判例評釈
民事手続法最高裁判例研究 民事手続法最高裁判例研究会
(代表者 松 村 和 德)
最判平成31年 3 月 5 日裁判所時報1719号 3 頁
宇都宮遼平
はじめに
最判平成31年3月5日裁判所時報1719号3頁(以下,「本判決」と言う。)
は,養親の相続財産全部の包括受遺者が提起する養子縁組の無効の訴えにおけ る訴えの利益の有無につき判示したものである。
1 .事案の概要
BはDの非嫡出子であり,父から認知を受けておらず,同母兄がいたが早 くに亡くした。昭和23年3月4日,BはEと婚姻し,Eとの間に長女をもうけ たが,昭和28年9月15日にEを,平成6年7月16日に長女を亡くし,その間 にDも亡くした。
亡Dには他の男性との間に子がおり,同人には子ら(Bの甥)がいたので,
Bの推定相続人は上記甥らであったところ,平成22年7月11日,Bは,Gの夫
たるX(原告=控訴人=被上告人)を自身の包括受遺者とする自筆証書遺言を
作成した(以下,「本件遺言」と言う。)。
その後,平成22年10月,Bは,自身を養親なる者とし,Eの兄であるFの子
養親の相続財産全部の包括受遺者が提起する 養子縁組の無効の訴えと訴えの利益の有無
(最判平成31年
3
月5
日裁判所時報1719号3
頁)はじめに 1.事案の概要 2.判旨 3.検討 4.評論 おわりに
(Bの義理の甥)であり,Gの弟たるC(被告)を養子となる者とする養子縁 組届をなした(以下,「本件養子縁組」と言う。)。
平成25年12月,Bが死亡し,Xは本件遺言により,その相続財産全部の包括 遺贈を受けた。
平成28年1月,CはXに対し,遺留分減殺請求の訴えを提起した(以下,
「本件遺留分減殺請求訴訟」と言う。)。本件遺留分減殺請求訴訟の係属中,平 成29年5月,XはCに対し,本件養子縁組の無効確認を求めて訴えを提起し た(以下,「本件訴訟」と言う。)。
第一審(徳島家判平成29年9月22日金商1569号20頁)は,最判昭和63年3月 1日民集42巻3号157頁を参照し,「第三者の提起する養子縁組無効の訴えは,
養子縁組が無効であることによりその者が自己の身分関係に関する地位に直接 影響を受けないときは,訴えの利益を欠く」としたうえで,「XはBの親族で はなく,本件養子縁組の養親であるBから包括遺贈を受けた者であり得るに とどまるから,本件養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する 地位に直接影響を受ける者には当たら」ず,更に,「Xは,本件請求の本案判 決が得られなくても,別件訴訟(筆者注:本件遺留分減殺請求訴訟)……で本 件養子縁組の無効を主張すれば,Cに対して自己の権利利益を防御することが できるし,仮にCがXの包括受遺者の地位を争う別途の法的手続をとったと しても,同様に自己の権利利益を防御することができるから,上記のように解 したとしても,Xに過酷な不利益が生ずることはな」く,「Xの主張は,Cの 同種の主張を先制攻撃的に封じておきたいというに過ぎず,採用の限りでな い」として,本件訴えを却下した。これに対し,Xは控訴した。
原審(高松高判平成30年4月12日金商1569号18頁)係属中,平成29年10月,
Cが死亡したため,Y(検察官。被控訴人=上告人)が本件訴訟を承継し,亡 Cの妻たるAがYに補助参加した(なお,Aは本件遺留分減殺請求訴訟も承 継した)。
原審もまた,最判昭和63年3月1日民集42巻3号157頁を参照し,「養子縁組 無効確認の訴えは,縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが,当 該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を 受けることのない者は,訴えの利益を有しないと解される」としたうえで,
「ここでいう自己の身分関係とは,可能的なものを含め,身分に関する実体法 規に定める地位(相続,扶養,婚姻制限)又はこれに関する権利の行使若しく は義務の履行に影響を受けることをいうものと解される」とし,Xが本件養子
縁組上の養子たるCと親族関係(2親等の姻族)にあること,Xは本件遺言 により相続人と同一の権利義務を有する地位を取得し(民法990条),本件養子 縁組によりBの嫡出子たる身分を取得したCから遺留分減殺請求を受ける地 位にあり,同請求を受けた場合に自己の財産上(相続)の権利義務に影響を受 けること等から,「Bの包括受遺者という地位は,本件養子縁組の養親である Bの相続に関する法的地位であるといえるから,……自己の身分関係に関する 地位に直接影響を受ける者に当たるというべきである」とし,「Xは本件訴訟 の訴えの利益を有するところ,これを欠くとして本件訴えを却下した原判決は 取消しを免れない」として第一審判決を取消し,本件養子縁組の有効無効につ き更に審理すべく,差戻しをした。Y上告。
2 .判旨
原判決破棄,控訴棄却(自判)。
「養子縁組の無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができ るが,当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直 接影響を受けることのない者は上記訴えにつき法律上の利益を有しないと解さ れる(最高裁昭和59年(オ)第236号同63年3月1日第三小法廷判決・民集42 巻3号157頁参照)。そして,遺贈は,遺言によって受遺者に財産権を与える遺 言者の意思表示であるから,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は,養 子から遺留分減殺請求を受けたとしても,当該養子縁組が無効であることによ り自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない。
したがって,養子縁組の無効の訴えを提起する者は,養親の相続財産全部の 包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはい えないと解するのが相当である。
そして,Xは,亡Bの相続財産全部の包括遺贈を受けたものの,亡Bとの 間に親族関係がなく,亡Cとの間に義兄(2親等の姻族)という身分関係が あるにすぎないから,本件養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位 に直接影響を受けることはなく,本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利 益を有しないというべきである。
これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違 反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示し たところによれば,Xの訴えは不適法であり,これを却下した第1審判決は相
当であるから,Xの控訴を棄却すべきである。」
3 .検討
( 1 )養子縁組の無効の訴えの性質
誰が養子縁組の無効の訴えを提起することができるか,すなわち養子縁組の 無効の訴えの原告適格を明らかにするためには,まず養子縁組の無効の訴えの 性質を検討する必要がある。この点,養子縁組の無効の訴えの性質は,婚姻の 無効の訴えの性質とパラレルに把握される。けだし,養子縁組は,現実の生活 関係としてみれば,婚姻とはかなり様相を異にするものがあるが,法律的にみ れば,縁組の成立ないし効力は婚姻のそれと同じようにみることができるから である(1)。したがって,まず婚姻の無効の訴えの性質を検討する。
婚姻は,戸籍法所定の届出をすることによりその効力を生じ(民法739条1 項),「当事者が婚姻の届出をしないとき」(同法742条2号)には無効とされる
(届出主義・法律婚主義)。したがって,届出がなければ法律上婚姻とは認めら れず婚姻は存在しないのであり,その意味で届出は婚姻の形式的要件ないしは 成立要件とされる(2)。この届出の欠缺による無効が法律上当然の無効であり,
その確定をはかる訴えが確認訴訟であるということについては争いが無い(3)。 他方,婚姻は「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がな いとき」(同法742条1号)にも無効とされる。婚姻意思の存在も婚姻の要件で あるが,届出が,「当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で,又 はこれらの者から口頭で,しなければならない」という,「民法739条2項に定 める方式を欠くだけであるときは,婚姻は,そのためにその効力を妨げられな い」(同法742条2号但書)とされ,婚姻意思の存在に重点が置かれていること が分かる。したがって,同法742条は,婚姻の無効の原因として,届け出られ た婚姻が「婚姻をする意思」(婚姻意思)を欠くということを規定するもので あり,その意味で婚姻の無効の原因は婚姻意思の欠缺のみであるといった表現 や,婚姻意思の存在は婚姻の実質的要件であるといった表現がなされる(4)。
(1) 山木戸克己『人事手続法 家事審判法』(有斐閣,1958年)43頁。
(2) 山木戸・前掲注1・15頁。
(3) 加藤令造『人事訴訟手続法注解』(大同書院,1958年)100頁以下,山木 戸・前掲注1・15頁。
(4) 山木戸・前掲注1・15頁。
この婚姻意思の欠缺による婚姻の無効の訴えの性質については,見解が分か れている。多数説は,この場合の婚姻の無効を,婚姻を無効とする判決を待た ずに当然無効であり,利害関係人は他の訴訟の前提問題として無効を主張でき るとする確認訴訟説を支持する。この説は,民法上婚姻の取消は訴えによらな ければ主張できないとされるが(同法743条),無効については規定していない ことから,実体法がこのような形成権を認めておらず,無効の一般規定に従う べきであるということ(5),日本には婚姻不解消主義の思想や宗教裁判所の歴史 がなく,婚姻無効についても民法の他の一般の規定と同様,初めから当然に無 効であるということ(6)をその根拠として挙げている。この説によれば,婚姻無 効を理由として戸籍の訂正をする場合,家庭裁判所の許可だけで許されること もあるし(戸籍法114条)(この点については後述),家庭裁判所自ら婚姻無効 を審判によって確定する道も開かれている(家事審判法23条<家事事件手続法 277条)。
他方,婚姻意思の欠缺による婚姻の無効は婚姻を無効とする確定判決があっ て初めて無効となるのであり,婚姻の無効の訴えは形成訴訟であるとする形成 訴訟説も有力に主張されている。この説は,民法上婚姻の無効と取消とが同節 同款に規定されている(またかつては人事訴訟手続法上も両訴の正当な当事者 は同条に規定されていた)から,両訴は同一に取り扱われるべきものであり,
形成訴訟たる取消の訴えと平仄を合わせるべきであるということ(7),また婚姻 という身分関係についても法的安定が図られるべきであるという届出主義ない しは法律婚主義の趣旨と,その効力を安定的で画一的なものたらしめるために
(5) 松岡義正『特別民事訴訟論』(巖松堂書店,1918年)220頁以下参照。ただ し,戸籍の届出により外観上有効な婚姻の体を成していることから,婚姻を 無効とする確定判決があるまではこれを有効視するという解釈の余地がある 点についても指摘する。
(6) 中川善之助『親族法 上』(青林書院,1958年)182頁以下。すなわち,中世 の教会が婚姻不解消主義を徹底させ,離婚を禁じた時代に,夫婦の別離を合 法化すべく婚姻無効理論は提唱されたのであり,婚姻の無効は宗教裁判所に よって宣言されることによって効力を生じたので,近世に入り婚姻法の還俗 が完了してからも,キリスト教国の婚姻無効は,常に当然無効を嫌い,裁判 所の宣告によってのみ無効の効力を生ずるものとし,ただ管轄裁判所が宗教 裁判所から民事裁判所へ移っただけの相違を示したものとされる。
(7) 山田正三「特別訴訟手続第二部(1)─人事訴訟手續法─」末弘嚴太 郎編『新法學全集 第23巻民事訴訟法Ⅲ』(日本評論社,1938年)6頁。
無効原因を婚姻意思の欠缺の場合に限定しているという趣旨に照らし,戸籍の 届出がある以上はその表示を一定程度尊重すべきである(8)ということをその根 拠として挙げている。この説によれば,戸籍法114条による戸籍訂正は,婚姻 意思の欠缺以外の事由による無効の場合に限られると解すべきであるとされ る(9)。
なお,⓪東京高決平成23年1月24日家月64巻3号72頁は,戸籍上の夫が,戸 籍の記載中,妻の欄は,内縁の妻たる申立外人が無断で婚姻届を提出したこと によるものであるとして,戸籍法114条に基づきその訂正(抹消)を求めた事 案であるが,抗告審において東京高裁は,同法114条および同法116条の趣旨に 鑑み,「同法114条による戸籍訂正の申請は,行為の無効が戸籍の記載自体又は 届出書自体から明らかである場合,あるいは,訂正すべき事項が軽微であって 訂正の結果が身分法上重大な影響を及ぼすおそれがない場合に限り許され,そ うでない場合には,同法116条1項の確定判決等による戸籍の訂正の申請手続 によるべきであると解するのが相当である」としたうえで,本件においては,
「戸籍の記載自体又は届出書自体から本件婚姻届出の無効が明らかであるとは 認められないし,戸籍の訂正の結果が抗告人妻及び抗告人の身分関係に重大な 影響を及ぼすおそれがない場合に当たらないことは明らかである」と判示し,
同法114条による戸籍の訂正を認めなかった。しかし,家庭裁判所の許可は婚 姻や離婚などの無効を確定するものでなく,婚姻無効が当然無効であることと 同法114条による戸籍の訂正を認めることとの間には,必ずしも論理的必然性 は存在しない(10)。
以上を前提として,次に養子縁組の無効の訴えの性質を検討する。
縁組は,婚姻と同様,届出を形式的要件(民法802条2号),縁組意思の存在 を実質的要件(同法802条1号)としている。縁組の届出についても,婚姻の 届出に関する同法739条が準用され,戸籍法所定の届出をすることによりその 効力を生ずるものとされる(同法799条)。この届出が,「第799条において準用 する第739条第2項に定める方式を欠くだけであるときは,縁組は,そのため にその効力を妨げられない」(同法802条2号但書)とする点も,婚姻と同様で ある。
(8) 加藤・前掲注3・104頁,山木戸・前掲注1・17頁,飯倉一郎「昭和43年 判批」國學院法學7巻1号(1969年)122頁。
(9)山木戸・前掲注1・17頁。
(10)山木戸・前掲注1・23頁脚注(九)。
養子縁組の無効の訴えの性質についても,婚姻の無効の訴えの性質と同様 に,縁組意思の欠缺の場合の縁組の無効を,縁組を無効とする判決を待たずに 当然無効であり,利害関係人は他の訴訟の前提問題として無効を主張できると する確認訴訟説が多数説であった(11)。他方,縁組意思の欠缺による縁組の無 効は縁組を無効とする確定判決があって初めて無効となるのであり,縁組の無 効の訴えは形成訴訟であるとする形成訴訟説も有力に主張されている(12)。両 説の対立構造は,基本的には婚姻の無効の訴えの性質に関する確認訴訟説と形 成訴訟説との対立構造と同様であるが,ここでは主として,婚姻と同様に縁組 についても,民法上その取消は訴えによらなければ主張できないとされるが
(同法803条),無効については規定していないことから,実体法がこのような 形成権を認めておらず,無効の一般規定に従うべきであるということがその根 拠として挙げられている(13)。判例もこれに従うかたちで,遺留分減殺請求訴 訟において,養子縁組無効の主張を抗弁として主張することを認め(14),また 刑事訴訟における前提問題としても,養子縁組の無効を,人事訴訟による確定 または戸籍の訂正を待たず,別個,独立に主張,判断しうるものとしてお り(15),確認訴訟説を採用する。現在はこれを確認の訴えと解することに,異 論はないところであろう(16)。
(11) 山木戸・前掲注1・44頁脚注(一)。確認訴訟説を採用するものとして,
松岡・前掲注5・295頁,松本博之『人事訴訟法』(弘文堂,第3版,2012 年)410頁,梶村太市=徳田和幸編『家事事件手続法』(有斐閣,第3版,
2016年)124頁(判例として紹介)。
(12) 山田・前掲注7・86頁,兼子一『判例民事訴訟法』(弘文堂,1950年)71 頁,加藤・前掲注2・147頁,山木戸・前掲注1・43頁。
(13) 松岡・前掲注5・296頁参照。
(14) 大判昭和15年12月6日民集19巻2182頁。
(15) 最判昭和38年12月24日刑集17巻12号2537頁。
(16) なお,ドイツにおいては,養子縁組は家庭裁判所における養子縁組手続
(決定手続)によってなされる。日本と同様,縁組意思の欠缺は縁組の無効 原因とされているが,その場合,親子関係の存在または不存在を確認する身 分訴訟(Statusverfahren)(FamFG196条1号)において無効を主張するこ とが認められている。しかし,これには費用がかかり手続も煩雑であること から,身分訴訟の他に,無効な養子縁組が何らの実体法上の効力も生じず,
養子縁組手続が未終結であることを根拠として,養子縁組手続の続行(と同 時に養子縁組の無効確認)を求める申立ても認められている。この場合,養 子縁組の取消の訴えも,養子縁組に対する特別抗告の申立てもできない。
( 2 )養子縁組の無効の訴えの原告適格
(イ)当事者適格か,訴えの利益か
以上を前提として,次に,養子縁組の無効の訴えの原告適格を検討する。一 般に,原告適格は当事者適格の問題として把握されうるが,確認訴訟の場合,
確認の利益自体が,特定の訴訟物に関して,当事者間での紛争を確認判決によ って解決する必要性とその解決の有効適切さを問うものであり,確認訴訟の当 事者適格は,確認の訴えの利益の問題に吸収して理解されていることから,こ れを訴えの利益の問題として把握することもできる(17)。すなわち,そこでは 確認の利益を有する者が,原告適格を有する者であるということになる。この ような確認訴訟における確認の利益と当事者適格との表裏一体的性格から,両 者を切り離して別個の要件とすることはできないとされている(18)。また,人 事訴訟法は,人事訴訟に含まれる確認訴訟につき一般的な原告適格に関する規 定を設けていないが,これは,人事訴訟に含まれる確認訴訟について,一般的 に原告適格者を定めておくことが適切ではなく,訴えの利益に依存する問題と されることによる(19)。
Rauscher/Maurer, Münchener Kommentar zum FamFG, 2. Aufl., 2013, S.
1392 ff.
(17) 川嶋四郎『民事訴訟法』(日本評論社,2013年)99頁。林屋礼二「昭和63 年判批」判時1288号(1988年)213頁は「養子縁組無効の訴えを第三者が提 起する場合に,どのような者が訴えの利益をもつか─したがって,原告適 格をもつか─の問題」と表現される。
(18) 兼子・前掲注12・53頁,三ケ月章「権利保護の資格と利益」同『民事訴訟 法研究第1巻』(有斐閣,1962年)35頁脚注(二〇)。これに対し,伊藤眞
『民事訴訟法』(有斐閣,第6版,2018年)191頁は,「権利関係そのものとは 別の原告独自の法律上の利益が問題にされる点で,厳密には,訴えの利益と 区別された当事者適格の問題とみなされる」と述べる。
(19) 小野瀬厚=岡健太郎編著『一問一答 新しい人事訴訟制度』(商事法務,
2004年)60頁,松川正毅=本間靖規=西岡清一郎編『新基本法コンメンター ル 人事訴訟法・家事事件手続法』(日本評論社,2013年)33頁〔髙田昌宏〕。
もっとも,人事訴訟の中には個別に原告適格を定める規定が存在する(嫡出 否認の訴えに関する人事訴訟法41条1項,父を定めることを目的とする訴え に関する同法43条1項)が,これらはいずれも人事訴訟で形成訴訟に属する ものについての規定である。また,民法も,人事訴訟で形成訴訟に属するも のについて個別に原告適格を定めている(不適法な婚姻の取消しに関する民 法744条,詐欺又は強迫による婚姻の取消しに関する同法747条,協議上の離
しかし,当事者適格が,当事者に着目して,当事者として訴訟物につき訴訟 を追行し本案判決を得,法的救済を得ることができる資格を評価・判断する,
主体面からの訴訟要件であるのに対し,訴えの利益は,訴訟的救済資格を,訴 訟物に着目して評価・判断する,客体面からの訴訟要件である(20)。したがっ て,両者は本来,重複する部分があるとしても完全に重複する性質のものでは なく,その判断要素を異にするものである。現に,当事者適格が認められる が,訴えの利益の不存在のゆえに却下される事例として,社団法人の役員を選 任する総会決議の無効確認の訴えの係属中に,当該役員が任期満了によって退 任し,新役員が総会によって選任された場合,訴えの利益を肯定すべき特段の 事情がない限り,訴えが却下されるという場合の存在が指摘されている(21)。 そして,このことから,訴えの利益は,訴訟追行過程の状況の変化によって影 響を受けうるものであり,家事事件においても,この訴えの利益の問題は当事 者適格の問題と一応切り離した形で確定する必要があるということが指摘され ている(22)。本稿においては,抽象的に,養子縁組の無効の訴えを提起するこ とができる資格として「原告適格」という用語を用いることとし,後に,それ が「当事者適格」と「訴えの利益」とのいずれを構成するものであるかを検討 していくこととする。
(ロ)判例・裁判例の展開
養子縁組の無効の訴えの原告適格につき,大審院は,縁組当事者以外の者が 養子縁組の無効の訴えを提起した事案において,確認の訴えの利益の有無の判
婚の取消しに関する同法764条,認知の訴えに関する同法787条)。形成訴訟 においては,形成判決による変動の対象となる法律関係の主体に当事者(原 告)適格が認められるのが原則である(伊藤・前掲注18・191頁)。したがっ て,上記規定も,形成判決による変動の対象となる法律関係の主体が誰かを 明示的に定めているに過ぎない。
(20) 川嶋・前掲注17・225頁。なお,両者を合わせて訴えの利益と呼ばれるこ とがあるが,これが,広義の訴えの利益であり,客体についての正当な利益 としての訴えの利益は狭義の訴えの利益である。
(21) 本間靖規「昭和63年判批」民商100巻3号(1989年)470頁。この事例か ら,ある団体の内部的意思決定の効力を争うという場合,この意思決定に拘 束される団体の内部構成員に理論上,原告適格が認められることは疑いない が,それにもかかわらずその意思決定の効力を争う訴訟が訴えの利益の不存 在のゆえに却下されることがあり得るということが指摘される。
(22) 本間・前掲注21・470頁。
断指針の一つである「即時確定の利益」を要求しているように思われる。そし て,そのような即時確定の利益を有する者と言うためには,縁組無効により特 定の権利を有しまたは特定の義務を免れるような利害関係(以下,「利害関係 要件」と言う。)が必要であるとし,これを制限的に解していた(制限説)(23)。 ①大判昭和3年6月29日新聞2888号9頁は,養親Aと,その家督を相続し 戸主となった養子(被上告人)Yと血族関係(Aと4親等,Yと5親等の血族 関係)にある上告人Xが,本件養子縁組の無効によりYの戸主権に従う義務 を免れる関係にあると主張し,本件養子縁組の無効の訴えを提起したという事 案であるが,大審院は,単に縁組当事者と4親等または5親等の血族関係にあ るという事実だけでは養子縁組の無効の訴えを提起する権利を有するとは言え ないとしたうえで,Xが本件養子縁組の無効によりYの戸主権に従う義務を 免れるという関係をもって本件養子縁組の無効についての即時確定の利益を有 するものということはできないとして,Xの上告を棄却した。
①判決は,元々,単に縁組当事者との親族関係(以下,「親族関係要件」と 言う。)があるだけでは利害関係要件を満たすとは言えないと判示したものに 過ぎず,利害関係要件と親族関係要件との関係については明らかにされていな かった。その後,幾つかの大審院判例(24)において,①判決が参照されるが,
大審院前期においては,これを親族関係要件に加重して利害関係要件を要求す る(重畳的要件説)ものとして解す趨勢にあった(25)。
他方,大審院後期においては,制限説を緩和し,単に親族関係要件のみを満 たす者であっても即時確定の利益を有するものとして,従来の重畳的要件説か ら,択一的要件説に変わった(26)。④大判昭和11年10月23日大民集15巻1865頁 は,養親(先代の内縁の妻)Aの先代の血族関係にある上告人Xが,本件養 子縁組は養子(被上告人)Yの父の偽造の縁組届によってなされたものである と主張し,その無効の訴えを提起したという事案であるが,大審院は,養子縁 組の無効確認の訴えを提起しうる者は養親子以外では少なくともそのいずれか の親族であるか,そうでなければ無効を確認する判決により直ちに権利を得る か,または義務を免れるような地位にあることを必要とするとしたうえで,X
(23) 富越和厚「昭和63年判解」ジュリ913号(1988年)73頁。
(24) ②大判昭和7年2月19日新聞3379号9頁,③大判昭和7年3月25日新聞 3395号14頁。
(25) 本間・前掲注21・474頁。
(26) 富越・前掲注23・73頁,本間・前掲注21・474頁。
はYおよびその養親たる亡Aと親族関係になく,またA家と本分家もしくは 同家の関係もないから,利害関係要件と親族関係要件とのいずれも満たさない として,Xの上告を棄却した。
大審院前期における制限説ないしは重畳的要件説との比較では,利害関係要 件を満たさずとも親族関係要件を満たせば即時確定の利益が認められるとされ た点で要件の緩和がなされている。このことから,④判決は,実質的には従来 の大審院判例(①判決)を変更したものであり,④判決を参照する⑤大判昭和 14年12月8日新聞4512号9頁がその旨を明言したものとされている(27)。しか し,大審院後期において④判決を参照し,その説示通りに訴えの利益を肯定し たのはこの判例のみであり,かつ,その事案における原告は推定家督相続人で あり,利害関係要件を満たすものと解しうることから,制限説ないしは重畳的 要件説によっても訴えの利益が認められる余地のあった事案であった(28)。 また,その後の最高裁判例の中には,上記大審院判例の流れを汲み,制限説 の緩和,あるいは択一的要件説を維持し,親族関係要件を満たせばよいとした ものもあった(29)。⑥最判昭和43年12月20日判時546号69頁は,養親Aの子Xら が養子縁組の無効の訴えを提起した事案であるが,最高裁は,④判決を参照 し,「Xらは,いずれも,亡Aの子であるというのであるから,右Aと上告人 Yらとの間の養子縁組無効の訴につき,訴の利益を有するものといわなければ ならない」として,Yらの上告を棄却した。しかし,⑥判決も同様に,制限説 ないしは重畳的要件説によっても訴えの利益が認められた事案であり,どの立 場からも当然原告適格が肯定されるケースであったために特に一般論は展開し ていないものとされている(30)。
他方で,同時期における下級審裁判例は,その殆どが,⑥判決とは異なり,
養子縁組無効確認判決によって自己の身分的権利義務関係に直接影響を受ける 者(この点については後述する。)との制限を加える判断を示しており,大審 院前期の制限説ないしは重畳的要件説が主流であったとされている(31)。
(27) 林屋・前掲注17・214頁。
(28) 富越和厚「昭和63年判解」最判解民事篇(昭和63年度)(1990年)91頁以 下。ただし,Y(戸主)が生存中であったため,身分法上の権利が現在化し ておらず,厳格な「直接」性の要件を欠くという点が指摘されている。
(29) 西澤宗英「昭和63年判批」法学研究62巻6号(1989年)127頁。
(30) 富越・前掲注28・92頁,本間・前掲注21・477頁脚注(13)。
(31) 富越・前掲注23・73頁以下,西澤・前掲注29・127頁,本間・前掲注21・
そして,この下級審裁判例の流れを汲み,制限説を支持する最高裁判例とし て,本判決参照判例たる⑪最判昭和63年3月1日民集42巻3号157頁が挙げら れる。事案は,養親Aと養子Y1と血族関係(Aと5親等,Y1と4親等の血族 関係)にあるXが,本件養子縁組はY1らが老齢性痴呆により意思能力を喪失 しているB(Aの妻)と,届出の2日前に入院して意識混濁に陥っているAの 署名を偽造して本件縁組の届出書を提出したものであるから,本件養子縁組は 縁組意思ならびに届出意思を欠くものであると主張し,その無効の訴えを提起 したというものである。
最高裁は,「養子縁組無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起するこ とができるが,当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する 地位に直接影響を受けることのない者は右訴えにつき法律上の利益を有しない と解するのが相当である。けだし,養子縁組無効の訴えは養子縁組の届出に係 る身分関係が存在しないことを対世的に確認することを目的とするものである から(人事訴訟手続法26条,18条1項),養子縁組の無効により,自己の財産 上の権利義務に影響を受けるにすぎない者は,その権利義務に関する限りでの 個別的,相対的解決に利害関係を有するものとして,右権利義務に関する限り で縁組の無効を主張すれば足り,それを超えて他人間の身分関係の存否を対世 的に確認することに利害関係を有するものではないからである」としたうえ で,「Xは養親のAと伯従母(5親等の血族),養子の被上告人Y1と従兄弟
(4親等の血族)という身分関係にあるにすぎないのであるから,右事実関係 のもとにおいて,Xが本件養子縁組の無効確認を求めるにつき前示法律上の利 益を有しないことは明らかであり,これと同旨の原審の判断は,正当として是 認することができる」とし,更に,「本件養子縁組が無効であるときはXが民 474頁。例えば,⑦東京高判昭和35年12月21日東高民時報11巻12号316頁,⑧ 名古屋高判昭和41年2月9日下民集17巻1・2号62頁,⑨東京高判昭和52年 6月30日下民集28巻5〜8号766頁。なお,⑩大阪高判昭和34年7月31日下 民集10巻7号1624頁は,15歳未満である養子を養子の実父母が法定代理した 養親に対する養子縁組の無効の訴えと,養子の実父母の独立した養親に対す る養子縁組の無効の訴えとが併合提起された事案であるが,大阪高裁は,正 当なる原告として,無効確認判決によって直ちに権利を得たり義務を免れた りする地位にある親族とするのが相当であると判示しており,明確に重畳的 要件を採ったものと解される(ただし,民法826条の特別代理人の選任また は旧民事訴訟法56条(現35条)の特別代理人の選任の手続を経ていないとし て不適法とされた)。
法958条の3第1項のいわゆる特別縁故者として家庭裁判所の審判により養親 のAの相続財産の分与を受ける可能性があるとしても,本件養子縁組が無効 であることによりXの身分関係に関する地位が直接影響を受けるものという ことはできないから,右判断を左右するものではない」として,上告を棄却し た。
従来の利害関係要件は,縁組無効により特定の権利を有しまたは特定の義務 を免れるような利害関係をその内容とするものであったが,⑪判決は,自己の 身分関係に関する地位への直接の影響という新しい基準を提示している(32)。 単に「地位への影響」で足りるとしている点は,要件を緩和しているようでも あるが,養子縁組の当事者の一方と親族関係にあるというだけでは原告適格を 満たさないであろうから,実質的には,④判決や⑥判決にいう要件を加重する 効果を有するものであり,判例変更したものと評価されている(33)。その背景 には,戦後の身分法改正により「家制度」が解体され,「家のための養子」は なくなり,単に親族というだけで養子との間に法律上の利害関係を有するわけ ではなくなったことがあると指摘されている(34)。そして,「家のための養子」
から「子のための養子」へと変わった結果,この制度がもはや家という団体の 利益に関するものではなくなり,養親と養子との間の個人的利益に関するもの となったと言うことができる(35)。
これと関連して,⑪判決は,親族関係要件を要求していない(36)。これは,
養親子のいずれとも親族関係にない者が縁組の無効により身分法上の権利を 得,または義務を免れることは一般に考え難いことから,更にこれを要件とす る実益は無く,親族をベースにして権利義務への影響で制限的に解すればよい
(親族関係要件ベース)と見る向きがある(37)。これに対し,仮に親族以外の者 であっても,単に財産上の権利義務のみならず,身分法上の権利義務に影響を 受ける場合には,身分関係上の訴え(人事訴訟)の利益を否定する合理性はな
(32) 西野喜一「昭和63年判解」判タ706号(昭和63年度主要民事判例解説)
(1989年)153頁。
(33) 小林秀之「昭和63年判批」ジュリ臨時増刊935号(昭和63年度重判解)
(1989年)117頁,西野・前掲注32・153頁。
(34) 小林・前掲注33・117頁。
(35) 林屋・前掲注17・215頁。
(36) 畠山新「仙台高裁平成5年判解」判タ882号(平成6年度主要民事判例解 説)(1995年)243頁参照。
(37) 富越・前掲注23・74頁,林屋・前掲注17・215頁。
いと考えられるから,身分法上の地位(権利義務)との関係での利害関係を求 めるとすれば,更に養親子のいずれかとの「親族関係」を要件に加える必要は ないと解すればよい(利害関係要件ベース)と見る向きもあろう(38)。この点,
⑫大阪高判平成21年5月15日判時2067号42頁は,亡A(夫Bも既に死亡)と,
亡Aが生前に世話を受けていた隣人Cの長女たるY(被告・控訴人)との間 の養子縁組が縁組意思を欠き無効であるとして,亡Aの相続財産管理人が,
亡Aの相続財産法人X(原告・被控訴人)を代表して,本件養子縁組の無効 の訴えを提起した事案であるが,大阪高裁は,⑪判決を参照したうえで,相続 財産法人は,相続開始時において被相続人に属していた一切の権利義務及びそ の他の法律関係を承継し,相続人と同様の地位にあるから,本件縁組の効力に よって相続に関する地位に直接影響を受ける者として,その無効確認を求める 法律上の利益を有すると判示し,Xの原告適格を肯定した(39)。したがって,
判例および裁判例は後者に従ったものと解し得,本判決についても同様に評価 し得よう(40)。
(ハ)各説の差異
以上概観してきたように,判例および裁判例は変遷を辿っているが,各個の 事案を検討すると,各判例,裁判例の具体的判断の間に大きな差異はないよう に思われる(41)。けだし,制限説と重畳的要件説との差異は,利害関係要件
(
α
)に加重して親族関係要件(β)を要求するかどうか(α
orα
∩β)とい う点にあるが,既に述べた通り,養親子のいずれとも親族関係にない者が縁組 の無効により身分法上の権利を得,または義務を免れることは一般に考え難い(38) 富越・前掲注28・96頁。
(39) 青木哲「大阪高裁平成21年判批」リマークス42号(上)(2011年)114頁,
村重慶一「大阪高裁平成21年判批」戸籍時報669号(2011年)52頁以下。な お,本訴に先立ち,亡Bとその前妻との間の子であるDおよびEが,Yに 対し本件養子縁組の無効確認を求める調停を申し立てたが,不成立となり,
その後の養子縁組無効確認の訴えも,DおよびEに訴えの利益を認めるこ とはできないとして却下されているといった事情がある。
(40) 青木・前掲注39・117頁は,「相続財産法人の相続に関する地位をめぐる紛 争を解決するためには,被相続人の戸籍上の養子が被相続人の遺産について 相続人の地位にないことを,相続財産法人と戸籍上の養子との間で確定すれ ば,十分ではないだろうか」と述べ,判旨に疑問を呈する。私見もこれに賛 成する。
(41) 富越・前掲注28・91頁。
(
α
−β=0)ことから,親族をベースにして権利義務への影響で制限的に解す ればよいと見るのであれば,制限説においても親族関係要件を満たすことを前 提としたうえで利害関係要件について判断する(α
∩β)こととなり,両説の 範囲は一致する。同様に,択一的要件説についても,「択一的(α
∪β)」と言 っても,利害関係要件を満たすが親族関係要件を満たさない者が存在しない(
α
−β=0)とすると,親族関係要件を満たす者は自動的に利害関係要件を満 たす(α
∩β)こととなり,その範囲が一致する。この場合,択一的要件説に よれば,親族関係要件の充足の有無さえ判断すればよいということになる。も っとも,⑫判決は,利害関係要件を満たす。親族関係要件を満たさない相続財 産法人に養子縁組の無効の訴えの原告適格を認めており(α
−β=1),その限 りでは,各説の範囲にずれが生じることになろう。他方で,重畳的要件説ないしは択一的要件説は,親族関係要件をベースにし て原告適格の有無を判断するのに対し,制限説は,利害関係要件をベースにし ているという点で異なる。前者は,親族関係要件を当事者適格という形で画一 的に要求したうえで,利害関係要件を訴えの利益という形で個別的に要求する という判断構造に馴染むのに対し,後者は,利害関係要件(とその考慮要素た る親族関係要件)を広く原告適格という形で(すなわち,親族関係要件という 観点からは当事者適格と訴えの利益とを明確に区別することなく)要求すると いう判断構造に馴染む。したがって,後者たる⑪判決は,一方で当事者適格に ついて「縁組当事者以外の者もこれを提起することができる」として消極的に 解し,他方で「当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する 地位に直接影響を受けることのない者は上記訴えにつき法律上の利益を有しな い」として,訴えの利益の枠内で利害関係要件(とその考慮要素たる親族関係 要件)を判断すべきであるとしたものと解しうる。そして,これは,当事者適 格の枠内で,人事訴訟の判決が対世的効力を有し,身分関係については実体的 真実の要請があることから,誤った養親子関係の是正を広く認めていくべきで あると解する見解を加味しつつも,訴えの利益の枠内で,身分関係の存否は,
基本的には,その当事者間の問題であり,戸籍の訂正へ連なることからする と,他人の身分関係に容喙することを許すには,それを必要とするまでの利害 関係と真摯な訴訟追行が期待できる立場を必要とすべしと解する見解に傾倒す ることで,両判断の要点の折衷を図ったものと解しうる(42)。このことから,
(42) 富越・前掲注23・74頁は,⑪判決を後者に従ったものと評価する。
原告適格の判断に際しては結局のところ訴えの利益を構成する利害関係要件の 具体的な内容が問題となる(43)。そこで,「自己の身分関係に関する地位に直接 影響を受ける……者」の具体的な内容について検討する。
(ニ)「自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける……者」
既に述べたように,従来の利害関係要件は,縁組無効により特定の権利を有 しまたは特定の義務を免れるような利害関係をその内容とするものであった が,本判決参照判例たる⑪判決は,自己の身分関係に関する地位への直接の影 響という新しい基準を提示している。
「身分関係に関する地位」としては,相続,扶養,婚姻制限等が考えられる が,「直ちに」権利を取得し,義務を免れる関係までは要求されておらず,こ こでの「直接」性とは,他の特別の手続等を要しないでという程度の趣旨と解 すべきものと考えられる(44)。
「身分関係に関する地位」を,事実上は相続財産に関する地位に収束するも のと解する向きもある(45)。しかし,単に相続「財産」に関する地位に収束す るというだけでは,身分関係に関する地位への影響と,財産上の権利義務への 影響との区別が図られないことになる。そこで,何らかの識別基準が必要とな る。
⑪判決は,「養子縁組の無効により,自己の財産上の権利義務に影響を受け
(43) この点,ドイツにおいては,身分訴訟は,確認の(直接的)利益を有する 者であれば誰でも提起可能であるとされており,養親や養子,養子の血縁上 の両親の他,潜在的相続人たる養子の配偶者およびその子が例として挙げら れる(Rauscher/Maurer, a. a. O.(Anm. 16), S. 1400. 身分訴訟は対世効を有す る(FamFG184条2項)。)。また,養子縁組手続の続行(と同時に養子縁組 の無効確認)を求める申立ては,権利保護の必要性(Rechtsschutzbedürf- nis)を有する利害関係人によってなされるものとされている(Rauscher/
Maurer, a. a. O.(Anm. 16), S. 1400.)。確認の訴えにおける権利保護の必要性 は,「原告が,権利関係……を裁判所の裁判により即時に確定することの法 的利益を有しているとき」(ZPO256条1項)に認められる(Rosenberg/
Schwab/Gottwald, ZPO, 18. Aufl. 2018, S. 537.)。
(44) 富越・前掲注23・74頁。なお,この点,⑬仙台高判平成5年7月29日判タ 854号279頁は,相続人たる身分的地位に基づく法定相続分が多くなったり,
民法877条2項による扶養義務を免れたりする場合であってもこれに該当す るとしている。畠山・前掲注36・243頁参照。
(45) 西野・前掲注32・153頁。
るにすぎない者は,その権利義務に関する限りでの個別的,相対的解決に利害 関係を有するものとして,右権利義務に関する限りで縁組の無効を主張すれば 足り,それを超えて他人間の身分関係の存否を対世的に確認することに利害関 係を有するものではない」とし,個別的,相対的な訴訟も許容する(46)。 確定判決の効力の原則は相対効であるが,これは,民事訴訟自体が,訴訟に 関与した当事者間の権利関係をめぐる法的救済手続であり,判決効もその当事 者間にのみ及ぼせば十分であるという,制度的効力の視点から根拠づけられ る(47)。このことから,一般に,当事者の側から判決に対世効を付与すること を求めることはできないものと考えられる。そして,確認訴訟の補充性から,
給付訴訟が可能である場合には,原則として,給付請求権の確認訴訟は確認の 利益を有しないものとされている(48)。これは,確認の訴えの利益の有無の判 断指針の一つである「方法選択の適否」の欠缺によるものである。したがっ て,「自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない者」にかかる紛争の 終局的解決は,その権利義務に関する限りでの個別的,相対的解決で達成され るということになる。
他方で,個別的,相対的解決に尽きるのであれば,養子縁組の有効無効の判 断が区々になる可能性も否定できない(49)。これは,例えば他に適切な原告適 格者が存在する(そのため養子縁組の無効の訴えの利益なしとされる)場合 や,原告適格は無いが,他にも養親からの依頼でその財産を保管している者が 存在する(したがって,判決効の抵触がある)場合等がこれに当たる(50)。し たがって,個別的,相対的解決を図ることにより,養子縁組の有効無効の判断 が区々になる可能性があれば,即時確定の利益があるものとして認められるべ きであると解しうる(51)。
即時確定の利益は,二つの要素から評価される。第一に,被告が原告の地位 に与える不安の態様という要素(法的地位の不安)であり,これは,法律上の
(46) 西野・前掲注32・153頁。
(47) 川嶋・前掲注17・702頁以下。
(48) 川嶋・前掲注17・243頁。
(49) 本間・前掲注21・479頁。
(50) 本間・前掲注21・479頁。
(51) 所有権に基づき給付の訴えを提起することが可能な場合でも,その基本た る権利関係につき即時確定の利益があると認められる限り,所有権確認の訴 えを提起することは不適法ではないとしたものとして,大判大正13年5月31 日民集3巻260頁,最判昭和29年12月16日民集8巻12号2158頁。
利益に対する不安を指し,事実上の利益や経済上の利益では不十分であるとさ れる(52)。したがって,財産上の権利義務への影響という経済上の利益だけで は,即時確定の利益は認められないことになる。第二に,不安の除去のために 確認判決を得ることが現実的に必要・適切であるという要素(確認判決の現実 的必要性・適切性)である(53)。これは,身分関係に関する地位への影響とい う,法律上の利益に対する不安の除去のために,個別的,相対的解決を超えて 身分関係の画一的確定の必要性があるかという観点から判断される。
このことから,財産関係の個別的,相対的解決の必要性よりも,身分関係の 画一的確定の必要性の方が大きいという場合には,即時確定の利益が認められ ると考えられる。そして,身分関係の画一的確定の必要性を判断するに際して は,戸籍制度の保持の必要性という観点が有用であると思われる。すなわち,
養子縁組が原則として養親子間の個人的な意思の問題であり,この関係に第三 者が介入できる場合は自ずから制限的でなければならないとしても,養親の死 亡直前に養親の意思に反して財産目当ての偽造の縁組届が出され,養親の財産 が不正に奪われたというようなときにあっても,養親と養子との関係に第三者 が極力干渉すべきでないとして,親族でも右の状態の是正を図ることができな い場合を認めることには問題があるように思われる(54)。したがって,上記の ような,養親子からの自律的処理が期待できない場合には,広く「親族である こと」に養子縁組の無効の訴えの原告適格を認めるべきである(55)。けだし,
親族関係ある者の間にあっては,形式的にばかり事を処理すべきではなく,血 統継続という家族継続の原理に従った,親族でもない者が法律上は一生親族と しておかれなければならないという苦痛を除去するという感情的利益といった 観点からも判断すべきであるからである(56)。なお,私見は,親族関係要件を 当事者適格の問題と把握し,上記のような様々な事情を考慮し訴えの利益の有 無を判断すべきであると考える。また,戸籍制度の保持の必要性という観点か ら,その後の戸籍訂正を期待しうる親族であるかどうかという点も重要である ように思われる(57)。
(52) 川嶋・前掲注17・245頁。
(53) 川嶋・前掲注17・245頁。
(54) 林屋・前掲注17・215頁以下,本間・前掲注21・475頁。
(55) 林屋・前掲注17・216頁参照。
(56) 中川善之助『親族相續判例總評 第二巻』(岩波書店,1937年)31頁以下。
(57) 本間・前掲注21・471頁以下は,夫死亡後の嫡出否認の訴えの原告適格に
4 .評論
以上を前提として,最後に,本判決の評論を試みる。
本判決においては,相続財産全部の包括受遺者たるXが,⑪判決の判示し た,本件養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接 影響を受ける者に該当するかどうかが問題となった。
原審は,「自己の身分関係とは,可能的なものを含め,身分に関する実体法 規に定める地位(相続,扶養,婚姻制限)又はこれに関する権利の行使若しく は義務の履行に影響を受けることをいうものと解される」とし,Xが本件養子 縁組上の養子たるCと親族関係(2親等の姻族)にあること,Xは本件遺言 により相続人と同一の権利義務を有する地位を取得し(民法990条),本件養子 縁組によりBの嫡出子たる身分を取得したCから遺留分減殺請求を受ける地 位にあり,同請求を受けた場合に自己の財産上(相続)の権利義務に影響を受 けること等から,「Bの包括受遺者という地位は,本件養子縁組の養親である Bの相続に関する法的地位であるといえるから,……自己の身分関係に関する 地位に直接影響を受ける者に当たるというべきである」と判示した。ここでの 判断基準は,大審院における利害関係要件に接近しているものと見ることがで きる。しかし,既に述べた通り,「身分関係に関する地位」を,事実上は相続
「財産」に関する地位であると解すると,身分関係に関する地位への影響と,
財産上の権利義務への影響との区別が図られないことになってしまう。
他方で,第一審および本判決は,本件養子縁組が無効であることにより自己 の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者の具体的な内容については明ら かにしていない。そこで,包括受遺者と法定相続人との異同を見るに,民法 964条本文は,「遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産全部又は一部を処 分することができる」と規定しており,遺贈は,遺言によって財産権を与える 遺言者の意思表示であるから,受遺者の身分関係を要件として効力が発生する ものではない(58)。また,同法990条は,「包括受遺者は,相続人と同一の権利 ついての人事訴訟手続法29条1項(現人事訴訟法41条1項)を類推して相続 権を侵害される者の他,養子縁組の当事者の三親等内の血族とするが,この 点については留保したい。
(58) また,旧民法964条但書は,遺贈につき,遺留分に関する規定に違反する ことができない旨を規定するものの,相続財産全部の包括遺贈であっても,
義務を有する」と規定するが,身分関係を前提とする相続とそれを前提としな い遺贈との間には,法的な取扱いの点で差異がある(59)。したがって,これら のことから直ちに,包括受遺者の法的地位は,相続人の法的地位と同様に自己 の身分関係に関する地位とは言えないとされている(60)。
ところで,本判決では触れられていないが,第一審は,「Xは,本件請求の 本案判決が得られなくても,別件訴訟(筆者注:本件遺留分減殺請求訴訟)
……で本件養子縁組の無効を主張すれば,Cに対して自己の権利利益を防御す ることができるし,仮にCがXの包括受遺者の地位を争う別途の法的手続を とったとしても,同様に自己の権利利益を防御することができるから,上記の ように解したとしても,Xに過酷な不利益が生ずることはな」いと判示してい る。本件は,本件養子縁組の無効の訴えの前に,亡C(A訴訟承継)からXに 対し,遺留分減殺請求の訴えが提起されていた。また,亡Bの相続人はその 養子たる亡Cのみであり(推定相続人であった亡Bの甥らは遺留分を持たな い),「他人間の身分関係の存否を対世的に確認することに利害関係を有するも の」がいない。したがって,私見によれば,本件は,財産関係の個別的,相対 的解決の必要性が,身分関係の画一的確定の必要性よりも大きく,即時確定の 利益がないと評価しうる事案であった。本判決の結論は妥当であるが,本判決 が判断基準として示している身分関係に関する地位への影響と,財産上の権利 義務への影響とを,厳然と区別することができるかについては,再考する必要 があろう。
遺留分を侵害している場合にその減殺請求を受けるだけであり,遺留分侵害 の事実だけを理由として無効になることはないと解されていた(最判昭和25 年4月28日民集4巻4号152頁,最判昭和37年5月29日集民60号941頁)が,
同規定は改正により,遺留分権利者の権利行使によって生ずる権利が金銭債 権化されたことに伴い,削除された。家庭の法と裁判21号(2019年)52頁。
(59) 家庭の法と裁判・前掲注58・52頁は,被相続人との間に身分関係を有する ことのない法人は相続人になり得ないが包括受遺者にはなり得る点,被相続 人との間に身分関係のない包括受遺者は遺留分を有しない点,遺贈の効力が 生ずる前に受遺者が死亡したときは,遺贈の効力が生じす,受遺者の直系卑 属による代襲の問題は生じない点を指摘する。
(60) 家庭の法と裁判・前掲注58・52頁。
おわりに
以上のように,養子縁組の無効の訴えにおける訴えの利益の有無について は,財産関係の個別的,相対的解決の必要性と,身分関係の画一的確定の必要 性との対立の中で,戸籍制度の保持の必要性という観点から様々な事情を考慮 し判断すべきである。本判決についても,事例判断的色彩を帯びており,その 射程はそれ程大きな広がりを見せないものと思われる。訴えの利益の有無の判 断基準の輪郭を明らかにするためにも,今後の判例の集積が待たれよう。