「現代日本語の体言を骨子とする非述定文の研究」
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(2) 「現代日本語の体言を骨子とする非述定文の研究」要約 笹井. 香. 「非述定文」とは「形式上の主格と述格が存在せず述語による言い定めに依らずに成立 する文」のことである。山田文法において、句は「述體の句」と「喚體の句」の二種に類 別される。「主格と賓格との相對立するありて、述格がこれを統一する性質」をもつもの を「述體の句」、「その主格述格の差別の立てられぬものは直觀的の發表形式にして一元 性のものにして、呼格の語を中心とするものにして、その意識の統一點はその呼格に寓せ られてあるものにしてその形式は對象を喚びかくるさま」であるものを「喚體の句」と位 置づけている(山田孝雄 1936:935-936)。現代語における体言を骨子とする非述定文は 「喚體の句」にあたると考えられるが、それらの文の中には、山田孝雄(1908、1936)が 「喚體の句」とする文以外にも様々なタイプの文が存在する。そこで、体言を骨子とする 非述定文の実際の用例を採取し、それらの文について言語場、機能、形式の点から考察を 加え、その結果「感動文」「レッテル貼り文」「貶め文」「単純な呼び掛け文」「ほめあげ 文」と位置づけ、体言を骨子とする非述定文を体系的に把握することを試みる。 論文の構成は以下のとおりである。 第1章. 本稿の目的と構成. 第2章. 現代日本語における喚体の句の性質をもつ文についての先行研究. 第3章. 現代語の感動喚体句の構造と形式. 第4章. 現代語の感動文の構造. 第5章. 呼び掛け文. 第6章. レッテル貼り文という文. 第7章. ほめあげる機能をもつ文. 第8章. 卑しめ、貶める機能をもつ文. 第9章. 現代語における体言を骨子とする非述定文. 「なんと」型感動文の構造をめぐって. ほめあげ文について 悪態文の一種としての貶め文 2つの文の種類にまたが. る両属的なありようをめぐって 以下、「感動文」「レッテル貼り文」などそれぞれの種類の文について考察している第3 章から第8章と、それらの両属性と体系を提示する第9章を要約する。 第3章では、川端善明(1963、1965)が「句的体言」と解釈した感動喚体句の構造をも つ文を「美しい花!」型感動文と位置づけ、感動を表出することを専らとする形式のバリ エーションの提示を試みた。「美しい花!」型感動文の形式的類型には以下の5つのタイ プがある。 A-1 逆述語タイプ A-2「(~の)」―こと」タイプ A-3「~の―さ」タイプ A-4 形容詞語幹・形容動詞語幹タイプ A-5 形容動詞連体形タイプ 感動喚体句の形式ではなく構造に着目し、構造から感動文を把握したことによって、先行 研究においては考察の対象とならなかった A-4 タイプ、A-5 タイプのような形式も、感動. 1/4.
(3) 文としての構造を備えていることを示し、より網羅的に感動文の形式を提示することがで きた。 第4章では、多くの先行研究で疑問文の周辺にあるものと扱われてきた「なんと~だろ う!」の形式による文を「なんと」型感動文と位置づけた。多くの先行研究において感動 文とされるのは、感動喚体の形式をもつと考えられている「美しい花!」型感動文である。 しかし、本論文において「なんと~だろう!」の形式による文の特徴として、(1)「なんと」 は不定語としては機能していない、(2)「なんと」は属性概念をもつ語と体言の両方を要求 するため「なんと~だろう!」の形式による文は必ず文中にコトを構成する、(3)「なんと」 と共起する「だろう」等の判断辞は、判断辞としての意味の対立をもたず、その意味の変質 に伴い接続形態も変化している、以上のことを明らかにした。さらに、「なんと~だろう!」 の形式による文は、形式、表現ともに「美しい花!」型感動文と対応していることを指摘 し、感動文であることを述べ、「なんと」型感動文と位置づけた。 上述のように「なんと」型感動文と「美しい花!」型感動文が、形式、表現ともに対応 していることは、川端(1963、1965)が述べた句的体言という構造が感動文の構造として 普遍的であることを示すものである。 第5章において、「お母さん。お腹空いちゃった。ご飯まだ?」の「お母さん。」や「佐 藤さん。そこの資料を取ってくれますか。」の「佐藤さん。」のような文の文としての機 能、形式、言語場について整理し、それらの文を新たに「呼び掛け文」と位置づけた。呼 び掛け文の機能は、呼び掛け文で呼び掛けることによって対象を指定し、対象に気づかせ ることにある。言い換えれば、呼び掛け文は、呼び掛けた対象に働きかけ、注意を喚起す る機能を担うものである。したがって、その言語場には呼び掛けた対象が聞き手として存 在することを前提として発話されている。また、その言語場において対象を同定できる名 詞が呼び掛け文の形式となり、指示詞においてはソ系の指示詞のみが呼び掛け文として運 用される。 呼び掛け文と形式を同じくするが、注意を喚起する機能をもたず話し手の情意を表出し ていると考えられる用例も観察される。そのような文や、歌舞伎などの舞台芸術における 「いよっ. 播磨屋!」などの文、第3章、第4章で論じた「感動文」など、呼格体言を骨. 子とする文は、文の機能(情意を表出する機能と注意を喚起する機能)と形式の観点から、 互いに連続して存在していることを明らかにした。 第6章では、先行研究において文として適切に位置づけられてきたとは言いがたい「ば か者!」「恥知らず!」「嘘つき!」などの文について論じた。同じく体言を骨子とする 文である感動文や呼び掛け文などとは異なる形式や機能をもつことを明らかにし、これ らを感動文や呼び掛け文にならぶ文の類型として、新たに「レッテル貼り文」と位置づ けることを試みた。レッテル貼り文は「性質、特徴、属性などを示す要素+人や物を示 す要素」という構造をつ名詞(=レッテル)から成り立つ体言骨子の文で、対象への価 値評価にともなう怒りや呆れ、嘲り、蔑み、嫌悪、侮蔑などの情意を表出することを専 らとする文、即ち悪態をつく文である。このような文は、その言語場において話し手が 対象に下した価値評価が名詞の形式(=レッテル)で表され、文が構成されていると考 えられる。このような文を発話することによって、対象に下した価値評価、即ちレッテ ルを貼り付けているのである。. 2/4.
(4) 第7章においては、ある種の場面・文脈で観察される「ヨッ 報ものっ」「イヨッ!!一流大学受験生!!」「よっ. 節約上手!!」「よっ. 果. 幸せ者ぉ」などを「ほめあげ文」と位置. づけた。 「節約上手!!」 「果報ものっ」 「一流大学受験生!!」 「幸せ者ぉ」は常に、呼掛詞「よっ(ヨ ッ)/いよっ(イヨッ)」とともに観察される。したがって、これらの文は、 【よっ(ヨッ)/いよっ(イヨッ)+名詞 (「!」、促音化または長音化)】 .................. という、定型化のもとで文として運用されていると考えられる。 ここに観察される「節約上手」「果報もの」「一流大学受験生」「幸せ者」は、その言語 場において話し手が聞き手に下したポジティブで良い価値評価が名詞に表されたもので ある。「節約上手」であれば、話し手が聞き手に下した価値評価が名詞「節約上手」とし て表されている。これらの名詞が呼掛詞「よっ(ヨッ)/いよっ(イヨッ)」とともに文 として運用される場合、文は聞き手を「ほめあげる機能」をもつと考えられ、このよう な文を発話することが、聞き手を「ほめあげる」という行為そのものになる。そこで、 上記の定型化のもとで運用されている「ヨッ. 節約上手!!」のような文を「ほめあげ文」. と呼び、「名詞 (「!」、促音化または長音化)」を「ほめあげ名詞」と呼ぶ。 ほめあげ文は、ほめあげ名詞とレッテルが同じ構造と形式をもつという意味において第 6章のレッテル貼り文と形式上共通し、あたかも同じ機能をもつかのようである。しかし、 レッテル貼り文が聞き手を必要としない表出文であるのに対して、ほめあげ文は聞き手が 言語場に存在することを前提として発話されている。したがって、ほめあげ文は注意を喚 起する機能をもつ呼び掛け文(第5章)の一種である。さらに、ほめあげ文はそれに加え て「ほめあげる」という固有の機能をもっている。そこで、注意喚起を主たる機能とする 呼び掛け文を「単純な呼び掛け文」と呼ぶとすると、以下のように整理できる。 単純な呼び掛け文 呼び掛け文 ほめあげ文 ほめあげ文はレッテル貼り文のような表出文ではなく呼び掛け文の一種であること、しか し、呼び掛け文とも異なる固有の「ほめあげる」機能をもつことを論じた。 第8章では、「太郎め!」「太郎のやつ!」「こいつ!」のような、卑しめ、貶めの待遇 的な意味を含む名詞が文を構成している文を「貶め文」と位置づけた。これらは悪態をつ く文で、卑しめ、貶めるのにともなう対象への怒りや、呆れ、嘲り、蔑み、嫌悪、侮蔑な どの話し手の情意を表出する機能をもつ。同じように悪態をつくときに用いられる表出文 として「ばか者!」「恥知らず!」のような「レッテル貼り文」(第6章)がある。レッ テル貼り文がネガティブな価値評価にともなう話し手の情意を表出するのに対して、「太 郎め!」「太郎のやつ!」「こいつ!」は卑しめ、貶めにともなう話し手の情意を表出す るため、レッテル貼り文とは区別される。そこでこれらの文を「貶め文」と位置づけた。 貶め文とレッテル貼り文はともに悪態をつくときに用いられる表出文であることから、 両者を包括的に「卑罵的な意味をもつ語が文を構成しており、それを発話することによっ. 3/4.
(5) て、対象への怒りや呆れ、嘲り、蔑み、嫌悪、侮蔑などの話し手の情意を表出しつつ、悪 態をつく文」という特徴をもつ「悪態文」と把握した。 第9章では、これまでに考察してきた体言を骨子とする非述定文の特徴と両属性につい て整理し、表出文と呼び掛け文に二分した。すなわち、「(感動の、あるいはレッテルを 貼る、あるいは卑しめ貶める)対象を聞き手としての発話ではなく、話し手の情意を表出 する文」=表出文と「(ほめあげる、あるいは呼び掛ける)対象を聞き手として発話され、 対象への何らかの働きかけを機能としてもつ文」=呼び掛け文である。前者には、感動文、 レッテル貼り文、貶め文、後者には、ほめあげ文、単純な呼び掛け文が分類される。ただ し、二つの文の種類にまたがる両属的なありようをもつ用例も存在する。文が二つの文の 種類の両方の形式的特徴をもっており、また、どちらの文の言語場としても解釈可能であ るとき、発話意図の読み込みによって、両属的なありようを示すのである。このように体 言を骨子とする非述定文の相互関係を明らかにし、その体系を提示した。. 引用文献 川端善明(1963) 「喚体と述体. 係助詞と助動詞とその層. 」 『女子大文学. 国文篇』15. 大阪女子大学 川端善明(1965)「喚体と述体の交渉 語學』63. 希望表現における述語の層について. 国語学会. 山田孝雄(1908)『日本文法論』寶文館 山田孝雄(1936)『日本文法學概論』寶文館. 4/4. 」『国.
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