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チベット語アムド農民方言 : 音韻体系と文の基本 構造

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Academic year: 2021

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神戸市外国語大学 学術情報リポジトリ

チベット語アムド農民方言 : 音韻体系と文の基本 構造

著者 ダムディン ジョマ

学位名 博士(文学)

学位授与番号 24501甲第55号 学位授与年月日 2017‑03‑24

URL http://id.nii.ac.jp/1085/00002113/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

[博士論文審査の要旨]

本論文は、申請者ダムディン・ジョマさんの母語であるチベット語アムド農民方言の音韻、文 法、語彙の3点を中心に同方言の全体像の記述・解明を目指したものである。

第1章では、音韻体系の全体像とその特徴について分析・記述している。特に、口語音と異な る読書音の存在を指摘し、両者の相違を分析する。また、アムド農民方言の母音体系および子音 体系を文語形式と比較し、歴史的変遷についても論究している。

第2章では、格標示と述語構造を中心に文の基本構造を分析・記述する。その際、第1章で設 定した音素記述に基づいて同方言の文を記述する。格標示では、名詞・代名詞の主語と目的語の 格標示が文のタイプに応じてどのように変化するかを分析・記述する。述語構造では、名詞述語 文,形容詞述語文,動詞述語文における述部の構造と助動詞の機能を分析する。

第3章では、モダリティ表現、ヴォイスと複文およびその他の文法事象を分析・記述する。モ ダリティでは、命令、推量、経験、願望、許可、強制、祈願、依頼、勧誘、可能の表現について、

ヴォイスでは、使役表現と受動表現について記述する。複文では、条件、逆接、目的、原因の表 現の構造を記述する。最後に、アムド農民方言の口語に特徴的な助詞について記述している。

本論の最後には、語彙集が添付されている。語彙集は、チベット文語形式、日本語訳、英語訳 の3通りの検索が可能な語彙集となっている。

以上のように、本論文ではこれまで包括的な研究がなかったアムド農民方言の全体像を世界で はじめて提示したものであり、記述分析方法も精緻であり、その学術的価値は高く評価できる。

従って、本審査委員会は本論文が学位請求論文として、一定の基準に達しているものと判断する。

[論文審査結果]

チベット語は、ウーツァン方言(中央方言)、カム方言、アムド方言の3つに大きく分類され る。そのうち、チベット高原東北部(青海省、甘粛省、四川省)で話されるアムド方言には、牧 民方言と農民方言、半農半牧方言という3タイプの下位方言の存在が指摘されている。その中で、

古形式をより保存している古形保存型と見なされる牧民方言が研究者の注目を集めこれまで比較 的よく研究されていた。一方、より改新的とみなされる農民方言については、これまで包括的な 研究はなかった。本論文は筆者自身の母語である青海省海南州同徳県で話されるチベット農民方 言の音韻、文法、語彙の全体像をはじめて提示したものである。

第1章では、まず音声学的記述をもとに音韻論的分析に基づき音韻体系を設定した。その結果、

子音では前置子音を体系的にもつこと、母音では、/v/を母音音素としてもつことなどの音韻諸特 徴が判明した。また、口語音とは異なる読書音の存在も明らかになった。さらに、古チベット語 形式との比較により、同方言の歴史的変化の特徴もあとづけられた。なかでも、chain shiftと呼ば れる母音変化が解明できたことは、通言語的にも興味深く高く評価できる。

(3)

第2章では、名詞の格標識と述部構造を軸に文の基本構造を解析した。チベット文語や他の方 言とおなじように基本的に能格型の格標識をとっているが、代名詞では同方言特有の形式がみら れる。述部構造は、名詞述語、形容詞述語、動詞述語の各々について、headプラス助動詞からな る構造を記述・分析している。とくに、形容詞述語文においては、形容詞が語幹のみか、語幹プ ラス接辞、ないし語幹の重複形をとるかにより、主観的表現と客観的表現の違いが生み出される ことが判明した。これは通言語的にも興味深いデーターである。

第3章では、前章で論じた基本文構造にくわえて、モダリティ表現、ヴォイスと複文およびそ の他の文法事象を分析・記述する。その中でとくに興味深いのは、文語には存在しないが口語で は必須である口語特有の助詞の存在とその機能である。動詞ないし形容詞のあとについて、名詞 句化する機能が主であるが、独特な形式と機能をもっている。同方言の口語における改新的

innovativeな形式、表現だと考えられる。

巻末の語彙集は、口語形式(口語音、読書音)、文語形式、日本語訳、英語訳が列挙され、文 語、日本語、英語のいずれからも検索可能になっている点で、きわめて便利なものとなっている。

以上概観したように、本論文はこれまで研究が少なかったアムド農民方言についての初めての 包括的な研究であり、音韻、文法、語彙の全体像の輪郭が、本論文によって明らかになったとい える。かつ、今後のチベット語研究はもとより言語学研究全般にとっても極めて有用なデーター を提供するものである。その意味で、本論文の学問的価値は高く評価できる。

惜しまれる点は、時間不足もあって、興味深いデーターの分析と解説がかならずしも十分にな されていないことである。それらは、今後申請者が一人前の研究者としてさらに研究を続け、考 察を深めて行くことに期待する。

[最終試験結果]

最終試験は、2017 年 2 月 7 日午後3時から三木記念会館で実施され、武内紹人(主査)、竹 越孝、林範彦および星泉(東京外国語大学アジアアフリカ言語研究所教授)が審査にあたった。

冒頭に申請者が論文要旨のプレゼンを行った後、質疑応答が約2時間にわたって行われた。

審査委員からは、論文構成の適切性、術語の説明の過不足、分析の妥当性、さらなる説明の必 要性など,多岐にわたる質問があり、充実した論議が交わされた。

公開審査終了後、全委員で合議を行い、当該論文が地道な研究調査にもとづき貴重な言語学的 データーを提示した研究成果であり、学界に大きな貢献をもたらす研究として高く評価できる点 で合意が得られ、最終試験の評価を「合格」とすることが決定された。

参照

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