九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
再突入機体周りのプラズマ流れと通信途絶に関する 数値解析的研究
鄭, 旻錫
https://doi.org/10.15017/1931915
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 : 鄭 旻錫(ジョン ミンソク)
論 文 名 : Numerical Study of Plasma Flows and Radio Frequency Blackout for Reentry Vehicle
(再突入機体周りのプラズマ流れと通信途絶に関する数値解析的研究)
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
背 景 と 目 的
地球周回軌道からの機器回収や,小惑星からのサンプルリターンミッション等において,再突入 機体の正確な位置を評価することや,着陸・着水後速やかに回収するための技術の確立は,ミッシ ョンを成功させるために不可欠である.これらの技術確立に必要となる,再突入機体の位置追跡や 着陸・着水地点の高精度予測を行う際には,再突入過程における通信可能性が非常に重要な要素と なる.再突入機体の位置を評価する手段として,GPS衛星やイリジウム衛星通信網の利用が挙げら れる.ただし,これら電波を用いた追跡では,再突入機体近傍において生じる衝撃波に由来するプ ラズマの存在によって,電波の反射や回折,減衰が生じ,それが原因となって地上局・中継衛星と の完全な通信途絶(通信ブラックアウト)が発生してしまうことが危惧される.従って,このような 厳しい条件での通信可能性を正確に評価することは重要である.このような環境を地上で完全に模 擬する実験は容易ではなく,数値解析による予測・検討は有効な評価手法の一つとして期待されて いる.この課題については,これまで多くの研究機関で研究が進められてきたが,機体周辺の流れ 場は 104 K を越すような高温で,しかも電離・解離等の化学反応を伴う極めて複雑な場であり,地 上周辺の通常の流体力学とは異なる要因が数多く存在することから,計算機が発達した現在もなお 十分な予測精度が得られているとは言えない.
以 上 の 背 景 か ら 本 研 究 で は ,再突入機体周りのプ ラ ズ マ 流 の 3 次 元 高 精 度 解 析 が 可 能 な プ ロ グ ラ ム コ ー ド を 開 発 し , そ こ か ら 得 ら れ た 流 れ 場 の 情 報 を 用 い て 電 磁 波 解 析 を 行 う こ と に よ り 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト を 直 接 予 測 で き る 解 析 シ ス テ ム を 構 築 す る こ と を 目 的 と し た .
流 れ 場 と 電 磁 波 の モ デ ル 化 と 数 値 解 析 手 法
再 突 入 機 体 周 り の プ ラ ズ マ 流 解 析 に お い て は , 流 れ 場 は 層 流 , 定 常 お よ び 連 続 と 仮 定 し , 支 配 方 程 式 と し て 熱 化 学 的 非 平 衡 流 に 拡 張 し た Navier-Stokes 方 程 式 及 び 状 態 方 程 式 を 用 い た .本 研 究 で は ,化 学 的 非 平 衡 性 を 表 現 す る た め に ,空 気 種 11化 学 種 を 対 象 と し た 49 化 学 反 応 モ デ ル を 導 入 し た . ま た , 熱 的 非 平 衡 性 を 表 現 す る た め に , 温 度 を 並 進 ・ 回 転 ・ 振 動 ・ 電 子 温 度 に 分 離 し た 4 温 度 モ デ ル を 適 用 し , 各 エ ネ ル ギ ー モ ー ド 間 の 適 切 な エ ネ ル ギ 交 換 モ デ ル を 導 入 し た .
本 研 究 で 取 り 扱 う 流 れ 場 は , 流 れ の 特 性 時 間 と 化 学 反 応 ・ 内 部 エ ネ ル ギ 交 換 反 応 の 特 性 時 間 が 大 き く 異 な る 領 域 も あ る こ と か ら ,強 い stiffness が 生 じ る 傾 向 に あ る と 考 え ら れ る .そ こ で , 低 計 算 コ ス ト で 安 定 に 解 を 得 る た め に 有 効 な 数 値 解 析 手 法 を 導 入 し た .
一 方 , 電 磁 波 の 挙 動 は マ ク ス ウ ェ ル 方 程 式 に よ り 表 現 さ れ る が , 本 研 究 で は マ ク ス ウ ェ ル 方 程 式 に 対 す る 数 値 解 析 手 法 と し てFrequency-Dependent Finite-Difference Time-Domain (FD2TD) 法 を 用 い た . 電 磁 波 解 析 に 必 要 な 比 誘 電 率 , 電 気 伝 導 率 な ど の プ ラ ズ マ パ ラ メ ー タ は , 先 述 の プ ラ ズ マ 流 解 析 よ り 得 ら れ た 情 報 を 電 磁 波 解 析 空 間 に マ ッ ピ ン グ し て 用 い た .
結 果 と 考 察
本 研 究 で 開 発 し た 3 次 元 プ ラ ズ マ 流 解 析 コ ー ド と 上 述 の 電 磁 波 解 析 手 法 を 用 い て , 再 突 入 機 体 の 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 を 行 っ た .ま ず , 2 次 元 軸 対 称 及 び3次 元 モ デ ル を 用 い て 迎 角 な し の OREX周 り の プ ラ ズ マ 流 解 析 を 行 い ,両 者 の 比 較 か ら 3 次 元 解 析 の 妥 当 性 を 検 証 し た . さ ら に , 実 験 か ら 得 ら れ た プ ロ ー ブ の イ オ ン 飽 和 電 流 値 を 解 析 結 果 と 比 較 す る こ と に よ り , プ ラ ズ マ 流 解 析 モ デ ル の 妥 当 性 を 検 証 し た . 全 て の プ ロ ー ブ に 対 し て , 解 析 結 果 は 実 験 値 と の 良 好 な 一 致 を 示 し た こ と か ら , そ の 基 本 的 な 予 測 精 度 の 妥 当 性 が 示 さ れ た .
次 に Atmospheric Reentry Demonstrator (ARD) を 対 象 と し ,2次 元 軸 対 称 及 び 迎 角 を 考 慮 し た 3次 元 プ ラ ズ マ 流 解 析 を 行 い ,さ ら に そ こ で 得 ら れ た プ ラ ズ マ 流 の 情 報 を 用 い て 電 磁 波 解 析 を 行 う こ と に よ り 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 を 実 施 し , 実 験 の シ グ ナ ル 損 失 量 と の 比 較 を 行 っ た . 迎 角 を 考 慮 す る こ と に よ り , 後 流 領 域 に お い て 電 子 密 度 が 低 く な る こ と が 確 認 さ れ , 機 体 の 迎 角 が 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 に 与 え る 影 響 を 明 ら か に し た .
さ ら に ,ARDを 計 算 対 象 と し て 壁 面 非 触 媒 性 モ デ ル 及 び 有 限 触 媒 性 モ デ ル を 用 い て 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 を 行 い , 両 モ デ ル の 解 析 結 果 と 実 験 の シ グ ナ ル 損 失 量 を 比 較 し た . 壁 面 触 媒 性 を 考 慮 す る こ と に よ り 壁 面 で 再 結 合 反 応 が 活 発 に な り , 物 体 後 方 に 流 れ 出 る 電 子 数 が 減 り , 後 流 領 域 の 電 子 密 度 が 低 く な る こ と が 確 認 さ れ た . そ の 結 果 , 有 限 触 媒 性 モ デ ル を 用 い た ケ ー ス の 方 が 実 験 の シ グ ナ ル 損 失 量 と の よ り 良 い 一 致 を 示 し た . こ れ に よ り , 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 に お い て 壁 面 触 媒 性 の 影 響 を 考 慮 す る こ と の 重 要 性 を 明 ら か に し た .
最 後 に , 今 後 の さ ら な る 高 精 度 化 に 向 け て , 化 学 反 応 速 度 モ デ ル の 不 確 か さ を 考 慮 し た 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 を ARD の ケ ー ス に 対 し て 行 い , そ の 影 響 の 度 合 を 検 討 し た . 化 学 反 応 速 度 モ デ ル は 一 般 に あ る 温 度 範 囲 で の 実 験 か ら 推 定 さ れ た 値 で あ り , 再 突 入 機 体 周 り の よ う な よ り 広 い 温 度 範 囲 で 用 い る 場 合 に は 注 意 が 必 要 で あ る . 本 研 究 で は , 電 離 反 応 の 順 反 応 速 度 係 数 に あ る 幅 の 係 数 を 乗 じ る こ と に よ り , 化 学 反 応 速 度 モ デ ル の 不 確 か さ が 予 測 精 度 に 与 え る 影 響 を 評 価 し た . 本 解 析 結 果 よ り , 反 応 速 度 が 速 く な り 化 学 平 衡 に 近 づ く と 後 方 の 電 子 密 度 が 低 く な る こ と が 確 認 さ れ た . そ の 際 , よ り 実 験 の シ グ ナ ル 損 失 量 と 一 致 す る 傾 向 が 見 ら れ , 反 応 速 度 の 影 響 が 明 ら か と な っ た . こ れ よ り , 化 学 反 応 速 度 モ デ ル を よ り 詳 細 に 検 討 す る こ と に よ り , 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 を さ ら に 高 精 度 化 で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た .
結 論
3 次 元 プ ラ ズ マ 流 解 析 と 電 磁 波 解 析 を 組 み 合 わ せ た , 再 突 入 機 体 周 り の 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 シ ス テ ム を 構 築 し た . こ れ を 用 い て , 再 突 入 機 体 の 迎 角 , 壁 面 触 媒 性 , 化 学 反 応 速 度 モ デ ル の 不 確 か さ が 再 突 入 機 体 周 り の プ ラ ズ マ 生 成 に 与 え る 影 響 を 詳 細 に 調 査 ・ 検 討 し , 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト 解 析 シ ス テ ム の 基 本 的 な 予 測 精 度 の 検 証 を 行 う と と も に , さ ら な る 高 精 度 化 へ の 指 針 を 示 し た . 以 上 の こ と か ら , 本 研 究 で 開 発 し た 解 析 シ ス テ ム が , 再 突 入 機 体 の 通 信 ブ ラ ッ ク ア ウ ト お よ び シ グ ナ ル 損 失 量 の 評 価 に 有 用 で あ る と 結 論 づ け ら れ る .