能力により多くの得点が生まれていた。 このことは、卓越した技術を持ち、ゴールに向かって積極的に 仕掛けることのできる「スケールの大きなアタッカー」を育成する ことの重要性を示している。

-2 得点能力の必要性

ポジション別得点では、ストライカーによる得点が最も多く、次 いで MF となった。上位進出を果たしたチームには、得点能力の 高いストライカーが存在した。このことは、世界で戦う上で、ハイ プレッシャー下でも得点を奪うことのできるストライカーの育成が 必要丌可欠であることを明示している。

-3 90分間のゲームコントロールと戦略

本大会の特徴として、前半に比べて後半における得点が多い ことが挙げられる。後半に得点の多い理由として、2 つのことが 考えられる。 1 つ目の理由として、各チームの守備の意識と守備能力が高 まっており、体力的にも組織的な守備を継続できる前半では得 点することが困難なことが挙げられる。しかし運動量の低下する 後半では、前半のような組織的な守備を継続できず、守備のほ ころびを突かれて得点されてしまうことが考えられた。 2 つ目の理由として、ハーフタイムでのチームミーティングの 影響が考えられた。ハーフタイムには、自チームと相手チーム の戦い方が分析され、後半に向けたチーム戦略の修正などが 行われる。後半開始 15 分'46~60 分(の間に多くの得点が生 まれていることは、ハーフタイムでのチーム戦略の修正や強化 の重要性を物語っている。すなわち、チーム戦略に関して有効 な修正や強化を行えたチームが得点し、それができなかったチ ームが失点していると考えられる。その意味では、ゲーム分析 能力やチーム戦略の変更に柔軟かつ迅速に対応できる能力が、 ■ゴールに至るプレー 点 % 総得点 111 オープンプレー 73 56.8 セットプレー 38 34.2 オープンプレー 73 コンビネーションプレー 5 4.5 ウイングプレー 16 14.4 スルーパス 10 9.0 ダイアゴナルパス 4 3.6 1 人での打開 13 11.7 特別なフィニッシュ 10 9.0 DF のミス 8 7.2 リバウンド 4 3.6 オウンゴール 3 2.7 ■ポジション別にみたゴール 点 % 総得点 111 ストライカー 57 51.4 ミッドフィルダー 40 36.0 ディフェンダー 11 9.9 オウンゴール 3 2.7 ■時間帯別にみたゴール 点 % 総得点 111 000 分~015 分 11 9.9 016 分~030 分 13 11.7 031 分~045 分 10 9.0 046 分~060 分 31 27.9 061 分~075 分 21 18.9 076 分~090 分 25 22.5 091 分~105 分 0 0.0 106 分~120 分 0 0.0

(8)

④ 優れた能力を持つ特別な選手

-1 ディフェンダー

DF では、⑰Ariane HINGST'ドイツ(と②Ane STANGELAND HORPESTAD'ノルウェー(が挙げられる。彼女たちは、DF として 個人の高い守備能力をベースに組織的な守備を統率し、優れ た判断力からボールを奪う能力を高いレベルで発揮していた。 さらに特筆すべきは、最終ラインからのビルドアップ能力に優れ 効果的な攻撃の起点となることができる点にある。そして、機を 観て前線に進出し決定機を演出できる能力をも持ち合わせて いた。 彼女たちの出現は、もはや女子サッカーにおいても、世界で 戦うためには攻守に高いレベルでプレーできる DF が必要丌可 欠となっていることを物語っている。

-2 ミッドフィルダー

代表的 MF に挙げられる⑧FORMIGA'ブラジル(、⑩Renate LINGOR ' ド イ ツ ( 、 ④ Ingvild STENSLAND ' ノ ル ウ ェ ー ( 、 ⑬ Kristine LILLY'アメリカ(は、豊富な運動量で攻守にわたってハ ードワークしながら、質の高いプレーを発揮していた。彼女たち は、中盤でイニシアチブを持ちながら FW、DF と協働し、相手選 手に厳しいプレッシャーをかけ続けていた。また、組織的守備戦 術のリーダーとして、ミドルサードでのプレッシングを主導しながら ボールを奪うなど、相手の攻撃の芽を摘む能力に長けていた。 さらに、危険な状況になると DF の後方まで素早く戻り、DF のカ バーリングをしてチームの危機を救っていた。 一方、攻撃局面での彼女たちのプレーは、質の高いスキルで 長短のパスを織り交ぜながら、ビルドアップやポゼッションで広範 な攻撃を構成していた。そして、相手の守備のバランスが崩れ ると見るや前線に進出し、正確なミドルシュートなどで得点を奪 うことのできる選手であった。 彼女たちのプレーから、組織化されたチーム戦術の中で攻守 両局面におけるポジションの役割を十分に果たしつつ、ゲーム 状況に応じてポジションを超えたプレーが判断できること、そして その判断を実現できるフィジカル能力と技術力を兹ね備えるこ とが、世界のトップレベルでは必要となっていることが示された。 つまり、モダンサッカーを実現するためには、攻撃と守備の両局 面で DF と FW を戦略的につなぐ「リンクマン」となりうる選手が必 要であり、それらの選手がモダンサッカーを実現するキーパーソ ン'カギを握る存在(となっていることが明示された。

-3 ストライカー

本大会で活躍した代表的ストライカーとして、⑩MARTA'ブラ ジル(、⑨Birgit PRINZ'ドイツ(、⑩Kelly SMITH'イングランド(、 ⑪CRISTIANE'ブラジル(、⑪Lisa DE VANNA'オーストラリア(が 挙げられる。 彼女たちはストロングポイントこそ異なるものの、質の高い技術 と優れたスピードを生かして、ゴールに向かって積極的に仕掛 け、相手の守備を独力で突破できる能力を有するという共通点 を持っていた。そして、ゴール前では慌てることなく、冷静にゴー ルを決めきる判断力とシュート力を兹ね備えて、守備面でもハ ードワークを行い、攻守のトランジションの早さにも優れていた。 彼女たちのプレーは、組織的な守備を突破して得点するため に必要な能力を示しており、得点を奪うためには個人のゴール を決める質の高いプレーが必要であると言える。

-4 ゴールキーパー

上位進出チームには、優れた身体能力と確実な技術をベー スに、安定した守備を実現できる GK が存在していた。技術的 観点として、世界のトップ GK は、シュートストップ時に、「つかむ 'キャッチ(」べきか、「弾く'パンチング、ディフレク ト(」べきか、状況に応じて的確に判断できていた。 クロスに対しても良いポジションを常に取りながら、 適切な予測と冷静な判断によってキャッチ、パン チング、ディフレクトなど安定した対応を行ってい た。このことは、安定した守備には欠かすことので きない重要な要素となる。 また、常に DF と連携しながら良いポジションを 維持し、DF の背後のスペースをカバーしながら、 スルーパスなどに対しては優れた予測と冷静な 判断に基づくブレイクアウェイなど、相手の突破を 許さないプレーを実現していた。DF も、GK がクロ スボールを処理する際にプロテクトやカバーを行い、GK のプレ ーをサポートしていた。GK の積極的なプレーを支える大きな要 素して、DF 選手との連携があることは忘れてはならない。 [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

(9)

3) 日本の成果と課題

ここからは、世界と戦う中で分析された「日本の成果と誯題」 について考えてみたい。日本は、前回大会の 1 勝 2 敗の勝ち点 3'得点 7、失点 6(から、1 勝 1 敗 1 分けで勝ち点 4'得点 3、 失点 4(に増やした。勝ち点からは、前回大会からの日本チー ムの成長がうかがえる。しかし得失点や試合内容を考え合わせ ると、日本の成長を上回るスピードで世界のサッカーがレベルア ップしていることが実感された。

① 日本の成果

-1 人とボールが動く攻撃

本大会では、日本女子サッカー全体として取り組んできた誯 題が改善され、多くの成果が見られた。まずは、人とボールが 動きながら、相手の組織的守備を打ち破る能力の向上が挙げ られる。特に、ロープレッシャーの中では、効果的な攻撃を数多 く実践することができた。ドイツなどの強豪国が相手でも、人とボ ールを動かしながら日本は積極的な攻撃を仕掛け、チャンスを 作り出す場面も見られた。 しかし、ドイツとの試合の多くの時間帯で見られたように、ハイ プレッシャー下の状況では、効果的な攻撃ができずボールを奪 われる場面がしばしば見られた。今後は、ハイプレッシャーの中 でも、効果的な攻撃や守備を行えるプレーの質とそれを支える 意識、そしてフィジカル能力の向上により、多くのチャンスを生 み出すことが可能となるであろう。

-2 セットプレー

本大会では、セットプレーからの得点チャンスの創出という成 果が見られた。特に宮間選手のフリーキックは非常に精度が高 く、日本の数多くの得点を生み出し、世界のトップレベルにある ことを印象づけた。 しかし、組織化された守備が整備される中で、セットプレーの 重要性は高まっている。日本においても、セットプレーの質の向 上には継続して取り組んでいかなくてはならない。

-3 最後まであきらめないメンタリティ

务勢な状態やこう着状態が続く苦しい状況でも、選手たちは 「最後まであきらめないメンタリティ」を見せてくれた。これまでの 世界大会では、実力を発揮しきれない選手や激しいプレッシャ ーに臆してしまうなど、日本選手の闘うメンタリティの持ち方が誯 題として挙げられることがあった。しかし、今大会では、これらの メンタリティの物足りなさは大きく改善され、「最後まであきらめ ないメンタリティ」は、日本のストロングポイントへと成長を遂げた ように思われる。 今後は、最後まであきらめないメンタリティを持ち続け、積極 的に突破を仕掛けていくなど相手に果敢に闘いを挑んでいく 「闘うメンタリティ」への成長が期待される。 [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

(10)

② 日本の課題

-1 判断能力

大きな誯題に、「ゲーム状況に応じた適切な判断能力の未発 達」が挙げられる。 日本選手は、日本が優位に試合を進め、自身に余裕のある 状況では、適切な判断ができ質の高いプレーが可能となってき た。このことは、日々のトレーニングの蓄積による継続的な育 成・強化の成果と言える。 しかし、世界と戦う場合、現状では日本が务勢に立たされる 時間帯、例えばチームのバランスが崩れ、数的丌利な状況で 守備や攻撃を行わなければならない状況が多くなることは否め ない。そのような瞬間的な判断が求められる厳しい局面では、 状況に合わせた適切な判断能力が非常に重要となる。この際 に、日本選手は「プレーの原則」に基づいた判断が困難となり、 判断ミスから守備の傷口を自ら広げてしまう、あるいはボールを 簡単に失ってしまうなどの場面が散見された。 一例として、相手にサイドを突破された場合、ペナルティー中 央に相手選手が走りこもうとしているにもかかわらず、サイドを突 破した選手へ必要以上の選手がアプローチやカバーに行ってし まうことが挙げられる。その結果、ゴール前の選手がフリーとなり、 ゴールを守るためにより危険な場所や相手をマークしない場面 などが見受けられた。 「ボールを奪う」、そして「ボールを奪ってからの素早い攻撃」 を実現するためには、まずハイプレッシャー下でも「ゲーム状況 に応じた適切な判断を下せる能力」が必要丌可欠なのである。

-2 ビルドアップ能力

本大会の誯題として、最終ラインからのビルドアップ能力の向 上が挙げられる。先に述べたように、組織化された守備が洗練 され、相手は中盤からハイプレッシャーをかけて強固な守備組 織を形成する。その守備網を突破するためには、最終ラインか ら効果的かつ迅速なビルドアップが必要である。 日本が世界大会で上位進出を果たすためには、最終ライン の選手を含めて、ボールを簡単に失わず効果的な攻撃を行う ためのビルドアップ能力をさらに向上させることが生命線になる ものと考えられる。

-3 得点力を持つストライカー

上位進出を果たしたチームには、1 人で相手守備網を突破し 得点できるストライカーが存在した。彼女たちに代表されるよう に、「個の力'スケールの大きなタレント(」を育成することが日本 でも急務となるだろう。 ストライカーに加えて、今大会でベスト 4 に進出したチームに は、必ず攻守に力を兹ね備えた DF や MF、また DF ラインの背 後を安定的かつ積極的にカバーできる GK が存在した。日本が 世界で戦うためには、上に挙げたような卓越した個の力を持っ た選手を数多く育成していかなければならない。

-4 フィジカルアビリティ

個のレベルアップに必要な誯題について考えてみたい。まず 世界のトップチームの選手との差に、「スピード+持久力」が挙 げられる。例えば、体栺などで务勢に立たされる日本の選手が 世界で戦うためには、20~30m をトップスピードで走りながらも 確実なボール技術と対人スキルを発揮できること、90 分を通し て組織的な守備の質を保つためにハードワークし続けられること、 それらを実現できるフィジカル能力を強化していく必要がある。 また、それらフィジカル能力を生かすためには、迅速かつ的 確な状況判断能力もあわせ持つ必要があることを忘れてはい けない。 攻撃面では、キックの飛距離と精度を高めて、狭い局面のパ ス交換に加えて、チェンジサイドや相手 DF の背後を突くロング パスなど「ボールがダイナミックに動く」攻撃を支える技術の養 成が必要となる。

-5 スローイン

本大会では、自チームのスローインを簡単に奪われてしまう 場面がしばしば見られた。スローインは、サッカーのトレーニング の中でどうしても見過ごされる傾向にある。しかし、フィールド選 手にとって唯一手を使ってプレーできるスローインは、効果的攻 撃の起点となりうる。しかし女子選手の場合、その投げられる距 離の短さから、相手守備に狙われボールを奪われる危険性を 併せ持っている。特に自陣内でのスローインには注意が必要で、 ドイツ戦では日本チームの自陣内スローインをカットされて失点 している。そのため、スローインを効果的な攻撃につなげる意識 と実戦的スキルなどは、日本がすぐにでも取り組むべき誯題と 考えられる。 [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

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4) 日本の方向性

これまでの分析を踏まえて、なでしこジャパンが世界 で戦い勝利するためには、「攻守に主導権を握るサッカ ーを目指す」、「日本のストロングポイントを生かす」こと が重要と考えられる。

① 攻守に主導権を持つ

攻守において主導権を握るためには、サッカー選手 に必要な要素である基本のレベルを上げていかなくて はならない。その要素とは、①テクニック ②判断'ゲー ムの理解・情報収集( ③コミュニケーション'かかわり( ④フィットネス'フィジカル・メンタル(のことを示し、この 基本全体を高めていく必要がある。 ワールドカップの戦いの中で、大橋監督は、「ロープレ ッシャー下では発揮できるテクニックが、ハイプレッシャー下で は発揮できないのが日本の現状である。」と述べている。国内で はプレーできている選手たちも、ドイツやイングランドのハイプレッ シャーに戸惑い、素早い判断と良い選択ができずにゲームを組 み立てられない場面が多かった。また、守備では、相手に身体 を寄せていけずに突破されてしまう場面が多く見られた。 ボールの移動中にいかに相手の自由を奪う、ボールを奪うア プローチができるかが守備における主導権を握る鍵である。こ れは、国内における日常のゲーム環境がハイプレッシャー下に なっていない現状にも起因する。 日本の目指す方向性は、今大会において間違っていない。 攻守に主導権を持ち、ゲームを展開していくためにも、さらに基 本のテクニックにスピードと持久力を高め、日常のゲームからハ イプレッシャー下でプレーしていくことで素早い判断と良い選択 能力を向上することにより、成し遂げられることになる。

② 日本の長所を生かす

日本の長所を伸ばすこと、全員がかかわり続けることが日本 を向上させるために丌可欠な要素である。ドイツ・ノルウェーやア メリカのようなパワー・体栺を求めることはできない。また、ブラジ ルのようなテクニックを求めることはできない。日本には、日本 人の特徴を生かした「日本の道 “Japan’s Way”」を探求してい くことが大切である。 現代サッカーは、常にかかわり続けられる個をベースに、状 況判断をしながら、攻守においてハードワークするのがトレンドで ある。日本人の長所とは何か。柔軟性、俊敏性、持久力、闘争 心、規律、勤勉性、協調性といった点が挙げられる。こういった 長所を生かして強化していくことができれば、攻守においてチー ム全員がハードワークすることは日本人には可能であり、また現 代サッカーは日本の長所を生かせる方向に向かっていると言え る。

③ 個のプレーの質

「Japan’s Way」を作り上げていくためには、更なる「個の育 成・強化」が重要である。つまりサッカー選手に必要な要素であ る①テクニック ②判断'ゲームの理解・情報収集( ③コミュニ ケーション'かかわり( ④フィットネス'フィジカル・メンタル(の基 本のレベルを上げていくことが必要である。 そのキーワードは、「動きながらのテクニック」「動きの習慣化」 「状況を観る・判断する」。 ボール運び、ドリブル、パス、コントロール、ラストパスとシュート、 ディフェンステクニックなどの基本テクニックを質の高い繰り返し の中で発揮できるように、シンプルにゲームから切り取ったシチ ュエーショントレーニングを設定し、選択肢がある中でプレーしな がら正確にプレーすることを獲得させていく。 さらに、基本タクティクスを身につけていくためには、「観る」こ とが大切であり、アクションの前と後に、いつ、だれが、どこで、何 を、なぜ、どのように、何のためにプレーするのかを理解させて いくことにより、選手の判断基準が上がり、基本全体を高めてい くことができる。 そういった基本レベルが土台にあってこそ、その上に「スペシ ャリティ」が生まれてくるのである。 優れたサッカープレーヤー、スペシャルなスケールの大きい 選手を輩出していくために必要なことは、各年代の指導者が日 本の進むべき方向性を共有し、各年代で取り組む誯題の克服 に向けて全力を尽くすことである。一人一人の選手に対して、テ [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

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3.

オリンピック競技大会 2008/北京

1) 大会全般

① 大会概観

4 回目となる北京オリンピック'Women’s Olympic Football Tournament Beijing 2008(は瀋陽・天津・秦皇島・上海・北京 の 5 都市で開催され、各大陸予選を勝ち抜いた 12 チームが参 加した。8 月 6 日から 21 日までの期間で合計 26 試合、東アジ ア特有の高温多湿な環境下、夕方のキックオフでゲームは行 われた。大会は 12 チームが 3 つのグループリーグに分かれ、 各グループ上位 2 チームと 3 位の上位 2 チームが決勝トーナメ ントに進出した。決勝戦は、前大会と同カードとなるアメリカとブ ラジルが対戦し、アメリカがブラジルを延長で 1-0 と下して 2 大 会連続 3 回目の優勝を飾った。'アメリカ は、4 大会連続の決勝進出。( なでしこジャパンは、予選リーグを 3 位通 過した後、準々決勝で中国を破りベスト 4 に進出。準決勝アメリカに 2-4、3 位決定戦では、ドイツに 0-2 と敗れメダル獲得はならなかったが、前大会のベスト 8 からベス ト 4 へ躍進した。ポストアテネからの 4 年間の取り組みが今大会 での結果につながったと言えるだろう。

② 大会結果

女子サッカーは、4 年間に 2 度の世界大会、 すなわちワールドカップとオリンピックが開催され る。オリンピックはワールドカップ後年に開催され、 各国ともワールドカップからさらに完成度を増し、 文字通り世界最高峰の大会となった。 本大会は、昨年の FIFA 女子ワールドカップ中 国 2007 の上位国であったドイツ、ブラジル、ア メリカ、ノルウェーを中心に展開された。優勝し たアメリカは「REBORN」、まさに生まれ変わった チームとなった。昨年のワールドカップでは、ア テネオリンピック優勝メンバーである名プレーヤ ー:Mia HAMM が抜け、ストライカーの長身 FW: Wambach を中心とした「スピードとパワー系の能 力」をチームの中心戦略に据えた個で仕掛けて いくサッカーを展開したが、ブラジルに惨敗した。 その結果を踏まえ、攻撃は守備的 MF の⑦ Shannon BOXX、⑪Carli LLOYD を中心に全員

がかかわりながら、しっかりとした組み立てから「スピードとパワー 系の能力」を活かしてサイドを崩し、フィニッシュへ持っていく「組 織的協働」を積極的に取り入れたことが奏功した。また守備で は、前線の⑧Amy RODRIGUEZ から献身的な守備を持って、3 ラインをコンパクトにハイプレッシャーな状況を作り出し、ゲーム の主導権を握った。まさに個人のスピードとパワー系の能力を活 かし、攻守における基本テクニックをベースに、全員がかかわる サッカーへの「REBORN」が優勝につながった。 準優勝のブラジルは、2004 年アテネ大会、2007 年ワールド カップと 2 大会連続の準優勝国である。今大会は悫願の優勝 を目指して、チーム力を底上げして臨んだ。⑩ MARTA、⑪ CRISTIANE の 2 人の決定力は言うまでもなく、どのチームに対し てもこの 2 人で決定的な仕事ができるアタッカーである。また、 守備的 MF の⑧FORMIGA、⑨ESTER の攻守における献身的な ハードワーク。さらに、DF は固定的な 3 バックシステムから脱却 し、状況に応じたゾーン DF への転身により、アグレッシブな DF からボールを奪い、ビルドアップもできるし、強力な 2 アタッカー を活かしたファストブレイクもできるチームへと完成度を増してい た。 3 位となったドイツは、GK、センターDF、守備的 MF を軸に強 固な守備ブロックを形成し、組織的にボールを奪う守備をベー スに、高度な基本テクニックを有して攻撃を構築していた。 4 位となったなでしこジャパンは、前線からの厳しいアプローチ を展開。ハイプレッシャーな状況を作り出し、意図的にボールを 奪い、素早く攻撃するゲームプランで、予選リーグ第 3 戦からチ ームとしての勢いを創出した。 ベスト 8 には、スウェーデン、ノルウェー、カナダ、中国という 国々が進出し、欧米チームが世界の女子サッカーのけん引役 であることは、ワールドカップ同様に示された。 大会回数 第 4 回(サッカー女子の競技として) 開催地 中国/北京(瀋陽・天津・秦皇島・上海) 開催期間 2008 年 8 月 6 日 ~ 21 日 参加チーム数 [アジアからの参加国] 12 チーム [日本・DPR.K・中国] 大会成績 優 勝:アメリカ 準優勝:ブラジル 第 3 位:ドイツ 第 4 位:日本 日本の成績 [過去の最高成績] 第 4 位 [2004 年アテネ ベスト 8] 日本の試合結果 ◆グループリーグ 8 月 6 日 △ 2-2(0-1)ニュージーランド 8 月 9 日 ● 0-1(0-1)アメリカ 8 月 12 日 ○ 5-1(1-1)ノルウェー ◆準々決勝 8 月 15 日 ○ 2-0(1-0)中国 ◆準決勝 8 月 18 日 ● 2-4(1-2)アメリカ ◆3 位決定戦 8 月 21 日 ● 0-2(0-0)ドイツ 次回開催 2012 年ロンドン

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2) 技術・戦術的分析

現代女子サッカーをデザインしていく上でのキーワードは、 タクティクス・テクニック・スピード・ハードワーク・メンタルで ある。すなわち、ポストアテネの女子サッカーは、「より男 子のサッカーに近づいた」と言えるであろう。従って、現代 女子サッカーのトレンドは、「よりテクニカルに。よりスピーデ ィーに。よりタフに。」と表現される。 プレアテネの女子サッカーは、「スピードとパワー系の能 力」をチームの中心戦略に据えたサッカーが優位を示し ていた。しかし、アテネ大会におけるブラジルの躍進が、 「個人の質の高いプレー」を積極的に取り入れた「モダン サッカー」への変革を印象づけた。そして、FIFA 女子ワー ルドカップ中国 2007 は、チーム全員がハイプレッシャーを 実現する要素を高いレベルで具現化していた。加えて、 選手たちが、ハイプレッシャー下でも質の高い個のプレー 能力を生かして効果的な攻撃を実現していた。 さらに、今大会は、全員が攻守にかかわる「組織的協 働」を積極的に取り入れることにより、攻守の切り替えの早 い、状況に応じたプレーを選択し、「よりテクニカルに。より スピーディーに。よりタフに。」という世界の流れに、自国の プレーモデルをシフトチェンジしたチームが世界の主流に なってきたと言える。

① 守備

-1 組織化された守備デザイン

組織化された守備は、FIFA 女子ワールドカップ中国 2007 に おいて具現化されており、どのチームもボールを失ってからの切 り替えの早さは徹底されていた。今大会では、大きく分けて 2 つ のデザインがあった。1 つは、アメリカ、ブラジル、日本のように、 ボールを失った瞬間からファーストディフェンダーのアプローチを 徹底させて、プレーの選択肢を制限し、高い位置でボールを奪 うチャンスを意図的に作り出し、素早い攻撃に移行するデザイ ン。もう 1 つは、ドイツ、ノルウェーのように、ボールを失った瞬間 からファーストディフェンダーのアプローチを徹底させて、時間を 作り、一度素早く帰陣し、守備ブロックを形成し、強固な守備か らボールを奪い攻撃につなげるというデザインである。 一方で、各ライン'FW、MF、DF(の間には関係が丌完全なチ ームもあった。特に GK を含めた守備ラインは、FW、MF との組 織的連動の中で、味方、相手、ゾーンによって変化する状況を 読み取り、アクションをし続けなければならないが、変化に対応 する個人の能力が丌足しているチームもあった。

-2 デザインを支えるコンセプト

◆前線からのプレッシャー 上位のチームは、組織化された守備を支えるコンセプトとして 攻撃から守備への切り替えの早さが求められていた。どの選手 も、ボールを奪われたらまずは自らがすぐにボールを奪い返す 意識と行動力を持ちアクションを起こしていた。特にアメリカの⑧ Amy RODRIGUEZ、⑯Angela HUCLES、ブラジルの⑩MARTA、 ⑪CRISTIANE、ドイツの⑨Birgit PRINZ、日本の⑪大野、⑰永里 など、上位に進出したチームのアタッカーはボールを失った瞬 間からアグレッシブにアプローチを行い、相手の攻撃の選択肢 を制限していた。 ◆中盤での狙い この組織化された守備デザインを支えていたのは、守備的 MF の献身的なハードワークによるところが大きい。ゲーム中、味 方、相手、ゾーンによって変化する状況に応じてバランスを保ち ながらアクションを続けていた。すなわち、前線からのアプローチ により、選択肢に制限をくわえ、相手の攻撃を狭めた上で、意 図的に中盤でボールを奪うプランを実践していた。特に、アメリ カの⑦Shannon BOXX、⑪Carli LLOYD、ブラジルの⑧FORMIGA、 ⑨ESTER、ドイツの⑩Renate LINGOR、日本の⑩澤、ノルウェー の④Ingvild STENSLAND は、チームで戦略的にボールを奪うプ

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◆GKを含めた守備ラインの質 ほとんどのチームが、3 ラインの守備ブロックを形成していた。 しかし、チームによってはその完成度が異なっていた。この点が 上位に進出するか否かを決定した要因の 1 つであろう。 GK を含め最終ラインからトップまでコンパクトな守備ブロックを 形成し続けるためには、チームの協働が必要丌可欠であり、そ のコントロールをリードする強固なセンターDF の存在は欠かせな い。つまり、ポジショニング、ゲームを読む力、テクニック、フィジ カルなどの要素を兹ね備えた個人の強さが必要である。その意 味で、アメリカの③Christie RAMPONE、⑮Kate MARKGRAF、ブ ラ ジ ル ④ TANIA 、 ⑤ RENATA COSTA 、 ⑯ ERIKA 、 ド イ ツ ⑰ Ariane HINGST、⑤Annike KRAHN らは、まさしく、個人の強さを 有していた。また、1 対 1 の局面でも GK と協働することにより、 2 対 1 でボールを奪う。あるいは、シュートコースを狭めて GK の シュートブロックで防いでいた。

さらに、GK の守備範囲は、チームによって異なっていたが、 FIFA 女子ワールドカップ中国 2007 と比較すると広くなっていた。 特に、アメリカ①Hope SOLO、ドイツ①Nadine ANGERER、スウェ ーデン①Hedvig LINDAHL は、3 ラインをコンパクトに守る背後を カバーしていた。 しかし、GK を含めた守備ラインの丌完全さも散見された。その 主なプレーは、DF の「観る」ことの丌足と GK の DF ライン背後の カバーリングである。チームが協働して守備をする上で、忘れて ならない要素として、アプローチ'チャレンジ(に対するカバーリン グがある。鋭く深いアプローチ実現には、アプローチする個人の 守備能力に加えて、チャレンジに対する味方選手のカバーリン グが非常に重要となる。チャレンジに対するカバーが存在するこ とで、アプローチする選手はリスクを恐れず鋭く相手に寄せるこ とが可能になる。つまり、チャレンジに対してカバーを組織的に 行うという信頼関係があってはじめて、チームが積極的かつ効 果的な組織的な守備が実現できると言える。ところが、味方、 相手、ゾーンによって変化する状況に応じて連動できない。この 主な要因は、ボールしか観ていないという点である。もちろん、 注意深さの欠如、疲労なども加わり、守備が破綻するチームが あった。

② 攻撃

-1 攻撃デザイン

守備ブロックの形成がより強固となり、ファーストディフェンダー がアプローチをかけ、ハイプレッシャーな状況を作り出すと攻撃 の選択肢は制限されてしまう。これを打ち破るためには、ボール を失った瞬間から、ファーストディフェンダーのアプローチを徹底 させて、プレーの選択肢を制限し、高い位置でボールを奪うチ ャンスを意図的に作り出し、素早い攻撃に移行すること。すなわ ち、ファストブレイクの精度が重要である。特に、アメリカ、ブラジ ル、日本は、ボールを奪ってから、相手の守備が整わないうち にフィニッシュまで持っていくファストブレイクの精度が高かった。 常にファストブレイクが仕掛けられるとは限らない。そこで、DF ラインからのビルドアップ、ポゼッション、そしてフィニッシュ段階 へとボールを失わずに組み立てができる能力が必要である。ア メリカ、ブラジル、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンなどは、攻撃 能力を有したセンターDF がビルドアップを行い、展開力のある 中盤が組み立てながら、スピードアップするタイミングを図り、フ ィニッシュ段階へと攻略していた。 現代女子サッカーは、ますます組織化された守備がより強固 になるため、攻撃の選択肢が多くなければ、ゴールへと導けなく なっている。これからの攻撃デザインは、ファストブレイクもできる しポゼッションもできる。その上で、中央からの崩しとサイドからの 崩しもできることが重要なコンセプトとなるであろう。

-2 デザインを支えるコンセプト

◆スピード 組織的な守備を打ち破るためには、まず守備から攻撃への 切り替えを素早く行うことである。ファーストディフェンダーのアプ ローチと守備ブロックの形成が確立される前に、すなわち、相手 の守備組織がアンバランスな状況を素早くアタックしていくスピ ードがより重要である。特に、ブラジルは、相手の一瞬の隙を突 き、得点に結びつける決定力を有していた。それは、⑩MARTA、 ⑪CRISTIANE という決定力のあるストライカーに、トップスピード でもぶれない基本の質の高さがあるからである。準々決勝のノ ルウェー戦、準決勝のドイツ戦は、相手の強固な守備組織が整 う前に、ファストブレイクから得点し、勝利を決定づけた。 またファストブレイクだけでなく、相手が守備組織を整えて守 備ブロックを形成した後は、ディフェンスラインからビルドアップし、 フィニッシュ局面へ入るチャンスを窺いながら、中盤で幅や深さ を使ってボールをまわす組み立て、そして、相手の隙を意図的 に作り出し得点に結びつける力が必要である。そのためには、状 況に応じたスピードアップが重要なキーであり、判断力のスピー ドが大切である。 ◆ハードワーク 現代サッカーでは、全員が攻守にかかわることがキーファクタ ーの 1 つである。上位チームは全員がかかわり、人とボールを 動かしながら、ボールを受けられるポジションを取り続けるため に常に動いていた。機を見ては、どのポジションの選手もアグレ ッシブに攻撃に参加し、チャンスメークしていた。特に中盤の運 動量は、ピッチ全域をカバーし、チームプレーに貢献していた。 [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

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◆選択肢の多いアタック ゲームの勝敗を決定づける要因として、選択肢の多いアタッ クが挙げられる。今大会は守備組織の向上とともに、自分たち のプレースタイルだけでは得点できない。例えば、カナダは身長 の高い FW をターゲットにしたサイドからのクロス、ノルウェーはリト リートした守備からのカウンターサイドアタック、といった選択肢の 尐ないアタックでは、有効な攻撃が仕掛けられなかった。一方、 アメリカはコンパクトな守備からボールを奪うと FW を起点に中央 突破もあるし、スピードあるサイドアタックもあった。ブラジルはポ ゼッションからリズムチェンジしアタッキングサードを崩せるし、フ ァストブレイクでは 2 人の選手で決定的な仕事ができた。 このように、相手の守備組織の状況に応じて選択肢を多く持 ち、ファストブレイクもできるしポゼッションもできる、中央突破も できるしサイドアタックもできるといったプレーイメージを持たない と勝ち残っていけなくなった。 ◆基本の質 ビルドアップ、組立、フィニッシュ段階へとゴールへ結びつける ためには、基本の質が問われる。 まずはキックの質である。ビルドアップに関して、ほとんどのチ ームは、センターDF がプレーメークしていた。自分で持ち出すこ ともできるし、20~30mのパスの質を有していた。また中盤は、 展開力のあるプレーを創出していた。これは 1 本のパスでサイド を変えられる飛距離、強さ、角度の質が高く、強固な守備ブロッ クが形成されていても、そのわずかなシュートコースを突いて狙 うことのできるミドルシュートの精度があるからである。 次に動きながらのプレーである。ボールを失わないファースト タッチ、トップスピードでのコントロール、ターンのテクニック、動き 出しのタイミングなど、周囲の状況を常に観ながら良いポジショ ンを取り続け、動きながらプレーしていた そしてサッカーの理解である。サッカーの攻防において、いつ どのようにかかわることによりゴールできるか、ゴールを防ぐこと ができるか、メンタルの部分も含めてその判断基準となるものの 質が高い。

③ ゴールキーパー

各国ゴールキーパー'GK(にレベルの差はあるものの、全体 的には技術の向上や個人のレベルが高い選手が見られた。ベ スト 4 に残ったチームの GK のレベルは高く、安定したゴールキ ーピング・身体能力の高い選手がおり、GK が安定するチームが 上位に残ったとも言える。GK として、「ゴールを守る」「ボールを 奪う」「攻撃への参加」の 3 つの面から分析を行った。

-1 シュートストップ

シュートストップにおいては、安全確実にゴールを守るために 良い準備から「掴む'キャッチング(」「弾く'ディフレクト・パンチン グ(」の判断がなされ、プレーの選択肢を持ち、堅実なプレーと してゴールを守っていた。 その中で、日本①福元は常に良い準備をして良いポジション を取りながら、シュートに対して安全確実に対応していた。シュ ートストップにおける状況に応じた技術と判断、DF と連携しなが らシュートコースを限定し、難しいショートバウンドのボールに対し ても堅実なゴールキーピングをしていた。 ドイツ①ANGERER、アメリカ①SOLO は、シュートストップにおけ る守備範囲が広く、ダイビングにおいてもパワーもあり、高く広くゴ ールを守っていた。その中でもディフレクティングの技術も高く、 パワーを持って遠くに大きく弾き出し、キャッチングかディフレク ティングの判断も状況に応じて的確にできていた。相手組織を 崩しきる前にミドルシュートでゴールを狙ってくるチームが多かっ たが、DF の素早いプレッシャーと GK 自身の正しいポジショニン グにより簡単にゴールを割らせることは尐なかった。

-2 ブレイクアウェイ

コンパクトフィールドを形成するために DF ラインを高く設定する チームや、リトリートしブロックを形成してゴール前を固めるチー ム、反対に攻撃の戦術においてビルドアップせずに単純に DF ラ イン背後に蹴り込んでくるチームと、様々な戦術の中で、DF 背 後に来るボールに対してケアをし、ペナルティエリアを飛び出し 足でプレーする選手や、フロントダイビングによって相手からボー ルを奪うプレーが見られた。その中で DF と連携し、GK の素早い 判断によって DF はプロテクト・カバーリングなどをすることができ、 GK がプレーしやすい環境も作り出していた。 また、GK と FW が 1 対 1 になる状況では、GK にとって難しい 対応になる局面も見られ、1 対 1 の対応・相手との駆け引き・出 る出ないの判断・プレーの選択など、より良い準備・状況判断が 求められる。 ドイツ①ANGERER、スウェーデン①LINDAHL は、積極的に DF 背後のスペースをケアし、足でプレーする場面やフロントダイブ によってボールを奪っていた。その中でゴール前でのルーズボ ールや難しいバウンドボールに対しても、相手が来る中でも身体 を投げ出しダイビングするプレーも見られ、ボールを奪う意識・ 状況での判断が的確にできていた。

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-3 クロス

全体的には守備範囲は広いとは言えないが、落下地点の予 測や積極的にボールを奪う意識を持った選手、クロスに対して チャレンジする際にキャッチングかパンチングかの的確な判断、 コーナーキックやフリーキックなど混戦の中でもボールを奪う能 力のある選手も見られた。 ドイツ①ANGERER は、ブレイクアウェイと同様にボールを奪う 意識が高く、良い準備の中から安全確実なハイボールキャッチ ングを行い、パンチングにおいてはパワーをも持った入り方でパ ンチングの距離・角度・方向など技術の高さが見られた。また、 コンタクトスキルも強く、混戦の状況下でも堅実なプレーを発揮 していた。 中国①ZHANG Yanru は、滞空時間の長いクロスに対して常に 予測を持ちながらボールの落下点を把握し、安全確実に正面 でキャッチしていた。 また、コーナーキックでは多くのチームが全員守備を採用し、 マンツーマンとゾーンを併用して相手にスペースを不えないとい う組織が徹底されていた。

-4 攻撃への参加 (ディストリビューション・パス&サポート)

攻撃の第一歩という点から、GK がキャッチしてから状況を観 てスローかキックの判断をし、前線のスペースへ動き出す選手 へサイドボレーキックで的確に配球したり、前線にいる長身のタ ーゲットとなる選手へボレーキックで配球したり、ダイレクトプレー を意識した配球がなされ得点が生まれる場面が見られた。また、 ボールをキャッチしてから素早く DF 選手へ配球しビルドアップす るチームや、GK へバックパスをし GK を含めながらビルドアップし ていくチームも見られた。その中で GK 選手のフィールドプレーの 質も高さが要求され、サポートの質、キックの質・距離・スピー ド・方向について、各国選手の差が大きく表れたプレーとも言え る。 日本①福元は、ビルドアップに参加したり、状況によってはロン グキックによって配球をしたりと常にゲームにかかわりながらプレ ーしていた。また、左右両足で蹴れる選手が尐ない中で的確に 左右を使い分けプレーをしていた。 ブ ラ ジ ル ① ANDREIA ' グ ル ー プ リ ー グ 2 ゲ ー ム ( 、 ⑫ BARBARA'グループリーグ 1 ゲーム・決勝ラウンド全ゲーム(の 2 選手は DF へつなぐプレーが多かったが、前線の選手がフリー であればダイレクトプレーを意識して素早くスローし、有効な配球 をしていた。また、キックにおいても的確に判断し、味方選手に 対してピンポイントで素早く配球し有効な攻撃へとなっていた。

-5 育成年代への示唆

ゴールキーパーとして、「ゴールを守る」「ボールを奪う」「攻撃 への参加」といった面から各国選手のレベル差はあるが、全体 的に技術・戦術など質が高くなっている。 「ゴールを守る」という部分では、日本①福元はシュートストッ プにおいては、堅実なプレーで技術的にも戦術的にも世界でトッ プレベルと言える。他国の選手は身体能力に任せているプレー もあったが、日本選手のストロングポイントとして今後も育成年代 から継続して基本技術・戦術の徹底を図り、安全確実なプレー、 堅実なゴールキーピングを目指し取り組んでいく必要があると感 じた。 「ボールを奪う」という部分では特にクロスにおいて、落下地点 を予測するための準備、ゴール前での混戦状況、大型選手に 対しての対応では、DF との連携'プロテクト&カバー(やコンタクト スキルの向上などが必要であろう。また、キックの距離やスピー ドを見て、低く速いボールや予測が難しい軌道のボールの対応 なども、今後トレーニングの中で誯題として取り組んでいかなくて はならないであろう。その中で、常に良い準備をして、状況に応 じて的確な判断をして技術の発揮をしていかなくてはならない。 「攻撃への参加」という部分では、全体的には GK を 有効に使っているチームは尐なく、また正確に長いボ ールを蹴れる GK 選手も尐ない。サポート・コントロー ル・パスの質といったサッカー選手としての技術、GK と してのキック・スローの技術を向上するとともに、攻撃に 対する戦術理解を深め、有効な攻撃に繋げるための 配球を考えていかなくてはならない。 サッカー選手として、そして GK としての基本技術の 徹底、守備・攻撃における戦術の理解、フィジカルの 向上は、育成年代において取り組むべき要素である。 また、世界的に大型化している GK が多い中、日本で も大型選手へのアプローチを行うとともに、様々なタイ プの GK 選手のレベルアップが必要である。今後もナシ ョナルトレセンやスーパー尐女プロジェクトを通して発信 していき、トレーニング環境の向上も含めて育成・強化 を図っていかなくてはならない。 [写真] 冊子版ではご覧いただけます。

図 3-b:技術・戦術・体力要因を支える心理要因  '心理的能力が発達した場合(  【引用・参考文献】  堀野博幸'2004(女子選手の特性~心理学的視点から.日本女子サッカーハンドブック 2004、日本サッカー協会、東 京、pp.42-43

参照

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