論文題目「世紀転換期のロシアにおける「個」の表象
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(2) シアでは女性性は魂としての自然や宇宙的生命力と同一化されることが多い点から、ヴル ーベリの両性具有のデーモン像が「父親的なもの」を否定することによって共同体社会の ユートピアを実現しようとした、この時代のロシアの欲望を反映している、と指摘する。 本論文に対して、審査委員会において主として三つの点が指摘された。それは第一に、 ロマン主義以前のロシア美術、とくに東方正教会のイコンとヴルーベリとの関わりに触れ られてはいるが、このテーマは、より精密に扱われるべきであること。第二に、ヴルーベ リ以後の美術史について、ヴルーベリの影響を強く受けた「芸術世界」誌の人々、また20 世紀美術との関わりについて視野を深めるべきであること。第三に、使用する術語の概念 規定をさらに厳密なものとし、より高次の、自己固有の統合概念を獲得するべきこと、で ある。これらが今後、上野氏の課題であると指摘された。 最終的に本論文については以下の諸点が高く評価された。第一点として、ヴルーベリを ここまで詳しく研究したものは日本にはこれまで存在せず、本論文は間違いなくロシア美 術研究、世紀転換期の文化研究の領域において参照される、必須の基本的文献となるであ ろうこと。第二点として、画家ヴルーベリの美術的研究を中心としつつ、それと同じほど の深さをもって文学研究を導入しており、これによって世紀転換期の文化全体に視野を広 げ、その時代のテーマを「個」の表象とその変容という問題設定で有機的に解読し得たこ と。第三点として、ロシア文化研究は1980年代から読み替えが進行中であるが、本論文は そうした最新の論点をよく踏まえ、これを自己の論の構成に生かしていること。第四点と して、本論文は「西欧とロシア」という大きな問題に触れ、これをセクシュアリティとい う視点から読み直そうとしており、今後展開されるべき問題を含んでいること。最後に、 文学研究中心の学会の中で美術研究を強く推し進める果敢なパイオニア的姿勢を持つ上野 氏は、今後この分野で多大の貢献をすると期待されること。これらが確認された。 よって、本論文は、博士(文学)早稲田大学の学位を授与するに価するものと判断する。 2004年1月10日 主任審査委員. 早稲田大学教授. 井桁貞義. 早稲田大学教授. 丹尾安典. 早稲田大学教授. 大石雅彦.
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