「 公 務 員 労 働 者 に 対 す る 配 転 命 令 の 法 的 性 質 と 争 訟 問 題 」
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(2) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. ︵1︶. 器として︑組合幹部および組合活動家に対し配転がなされるからである︒. 二. ︵2︶. そこで判例上も配転をめぐる問題がかなりとり上げられてきており︑配転に関する法理もつみ重ねられてきた︒し. かし︑これらは殆んど民間労働者に関するものであり︑公務員労働者についてはあまり論じられてこなかった︒それ. は従来︑公務員労働者に関しては︑その勤務関係について︑行政法学上これを特別権力関係の典型としてとらえ︑使 ︵3︶. 用者たる行政当局の人事権に自由裁量権があるとされ︑民間労働者と直ちに同じものとして論ずるわけにはいかない. ﹁国家公務員の国に対する勤務関係は公. という問題点があったからである︒例えば︑現業公務員である林野庁の労働者に対する配転に関する昭和四四年四月 七日仙台高等裁判所判決く行政例集二〇巻五・六号Vに次の如く示される︒. 権力関係しかもいわゆる特別権力の関係︑即ち特別の法的根拠に基づいて成立する国と国家公務員との関係で国法上. の特定の目的のために必要な限度において国家に対し包括的な支配権が与えられ︑国家公務員がこの支配権に服する. 義務を認められている関係である︒公権力関係の本質はそれが一般権力関係であるのと特別権力関係であるとを問わ. ず︑元来国家共同体の本質ないしは使命に内在するものとして国法が国家の行政の主体に特定の目的の範囲において. 優越的地位を認め︑この地位に基づく国家の行政権の発動行為に優越的効力を認めている関係である︒近代法は国家. の行政権の意思発動を厳重に覇束する反面において︑法律関係の形成︑実現の過程において国家の行政権の意思に優. 越性を認め︑国家公務員の意思いかんにかかわらず一方的に命令して国家公務員をしてこれに服従せしめ︑又は一方. 的に法律関係を形成︑変更︑消滅せしめうるのみならず︑その行為にいわゆる公定力を与え︑行政事件訴訟法による 訴訟の結果否定されるまでいわゆる自力執行力を認められているのである︒﹂.
(3) ところが同じ現業公務員の配転に関して︑このところ注目すべき判決が打出されてきた︒即ち︑全逓金沢南郵便局. 事件金沢地裁昭和四五年五月一五目決定く判例時報五九三号Vでは︑現業公務員のみならず︑公務員一般の勤務関係. を労働契約関係だととらえ︑全逓古河郵便局事件水戸地裁下妻支部昭和四五年一二月二五日判決く労働法律旬報別冊. 七六八号Vでも現業公務員の勤務関係を私的労働契約関係と同一であるととらえ︑民間労働者の場合と同様な配転に. 関する考え方の下にこれを救済している︒さらに配転に関する事案ではないが︑郵政職員に対する懲戒処分につきそ. の取消を求める抗告訴訟を提起した事件で︑不当労働行為の主張を抗告訴訟においてすることの当否に関連して︑現. 業公務員の勤務関係の法的性質に論及し︑これを労働契約関係であるとした全逓神田郵便局事件東京地裁昭和四五年 一二月二六目判決く判例時報六二〇号Vもだされている︒. とはいえ︑先述の仙台高裁判決の他に︑同事件に関する原審判決たる福島地裁昭和四三年三月一二目判決く訟務月. 報一四巻三号V︑西陣郵便局事件京都地裁昭和四六年二月二七日判決などはいぜんとして公務員の勤務関係は特別権. 力関係であり︑任命権者の任用に関する処分はすべて公法上のものであるとしているし︑大阪中央郵便局事件大阪地. 裁昭和四五年二月二一目決定は理由をほとんど述べずに行政行為と判断し︑宮古郵便局事件東京地裁昭和四六年四月. 六日判決︿判例時報六三〇号﹀でも︑特別権力関係は否定しながらも︑配転に関する実定法上の規定や行為の性質に. つき個別的に検討した上で︑これを行政庁の処分と結論づけている︒また︑古河郵便局事件では︑非現業公務員の勤. 務関係については︑現業公務員の場合と分けて当然公法関係としてとらえているようであり︑公務員労働者の配転問. 三. 題を論ずる前提となる︑公務員労働者の勤務関係をいかにとらえるかという問題が十分解決されているとはいえな ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(4) い︒. ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 四. そこで︑本稿では︑公務員労働者に対する配転命令の法的性格はどのようなものか︑そのためにその判断の前提と. なる公務員の勤務関係の法的性質をいかに考えるかを︑さきの判例を素材としつつ︑検討し︑つぎに︑神田郵便局事. 件に示される如く︑争訟上の手続をめぐる間題をいかに考えるべきかをあわせて検討してゆきたい︒. ︵1︶ 判例上も昭和三〇年代から圧倒的に多く見られ三〇年以降生産性向上運動と密接な関係をもっていることが示される︒初期. たとえば本多淳亮﹁配置転換・転勤をめぐる法律問題﹂菊池勇夫教授六〇年祝賀論文集所収︑中山前掲書のほかに︑沼田n. の判例について中山和久﹁配転と不当労働行為﹂労働法律旬報三二四号が詳細である︒ ︵2︶. 野村n峯村﹁配置転換と不当労働行為﹂︵総合判例批評︶季刊労働法二八号︑青木宗也﹁配置転換・転勤をめぐる法律間題﹂. 労働法学研究会報三八五号︑片岡昇﹁配置転換・出向﹂ジュリスト別冊新労働判例百選︑外尾健一﹁採用・配転・出向・解雇﹂. 労働法実務大系働︑舎川昭三﹁人事権の本質と限界−判例にみる人事権の本質・機能と労働者の権利﹂労働法律旬報七一三 号︑浜口武人﹁配置転換と労働者の権利﹂労働法律旬報六四一号などを参照︒. ︵3︶ 配転につき人事院に対して不利益処分不服審査申立は相当多数あるが︑処分が取消された事例はほとんど見当たらないとい. うのはこうした事情によろう︒この点につき秋山泰雄﹁現業公務員の勤務関係の法的性質と配転に対する争訟方法﹂労働法律 旬報七七七号︒.
(5) 二. 公務員労働者の勤務関係の法的性質と配転命令の効力. 8 公務員労働者の勤務関係の法的性質. 公務員労働者に対する配転命令がいかなる法的性質をもち︑いかなる効力を有するかを考える場合︑まず公務員労. 働者の勤務関係がどのようにとらえられるか︑その法的性質について検討されねばならない︒既述した如く︑従来は. これを特別権力関係の典型としてとらえてきた︒このような観点にたつと︑配転命令も行政処分ということになり︑. 被処分職員が当該処分を不服として争う場合︑行政事件訴訟法四四条により︑仮処分制度の適用が許されず︑また処. 分の無効確認判決を求めた場合でも︑行政処分の無効はその処分に重大かつ明白な鍛疵が存する場合に限られると一. 般には解されており︑さらに出訴期限に限定をうけるなど容易には勝訴判決をえられないという不利な立場におかれ. ることになる︒しかし︼方では︑従来から公務員も憲法二八条にいう勤労者であることについては︑学説・判例とも. に異論はなく︑公務員が行政を担当する者であることから公務員法上設けられている種々の規制に示される職務の公 ︵1︶. 6全逓中郵判決以来展開︑発展させられてきた判例に 共性の側面を考慮するとしても︑争議権禁止条項をめぐりm・2. おける労働基本権尊重の方向を思えば︑配転命令について争う場合民間労働者と比べて様々な不利益を課すことはこ. 五. れらの方向と逆行するように考えられる︒そこで︑まず︑特別権力関係論についての検討からはじめて︑公務員労働 ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(6) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 者の勤務関係の法的性質を検討し︑ついで配転命令の法的性質および効力について論じたい︒. 六. 特別権力関係び︒ω8留おOΦ浦聾お導﹄言冨というのは特別の法律上の原因︵法律規定又は当事者の同意︶に基づ. き︑公法上の特定の目的に必要な限度において︑包括的に当事者の一方が他方を支配し︑他方がこれに服従しなけれ. ばならないことを内容とする二主体間の関係であり︑一般的関係即ち︑国民が︑国・公共団体の統治権に服する関係. に対する用語であって︑国・公共団体と公務員との関係や︑伝染病患者と国立・公立病院の入院関係など公法上の営. 造物利用関係があげられる︒そしてその法律の規定又は当事者の同意から合理的に推測できる範囲内においては︑法. 治主義の原理の妥当が排除され︑個々の法律の規定に基づかずに︑一方が他方に対し︑その包括的支配権の発動とし. て命令強制することができ︑その関係内の秩序を維持するために懲戒できる等の権能をもつとされる︒特別権力関係 ︵2︶ なる概念は︑ドイッにおける君主主義的官僚制イデオロギーの産物であるとされるが︑ドイツにおいても我国におけ. ると同様実定法上の根拠をもつ概念ではなく︑主として学説の構築した概念であるといわれる︒それはプ・イセンの. 絶対主義国家が憲法と議会を有する立憲君主制の段階にたち至った当時︑絶対主義的官僚制が︑君主と併存し︑市民. 階級の意思を反映する議会によって制定された法律の拘束からのがれるために打出された︒このような性格を有する. 特別権力関係理論は当然にまず管理関係理論にもちこまれ︑ついで国家と市民とが生活面において密接な関係をもつ. ところの営造物利用関係︵学校︑病院︑救貧施設︶におよぽされた︒フランス︑イギリス︑アメリカ等にはそれと同. 様のものは見ることができない︒このことは特別権力関係理論は︑当該法律関係の性質の解釈については論理必然的. なものでは決してなくむしろ当該法律関係に対するドイツ行政法学独自の解釈に基づいていることを意味する︒この.
(7) 特別権力関係理論は美濃部達吉博士がプ・イセン・ドイツのオツトー・マイヤーの行政法理論を取り入れて﹁目本行. 政法﹂を出版したことに示される如く︑明治末期に目本に直輸入された︒先述の如くこの関係は元来非法治主義的性. 格をもち︑それが天皇の任官大権を定める旧憲法︵一〇条︶下に即応するからこそ日本へ導入されたのである︒従って. 現行憲法下︑法治主義・基本的人権尊重主義の原理が採用されている以上︑この現行憲法の価値体系にてらしてみる. と︑今目この理論の主張は存在基盤を失ったものと基本的に云わねばなるまい︒従って①唯一の立法機関としての国. 会の本質的性格︵四一条︶の評価の観点からく佐々木惣一﹁日本国行政一般法論﹂V②基本的人権の保障︑確保とい. う観点からく宮沢俊義憲法n法律学全集二四六頁V憲法学のレベルでは批判的視角が一応設定されていたが︑行政法. 学では旧憲法の基本原理の廃絶の上に出発して現行憲法の原理的認識からする伝統的特別権力関係理論への反省が希 ︵3︶. 薄であった︒しかし近年特別権力関係否定論が次第に有力になりつつある︒すでに何度か指摘されたように通説的立 場にある田中最高裁判事の著者における推移にもこのことは観取されよう︒. さて特別権力関係否定論については二つの方向があるとされる︒すなわちその一つは︑現行憲法における強化され. た人権保障およびその一環たる法治主義に照して︑権ヵ行使はすべての憲法原則に従うべきで︑特殊な権力関係とは. いえ︑広汎な人権制限を行ったり︑法律の規定に基づかないというような権力行使の﹁特別性﹂を承認することはで. きない︑という立場であり︑他の一つは︑公務員関係学校管理関係などが︑はたして実質的にみて﹁権力関係﹂であ. るのかとの疑問を提出し︑そこから︑特別﹁権力関係﹂理論の基盤を検討︑批判して︑新たに﹁契約関係﹂理論なら. 七. びに﹁管理関係﹂理論を構成し︑従来のごとき包括的な一般的理論の構成を排し︑特定の関係における特殊︑具体的 ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(8) ︵4︶. ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 八. 法理を究明せんとする︑各特殊法理論の再構成による特別権力関係理論の分解を志す立場で有力なものとされてい. る︒その立場によると︑たとえば公務員の勤務関係についてみると︑権力行為は法律の規定によって公定力が明示的. に与えられた場合︵不利益処分︶にかぎられ︑当局側の他の行為は契約上の法律行為として非権力行為であり︑した がって民事の仮処分手続をはじめいかなる訴訟も可能である︒. 不利益処分が法律上行政処分と定められていることは︑当然に特別権力関係説だけにつらなるものでなく︑むしろ. ﹁労働契約関係﹂説にむすびつく︒また職務命令の公定力については①国公法九八条の上司の命令順守義務︑これに. 関しては解釈上も公定力がともなうか疑問であり︑②行政組織の一体性に関してもこれは民問でも組織の一体性は重. 要なものであり︑それが特別権力関係の根拠を示すことにはならないとされる如く︑ ﹁このように伝統的な特別権力 ︵5︶ 関係論は︑もはや︑国家公務員法を前提とする限り︑実定法上も理論上も全く認められるものではない﹂というよう. に︑現在公務員の勤務関係については︑特別権力関係とは無縁な通常の労働契約関係と同一視さるべき関係とみなさ れつつある︒. つぎにこれらの学説の影響をうけて打出された︑現業公務員に関する勤務関係の法的性質について判断を下した三 つの判決について︑その判断を要約してみよう︒. まず︑金沢南郵便局事件金沢地裁決定では︑e国公法九六条一項︑職務専念義務︑同法九六条二項︑人事院規則の. 制定︑同法一〇五条︑法律命令規則指令以外の義務を負わず︑というように一般権力関係と同様の法律の留保が妥当. し︑ ﹁このように︑国家公務員の勤務関係は国公法及び人事院規則によって全面的に規律されるのであるから︑これ.
(9) をもって法令の根拠なくして包括的支配権の行使を是認する特別権力関係と観念することは︑現行実定法に即して考. える限り最早許されないところである﹂◎﹁国家公務員の勤務関係がその目的達成に必要な範囲内での包括的支配権. である職務命令権などを不可欠とする一種の権力関係︵支配服従関係︶であることは否定しえないところであるが︑. かかる意味合での権力性は私的労働契約関係においても一般的に認められるところであって︑要するに国家公務員の. 勤務関係もその本質においては私的労働契約関係におけるのと同様従属的労働契約関係であることに基因するものに. 他ならぬ﹂︒㊤﹁私法上の労働契約関係にはみられない特殊な服務規律が要請され︑現に実定法上かかる特殊な規定. が設けられているが︑特殊規定に規律される諸側面については各規律の趣旨に照して個別的に考えれば足り︑特殊規. 定によって規律される部面のあることをもって国家公務員の勤務関係一般を直ちに公権力の発動関係と解する根拠と. はなし難い﹂︒㊥公労法四〇条︸項による国公法八六条八八条の排除︑公労法三条による労組法適用︑公労法四条に. よる団結権保障︑公労法八条による協約締結権の存在は他の国家公務員の勤務関係に比してより強く私的労働契約関. 係との同質性を法認している︒以上の理由から︑公務員労働者一般の勤務関係を私的労働契約関係としている︒. つぎに全逓神田郵便局事件東京地裁判決ではe﹁私企業においても労働者は企業内で使用者に包括的に与えられた. 指揮命令権に服して労働に従事しなければならず使用者の懲戒に服するのであって︑そこでも包括的な支配服従の関. 係は存在する︒⁝⁝現業国家公務員が本質的には私企業の労働者と同じく対等な相手方である使用者との合意に基づ. きいわゆる従属労働に従事するに至った者であることに由来するとみるべきであって⁝⁝﹁全体の奉仕者﹂として勤. 九. 務することを要請されている︵憲法一五条二項︑国公法九六条一項︑八二条三項︶ところから︑その勤務条件につい ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(10) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 一〇. て国公法等法令の規律を受ける点に特徴があるとはいえ︑本質においては私企業のそれと同質の労働契約関係に基づ. くものと理解して差支えない﹂︒◎﹁ここに勤務する現業国家公務員は︑公権力の行使と何ら関係のない経済活動に. 従事することを職務内容としているというべく︑公権力の行使と関係のない点で同じく公労法の適用をうける三公社. の職員との間に差異がない︒しかも︑三公社の職員の勤務関係は︑私企業のそれと同質の労働契約関係に基づくもの. と一般に解されている﹂︒・公労法四〇条一項による国公法八六条︑八八条の排除︑公労法八条による協約自治の是認. これらは︑私企業における労働契約関係との同質性を示す︒と判断し︑現業公務員労働者については明白に私的労働 契約関係を認める︒. ﹁広範に労働者の自治による取引行為が認められているというほかは. さらに全逓古河郵便局事件水戸地裁下妻支部判決では︑e公労法四〇条第一項︑公労法八条の規定の存在は公労法 適用をうけない職員︵非現業︶との差を示し︑. ﹁国の業務の公共的性格を保障し︑公正的性格を担保する必要上︑特に当事者の. ないから基本的には私法関係である﹂︒. ◎国公法の適用法条については︑. 取引に一定の制限を付したにすぎないとみるべきであるから︑さきにのべた労働条件等の決定を当事者の自治に委ね. た原則は︑これによりある程度の制約をうけるけれどもそれは右の限りにおいてのみであり労働関係は基本的には私 的自治の原則が支配する﹂︒. ㊤現業郵政職員の﹁職務の内容は︑国の権力作用に従事するものでなく︑経済作用に携わるものである︒業務の内. 容において企業の公共性がやや私企業よりも高いといえるほかは私企業の労働関係と何ら異なるところはない﹂︒と.
(11) 判断し︑やはり私的労働契約関係を認めている︒. さて以上に示された判例において共通する考え方は︑国公法による労働関係への多数の適用法条︑任免︑分限︑懲. 戒および保障︑服務などの規定︑およびその細目を定めた人事院規則などによる特殊な規律の存在は︑単にそれだけ. では私企業労働者と公務員労働者の勤務関係の本質を異質のものと解する理由にはならないということであり︑さら. に金沢地裁判決と東京地裁判決では︑国公法上現業︑非現業をとわず規定される職務命令権︑懲戒権について︑私企. 業労働者と同じ従属労働に服するところから生ずるものとしている︒これらは前述の特別権力関係否定論であげた後 ︵64. 者の考え方︑即ち個別的に検討︑批判をなして各領域において契約関係論︑管理関係論に再構成する理論の浸透を示. しているといえるだろう︒間題となるのは︑三つとも公労法適用を私的労働者との同一性の強調にもちだしてきてい. るが︑古河郵便局事件判決ではこれによって非現業公務員と現業公務員の勤務関係の性質を分けて考えているところ にある︒. ︵7︶. そこで︑公務員労働者が︑配転に影響を及ぼす勤務関係の側面で︑第一に実定法上︑第二に労働関係の実態上何ら の特殊性をもつかを検討してみよう︒. まず︑実定法規上の問題を考えておこう︒第一に︑国公法五五条に定める任命権者の任用が労働者の労働契約締結. 申込に対する承諾以上の法的意味をもつかである︒これを公法上の契約説と考えるのは︑本人の同意︵受諾︶にもと. づく単独行政行為という擬制があまりにそらぞらしく封建的・高権的であったからで︑任命の法律的性質は︑なるほ. 一一. ど公法上の権利関係の発生にかかわるものであるから︑公法上の法律行為としてその性格をすてさせることはできな ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(12) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. ︵8︶ いが︑その行政行為のよって立っ基礎が労働契約関係であることを否定できない︒. =一. 第二に︑勤務関係を規律する特殊な諸規定をどう考えるかである︒即ち︑勤務関係の根本基準定立︵九六条一項︶︑. 服務の宣誓の義務︵九七条︶︑法令及び上司の命令に従う義務︵九八条一項︶︑信用失墜をなさない義務︵九九条︶︑. 秘密を守る義務︵一〇〇条︶︑職務に専念する義務︵一〇一条︶︑一定の政治的行為をしない義務︵一〇二条︶︑私企. 業から隔離をする等の義務︵一〇三︑一〇四条︶︑労働基本権の制限︵一〇八条の五︑二項九八条≡二項︶がそれで. ある︒これについては︑私企業においても労働者に当然要請される諸義務との類似性︑労働基本権制限の違憲性の観. 点からの批判などの指摘により︑とくに公務員の勤務関係を私的労働契約関係と把えることを妨げるものは見出せな い︒. 第三に︑公務員関係の内容が法律・人事院規則により全部的に規制されていることにっいては︑政府が使用者であ. る関係上︑政策的にわが国においては基本的な事項についてはこれを法律によって定めるとともに︑その実施のため. に独立の行政委員会として人事院を設けて規則制定権を与え︑細部の規則の制定をこれに委任することにしたにすぎ. ず︑民間企業においても就業規則等により労働契約内容であらかじめ定められている点からみて︑契約締結のさいの. 変りはないし︑労使の自主的交渉による労働条件変更は管理運営事項を除き︑公労法適用の現業公務員には許されて. おり︑非現業の一般職国家公務員について政策的に規制されているにすぎないこのことが非現業公務員の労働契約関 係を労働契約関係ではないとする理由にはならない︒. 次に勤務関係における実態面についての検討を行なおう︒.
(13) 第一に︑判例も云う如く︑国家公務員の勤務関係がその目的達成のために必要な範囲内での包括的支配権である職. 務命令権などを不可欠とする一種の権力関係︵支配服従関係︶であることにつき︑そのような権力性は私的労働契約. 関係にも一般に認められる︒たとえば︑職務命令についてみると︑今日の社会において︑大規模集団組織が︑一定目. 的のために統一的集団作業を行なう上からは︑そこに上下指揮命令系統が必要であり︑上司が職務上必要な指揮命令. を部下に対してなすことは︑当然に承認されている︒結局国家公務員関係もその本質においては︑私的労働契約関係 におけるのと同様︑従属的労働契約関係であることに基因するものに他ならない︒. 第二に︑既に指摘しておいたように職務の内容から︑公務員労働者の勤務関係が包括的一般的に公法関係ないし公. 法的権力関係とみなされうるのか︑あるいは古河郵便局事件の判断に示された如く︑非現業の場合には︑その職務の. 公共性が高く︑公法的権力関係とされねばならないのかという問題である︒争議権に関しての︑先述した都教組事件. 東京地裁に示される考え方からすると︑少くとも労働者の労働基本権にかかわる側面においては︑単に現業非現業と. いう形式的区分をして︑非現業の方が常に公共性が高く︑従って公法上の契約関係として評価されねばならないとい. う論理は肯定されないであろう︒都教組事件判決では争議行為をなす権利と国民生活に重大な障害を与えるおそれと. 6判決ではばくぜんと示されていた の比較のため︑職務の公共性の高さ即国民生活に重大な障害を与えるという10・2. 抽象的考え方をせず︑具体的個別的に比較を要するという考え方をとっている︒従って労働者の基本的権利に影響を. 及ぼす配転などを含む公務員労働者の勤務関係を判断する場合︑明確に法律上の規定に示されて現業労働者と区分さ. 一三. れぬ限り︑公労法の適用を述べることにより現業公務員の私的労働者との同一性を強調することができたとしても︑ ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(14) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 一四. ︵9︶. それにより現業公務員を非現業公務員と勤務関係の点で区分してことさらに私的労働者からほど遠い権利の大幅に制. 限された地位にあるものとすることはできないと考える︒このさいにILO公務合同委員会で示された考え方も参考 になるであろう︒. 以上の如く︑実定法規上の特殊規制からも実態的にみた勤務関係からも︑公務員関係を包括一般的に公法関係ない. し公法的権力関係と称することはできない︒むしろ︑一般的には︑公務員関係とは﹁原則として全部的に公務員法令 ︵10︶. によって規律された特殊な労働契約関係﹂と称すればたり︑公務員関係より生じる間題は︑個別的具体的に実定法規. さる昭和四六年十月十五日東京地裁による都教組勤評闘争事件の懲戒処分取消行政訴訟の判決く判例時報六四五号Vは︑四. に照して判断すればたりるのである︒ ︵1︶. 六年八月十日の佐賀教組事件佐賀地裁判決につづいて︑四一年十月二六日全逓東京中郵最高裁判決︑さらに四四年四月二日都. 教組最高裁判決の考え方を行政罰にも適用し︑懲戒処分取り消しを言い渡した︒ここで示された考え方は最高裁判決でたてら. れた四条件︑即ちe労働基本権が勤労者の生存権に直結し︑生存権保障のための重要な手段であることから︑その制限は合理. 性の認められる必要最少限度にとどめられるべきであること︑◎制限は当該労働者の職務または業務の停廃が国民生活全体の. 利益を害し︑国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある場合に︑それをさけるため止むをえない場合に限られるべきこ. と.③制限違反に対して課せられる制裁は︑必要な限度をこえないように十分配慮がなされなければならずとくに刑事制裁は. なじまないこと︑㊧労働基本権の制限にはこれに見合う代償措置が設けられるべきこと︑のうちe㊤の考え方を更に深め︑実. 質的に地公法三七条第一項は違憲であるというところに近い考えを示している︒また︑国民生活に重大な障害をもたらすおそ. れという概念をそれだけでは抽象的なものとして︑さらに具体化する方向に向かっている︒この点につき﹁都教組行政判決と.
(15) ︵2︶. 田中二郎﹁行政法﹂三四九頁では﹁国家公務員は︑政府の任命行為に基き︑国民全体のために奉仕すべき特別の勤務関係に. 室井力﹁特別権力関係論﹂. スト権闘争 ﹂ 労 働 法 律 旬 報 七 九 六 ・ 七 号 参 照. ︵3︶. 立っ者である︒国家公務員の政府に対する関係を単純な労務給付の関係であるとしたり︑私法上の雇傭関係にある者と同一視. ﹁現行実定法に関する限り特別権力関係の観念を入れる余地は殆ど存しない﹂と改説された︒しかし︑ ﹁特別の公法上の. したりするのは誤りである﹂と説明されていたが︑昭和四四年の﹁新版行政法上全訂第二版﹂一八三頁では国家公務員法に関 し︑. ︵4︶. 室井力﹁公務員労働者への配転命令の性格と争訟間題﹂労働法律旬報七三二号. 佐藤司﹁特別権力関係と墓本的人権﹂日本の憲法判例所収. 勤務関係として特殊の法律関係﹂にあることは否定していない︒. ︵5︶. ︵6︶ 室井前掲論文はこれらの事件の鑑定書として書かれている︒宮古郵便局事件東京地裁判決でも︑配転を結論的には行政処分 ら としているが︑考え方としてはこれらの判決と同じように︑特別権力関係論を否定し︑配転に関する実定法上の規定や行為の. 橋詰助教授は次の諸点からのアプ・ーチが必要だと指摘される︒①勤務関係形成の端緒に関する問題点︑②勤務関係の経済. 性質にっき個別的に検討を加えるという立場をとっている︒ ︵7︶. 的性格に関する問題点︑③労働力の処分される対象たる業務の性格に関する問題点︑④勤務関係の細目決定における労働者の. 私的自治に関する問題点︑⑤労働基本権を制約する実定法規をいかに解釈するかに関する問題点︒橋詰洋三﹁現業公務員の労. 東城守一﹁公共労働法研究の序説﹂労働法律旬報七七四号︒. 働法上の地位﹂判例タイムスニ六三号 ︵8︶. 一九七一年三月二二日四月二日ジュネーブで開かれたILO公務合同委員会↓ぼ霊嵩貯冒ゆ葺Oo巳ヨ三8象℃ζ三言ω①︐. 一五. ︵9︶. ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(16) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. コハ. 署帥具では一九四九年の団結権および団体交渉権に関する条約︵第九八号︶について﹁この条約の適用除外を受ける者は国の. 行政に直接責任を負う地位にある公務員だけで︑全部の公務員ではない﹂ ︵全逓﹁I﹂0第一回公務員合同委員会報告書五四. 頁﹂︶﹁公務員はただその地位を職務の性質から生じる責務に違反しない限り他の市民と同様な市民的および政治的権利を亨受 する︵﹁決議﹂訳室井︑法律時報七一年十月号三八頁︶. 公務員労働者に対する配転命令の効力. ︵10︶ 室井︑前掲論文四頁. 口. つぎに配転命令は国公法上特殊な規定に基づいてなされるものであるかが検討されねばならない︒即ち一般職職員. たる国家公務員に対する行為は︑国公法八九条一項に明文で定められる特定不利益処分を除いて︑一般に公権力の行. 使たる行政行為ではなく︑法令によって規律をうける特殊の労働契約関係に基づく非権力的行為であるとしても︑こ. れらの行為は︑公務員関係の特殊性の故に︑国公法上その行為権限者︑要件︑手続などについて︑さまざまな法的規. 律に服しているからである︒第一に配転命令が︑国公法八九条の処分とみなされるかどうかであるが︑処分事由説明. 書を交付してなされることもないし︑積極的に配転がこれに該当する旨の規定も存在していないところから︑本来︑. 国公法八九条一項の処分として公権力の行使たる行訴法上の﹁行政庁の処分﹂と予定されていないと老︑えられる︒さ. らに︑配置換についての規定が︑国公法三五条︑および人事院規則八ー一二第六条などに存在するが︑これは欠員補. 充の方法として採用︑昇任︑降任または転任とならんで規定されているのであって︑公権力の行使たる行政行為であ.
(17) るとする規定とは考えられない︒この点について宮古郵便局事件東京地裁判決では︑人事院規則八−一二の第六条が. 欠員補充の方法として規定されていることをもって配置換一般の根拠規定の一つとしてとらえているけれども︑行政 庁の処分たる性格をうるには明示の規定が必要でありかかる拡大解釈は許されない︒. したがって︑配転命令について︑行政処分性を付与せしめる明示的な規定が存在しないので︑一般労働契約法の法. 理によってこれを解することになる︒そうであるとすれば民間労働者の配転をめぐって展開されてきた法理が︑公務 員労働者の配転命令についても妥当することになるといえるであろう︒. そこで民間における労働者の配転に関する諸判例をみるとつぎのように概括できる︒①労働協約に違反する配転. ︵現業の公務員の場合︶は無効であることはいうまでもなく︑労働契約上明示ないし黙示の合意によりもしくは慣行. など諸般の事情を総合的に判断して職務の内容︑勤務場所︑労働条件などが労働契約内容として特定されていると考. えられる場合︑それらの変更をもたらすような配転は︑本人の同意が必要であり︑もし本人の同意をうることができ. なければ労働契約に違反するとして無効な配転とされている︒ところで古河事件判決は﹁労働契約の特殊性を考慮し. て使用者が労働者に対し︑企業の業務上の必要性により︑労働条件の変更を申し入れた場合においてその申し入れの. 内容が客観的に公正であり且つ企業の業務上の必要性の度合が比較的高く︑これに反し労働条件の変更によって受け. る労働者の不利益の度合が比較的軽微である場合には︑労働者は右の申し入れに応ずべきことを要請されると考えら. れるのであって︑使用者が労働者に対してその必要性を示した右の如き労働条件変更の同意を求める申し入れをなし. 一七. たにもかかわらず︑労働者が合理的理由もなく恣意的にこれを承諾しないときは︑承諾権の濫用として使用者が申し ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(18) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 一八. 入れた内容に従った労働契約が新たに締結されたものとみなすことができると考えるのが相当である﹂という新しい ︵1︶. 考え方を示した︒これを契約の断絶の危険を防ごうとしている点から﹁柔軟な構成﹂であり妥当な判示であると評価. する立揚もあるが︑契約は両当事者の意思の合致を以って成立するもので承諾拒否権の濫用を入れることはできな. い︒ただ契約変更に応じない労働者に対する契約解消が使用者の権利濫用にあたるか否かの判断資料として問題とな. るだけである︒﹁本判決は︑使用者の権利濫用の存否にかかわる転勤命令の効力の認定の問題と︑労働契約の効力に ︵2︶. かかわる転勤命令の効力の認定の間題とを安易に混同した﹂ものという批判は正当である︒②さらに使用者がその裁. 量においてなし得ると考えられる配転についても人事権の濫用として無効とされる場合がある︒すなわち︑あらかじ. め労働契約によって包括的に合意がなされたものとして人事権に自由裁量が与えられていると考えられる場合であっ. ても︑配転をうける労働者が経済上︑生活上︑精神上︑組合活動上など不利益な取扱いをうける場合人事権濫用とし. て無効とされ︑また労働者の意思を全く無視した︸方的配転は信義則に反するものとして無効とされ︑さらに︑業務. 上の必要性が十分認められない配転はそれ自体としてやはり人事権濫用とみなされる︒以上のような法理は︑公務員. の配転命令の効力を判断する場合においても︑特に適用を阻止する明示の規定がない以上︑原則として適用されなけ. 保原喜志夫﹁現業公務員の勤務関係を争う場合の訴訟形式﹂判例時報六三四号. ればならない︒ ︵1︶. ︵2︶ 橋詰洋三﹁現業公務員の労働法上の地位﹂判例タイムスニ六三号︒.
(19) 三. 配転命令に対する争訟問題. すでに明らかにされたように︑公務員労働者に対する配転命令は国公法八九条一項の特定不利益処分に本来予定さ. れているものではないし︑公権力の行使たる行政庁の処分とみなすその他の明示の規定もないので︑これに対する争. 訟手続としては民事訴訟法の適用が当然認められることになる︒したがって︑行政処分と判断された場合の如く︑審. 査請求前置主義︵国公法九〇条︶︑出訴期限の制限︵行政事件訴訟法一四条︶︑仮処分の適用排除︵同法四四条︶︑行. 政処分執行不停止原則︵行政不服審査法三四条︶などの枠をはめられることはない︒しかし︑このことを前提とした うえで︑若干の争訟方法をめぐる問題を考えてみたい︒. 第一は︑もし配転命令をうけた公務員労働者が︑このような枠による不利を承知でこれを不利益処分とみなし︑国. 公法九〇条一項にもとづき人事院に対して不服申立をおこない︑さらに抗告訴訟を提起することができるかという問 題である︒. まず問題となるのは︑国公法八九条に予定されている処分に配転命令があたらないと論じたことと︑国公法九〇条. 一項の趣旨とが矛盾するのではないかということである︒これについてはつぎの如く考える︒公権力の行使としての. 行政処分といえるためには実定法上の明確な規定を要するが︑国公法八九条の処分は公権力の行使としての行政処分. 一九. ではない処分も含むのであり︑従って行政処分ではない配転命令に対して︑国公法八九条のルートにより不服申立を ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(20) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 二〇. おこない抗告訴訟をなした場合﹁処分﹂性が付加されるにすぎない︒こうしたからといって︑被﹁処分﹂者が民訴制 ︵1︶. 度等を利用することを阻止する意味における公定力をおのずから内在するものとして当該不利益処分をみることには. ならない︒つぎに国公法九〇条の定める審査請求前置主義の目的からみてゆくと︑公務員の受けた不利益処分の救済. については︑まず行政機関内部における迅速な解決が望ましく︑かつそれが被処分者の権利・利益確保にも近道であ. ることから設けられたものであり︑これとの関連で行政事件訴訟法上の取消訴訟制度による救済が予定されている︒. そこで︑公務員がさまざまな特殊規制をうけることから一般の民問労働者よりも厚い権利救済をはかる必要上設置さ. れた趣旨と考えあわせると︑この点からも︑選択は当該労働者にまかせ︑行政処分性をもたぬ場合でも︑抗告訴訟ル ︵2︶ ートにのせることのできるよう考えてゆくべきであろう︒. 第二は︑当然配転命令が不当労働行為としてなされた場合︑われわれの見解では︑民事訴訟上の問題として不当労. 働行為を理由に当該配転命令の効力を争うことができることになる︒しかし︑第︼で検討したごとく抗告訴訟でも争. いうるとした場合︑不当労働行為を理由の一つとして主張することが許されるかという問題である︒これに関連し︑. 事案は懲戒処分ではあるが︑神田郵便局事件判決では︑国公法九〇条ないし九二条の規定は︑処分事由の不存在ない. し裁量権の逸脱を違法事由とする限りこれを﹁処分﹂として抗告訴訟の形式によって争わせようとしていたものと解. し︑公労法第四〇条第三項の規定が不当労働行為該当を理由として懲戒免職等の効力を争う場合について人事院の不. 利益処分審査制度の適用を除外したことは不当労働行為を理由として抗告訴訟で争うことはできないことを明らかに. したものと判断している︒しかし︑東京空港郵便局事件東京地裁昭和四五年三月九日判決︵判例時報五九八号︶では.
(21) これと反対の考え方がとられている︒即ち﹁懲戒処分を受けた現業の国家公務員が右処分をもって不当労働行為に該. 当するとする場合には︑行政不服審査法による不服申立︵人事院に対する審査請求または異議申立︶をすることはで. きず︵公労法四〇条三項︶︑公労委に救済の申立をし︵公労法三条︑一五条の五︶公労委の命令に不服があるときは. 直接公労委を被告として当該命令の取消しを求める抗告訴訟を提起できることは被告主張のとおりであるけれども︑. 行政処分取消しの訴えは︑当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する限りこれを提起できるのが原則で. あり︑行政委員会としての公労委における原状回復命令による救済の方法が与えられているからといって︑不当労働. 行為を処分の違法事由として当該懲戒処分の取消しを求める抗告訴訟を提起することが許されないとする法律上の根. 拠はなく︑このことは︑一般私企業の労使間における不当労働行為について労働委員会に対する救済申立とならんで. 民事訴訟を提起し得ることと理を異にするものではない﹂と述べている︒長野地裁昭和四四年一〇月六日判決︿行政. 例集二〇巻一〇号﹀も停職の懲戒処分につき不当労働行為を理由として処分取消の訴をおこしうるとするが︑人事院. に対する訴願前置が必要であるとのべる︒しかしこれについては公労法四〇条三項の規定を無視するものである︒公. 労法四〇条三項の規定は︑不当労働行為に該当する処分については︑審査請求をなしえない旨を定めているのであ. り︑それは︑三公社五現業職員につき不当労働行為救済の専門行政機関として公労委を設け︑不当労働行為に関する. 行政救済の最終的機関たらしめることとされているので︑人事院等他の行政機関による行政救済を認める必要がない. からである︒京都貯金局事件東京地裁昭和四六年七月二〇日判決く労働判例一三二号Vでは︑公労委に対する救済申. 二一. 立の方法があるからといって不当労働行為にあたる懲戒処分の取消を求める抗告訴訟を提起できると述べ︑公労法四 ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
(22) ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂. 二二. 〇条三項の規定により免職処分について不当労働行為を不服の事由として人事院に対し審査請求をすることは許され. ていないので︑かえって不当労働行為を処分の取消事由として取消訴訟を提起する場合︑直ちに裁判所に出訴しうる. と判断しているが正当な判断と考える︒つぎに神田郵便局事件の第二の判断である︑不当労働行為を主張する場合に. も抗告訴訟によりうべきであるとした場合に生ずる難点としてあげられた点につき考えておこう︒即ち一個の訴訟物. 中の違法事由にすぎない﹁処分事由の不存在又は裁量権の逸脱﹂と﹁不当労働行為該当﹂の主張につき︑前者が裁定. 前置の枠をうけることから︑それぞれを理由とする取消訴訟の提起可能時期が異なることになり︑ワー︑の結果︑被処分. 者に不利益が種々生じる場合があること︵主張事由の一方につき審級の利益喪失︑二重起訴禁止原則の適用︑既判力. による遮断をうける場合があるなど︶︑取消訴訟における﹁処分﹂の違法性判断の基準時が主張事由によって異なる不. 都合も生じうること︑このような結果をさけようとして主張事由の違いにより手続法的観点から訴訟物を異にすると. 考える点についてである︒被処分者に不利益が種々生じることについては︑民事訴訟で争うことが可能であるのに︑. あえて自ら選択したことで止むをえないというべきであるし︑違法性判断の基準時に相違が生じることにっいては︑ ︵3︶ 単なる訴訟物の審理が併合されているものとみなしうるであろう︒. 第三は︑不当労働行為を処分事由として抗告訴訟を提起した場合︑不当労働行為が認められれば︑さきに一公労法四. 〇条三項の解釈を示した如く︑訴願前置を経ないで︑直ちに裁判所へ出訴しうるけれども︑不当労働行為が認められ. ない場合にも人事院に審査請求することなく公労委に不当労働行為救済申立をしていた場合は︑同救済申立を以って. 前置すべき審査請求に代替するものとみなすべきかという問題である︒人事院への審査請求と公労委への救済申立は.
(23) 各々その立証事由を異にし︑実定法上もこれを異つた救済制度として扱っていることは明らかであるが︑被処分者に. ︵4︶. とつては︑処分に実効性を持たせないための救済制度であることにおいては異なるところなく審査請求前置主義が︑. 本来9ての立法目的である公務員の権利利益の簡易迅速な救済の実をあげえていない現状では︑代替が許されると解. 釈すべきではなかろうか︒さらに代替しうるかどうかとは別に︑却下された場合︑救済の道がとざされてしまうこと. ﹁たまたま救済の便宜をはかるため. から︑行政事件訴訟法八条二項三号の正当な理由の存在として︑訴願前置を経ないでも抗告訴訟が提起しうると解釈. 原田尚彦﹁抗告訴訟の対象について﹂判例タイムズニ六三号六頁では次の如く述べる︒. できよう︒. ︵1︶. に行政行為以外の行政庁の行為が抗告訴訟の対象とされたとしても︑そのことによって本来公定力や不可争力をもたなかった. ︵本来公定力をともなった︶行政行為に対する救済は︑抗告訴訟. 告訴訟の対象にされたとしても︑それとは別途に︑本来の姿において︑通常の民事訴訟等の先決問題として︑その違法即無効. 行為が突然公定力などをともなうことにならないと解すべぎである︒したがって︑本来公定力のない行政の行為は︑たとえ抗. を主張しうべき性質が失なわれるものではない︒それゆえ︑. を唯一排他的な訴訟形式とせざるをえないが︑行政行為以外の行為はたとえ抗告訴訟の対象にされることはあっても︑抗告訴. ︵2︶. 橋詰洋三﹁現業公務員の労働法上の地位﹂判例タイムスニ六三号三八頁. 室井力﹁特別権力関係論﹂三九七頁. 訟をもって排他的な訴訟形式とみる要はない﹂. ︵3︶. 訴願前置主義の違憲性について︑宮島尚史﹁労働法学からみた行政処分の問題点﹂法律のひろば二三巻一二号︑田村和之. ﹁公務員労働事件と行政処分執行停止﹂法学雑誌一六巻二・三・四号. 二三. ︵4︶. ﹁公務員労働者に対する配転命令の法的性質と争訟問題﹂.
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