特別企画:九州・沖縄地区の健康食品販売業者の経営実態調査(2013 年度)
はじめに
健康の維持・増進、美容への関心が高まるなかで、健康食品の市場は底堅い推移が続いている。健 康食品業界は、医療・介護分野と並ぶ成長分野との見方が強く、大手の食品・飲料メーカーや医薬品 メーカーなどが参入姿勢を強めている。こうしたなか、安倍政権は、成長戦略の一環として健康食品 の機能性表示解禁を打ち出した。保健機能食品(栄養機能食品や特定保健用食品(トクホ))以外の食 品にも保健の機能や栄養成分の機能の表示を容認しようとする内容で、2013年12月から「食品の新た な機能性表示制度に関する検討会」が開催され、14年7月には報告書がまとめられている。 帝国データバンク福岡支店では、帝国データバンク企業情報データベース「COSMOS2」(約 145 万社収録)から、九州・沖縄地区(以下、九州)に本社を置き、健康食品販売を主たる事業とす る企業を抽出。その 2013 年度(2013 年4月期~14 年3月期)の売上高や利益額、その伸び率などを まとめた。本調査でいう健康食品とは、主として食品形状の保健機能食品、錠剤・カプセル・粉末形 状などの健康補助食品(サプリメントなど)などを指す。 なお、本調査は、2013 年 10 月(2012 年度調査)に続いて5回目。売上高上位 50 社の合計売上高、2年連続で減少
~ 前年度比 4.2%減、大手食品メーカーなどとの競合激化鮮明に~
調査結果(要旨)
1. 売上高上位 50 社の 2013 年度売上高合計(一部、推定を含む)は、前年度比 4.2%減の 2000 億 2300 万円と、2年連続で減少。「増収」企業の割合は 55.3%(47 社中 26 社)にとどまっ た。 2. 税引き後利益は、50 社中 40 社(構成比 80%)が「黒字」を確保。 3. 2013 年度の売上高ランキングは、キューサイ(株)(福岡市)が3年連続で首位。 4. 2013 年度は8件の倒産が発生。いずれも小規模倒産だが、件数は 07 年度と並んで 00 年度 以降の最多に。1.2013 年度の売上高
~上位 50 社売上高合計は前年度比 4.2%減 九州に本社を置く健康食品販売業者の売上高上 位 50 社の 2013 年度売上高合計は 2000 億 2300 万 円。12 年度(2088 億 8700 万円)に比べて 4.2% 減少し、2年連続の減少となった。 売上高規模別にみると、「10 億円以上 100 億円 未満」の企業群の売上高合計は408億8100 万円と、 12 年度(466 億 4900 万円)に比べて 12.4%減少 した。健康食品以外の取り扱い ウエイト上昇や九州外への本店 移転などでランキング上位企業 が集計対象から外れた特殊事情 も一因に挙げられるが、ランキ ング上位企業や大手メーカー系 販売会社との競合などで「減収」 企業が 22 社中8社(構成比 36.4%)に達したことが響いた。 「100 億円以上」の企業群において も、大手メーカー系販売会社などとの 競合が激化した影響から売上高合計は 1436 億 8200 万円と 12 年度(1489 億 7300 万円)比 3.6%減となった。 また、「10 億円未満」の企業群につ いては、「増収」企業こそ 21 社中 11 社(構成比 52.4%)にとどまったものの、新たに健康食品を販売していることが判明した企業が複数 加わったほか、ランキング上位企業などとの競合が比較的少ない商品を取り扱う企業の売上高増加に より、売上高合計は 154 億 6000 万円と、12 年度(132 億 6500 万円)に比べて 16.5%増加した。■ 2009年度以降の売上高合計推移
1909.66 2078.16 2102.11 2088.87 2000.23 8.8% ▲4.2% ▲0.6% 1.2% 1,800 1,850 1,900 1,950 2,000 2,050 2,100 2,150 2,200 09 10 11 12 13 (年度) (億円) ▲10% ▲5% 0% 5% 10% 50社合計 伸び率■ 売上高規模別の前年度比売上高増減
( )内は2012年度 10億円未満 11 (16) 2 (2) 8 (2) 21 (20) 10億円以上 100億円未満 13 (14) 1 (2) 8 (7) 22 (23) 100億円以上 2 (2) 0 (0) 2 (3) 4 (5) 合計 26 (32) 3 (4) 18 (12) 47 (48) 注) 12年度または13年度決算が12カ月未満の企業は集計対象から除外した。 社数計 増収 横ばい 減収■ 売上高上位50社の売上高合計推移
2011年度 売上高合計 (百万円) 売上高合計 (百万円) 前年度比 売上高 伸び率 売上高合計 (百万円) 前年度比 売上高 伸び率 10億円未満 12,854 13,265 3.2% 15,460 16.5% 10億円以上 100億円未満 42,780 46,649 9.0% 40,881 ▲12.4% 100億円以上 154,577 148,973 ▲3.6% 143,682 ▲3.6% 合計 210,211 208,887 ▲0.6% 200,023 ▲4.2% 注1) 各年度の決算が12カ月未満の企業は、年換算して売上高合計を計算した。 注2) 11年度および12年度売上高合計は前回調査分。 注3) 11年度~13年度の集計企業は、年度ごとに一部入れ替わりがある。 注4) 12年7月1日付けで旧・(株)エバーライフを合併した(株)エバーライフは、合併前との比較。 2012年度 2013年度2.2013 年度の利益
~利益面は健闘、8割が黒字を確保 大手業者との競合激化により販売面では苦戦を強いられていることが明らかになったが、税引き後 利益については、50 社中 40 社(構成比 80%)が「黒字」を確保。うち 24 社(同 48%)が「増益」 になった。 売上高規模別では「10 億円以上 100 億円未満」の利益が改善した。「赤字」企業が1社のみにとど まり、「黒字」企業は 12 年度(14 社)から2社増の 16 社。とりわけ、「増益」企業は 12 年度(5社) から4社増の9社になった。 増収増益企業が7社あった ほか、主要経費である人件 費の圧縮や広告宣伝費の削 減などを行った企業も目立 った。3.2013 年度売上高ランキング
~トップは3年連続で「キューサイ」 2013 年度の売上高ランキングは、キューサイ(株)(福岡市)がトップになった。同社はコカ・コ ーラウエスト(株)(同市)の全額出資子会社。基幹商品の「ケール青汁」や「ヒアルロン酸コラーゲ ン」が高いリピート購入率を維持。2012 年8月に販売を開始した「グルコサミンZ」のほか、化粧品 (スキンケア用品)部門も堅調な推移を見せた。同業者との競争激化や各商品の購買サイクルの長期 化の影響などから年売上高は前年度に比べて微減となったが 288 億 8700 万円を確保。3年連続のトッ プとなった。 2位は、総合通販業者の(株)はぴねすくらぶ(福岡市)。「ヒアルロン酸コラーゲン 潤いバランス」 や「琉球黒もろみ酢 活性あわせ」などの健康商品を中心に、基礎化粧品やヘアケア用品、寝具、家具、 雑貨、食料品など、取り扱いアイテムは多岐にわたる。インターネットやカタログ通販のほか、テレ ビ・ラジオ番組を通じた通販も行っているが、通販市場の普及とともに他のインターネット通販サイ トなどとの競合が響き、年売上高は前年度比 2.2%減の 247 億 700 万円となった。 3位は、(株)やずや(福岡市)。カプセルタイプの「熟成やずやの香醋」や「雪待にんにく卵黄」 のほか、発酵乳をカプセル状にした「やずやの千年ケフィア」などを通信販売するほか、福岡市内に は小売店と飲食店を兼ねた店舗を開設している。13 年度は期中に広告宣伝予算を絞り込んで広告宣伝■ 年商規模別の前年度比利益(税引き後利益)増減
( )内は2012年度 10億円未満 11 (10) 6 (4) 2 (1) 2 (5) 21 (20) 10億円以上 100億円未満 9 (5) 7 (9) 1 (3) 5 (6) 22 (23) 100億円以上 4 (2) 3 (3) 0 (1) 0 (1) 7 (7) 合計 24 (17) 16 (16) 3 (5) 7 (12) 50 (50) 注) 「未詳」は、12年度もしくは13年度の税引き後利益額が判明しない企業 未詳 社数計 黒字 増益 減益 赤字4位は、(株)えがお(熊本市)。黒酢エキスをカプセル化した「えがおの黒酢」、深海鮫肝油の「鮫 珠」、ブルーベリーエキスを配合した「えがおのブルーベリー」が主力商品。テレビ・ラジオショッピ ングのほか、インターネットを通じた通信販売も手がけている。13 年度は決算期変更にともない集計 期間9カ月の変則決算で、売上高は 196 億 8900 万円だった。なお、単純年換算した売上高は 262 億 5200 万円。 5位には(株)アサヒ緑健(福岡市)が入った。有機大麦若葉を使用した「緑効青汁」を主体とし て、これにコラーゲンやヒアルロン酸、グルコサミンなどの成分を配合した派生商品のほか、血中コ レステロールを下げる働きがあるキトサンや、難消化性デキストリン(食物繊維)を配合した特定保 健用食品などを取り扱っている。13 年度は新規顧客の獲得が進んだほか、消費増税前の駆け込み特需 の恩恵もあって年売上高は前年度比 6.6%増の 134 億 7400 万円となり、11 年の調査開始以来初となる ベスト5入りを果たした。
■ 2013年度 売上高ランキング(上位10社)
順位 前年度順位 所在地 決算 月 売上高 (百万円) 注1 前年度比 売上高 伸び率 1 1 キューサイ(株) 福岡市 12 28,887 ▲0.3% 2 3 (株)はぴねすくらぶ 注2 福岡市 4 24,707 ▲2.2% 3 4 (株)やずや 注3 福岡市 12 22,000 -4 2 (株)えがお 注4 熊本市 12 19,689 -5 6 (株)アサヒ緑健 福岡市 3 13,474 6.6% 6 7 (株)健康家族 鹿児島市 8 12,679 0.5% 7 5 (株)エバーライフ 注5 福岡市 12 11,762 -8 8 (株)愛しとーと 注6 福岡県 那珂川町 9 7,760 ▲4.2% 9 - (株)健康の杜 福岡市 9 3,222 13.0% 10 12 (株)オーガランド 鹿児島県霧島市 12 2,550 8.1% 注1) 売上高は推定を含む。 注2) (株)はぴねすくらぶは、14年3月に(株)メディア・プライスより商号変更。 注3) (株)やずやは、12年に決算期を毎年3月から12月へ変更しており、12年度は稼働期間9カ月の変則決算。売上高伸び率は計算できない。 注4) (株)えがおは、13年に決算期を毎年3月から12月へ変更しており、13年度は稼動期間9カ月の変則決算。売上高伸び率は計算できない。 注5) (株)エバーライフは、13年に決算期を毎年3月から12月へ変更しており、13年度は稼動期間9カ月の変則決算。売上高伸び率は計算できない。 注6) (株)愛しとーとは、14年10月に(株)HRKより商号変更。 商号 「えがおの黒酢」、「えがおの鮫珠(さめだ ま)」、「えがおのブルーベリー」、「えがおの 青汁満菜」 「緑効青汁」、「青汁×コラーゲン」、「青汁 ×グルコⅤ(ファイブ)」、「りょくこう青汁 キ トサンイン」 「伝統にんにく卵黄」、「熟成黒酢にんに く」、「健康家族のにんにく生姜」、「健康家 族のグルコサミンリッチ」 主な商品 「ヒアルロン酸コラーゲン 潤いバランス」、 「琉球黒もろみ酢 活性あわせ」、「酵母と 酵素deさらスルー」 「熟成やずやの香醋(こうず)」、「やずやの 養生青汁」、「雪待にんにく卵黄」、「やず やの千年ケフィア」 「ケール青汁」、「ヒアルロン酸コラーゲ ン」、「グルコサミンZ」 「杜のスッポン黒酢」、「金時しょうがプラス シルクペプチド」、「爽臭革命」 「ローズサプリ」、「やさい酵素」、「ヒアルロ ン酸」、「プラセンタ」、「ブルーベリー」、「秋 ウコン粒」 「皇潤」、「美・皇潤」、「鮫肝海王(さめぎも ポセイドン)」、「鮫皇(さめおう)」、「五黒 精」 「うるおい宣言」、「すらっと宣言」、「まるご と雑穀酵素」4.2000 年度以降の倒産状況
~13 年度は8件の倒産が発生 九州・沖縄地区における 2000 年度以降の健康食品販売業者の倒産件数は 49 件だった。(累計、14 年度は4~9月)。13 年度は、負債総額が3億 2700 万円と中小・零細企業の倒産が主体ながら、00 年度以降で最多だった 07 年度に並ぶ8件に達した。 倒産企業をみると、インターネットでの通信販売を主体とする企業が大半を占める。同業他社との 競合で売り上げが伸び悩むなか、資金力に乏しいため広告宣伝を打てず、さらに売り上げが落ち込む 悪循環に陥る傾向が見て取れる。大手メーカー系商品など、ブランド力のある健康食品との競合が激 化すれば、中小・零細業者はさらに苦戦を強いられる可能性がある。■ 健康食品販売業者の倒産状況
年度 件数 負債総額 (百万円) 2000 1 110 01 2 320 02 2 330 03 3 40 04 1 30 05 3 66 06 2 82 07 8 3,079 08 4 142 09 6 845 10 3 275 11 2 44 12 3 500 13 8 327 14 1 100 合計 49 6,290 注) 2014年度は4~9月の6カ月間。 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (年度) (件) 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 (百万円) 件数 負債総額まとめ
健康食品の市場規模や、家計調査の「保健保持用摂取品」消費額はいずれも増加傾向にあるが(末 尾参照)、九州に本社を置く健康食品販売業者の 2013 年度売上高上位 50 社の売上高合計は、12 年度 比 4.2%減の 2000 億 2300 万円と、2年連続で減少した。大手の食品・飲料メーカーや医薬品メーカ ーなどが健康食品業界への参入姿勢を強めるなか、九州の売上高上位 50 社における「増収」企業割合 は 55.3%(47 社中 26 社)に低下するなど、業界の成長を先導してきた九州企業が後発組の猛追を受 けていることを印象づけた。 健康食品を取り巻く法律としては、健康増進法のほか、薬事法、食品衛生法、JAS法、景品表示 法、特定商取引法などが挙げられる。健康食品が庶民の生活に定着して久しいが、今もなお、これら現在、政府で議論が進められている規制緩和が実現すれば、科学的根拠を明らかにできることを条 件に企業の判断で健康効果を表示できるようになる。前述のような不正を排除する効果が見込め、業 界の健全化が進む公算が大きい。一方で、業者間の競争は一層激化しそうだ。有効性や安全性に関す る情報公開が義務づけられることで、資金力に乏しく十分なデータを整えきれない業者が劣勢に置か れる可能性があるためだ。 新制度は、早ければ 15 年春にもスタートすると言われている。今後も成長が見込める業界だけに大 手業者の関心も高く、新たに参入する企業も増加するだろう。そうなれば、中小・零細業者が淘汰さ れるだけでなく、九州の健康食品販売業者の勢力図が一変することも十分に考えられる。 は、特定保健用食品を除く健康食品市場の市場規模。 【出典】 『健康産業新聞』(UBMメディア(株))調査 は、特定保健用食品の市場規模。(年度、2年に1度の調査) 【出典】 公益財団法人日本健康・栄養食品協会 は右軸。1世帯当たりの「保健保持用摂取品」の支出金額(総世帯)。 【出典】 総務省「家計調査」