【要 旨】
本稿の目的は、主として米国における連結会計に関するルールの変遷および主要な先行研 究を分析することをつうじて、連結上のエンティティーを画定するための考え方を明らかに することである。現在の国際的な会計基準における連結上のエンティティーの画定基準は、
支配企業モデルに基づいているといわれるが、このような支配従属関係に着目するアプロー チは必然なものとはいえない。本稿では、1934 年における米国における連結財務諸表制度 の法制化から現在に至るまで、それぞれの時代・論者による支配の定義の相違は認められる ものの、歴史上も一貫して支配概念に依存して連結上のエンティティーの範囲が画定されて きたことを明らかにしている。
1.はじめに─問題の所在
支配(control)の概念は、会計基準における様々な場面で用いられている。例えば、国 際会計基準委員会(International Accounting Standards Board: IASB)の概念フレームワー クは、資産を「過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業 に流入すると期待される資源」(4.4 項)と定義している。また、国際財務報告基準(Inter- national Financial Reporting Standards: IFRS)第 10 号「連結財務諸表」は、他の企業(子 会社)を支配している企業(親会社)に連結財務諸表の作成を要求している(2 項)。この ように、国際会計基準では、会計上の認識対象となる資産の範囲や企業集団の範囲が支配概 念に依存して画定されている。そのため、支配概念は現代会計の基礎にある鍵概念の 1 つと いってよいであろう(1)。
今日の制度会計においては、投資企業と被投資企業の支配従属関係に着目して連結財務諸 表の作成が要求されている。換言すれば、支配概念に依存して連結会計上のエンティ ティー(2)の境界が画定されているといえる。しかしながら、このようなエンティティーの 範囲の画定基準は、社会学の文脈でいえば、塩原(1981, 4)が指摘するように、「集団を集 団たらしめる本質は何か、といった厄介で退屈な問題」であり、「古典的集団論が悪戦苦闘 してきた設問」である。別個の法人格を有する複数の企業を一つのグループとみなすための
連結会計におけるエンティティーの境界と支配概念
吉野 真治
画定基準については、後述するように複数の選択肢を想定しうる。したがって、連結上のエ ンティティーの範囲を画定するために支配概念を用いることは、必ずしも自明なものとはい えない。
また、仮に支配概念が連結上のエンティティーを画定するために適切な基準といいうる場 合であっても、そこにおける支配の定義によって、連結上のエンティティーの範囲が異なる ことになる。例えば、IFRS 第 10 号は、連結上のエンティティーを画定する際に用いられ る支配の定義について、「投資者は、投資先への関与により生じる変動リターンに対するエ クスポージャー又は権利を有し、かつ、投資先に対するパワーにより当該リターンに影響を 及ぼす能力を有している場合には、投資先を支配している」(6 項)としている。そこでは、
投資先に対するパワーとそこから生み出されるリターンの帰属によって支配の有無が判定さ れることになるが、連結上のエンティティーを画定する際に用いられる支配の定義を巡って は、先行研究および会計基準の設定・改正の局面において、歴史的にも様々な見解が併存し てきた。
本稿の目的は、主として米国における連結会計に関するルールの変遷および主要な先行研 究を分析することをつうじて、連結上のエンティティーを画定するための考え方を明らかに することである。
2.支配企業モデルとリスク・経済価値モデル
米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board: FASB)と IASB が概 念フレームワークに関する共同プロジェクトの成果として 2008 年に公表している討議資料
「財務報告のための概念フレームワーク : 報告企業」(以下、「2008 年討議資料」とする。)は、
エンティティーの範囲を画定するための考え方が整理・検討されている。そこで、本節では、
2008 年討議資料を参照しつつ、支配企業モデル(controlling entity model)およびリスク・
経済価値モデル(risk and rewards model)の考え方を明らかにする(3)。
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(1) 支配概念は、これ以外の場面においても、広く用いられている。例えば、金融資産の条件付譲渡におけ る財務構成要素アプローチは、財務構成要素に対する支配が移転した場合に、当該構成要素の消滅を認 識する考え方である。また、企業結合会計においては、他の企業に対する支配を獲得した場合の会計処 理方法として、取得法(パーチェス法)が用いられている。なお、川本(2002, 73)で指摘されている ように、「支配は使われる場面に応じて、その意義を変える可能性がある」が、本稿では連結上のエン ティティーの範囲を画定するための支配概念を分析対象とすることとし、会計基準全体の体系における 支配概念の整合性については検討しない。
(2) ここでいうエンティティーは、新井(1981, 209)で指摘されているように、複数の企業を一つの企業 集団とみなす場合の会計単位を意味するものであり、特定の会計主体論と関連づけるものではない。
2.1 支配企業モデル
2008 年討議資料は、支配企業モデルによると、事業活動の領域は他の企業に対するある 企業の支配の範囲によって境界線が描かれ、あるグループ報告企業は支配企業と支配下にあ る他の企業によって構成されるとしている(64 項)。2008 年討議資料におけるこのような 説明に基づくと、支配企業モデルは、複数の企業の間で支配従属関係が存在する場合に、そ れらの企業を一つのエンティティーとみなす考え方と定義することができる。
支配企業モデルを採用している会計基準としては、IFRS 第 10 号を挙げることができる。
IFRS 第 10 号は、「支配を連結の唯一の基礎とすべき」と指摘したうえで、「投資者が、投 資先のリターンに重要な影響を及ぼす投資先の活動を指図するパワーを有していて、そのパ ワーを使用することで便益を得られる場合には、投資先を連結し、投資先の資産、負債、資 本、収益、費用及びキャッシュフローを連結財務諸表に表示すべきである。」(BC31 項)と している。そこでは、投資企業と投資先企業の間で支配従属関係が存在する場合に、投資企 業を親会社、投資先企業を子会社とみなし、連結上の単一のエンティティーを擬制する。
また、支配企業モデルには様々なバリエーションを想定しうる。それは、前述のように支 配企業モデルに基づくエンティティーの範囲は、支配の定義によって異なるからである。例 えば、わが国におけるグループ法人税制や連結納税制度のように、ある会社の発行済株式総 数のすべてを所有している(完全支配関係が存在する)ことをもって、2 つの企業を経済的 に一体のものとみなすこともできる。このような完全支配関係に基づきエンティティーの範 囲を画定するアプローチについても、支配企業モデルの一形態といってよいであろう。
一方で、伝統的に連結の範囲に関する問題として支配力基準と対比する形で議論されてき た、他の企業の議決権付株式の過半数所有に着目して子会社に該当するか否かを判定する持 株基準については、これが支配企業モデルの適用といえるか否かについては、議論の余地が ある。また、1990 年代における FASB の連結プロジェクトにおいては、投資先企業の意思 決定機関ではなく、投資先企業の資産を対象として支配概念を定義しているが、これが支配 企業モデルとどのような関係にあるのかについても、問題となりうる。このような論点につ いては、次節以降において詳細に検討を行う。
2.2 リスク・経済価値モデル
2008 年討議資料は、リスク・経済価値モデルでは、ある企業の活動が他の企業の残余株 主(または、残余債権者)の富に影響を及ぼす場合、2 つの企業は 1 つのグループ報告企業 に結合しなければならないとしている(97 項)。2008 年討議資料におけるこのような説明
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(3) なお、2008 年討議資料において示されている共通支配モデル(common controlling model)については、
結合財務諸表(combined financial statements)に関するアプローチであるため、本稿では検討しない。
に基づくと、リスク・経済価値モデルは、複数の企業の間でリスクと経済価値の帰属関係が ある場合に、それらの企業を一つのエンティティーとみなす考え方と定義することができる。
リスク・経済価値モデルを採用していた会計基準としては、IFRS 第 10 号が適用される まで特別目的事業体(special purpose entity: SPE)の連結の要否を規定していた解釈指針 委員会(Standing Interpretations Committee: SIC)解釈指針書第 12 号「連結−特別目的事 業体」を挙げることができる。SIC 解釈指針書第 12 号は、企業が SPE を支配し、当該 SPE を連結しなければならない関係を示している可能性がある状況として、以下の 4 つの 状況を示していた(10 項)。
① 実質的に、SPE の事業活動が企業の特定の事業上の必要にしたがって企業のために 行われ、それにより企業は SPE の事業運営から便益を得ている。
② 実質的に、企業は SPE の事業活動の便益の大半を獲得するための意思決定の権限を 保有し、または自動操縦の仕組みを設定することによって企業はこの意思決定の権限を 委託している。
③ 実質的に、企業は SPE の便益の大半を獲得する権利をもつゆえに SPE の事業活動 に伴うリスクに晒されている。
④ 実質的に、企業は SPE の事業活動からの便益を得るために、SPE 又はその資産に関 連した残余価額又は所有者リスクの大半を負っている。
このような 4 つの状況に基づくと、SPE の活動を指示するための企業のパワーを問題と するのではなく、SPE の事業活動から生じるリスクや便益に着目して連結の要否を判定す ることになる。そのため、IFRS 第 10 号 BC3 項でも指摘されているように、SIC 解釈指針 書第 12 号は、リスクと経済価値の帰属の有無によってエンティティーの範囲を画定するリ スク・経済価値モデルに基づいているといえる。
リスク・経済価値モデルにおいても、支配企業モデルと同様に、リスクと経済価値の帰属 の程度や内容によって、連結上のエンティティーの範囲が異なることになる。例えば、
2008 年討議資料で指摘されているように、リスク・経済価値モデルのもとでは、金融機関 に貸付先のリスクと経済価値が帰属していることに着目して、両者が一体となって連結上の エンティティーを構成しているとみることもできる(99 項)。また、リスクと経済価値の定 量的な閾値によっては、例えば、債務保証を行っている場合の保証先や、継続的な取引関係 にある場合の取引先もエンティティーの範囲に含まれる余地があるといえる。
2.3 支配企業モデルとリスク・経済価値モデルの関係
支配企業モデルとリスク・経済価値モデルの関係については、2 つの解釈が存在しうる。
1 つは、支配企業モデルとリスク・経済価値モデルの相違を重視して、両者を異なるエンティ ティーの画定基準とみる解釈である。もう 1 つは、リスク・経済価値モデルを支配企業モデ ルの一形態とみる解釈である。
まずは、リスク・経済価値モデルと支配企業モデルを別個のモデルとみなす見解から整理 してみよう。2008 年討議資料は、支配企業モデルとリスク・経済価値モデルは共通する側 面を有しているものの、他の企業へのパワーの考慮の有無、およびリスクと経済価値の種類 という観点から、両者の相違を指摘している(103 項)。
まず、支配企業モデルでは、投資企業が他の企業の経営方針を左右する能力を有すること が単一のエンティティーを構成するための必要条件とされているが、リスク・経済価値モデ ルでは、そのような能力の有無が問題とされない。すなわち、支配企業モデルとリスク・経 済価値モデルには、連結上のエンティティーの範囲の判定にあたり、他の企業へのパワーの 有無を考慮するか否かの違いがある。したがって、支配企業モデルによると連結されない企 業が、リスク・経済価値モデルによると連結されることがあり得ることになる。
また、リスク・経済価値モデルは、残余持分または所有持分から生じるリスクと経済価値 のような特定の種類のリスクと経済価値へ焦点をあてることを要求する。リスク・経済価値 モデルにおけるリスク・経済価値と支配企業モデルにおけるリターンは、基本的に同様の概 念であると考えられるが(4)、支配企業モデルの場合には、他の企業から獲得されるリター ンの内容を広く捉えるのに対して、リスク・経済価値モデルの場合には、持分から生じるリ ターンに限定される。したがって、支配企業モデルによると連結される企業が、リスク・経 済価値モデルによると連結されないことがあり得ることになる。
図表 1 支配企業モデルとリスク・経済価値モデルの相違点
支配企業モデル リスク・経済価値モデル
パワーの考慮 あり なし
リターンの種類 限定なし 持分から生じるリスク・経済価値
支配企業モデルとリスク・経済価値モデルのこのような相違を重視する場合には、支配企 業モデルとリスク・経済価値モデルは、別個のエンティティーの画定基準として位置づける ことになる。
一方、リスク・経済価値モデルは、複数の企業の間の支配従属関係の存在を推定するため の手段に過ぎないと解釈することもできる。2008 年討議資料では、リスク・経済価値モデ ルの背後には、便益の大半を獲得し、またはリスクの大半が帰属する企業が主導権を握って
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(4) 川西(2010、56)では、支配の定義における便益は、正となることも負となることもあることから、
大まかに「リスクと経済価値」と表現することもできると指摘されている。
いる可能性が高いという前提がおかれていることから、リスク・経済価値モデルは、支配企 業モデルと必ずしも矛盾しないとされている(79 項)。このような考え方のもとでは、リス クと経済価値の帰属という事実に着目することによって、投資企業によるパワーの存在を推 定することになる。そして、IFRS 第 10 号のように、投資先に対するパワーとそこから生 み出されるリターンの帰属という 2 つの条件によって支配関係の有無を判定する考え方を前 提とすると、このようなリスクと経済価値の帰属によってパワーの存在を推定し、もって支 配関係の存在を認定するわけである。特に、パワーの行使が制限される SPE のような客観 的な支配従属関係の有無の判定が困難なケースにおいては、このような考え方を用いること によって、支配企業モデルの短所を補完しているとみることができる。そこでは、リスクと 経済価値の帰属は、議決権の保有割合等と同様に支配の指標として位置づけられる。
図表 2 リスクと経済価値に着目したパワーの推定
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このようにリスク・経済価値モデルの位置づけについては、支配企業モデルとは異なる別 個のエンティティーの画定基準とみる解釈と支配企業モデルの一形態とみる解釈が存在しう る。このような 2 つの解釈を念頭におきつつ、次節では、米国における連結上のエンティ ティーの画定基準を分析する。
3.米国における連結上のエンティティーの画定基準の分析
前節で示したように、連結上のエンティティーの画定基準については、複数のアプローチ を想定しうるが、現在の連結会計に関する会計基準においては、基本的に支配企業モデルが 採用されているといわれる。ここで問題となるのは、このような支配企業モデルが連結会計 におけるエンティティーの画定基準として、歴史的な普遍性が認められるかである。そこで、
本節では、米国における連結会計に関する歴史的な議論を参照しつつ、連結上のエンティ ティーの画定基準を検討する。
3.1 連結財務諸表の法制化
武田(1977, 25)、平松(1995, 10)は、米国における連結財務諸表に関する規定の起源は、
1934 年に公表された証券取引所法(Securities Exchange Act)まで遡ることができるとし ている(5)。また、1930 年代の連結会計に関する先行研究として、1938 年に公表された Sanders、Hatfield および Moore による『SHM 会計原則』および Kohler(1938)がある。
そこで、以下では、証券取引所法、『SHM 会計原則』および Kohler(1938)における連結 上のエンティティーの画定基準に関する考え方を分析する。
まず、証券取引所法 13 条において、証券取引委員会(Securities and Exchange Commis- sion: SEC)は、あらゆる者(person)の個別財務諸表または連結財務諸表の様式および記 載内容を規定することができるとされ、連結財務諸表の前提として発行者による直接的また は間接的な支配を挙げている。このように、証券取引所法では、具体的な連結の条件や支配 の定義について明示されていないものの、投資会社と被投資会社の支配従属関係の存在に言 及している。
次に、『SHM 会計原則』は、統一的な支配のもとにある関係会社という経営組織の発展に よって、企業集団全体の状況を把握するという必要性が生じ、連結貸借対照表および連結損 益計算書は、この必要性を充たすために考案され、実務上、統一的な所有や支配の関係にあ る全ての場合において、実務上有用かつ必要なものであるとしている(第Ⅳ部Ⅰ)。そして、
『SHM 会計原則』は、連結財務諸表は、持株会社が関係会社における支配持分(controlling interest)を所有する場合にのみ利用され、この支配持分に関する一般的な解釈および SEC によって認められている規則は 50%を超える議決権のある株式が所有されなければならな いとしつつ、50%以下の所有で支配は可能であろうと指摘している(第Ⅳ部Ⅱ)。このよう な「統一的な支配」に基づく企業集団の考え方および支配概念に基づく連結の条件に関する 説明からは、『SHM 会計原則』は、連結上のエンティティーの画定基準として支配企業モデ ルに基づいているといえる。
最後に、Kohler(1938, 64)は、親会社を支配している企業、子会社を支配されている企 業と定義したうえで、連結財務諸表の作成の前提として支配関係の存在を挙げている。
Kohler(1938, 64)において、支配とは、少なくとも取締役会の過半数(majority)を選任 するために、実際に行使されるパワーを意味しているとされ、支配は、通常、直接的支配で あり、子会社の発行済議決権株式の過半数所有によって証拠づけられるが、議決権の半数以 下しか所有しない場合でも、株主総会を間接的に支配(6)する場合もあるとされている。そ のため、Kohler(1938)が想定している支配は、被投資会社の取締役会に対するパワーで
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(5) なお、米国における連結財務諸表の法制化以前の状況については、山地(2000, 3-30)を参照。
(6) Kohler(1938, 64)は、間接的支配として、①その他の株主から委任状(proxies)を獲得するための 能力、②出席または委任状をつうじて会議に参加する株主の無活動、③子会社、取締役、役員、従業員、
名義人、または劣後持分を有するその他の者による議決権株式の所有、④株式の議決権の必要なしで、
企業資産の事実上の所有権を生み出す企業とのリースまたはその他の契約の占有を挙げている。
あり、株主総会の議決権の過半数所有をそのようなパワーを行使するための手段とみている 点に特徴を見出すことができる。
このような取締役会に対する支配を重視する考え方は、Barle and Means(1932)におけ る所有と支配の分離を前提とした経営者支配の考え方にもつうじる。Barle and Means
(1932, 69-70, 邦訳 88-89)は、「支配は、取締役会を選出する法律的権限を動員する(つまり、
直接に、または、ある法律的手段方法によって、議決権の過半数を制御する)ことか、また は、あるいは、取締役会全員の選出を左右する圧力を働かすか、によって、取締役会(また は過半数の取締役)を選出する実際的権限を持った個人、または、集団の掌中に存すると言 い得る。」としている。つまり、株主による経営への関与が減少し、経営者支配が成立して いるのであれば、投資先企業に対する支配の有無を決定するのは、当該企業の取締役会の支 配ということになる(7)。
このような解釈を前提とすると、Kohler(1938)は、被投資企業の取締役会に対する投 資企業のパワーに着目して、被投資企業に対する支配の有無を判定しているといえる。した がって、このようなアプローチも支配企業モデルに基づいているといえる。
以上より、米国において連結財務諸表が法制化された 1930 年代における法令および連結 会計に関する先行研究を観察してみると、いずれも連結財務諸表の作成の前提として支配関 係の存在を挙げている。したがって、当時の連結上のエンティティーの画定基準としては、
支配企業モデルが支持されていたといえる。
3.2 連結財務諸表に関する会計基準の設定
1959 年に米国公認会計士協会(American Institute of Certified Public Accountants:
AICPA)の会計手続委員会(Committee on Accounting Procedure: CAP)は、連結財務諸 表に関する会計基準として、会計研究公報(Accounting Research Bulletins: ARB)第 51 号
「連結財務諸表」を公表している。また、ARB 第 51 号の公表に先立ち、アメリカ会計学会
(American Accounting Association: AAA)の概念および基準に関する委員会は、1954 年に サプリメンタリー・ステートメント(Supplementary Statement: SS)第 7 号「連結財務諸表」
を公表している(8)。さらに、1950 年代の連結会計に関する主要な先行研究として、Moonitz
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(7) ただし、江頭(2013, 3-4)が、今日の米英では、大口株主(機関投資家)のアクティビズムが経営者 支配の動きを掣肘するに至っていることから、経営者が株主をコントロールできるという「経営者支配」
(management control)の語は、死語となっていると指摘しているように、現実社会においては、株主 は取締役を支配している状態にあるといえる。いうまでもなく会社の重要事項の決定には、最高意思決 定機関である株主総会の承認が求められ、また、取締役会の構成員の選任も株主総会で決議される。そ のため、通常は、株主総会を支配していないが、取締役会を支配しているという状況は想定できない以 上、支配の対象を取締役会のみとすることには無理がある。
(1951)がある。そこで、以下では、ARB 第 51 号、SS 第 7 号および Moonitz(1951)に おける連結上のエンティティーの画定基準に関する考え方を分析する。
まず、ARB 第 51 号 1 項では、「連結財務諸表は、個別財務諸表よりも有意義であり、ま たグループ内の 1 つの会社が、直接または間接に他の会社の支配的財務持分(controlling financial interest)を有する場合に、適正な表示をするために、通常必要となると考えられ ている。」とされている。そして、ARB 第 51 号 2 項は、「一般原則としては、一つの会社が 他の会社の発行済議決権付株式のうち 50%を超えて直接または間接に所有することが、連 結を行うための条件である。」としている。このように、ARB 第 51 号は、連結上のエンティ ティーの画定にあたって、支配的財務持分を保有することを挙げ、このような支配的財務持 分の有無の判定を持株基準によることとしている。ここで、このような議決権比率の過半数 所有に着目する持株基準と支配企業モデルの関係が問題になる。
この点に関して、黒川(1998, 5-13)は、連結範囲の決定における支配力と過半数持株と の関係を整理し、持株基準が支配力基準とは別物であるという解釈も可能であるとしつつ、
有力な解釈として持株基準が支配力基準の一つであるという見解を示している。また、加古
(1995, 1458)が指摘しているように、持株基準は、会社の議決権の所有割合に着目し、そ の過半数を所有する者が当該会社の経営意思決定を支配できるという法制度を前提として支 配の存在を規定しようとするものとして解釈できる。さらに、FASB が 1991 年に公表した 討議資料「連結方針と連結手続」(以下、「1991 年討議資料」とする。)においても、ARB 第 51 号のもとでの連結の基本的な条件は支配であり、議決権持分の過半数所有はその手段 であって連結のための独立した条件ではないと指摘している(125 項)。
このような先行研究における指摘に鑑みると、持株基準における議決権の過半数所有とい う条件は、支配企業モデルにおける支配の指標または条件であり、持株基準は支配企業モデ ルの一形態と解釈される。また、このように解釈すれば、ARB 第 51 号において明示されて いない「支配的財務持分」の意義も明らかになる。加古(1995, 1461)は、「伝統的な連結 範囲の画定基準としての持株比率基準に理論的な基礎を提供している法的支配概念は、当該 事業体における貸借対照表の貸方側の資本勘定に着目し、この資本勘定に占める持分の割合 によって支配の存在を判定しようとするもの」と指摘している。このような考え方を敷衍す ると、ARB 第 51 号は、議決権の過半数所有という連結の条件を重視して、支配概念と持分 を結びつけた表現を用いていると解釈することができる。以上の考察に基づくと、ARB 第 51 号は、連結上のエンティティーの画定基準として、支配企業モデルを採用しているとみ ることができる。
次に、SS 第 7 号では、連結財務諸表の第 1 の原則として、「2 つ以上の会社において支配
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(8) 平松(1995, 14)は、SS 第 7 号について、「その後に公表された ARB51 号に少なからぬ影響を与えた ことから、アメリカにおける連結財務諸表原則において特筆すべき意義がある」と指摘している。
的な地位を占める中心的財務持分(dominant central financial interest)が存在し、そして、
それらの会社の活動と資源を経営的に支配している場合、特殊な事情が存在しない限りは、
連結財務諸表が、財政状態および営業成果を表すものとして効果的である。」とされている。
ここで、「支配的な地位を占める中心的財務持分の存在」について、SS 第 7 号は、「大部分 の場合においては発行済議決権株の過半数の所有があれば、支配的、中心的な資本持分が存 在するということを確証するに十分である。」としつつ、「その判定にあたっては、関連会社 に対する株式所有の額および種別、取締役会に選出された者の顔ぶれ、社債および株式契約 における拘束的な条項、拘束的な立法等の考慮が含まれる。」(第一の原則の討論(b))とし ている。また、「経営上の支配」について、SS 第 7 号は、「その構成単位の一つ一つが大き い方の実体の部または支社であるかの如くに運営されていることを意味する。」(第一の原則 の討論(c))とされている。
以上の連結の条件に鑑みると、SS 第 7 号は、連結の根拠を支配概念に求めており、ARB 第 51 号と同様に連結上のエンティティーの画定基準として支配企業モデルを支持していた とみることができる。
最後に、Moonitz(1951, 22, 訳書 44)は、2 つないしはそれ以上の法律的単位(legal units)からなる経済的実体(economic entity)あるいは企業実体(business entity)が存在 する場合に連結財務諸表を作成することとしている。そして、Moonitz(1951, 23, 訳書 46)は、連結の範囲を決定する場合においては、単に株式所有というだけでなく、株式所 有によって与えられるパワーも重視されているとし、一群の会社が一つにまとまって営業で きるための必要条件は、中央集権的な支配(centralized control)であると指摘している。
したがって、Moonitz(1951)も、連結上のエンティティーの画定基準として、投資企業と 投資先企業との支配関係の存在を想定していたといえる。
以上のように、連結財務諸表に関する会計基準が公表された 1950 年代においても、連結 財務諸表の作成の根拠を一貫して支配関係の存在に求めており、連結上のエンティティーの 画定基準として、支配企業モデルが採用されていたといえる。
3.3 FASB 連結プロジェクト
FASB は、1982 年 1 月に連結プロジェクトを開始し、複数の成果物を公表している。具 体的には、前述の 1991 年討議資料、1994 年に予備的見解「連結方針」(以下、「1994 年予 備的見解」とする。)、1995 年に公開草案「連結財務諸表:方針と手続」(以下、「1995 年公 開草案」とする。)、1999 年に再公開草案「連結財務諸表:目的と方針」(以下、「1999 年再 公開草案」とする。)を公表している。そこで、以下では、FASB 連結プロジェクトにおけ るこれらの公表文書を対象として、連結上のエンティティーの画定基準に関する考え方を分 析する。
1991 年討議資料では、支配は「他の企業の経営ならびに営業方針および財務方針を指示
(direct)し、もしくは方向を定めるある企業のパワー」(59 項)と定義されている。そして、
1991 年討議資料は、連結財務諸表において子会社が親会社に含められることを決定または 示唆するのはどのような状況かという問題(119 項)について、連結の条件が議決権の所有 割合か、それとも支配か(あるいは両方か)という観点から、経済的単一体概念、親会社概 念および比例連結概念といった 3 つの連結基礎概念に照らして検討している(9)。
まず、1991 年討議資料では、経済的単一体概念によると、単一の経営者による 2 つまた はそれ以上の企業の支配が強調されるため、支配が連結の本質的な状態であると指摘されて いる(123 項)。また、1991 年討議資料では、親会社概念の場合には、連結の条件を議決権 の所有割合に求める少数説の存在を認めつつも、ほとんどの提唱者は、支配が連結財務諸表 の不可欠な状況であることに同意するとしている(124 項)。親会社概念によった場合の連 結の条件として支配関係の存在が要請される理由について、1991 年討議資料は、子会社を 管理(manage)するための能力または子会社の事業および財務の方針を決定するための能 力を欠いている場合には、その所有者は受動的な投資者に過ぎないため、連結することは適 当ではないと考えられることを挙げている(124 項)。このような説明からすると、1991 年 討議資料は、連結の条件として投資企業と被投資企業の間の支配関係の存在を挙げていると いえ、支配企業モデルを採用しているといえる。
しかしながら、1991 年討議資料は、親会社概念のもとでは、連結の条件として、支配の みではなく、親会社株主が子会社の純資産の受益持分(beneficial interest)を有しているこ とを挙げている(133 項)。この理由について、1991 年討議資料は、親会社概念のもとでは、
支配の能力は連結の前提(prerequisite)であるが、より重要なのは支配力に基づいて特定 の便益を引き出せることであり、親会社の株主は、そのような便益によって、連結財務諸表 において親会社と連結することを正当化する子会社の純資産に対する受益持分を有すること になるからであるとしている(134 項)。支配と受益持分という連結の条件に着目すると、
親会社概念は、支配企業モデルとは異なるアプローチを採用しているとみることもできる。
そのため、このような連結の条件が支配企業モデルの適用といえるのかが問題となる。
ここで、親会社概念において重視されている受益持分は、他の企業から特定の便益を引き 出し、それによって当該便益が親会社の株主に帰属することを問題としている。そのため、
このような便益は、支配の定義において問題とされるリターンの一種として解釈することが できる。このような解釈を前提として、1991 年討議資料における支配の定義の特徴を検討 してみよう。
まず、2008 年討議資料は、支配の定義について、企業からの便益にアクセスし、それら
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(9) 本稿では、比例連結概念については検討しない。
の便益の金額を増加、維持または守るような、ある企業の財務および事業方針を指図する能 力としている(49 項)。また、2010 年公開草案は、支配の定義について、2008 年討議資料 と同様に、企業は、自らの便益を生み出す(または損失を制限する)ために、他の企業の活 動を指図するパワーを有している場合に、他の企業を支配しているとしている(RE7 項)。
そこでは、支配の定義にパワーのみではなく、便益ないしはリターンの要素が含められてい る(10)。このように、前述の IFRS 第 10 号も含め、近年の支配の定義を巡る議論においては、
パワーのみではなく、リターンの要素を含めるという形で、国際的にもコンセンサスが得ら れているようである(11)。
一方、1991 年討議資料では、前述のように、他の企業の経営ならびに営業方針および財 務方針を指示(direct)し、もしくは方向を定めるある企業のパワーと定義されており、そ こではパワーの有無が問題とされており、リターンの要素が加味されていない(59 項)。こ こで、親会社概念のもとでの連結の条件の一つである受益持分は、前述のように親会社株主 へのリターンの有無を問題としているから、2008 年討議資料や 2010 年公開草案における 支配の定義におけるリターンの条件に対応することになる。換言すれば、親会社概念のもと での支配と受益持分という条件は、パワーとリターンの条件を満たすことによって連結の要 否を判定しているとみることができる。
このように考えると、1991 年討議資料における経済的単一体概念と親会社概念の連結の 条件の相違は、支配の定義の相違に起因している解釈することができる。特に、他の企業に 対するパワーを有しているものの、受益持分を有していないケースにおいては、親会社概念 では、当該他の企業が子会社に含められないが、経済的単一体概念では、当該他の企業が子 会社に含められることになる。このような相違の原因は、親会社概念のもとでは、パワーの 要素のみではなくリターンの要素を含めて支配関係を認定するのに対して、経済的単一体概 念のもとでは、パワーの要素のみをもって支配関係を認定することにあるとみることができ る。
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(10) 2008 年討議資料は、会計における支配のほとんどの定義は、他の企業へのパワーのみではなく、企業
から獲得される便益も参照されており、また、パワーと同義語として支配を単純に定義するよりはむし ろ、便益の能力を含めることで、企業が、代理人または委託者としてその他の企業へのパワーを有して いるような状況を排除することができるとしている(42 項)。
(11) このような支配の定義を巡っては、我が国における会計基準の設定・改正を巡る議論においても一つの
論点とされている。例えば、企業会計基準第 21 号「企業結合に関する会計基準」7 項において、支配は、
ある企業又は企業を構成する事業の活動から便益を享受するために、その企業又は事業の財務及び経営 方針を左右する能力を有していることと定義されている。しかしながら、このような支配の定義は、企 業会計基準委員会が 2009 年に公表した「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点 の整理」11 項において、リターンの要素を加味しない企業会計基準第 22 号「連結財務諸表に関する会 計基準」における支配の定義と完全に同一ではないと指摘されている。
したがって、親会社概念における連結の条件についても、投資先企業とのリターンの要素 を含めた支配関係に着目しているといえ、そこでは支配企業モデルが採用されているとみる ことができる。
次に、1994 年予備的見解は、支配企業は、それが支配しているすべての企業を連結しな ければならないとしている(7 項)。ここでいう支配について、1994 年予備的見解は、「企 業の資産に対するパワー(支配企業の目的を達成するために企業の個々の資産を使用し、ま たは、その使用を指示するパワー)」(7 項)と定義している。
また、1995 年公開草案は、「連結財務諸表の作成によって異なる法的企業が単一の報告企 業として統合される根拠は、その集団における企業の個々の資産に対する親会社の支配であ り、それらの資産の使用を指示(direct)するための能力である」(7 項)としている。1995 年公開草案は、支配について、「企業の資産に対するパワー(支配企業が自らの資産を使用 しうるのと本質的に同じように、他の企業の個々の資産を使用し、またはその使用を指揮す るパワー)」(10 項)と定義している。
このように、1994 年予備的見解および 1995 年公開草案では、投資先企業の意思決定機 関ではなく、投資先企業の資産に結びつけて支配を定義している。そこで、このような投資 先企業の資産に対するパワーの有無に着目する 1994 年予備的見解および 1995 年公開草案 における支配概念と支配企業モデルの関係が問題となる。
支配を資産に対するパワーとみる根拠として、1994 年予備的見解は、FASB 概念書にお ける資産の考え方と整合することを挙げている。財務会計概念書第 6 号では、「資産は、取 引又は事象の結果として、ある特定の企業により取得又は支配されている発生の可能性の高 い(probable)将来の経済的便益」(25 項)とされ、「もしその企業が他の方法で経済的便 益を獲得し、支配する能力を有するならば、経済的便益に対する請求権の法的強制力(legal enforceability of claim)は、便益が資産としての資格を認めるための必要条件ではない。」
(26 項)とされている。そして、1994 年予備的見解は、特定の企業が将来の経済的便益を 支配する方法の 1 つとして、便益を具現する資産を有する企業を支配することであるとして いる(13 項)。したがって、支配企業は、被支配企業の個々の資産を支配しているため、2 つの法的企業の個々の資産はすべて報告企業の資産としての資格を有することになり、連結 貸借対照表で報告されることになる(12)。また、1994 年予備的見解では、統制機関を有する 企業においては、その企業の支配が、法律および会社の基本定款により統制機関に与えられ るとされている(24 項)。つまり、1994 年予備的見解および 1995 年公開草案の考え方に基
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(12) 1995 年公開草案においても、支配企業は子会社の個々の資産に内在している用役潜在力ないし経済的
便益の獲得をならしめるような方法で、子会社の資産を使用しまたはその使用を指示することができ、
そのようなパワーは子会社の資産を親会社自身の利益のために使用することを可能にするとしている
(11 項)。
づくと、株主総会や取締役会といった意思決定機関の支配は、投資先企業の資産を支配する ための手段に過ぎないことになる。
このように支配を投資先企業の資産に対するパワーとみる見解の一方で、このような考え 方を否定する見解もある。例えば、2008 年討議資料では、最初に、何が「企業」を構成す るかを決定すべきであり、そして、その企業に資産の定義を適用すべきであるとして、グルー プ報告企業の構成を決定するための基礎が資産の定義と一貫する必要性はないと結論づけて いる(57 項)。これは、既存の概念フレームワークにおける資産の定義は、「企業」を参照 するため、「企業」を構成するものを決定するための資産の定義の循環使用(circular to use)になるからであるとしている(13)。
たしかに、2008 年討議資料で指摘されているように、投資先企業の保有する資産に対す るパワーに着目して支配概念を定義する場合には、財務諸表の構成要素を定義する際の技術 上の問題を伴う。しかしながら、支配企業モデルの適用にあたっては、暗黙のうちに投資企 業による投資先企業の保有する資産に対するパワーが考慮されていると考えられる。
仮に、連結子会社の保有する資産に対する親会社による支配が存在しない場合には、連結 貸借対照表に計上される多くの資産が概念フレームワークにおける資産の定義を満たしてい ないことになってしまう。また、加古(1995, 1462)が指摘するように、「もともと特定の 事業体が他の事業体を支配しようとするのは、他の事業体が所有する経済的資源たる資産 を、特定の事業体の事業目的のために使用しうる状態に置くため」である。そして、このよ うな子会社投資の目的に鑑みると、「資産に対する支配を可能ならしめるためには、当該資 産を所有する他の事業体の意思決定を支配する必要があり、そのためには、当該事業体の統 制機関を支配しなければならない」といえる。したがって、1994 年討議資料および 1995 年 公開草案における資産に対する支配を問題とする連結上のエンティティーを画定するための 考え方は、支配企業モデルの一つとみることができる。
最後に、1999 年再公開草案は、「企業集団におけるある企業がその他の企業の経済的資源 および活動を直接または間接に支配する場合に、連結財務諸表が個別財務諸表よりも有意義 である」(8 項)としたうえで、「支配が一時的でない場合には、親会社はその支配する企業 を連結する」(9 項)こととしている。したがって、1999 年再公開草案においても、支配関 係に着目して連結上のエンティティーを画定しているといえ、支配企業モデルが採用されて いるといえる。
以上より、FASB の連結プロジェクトにおいても、連結上のエンティティーの画定基準 として、一貫して支配企業モデルを採用していたといえる。
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(13) 2010 年公開草案においても、2008 年討議資料と同様に循環論の問題を挙げ(BC12 項)、支配の対象
については、企業の活動に対するものであるが、資産の定義における支配の概念と同一のものにする必 要はないとしている(BC11 項)。
3.4 変動持分事業体の連結基準
FASB は、2003 年に解釈書第 46 号「変動持分事業体の連結─ ARB 第 51 号の解釈」(以 下、「FIN 第 46 号」とする。)を公表している。また、FASB は、2009 年に SFAS 第 167 号「FASB 解釈指針第 46 号(R)の改訂」を公表している。そこで、以下では、このよう な変動持分事業体(Variable Interest Entity: VIE)に関する連結のルールを対象として、
連結上のエンティティーの画定基準に関する考え方を分析する。
FIN 第 46 号において、ある事業体の変動持分とは、VIE の変動持分を除く純資産の公正 価値の変動とともに変化する、ある事業体の契約上の権益、所有主持分、または他の金銭的 権益と定義されている(2 項)。そして、VIE に変動持分を有する企業は、① VIE の期待損 失の過半数を吸収すること、② VIE の期待残余リターンの過半数を受け取ること、③両者 の過半数を受け取ること、のいずれかの要件を満たす場合には、当該事業体の主たる受益者
(primary beneficiary)と判定され、当該事業体を連結することが要求される(14 項、15 項)。
このような連結規定は、VIE のリスクと経済価値が VIE の変動持分を有する企業に帰属 する場合に、当該 VIE を連結することを要求している。そのため、FIN 第 46 号は、前述の SIC 解釈指針書第 12 号と同様に、リスク・経済価値モデルを採用していると解釈すること ができる。ここで、前述のようにリスク・経済価値モデルについては、これを支配企業モデ ルとは別個のエンティティーの画定基準とみる解釈と、支配企業モデルの一形態とみる解釈 がある。この点に関して、FIN 第 46 号の記述を観察してみると、FASB は、VIE の連結に 関して支配企業モデルと異なる新しいモデルを提示することを意図していなかったようにみ える。
そもそも、FIN 第 46 号は、あくまでも ARB 第 51 号の解釈を示したものに過ぎず、そこ における VIE を連結するか否かの要件は、VIE に対する支配的財務持分を有する当事者を 判定することを意図したとしている(E30 項)。また、FIN 第 46 号は、VIE と主たる受益 者の関係は、主たる受益者が諸資産の使用について決定するための直接的な能力を有してい ないかもしれないが、VIE の資産の将来便益の主たる受益者による支配が生じ、また、VIE の負債は、連結資産を犠牲にすることを要求するから、VIE の債権者が主たる受益者への 一般債権を有していないかもしれないが、それらの負債は主たる受益者の義務であるとして いる。したがって、山地(2012, 1321)で指摘されているように、「SPE では、議決権がな い場合や、事前の契約や取決めによって議決権の行使が制限されている場合があり、議決権 の過半数所有による支配は存在しない」のであり、「このような状況において、SPE には議 決権の所有によらない支配概念を適用する必要があった」といえる。
このように考えていくと、VIE の連結に関する考え方として FASB が想定していたのは、
支配企業モデルであったといえる。つまり、連結上のエンティティーの範囲を支配従属関係 に基づいて決定するという従来の考え方を放棄したわけではなく、議決権比率とは異なるリ
スク・経済価値の帰属という観点から支配的財務持分の有無を推定するアプローチを意図し ていたと解釈できる。
次に 2009 年に公表された SFAS 第 167 号では、VIE の変動持分が企業に支配的財務持 分を提供する場合に、VIE を連結することとされており、この場合の支配的財務持分は、
以下の特徴を有するとされている(14A)。
① VIE の経済的業績に最も著しい影響を及ぼす事業体の活動を指示するためのパワー
② VIE に潜在的に重要でありうる当該事業体の損失を吸収する義務、または VIE に潜 在的に重要でありうる当該事業体の便益を享受する権利
上記の 2 つの特徴によると、VIE の活動から生じるリスクと経済価値の帰属だけではなく、
VIE の活動を指示するためのパワーを考慮することによって連結の要否が判定されること になる。これは、前述のパワーとリターンという 2 つの要素に基づく支配関係の認定と同様 であることから、SFAS 第 167 号では、支配企業モデルを採用しているといえる。
3.5 FASB・IASB の共同プロジェクト
2008 年討議資料では、支配の概念は、支配企業およびその支配下にある他の企業で構成 される集団によって、集団財務諸表に含まれるべき企業を決定するための基礎として用いら れていると指摘している(33 項)。そして、2008 年討議資料は、支配企業モデル、共通支 配モデルおよびリスク・経済価値モデルの 3 つを比較検討したうえで、支配企業モデルが財 務報告の目的と首尾一貫するとしている(68 項)。
また、2010 年に公表された財務会計概念書案(公開草案)「財務報告のための概念フレー ムワーク:報告企業」(以下、「2010 年公開草案」とする。)においても、報告主体の境界
(boundaries)は、企業の支配の基礎に基づいて決定されるべきであるとされている(BC22 項)。そのうえで、2010 年公開草案は、1 つ以上の企業を支配する企業が財務報告書を作成 するのであれば、その企業は、連結財務諸表を作成すべきであるとしている(RE8 項)。
このように、概念フレームワークに関する FASB と IASB の共同プロジェクトにおいて も、一貫して連結上のエンティティーの画定基準として支配企業モデルが支持されていると いえる。
3.6 分析結果の整理
ここまで米国における連結上のエンティティーの画定基準について、関連する会計基準や 先行研究を参照しつつ分析してきた。そこでは、連結の条件として明示的に支配を掲げてい るものがある一方で、形式的に異なる条件を掲げているものもあった。前者については、支
配企業モデルの適用といえる一方で、後者については、それが支配企業モデルの適用といえ るのかについては解釈の余地があった。そこで、以下では、このような解釈を整理してみよ う。
まず、支配の対象については、投資企業がパワーを行使する対象を、投資先企業における 株主総会とみる見解、投資先企業における取締役会とみる見解、および投資先企業における 資産とみる見解があった。ただし、本稿は、いずれの見解においても、暗黙のうちに他の見 解を内包していると解釈した。例えば、投資先企業の株主総会に対するパワーを有している 場合には、当然に投資先企業の取締役会や資産に対するパワーを有しているであろう。また、
支配概念の本質を投資先企業の保有する資産に対するパワーに求める場合であっても、その ようなパワーを行使するための手段として意思決定機関へのパワーが必要となる。そのた め、支配の対象に関するこれらの見解の相違には、本質的な差異はない。
また、伝統的に支配力基準と対立する形で議論されてきた持株基準は、議決権の過半数所 有という法的な支配関係に着目するのであり、それは支配企業モデルと対立する概念ではな い。そして、持株基準が採用されている場合の支配的財務持分という連結の条件については、
支配企業モデルにおける支配の指標または条件として解釈することができた。
さらに、連結基礎概念に関連して、親会社概念においては、他の企業に対するパワーの保 有と受益持分の存在が連結の条件とされていた。ここにおける受益持分で問題とされる便益 については、リターンの一種と解釈することができるため、受益持分を含めたこのような連 結の条件は、パワーとリターンという 2 つの要素に着目する近年の支配の定義と本質的な差 異はない。したがって、親会社概念における連結の条件についても、支配企業モデルの適用 と解釈することができる。
最後に、VIE の連結に際して適用されていたリスク・経済価値モデルについては、支配 企業モデルとは異なる連結上のエンティティーの画定基準とみる見解も存在しうる。しかし ながら、米国において採用されていた VIE の連結規定を観察してみると、それはリスクと 経済価値の帰属という観点から支配関係を推定するアプローチであると考えられる。よっ て、VIE の連結規定についても、支配企業モデルと対立するものではなく、あくまでも支 配企業モデルの適用であると解釈できる。
以上の分析からは、米国における連結会計に関するルールや先行研究では、支配の定義に 関する見解の相違は認められるものの、連結上のエンティティーの範囲が支配概念に依存し て画定されており、歴史上も一貫して支配企業モデルが支持されてきたという事実が明らか になった。
4.おわりに
本稿では、連結上のエンティティーの範囲を画定するための考え方を検討した。
連結上のエンティティーの範囲を画定するための基準としては、支配企業モデル以外にも 複数の選択肢が考えられる。そこで、本稿では、そのような連結上のエンティティーを画定 するための有力な考え方として支配企業モデルとリスク・経済価値モデルのそれぞれの考え 方および関係性を整理し、リスク・経済価値モデルについては、支配企業モデルとは独立し たエンティティーの画定基準とみる解釈と支配企業モデルの適用形態の一つとみる解釈が存 在することを指摘した。
そして、米国における連結会計に関するルールや先行研究を観察してみると、支配の定義 に関する見解の相違は認められるものの、一貫して支配企業モデルが支持されてきたという 事実が明らかになった。このような分析結果からは、連結上のエンティティーの境界を支配 概念に基づいて画定する考え方には、歴史的な裏付けが認められるといえる。
ただし、本稿は、連結上のエンティティーの範囲の画定基準として複数の選択肢を想定し うる中で、歴史的に一貫して支配企業モデルが用いられてきた理由については、明らかにで きていない。支配企業モデルの合理性や必然性については、更なる検証が必要といえる。
また、川本(2011, 172)が指摘しているように、「エンティティーの範囲が利益測定の対 象となる財貨のフローの範囲を定める概念だとすれば、関連会社は投資会社のエンティ ティーを構成する」という解釈も成立しうる(14)。支配企業モデルのもとで、持分法適用関 連会社をどのように解釈すべきかについても、検討の余地がある。
さらに、別個の法人格を有する 2 つ以上の企業を 1 つの企業集団とみなす根拠については、
会 計 学 に お け る 議 論 に と ど ま ら ず、 法 学 上 も 問 題 と な り う る。 例 え ば、 神 作(2013, 61-62)は、会社法上の企業グループの定義として、議決権を有する株式・持分の所有とい
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(14) 韓国会計基準委員会(Korean Accounting Standard Board: KASB)が 2014 年に公表しているリサーチ レポート第 35 号「持分法」では、持分により会計処理されるグループ(equity-accounted group)とい う概念を用いて持分法会計の考え方を検討している。リサーチレポート第 35 号「持分法」では、持分 により会計処理されるグループは、投資企業およびその関連会社から構成される単一の経済的主体であ るとされており(68 項)、このような概念に基づく代替案の 1 つとして、関連会社を持分により会計処 理されるグループの一部とみなす考え方が示されている(71 項)。
(15) 企業間の契約関係に基づいて企業グループを定義する場合には、フランチャイズのように販売チャネル
をつうじて企業グループが形成されることになり、企業提携のような協調・協力関係をつうじて企業グ ループが形成されうることになる。また、市場との境界という観点から企業グループを定義する場合に は、市場取引が独立当事者間取引であることを前提として、独立当事者間取引がなされているかどうか を基準として、いわゆる系列などが企業グループに含まれることになる。
う観点の他に、企業間の契約関係という観点や市場との境界という観点を挙げている(15)。 このような、会計学の隣接分野における議論についても、更なる検討が必要となろう。
以上の点については、今後の検討課題としたい。
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