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補助動詞化された後項動詞の副詞的用法について

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Academic year: 2021

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補助動詞化された後項動詞の副詞的用法について

石 恩京

1. はじめに

複合動詞の辞書の意味記述を見ると、多くの複合動詞はその意味記述の中に副詞も しくは副詞に相当する語が含まれている。副詞もしくは副詞に相当する語について考 えることは、前項動詞に対する後項動詞の働き-前項動詞の示す動き・状態・様子を より詳しく説明する働き-を理解するためにも必要であり、後項動詞の意味を分類す ることにおいても必要なことであると考えられる。

本稿では、後項動詞の副詞的用法に焦点を当てて考察を進めることにするが、便宜 上、 「副詞もしくは副詞に相当する語」は「連用修飾語」とする。

2. 複合動詞の類型

複合動詞を「動詞(連用形)+動詞」の結合形態に限定して、意味面(構成要素間 の意味関係)から分析する場合、実質的な意味・機能がどちらにあるかによって次の 4つの類型にまとめることができる。

① 実質的意味である前項動詞+ 実質的意味である後項動詞(V-V構造)

② 実質的意味である前項動詞+非実質的意味である後項動詞(V-v構造)

③非実質的意味である前項動詞+ 実質的意味である後項動詞(v-V構造)

④非実質的意味である前項動詞+非実質的意味である後項動詞(v-v構造)

以下、4つの構造の各用例については、複合動詞の格支配と複合動詞の構成要素の 格支配との総合関係を分類するため考案された山本(1984)による分類を参考にして考 えてみる。

2.1. V-V構造

前項動詞も後項動詞も、本来の動詞の意味を保持しており、そのため、前項動詞と 後項動詞を用いたそれぞれの文は成立する。

(1)助けを求めて泣き叫ぶ声。

→助けを求めて[a.泣く/b.叫ぶ]声。

(2)大木を切り倒す。

→大木を[a.切る/b.倒す]。

(3)ドアを押し開けて侵入する。

→ドアを[a.押して/b.開けて]侵入する。

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2.2. V-v構造

後項動詞は、本来の意味・用法の独立性が薄れていて、前項動詞の下に付いて付属 的に用いられる。そのため、b.は成立しない。この構造の後項動詞は補助動詞化(接 尾語化)されていると考えられる。

(1)奇抜な服装を見て笑い出した。

→奇抜な服装を見て[a.笑った/b.*出した]。

(2)赤ん坊があめ玉を飲み込んでしまった。

→赤ん坊があめ玉を[a.飲んで/b.*込んで]しまった。

(3)楽しそうに話し合っている若い二人。

→楽しそうに[a.話して/b.*合って]いる若い二人。

(4)好物だとつい食べ過ぎる。

→好物だとつい[a.食べる/b.*過ぎる]。

(5)からだが弱り切っている。

→からだが[a.弱って/b.*切って]いる。

2.3. v-V構造

前項動詞は接頭語化したもので、後項動詞の意味を強めたり、語調を整える働きを する。そのため、実質的意味は後項動詞の方にあり、a.の文は成立しない。

(1)掛け軸を丁寧に取り扱う。

→掛け軸を丁寧に[a.*取る/b.扱う]。

(2)手数料を差し引く。

→手数料を[a.*差す/b.引く]。

(3)事件を引き起こす。

→事件を[a.*引く/b.起こす]。

2.4. v-v構造

前項動詞と後項動詞との結合が強く、単純語化している。そのため、前項動詞と後 項動詞を用いたそれぞれの文は成立しない。

(1)世の中が落ち着いてきた。

→世の中が[a.*落ちて/b.*着いて]きた。

(2)選手一同張り切っている。

→選手一同[a.*張って/b.*切って]いる。

(3)代金を口座に振り込む。

→代金を口座に[a.*振る/b.*込む]。

ここで、実質的意味である前項動詞と非実質的意味である後項動詞とで構成された

V-v構造(2.2. )に注目したい。この構造における後項動詞は、本来の意味は失

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われたものの、前項動詞をより詳しく説明する働きをしている。用例(1)~(5)

で示されている複合動詞の意味を辞書で確認すると次のようである。なお、以下の意 味記述は『大事林』によるものである。

①笑い出す :笑い始める。こらえかねて笑い始める。

②飲み込む :口の中の物を腹の中へ送り込む。また,かみ砕かないでのどを通す。

③話し合う :お互いに話をする。かたらう。

④食べ過ぎる:過度に食べる。食いすぎる。

⑤弱り切る :すっかり衰える。ひどく衰弱する。弱り果てる。

意味記述の傍線部に該当する「始める」 「中へ」 「お互いに」 「過度に」 「すっかり」は、

後項動詞「出す」 「込む」 「合う」 「過ぎる」 「切る」の表す意味であり、それぞれ「開 始」 「内方向への移動」 「相互」 「過度である限度」 「強調」といった意味分類ができる。

このように、前項動詞に対する後項動詞の働き(副詞的働き)について考えること は、補助動詞化された後項動詞の意味分類に直結することである。したがって、辞書 における複合動詞の意味記述を確認することは有意義であると考えられる。

3. 補助動詞化された後項動詞の副詞的用法

複合動詞における後項動詞は、前項動詞の示す動き・状態・様子をより詳しく説明 する働きをするが、述語の表現内容を限定するという点から考えると、副詞と同じ働 きをすることが認められる。

『大事林』の意味記述を参考に、複合動詞を用いた用例を辞書の意味記述を用いた 用例に変えてみると次のようになる。

(1)a. 友達と将来の夢を語り合う。

b. 友達と将来の夢を互いに語る。

(2)a. 一晩で読み切る。

b. 一晩で終わりまで/全部読む。

(3)a. 霜にあたって植木の葉が縮み上がる。

b. 霜にあたって植木の葉がひどく縮む。

(4)a. 挨拶のし方を教え込む。

b. 挨拶のし方を完全に/十分に教える。

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(5)a. 録音テープを聞き直す。

b. 録音テープをもう一度聞く。

用例(1)~(5)a.の後項動詞「合う」 「切る」 「上がる」 「込む」 「直す」が表す意 味は、 (1)~(5)b.のように、連用修飾語「互いに」 「終わりまで/全部」 「ひどく」

「完全に/十分に」 「もう一度」を用いて表現することが可能であるが、意味の上で後 項動詞は連用修飾語と対応していると考えられる。このような対応が見られる用例は 他にもたくさん見られるが、ここで問題となるのは、後項動詞のうちどのような種類 のものかということである。

複合動詞の後項動詞として用いられる動詞はとても多い。中には「始める」 「終わる」

「合う」 「上がる」 「込む」 「切る」などのように、前項動詞として様々な動詞を取り得 る比較的生産性の高い動詞と、 「歩く」 「受ける」 「果せる」 「切れる」 「暮らす」などの ように、前項動詞として特定の動詞しか取らないため比較的生産性の低い動詞として 扱われる動詞とがある。ここでは、比較的生産性の高い動詞を中心に取り上げて後項 動詞の副詞的用法について考察を進めることにする。

後項動詞と連用修飾語との対応の形態を見ると、必ずしも用例(1)~(5)で見 られるような対応をなすわけではない。

(6)a. 読み終わってから返してください。

b. 全部読んでから返してください。

(7)a. 好物だとつい食べ過ぎる。

b. 好物だとつい過度に食べる。

(8)a.お前と言い掛けて、あなたと言い直した。

b.お前と言い掛けて、あなたと訂正してもう一度言った。

(9)a. 仕事をしかけた時に客が来た。

b. 仕事をしようとした時に客が来た。

(10)a. 急に雨が降り出す。

b. 急に雨が降り始める。

(11)a. 寝坊してバスに乗り遅れた。

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b. 寝坊してバスに間に合わず、乗れないでしまった。

(6a) (7a) (8a)の後項動詞「終わる」 「過ぎる」 「直す」は、意味の上で連用修飾 語「全部」 「過度に」 「訂正してもう一度」と対応している。一方、 (9a) (10a) (1 1a)の場合は、後項動詞「かける」 「出す」 「遅れる」に対して、連用修飾語ではなく 別の表現が用いられている。

さて、 (6a) (7a) (8a)の 複合動詞の意味と(9a) (10a) (11a)の複合動 詞の意味を比べてみると、両者の間には、前項動詞の表す動作の実現について差が見 られる。 (6a) (7a) (8a)の複合動詞「読み終わる」 「食べ過ぎる」 「言い直す」の 場合は、前項動詞の示す「読む」 「食べる」 「言う」という動作が実際に行われている。

その行われた動作の示す動き・状態・様子、つまり「最後まで行う動作であること」

「過度の状態を伴う動作であること」 「対象の訂正を伴う動作であること」は、後項動 詞「終わる」 「過ぎる」 「直す」によって表されているのである。これに対して、 (9a)

(11a)の複合動詞「しかける」 「乗り遅れる」の場合には、前項動詞の表す「する」

「乗る」という動作は実際には行われていない、あるいは行われている途中で完全に 行われていない。また、 (10a)の「降り出す」は、 「降る」という動作は行われてい るが、その動作の開始を表すのみでその動作についての詳しい内容については示され ていない

つまり、 (6a) (7a) (8a)で用いられている後項動詞は、前項動詞の表す動作の 成立を表すと共にその動作の示す動き・状態・様子などを表す。一方、 (9a) (10a)

(11a)の後項動詞は、前項動詞の表す動作が成立するかしないか、ということのみ を表す。

(6a) (7a) (8a)と(9a) (10a) (11a)との間で見られる違いは、同じ 後項動詞であっても文によって見られたりする。

(12)a. 宿題を出し遅れて先生に叱られた。

b. 宿題を遅く出して先生に叱られた。

(13)a. 寝坊してバスに乗り遅れた。

b. 寝坊してバスに間に合わず、乗れないでしまった。

(14)a. 答えを言い損なう。

b. 答えをまちがって言う。

(15)a. 肝心な用件を言い損なう。

b. 肝心な用件を言うべきことを言わないでしまう(言うことができない) 。

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(12) (14)では、 「遅れる」 「損なう」に対して連用修飾語「遅く」 「間違って」

が対応しているが、 (13) (15)の場合は、同じ後項動詞に対して連用修飾語では なく他の表現が用いられている。

(12a) (13a) 、 (14a) (15a)では、それぞれ同じ後項動詞が用いられている が、文によって後項動詞の表す意味には違いがある。 (12a) (14a)では「出す」

「乗る」という動作が実際に行われており、後項動詞「遅れる」 「損なう」は、動作の 示す動き・状態・様子などを表す。一方、 (13a) (15a)では、後項動詞の「遅れ る」 「損なう」が「乗る」 「言う」という動作が行われていないことを示しており、こ の場の後項動詞は前項動詞の動作成立の成否のみを表す。

4. 終わりに

本稿では、後項動詞の副詞性を認めた上での考察をしてみたが、以上の考察から後 項動詞は、前項動詞の表す動作の成立を表すと共にその動作の示す動き・状態・様子 などを表すか、単に動作の成立・未成立のみを表すかによって、連用修飾語を用いた 言い換えが可能・不可能であることが分かった。しかし、後項動詞の副詞的用法を考 える上で一つの方法に過ぎず、まだ課題はたくさん残っている。今後、複合動詞リス トをもとに、辞書の意味記述および意味記述の中に表れる連用修飾語を検討し、後項 動詞の担う副詞的用法についてさらに考察を加えたいと思う。

【参考文献】

寺村秀夫(1969)「活用語尾・助動詞・補助動詞とアスペクト-その一-」『日本語・日本文化』1 大 阪外国語大学研究留学生別科

若林武史(1989)「現代日本語の複合動詞の形態と意味―V-V構造の複合動詞の意味構造―」『京都 教育大学国文学会誌』23

山本清隆(1984)「複合動詞の格支配」『都大論究』21

森田良行(1978)「日本語の複合動詞について」『講座日本語教育』14 早稲田大学語学教育研究所 長嶋善朗(1997)「複合動詞の構造」『語構成』ひつじ書房

参照

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