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身体部位表現の言語学

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(1)

身体部位表現の言語学

永 田

Eコ ユ i"司 d叫::...,

1

.はじめに

日本語では、 (1) a.私はあの人に会えるのに心をときめかせながら、夜道を急いだ。

b

.

私はその意見に心を落ち着かせて反論した。 の「心をときめかせる」、「心を落ち着かせる」のような表現が普通に使われ ている。その特異性は行為者が自分の心で、ありながら、使役の意味合いの強 い「ときめかせる」、「落ち着かせる」のようにセルを使っている点である。 使役の最も一般的な用法は、

(

2

)

a.太郎は次郎に仕事をさせた。 b. 太郎は花子を学校に行かせた。 のように、使役主が被使役主に対して、被使役主の行為を命令するという用 法である。(I)は行為者「私」が私自身に対して命令を行っているような表 現形式である。自分自身の身体部位に対してはすべて使役表現を使うのかと し、うと、 (3) a.彼は手をあげて怒った。

b

.

老人は目を細めて笑った。 のように、他動性の強い「あげる」、「細める」という表現も普通に使われて いる。同じ身体部位でありながら「心」は行為者の自分自身の意思によるコ ントロールが及ばないので使役性の動詞、「手」や「目」はコントロールが 及ぶので他動性の動詞かというとそうでもなく、

(

4

)

彼は目を光らせて辺りを見回した。 のように、コントロールが及ぶ身体部位「目

J

でありながら使役性の動詞

(2)

「光らせる」を使う表現が使われている。また、身体部位にのみこのような 用法が可能かというとそうでなく、 (5) 彼はマフラーを風になびかせて走った。 のように、身体部位でなくとも、所有物に対しても使え、また、 (6) a.車は社旗をはためかせながら、現場に急いだ。

b

.

白い機体を輝かせて特別機が到着した。 のように、非有情物でも使われている。 (6a)の社旗は車を所有している会 社の旗でなくてはならず、 (6b)の機体は特別機の機体でなくてはならな い。どうも、全体部分の関係にあるものなら、有情、非有情にかかわらずこ のような用法は可能であるらしくみえるO ここでは、全体部分の関係の中で 身体部位の表現に焦点を絞り見ていくことにする。 この表現について、日本語学や日本語教育の立場から以下のような問題点 が起こってくる。 ① このような構文を文法的にどのように解釈すべきか。 ② このような構文や身体部位の表現は歴史的にはどのように変化して いったのか。 ③ 諸外国語でも身体部位の表現では特殊な構文が使われているのか。

2

.

文法的解釈

2

.

1

自動詞使役構文と経験者格 動作主格と異なるものとして、井上(1976) では経験者格を認めるべきだ と考えているO 例えば、 (7) a.太郎は子供達をゲレンデで滑らした。(動作主格) b.太郎は足を滑らせて、転んだ。(経験者格) で、 (7a)と(7b)は異なる。また、 c.太郎は足が滑って、転んだ。(経験者格) で、 (7c)のように自動詞でも用いることができるO ここで問題にしている構 ( 2 ) 171

(3)

文と密接な関係にあるのは、

(

7

b

)

の「足を滑らせる

J

(

7

c

)

の「足が滑る」 の意味の違いで、

(

7

b

)

を自動詞使役構文と呼ぶことがある。 今泉 (2007) では、語柔意味論

(

L

e

x

i

c

a

lS

e

m

a

n

t

i

c

s

)

の手法を使って、 (8) a.子供が風邪で熱を出した。 b. 子供が風邪で熱が出た。 の共通性を、これらの文では主語「子供

J

は動作主ではなく、経験者であ り、「主語がある種のできごとから影響を被る」を意味する「被影響」とい う概念を使って説明し、同様に、主語に立つ人物の非意図的な行為である 「険をはらしている、冷や汗をかく、涙を落とす、顔を赤くする」などの再 帰用法も、被影響という概念を使って説明している。 2.2 再帰的自動詞使役構文 仁田(1982) では、再帰性とは他動詞が典型的に持つ「他者への働きか け」を持たない動詞で、「働きかけが動作主自身に戻ってくることによって、 動作が終結を見る」という意味的あり方を取る動詞と定義している。自動詞 使役構文の中でも、自分自身の身体部位に対して使役形式をとる構文を再帰 的自動詞使役構文と呼ぶことがあるO 早津(1991)では、例文の「私はその意見に心を落ち着かせて反論した。」 のような型の構文は

iX

X

の身体部位を させて、 する」でテ形につく ので、前文の主語

X

の主語の一貫性を保つ必要があり、身体部位を主語に転 換しにくく、サセテを用いると考えている。 2.3 状態変化主体の他動詞文 天野(1987) では、 (9) a.私たちは、空襲で家財道具を焼いた。

b

.

私たちは、空襲で家財道具が焼けた。 の(9a)を状態変化主体の他動調文と呼んでいる。主体「私たち」が直接 「焼いた」わけではないが、主体が状態変化を被る表現を表す文である。今 問題にしている使役文もこれに類似していると思われるO このような文が可

(4)

能な条件として主体の「私たち」と客体の「家財道具」が全体部分の関係を 有している事を条件と見ている。すなわち、他人の家財道具には使えず、私 たちの家財道具である場合にのみ使うことができるO

2.4

他動詞と使役文との関係 使役にこだわってきたが、使役は他動詞の延長にあり、自動詞でもヲ格を 使い他動詞性を持つ場合がある。例えば、 ( 1

0

)

a.太郎は口を聞けて走っているo (他動詞)

b

.

太郎は口を聞いて走っている。(自動詞) の対があり、自動詞と他動調の定義をどうするべきかという問題を提示して いるO 須賀(1981) では、(10a)は他人の口でもよいが、(10b)は自分の口 にしか使われないことから、他動詞は客体に変化を及ぼし、自動詞は客体に 変化を及ぼさないと定義している。そして、 日1) a.犬は尻尾を垂らして歩いている。 b. 犬は尻尾を垂れて歩いている。 のように、「垂らす」のスのように使役性がある他動詞もあるので、自動詞 に対応する他動詞が存在する動詞とそうでない動詞をさらに使役性があるか どうかによって区別して考えるべきと思われる。 使役の持つ意味について、自動詞にス、セル、サセルをつけたものは他 動の意味を表わし、使役にはならないとする時枝(1950) を基盤に、青木 (1977) では使役はあくまで被使役主自らの意思あるいは主体性をもってそ の動作を行うようにしむけることであり、自動詞使役構文は意味的に他動詞 であると考えている。このように、自動詞使役構文の存在をめぐって、他動 性と使役性の問題に発展し、論議が今でも解決をみない状況である。

3

.

歴史的変遷 過去の日本語は身体部位をどのように表していたかを考察することにす る。 ( 4 ) -169ー

(5)

3. 1 ニ重対格構文 中村 (2001)によると、 A とBが全体部分の関係、すなわち、 BがAの < 身体部位>・<所在>・<もちもの>・<性質・状態>にあれば、

I

A

ヲパ

B

J

構文が平安時代の漢文訂

1

1

読文で多用されている。 (12) a.幼いをば水に入れ、土に埋み、大人しいをば首を切る。 (1天草版 平家物語」巻4・26) b. 人突く牛をば角を切り、人食ふ馬をば耳を切て (1徒然草

J

183段) のように、「大人しL、」ゃ「牛」ゃ「馬」が全体、「首」や「角」や「耳」が 部分の関係にあるときには同ーの格が重複して用いられている。 佐々木 (2004)によると、現代語においても、茨城県水海道方言では、 (13) あの先生ゆ こどもコト ほっぺたゆぶった。 のように、コトで目的語を指示し、ゅは無標で全体部分の関係を表すことが できる。当該方言では「こどもーほっぺた」という「人一身体部位」だけで なく、「人一属性」まで二重対格構文が可能だとある。現代全国共通語では、 同一格助調の重複を避ける規則が存在するが、過去の日本語や現在でも方言 では、全体部分の関係があれば、全体を最初に見て、次いで部分を見て表 現するということが可能であったことが分かる。(13)を例にあげると、「あ の先生は子どもを、そのほっぺたをぶった。」というような視点であろうか。 金田(1993)によると、八丈島三根万言でも、 ( 1品 コ イ ゴ ー アショ ヘセーロ。 こ い つ の を 足 を おさえろ。 のように二重対格構文があり、全体部分の関係があるときには、直訳にする と 日5) a.太 鼓 の 皮 を や ぶ っ た 。 ( 非 所 有 形 ) 連 体 格

b

.

太 鼓 の を 皮 を やぶった。 所有形連用形 c.太 鼓 を 皮 を やぶった。 非所有形連用形 のように三つの構文が可能である。さらに、オーストラリアの原住民語やハ

(6)

ワイ語やトルコ語にも存在しており、日本語の系統を探る手掛かりになると 考えている。 3.2 再帰的他動詞 桜井(1977) では再帰的他動詞という概念を提唱している。古代語では、 「命が助かる」と「命を助かる」という対があり、「命を助ける」が誰の命で もよいのと異なり、「命を助かる」は自分の命でしか使わなL、。「助ける」は 一般的な意味での他動調であるのに対して、「助かる

I

は特殊な意昧での他 動詞であり、区別して再帰的他動詞と呼んでいる。 松下(1923~ 1924) では意志的他動と自然的他動という分類を行い、そ れが形容詞の場も同様で、 (16) a.瀬の早くて岩にせかるる滝川

b

.

瀬を早み岩にせかるる滝川 を比べて、「を み」は自然的他動で自動詞と同義だと述べている。引用す ると、 自他動の別は観念分解の形式上に在るので甲物の作用を乙物の作用 に同化せしめて考へた場合にこの作用は乙の甲を客とする他動なの である。「瀬が早い」の「早Lリは瀬を主体とする瀬の作用である が其れを他物(滝川1)の作用に同化せしめ滝川の作用として観察す ると「瀬を早み」と云ふので「瀬の早くて」と「瀬を早み」とは同 一事件なのであって唯その観方が違ふだけである。 と解釈しており、この場合も全体部分の関係がある場合にのみ可能であると 思われる。 実際の文献で検証すると、「今昔物語」では、 日7) a.俄ニ頭ヲ痛ム事難堪シ(巻23) b. 頭ヲ痛ガリ狂フト(巻26) のように、「頭が痛い」と「頭を痛める」ではなく、「頭を痛む」と他動詞で 使い、そして同様に、「心を・腹を・背を痛む」を使っていた。「日本国語大 ( 6 ) 167一

(7)

辞典第二版」では「胸をいたむ」の「を」を痛む場所を示すと解釈してい

るo

1

痛く感じているO その場所は胸である」というような解釈であろう。

ところが、 1867年に出された「和英語林集成初版」では、「胸が痛む」に対

応する語形として、「胸をいたむ」ではなく、 (18) 孔1unewo itame -ru, -ta

のように「胸をいためる」が使われている。また、「徒然草」では、 ( 19) 身をやぶるよりも、心を傷ましむるは、人の害ふ事なほ甚だし(129 段) と「心を痛ましむ」と使役文を使っているO 江戸前期に書かれた日出本「醒酔笑

J

や「落窪物語」では、 ω1) a. 一つはりたれは¥かの相手大いに腹を立ち (1醒酔笑J) b. いとどことをつけて、はらをたちて、しかけたる衣どもも著ずて (1落窪物語J) のように「腹を立つ」と使っている。鈴木(1985) によると、「腹を立つ」 という表現が明治期以降消滅していったが、その理由を、 (2D a. 腹 が 立 つ b. 太 郎 が 腹 を 立 つ という自動詞「立つ

J

では二つの自動詞文が存在していた。

(

2

1

b

)

のヲは変 化する身体部位を示す名詞に続き、それに対応する他動詞構文では、 C. 太郎が (太郎を) 腹 を 立 て る となり、他動詞「立てる」が使われるが、「太郎」と「腹」が全体と部分と の関係にあるために、(太郎を)は省略されて、

d

.

太 郎 は 腹 を 立 て る になり、さらに

(

2

1

b

)

の自動詞文が全体と部分との関係をより明確にするた めに、 e. 太郎の腹が立つ に変化していったと考えている。同様の変化は、「眼をあく

J

1

眼をねむる」

(8)

にも明治期以降に起こったと考えている。 3.3 カス型動調 青木(1

9

9

7)では、 凶 a. 日 ご ろ も 斯 く な む 宣 へ ど 、 邪 気 な ど の 、 人 の 心 た ぶ ろ か し て (1源 氏 物 語 柏 木J) b. かきみだるる心ちをまどはかさせ侍べき契にやと、 (1狭衣物語」 巻2) のような「たぶろかす」や「まどはかす」などカスを用いる動詞を、カス型 動詞と名付け、その派生を、 カス型動詞は古くは中古の文献から見られるが、先ず「有対自動詞」 から生成され始めたことが見てとれる。したがって、カス型動詞の派 生は、自他対応関係にある本来の他動詞形では表わし得ない表現を担 うために起こったと考えられる。すなわち、それは<動作主をより強 く表出させた表現>であり、そこから従来説かれてきたような、「マ イナス評価」や「強調」などの表現価値が生じたものと考えられる。 カス型動詞は中古から中世へと下るにしたがって、有対自動詞だけか らではなく、他動調や「無対自動詞」からも派生されるようになり、 勢力を拡大していった。ただし無対自動詞から派生される場合、カス 型動詞は、無対自動詞の「他動詞化形式」として機能することになっ たと考えられる。 としており、 加~ a.目をL、からかして、吾をとく得んと、てをねぷりつる軍ども、う せにけり (1宇治拾遺」、巻8-3) b.大の眼をL、からかし、しばしにらまへ奉り (1平家物語

J

、巻2) のように「いからす」とL寸本来の表現が存在するのに、カス型動詞が文献 に見える。 「源氏物語」には「日をおどろかす」ゃ「心を動かす」がある。「心を動か ( 8 ) -165一

(9)

す」は他人の心と自分の心と共に使っている。 凶) ものの心知りたまふ人は、かかる人も世に出でおはするものなりけり と、あさましきまで目を驚かしたまふ。 (1源氏物語 桐壷J) では、「目を見張る」という意味で自分の日を「おどろかせる」という使役 構文である。 「日葡辞書」では、 包司 a.キヲクサス 人を悩ます。悩んでいる b. キヲクサラカス 気力を失う。また、自分白身や他人に対して嫌 気がさす c.キガクサッタ のように、「気が腐る

J

という自動詞と同時に「気を腐す」という再帰的他 動詞、また、「気を腐らかす

J

というカス型の使役的他動詞が併存していた。 また、「浮世風呂」には 凶気を腐らしたってはじまらねへ事だ(二、上) のように、「気を腐らす

J

という再帰的他動詞が使われている。

4

.

他言語における身体部位を表す構文 4. 1 影響性共有 認知言語学の観点から、 Langacker (1996) は影響性共有 (affectedness overlap) によって、特殊な構文が可能になると説いている。例えば、 包 カ a. 1 tapped her on the shoulder.

b. Andre kicked his opponent in the stomach.

のような構文が英語では可能である。「私は彼女を殴った。殴った場所は 彼女の肩であった。」ゃ「アンドレは敵を蹴った。蹴った場所は敵の腹で

あった。」という意味であり、 (27a)では全体である‘her' と身体部位であ

る‘shoulder' が、 (27b)では全体である‘hisopponent' と身体部位である

(10)

る。また、フランス語でも、 凶 a.Illeve la main. 彼は子を挙げるO b. Elle ferme les y巴ux. 彼女は眼を閉じるO c.J'ouvre la bouche. 私は口をあけた。

で、定冠詞‘le,les, la'を用いても、‘samain (his hand), ma bouche (my mouth)'と同じ意味にとられると書いている。通常の場合には、動作が自 分の身体に及ぶ動作であれば、特に明示しない場合には動作主自身の身体部 位であると理解されることを示している。

4.2

再帰性 多くのヨーロッパ言語では再帰動詞を用いて身体部位表現を行っているO フランス語では身体部位を目的語にとる再帰構文がある。 包9) a.Ilse lave. 彼は身体を洗うO b.Ilse lave les mains. 彼は手を洗う。 のように、「自分の身体を洗う(洗う場所がどこかというと手である)J と いうような再帰構文があるO この場合には、再帰用法を表す‘se'が必要で、 行為者の自分の身体でなければならなL、。意思的でない行為に対しでも、 側 a. Se casser la jambe. 足を折る。 b. Elle s'est blesse la main. 彼女は子に怪我をした。 のように使える。この構文は事態を自然に起こったこととして現象的に表現 する中立用法と考えることもできるが、その場合には<原因>項が存在して ¥ B ノ ハ H U l ( 163

(11)

おり、主体の不注意で起こったという意味を含意し、主体の関わりを示して いるO 春木 (2002)によると、フランス語の再帰構文一般について言えるこ とは、「再帰代名詞は動詞の表す事態の対象である目的語、もしくは動詞が 表す事態を引き起こすために働きかけられる被使役主が、トピックの指示対 象と同一指示であることを表すマーカーとして機能しているのである」とい うように、主体の意思性が問題となる。 同じラテン語系統のポルトガル語でも同様で、 (31) a. Sempre me lavo as maos. 私は何時も手を洗う。 のように、一人称の再帰代名詞の‘me'で身体の一部分に対する行為を表 す。さらに再帰動詞があり、 b. El巴levantaa Bandeira Nacional. 彼は国旗を揚け、るO の他動詞‘levantar'が、 c. Ele se levanta muito tarde. 彼はとても遅く起きるO のように、再帰動詞‘levanter-se'になると、「自分自身を揚げる」、つま り「起きる」を表す。 スペイン語でも感情動詞は、 (32) a. Nos entusiasmamos. 我々は興奮した。 b. No te preocup巴spore so. その事に心配するな。 c. icalmese! 落ち着け。 のように、一人称複数の‘nos'や二人称単数の‘t巴'など‘se'を用いた再帰 構文である。

(12)

英語でも、 倒 a. 1 stretched myself out on th巴bed. 彼はベッドの上で体を伸ばした。 b. Don't trouble yourself about that man. あの男のことは気にするな。 c. He concentrated himself. 彼は集中した。 のように再帰用j去を用いるが、中村

(

2

0

0

4

)

では、再帰中間構文を認知文法 の立場から、他動詞文、再帰構文、受身という連続の中で解いているO 凶 1dreaded myself. 私はこわかった。 のような再帰構文も、経験者 (experiencer)の中で原因 (stimulus)が自分 に再帰するという関係で考えている。また、 岡 a. John stabbed himself. ジョンは自身を刀で刺した。 b. J ohn dressed himself. ジョンは服を着た。 c. John pricked himself with a needl巴 ジョンは自身を針で刺した。 d. John hurt himself in the game. ジョンは試合でけがをした。 の各文も「自らが自らの身体(の一部)に働きかけ」そして「それによって 身体の一部と全体としての自分自身が状態変化する」という共通点の中で考 えようとしている。 英語においても、感情動詞は疑似受動文のような動詞で、‘beafraid of, be delighted with, be scared of, be encouraged with' のように、受身形に なるが、使役者は表現しない。しかし、鈴木

(

2

0

0

0

)

では、英語でも歴史的変 ( 12 ) 161ー

(13)

化として

倒 a. addict oneself to→ be addicted to b. amuse oneself with → be amused with c. concern oneself for→ be concerned for d. excuse oneself from →be excused from e. satisfy oneself of→ be satisfied of のように、再帰動詞の自動詞化がおこり、さらに、 間 a. absent oneself from → be absent from b. content oneself with →be content with c. pride oneself on→ be proud of のように、再帰動詞が形容詞に変化した。

4.3

与格構文 中村 (2004) によると、フランス語では与格構文で身体部位を表すことが できる。 DATは与格、 GENは属格である。 倒 a. Le nez lui coule. The nose him-DAT flows

彼は鼻水がたれている。

b. Son nez coule. His-GEN nose flows

彼は鼻水がたれているO

(39) a. J ean 1 ui a saisi le bras. Jean her-DAT has seized the arm

ジャンは彼女の腕を捕まえた。

b. J ean a saisi son bras. Jean has seized her-GEN arm

ジャンは彼女の腕を捕まえた。

(14)

性功 Jean lui a casse son vase Jean her-DAT has broken her-GEN vase

ジャンは彼女の花瓶を割った。 のような構文を、「利害の与格構文」と呼んでいるO 特に、身体領域は直接 与格に影響を与えることが多く、与格構文が発達している。どの言語におい ても認知の共通性があるためと思われるが、同ーの状況がフランス語だけで なくドイツ語、スペイン語にも見られる。

4

_

4

使役動調 英語では、自分が直接行った行為でないが、自分の身体部位に影響が及ぶ 行為は、‘get十 object

+

-ed participle complementation' の形で表され る。また、‘have十object十 -edparticiple complementation' もあり、 性1) a. 1 get my hair cu

t

.

私は散髪した。 b. 1 have my hair cu

t

.

私は散髪した。 は(41a)が受け身、 (41b)が使役的意味である。目的語の中には自身の髪の 毛という身体部位は当然であるが、

(42) She got/had the watch repaired immediately.

k

は時計をすぐに修理した。 のように、所有物であっても可能であり、日本語の敬語では、 附 a. 天皇陛下のお身体が弱っておられるO

b

.

?天皇陛下のお車が故障なさいました。 を比較すると、 (43a)は問題ないが (43b)はおかしいように、角田(1990) の言うどこまでを部分として許容するかという所有傾斜の問題と発展し、使 役構文の目的語としてや主格の所有物として許容される範囲も興味のわく点 である。日本語では、自身の身体部位であれば、「私は髪を切った。」と自分 で行った行為のように、また、「私は髪を切ってもらった。」のように授受表 ( 14 ) Q d F h u

(15)

現で共通語では表現するが、沖縄方言では、「私は髪を切らせる。」と使役を 使い、さらに、迷惑の受け身がない。テ形+補助動詞による授受表現ができ たのが近世になってからといわれており、歴史的な変化にも興味が湧く。

4.5

身体部位を表す統語構造 在間(1990) によると、ドイツ語では、 性4) a. Er spuckt ihr ins Gesich

t

.

彼は彼女の顔につばをはきかける。 b. Er wascht ihr die Hande. 彼は彼女の子を洗ってやる。 のように、二つの異なった統語構造が身体部位を表すのに使われている。

(

4

4

a

)

は<与格(人)十方向副詞類(身体部位) >という構造を、

(

4

4

b

)

は <与格(人) +対格(身体部位) >という構造を持っている。意味の違い は、

(

4

4

a

)

は身体部位に対する働き掛けのみを表すのに対し、

(

4

4

b

)

は身体 部位に対する働き掛けのみでなく、状態変化も含意しているo

(

4

4

a

)

では単 に「つばをはきかける

J

という行為のみを表しているが、

(

4

4

b

)

では「洗っ た結果きれいになる」という意味を含意するO 4.6 ニ重主語文 木村 (2002) によると、中国語では A型・ {81<経験者 >-82<身体部位 >-v} と、 B型 : {81 <経験者 >-82<刺激体 >-v} に分けられる二重 主語文があり、感覚・知覚・心的状況を表すことができる。 同 a. ?我心里f艮高。 私は(心が)とてもうれしし、。 b. 小王世子界。 王くんはおなかが痛い。 中国語では温感・疲労感・痛庫感はA型と B型の二重主語文が作れるが、 味覚・唄覚・飢飽感・快感・悲喜感等についてはA型のみの制限があるO 温 感・疲労感・痛厚感は経験者として対象が自分の体と密接だが、昧覚・嘆

(16)

覚・飢飽感・快感・悲喜感等は刺激体が刺激を与える対象の属性と捕らえら れているためである。これが、「酒が飲みたい」の欲求・「彼女が嫌いだ、」の 好悪・「ピアノが弾ける」の可能のような日本語の対象格と結ひ、っき、同じ 問題と扱えられるO 身体部位を表わす名詞は中国語において特殊な構文を作 り、中川(1992) によると、 附 a.他紅了験。 b. 彼は顔を赤くした。 c.他脆紅了。 d. 彼は顔が赤くなった のように、日本語の自動詞(46d)に対応する (46c)は身体部位名詞「験」が Vの前に来て、日本語の他動詞 (46b)に対応する (46a)は身体部位名詞が V の後に来る。 同 a.他拍了拍胸踊,

b

.

彼は胸をたたいて、 c. *他胸捕拍了拍,

d

.

*彼は胸をたたかれて、 のように、主格が動作の一方的な受け手の場合、 (47c)のように身体部位名 詞をVの前に持ってこられない。 側 a.他挺了挺胸捕, b. 彼は胸をそらせて、 c.他胸踊挺了挺, d. *彼は胸がそって、 のように、 (48c)は他動詞のようにしか訳せない。日本語からすると対格の ように感じるが、「胸が自らそる」のように自発と捉えられている中国語で は自ら変化するものしかVの前には現れない。 ( 16 ) 157~

(17)

4.7 迷惑の受け身 望月(1992)によると、中国語では日本語の迷惑の受身に似た表現に、 倒 a.他死了妻子。 彼は妻子に死なれた。 という表現があり、同時に、

b

.

他的妻子死了。 とも、 (49a)と同じ意味で使え、また、 加)他断了腿了。 彼は足がちぎれた。 ともいえる。このように身体部位だけでなく、親族等の主語に属するものに 全て使える表現のようだ。 4.8 使役構文「把」 彰 (2002)によると、「把」は、 i(主語)→「把」→目的語→動詞」の語 順で他動詞に相当する文を作る機能を持っている。 同 a.把我累死了。 私を非常に疲れさせた。 b. 把我気杯了。 私を非常に怒らせた。 C.把我日少醒了。 うるさくて私の目を醒めさせた。 のように、「ある状態にさせた」という意味で、非意図的な行為に用いられ る。「我急死了

J

(私は本当にいらいらした)は「把我急死了」とも言え、 「急我死了

J

(私をいらいらさせた)と同じ意味である。

5

.

まとめ 日本語で「私はその意見に心を落ち着かせて反論した。」のように、対格 「心

J

は自分の心で、ありながら、セルという使役構文を普通に使っている。

(18)

論理的に考えると、不思議な構文であるO このような構文が可能なのは、主 格「私」と対格「心」が身体部位の関係にあるときにのみ可能で、日本語文 法の面からはこのような構文を再帰的自動詞使役構文と名付けて論議してき た。この構文は他動詞と使役との本質性を考察する問題にも波及し、その文 法的意味については結論を見ていないように思える。また、現代語のこのよ うな構文は過去においても存在していたのかという問題にも興味が及ぶ。現 代共通語においては同ーの格助詞を一文の中に共起させることはできない が、古典語では、対象が身体部位である時には可能であったことが分かっ た。さらに、自他の問題と絡めて考えると「胸を痛む」や「腹を立つ」とい うように表現が可能であったが、明治期以降「胸を痛める」や「腹を立て る」のように現在の用法に変化してくるのもわかった。「源氏物語」におい ても、「目を驚かす」という構文が既に存在しているが、一体いつから再帰 的自動詞使役構文が日本語で使われだしたのか、過去から存在していたの か、これらについては、結論は出されていないように思う。また、言語は普 遍的に人聞が外界をいかに認知するかを反映しているという認知言語学の立 場から多くの研究がなされ、身体部位表現は日本語のみでなく、印欧語だけ でなく中国語など多くの言語においても特異な構文で表現されているのが分 かっている。しかし、その特異な構文は、言語に応じて再帰動詞、与格構文、 二重主語等色々な構文が見つけ出される。 参考文献 青木博史(1997) Iカス型動詞の派生J

c

r

国語学Jl188) 青木伶子(1977)I使 役 自動詞・他動詞との関わりにおいて J

c

r

成膝国文』 10) 天野みどり(1987)I状態変化主体の他動詞文J

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国語学Jl151) 井上和子(1976)

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変形文法と日本語下意味解釈を中心に』、大修館書居 今泉志奈子(2007) I日本語動詞の意味構造と経験者主語の概念についてJ

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言語と文 ( 18 ) ~ 155

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化の展望」、英宝社) 金田章宏(1993)IW三重』表示現象をめぐって一八丈島三根方言を例にJ( W日本語の 格をめぐって」、くろしお出版) 木村英樹(2002)

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参照

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