富山 大学 散 華部紀 要 人 文 社 会 科 学
罰の語り
ア ウ グス テイ ヌス F自 由 意志論A 第1 巻 ‑
松 崎 ‑ 平
富 山 大 学 教 養 部
T he N a r r atio n of t he P u nish m e nt
‑A ugu stin e, D e libe r o a rbiin
.
o, I 一 工p pei M A TSU ZAK 王
対 話 篇 咽 由 意 志 軌 第1 巻のなか ば く11章2 2節 一 以 下 本 論 文に お
い
て 憎 由 意 志 軌 第1 巻の章 節を 指 示 する場 合に は, 例 えばr
ll, 2 2J
とい
う よ うに表 記 する1 で, アくい く
2
1ウブスティ ヌ スは
r
欲 望の仲 間となっ た精 神 くm e n s c u
pidita
tis c o m e s
IJ
の状 態 くあ ら かじめ簡 単に説明 し て おくと, 欲 望の仲 間になること は精 神の犯せ るr
罪J
であ り, 仲 間 となっ た後の精 神の悲 惨な状 態は そ れ に対 するr
凱 である1 を, 対話の相 手エ ウォデイ ウス くEu o
diu s
l に次のように, 執 掬に説明してい
る.そ れ で は どうだ ろうo こ の罰自体は取る に足ら ぬもの とみなさ れ る
べ
きであろうかo す なわ ち, 情 欲が精 神 を 支 配し, 豊か な徳 を奪い
取ら れ て色々 な点 で無 力と な り欠 乏 状 態にある精 神 を 引 き ずりまわし, かくて精 神は,い
まは偽 を真と誤 認 し,い
まは そ れを 弁 護 すら し,い
まは以 前に是認してい
たことを 非 難し て更に別な偽に殺 到 し,い
まは自 らの同 意 を 控 え明噺 な推 論 を 頻に 恐 れ,い
ま は真理の発 見に絶望 して愚か さの間に固く 結び付き,い
まは 理解のた めの光を得 よ うと努め る が疲れ果て て再び堕ちてし まうの だo と かく するうち欲 望の支 配が僧 主による そ れの ごと く に苛 酷に な り, あちこち か らく
3
1く
41
吹 き
つ
ける様々
の嵐が人 間の こ ころ と生とを 混 乱させ, 人 はこ こで は 恐 れかしこ では希 望にあふれ, こ こ では不 安で動 揺 するのに か しこ では虚しい
偽りの喜びを 感じ, 愛 する ものを失い
はしない
か とこ こ では苦 悩しか しこ では未だ所 有 してい
ない
ものを 手に入 れ 1 7松 崎 一 平
ようとこ ころを燃や し, こ こで は蒙っ た不正に苦 しみかしこ では復 讐 をめ ざ して こ ころ
の焔 を 燃やすo
い
ずこ にあっ ても, 食 欲がこ ころを 締めつ
け, 家 督が気 紛れを もた ら し, 高 慢が膨れ さ せ, 嫉 妬 心が苛み, 怠惰がこ ころを う ずめこ み, 頑 固さ が璃 癖 をおこ さ せ, 服従が疲 弊さ せ, 更に他の数 え切 れない
ものが, こ のよ うな情 欲の支 配 を 強 化 し 押 し 進め るのだo 君 も 麻 如 してい
るように, 知 恵に固 着 し ない
者はみな, こ のようなこ とを 蒙るのを 避 けること は でき ない
のだ が, これを 罰で は ない
と考 えること が,い
っ たf
5
1い
私た ち に できる だ ろうかo罪を 犯 した精 神に対 して与 えら れ る罰の様がこ こ に, 言わ ば客 観 的に説明 さ れ て
い
るor
客 観 的にJ
と は, さし あたりr
三人称を 主 語にしてJ
とい
う程度の意 味であるo ア ウグ■ ■ ■ ■ ■ ■
ステイ ヌ スによるこ の罰の説明 は, しかし読み方によっ ては 一 人称として読め るので は な
い
か. 言い
換 える と, 対 話 者た ち け ウグステイ メ スとエ
ウォ
デイ ウスl の体 験と その反 省 を反映 するものとしても 読め るので はない
かo 以 下のさ さ や かな考 察の試み は, こ の推 測の蓋 然 性 をできる だけ 高め ることをめ ざす ものに他 な ら ない
oF
自 由 意 志 諭A
とい
う三巻から なる対 話 篇 くr
対 話 篇J
と言っ てち, Ill,4,1 1 から 後は 1 6, 46 でエ
ウォデイ ウスが短 く 発 言 する以 外はすべ
て ア ウダスティ ヌス の語る とこ ろであ るし, 第2 巻に おい
ても 発 言の大 半は ア ウ グステイ ヌ ス のものであるo 第1 巷は ともかく, 第2 巻 以後はr
対 話 篇J
としては大い
にバ
ラン
スを 欠い
てい
る1 は, 主に成立時期と成王 事 情 をめぐり 幾つ
かの点で問 題 的 な著 作である. 本 稿の主 題と関 係 する事 柄に触れなが ら,著 作の成立状 況 を 簡 単に紹 介 し, 問題点を 指 摘し て おこうo
ま ず
F
再 論A
の, ア ウグステイ ヌ ス自 身による説明を 訳 出 しよう.まだ
ロ
ーマ
でぐ ず ぐず してい
た時, 私たち は討 論に よっ て, 悪が どこから くるのか探■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
究 し よ うと望ん だo こ の問 題に
つ い
て私たち が神の権 威に服 して信 じてい
ること が らを,■ 書 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
私 たちの理解 する ところへ も, 神助のもと私た ちの論 証 し うる限りに お
い
て, か なうこ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
とな ら理性による熟 慮と論 究と が至ら し め るよ うに と, 私た ち は討 論 したo そして
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
理性に よ っ て 入念に議 論 して, 悪 は 正 に意 志の 自 由 決 定 力 く1ib
e r u m a r
b itriu m
u o
lu n
ta
tis
I からだけ 生 じる とい
うこと が 私 た ちの間で確 定 した ゆえ, その討 論の生みはJ
出 した 三巻は D
e
libe r o a r
bitrto
と呼ば れ てい
るo そ れの第2 巻 第3 巻 をアフリ カ に おい
て, も うヒッ
ポ .レ
ギウス の司祭に叙 任さ れてか ら, その時期に可 能であっ た 限 りの m努 力 をして私は書き終 えたo
罰 り
引用 文中で言及 さ れ て
い
る ア ウ グステイ ヌ ス のロ
ーマ
滞 在は3 88年の こと, 司祭 叙 任は 3 91年の ことo 従っ て例 えば G. Ba r
dy は, 第1 巻は3 88年に成立し, 第2 巻 第3 巻は 3911 8 j
年か ら3 95年に かけて成立 し た とし, P . B
r o w n
のア ウダスティ ヌ ス伝に所 収の年 譜 もこく 9
1れを 踏 襲 して
い
るo 3 95年とい
うの はノラのパ
ウ リヌ ス宛の 唱 軌 第31 に おける ア ウグステイヌス の証 言に基づ
い
ての推 定であるo 途 中三年 間の中 断をは さ ん で足かけ八年 間 を かけてF
自 由 意 志 凱 全三巻は完 成さ れた の である が, その こと が直ち に次のよ う な 疑 問 を 生むo 著 作は実 際の討 論 をどの程 度 反 映し てい
るのかo 討 論の速 記 録 を 忠 実に纏め た とい
うよう な 著 作であれ ばそれ程 時 間 をかける必要はなかっ た はずで, だ とする と執 筆 再 開 時 期の立場からの補 筆 訂正 が行われたので はない
かo実 際, 2 巻3 巻に
つ い
て は, 著 作 年 代の確 定 してい
る幾つ
かの平 行 して善かれた はずの 著 作と むしろ内容 的に呼 応 してい
るo また例 えば 0‑du
Ro
y は用 語の変 化に注 目 して,それによっ て ア ウグステイ ヌ ス の補 筆の痕 跡 を具 体 的に指 摘 し よ うとして
い
るo 彼は,3 91年 以 後に I い6,44以 下 を 補 う 際に, 3 8時 に既に纏め てあっ た部 分 を も増 補 した と推 定
く
1 0
1し, I ,16,3 5 から工工,2,6 までを 増 補 部 分に擬 して
い
るo本 稿で主 題 的に取 り 上 げる 咽 由 意 志 軌 第1 巻に限っ て は, 0.d
u
Ro
y が 16,3 5 を 3 91年 以 後の補 筆 箇 所に当て ることを 除くと, 38 8年にロ
ーマ
で行 われ た討 論に基づい
て同 年 同地 で纏められ たこと に対し て疑 問が出されること ばま ずない
o G. Ma
de c
も 博 1 巻u
l
l は3 88年における ア ウグステイ ヌ ス の思 想につ い
てのよ き 証 言で はあるJ
と言っ てい
るo また 慣 熟 の,r
矧 生によっ て 入念に議 論 して, 悪は 正 に意 志の自 由 決 定 力からだけ 生 じ る とい
うこと が私たちの間で確 定 した......J
とい
うア ウグステイヌス自 身の言 葉が後に くIII郵 見るよ うに, 最 も抵抗 なく 当て はまるのも 第1 巻に対 して であるoF
自 由 意 志 乱 第1 巻につ い
て はF
再 軌 の記 述は十 分に妥 当するのであるoIII
唱 軌 のア ウグステイ ヌ スは
F
自 由意 志 凱 の探 究 をr
矧 生に よ るJ
ときめつ
けてい
るo 後 述の ごとく2,4 で ア ウグステイ ヌ ス自 身が敢 えて確認してい
るよ うに, その探 究の 出 発 点に は勿 論 唱 机 があるo しかし 探 究そのものは 可能な 限り 理性によ ろうとするもく
12
1のであるo 研究 者た ちもア ウ グステイ ヌ ス が 博 凱 に述
べ
てい
ることを 大 略 認め るo 例 ぇば 0.du
Ro
y は 柑 由意 志 凱 を 次のように批 評 するo その批 評は第1 巻に最 も よ く 当 て は ま るo.....
.
F
自 由 意 志 凱 に お
い
て は ア ウダスティ ヌ スは, 理性 的 な 探 究そ れ自体に おい
て 信 仰にうっ たえることを し ない
し, 信 仰に よ っ て み と められてい
る諸 真理 に よりか か る ことをし ばしば拒 絶 してもい
るo そ れ は, 思うに, あ ま りに安 易な道 をと ることを恐 れ 1 9松 崎 一 平
ての こと であり, 理解に達 することな しに その信 仰に留ることを 恐れ ての こと であるo
従っ てその著 作は信 仰と 理性の領 域 を 厳 格に区 別 するo すな わ ち, 真理 は信 仰によっ て く
1 3
J把 握さ れ る が, 真理を理解 すること に お
い
て信 仰は控 除さ れ るのであるoしかし 探 究が
r
理 性 的J
だ と は どのよう なこと かo 2,4 でr
私た ち は どこから悪 を 為 すく
1 4
1ですか
J
と問うたエ
ウォデイ ウスに対 して ア ウグス テイ ヌ スは答 えてい
るoまだ若かっ た 私を 激 しく 攻め た て, 倦み疲 れた私 を 異 端 者た ちのなか に押 し込み突 き 倒 したあの問題 を, あ なた は提 出 して
い
るo その転 落によっ て私はひ どく 痛めつ
け ら れ, 中 味のない
お伽 話の移 しい
堆 積によっ て覆い つ
くされてしまっ てい
たもの だから,見 出き れ る
べ
き 真 理へ の愛が私のた め に神の助 力 を 獲 得 する とい
うこと がなかっ た とし たら, そこから立ち 上がり 探 究のた めの第 一 の自 由‑ と息 を 吹 き 返 すこと は でき なか ったo 私はこ の間 膚から解 放さ れ る た め に熱 心に努 力 したのだ から, 私が その際に従っ た 順 序 く
o r
do
l に よ っ て, あ なた と議論を 重ね てい
くこと にし よ う. 神がそば にい
まし て, 私たちの信じ てい
ること がら を 私た ち に 理解さ せ て下さ るだろうo 実 際,r
あ なた が た は信 じない
な らば 理解 し ない J
と語る預 言 者 くイ ザヤ1 によっ て勧めら れてい
る階く
1 5
J梯 くg
r a
du s
l を, 私た ち は良 く 自 覚 して保 持 してい
くこと にし よ うo引 用 文の前 半に は ア ウグステイ ヌ スによる自 己 回 顧 的 な 言 葉があるo そこに は悪の起 源
の問 題が彼に とっ て特 別 な ものだっ たこと が 明 か されて
い
るo 周 知のように, 若 き日のア ウグステイ ヌス は悪の 問 題に麟き, その解 決 を 期 待 してマ
ニ 教の 異 端に所 謂r
聴 聞 着 くa u
dito r
h として参 加し, 十 一 年 間程 そ れ に留っ た. 引用文に おい
て ア ウグステ イ ヌ ス は その事 実 をr
転 落 くc a s u s
IJ
と呼び, 厳 しい
口調で回 顧 してい
るo その回顧に はしかしく
1 6
1r
一種の安 心 感
J
が漂 っ てもい
るo その安 心 感はF
自 由 意 志 論A
第1 巻 を 纏め た時 期に,彼が悪の問題に
つ い
て何 らかの揺るぎない
解 答 を 見 出し てい
たこと に由来 するo その解 答 が どのよう な もの だっ た か は後に く王V章1 考 察 すること にして, こ こ で注 意 したい
のは, その解 答 を得る に至っ た探 究のr
順 序J
ない
しr
階 梯J
をア ウ グス テイ ヌ スが重 要 視 してい
ることであるo順 序と か階 梯と かの言 葉は, 要 する に, 悪の起源の問題 を 探 究 する場 合に, ま ず 信 仰 箇
く
1 7
1条 を 疑 う
べ
からざ るもの として受 け 容 れ, そ れを理解の前提とし 対 象として 理性 的に探 究 する, 信 仰から理性へ の道 程 を 意 味 するo 事 実, ア ウ グステイ ヌ スは自らの提 案に忠 実にし1
8 1
引用文に続 く2,5 で信 仰 箇 条 を 羅 列 し, 然る後に 理解の た めの努 力 を 開始 するo 後に くIV 章‑X I章J