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EthnographyonaLnabbut瀬戸 邦弘(Kunihiro Seto)  指導:寒川 恒夫

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Academic year: 2022

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(1)人間科学研究 Vol.20,Supplement(2007) 博士論文要旨. ナッブートの民族誌−エジプト・アラブ共和国クルナ村の事例から− EthnographyonaLnabbut. 瀬戸 邦弘(Kunihiro Seto). 指導:寒川 恒夫. 本研究の狙い. 報告では、20世紀後半のナツブートについて紹介されてい. エジプト・アラブ共和国の上エジプト地方では聖者を視 う祭りに際して、ナッブートと呼ばれる伝統的なスポーツ が行われる。本研究はこのナッブートの競技を通して、当 該地域の人々が如何に地域固有のアイデンティティを確立 し、またそれを維持・再生産するプロセ又を考察する事を その日的とする。ナッブートとは本来アラビア語で杖を指 す言葉で、上エジプト人は視祭の折にこの杖を用いて一対 一で、剣術やフェンシングのような格闘技の試合を行う。 そこにはナツブート実修者達のみに共有されるイーミック なレベルでの身体観が存在し、その身体観を基とした身体 技法が駆使され試合が展開されるのである。筆者は現地に おいて参与観察を行い、研究者のエティックな視点、およ び実修者のみが知りうるイーミックな視点の両視点からの ナッブートの分析を行った。そして、そこではナツブート を包含する祭り全体という大きな枠組みから、ナッブート の運営に関わる人々、またナツブートの参加者、競技空間、 伴奏など競技会を取り巻くさまざまな構成要素の分析もあ わせて行われており、本研究は伝統なスポーツであるナッ ブートを巡る総合的な研究と位置づけられるであろう。. る。彼はナッブートを身体遊戯のひとつとして位置づけ、. 先行研究 ナッブートに関する先行研究を考察した場合、古代社会. 格闘、模擬格闘の遊戯、剣舞のようなダンスの一部として 報告している。現在のナツブートの概要を記述し、またそ れを身体遊戯と捉えた点に関して、赤堀の報告は評価でき る。しかしながら彼の記述もまた概要にとどまっており、 その詳細に関しての考察はなされていない。 以上のように現代のナツブートが登場する報告はいくつ か見受けられる。しかしそれらはどれも、膨大な民族誌の 中の一部であったり、もしくは概要的な報告であったりし ており、その詳細について考察が試みられたケースは見当 たらず、文化人類学的、スポーツ科学的な研究方法によっ てその在り様を研究し、た先行研究は存在しない。今後の研 究が待たれる状況といえるのである。 研究方法 本研究は2004年〜2006年までの3年間に現地ケナ一県 L市クルナ村で複数回にわたり行われた。調査・研究方法 は、参与観察を中心に文化人類学的方法が用いられ、イン フォーマン吊こ対する現地での聞き取り調査、およびビデ オ・カメラ等での映像、画像の記録が行われ、それを補完・ 補足するため文献資料での補足研究も行われた。. における類似の競技研究のための補足的な役割として、あ るいは当該地域のエスノグラフイの一部分として登場する. 考察. など、補足的、周辺的な記述にとどまり、伝統的なスポー. 実修者たちは、視察の折に行われるナッブートの競技会. ツ文化としてナツブートに焦点を当てた研究は皆無と言え. を上エジプト地方の伝統的文化として意識し、競技会のあ. る。したがって、概してナッブートの記述はその紹介にと. り方やその競技スタイルを堅持している。彼らにとって祭. どまった場合が多く−1特に踏み込んだ考察はざれておらず、. りで行われる競技会は単なるスポーツイベントではない。. 現状の紹介にとどまっている。. これはイスラームという宗教的アイデンティティを背景に. たとえばVandier d,Abbadieは古代のスポーツの考察. しながらも、それとは異なるもうひとつの「地域」という. に際し現代のナッブートとの比較を試みているが考察はな. アイデンティティの形成を促し、いわゆる 上エジプト人. されていない。その後の時代に関してもいくつかナツブー. を構築するシステムとしても機能しているのである。. トと類似した競技が登場しているが、今日のナッブートと. されるイーミックなレベルでの身体観が存在し、その身体. の関係性については不明である。 20世紀に入ると. 先述したように、伝統的な競技には実修者にのみに共有. Blackmanや赤堀の報告がある。. 観を基とした身体技法が駆使され展開される。彼らの身体. Blackmanの紹介する20世紀前半の上エジプト農村のエ. 観やその技法は、いわゆる「暗黙知」であり、上エジプト. スノグラフイの中に几元血〟と呼ばれる杖が登場する。この. という限定された空間にのみ共有される文化コードといえ. 杖が抗争解決の武器として用いられる事を報告している。. よう。たとえば、ナツブートの競技会には、参加者全体や、. 彼女の報告は非常に興味深いが、残念ながら競技として視. 対戦相手に対しての礼法や所作が存在する。実修者たち. 祭の場でこの杖が用いられた事の言及はない。また赤堀の. はそのわざの伝承を通してひとつの身体観を共有するとと. −159. −.

(2) 人間科学研究 Ⅵ)1.20,Supplement(2007) もに、その所作を通して、対戦相手との関係性を個人レベ. とはよくあり、それによって撮め事・問題が起きることも. ルで確認し、また参集した人々に対して明示することがで. しばしばである。そのような中伝統文化としての重要性と. きるのである。. は裏腹にナッブート自体を危険なものと捉え、否定する動 きすら存在するのである。そこで実修者たちはこの競技の 存続にあたり、この競技を祭りという宗教的な文脈の中で 「聖者への奉納」として位置づける戦略的な発想を採用し たと考える。本来宗教的な文脈に属さず、しかも危険性を 卒むスポーツに「奉納」という付加価値を与える事によっ て、彼らは当該文化の中における「正当性」を付与する事 に成功したと考える。宗教的な価値を付与され、祭りの中 での正当な位置を手に入れたナツブートは、その地位を不 動のものとする事に成功したのである。. 図1ナッブート実修風景 ナッブートには相手にダメージを与えるための基本攻撃 部位が存在する。頭部からつま先まで全身に32箇所の部 位が人体の弱点として想定されており、この32箇所をめ ぐり、ナツブートの攻撃・防御は展開される。これら 32 箇所のポイントは、全て †ハープつアラビア語で「門」の 意味)と呼ばれる。この身体部位をハーブと呼ぶのはナッ ブートの競技に特有の言葉使いとなる。ハーブの概念は実 修者たちに受け継がれた身体知によるものであるが、この. 図3 ナッブート会場風景. ハーブ基本にナッブートの身体技法は考案されており、エ. しかしナッブートは本質的には宗教の文脈と関係ない存. スノサイエンスとしての伝統的な身体観を理解するうえで. 在である。宗教的な文脈に取り入れられた後も、この競技・. も非常に興味深いものといえよう。. 競技会が元来持っていた機能も維持し続けられたといえる。. (り. それは祝祭の中にありながらも、宗教文脈とは異なる当該 地域の人々の直接的な再会の場を提供するという役割であ る。 結論 宗教的な文脈とは異なる直接的な再会の場として、実修 者たちはこの競技会を利用する。競技という直接的な接触. 野㌘茫l竃票. の場を介して、人間関係を確認し、強化・再生産を行って は濾謬 鄭 背鯵 lI謬. いるのである。それによって当該地域でナツブート実修者. 曇. たちが持つイスラームのアイデンティティが祝祭の場で強. も恥lろアキレス細こ加ナて 帥lらアキレス檎こ加けて 脅醐丁肋lら鳥こかけて. 化され去一方で、「上エジプト人」という地域アイデン≠ ̄ィ ティが、ナツブートの競技会を通して強化・再生産されて. (H)右Il巳l n5)左1把夢 (は)急糟 (tり右太Il監事. いるのである。. (10)瑚. (18)右蹟 (20〉左■ (2け右つ吏先 (22)左つま先. 図2 ハープ箇所図 ところで、祝祭でナツブートが行われるのには戦略的な 理由も存在すると思われる。それはナッブートが格闘技ゆ えに畢む危険性に起因する。防具をつけずに打ち合う格闘 技ナツブートには常に危険が隣り合わせである。現在祝祭 の場で行われるナッブートは寸止めで行われる。しかしそ れでもナツブートのコントロールがうまくいかず、また興 奮した競技者の暴走から打ち合いが発生し、怪我に至るこ. −160. −.

(3)

参照