• 検索結果がありません。

第1章 論文概要 1

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "第1章 論文概要 1"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

第 1 章 論文概要  1 本論文の主旨 

地上波のデジタル化を迎えて、わが国の放送業界はその投資金額の大きさゆえ、経 済的条件が厳しさを増している。わが国の民間放送局は免許状で指定された放送区域 内でのみ放送することが認められている一方で、マスメディア集中排除原則の緩和に よる放送局の統合が議論されている。デジタル化に対応して、経営の厳しい地方局は 大型化で経営の効率化を図るべきという主張である。 

ブロードバンド化の進展により放送と通信の垣根が低くなる中、番組の作成・供給 者(ソフト事業者)としての機能と、伝送経路の供給者(ハード事業者)としての機 能を垂直分離した方が望ましいという議論もある。たとえば、二つの機能を分離し、

放送局が無線以外の伝送路で放送するインセンティブを持てば、ブロードバンドのよ うな他の伝送路も考えられるようになる。 

本論文では、このような問題意識に基づき、放送局の経営において大規模事業局の 方が効率的であるのか、番組制作と伝送を別々の経済主体が供給することが社会的に 見てより効率的であるのか、を検討するため、現在の放送局が生産規模に応じてどの 様な費用効率性を得ているのか、また番組制作と伝送を併せて供給するということに よってどの様な費用効率性を得ているのか、それはどの程度の大きさであるのかとい う点を実証的に検証することを試みた。具体的には、地域放送産業に焦点を当て、費 用関数の推計を行ない、全体及び個別的な規模の経済性・垂直統合性の存在の有無を 確認し、将来に向けた地域放送産業の効率的な構造について、計量経済学的知見に基 づく定量的評価を与えた。 

 

2 本論文の特色 

本論文は放送事業の経済性という極めて限定的なテーマについて独自の考察を行な うため、以下のようなアプローチ、方法論を採用した。そして、このことが本論文の 特色になっている。 

①計量経済的アプローチ 

本論文はわが国の放送産業の実態について実証分析を行い、望ましい産業構造のあ り方について、筆者の考えをまとめたものである。放送産業の組織という極めて限定 的なテーマについて独自の考察を行なうため、放送産業の特殊性を十分に踏まえた上 で、その効果を評価するために適切と考えうる理論的フレームワークを提示している。

わが国の放送産業に関する形態を体系的に整理し、さらに制度上モデルと実態モデル の関係を適切に評価している。放送産業を分析する論文は他にも存在するが、本論文

(2)

のようにその経済性の存在の有無によって内外の放送産業モデルを渉猟し体系的にま とめたものは類を見ない。 

また、本論文の独自性として、採用されている方法論そのものが挙げられる。本論 文は、放送局の費用構造という古典的であり、しかもデジタル化という転換点を迎え 現代的とも言えるテーマを多角的かつ多面的に考察すべく、研究方法については従来 に見られなかった計量経済的アプローチを試みている。放送産業のように、社会学や マスコミ学からのアプローチが主流となっており、そうした分野からの批判が起こり 得ることを承知で、計量経済を研究方法として採用した理由は、わが国で遅れている 放送経済学を確立したかったからである。放送局の垂直分離(アンバンドリング)に 関する論文は見られるものの、計量経済的アプローチから実証的に検証したものはほ とんど見られない。 

 

②独自の方法論(methodology) 

放送事業に対する費用構造分析を通じて、垂直的な範囲の経済性の計測を行なった。

近年の研究では放送事業の垂直分離(アンバンドリング)の必要性が論じられてきた。

多くの論者は産業における競争を促すために垂直分離が必要であると主張してきたが、

放送業界からは緊急時に必要な情報を国民に届けることが保証できなくなるといった ことを理由として反対の意見が強い。 

本論文では、垂直分離という方策の経済的な有効性は垂直統合の経済性の大きさおよび 存在に強く依存するという前提の下、複数生産物に関する費用の経済性の概念を修正し、

垂直的に関連した機能における垂直統合性の一般的な測定を行なう。放送事業における複 数機能の費用関数を推定し、番組制作と伝送機能とにおいて存在する垂直の経済性の程度 を算定する。放送に関する計量経済学的研究の少ないことの理由の一つに、Baumol らが複 数財生産について展開してきたミクロ経済理論が垂直統合関係にある放送産業の分析にな じみ難かったことがある。垂直統合の経済性を直接的ないし間接的に計測することを試み た先進研究は、電力事業において上流部門(発電)と下流部門(送配電)に関する実証分 析がいくつか存在するが、筆者が調べた範囲では、それ以外には見受けられない。放送産 業には適用されたことがないであろう。本論文の目的は、電力産業に用いられた Hayashi らによる垂直統合関係の複数財生産の理論を適用し、複数部門を垂直統合するわが国の分 析の新たな枠組みを提示すると共に、放送産業の経済性について計量経済学的アプローチ を行なうことである。 

 

3 本論文の概要 

本論文の内容を各章ごとに要約して示せば、以下の通りである。 

(3)

まず、本章に続く第 2 章「本論文に関連する先行研究」では、本論文に関連する先 行研究を概観する。放送産業の経済学的分析に対する先行研究に加え、垂直統合の経 済性について実証した先行研究についても網羅する。 

第 3 章「地域放送産業における規模の経済性と垂直統合性に関する予備的考察」で は、規模の経済性と垂直統合性の視点から、放送産業の構造を 4 つのモデルに分類で きることを明らかにした。「事業」としての放送サービスは、(1)放送波の伝送・イン フラの運営機能と、(2)コンテンツの制作・編成機能に大別される。そして、従来の放 送産業では、(1)と(2)の垂直的な統合を基に放送局が運営されてきた。日本では、放 送局が番組制作・伝送機能を垂直的に統合する一方で、放送サービスの範囲が県域単 位で細かく分けられている。そこから、「日本の放送産業では、垂直統合性が存在する 半面、規模の経済性が見られない」という仮説が導き出せるが、むしろ、ネットワー クの定着によって、規模の経済性を追求してきたのが日本の放送産業であった。本章 では、規模の経済性と垂直統合性を基準に、国内外の放送産業を分類し、俯瞰した。 

第 4 章「規模の経済性に基づく地域放送産業の統合可能性に関する分析」では、日 本の放送産業についてトランスログ型費用関数を用い、放送業界の規模の経済性を計 測した。規模の経済性とは、企業が生産規模を拡大したときに、生産の効率性が高く なることを言う。言い換えれば、資本や労働などの生産要素の投入量を増加させたと き、生産量が比例的以上に増大すること、あるいは生産費用が比例的以下にしか増加 しないことである。もし、規模の経済性が存在するのであれば、組織統合等によって 規模を拡大した方が生産の効率性が良くなることになる。実証結果によれば、放送業 界の規模の経済は関数の近似点である標本の平均値において存在する。この実証結果 は、放送業界が検討しているマスメディア集中排除原則緩和や県域免許制度の緩和等 による放送局の統合を理論面から支持するものである。 

第 5 章「垂直統合性の計測に基づく地域放送産業の効率的構造に関する分析」では、

これまでほとんど行なわれてこなかった放送産業に関する垂直統合の経済性の推定を 試みている。地上波のデジタル化という歴史的転換点を迎える放送業界について、番 組制作と伝送を垂直統合していることによる費用節約効果の分析の枠組みを示すこと を狙いとした。番組制作事業と伝送事業を垂直統合している放送局の経営について、

二つの機能を併せて供給するということによって、どの様な費用効率性を得ているの か、それはどの程度の大きさであるのかという点を本章では実証的に検証した。放送 局が番組制作と伝送をあわせて供給している形態が社会的に見て効率的か、あるいは 番組制作と伝送を別々の経済主体が供給することが社会的に見てより効率的であるか、

という問題を検討するために、2 財生産のトランスログ型費用関数を実際に計測し、

垂直統合による費用節約の効果が存在するかどうかを確認した。実際の推定結果より、

放送局経営には垂直統合性は存在せず、いわゆる統合による費用節減効果は見出せな

(4)

かった。 

第 6 章「デジタル放送における地域放送産業のネットワークシェアリングに関する 効率性の分析」では、わが国の放送事業に関して第 4 章で規模の経済性の存在が確認 されたこと、第 5 章で垂直統合の経済性の存在が見出されなかったことを前提として、

垂直分離した伝送機能において規模の経済性を追求するネットワークシェアリングを 提案する。ネットワークシェアリングの基本的概念は Bjorkdahl & Bohlin[2001] に よるが、伝送機能を分離した上で設備を共有化する形態である。伝送は共同施設とい う形でライバル関係にある放送局同士が共同運用を委託しながらも、番組制作におい ては激しい競争を行なうという形態である。また、派生的な考え方として、「セントラ ルキャスティング」「データ放送共同センター」を紹介する。 

第 7 章「放送産業の構造変化」では、本論文を通じて得られた結論を元に今後の展 望と課題を明らかにした。放送産業の構造を 3 パターンに分類し、今後の構造変化を 展望した。現状は、地上波放送局が番組制作と伝送を垂直統合した産業構造であるが、

番組制作者と伝送供給者を別の主体に垂直分離した場合、従来伝送しか持たなかった 通信企業が番組制作企業と自由に取引し、放送と通信の融合の促進が期待できること を示唆している。 

最終章である第 8 章「総括と展望」では、本論文の内容を要約して示すとともに、

本論文を通じて得られた結論と今後の課題を明らかにした。 

 

4 本論文の構成 

 本論文は、このたび新たに書き下ろした論稿と、これまでに発表した論文によって 構成されている。発表した論文を本論文に掲載するにあたっては、データの差し替え や、加筆および修正をしている。各章の発表誌等を示すと、次の通りである。 

 

第1章 書き下ろし  第2章 書き下ろし  第3章 書き下ろし 

第4章 「放送業界における規模の経済性の検証」『情報通信学会学会誌』および「地 上デジタル放送を活用した行政サービスの可能性」『日本社会情報学会年会誌 第 15 巻第 2 号』を加筆、修正した。 

第5章 「放送業界における統合の効果に関する実証的分析」『平成 14 年度 情報通 信学会年報』(2003 年 3 月 25 日発行)pp.13‑25、「放送業界における垂直分離 とネットワークシェアリングに関する実証的分析」『地域学研究第 33 巻第 3 号 』 お よ び Vertical  Separation between Program Production and 

(5)

Transmission: Network Sharing in the Japanese Broadcasting Industry

『COMMUNICATIONS & STRATEGIES Special Issue on Asia Market Dynamic and  Development Models』を加筆、修正した。 

第6章 「放送業界における垂直分離とネットワークシェアリングに関する実証的分 析」、『地域学研究第 33 巻第 3 号』、「地上デジタル放送を活用した行政サービ スの可能性」『日本社会情報学会年会誌第 15 巻第 2 号』および Vertical  Separation between Program Production and Transmission: Network Sharing  in the Japanese Broadcasting Industry 『COMMUNICATIONS & STRATEGIES  Special Issue on Asia Market Dynamic and Development Models』を加筆、

修正した。 

第7章 書き下ろし  第8章 書き下ろし   

5 主要用語の解説 

本論文の理解を容易にするため、いくつかの主要用語について簡単な解説を与える。 

 

【アーカイブ(archive)】 

本来は公文書、古文書あるいは、それぞれの保管所を意味する言葉であるが、放送 やマルチメディアの世界では、取材で収録した映像や CG(コンピュータグラフィック ス)等で作成した映像を蓄積し、その内容をデータベース化したものという意味で使わ れることが多い。 

 

【委託放送事業者】 

 受託放送事業者(受託国内放送をする無線局の免許を受けた者)に委託して、自己の 放送番組をそのまま送信させる業務を行なうことに関し総務大臣の認定を受けた事業 者 

 

【一次同次性】 

生産要素投入量を α 倍すると、生産量も α 倍になるという関数の性質を言う。つ まり、 αY=F(αK, αL)となることである。「規模に関して収穫一定」であると表現 されることもある。経済理論によれば費用関数の当てはまりをよくするためには、規 模の経済の大きさに関わらず、変数の価格において、一次同次=規模に関して収穫一 定であるという条件が必要になる。 

 

(6)

【HDTV(High Definition Television)】 

 日本放送協会(NHK)が開発した、アナログ伝送方式の高精細テレビ(HDTV: High  Definition Television)の方式名称を言う。大画面で高精細な映像と PCM デジタル・

サウンドによるダイナミック音声で、臨場感あふれた放送が楽しめるテレビ放送シス テムである。ハイビジョン・テレビの走査線の数は、従来型標準画質のテレビ (SDTV)  の 525 本に対して 1125 本 (有効走査線 1080 本) と 2 倍以上多く、またアスペクト比  (画面の横縦の比) も従来型テレビが 4:3 であるのに対し 16:9 と横長になっている。

従って、画面がワイドな上に非常にきめ細かい映像が得られ、画面に近づいても横線  (走査線) のチラツキがない美しい映像で見ることができる。また、ハイビジョンの音 声はステレオ方式の他に、前方スビーカー用に 3 チャンネル、後方スビー力一用に 1 チャンネルを使用する 3‑1 サラウンド方式のモードも用意されている。このため映画 館の音響のようなリアルな臨場感と迫力を楽しむことができる。 

 

【キー局(key‑station)】 

 ネットワーク番組の送出を行なう局、ネットワーク系列の中心となる局を言う。わ が国の場合、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の 5 局を指す。 

 

【規模の経済(economy of scale)】   

  生産規模が拡大すると単位あたり生産コストが低下する現象を言う。たとえば装置 産業では規模の経済が大きく発揮される。また規模の経済が発揮できる産業では大型 の合併が行われることもしばしばみられる。逆の場合は「規模の不経済」と言う。 

 

【共通費用(overhead cost)】 

 複数の財・サービスを提供している場合に、特定の財・サービスの生産費用に帰属 せしめることができない費用を言う(奥野 et al[1993]を参考)。   

 

【県域】 

放送サービスのエリアはその範囲が免許の際に決められている。一つの放送局は一 県域、県単位が基本である。但し、関東、関西、中京、鳥取・島根の山陰地区、岡山・

香川の瀬戸内地区のように複数県にまたがる広域圏放送も例外として存在する。 

 

【公共財(public goods)】 

非競合性、排除不可能性があって、民間主体が供給しようとすると過小供給、過小 投資になるとされるものを指す。新庄[1995]は、「多数の人が他人の利用を妨げるこ となく同時に消費することが可能で、しかも対価を支払わない人たちの消費を排除す

(7)

るための費用が非常に高い財・サービスを言う。公共財の典型的な例として電波があ る。電波はある人が利用しているからといって他の人が利用できないわけではなく、

多くの人によって同時に消費されるし、また電波の消費に対して対価を支払わないか らと言ってその消費を排除するには多くの費用を必要とする」とした。

 

 

【コンテスタブル市場(contestable market)】 

参入障壁も退出障壁も存在しないために、潜在的競争企業の参入圧力によって望ま しい市場成果がもたらされる市場を言う。新庄[1995]は、「参入・退出が自由な市場」

と定義し、この定義にある「自由な(free)」を「費用が一切かからない(costless)」

とした。参入が自由とは、参入障壁が存在しないこと、すなわち既存企業と潜在的参 入企業との間に需要条件、費用条件の格差が存在しないことを意味する。また、退出 が自由とは参入企業が退出に際し参入時のコストをすべて回収できること、すなわち サンクコストがゼロであることを意味する。  

 

【サービスエリア(service area)】 

   電波が届く範囲を言う。単にエリアと略すことが多い。 

 

【サブ(sub control room)】   

  Sub control room  の略、副調整室のことを指す。多くの場合、スタジオに隣接して 設けられており、スタジオ制作番組の司令塔としての役割を担っている部屋を言う。

カメラの映像を切り替えたり、映像効果を付加したりする映像調整卓、音声信号をミ キシングする音声調整卓、照明効果を演出するため調光卓等が設置されている。 

 

【サンクコスト、埋没費用(sunk cost)】 

 一旦投資すると、事業から退出しても回収できなくなるコストを言う。生産活動の 中には、他の生産活動への転用が困難になるほど、資本の形態を特定の用途に適合さ せなければならなくなるものがある。この場合には、仮に当該生産活動から退出して も投下資本のうち回収できなくなる部分が発生する。送信局、中継局やスタジオを敷 設しなければならない放送事業のサンクコストは大きいと考えられる。固定費用はサ ンクコストとなることもならないこともあるが、サンクコストは事後的にはすべて固 定費用である。また、サンクコストは潜在的な参入企業にとってはコストとして認識 されても既存企業にはコストとして認識されない。したがって、サンクコストの存在 は参入障壁として機能する。また、既存企業にとっては退出障壁としても機能する(奥 野 et al[1993]を参考)。 

 

(8)

【シェパードの補題(Shephard's lemma)】 

要素価格と生産水準の関数である費用を最小化する要素投入量は費用関数の要素価 格による偏微分で表されることを言う。費用を最小にする投入ベクトルは、費用関数 の要素価格に関する導関数のベクトルによって与えられるという、費用関数の導関数 の性質に関わる命題である。 

 

【準キー局】 

 大阪や名古屋の局など自局制作の番組が多くまた他局に番組をネットする力のある 局を言う。  

 

【シンジケーション(syndication)】 

ネットワーク以外のテレビ番組の流通システムとして確立されている市場を言う。

米国では、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなど 211 の放送市場(エリア)ごと にテレビ番組の売買が自由に行われている。シンジケーションは、ネットワークに属 さない独立局や CATV にとって、番組を調達する主要ルートになっているだけでなく、

ネットワーク系列局もシンジケーションから番組調達しており、系列局の自主性を保 つ上で重要な役割を果たしている。また、番組制作会社にとっても、ヒット作をつく ればシンジケーション市場を通して巨額の収入を得ることが可能となっているため、

番組制作会社発展の原動力となっている。 

一方、わが国の場合、制作会社のテレビ番組制作費用はテレビ局からの収入によっ てカバーされることが原則である。わが国の制作会社は、地上波放送局の下請け的な 存在にあり、制作会社は最初にテレビ局との契約で定められた収入を得るものの、制 作されたテレビ番組の大半は一度放映されるだけの状況になっている。今後、わが国 でも、シンジケーションのようなテレビ番組の流通システムが創出されれば、制作会 社は自社のテレビ番組を何度も売りに出すことで、大きな収益をあげることが可能と なる。制作会社がヒット作を作り出すことへのインセンティブは、大幅に向上すると 考えられる。 

 

【垂直的関係、水平的関係】 

経済活動は単一の同質的な経済活動から成り立っているのではなく、多くの独立し た経済活動で構成されており他の経済活動で利用される中間投入財を生産している。2 つの中間投入財がそれを用いた最終財の生産において補完的な関係にあるとき、この 2 つの中間投入財は垂直的関係にある。一方、2 つの中間投入財がそれを用いた最終財 の生産において代替的な関係にあるとき、この 2 つの中間投入財は水平的関係にある。

たとえば、番組制作と伝送という 2 つのサービスは、放送サービスの提供において補

(9)

完的な関係にあるので、両者は垂直的関係にある。 

 

【垂直統合(vertical integration)】 

企業が垂直的な関係にある部門を企業の内部に統合すること(例えばメーカーによ る流通部門の所有)、技術的には別々の生産、流通、販売、その他の経済行動を一つの 企業内にまとめることを言う。放送局は、番組制作、番組編成、伝送の三要素が垂直 統合された状態にあり、わが国では電波の送信も各放送局が行なっている。これが放 送のハードの部分である。東京の地上波は東京タワー1 本に集約されているが、むし ろこれは例外で、テレビ局は通常それぞれがテレビ塔を持っている。関西の場合には、

放送局ごとに生駒山にそれぞれ送信所を持っており、山頂には各テレビ局のテレビ塔 が別々に立っている。日本国中大半の地域と異なり、東京は最後の送信部分が局横断 的に統合されている稀有なケースと言える。 

 

【スタジオ設備(studio equipment)】 

 スタジオ設備は、カメラ、照明、音声マイクなどからなるフロア設備と、映像設  備、照明調光装置、音声設備などからなる副調整室設備に大別される。この中で、放  送コンテンツ制作で重要な役割を果たしているのが、映像素材を切替え加工する映像 スイッチャーと呼ばれている映像設備で、カットやディゾルブ切替え、特殊効果など  処理が可能である。 

 

【スポット CM(spot commercial)】 

 番組の提供を行っているスポンサーが流す CM 以外の CM をスポット CM と言う。ステ ーションブレークあるいは番組内の CM チャンスの PT に流される。スポット CM は視聴 率でその価値が計られる。 ポイント訴求で 15 秒の CM が中心である。短期的に大量に 流せるので、新製品のキャンペーンなど瞬時にして認知率を上げたいときなど、内容 がはっきりしている時に向いている。 

 

【セントラルキャスティング(central casting)】 

東北や九州地方といった地域ブロック内でハブ局を決め、そこにエリアマスター設 備を置くもので、ハブ局以外の局は設備負担が軽くなるシステムを言う。 

 

【送信所(transmitting station)】   

放送事業者の演奏所(スタジオ等)から受け取った番組を送信する場所を指す。放 送事業者の演奏所(スタジオ等)で作成された、番組は送信所に送られ、送信所から 送信される。送信所でカバーできない地域がある場合は中継放送局によって放送され

(10)

る。放送の映像・音声を電波にして実際に送り出すところで、送信機やアンテナなど が設置されている。 

 

【タイム CM(time commercial)】 

 番組を提供するスポンサーの CM を流す枠をタイム枠と言う。購入した特定の番組で 流す CM のことで、3 ヶ月や 6 ヶ月単位で購入し、毎回(毎週)30〜90 秒のテレビ CM を流すことができる。視聴者に定期的に繰り返し見せるので、企業イメーヂや商品イ メーヂをじっくり作り上げることが可能である。主に全国エリアが対象である。タイ ムのスポンサーが基本的に番組の制作費を負担するので番組の内容などに影響力を持 つことになる。特定の番組ごとに1社から数社の CM を継続して放送するもので、一般 に「○○の提供で」という提供表示つきで放送されるのが通常である。またプログラ ム CM といういい方もある。なお番組の中で放送されるスポット CM のことを「PT」と いう。 

 

 【デジタル化】 

 一般に現在アナログ方式の放送波をデジタル方式にすることを言う。これにより画 質・音質の相対的な向上や圧縮技術の利用による多チャンネル化を期待できるほか、

デジタル技術を利用した他メディアとの親和性が高まりマルチメディアとしての利用 も期待される。 

①高画質・高音質 

 ゴーストのないクリアな HD(High Definition 高精細度)の画像、CD 並みの高音質、

臨場感あふれる 5.1ch サラウンド。 

②多チャンネル 

 HD1 チャンネルの帯域で、SD(Standard Definition 標準画質)なら最大 3 チャンネル の複数放送が可能。 

③データ放送 

 番組を見ながら番組に関連する情報にアクセスが可能。 

④移動体向け放送 

 安定した受信サービスが可能になるため、携帯電話、PDA、カーナビでも受信が可能。 

⑤EPG(電子番組表) 

 常に最新の番組表を提供。好みのジャンルやタレント名でも検索が可能。 

⑥高齢者・障害者向けサービス 

 字幕放送や解説放送など障害者を意識したユニバーサルサービスが充実。 

 

(11)

しかし一方では放送各局に膨大な設備投資を強いることになり、デジタルとアナロ グの並列放送によるランニングコストの問題、視聴者の受信機問題など、課題は多い。  

 

【デジタル放送(digital broadcasting)】 

 デジタル信号を用いて放送する方式を言う。また、その放送。高品質な放送が可能 で、既存のアナログ放送に比べて電波の利用効率が高い、コンピュータ等との相互接 続が容易であることが特長。現在の地上波テレビ放送はアナログ方式であり、局内の 放送機器がすべてデジタル化しても最終的にはアナログでしかないが、放送波まで全 てデジタル化して、まったく異なる放送方式としたものをデジタル放送という。これ により電波の使用効率が向上し高画質化や多チャンネル化、双方向化などが可能とな るとされている。地上波デジタル放送は 2003 年 12 月 1 日から 3 大広域圏で開始され た。12 月の時点でのエリアは下記の通りである。 

  東京    :港区、千代田区、中央区など約 12 万世帯    名古屋   :約 230〜240 万世帯 

  大阪    :約 280 万世帯 

  その他の地域:2006 年末までにサービス開始 

 2004 年には、神戸、水戸、岐阜、富山でサービス開始される予定である。現在のア ナログ放送は 2011 年 7 月 24 日終了予定(電波法の改正が 2001 年 7 月 25 日に施行さ れ、その際に 10 年後の 2011 年 7 月 24 日にアナログ終了が明記されたため、中途半端 な日数となっている) 

 

【デジタル化投資】 

 地上波テレビのデジタル化には膨大な設備投資が必要になる。仮にスタジオ製作番 組やニュース番組なども HDTV 化するとなると、カメラはもちろんスタジオのスィッチ ャーなど全ての設備をデジタル化しなくてはならず、屋外使用の中継車などもデジタ ル対応にしなければならない。ローカル番組は HD ではやらないと決めたとしても、キ ー局からのネット番組が HD 対応である以上、ネット番組を受けて送り出すマスター設 備や送信所・中継局などは新しい設備に更新しなくてはならない。CM バンクや EDPS などもそれに合わせて更新せざるをえない。これらの投資額は1局あたり数十億円に のぼるという試算があり、体力のないローカル局では投資に耐えられないという見方 がある。 

 

【データ放送(data broadcasting)】 

テレビ放送とは別に、文字・画像をひとつの画面に表示することを言う。さまざま な情報提供が予定されている。テレビの電波に静止画や文字、レイアウト情報などの

(12)

デジタルデータを載せて流すもので、 受像機(テレビ)に内蔵された専用のソフトウェ アによって再生され、次の 3 種類がある。 

①独立型 放送中の番組内容とは関係なく、天気やニュースなどいつでも必要な情報が 送られてくるサービス。 

②番組連動型 放送中の番組に関連した情報が送られてくるサービス。 

③双方向サービス 番組を見ながら買い物をしたり、クイズ番組やリクエスト番組など、

視聴者がリモコンを使って家庭から番組に参加できるサービス。(視聴者からのデータ の送信には電話回線を利用) 

 

【電波料】 

 番組を放送するための料金を言う。放送時間をスポンサーに売り、その対価として 受け取る料金のことを言う。提供枠の権利金のようなもので、スポンサーは自社の CM を放送するかわりに電波料と制作費を支払う形になる。スポンサーから見れば、①特 定時間における電波の占有権料金、②放送による広告効果への対価、③放送施設の使 用料金、という 3 つの性質を持っている。 

 

【独立U局】 

 ネット局に属さない UHF 局を独立 U 局と言う。一般に UHF 帯の電波を使用している。

テレビ放送がスタートしたときは全て VHF 帯だったが、1969 年から開局する新局に対 しては UHF のチャンネルが割り当てられたので「U 局」という名前がついた。コンテ ンツ制作力があり、自主制作比率が高い。  

 

【ネットワーク(network)】 

 網状組織のことを言う。放送では、同一の番組を 2 局以上の放送局で同時に放送す る形態を指し、キー局を中心に多数の受け局が回線で接続されている全国放送網の意 味で使用される。  

 

【ネットワークの外部性(network externality)】    

 財のユーザー数の増加あるいはネットワークのサイズから、もたらさられる便益の ことを言う。その効果としては、ユーザー数が増えることによって財から得られる便 益が直接増加する効果と、ユーザーの増加が補完財の介入によって便益を増加する効 果がある。電話、ファクシミリなどの情報電信関連産業やパソコン、ビデオなどソフ トウェアの利用がハードの便益に大きな影響を持つ産業で見られる。 

 

(13)

【番組制作】   

わが国においてテレビ放送が開始された 1953 年当時においては、全て放送コンテン ツは放送局内で制作されていたが、1958 年に現在の TBS が初めて外注で制作を行って いる。その後、放送局の企業合理化に伴い制作部門における独立採算性と競争原理の 導入が要請されたことや、放送局の優秀なディレクターが次々に独立し極めて優れた 作品を制作し続けてきたなどの理由により、徐々にではあるが外部制作への依存を強 めていった。現在では、放送ソフト制作における外部プロダクションの占める役割は 非常に大きくなっており、それぞれ特徴のあるノウハウや人材及び設備を持ち、放送 ソフトのみならず他の映像メディアのソフトも制作しているプロダクションも多い。

その正確な数は把握されていないが、地方や中小のプロダクションを合わせると約 3,000 社あると言われている。 

 

【範囲の経済性(economy of scope)】    

  複数の種類の財・サービスを生産するときに必要とされる費用の合計が、個々の財・

サービスを単独で生産するときの費用の合計に比べて小さくなることを言う。別の言 い方をすれば、単位あたりの変動費の削減といえる。したがって、複数の事業を行な う場合には、多角化した企業の内部で行なう場合のコスト合計は、別々の企業が個々 にそれぞれの事業をやる場合のコストの合計と比較して低くなるなどの効果をあげる ことができる。  

 

【費用補完性(Cost complementarity)】 

 ある企業が複数の財・サービスを提供している場合に、任意の財・サービスを増や したときに他の財・サービスの増分費用が低下することを言う。範囲の経済性の十分 条件にあたる費用補完性は 2 つの生産物に関して費用関数の 2 階交差微分となり、あ るサービスの生産量の増加が他のサービスの限界費用を下げることを意味する。これ を計測し、複数財生産の効率性を調べ、満たされれば、範囲の経済性が存在すること になる。 

 

【BS】 

 Broadcast Satellite 赤道上空 3 万 6 千kmの静止軌道上の放送衛星のこと。及び それを使って行われる衛星放送サービスのことを言う。通信衛星 CS を使って行われる のは CS 放送である。 

 

(14)

【PT】 

 participating の略で、番組の CM を分割してスポット CM として放送する CM のこと で、「提供」表示は付かない。放送の形式はタイムであるが、営業的な扱いはスポッ ト CM ということになる。 

 

【ヘッセ行列(Hessian matrix)】 

D を Rnの開集合として、関数 f:D→R は D で 2 階微分可能であるとする。第 ij 成分 が(∂2/∂xi∂yi)f(x)である n×n 行列をヘッセ行列と言う。また、その行列式をヘシ アンという。 f(x1,x2,...,xn)を、a=[a1,a2,...,an]の近傍で定義された2回連続偏微 分可能な関数とし、fxi(a)=0 (i=1,2,...,n)とする。このとき、次の行列 H をヘッセ 行列という。  

 

この行列を使うと、f(a)の極値は、次のように判定できる。  

(1)H が正値=>f(a)は極小値  

(2)H が負値=>f(a)は極大値  

(3)H が正則であり、正値でも負値でもない。=>f(x)は、x=a で極値をとらない。  

 

【編成】 

 毎日どの時間にどういう番組を放送するかという、プログラム組立のこと、その業 務を行なう編成部門のことを言う。放送番組を決定する非常に重要なセクションであ る。そして、この編成を実施する権限を番組編成権と言う。1 年を通じて番組編成は 2 期に分かれるのが普通で、4 月と 10 月が改編期となる。編成の業務および権限は、① 番組予算の掌握と実施、②番組の決定と宣伝、③利潤および視聴率の確保、④番組の 完全な送出と保存、である。 

 

(15)

【放送と通信の融合】 

 ICT(情報通信)技術の進展によって、放送と通信に分けられていた電気通信サービ スの機能が一体になる状態。生田目[2000]は、以下のレベルで別々に一体化が進むこ とを議論の前提においている。 

①事業体の融合(同一事業者による放送・通信事業の兼業) 

②伝送路の融合(同一の伝送設備・回線による放送・通信サービスの提供) 

③サービスの融合(放送・通信の中間にあたる電気通信サービスの提供) 

④受信端末の融合(放送・通信の同時受信に対応できる端末の開発・普及) 

 

【マイクロ回線】 

 極めて波長の短い(周波数の高い)電波であるマイクロウェーブを使った通信回線 のこと。一般には NTT のネットワーク回線のことをいうが、局の STL や TSL は自営の 小規模なマイクロ回線である。マイクロ回線の使用にあたっては、経済性、効率性を 勘案し、民放全体が「社団法人 民間放送テレビジョン中継回線運営センター」を組 織し、共同して借り受け、運用している。具体的には、各テレビ局の回線使用申込み を取りまとめて NTT コムに申請する回線運用業務、共同専用料金の計算、収納、支払 業務等を処理している。 

 

【マスター(master control room)】   

  Master control room の略、主調整室のことを指す。放送はすべてマスターを経由 して送信所に送られます。番組の切替えや送り出し、調整、監視その他放送局のまさ に心臓部である。 

 

【マスメディア集中排除原則】 

 放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるようにするための 放送事業の兼営制限等の規制を言う。マスメディア集中排除とは表現の自由を確保す るために放送事業の支配を規制する考え方の総称で、特定のメディアによるテレビ局 支配を排除するため、放送事業者の出費を抑え、テレビ局の合併や統合を認めないな どの規制がある。しかし、最近はマスメディア集中排除原則の緩和が考えられている。 

 

【民放】 

 民間放送の略。特殊法人である NHK に対し、広告収入で経営する株式会社組織とし て昭和 26 年にまず民放ラジオが、続いて昭和 28 年にはテレビも日本テレビを先頭に スタートした。現在すべての民放が株式会社組織となっており、その目的は利潤の追 求であり、それが株主に対する義務となっている。但し、一般企業と異なり、公共の

(16)

電波を預かる交渉的使命を有しており、そのため政府の保護を受けている。数少ない 電波の割り当てを受けていることは国内の放送局が限定されていることにもなるから である。 

 

【ユニバーサルサービス(universal service)】 

国民は全国どこで生活していようとも、あまねく平等に公共サービスを受ける権利 を有するが、これをユニバーサルサービスと言う。封書やはがきの料金が全国均一で、

市内電話が原則として全国どこでも同一料金なのもすべてユニバーサルサービスの概 念によるものである。NHK や民放のテレビ放送が誰でもどこでも受信できるように送 信局の整備が義務付けられていることも国民共通の財産である電波を使う見返りとし てのことである。放送法第 7 条には、NHK の目的が掲げられ、「協会は公共の福祉のた めに、あまねく日本全国において受信できるように国内放送を行なう」というような

「あまねく」規定が存在する。NHK では数軒の世帯のため専用のテレビ塔を設置して いる例もある。 

  わが国の国策として、国民一人一人が最低限の情報アクセス環境を構築することは、

ユニバーサルサービスとして必要なことであると考えられている。放送に関しては、

日本放送協会がその任にあたり日本国内において、国民が等しく最低の放送にアクセ スする手段を提供している。放送市場においては伝統的に公共放送である NHK が、ユ ニバーサルサービスを担っており、その体制は今日においても引き継がれている。ま た同時に民放に対しても各サービス地域内における「あまねく放送」の実現を電波行 政の中で指導されている。 

 

【ローカルセールス(local sales)】 

 ネットワーク番組で受局独自の販売枠として広告主に販売すること ローカルセー ルスでも CM 自体はネット CM というケースもある。 

           

参照

関連したドキュメント

( 「時の法令」第 1592 号 1999 年 4 月 30 日号、一部変更)として、 「インフォームド・コンセ ント」という概念が導入された。同時にまた第 1 章第

河野 (1999) では、調査日時、アナウンサーの氏名、性別、•

現行の HDTV デジタル放送では 4:2:0 が採用されていること、また、 Main 10 プロファイルおよ び Main プロファイルは Y′C′ B C′ R 4:2:0 のみをサポートしていることから、 Y′C′ B

長期ビジョンの策定にあたっては、民間シンクタンクなどでは、2050 年(令和 32

当初申請時において計画されている(又は基準年度より後の年度において既に実施さ

本案における複数の放送対象地域における放送番組の

行ない難いことを当然予想している制度であり︑

平成 24