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量刑判断に関する検討 ―日韓における比較法的考察も踏まえて―

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博士学位請求論文

量刑判断に関する検討

―日韓における比較法的考察も踏まえて―

Eine Studie über d ie Strafzumessung

中央大学大学院法学研究科刑事法専攻博士課程後期課程

裵 相均

(2)

i

量刑 判 断に 関 す る検 討

―日 韓 にお け る 比較 法的 考 察も 踏 ま えて ―

目 次

序 章

Ⅰ 本 研 究 の 目 的 と 分 析 視 座 ... 1

Ⅱ 本 研 究 の 構 成 と 概 要 ... 1

第 一 章 法 定 刑 の 引 上 げ と 刑 事 立 法 ― 日 韓 両 国 の 現 状 と 議 論 を 中 心 に ― Ⅰ 序 ... 5

Ⅱ 日 韓 両 国 に お け る 社 会 変 化 ... 6

1. 社 会 統 計 の 分 析 ... 6

( 1) 市 民 の 認 識 ... 6

( 2) 不 安 要 因 ... 7

2. 刑 事 立 法 と 安 全 要 求 ... 8

3. 安 全 要 求 の 原 因 ... 9

( 1) 社 会 の 巨 大 化 •複 雑 化 ... 9

( 2) マ ス メ デ ィ ア の 役 割 ... 10

4 現 状 ... 11

Ⅲ 刑 事 法 の 改 正 と 量 刑 ... 12

1. 韓 国 に お け る 刑 事 立 法 の 動 向 ... 12

( 1) 刑 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 ... 12

( 2) 性 暴 力 犯 罪 の 処 罰 等 に 関 す る 特 例 法 ... 12

( 3) 特 定 犯 罪 者 に 対 す る 位 置 追 跡 電 子 装 置 装 着 等 に 関 す る 法 律 ... 13

( 4) 性 暴 力 犯 罪 者 の 性 衝 動 薬 物 治 療 に 関 す る 法 律 ... 14

2. 法 定 刑 の 引 上 げ と 量 刑 ... 14

( 1) 法 改 正 の 必 要 性 ... 14

( 2) 法 定 刑 引 上 げ の 過 程 ... 15

( 3) 法 定 刑 引 上 げ の 意 味 ... 16

Ⅳ 刑 事 立 法 に お け る 課 題 ... 17

1. 刑 事 立 法 の 役 割 ... 17

2. 刑 罰 論 に 基 づ く 考 察 ... 18

( 1) 刑 事 立 法 の 意 義 ― 保 護 法 益 ... 18

( 2) 抑 止 刑 論 ... 19

3. 日 韓 両 国 に お け る 課 題 ... 21

Ⅴ 結 ... 23

(3)

ii

第 二 章 量 刑 の 意 義 と 量 刑 判 断 の 不 統 一 に 関 す る 検 討

― 韓 国 の 現 状 と 議 論 を 中 心 に ―

Ⅰ 序 ... 24

Ⅱ 量 刑 の 概 念 ... 25

1. 量 刑 の 意 義 ... 25

( 1) 量 刑 の 概 念 区 分 ... 26

( 2) 法 律 上 の 量 刑 規 定 と 裁 判 官 に よ る 量 刑 ... 27

( 3) 憲 法 , 刑 事 訴 訟 法 と 量 刑 ... 28

2. 量 刑 の 重 要 性 ... 29

( 1) 裁 判 官 ... 30

( 2) 被 告 人 ... 30

( 3) 被 害 者 ... 30

( 4) 市 民 ... 31

3. 小 括 ... 31

Ⅲ 刑 の 量 定 の 過 程 ... 32

1. 法 定 刑 •処 断 刑 •宣 告 刑 ... 32

2. 刑 の 加 重 ·減 軽 ·免 除 ... 33

( 1) 刑 の 加 重 と 減 軽 ... 33

( 2) 刑 の 加 減 例 ·刑 の 免 除 ... 34

3. 刑 の 宣 告 猶 予 ·執 行 猶 予 ... 35

( 1) 刑 の 宣 告 猶 予 ... 35

( 2) 刑 の 執 行 猶 予 ... 35

4. 小 括 ... 36

Ⅳ 量 刑 判 断 の 不 統 一 ... 37

1. 制 度 上 の 問 題 ... 37

( 1) 量 刑 の 客 観 的 な 基 準 の 不 存 在 ... 37

( 2) 刑 事 特 別 法 の 乱 立 ... 38

( 3) 量 刑 審 査 の 困 難 ... 39

2. 実 務 上 の 問 題 ... 40

( 1) 不 十 分 な 量 刑 審 理 に よ る 量 刑 の 偏 差 ... 40

( 2) 執 行 猶 予 の ジ レ ン マ ... 42

( 3) 韓 国 に お け る , い わ ゆ る 「 前 官 礼 遇 」 の 慣 行 ... 43

3. 小 括 ... 43

Ⅴ 結 ... 45

1. 総 括 ... 45

2. 企 業 過 失 犯 罪 に 関 す る 新 た な 試 み ― 試 論 と 展 望 ― ... 45

第 三 章 量 刑 責 任 に 関 す る 検 討

(4)

iii

Ⅰ 序 ... 49

Ⅱ 量 刑 に 関 す る 法 規 範 と 実 務 に お け る そ の 適 用 ... 50

1. 刑 法 典 に お け る 刑 罰 及 び 量 刑 に 関 す る 規 定 ... 50

( 1) 法 定 刑 と 量 刑 規 定 ... 50

( 2) 刑 の 加 重 減 軽 事 由 ... 50

( 3) 刑 の 執 行 猶 予 ... 51

( 4) 検 討 ... 52

2. 実 務 に お け る 量 刑 相 場 ... 53

( 1) 量 刑 相 場 の 存 在 ... 53

( 2) 量 刑 基 準 と 量 刑 相 場 と の 関 係 ... 54

( 3) 検 討 ... 55

3. 小 括 ... 56

Ⅲ 量 刑 に お け る 責 任 主 義 ... 57

1. 犯 罪 論 上 の 責 任 と 量 刑 責 任 と の 関 係 ... 57

( 1) 量 刑 に お け る 責 任 主 義 ... 57

( 2) 行 為 責 任 ... 59

2. 量 刑 判 断 に お け る 「 幅 の 理 論 」 と 「 点 の 理 論 」 ... 61

( 1) 「 幅 の 理 論 」 ... 61

( 2) 「 点 の 理 論 」 ... 62

( 3) 検 討 ... 63

3. 量 刑 事 情 ... 64

( 1) 行 為 責 任 と 量 刑 事 情 ... 64

( 2) 予 防 的 考 慮 と し て の 量 刑 事 情 ... 65

4. 小 括 ... 67

Ⅳ 量 刑 判 断 の 構 造 ... 68

1. 量 刑 判 断 の 過 程 ... 68

( 1) 一 般 的 な 判 断 過 程 ... 68

( 2) 執 行 猶 予 を 伴 う 場 合 の 量 刑 判 断 ... 69

( 3) 執 行 猶 予 が 付 さ れ た 場 合 の 刑 期 ... 70

( 4) 刑 の 一 部 執 行 猶 予 の 場 合 の 量 刑 判 断 ... 71

2. 量 刑 の 理 由 ... 72

3. 上 訴 審 に お け る 量 刑 審 査 ... 73

4. 小 括 ... 74

Ⅴ 結 ... 75

第 四 章 量 刑 判 断 と 罪 数 ― 併 合 罪 に お け る 併 合 の 利 益 を 中 心 に ― Ⅰ 序 ... 77

Ⅱ 数 罪 に 関 す る 科 刑 ... 77

1. 前 提 的 考 察 ... 77

(5)

iv

2. 犯 罪 の 個 数 に 関 す る 規 定 ... 78

3. 罪 数 の 効 果 ... 79

( 1) 実 体 法 上 の 効 果 ... 79

( 2) 訴 訟 法 上 の 効 果 ... 80

4. 検 討 ... 80

Ⅲ 併 合 罪 に お け る 量 刑 判 断 ... 81

1. 併 合 の 利 益 ... 81

2. 複 数 の 犯 罪 を 併 合 す る 場 合 の 科 刑 ... 83

( 1) 最 判 平 成 15年 07月 10日 刑 集 57巻 7号 903頁 ... 83

( 2) 大 阪 地 判 平 成 16年 10月 1日 判 時 1882号 159頁 ... 85

( 3) 最 決 平 成 19年 3月 22日 刑 集 61巻 2号 81頁 ... 86

( 4) 最 決 平 成 24年 12月 17日 裁 判 集 刑 309号 213頁 ... 87

3. 併 合 罪 の 科 刑 に 関 す る 検 討 ... 88

( 1) 全 体 的 量 定 説 に 関 す る 検 討 ... 88

( 2) 個 別 的 量 定 説 の 妥 当 性 ... 89

Ⅳ 単 純 数 罪 に お け る 量 刑 判 断 ... 92

Ⅴ 結 ... 94

第 五 章 裁 判 員 裁 判 と 量 刑 判 断 ― 韓 国 の 現 状 も 踏 ま え て ― Ⅰ 序 ... 96

Ⅱ 裁 判 員 裁 判 と 量 刑 判 断 ... 97

1. 裁 判 員 法 の 概 要 ... 97

( 1) 合 議 体 の 構 成 ... 97

( 2) 裁 判 員 の 権 限 ·義 務 , 審 理 ... 97

( 3) 評 議 ·評 決 , 判 決 ... 98

( 4) 区 分 審 理 ·部 分 判 決 ·併 合 事 件 審 判 ... 99

2. 裁 判 員 裁 判 に お け る 量 刑 判 断 ... 100

3. 評 議 ·評 決 ... 102

4. 量 刑 理 由 の 記 載 ... 102

Ⅲ 控 訴 審 に お け る 量 刑 審 査 ... 103

1. 最 判 平 成 26年 7月 24日 裁 時 1608号 15頁 ... 103

( 1) 事 実 の 概 要 ... 103

( 2) 判 決 要 旨 ... 105

2. 検 討 ... 108

Ⅳ 韓 国 の 国 民 参 与 裁 判 と の 比 較 法 的 考 察 ... 110

1. 被 告 人 の 有 罪 ·無 罪 に つ い て の 評 議 , 評 決 ... 110

( 1) 評 議 ... 110

( 2) 評 決 ... 110

( 3) 量 刑 に 関 す る 討 議 ... 111

(6)

v

2. 控 訴 審 と の 関 係 ... 111

3. 検 討 ... 112

Ⅴ 結 ... 113

終 章 ... 115

参 考 文 献 ... 120

(7)

1

序 章

Ⅰ 本 研 究 の 目 的 と 分 析 視 座

Ⅱ 本 研 究 の 構 成 と 概 要

Ⅰ 本 研 究 の 目 的 と 分 析 視 座

従 来 , 日 韓 両 国 刑 法 学 に お い て , 量 刑 論 は 他 の 領 域 に 比 べ 研 究 対 象 と さ れ る こ と が 少 な か っ た が , 近 年 で は , 被 害 者 保 護 と 刑 事 立 法 の 活 性 化 , 刑 法 改 正 に よ る 重 罰 化 , そ し て 裁 判 員 制 度 の 導 入 に 関 連 し て , 刑 罰 の あ り 方 の 検 討 が 重 要 な 課 題 と し て 意 識 さ れ る よ う に な っ た 。 個 別 の 刑 の 量 定 の あ り 方 を 考 察 す る に は , 刑 罰 論 を 踏 ま え な け れ ば な ら ず , こ の よ う な 前 提 に 基 づ い て 実 務 家 と 研 究 者 に よ る , 量 刑 に 関 す る 共 同 研 究 が 活 発 化 し て き て い る 。 犯 罪 の 成 否 の み な ら ず , 刑 罰 の 種 類 ·程 度 に ま で 検 討 対 象 が 拡 大 し つ つ あ り , 犯 罪 論 と 刑 罰 論 と の 関 係 が 今 ま で 以 上 に 意 識 さ れ て い る こ と は , 今 日 の 刑 法 学 に お け る 1つ の 特 徴 と い う こ と が で き よ う 。

こ の よ う な 認 識 に 基 づ い て , 本 稿 で は , こ れ ま で 研 究 さ れ た 「 量 刑 判 断 」 と い う テ ー マ に つ い て , そ こ で 提 示 さ れ た 論 拠 や 実 務 の 見 解 を 参 考 し な が ら , 量 刑 判 断 の 実 際 を 検 証 す べ き と の 判 断 の 下 , 量 刑 判 断 に あ た っ て 必 須 と な る 立 法 か ら 刑 の 宣 告 ま で を 射 程 範 囲 と し た 上 で , 判 例 及 び 具 体 的 な 事 例 に 即 し た 検 討 を 行 う よ う に 試 み た 。 併 せ て , 比 較 法 的 視 点 も 取 り 入 れ て , 量 刑 論 に 関 す る 立 法 ·政 策 的 な 議 論 が 盛 ん に 行 わ れ て い る 韓 国 の 現 状 及 び 課 題 を , 比 較 対 象 と し て 取 り 上 げ る 。

ま た , 量 刑 過 程 が , 宣 告 刑 の 形 成 の み な ら ず , 法 定 刑 ·処 断 刑 の 形 成 を 含 む 多 様 な プ ロ セ ス で あ る こ と に 鑑 み , 法 定 刑 の 役 割 及 び 罪 数 の 問 題 に つ い て も 考 察 し た 。 判 断 主 体 の 問 題 と し て , 裁 判 員 裁 判 の 意 義 や 裁 判 員 裁 判 の 量 刑 判 断 に つ い て も 検 討 を 加 え た 。

本 稿 は , 基 本 的 に こ れ ま で に 執 筆 し た 「 量 刑 判 断 」 に 関 す る 諸 論 稿 を 1つ の 論 文 と し て ま と め た も の で あ る 。 ま と め る に あ た っ て , そ の 検 討 が 十 分 で は な か っ た 点 に つ き , 具 体 的 に は , 併 合 罪 に お け る 量 刑 判 断 や 裁 判 員 裁 判 に お け る 量 刑 判 断 に つ い て , 論 ず る 内 容 を 新 し く 書 き 加 え た も の で あ る 。 こ の よ う に , 新 た な 論 稿 を お こ す に あ た っ て , 各 論 文 に は 必 要 な 限 度 で 加 筆 , 訂 正 を 加 え た が , 過 去 に 示 し た 論 旨 を も ち ろ ん 変 更 す る も の で は な い 。

Ⅱ 本 研 究 の 範 囲 と 構 成

検 討 を 始 め る に あ た り , ま ず , 量 刑 判 断 に あ た っ て 必 須 と な る 立 法 か ら 刑 の 宣 告 ま で を 射 程 範 囲 と し た 上 で , 本 章 で は , 各 章 の 目 的 と 分 析 視 座 に つ い て 言 及 す る 。 第 一 章 か ら 第 三 章 ま で は 本 稿 の 基 礎 編 と し て , 第 一 章 で は , 近 年 の 刑 事 立 法 の 動 向 に 照 ら し て , 量 刑 判 断 の 基 礎 と な る 法 定 刑 の 役 割 及 び そ の 引 上 げ の 意 味 を , 刑 罰

(8)

2

論 ·政 策 論 的 視 点 を 入 れ つ つ , 総 合 的 に 検 討 す る 。 第 二 章 で は , 量 刑 判 断 に お け る 根 本 的 な 問 題 を 明 ら か に し た 上 で , 比 較 法 的 観 点 か ら , 韓 国 に お け る 量 刑 不 統 一 問 題 に つ い て 検 討 す る 。 第 三 章 で は , 日 本 に お け る 量 刑 理 論 と 実 務 に お け る 実 体 法 判 断 と の 関 係 性 を 検 討 し た 上 で , 量 刑 判 断 の 中 核 で あ る 量 刑 に お け る 責 任 主 義 を 明 ら か に し , そ の 判 断 過 程 を も 検 討 す る 。

こ の よ う な 量 刑 判 断 に 基 づ き , 第 四 ·五 章 は 応 用 編 と し て , 第 四 章 で は , 量 刑 判 断 に お け る 罪 数 問 題 を 検 討 し , 数 罪 の 中 で 特 に 併 合 罪 に お け る 処 断 刑 形 成 過 程 , 宣 告 刑 形 成 過 程 を 検 討 の 対 象 と す る 。 第 五 章 で は , 近 年 始 ま っ た 裁 判 員 制 度 と 量 刑 判 断 に つ い て 論 じ , 法 廷 に 裁 判 員 が 加 わ る こ と に よ る 変 化 に 注 目 す る 。 各 章 で 示 し た 論 考 を ま と め た 本 稿 の 結 論 を 終 章 で 示 す 。

さ ら に , 章 別 に 詳 細 に み る と , 以 下 の 通 り で あ る 。

第 一 章 は , 法 定 刑 の 引 上 げ と 刑 事 立 法 に 検 討 を 加 え た も の で あ る1

現 在 の 刑 事 立 法 に お い て は 「 安 全 」 な い し 「 治 安 」 の 必 要 性 が 強 調 さ れ て お り , ま た , 近 年 の 刑 事 立 法 の 活 性 化 に 鑑 み れ ば , 市 民 か ら の 安 全 へ の 要 求 が 刑 事 立 法 に な ん ら か の 影 響 を 与 え て い る で あ ろ う こ と は , 想 像 に 難 く な い 。 し か し な が ら , こ の 安 全 要 求 と 刑 事 立 法 と の 結 び つ き に 関 す る 考 察 は , こ れ ま で 必 ず し も 十 分 な も の と は い え な か っ た よ う に 思 わ れ る 。 市 民 の 安 全 要 求 が 刑 事 立 法 に お い て ど の よ う に 作 用 し た か に つ き , 具 体 的 に 検 証 す る 必 要 が あ る 。 そ の 際 , 日 本 と 同 様 に 刑 事 立 法 の 活 性 化 が み ら れ る 韓 国 に お け る 現 状 を 比 較 法 的 に 検 討 す る こ と は , 有 益 な も の と な り え よ う 。

そ こ で , 本 章 で は , 日 韓 両 国 の 犯 罪 統 計 や 犯 罪 に 関 す る 市 民 の 意 識 が , 安 全 要 求 と 刑 事 立 法 の 活 性 化 に い か な る 影 響 を 与 え て い る の か , そ の 両 者 の 因 果 関 係 を 探 る こ と と す る 。 ま た , 近 年 な さ れ た 韓 国 に お け る 法 改 正 を 参 照 し つ つ , 韓 国 に お い て 刑 事 立 法 の 活 性 化 が み ら れ る よ う に な っ た 背 景 を 明 ら か に す る 。 そ し て , そ の 分 析 を も と に , 市 民 の 安 全 要 求 と 刑 事 立 法 の 役 割 と の 本 来 あ る べ き 関 係 性 を 模 索 す る 。

第 二 章 は , 量 刑 の 意 義 と 量 刑 判 断 の 不 統 一 に 関 し て 検 討 を 加 え た も の で あ る2。 日 韓 両 国 に お い て , 法 秩 序 の 維 持 の た め に 処 罰 は 必 要 不 可 欠 で あ り , そ の 処 罰 の 基 準 が 不 明 確 す る と 犯 罪 予 防 効 果 は 減 少 す る と い う こ と は こ れ ま で 一 般 的 に 認 め ら れ て き た が , 実 際 に は , 量 刑 判 断 の 不 統 一 に よ る 法 適 用 及 び 執 行 の 信 頼 性 が 問 題 と な っ て い る と い う の が 実 態 で あ ろ う 。 そ れ ゆ え に , 犯 罪 の 成 否 の 判 断 過 程 よ り も , 量 刑 の 基 準 が 重 要 視 さ れ る こ と に な る が , 量 刑 に つ い て の 議 論 は 不 十 分 な の が 実 情 で あ る 。

本 章 で は , 量 刑 論 と 刑 罰 論 の 両 者 を 通 じ て 一 貫 し た 理 論 基 盤 の 形 成 を 背 景 と し て , 量 刑 の 意 義 及 び 重 要 性 を 詳 細 に 研 究 す る も の で あ る 。 特 に , 韓 国 に お い て は 量 刑 判 断 の 不 統 一 問 題 が 発 生 し て お り , そ の 問 題 は , 量 刑 論 と 刑 罰 論 の 関 係 性 を 論 ず る 上 で 好 個 の 素 材 と い え よ う 。 韓 国 で の 現 状 を 参 照 す る 上 で は , 徹 底 し た 原 因 分 析 が 必 要 で あ る と 考 え ら れ , 制 度 上 の 問 題 と 実 務 上 の 問 題 に 分 け て 検 討 す る 。 本 章 の 結 び に 代 え て ,

1 拙 稿 「 韓 国 に お け る 法 定 刑 の 引 上 げ と 刑 事 立 法 に 関 す る 一 考 察 」 比 較 法 雑 誌 48巻 3号 ( 2 014年 ) 305頁 。

2 拙 稿 「 韓 国 に お け る 量 刑 の 意 義 と 量 刑 判 断 の 不 統 一 に 関 す る 検 討 」 中 央 大 学 大 学 院 研 究 年 報 法 学 研 究 科 篇 43号 ( 2014年 ) 189頁 。

(9)

3

量 刑 判 断 に お け る 企 業 犯 罪 の 問 題 , 特 に 企 業 過 失 犯 罪 の 対 策 と し て , 韓 国 に お け る 両 罰 規 定 の 改 正 と 法 人 処 罰 の 根 拠 に 関 し て も 簡 単 に 紹 介 す る こ と に す る3

第 三 章 は , 量 刑 に お け る 責 任 主 義 に 検 討 を 加 え た も の で あ る4

近 時 , 被 害 者 保 護 と 刑 事 立 法 の 活 性 化 , 刑 法 改 正 に よ る 重 罰 化 , そ し て 裁 判 員 制 度 の 導 入 を 契 機 に , 量 刑 論 が 重 要 な 課 題 と し て 意 識 さ れ て い る 。 そ こ で は , 刑 罰 論 に 根 ざ し た 検 討 が 必 要 と さ れ る が , 加 え て , 個 々 の 量 刑 事 情 , 量 刑 事 情 の 方 向 性 , 量 刑 事 情 の 重 要 性 の 程 度 が 明 ら か に さ れ な け れ ば な ら ず , こ の 解 明 に あ た っ て は , 量 刑 責 任 の 本 質 , す な わ ち , 行 為 責 任 と 予 防 的 考 慮 と の 関 係 性 に つ い て の 検 討 が 不 可 欠 で あ る 。 本 章 は , 量 刑 責 任 の 基 礎 に な る 実 体 法 理 論 と 量 刑 理 論 と の 整 合 性 を 分 析 す る も の で あ る 。 責 任 の 幅 に 予 防 目 的 が 考 慮 さ れ る に 際 し て , 予 防 的 考 慮 に 係 る 量 刑 事 情 は 責 任 の 付 随 事 情 と し て 責 任 を 軽 減 す る 方 向 で の み 斟 酌 す る ア プ ロ ー チ が , 量 刑 相 場 に お け る 量 刑 事 情 の 範 囲 , ま た , 量 刑 理 由 の 記 載 , 上 訴 審 に お け る 量 刑 審 査 基 準 と の 関 係 性 に 鑑 み れ ば , 有 用 で あ る と 結 論 づ け る も の で あ る 。

第 四 章 は , 量 刑 判 断 と 罪 数 に つ い て 併 合 罪 に お け る 併 合 の 利 益 を 中 心 に 検 討 を 加 え た も の で あ る 。

量 刑 に お け る 罪 数 論 ·競 合 論 は , 犯 罪 論 と 刑 罰 論 を つ な ぐ 領 域 と し て 位 置 づ け ら れ て い る 。 そ し て , 罪 数 論 は , 実 体 法 よ り は む し ろ 手 続 法 に お い て , 特 に 実 務 に お い て 重 視 さ れ て き た と こ ろ で あ り , 理 論 的 研 究 の 対 象 と は な り に く い 分 野 で あ る と さ れ て き た 。 例 え ば , 刑 罰 権 は , 犯 罪 の 個 数 に 対 応 し て 発 生 す る か ら , 1 個 の 犯 罪 を 二 重 に 処 罰 す る こ と は 許 さ れ な い が , 2 個 の 犯 罪 に つ い て は , 時 を 異 に し て そ の そ れ ぞ れ に 刑 罰 を 科 す こ と が 可 能 で あ る 。 1 個 の 行 為 が 複 数 の 構 成 要 件 を 実 現 し た 場 合 , あ る い は , 複 数 の 行 為 が 複 数 の 構 成 要 件 を 実 現 し た 場 合 に は , そ れ ら が い か な る 関 係 に 立 つ の か が 問 わ れ る ( 競 合 論 ) こ と に な り , 複 数 の 構 成 要 件 間 の 関 係 と 犯 罪 の 個 数 決 定 及 び こ れ に 対 す る 処 断 刑 の 選 択 な ど が , 量 刑 判 断 に お い て , 困 難 な 問 題 と な る 。 例 え ば , 1 度 に 数 人 を 殺 す こ と と , 数 回 に わ た っ て 一 人 ず つ 殺 す こ と に は 刑 法 的 評 価 に 差 異 が 生 じ る か ら , 両 者 の 場 合 に , 犯 罪 の 個 数 は い く つ か , 関 連 す る 数 罪 の 間 の 関 係 は ど う な る の か , そ れ に よ っ て 刑 罰 は ど う 変 化 す る か , と い っ た 問 題 が 生 じ る 。

ま た , 刑 事 訴 訟 法 上 は 公 訴 不 可 分 の 原 則 や 一 事 不 再 理 効 •二 重 処 罰 の 禁 止 ( 憲 法 39 条 , 刑 事 訴 訟 法 337 条 1 号 ) の 範 囲 を 論 じ る に 当 た っ て も , 刑 法 上 の 罪 数 論 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 も っ と も , 量 刑 論 と 罪 数 論 , 特 に 数 罪 と の 関 係 性 に つ い て は , 主 た る 検 討 課 題 と し て 議 論 さ れ て き た わ け で は な い が , 近 時 , 裁 判 員 制 度 の 導 入 を 契 機 に , 量 刑 論 が 重 要 な 課 題 と し て 再 認 識 さ れ て お り , 罪 数 論 に 関 す る 重 要 判 例 の 出 現 が 相 次 い で い る 。 本 章 は , い く つ か の 重 要 判 例 を 取 り 上 げ つ つ , 量 刑 に お け る 罪 数 論 の 現 状 と 課 題 を 明 ら か に す る 。

第 五 章 は , 裁 判 員 裁 判 と 量 刑 判 断 に つ い て , 韓 国 の 現 状 も 踏 ま え て 検 討 を 加 え た も の で あ る 。

3 拙 稿 「 韓 国 に お け る 両 罰 規 定 の 改 正 と 法 人 処 罰 の 根 拠 ― 『 企 業 シ ス テ ム 過 失 責 任 』 を 中 心 に ― 」 中 央 大 学 大 学 院 研 究 年 報 法 学 研 究 科 篇 42号 ( 2013年 ) 247頁 。

4 拙 稿 「 量 刑 責 任 に 関 す る 検 討 」 中 央 大 学 大 学 院 研 究 年 報 法 学 研 究 科 篇 44号 ( 2015年 ) 21 9頁 。

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4

裁 判 員 制 度 は , 国 民 か ら 選 ば れ た 裁 判 員 と 裁 判 官 が , そ れ ぞ れ の 知 識 や 経 験 を 活 か し て と も に 判 断 す る こ と に よ り , 国 民 に よ っ て よ り 理 解 し や す い 裁 判 を 実 現 す る こ と を 目 的 に , 犯 罪 事 実 の 認 定 及 び 有 罪 •無 罪 の 判 定 の 場 面 に と ど ま ら ず , そ れ と 同 様 に 国 民 の 関 心 が 高 い 刑 の 量 定 の 場 面 に も 妥 当 す る と の 理 念 が 具 体 化 さ れ た も の で あ る 。 有 罪 の 場 合 の 刑 に 関 す る 裁 判 員 の 意 見 は , 裁 判 官 と 同 じ 重 み を 持 つ こ と か ら , 裁 判 員 制 度 の み な ら ず , 裁 判 員 の 加 わ っ た 裁 判 に お け る 量 刑 判 断 の あ り 方 に つ い て も 議 論 さ れ て き た 。

裁 判 員 制 度 導 入 の 経 緯 に 照 ら せ ば , 量 刑 に つ い て は , 事 実 認 定 以 上 に , 第 1 審 の 判 断 が 尊 重 さ れ な け れ ば な ら な い か ら , 裁 判 員 と の 評 議 に お い て 妥 当 な 結 論 を 導 く こ と が で き る よ う , 量 刑 の 評 議 を ど の よ う な 手 順 , 方 法 で 行 う か , 十 分 に 検 討 し て お く 必 要 が あ る と 思 わ れ る 。 評 議 に あ た っ て は , 過 去 の 裁 判 例 に よ っ て 形 成 さ れ た 量 刑 基 準 を 参 照 せ ざ る を 得 な い が , 裁 判 員 に は , 量 刑 相 場 と の 異 同 を 検 討 す る こ と は 要 求 さ れ な い こ と か ら , 控 訴 審 に お け る 量 刑 審 査 が 重 要 視 さ れ る こ と に な る た め , 控 訴 審 の 役 割 に つ い て 検 討 を 加 え た 。 韓 国 の 国 民 参 与 裁 判 と の 比 較 法 的 考 察 を 通 じ て , 裁 判 員 裁 判 に お け る 量 刑 判 断 に つ い て 理 解 を 深 め る も の で も あ る 。

終 章 は , 本 稿 の 結 論 で あ り , 本 章 に 至 る ま で の 量 刑 判 断 に お い て 検 討 す べ き 諸 事 項 , 一 般 量 定 過 程 と し て , 量 刑 論 の 意 義 , 法 定 刑 の 意 味 及 び 役 割 , 量 刑 に お け る 責 任 主 義 , さ ら に , 併 合 罪 に お け る 量 刑 判 断 , 裁 判 員 裁 判 の 対 象 犯 罪 に 関 す る 量 刑 判 断 に つ い て 私 見 を 述 べ , 日 韓 両 国 に お け る 量 刑 判 断 に つ い て 評 価 を 加 え る 。

以 上 の よ う に , 本 稿 は 量 刑 理 論 を 基 礎 と す る 量 刑 の 解 釈 論 を 展 開 し た も の で あ り , 制 度 論 や 刑 事 政 策 論 に つ い て も 検 討 を 加 え た 。 そ の よ う な 研 究 方 法 に よ り , 「 量 刑 判 断 」 と い う 研 究 対 象 を 総 合 的 に 論 証 で き る と 思 わ れ る か ら で あ る 。 も ち ろ ん , そ の 基 礎 と な る 「 量 刑 理 論 」 が 確 固 と し た も の で な い 限 り , 総 合 的 に 論 証 す る と い っ て も , あ る べ き 量 刑 判 断 を 導 き 出 す こ と が 困 難 で あ る こ と は い う ま で も な い 。

(11)

5

第一 章 法 定 刑 の引 上げ と 刑事 立 法

―日 韓 両国 の 現 状と 議論 を 中心 に ―

Ⅰ 序

Ⅱ 日 韓 両 国 に お け る 社 会 変 化

Ⅲ 刑 事 法 の 改 正 と 量 刑

Ⅳ 刑 事 立 法 に お け る 課 題

Ⅴ 結

Ⅰ 序1

今 日 , 凶 悪 犯 罪 が 頻 発 す る よ う に な っ た と の 報 道 が た び た び な さ れ て い る が , こ れ は 日 本 に 限 っ た こ と で は な い 。 現 に 韓 国 で は , 凶 悪 犯 罪 の 発 生 件 数 が 2002年 か ら 2011 年 の 10年 間 で 約 1.65倍 に 増 加 し て お り2, そ れ を 受 け , 特 に 殺 人 や 性 犯 罪 な ど を よ り 重 罰 に 処 す る こ と な ど に よ る 犯 罪 な き 社 会 の 実 現 に 対 す る 保 障 の 欲 求 , す な わ ち , 安 全 要 求 が 市 民 の 間 で 高 ま っ て い る 。 こ の 安 全 要 求 は , 裁 判 所 に 対 し て は 犯 罪 者 の 厳 し い 処 罰 を , 立 法 者 に 対 し て は 安 全 や 予 防 に 資 す る 法 律 の 拡 充 を 求 め る と い う 形 で 顕 在 化 し , ま た , 犯 罪 者 を 社 会 か ら 隔 離 す る こ と で 市 民 生 活 の 秩 序 ·安 定 を 保 と う と す る 論 調 も , 立 法 論 に お い て 散 見 さ れ る よ う で あ る 。

こ の よ う に , 現 在 の 刑 事 立 法 に お い て 「 安 全 」 な い し 「 治 安 」 の 必 要 性 が 強 調 さ れ て お り , ま た , 近 年 の 刑 事 立 法 の 活 性 化 に 鑑 み れ ば , こ の 安 全 要 求 と い う 現 象 が 刑 事 立 法 に な ん ら か の 影 響 を 与 え て い る で あ ろ う こ と は , 想 像 に 難 く な い 。 し か し な が ら , こ の 安 全 要 求 と 刑 事 立 法 と の 結 び つ き に 関 す る 考 察 は , こ れ ま で 必 ず し も 十 分 な も の と は い え な か っ た よ う に 思 わ れ る3。 市 民 の 安 全 要 求 が 刑 事 立 法 に お い て ど の よ う な 作 用 を も た ら し た か に つ き , 具 体 的 に 検 証 す る 必 要 が あ る 。 そ の 際 , 日 本 と 同 様 に 刑

1 本 章 は , 拙 稿 「 韓 国 に お け る 法 定 刑 の 引 上 げ と 刑 事 立 法 に 関 す る 一 考 察 」 比 較 法 雑 誌 48 巻 3号 ( 2014年 ) 305頁 に 基 づ い た も の で あ る 。 観 点 の 偏 り や 誤 解 を 生 み や す い 表 現 が あ る た め 修 正 や 加 筆 を 行 っ た が , 過 去 に 示 し た 論 旨 に は も ち ろ ん 変 更 は な い 。

2 韓 国 法 務 研 修 院 『 犯 罪 白 書 ( 2012年 ) 』 ( 法 務 研 修 院 , 2013年 ) 59頁 。

3 城 下 裕 二 「 法 定 刑 の 引 上 げ と 立 法 政 策 」 犯 罪 社 会 学 研 究 30号 ( 2005年 ) 7頁 以 下 , 伊 藤 康 一 郎 「 理 性 と 感 情 :リ ス ク 社 会 化 と 厳 罰 化 の 交 差 」 犯 罪 社 会 学 研 究 31巻 ( 2006年 ) 74頁 以 下 , 井 田 良 「 社 会 の 変 化 と 刑 法 」 『 変 革 の 時 代 に お け る 理 論 刑 法 学 』 ( 慶 應 義 塾 大 学 出 版 会 , 2007年 ) 11頁 以 下 , 岩 井 宜 子 「 法 定 刑 改 定 と 刑 事 政 策 ― 特 集 法 定 刑 の 改 正 の 理 論 的 検 討 と 実 務 へ の 影 響 ― 」 刑 法 雑 誌 46巻 1号 ( 2006年 ) 52頁 以 下 , 只 木 誠 「 刑 事 立 法 ( 刑 法 , 刑 事 訴 訟 法 の 立 法 ) へ 与 え る 被 害 者 保 護 の 影 響 」 金 尚 均 編 『 刑 罰 論 と 刑 罰 正 義 =Straf theorie und Strafgerechtigkeit:日 本 ― ド イ ツ 刑 事 法 に 関 す る 対 話 』 ( 成 文 堂 , 2012 年 ) 95頁 以 下 , 松 原 芳 博 「 刑 事 立 法 と 刑 法 学 ( 特 集 立 法 学 の 新 展 開 ) 」 ジ ュ リ ス ト 1369号

( 2008年 ) 64頁 以 下 , 浜 井 浩 一 •芹 沢 一 也 『 犯 罪 不 安 社 会 誰 も が 「 不 審 者 」 ?』 ( 光 文 社 新 書 , 2006年 ) 16頁 以 下 , 玄 守 道 「 近 時 の 刑 事 立 法 に 対 す る 批 判 的 検 討 ― 何 が 問 わ れ て い る の か ?― 」 立 命 館 法 学 5•6号 下 巻 ( 2009年 ) 2070頁 以 下 。

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事 立 法 の 活 性 化 が み ら れ る 韓 国 の 現 状 と を 比 較 す る こ と は , 有 益 な も の と な り え よ う 。 と い う の も , 近 年 , 韓 国 が 法 定 刑 を 2倍 に 引 き 上 げ た こ と は 参 照 す る 価 値 が あ る と 思 わ れ る か ら で あ る 。

本 章 で は , ま ず 日 韓 両 国 の 犯 罪 統 計 や 犯 罪 に 関 す る 市 民 の 意 見 調 査 を 分 析 す る こ と で , 安 全 要 求 と 刑 事 立 法 の 活 性 化 の 因 果 関 係 を 探 る こ と か ら は じ め る こ と と す る ( 第

Ⅱ 節 ) 。 さ ら に , 近 年 な さ れ た 韓 国 に お け る 法 改 正 , 2010年 に 行 わ れ た 法 定 刑 の 引 上 げ に 関 す る 規 定 を 参 照 す る こ と で , 韓 国 に お い て 刑 事 立 法 の 活 性 化 が み ら れ る よ う に な っ た 背 景 を 明 ら か に す る ( 第 Ⅲ 節 ) 。 そ し て 最 後 に , 第 Ⅱ ·Ⅲ 節 で の 分 析 を も と に , 市 民 の 安 全 要 求 と 刑 事 立 法 の 役 割 と の 適 切 な 関 係 性 を 模 索 す る ( 第 Ⅳ 節 ) 。

Ⅱ 日 韓 両 国 に お け る 社 会 変 化 1. 社 会 統 計 の 分 析

( 1) 市 民 の 認 識

日 本 で , 体 感 治 安 と い う 言 葉 が は じ め て 用 い ら れ る よ う に な っ た の は 1990年 代 の よ う で あ る が , そ の 背 景 に は , 1994年 の 松 本 サ リ ン 事 件 , 1997年 の 地 下 鉄 サ リ ン 事 件 , さ ら に , 同 年 の 阪 神 大 震 災 な ど の 発 生 に よ っ て , 治 安 神 話 の 崩 壊 と 評 さ れ る 状 況 が あ っ た も の と 推 測 さ れ る4。 こ の よ う な 体 感 治 安 の 悪 化 は , そ の 後 も 継 続 的 に み ら れ , 例 え ば 2012年 の 世 論 調 査 に お い て も , 日 本 の 治 安 に 対 す る 認 識 が 「 悪 く な っ た と 思 う 」 と の 回 答 は 8 割 近 く に 上 っ た5。 し か し な が ら , こ の 体 感 治 安 の 悪 化 は , 実 際 に は , 現 実 の 治 安 の 悪 化 に 根 ざ し た も の で は な い 。 日 本 で は , 刑 法 犯 の 認 知 件 数 は 平 成 8年 か ら 毎 年 戦 後 最 多 件 数 を 更 新 し , 2002年 に は 370万 件 を 記 録 し た も の の , 2003年 か ら 減 少 に 転 じ て , 2010年 は 227万 件 ( 前 年 比 13万 件 〔 5.4% 〕 減 ) , さ ら に , 2012年 は 202万 件 ( 前 年 比 12万 件 〔 6% 〕 減 ) ま で 減 少 し て い る の で あ る6。 そ れ に も か か わ ら ず , 多 く の 市 民 が , 治 安 が 悪 化 し て い る と 感 じ て い る 点 は 注 目 に 値 す る7。 も っ と も , 2013年 の 犯 罪 白 書 に よ れ ば , 「 殺 人 ( 94% ) , 強 盗 ( 68% ) な ど の 凶 悪 犯 罪 を 含 め , 傷 害 , 暴 行 , 脅 迫 に つ い て は 検 挙 率 は 依 然 と し て 高 く , 体 感 治 安 の 悪 化 に 歯 止 め を か け て い る 」 と い う 見 解 も あ る が8, 体 感 治 安 は 犯 罪 件 数 や 検 挙 率 な ど に 基 づ く も の で は な い 。

一 方 , 日 本 と 同 様 に 治 安 の 悪 化 を 感 じ る 市 民 の 割 合 が 比 較 的 高 く 推 移 し て い る 韓 国 に 目 を 向 け る と , 犯 罪 件 数 の 推 移 と 体 感 治 安 と の 関 係 性 に つ い て , 日 本 と は 異 な る 様 相 を 呈 し て い る 。 韓 国 の 犯 罪 傾 向 に つ き , 2011年 韓 国 犯 罪 白 書 に よ れ ば , 過 去 3 0年 の 間 に 全 犯 罪 の 発 生 件 数 は 約 3.06倍 , 対 人 口 発 生 率 も 約 2.34倍 に 上 昇 し て い る9。 確 か に , 2010年 の 全 犯 罪 の 発 生 件 数 は 191万 7,300件 に の ぼ り , 前 年 比 で 16.2% 減 少 ,

4 佐 伯 仁 志 「 刑 法 の 社 会 的 機 能 の 変 容 」 新 世 代 法 政 策 学 研 究 11号 ( 2011年 ) 5頁 。

5 内 閣 府 『 治 安 に 関 す る 特 別 世 論 調 査 ( 平 成 24年 8月 ) 』 2頁 参 照 。

6 法 務 省 『 平 成 23年 版 犯 罪 白 書 』 1頁 。

7 岩 井 •前 掲 注 3) 53頁 。

8 只 木 誠 「 平 成 25年 版 犯 罪 白 書 を 読 ん で :ル ー テ ィ ン 部 分 に 関 し て 」 法 律 の ひ ろ ば 67巻 1号

( 2014年 ) 4頁 。

9 韓 国 法 務 研 修 院 『 犯 罪 白 書 ( 2011年 ) 』 ( 法 務 研 修 院 , 2012年 ) 44頁 。

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刑 法 犯 の 発 生 件 数 も 前 年 に 比 べ て 5.4% 減 少 し て い る も の の , 2001年 と 比 べ る と 約 7 0% と 高 い 増 加 率 を 示 し て い る の で あ る 。 生 命 や 身 体 に 重 大 な 危 害 を 与 え る 殺 人 , 強 盗 , 強 姦 な ど の 凶 悪 犯 罪 の 発 生 件 数 も , 2001年 か ら ゆ る や か な 増 加 傾 向 を 維 持 し て お り , 2010年 に は 2万 7,482件 と , 2001年 の 1万 4,896件 と 比 べ て 約 1.84倍 に 増 加 し て い る 。 ま た , 強 盗 の 発 生 件 数 は 若 干 減 っ て い る も の の , 殺 人 の 発 生 件 数 は 約 1.19倍 , 強 姦 の 発 生 件 数 は 約 1.91倍 に 増 加 し て い る10。 こ う し て み る と , 犯 罪 の 増 加 傾 向 は , 韓 国 の 人 口 の 増 加 傾 向 と と も に , 30年 に わ た り お お よ そ 維 持 さ れ て お り , こ れ は 刑 法 犯 の 発 生 件 数 や 凶 悪 犯 罪 の 発 生 件 数 に 関 し て も 異 な ら な い と い え る11。 こ れ に 対 し て , 犯 罪 に 対 す る 市 民 の 認 識 に つ い て は , 2 01 2 年 で は 「 安 全 だ と 思 う 」 が 9 . 1 % ,

「 不 安 だ と 思 う 」 は 64.2% で あ っ た た め , こ の デ ー タ か ら す れ ば , 日 本 に 比 べ 高 い 割 合 の 韓 国 市 民 が 犯 罪 に 対 し て 不 安 を 感 じ て い る こ と が 分 か る12

こ の よ う に 社 会 に お い て 多 く の 市 民 が 犯 罪 に 対 し て 不 安 感 を 抱 い て い る こ と か ら す れ ば , 市 民 は 不 安 感 の 増 大 ゆ え に 犯 罪 か ら の 安 全 を 期 待 し て い る こ と は 想 像 に 難 く な い 。 こ の よ う な 期 待 は , 近 年 の 刑 事 立 法 の 活 性 化 と い う 形 で 実 現 さ れ て い る と も い え よ う 。 こ こ で , な ぜ 特 に 近 年 に な っ て , こ の 犯 罪 へ の 不 安 が 刑 事 立 法 の コ ン テ ク ス ト で 強 調 さ れ る こ と と な っ た の か と い う 疑 念 が 生 じ る 。 さ ら に , 日 本 に お い て は , 体 感 治 安 の 悪 化 は 犯 罪 件 数 の 増 加 と 直 結 し て い る も の で は な か っ た 。 と す れ ば , そ の よ う な 体 感 治 安 の 悪 化 の さ ら な る 要 因 を 探 る こ と が 必 要 と な ろ う 。

( 2) 不 安 要 因

市 民 が 感 じ て い る 犯 罪 へ の 不 安 に , 犯 罪 件 数 の 増 加 以 外 の 要 因 が あ る と す れ ば , ど の よ う な も の が 考 え ら れ る か 。 そ の 1つ に , マ ス メ デ ィ ア に よ っ て 取 り 上 げ ら れ や す い 凶 悪 犯 罪 , す な わ ち , 特 別 な 動 機 の な い 無 差 別 的 な 殺 人 と い っ た 社 会 的 に 関 心 を ひ く 凶 悪 犯 罪 が 発 生 す る こ と で , 市 民 が 犯 罪 被 害 者 と な る こ と に 強 い 不 安 を 抱 く よ う に な る こ と が 考 え ら れ る 。 例 え ば , 韓 国 の 警 察 官 数 が 過 去 40年 間 で 2倍 ( 2009年 時 点 で 9万 9,554人 ) 以 上 増 加 す る こ と で , 警 察 官 一 人 当 た り の 人 口 率 は 減 少 し て お り , ま た , 同 期 間 に 全 体 犯 罪 の 検 挙 率 が 毎 年 増 加 し て い る に も か か わ ら ず , 主 要 刑 法 犯 罪 の 検 挙 率 が 継 続 的 に 下 落 し て い る こ と は13, 凶 悪 犯 罪 の 増 加 傾 向 に 照 ら し て み る 限 り , 凶 悪 犯 罪 の 被 害 者 に な る 危 険 が 増 大 し て い る と い う こ と で あ り , そ の こ と か ら 犯 罪 不 安 を 高 め て い る 可 能 性 が あ る と み る こ と も で き よ う 。

し か し な が ら , こ こ で 市 民 が 抱 い て い る 不 安 と は , 実 際 に は , 自 身 が 被 害 者 と な る 可 能 性 か ら 生 じ る 不 安 と 同 じ も の で は な い 。 例 え ば , 直 接 ·間 接 的 な 犯 罪 被 害 に 関 す る 意 識 調 査 が 韓 国 に お い て 実 施 さ れ た が , こ の 調 査 結 果 に よ れ ば , 犯 罪 被 害 に 対 す る 恐 怖 を 感 じ て い る と の 回 答 は , 2003年 に は 39.7% , 2006年 に は 25.2% , そ し て , 2009年 で は 37.8% , 2011年 で は 31.6% と な っ て お り14, 上 記 の 犯 罪 に 対 す る 不 安 が 約

10 韓 国 法 務 研 修 院 •前 掲 注 9) 59頁 。

11 韓 国 法 務 研 修 院 『 犯 罪 白 書 ( 2013年 ) 』 ( 法 務 研 修 院 , 2014年 ) 43頁 。

12 韓 国 統 計 庁 『 2012年 韓 国 の 社 会 調 査 結 果 』 ( 統 計 庁 , 2012年 ) 34頁 。

13 韓 国 統 計 庁 •統 計 開 発 院 『 韓 国 の 社 会 動 向 2010』 ( 統 計 開 発 院 , 2010年 ) 223頁 。

14 金 芝 璿 ほ か 『 全 国 犯 罪 被 害 調 査 2010』 ( 韓 国 刑 事 政 策 研 究 院 , 2011年 ) 248頁 。

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6割 で あ る こ と に 鑑 み れ ば , 犯 罪 被 害 に 対 す る 不 安 は 決 し て 高 い も の と は い え な い 。 加 え て , 犯 罪 被 害 に 対 し て 不 安 を 感 じ て い る 者 の 割 合 が , 過 去 10年 間 , 一 定 の 範 囲 で 推 移 し て い た こ と か ら す れ ば , 先 に 挙 げ た よ う な 韓 国 に お け る 犯 罪 件 数 の 増 加 傾 向 が , 市 民 の 犯 罪 被 害 に 対 す る 不 安 感 を 増 長 し て い る わ け で は な い と い え る で あ ろ う 。 潜 在 的 な 被 害 者 と な る こ と に 対 す る 不 安 感 は , 犯 罪 件 数 の 増 減 に か か わ ら ず , つ ね に 存 在 し て き た の で あ る 。

す な わ ち , 犯 罪 以 外 の 社 会 的 不 安 要 素 が , そ の 要 素 が 犯 罪 に 関 す る 状 況 に 直 接 的 に 影 響 を 及 ぼ す か ど う か に 関 わ り な く , 市 民 の 体 感 治 安 に 影 響 を 与 え て い る の で あ る15。 犯 罪 以 外 の 社 会 不 安 と 犯 罪 に 対 す る 不 安 感 と の 関 係 性 に 着 目 す る 研 究 は す で に な さ れ て い る と こ ろ で あ り , そ れ に よ れ ば , 犯 罪 へ の 不 安 以 外 に も , 多 様 な 社 会 不 安 が 市 民 の 犯 罪 か ら の 安 全 要 求 を 高 め て い る 可 能 性 が あ る と い う16。 そ れ ゆ え に , 市 民 が 感 じ る 犯 罪 に 対 す る 不 安 と は , 犯 罪 被 害 に 対 す る 不 安 と は 異 な る も の で あ っ て , 現 実 の 社 会 に お け る 犯 罪 状 況 と い う よ り は , む し ろ , 犯 罪 状 況 以 外 の 社 会 状 況 や そ れ に 関 す る 市 民 の 認 識 に 影 響 さ れ る も の で あ る17

こ の 点 に つ き , 再 び 韓 国 の 状 況 に 目 を 移 し て み る と , 韓 国 統 計 庁 の 調 査 結 果18に よ れ ば , 2008年 の 時 点 で , 市 民 が 不 安 を 感 じ る 主 な 要 因 と し て , 犯 罪 ( 18.3% ) , 災 害 ( 16.2% ) , 経 済 危 機 ( 15.4% ) , 環 境 汚 染 ( 13.5% ) , 国 家 安 全 保 障 ( 10.5% ) が 挙 げ ら れ , 市 民 が 犯 罪 に 対 す る 不 安 感 を 強 く 感 じ て い る こ と が 分 か る 。 し か し な が ら , 2010年 に は , 社 会 的 に 注 目 さ れ る 事 件 ( 韓 国 哨 戒 艦 沈 没 事 件 な ど ) が 発 生 し た こ と に よ っ て , 南 北 関 係 の 緊 張 が 高 ま り , 国 家 安 全 保 障 ( 28.8% ) に 対 す る 不 安 感 が も っ と も 高 く な り , そ れ に 次 い で 犯 罪 ( 21.1% ) , 経 済 危 機 ( 15.4% ) , 災 害

( 10.7% ) , 道 徳 性 の 不 足 ( 7% ) が 挙 げ ら れ て い る 。 ま た , 2012年 に な る と , 再 び 犯 罪 ( 29.3% ) に 対 す る 不 安 が 最 多 と な り , 国 家 安 全 保 障 ( 18.4% ) , 経 済 危 機 ( 1 5.3% ) , 災 害 ( 11.4% ) , 道 徳 性 の 不 足 ( 10.6% ) と 続 い て い る19

上 述 の よ う な 社 会 不 安 は , そ れ 単 体 で 市 民 の 体 感 治 安 に 影 響 を 与 え て い る の で は な く , 複 合 的 , 重 畳 的 に 作 用 し て い る 。 あ る い は , 生 活 全 般 に 対 す る 本 人 の 満 足 度 に よ っ て も , 体 感 治 安 は 影 響 さ れ る20。 そ れ ゆ え , 市 民 に お け る 体 感 治 安 は , 必 ず し も , 現 実 の 犯 罪 に 関 す る 状 況 を 反 映 し て い る も の で は な く , 体 感 治 安 に 伴 う 安 全 要 求 の 高 ま り も , 刑 事 事 件 を 取 り 巻 く 環 境 か ら 起 因 し て い る わ け で は な い の で は な い か と の 疑 問 が 生 じ る 。 と す れ ば , 市 民 の 安 全 要 求 に 基 づ い た 刑 事 立 法 の 必 要 性 に つ い て も , い ま い ち ど 詳 細 な 検 討 を 行 っ て い く こ と が 求 め ら れ よ う 。

15 Sandra Walklate, Criminology: The Basics, 2th ed, London, Routledge, 2011, p.41.

16 Douglas D.Perkins & Ralph B.Taylor, “ Ecological Assessments of Community Disorder: Their Relationship to Fear of Crime and Theoretical Implications” , American Journal of Community Psychology, Vol.24, 1996, p.94.

17 韓 国 統 計 庁 •前 掲 注 12) 35頁 。

18 韓 国 統 計 庁 『 2010年 韓 国 の 社 会 調 査 結 果 』 ( 統 計 庁 , 2010年 ) 37頁 。

19 韓 国 統 計 庁 •前 掲 注 12) 35頁 。

20 Sandra Walklate, op.cit., p.113.

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2. 刑 事 立 法 と 安 全 要 求

上 記 の よ う に , 市 民 の 抱 く 犯 罪 に 対 す る 不 安 が そ れ 以 外 の 社 会 不 安 に 比 べ て 比 較 的 高 い 数 値 を 維 持 し て い る こ と か ら す れ ば , そ の 限 り に お い て , 犯 罪 か ら の 安 全 要 求 が , そ の 原 因 が 犯 罪 に 関 す る 社 会 状 況 に 基 づ く も の で は な か っ た に せ よ , 市 民 の 中 に 現 存 し て い る と み る こ と は , そ れ ほ ど 無 理 の な い 捉 え 方 と い え よ う 。 そ う だ と す れ ば , こ の 安 全 要 求 は , 刑 事 立 法 の 中 で ど の よ う な 役 割 を 果 た し て い る の か 。

安 全 要 求 と 刑 事 立 法 と の 関 係 性 に つ い て は , 以 下 の よ う に , 大 要 2つ の 考 え 方 が 考 え ら れ る 。 ま ず , 日 本 の 犯 罪 被 害 者 等 基 本 法 の 前 文 に は , 「 安 全 で 安 心 し て 暮 ら せ る 社 会 を 実 現 す る こ と は , 市 民 す べ て の 願 い で あ る と と も に , 国 の 重 要 な 責 務 で あ 」 る と さ れ て い る こ と か ら , 安 全 要 求 を 市 民 の 基 本 的 権 利 と し た 上 で , こ の 要 求 に 応 じ る た め に 犯 罪 抑 止 の た め の 断 固 た る 措 置 が 必 要 で あ る と の 理 解 が あ り え よ う21。 こ の 理 解 か ら す れ ば , 犯 罪 か ら の 安 全 を 市 民 が 要 求 し た 場 合 に こ れ に 応 じ る こ と は 国 家 の 任 務 で あ る と 同 時 に , 国 家 が 存 在 す る 理 由 の 1つ で あ る か ら , 犯 罪 に 対 す る 市 民 の 認 識 が 立 法 に お い て も 重 要 な 意 味 を 有 し て い る と 考 え ら れ る の で あ る 。 こ れ に 対 し て , 市 民 の 安 全 欲 求 の 背 景 に 存 在 す る 社 会 問 題 の 是 正 •改 善 が 優 先 さ れ る べ き で あ る と の 理 解22も み ら れ , こ の よ う な 理 解 か ら は , 国 家 が 安 全 欲 求 に 直 ち に 法 改 正 や 刑 事 立 法 に よ っ て 応 じ る こ と は , 刑 事 政 策 が 市 民 の 認 識 や 感 情 に 左 右 さ れ , か つ , 政 治 的 な 目 的

( 特 に 選 挙 ) の た め に 用 い ら れ る こ と に な る 危 険 性 が あ る こ と か ら す れ ば , 控 え ら れ る べ き で あ る と さ れ る 。 加 え て , 近 時 の 法 定 刑 引 上 げ な ど の 刑 事 立 法 が , 受 刑 者 の 再 社 会 化 や 現 実 的 な 治 安 維 持 と い っ た 刑 事 法 の 本 来 の 目 的 よ り も , 犯 罪 に 対 す る 不 安 を 取 り 除 く こ と を 追 求 す る も の で あ っ て , そ の 手 段 に な っ て い る の で は な い か と い う 懸 念 が , こ の 後 者 の 理 解 か ら は 示 さ れ て い る23

す で に 確 認 し た よ う に , 市 民 の 犯 罪 か ら の 安 全 要 求 が , 必 ず し も 現 実 の 犯 罪 に 状 況 を 反 映 す る も の で な い と す れ ば , 後 者 の 理 解 が 述 べ る よ う に , そ の 原 因 と な っ て い る 社 会 問 題 の 是 正 ·改 善 が 喫 緊 の 課 題 で あ っ て , 刑 事 立 法 に よ る 対 処 は , 不 要 な も の と な ろ う 。 で は , そ も そ も 市 民 の 安 全 要 求 は な に に 基 づ く も の で あ る の か , あ る い は , な に ゆ え に 近 時 の 刑 事 立 法 に お い て 重 要 な 地 位 を し め る に 至 っ た の で あ ろ う か 。

3. 安 全 要 求 の 原 因

安 全 要 求 の 原 因 , そ し て 安 全 欲 求 が 刑 事 立 法 の 活 性 化 を 急 速 に も た ら す ま で に 強 ま っ た 理 由 に つ い て は , 以 下 の よ う に 2つ の 可 能 性 が 考 え ら れ る 。

( 1) 社 会 の 巨 大 化 ·複 雑 化

21 小 野 正 博 「 犯 罪 予 防 の 法 理 の た め に 」 渥 美 東 洋 編 『 犯 罪 予 防 の 法 理 』 ( 成 文 堂 , 2008 年 ) 131頁 。

22 ハ イ ン ツ •ヴ ォ ル フ ガ ン グ 著 •永 田 憲 史 訳 「 『 重 く 厳 し い 刑 罰 =国 内 の 治 安 の 向 上 !』 と い う 式 は 誤 り が な い の か ?:犯 罪 学 的 調 査 の 観 点 か ら の ド イ ツ に お け る 刑 法 政 策 及 び 制 裁 賦 科 実 務 」 ノ モ ス 20号 ( 2007年 ) 67頁 。

23 金 日 秀 「 現 代 刑 事 政 策 の 厳 罰 主 義 的 基 本 傾 向 ?」 高 麗 法 学 56号 ( 2010年 ) 543頁 , 浜 井 浩 一 『 実 証 的 刑 事 政 策 論 :真 に 有 効 な 犯 罪 対 策 へ 』 ( 岩 波 書 店 , 2011年 ) 325頁 。

(16)

第 一 の 可 能 性 と し て , 現 代 社 会 が 巨 大 化 か つ 複 雑 化 す る こ と に よ っ て , 個 々 人 は 自 分 自 身 の 意 思 決 定 を 主 体 的 に コ ン ト ロ ー ル し 難 く な っ て し ま っ た と 思 わ れ る こ と が 挙 げ ら れ る 。 す な わ ち , 安 全 要 求 が も た ら さ れ た 原 因 の 1つ に は , 市 民 が 質 的 に 不 十 分 な 情 報 に よ っ て 意 思 決 定 を 行 わ ざ る を 得 な い 状 況 に 至 っ た こ と が あ る の で は な い か と の 指 摘 で あ る24。 人 は 通 常 , 情 報 の 多 く を 情 報 媒 体 を 通 じ て 獲 得 す る の で , 情 報 通 信 技 術 の 急 速 な 発 展 は 我 々 に 情 報 の 入 手 を 容 易 に し た が , こ の 急 速 な 発 展 は , 同 時 に , 獲 得 す る 情 報 量 の 増 加 を も も た ら し , 膨 大 な 情 報 の 中 に あ っ て 市 民 が 適 切 に 情 報 を 選 別 す る こ と を , 困 難 に し た の で あ る 。

ま た , 我 々 の 知 識 は , 複 雑 で 広 大 な 世 界 の 一 角 に ス ポ ッ ト ラ イ ト を あ て る よ う な も の で あ っ て , つ ね に 部 分 的 で 不 完 全 な も の で し か な い 。 こ の よ う な 知 識 の 不 完 全 さ に , 情 報 通 信 技 術 を 用 い る 際 の 容 易 性 や 匿 名 性 が 加 わ る こ と で , 情 報 源 の 多 元 化 と 一 次 資 料 へ の ア ク セ ス の 困 難 さ が 生 じ て い る 。 確 か に , こ れ ら の 難 点 は 情 報 を 取 得 す る 者 が , 適 切 な 選 別 を 心 が け る こ と に よ り 回 避 可 能 な も の で は あ る が , そ の よ う な 適 切 な 選 別 が 日 々 流 通 し て い く 情 報 の 渦 の 中 で 多 く の 市 民 に よ っ て な さ れ て い る と は い い が た い 。 一 方 で , 社 会 構 造 が 複 雑 化 す る こ と で , 特 に 環 境 犯 罪 や ホ ワ イ ト カ ラ ー 犯 罪 , 企 業 犯 罪 な ど に お い て は , 個 々 人 の 責 任 も 分 化 し , 一 人 当 た り の 責 任 負 担 が 減 少 す る こ と と な り , そ の よ う な 状 況 に あ っ て は , い わ ゆ る 組 織 化 さ れ た 無 責 任 が 生 じ る 。 そ れ ゆ え , 組 織 化 さ れ た 無 責 任 の 問 題 に よ る 責 任 帰 属 の 困 難 性 と 損 害 の 巨 大 化 が 課 題 と し て 議 論 さ れ て い る 。 こ の よ う に , 社 会 の 巨 大 化 ·複 雑 化 に よ っ て 個 々 人 は , 逆 に 意 思 伝 達 の 単 純 化 を 進 め る こ と に な る た め , マ ス メ デ ィ ア の 不 明 確 な 情 報 に 直 ち に 反 応 し や す い 傾 向 が み ら れ る も の と 思 わ れ る 。

( 2) マ ス メ デ ィ ア の 役 割

第 二 の 可 能 性 と し て は , マ ス メ デ ィ ア に よ る 安 全 要 求 の 促 進 で あ る 。 マ ス メ デ ィ ア が 犯 罪 の 推 移 を 正 確 に 反 映 さ せ ず に , 一 部 の 事 実 だ け を 選 択 的 に 報 道 し た り , 一 方 で , 不 要 と 思 わ れ る ま で に 詳 細 な 犯 罪 報 道 を 行 っ た り す る と25, そ れ に 接 す る 市 民 は , 社 会 が 不 安 定 と な っ て い る こ と を 当 該 報 道 か ら 感 じ 取 っ て 不 安 に 駆 り 立 て ら れ26, 被 害 者 の 感 情 的 な 訴 え と 相 ま っ て , 安 全 要 求 を 示 す 世 論 を 強 く 形 成 す る こ と は 否 定 で き な い27。 ま た , こ の よ う な 世 論 は , 犯 罪 者 に 対 し て 味 方 か 敵 か と い う 二 分 法 的 思 考 を た ど る こ と に な り , そ の よ う な 単 純 明 快 な 結 論 を 求 め る こ と で , 政 策 決 定 に ポ ピ ュ リ ズ ム の 影 響 が 強 ま る 傾 向 が さ ら に 加 速 す る と 思 わ れ る 。 例 え ば , Ⅲ 節 で 後 述 す る 韓 国 に お け る 近 年 の 刑 事 立 法 の 動 向 か ら は , こ の よ う な 傾 向 が 強 く み ら れ る 。

実 は , 「 そ の 要 求 の 裏 に は , 情 報 の 見 方 を 単 純 化 し て 犯 罪 被 害 者 に 対 す る コ ン セ ン サ ス を 形 成 し た マ ス メ デ ィ ア の 役 割 が あ っ た 」 と 指 摘 さ れ て い る28。 他 方 , マ ス メ デ

24 浜 井 •前 掲 注 3) 60頁 。

25 松 原 •前 掲 注 3) 67頁 , 浜 井 •前 掲 注 23) 339頁 。

26 Douglas D.Perkins & Ralph B. Taylor, op.cit., p.70.

27 ヴ ィ ン フ リ ー ト •ハ ッ セ マ ー 著 ·堀 内 捷 三 監 訳 『 刑 罰 は な ぜ 必 要 か :最 終 弁 論 』 ( 中 央 大 学 出 版 部 , 2012年 ) 61頁 〔 只 木 誠 訳 〕 。

28 金 成 敦 「 責 任 刑 法 の 危 機 と 予 防 刑 法 の 限 界 」 刑 事 法 硏 究 22巻 3号 ( 2010年 ) 6頁 。

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ィ ア の 役 割 に は , 現 在 の 社 会 環 境 の 中 で , 日 常 生 活 の 多 忙 さ に 埋 没 す る 我 々 に 代 わ っ て , 特 定 の ト ピ ッ ク を 選 び 出 し , 分 か り や す く 単 純 化 し て 伝 え る 役 割 を 果 た し て い る と も い え る29。 そ れ ゆ え , マ ス メ デ ィ ア の 役 割 に つ い て は 様 々 な 課 題 を 残 し て は い る も の の , 現 在 の 状 況 を で き る だ け 複 合 的 に み よ う と す る こ と は , 必 ず し も マ ス メ デ ィ ア だ け に 担 わ せ る べ き 役 割 で は な い と 思 わ れ る 。 こ こ で 問 題 と す べ き は , そ の よ う な マ ス メ デ ィ ア の 姿 勢 で は な く , た だ , 上 記 の 指 摘 の よ う に 犯 罪 報 道 を 通 じ て マ ス メ デ ィ ア が 与 え る 刑 事 立 法 に 対 す る 影 響 で あ る 。

4. 現 状

近 年 の 日 韓 両 国 に お け る 立 法 動 向 は , 1990年 代 以 降 , 刑 事 立 法 が そ れ 以 前 と 比 べ て よ り 活 性 化 し , 多 様 な 領 域 で 特 別 刑 法 が 制 定 さ れ て い る こ と に 現 れ て い る 。 こ れ ら の 近 時 の 刑 事 立 法 の 特 徴 と し て , 処 罰 範 囲 の 拡 大 と 法 定 刑 の 引 上 げ が 挙 げ ら れ る30

日 本 に お い て は , 安 全 要 求 に 基 づ く 法 定 刑 の 引 上 げ に つ い て は , 刑 事 政 策 的 観 点31, 量 刑 規 制 的 観 点32か ら す れ ば , 多 く の 利 点 が 認 め ら れ る と す る 見 解 も 少 な く な い 一 方 , 韓 国 に お い て は , 有 期 刑 の 上 限 引 上 げ の 検 討 が , 1992年 の 韓 国 刑 法 改 正 試 案 や , 「 刑 罰 体 系 の 合 理 的 な 再 定 立 」 が 審 議 さ れ た 2004年 の 司 法 改 革 委 員 会 に お い て 行 わ れ た 際 に , と も に , 重 罰 主 義 に 陥 り や す い , 行 刑 の 目 的 に 沿 わ な い な ど の 学 界 の 批 判 を 受 け て , 法 定 刑 の 引 上 げ が な さ れ な か っ た と の 経 緯 が あ っ た 。 た だ し , 実 務 家 側 か ら は , 日 本 の 学 界 と 同 様 に 韓 国 に お い て も , 刑 事 政 策 的 な 観 点 , あ る い は 刑 罰 体 系 の 合 理 化 の 観 点 か ら , 法 定 刑 を 引 き 上 げ る こ と に よ る 有 期 刑 と 無 期 刑 と の 格 差 を 埋 め ら れ る べ き と の 主 張 が 支 持 さ れ た33。 ま た , 日 本 の 実 務 界 に お い て も , 有 期 刑 の 上 限 が 30年 に 引 き 上 げ ら れ た こ と に よ る 有 期 刑 と 無 期 刑 と の 格 差 を 埋 め ら れ た こ と は 支 持 さ れ て い る よ う で あ る34

し か し な が ら , 従 来 の 刑 事 立 法 は , 学 者 及 び 実 務 家 に よ る 専 門 的 な 議 論 に 基 づ い て 行 わ れ た の に 対 し て , 安 全 要 求 に 基 づ い て 法 定 刑 引 上 げ 及 び 法 改 正 が 議 論 さ れ る 際 に は , 日 韓 い ず れ に お い て も , ポ ピ ュ リ ズ ム の 傾 向 が 強 い 現 代 政 治 と 組 み 合 わ さ る こ と で , 刑 事 立 法 に 直 接 的 に 影 響 を 及 ぼ し , 関 係 省 庁 や 与 党 と の 意 見 調 整 , 審 議 会 へ の 諮 問 , 公 聴 会 で の 意 見 聴 取 な ど が 十 分 に 行 わ れ な い ま ま に 立 法 に 至 っ た 経 緯 か ら す れ ば , 刑 事 立 法 に 関 す る 意 思 形 成 の メ カ ニ ズ ム に 変 化 が み ら れ る と 指 摘 さ れ て い る35。 前 述 の よ う に , 安 全 要 求 が 必 ず し も 犯 罪 に 関 す る 社 会 状 況 を 適 切 に 反 映 す る も の で は な く ,

29 高 橋 徹 「 誰 が ポ ピ ュ リ ズ ム を 作 り だ す の か :現 代 メ デ ィ ア 政 治 考 」 白 門 65巻 11号 ( 2013 年 ) 37頁 。

30 孫 東 權 「 量 刑 合 理 化 の た め の 基 礎 と し て の 法 律 上 の 刑 加 減 体 系 」 刑 事 政 策 研 究 18巻 3号

( 2007年 ) 401頁 , 玄 •前 掲 注 3) 2080頁 。

31 岩 井 •前 掲 注 3) 53頁 。

32 井 田 良 「 何 が 法 定 刑 の 引 上 げ を 正 当 化 す る か 」 刑 法 雑 誌 46巻 1号 ( 2006年 ) 30頁 。

33 韓 寅 燮 編 『 刑 法 改 正 案 と 人 権 ― 法 務 部 の 刑 法 改 正 案 に 対 す る 批 判 と 最 小 の 代 案 ― 』

( 景 仁 文 化 社 , 2011年 ) 2頁 。

34 杉 田 宗 久 「 法 定 刑 の 改 正 動 向 に つ い て ― 裁 判 実 務 の 立 場 か ら ― 」 刑 法 雑 誌 46巻 1号 ( 20 06年 ) 112頁 。

35 金 成 圭 「 刑 事 立 法 政 策 の 重 罰 主 義 的 観 点 に 対 す る 批 判 的 理 解 」 立 法 と 政 策 3巻 1号 ( 201 1年 ) 10頁 , 松 原 •前 掲 注 3) 67頁 。

(18)

社 会 の 巨 大 化 ·複 雑 化 , マ ス メ デ ィ ア の 影 響 と い っ た 複 数 の 要 因 に よ っ て 形 成 さ れ る も の で あ る と す れ ば , こ の 安 全 要 求 は , 本 来 処 理 さ れ る べ き で な い 領 域 で 作 用 し て い る 可 能 性 が あ る 。

で は , 市 民 の 安 全 要 求 は , 近 時 の 刑 事 立 法 に お い て ど の よ う に 結 実 す る こ と と な っ た の か 。 次 節 で は , こ の 点 に つ き , 韓 国 に お い て 近 年 行 わ れ た 一 連 の 刑 事 立 法 の 動 き を み る 。

Ⅲ 刑 事 法 の 改 正 と 量 刑

1. 韓 国 に お け る 刑 事 立 法 の 動 向

前 節 で は , 現 代 社 会 に お い て 安 全 要 求 が 生 じ て い る 要 因 や そ れ が 刑 事 立 法 に お い て 重 視 さ れ る よ う に な っ た 経 緯 を 確 認 し て き た 。 本 節 で は , よ り 具 体 的 に , 上 記 の 市 民 の 安 全 要 求 が ど の よ う に 法 改 正 に つ い て 影 響 を 与 え た の か を , 韓 国 に お け る 刑 事 立 法 を 参 照 す る こ と で 確 認 す る 。 近 年 の 韓 国 に お け る 代 表 的 な 刑 事 立 法 及 び 法 改 正 は , 一 般 法 の 中 で は , 刑 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 , 特 別 法 の 中 で は , 性 暴 力 犯 罪 の 処 罰 な ど に 関 す る 特 例 法 , 保 安 処 分 の 一 種 と し て 導 入 さ れ た 特 定 犯 罪 者 に 対 す る 位 置 追 跡 電 子 装 置 装 着 な ど に 関 す る 法 律 , そ し て , 性 犯 罪 者 の 薬 物 治 療 に 対 す る 性 暴 力 犯 罪 者 の 性 衝 動 薬 物 治 療 に 関 す る 法 律 な ど が 挙 げ ら れ る 。 以 下 で は , 各 々 の 内 容 を 確 認 す る 。

( 1) 刑 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律

2010年 に 施 行 さ れ た 本 法 律 で は , ① 有 期 懲 役 及 び 有 期 禁 錮 の 上 限 が 15年 以 下 か ら 30 年 以 下 に , 刑 を 加 重 す る 際 の 上 限 が 25年 以 下 か ら 50年 以 下 に ( 韓 国 刑 法 第 42条 ) , ② 死 刑 に 対 す る 減 軽 が 10年 以 上 か ら 20年 以 上 50年 以 下 に ( 同 法 第 55条 1項 1号 ) , ③ 無 期 懲 役 及 び 無 期 禁 錮 に 対 す る 減 軽 が 7年 以 上 か ら 10年 以 上 50年 以 下 に ( 同 法 第 55条 1項 2 号 ) , ④ 無 期 懲 役 の 仮 釈 放 要 件 が 10年 か ら 20年 に ( 同 法 第 72条 1項 ) 各 々 引 き 上 げ ら れ , ⑤ 強 姦 及 び 醜 行 ( い わ ゆ る 強 制 わ い せ つ ) な ど 性 暴 力 犯 罪 の 常 習 犯 に 対 す る 加 重 処 罰 規 定 が 新 設 さ れ た ( 同 法 第 305条 の 2) 。 さ ら に , 2012年 に は 性 犯 罪 に 限 っ て 親 告 罪 条 項 と , 捜 査 機 関 が 捜 査 と 公 判 を 独 自 に 進 行 で き る が 被 害 者 が 処 罰 を 欲 し な け れ ば 加 害 者 を 処 罰 し 得 な い と す る 反 意 思 不 罰 罪 条 項 ( 同 法 第 306条 ) が 廃 止 さ れ , 被 害 者 の 告 訴 が な く と も 捜 査 機 関 が 性 暴 力 犯 罪 者 に 対 し て 公 訴 を 提 起 す る こ と が で き る よ う に な っ た 。 ま た , 性 犯 罪 に 関 す る 改 正 と し て , 性 器 の 代 わ り に 口 腔 ·肛 門 な ど を 利 用 す る 性 犯 罪 を 規 定 し た 類 似 強 姦 罪 ( 同 法 第 297条 の 2) が 新 設 さ れ た 。

( 2) 性 暴 力 犯 罪 の 処 罰 等 に 関 す る 特 例 法

本 法 は , 2013年 に 施 行 さ れ た が , こ こ で は , ① 親 族 に よ る 強 姦 , 強 制 わ い せ つ な ど の 犯 罪 の 処 罰 対 象 と な る 親 族 の 範 囲 が 従 来 の 四 親 等 以 内 の 血 族 及 び 二 親 等 以 内 の 姻 族 か ら 四 親 等 以 内 の 親 族 に ま で 拡 大 さ れ , 刑 法 典 で は 強 姦 ( 韓 国 刑 法 第 297条 ) が 3年 以 上 の 有 期 懲 役 , 強 制 わ い せ つ ( 同 法 第 298条 ) が 10年 以 下 の 有 期 懲 役 あ る い は 1千 500 万 ウ ォ ン 以 下 の 罰 金 に 科 せ ら れ る と 規 定 さ れ て い る の に 対 し て , 本 法 で は 強 姦 が 7年 以 上 の 有 期 懲 役 , 強 制 わ い せ つ が 5年 以 上 の 有 期 懲 役 ( 性 暴 力 犯 罪 の 処 罰 等 に 関 す る 特 例 法 第 5条 1項 , 2項 及 び 4項 ) と さ れ た 。 さ ら に , ② 13才 未 満 の 未 成 年 者 に 対 す る 強

(19)

姦 が 無 期 懲 役 あ る い は 10年 以 上 の 有 期 懲 役 , 類 似 強 姦 罪 が 7年 以 上 の 有 期 懲 役 , 強 制 わ い せ つ 罪 が 5年 以 上 の 有 期 懲 役 あ る い は 3千 万 ウ ォ ン 以 上 5千 万 ウ ォ ン 以 下 の 罰 金 で 処 罰 さ れ ( 同 法 第 7条 ) , ③ 飲 酒 ま た は 薬 物 に よ る 心 神 耗 弱 の 状 態 で 性 暴 力 を 犯 し た 者 に 対 し て は , 刑 を 減 軽 す る 刑 法 第 10条 2号 の 規 定 が 適 用 さ れ な い ( 同 法 第 19条 ) こ と と な っ た 。 同 法 は 手 続 法 に 関 し て も 規 定 し て お り , ④ 未 成 年 者 に 対 す る 性 暴 力 犯 罪 の 公 訴 時 効 は , 性 暴 力 犯 罪 で 被 害 に あ っ た 未 成 年 者 が 成 年 に 達 し た 日 か ら 進 行 す る

( 同 法 第 20条 1項 ) , ⑤ 捜 査 技 法 の 発 達 に よ り 犯 罪 発 生 か ら 相 当 な 期 間 を 経 過 し て も 犯 罪 捜 査 が 可 能 と な っ た こ と を 受 け て , DNA証 拠 な ど 立 証 を 可 能 に す る 証 拠 が 確 実 に 存 在 す る 性 暴 力 犯 罪 の 場 合 に は , 公 訴 時 効 を 通 常 よ り も 10年 間 延 長 す る ( 同 法 第 20条 2項 ) , ⑥ 検 察 官 と 司 法 警 察 員 は 被 疑 者 が 性 暴 力 を 犯 し た と 信 じ る に 足 る 十 分 な 証 拠 が あ り , か つ , も っ ぱ ら 公 共 の 利 益 の た め に 必 要 な 際 に は , 顔 写 真 な ど 被 疑 者 の 個 人 情 報 を 公 開 で き る ( 同 法 第 23条 ) こ と と さ れ た 。 こ れ ら 以 外 の 本 法 の 特 徴 的 な 点 に , 性 犯 罪 者 の 情 報 公 開 に 関 す る 規 定 が あ る 。 す な わ ち , ⑦ 現 在 の 性 犯 罪 者 個 人 情 報 の イ ン タ ー ネ ッ ト 公 開 制 度 は 児 童 及 び 青 少 年 の 性 保 護 に 関 す る 法 律 に よ っ て 児 童 及 び 青 少 年 対 象 の 性 犯 罪 者 の み を 公 開 対 象 に し て い る が , 成 人 を 対 象 と し た 性 犯 罪 者 も 再 犯 率 が 高 い だ け で な く 児 童 を 対 象 に し た 性 犯 罪 も ま た 犯 す 可 能 性 が 高 い こ と か ら , 成 人 を 対 象 と し た 性 犯 罪 者 の 個 人 情 報 を イ ン タ ー ネ ッ ト に 登 録 及 び 公 開 し て , そ の 情 報 を 19 歳 未 満 の 子 が い る 隣 近 住 民 に 告 知 す る こ と が で き る ( 同 法 第 2条 な い し 第 42条 ) と し た の で あ る 。

( 3) 特 定 犯 罪 者 に 対 す る 位 置 追 跡 電 子 装 置 装 着 等 に 関 す る 法 律

こ こ に い う 「 特 定 犯 罪 」 と は , 性 暴 力 犯 罪 , 未 成 年 者 に 対 す る 略 取 ·誘 拐 罪 , 殺 人 犯 罪 を い う 。 本 法 律 は , こ れ ら の 犯 罪 を 行 っ た 者 に つ い て , 刑 期 満 了 あ る い は 仮 釈 放 中 に も 位 置 特 定 を 可 能 と す る 電 子 装 置 を 装 着 す る 旨 を 規 定 す る 。 具 体 的 に は , ① 性 暴 力 犯 罪 を 行 っ た 者 に 対 す る 位 置 追 跡 電 子 装 置 の 装 着 を 請 求 す る 際 の 要 件 を , 犯 罪 回 数 の 要 件 を 2回 以 上 か ら 1回 に し て , 刑 期 合 計 の 要 件 を 削 除 す る な ど し て 緩 和 し ( 特 定 犯 罪 者 に 対 す る 位 置 追 跡 電 子 装 置 装 着 等 に 関 す る 法 律 第 5条 1項 ) , ② 位 置 追 跡 電 子 装 置 装 着 期 間 の 上 限 を 10年 か ら 法 定 刑 に 応 じ て 最 長 30年 ま で に 引 き 上 げ て , 装 着 期 間 の 下 限 を 法 定 刑 に 応 じ て 1年 以 上 な ど に し , 特 に 13歳 未 満 の 児 童 に 対 す る 犯 罪 者 の 場 合 に は 装 着 期 間 の 下 限 を 2倍 に し ( 同 法 第 9条 1項 ) , ③ 性 暴 力 を 犯 し た が 2008年 9月 1日 以 前 に 第 1審 判 決 が 言 い 渡 さ れ た 場 合 な ど 現 行 法 で は 位 置 追 跡 電 子 装 置 を 装 着 し 得 な い 場 合 に も , こ の 法 施 行 当 時 , 刑 執 行 中 及 び 刑 の 終 了 し た 者 を 含 め , 刑 の 確 定 し た 時 か ら 3年 以 内 の 性 暴 力 犯 罪 者 に は 位 置 追 跡 電 子 装 置 を 装 着 す る こ と が で き る と し て そ の 要 件 と 手 続 き な ど を 整 え た ( 付 則 第 2条 新 設 ) 。 さ ら に , 2012年 改 正 に よ っ て 2014年 か ら 電 子 装 置 装 着 対 象 に 強 盗 罪 が 追 加 さ れ る こ と に な り , そ の 要 件 と し て , ① 強 盗 罪 で 実 刑 判 決 を 受 け て , そ の 刑 を 終 え た 後 10年 以 内 に 再 び 強 盗 罪 を 犯 し た 場 合 , ② 2回 以 上 に わ た り 常 習 的 に 強 盗 を し た 場 合 , ③ 強 盗 罪 で 位 置 追 跡 電 子 装 置 を 装 着 す る 処 分 を 受 け た 者 が , 装 着 期 間 を 終 え た 後 再 度 罪 を 犯 し た 場 合 の い ず れ か を 満 た す こ と と し

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