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(1)

tough構文について

著者 川本 裕未

雑誌名 主流

号 54

ページ 51‑64

発行年 1993‑03‑05

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015106

(2)

51 

t o u g h 構文について

川 本 裕 未

I  序論

tough構丈は生成文法の最も初期の段階から分析対象となってきたにもか かわらず,未だ釈然としない点が数多く残されている構文である.最近の研 究では,空演算子がτvh移動することによって派生すると分析されたり,

PRO

が補丈

CP

の指定部へ移動することによって派生すると考えられたり している.しかしいずれの接近法も ,tough構文の特殊な特性を包括的に正 しくとらえきれていない.本稿では,上記の接近法の不十分な点を指摘した うえで,初旬以構文の正しい分析方法を提案する.

次節において,指定主語条件,時制節条件,

A ‑ O v e r ‑ A

条件の各条件に対 する tough構文の特性を観察し,これらの特性を過去の接近法では正しく説 明することが難しいことを示す.第三節では,本稿でのtough構文分析にとっ て重要な仮定となる

VP

内部主語仮説について概観する包第四節において,

上記の

VP

内部主語仮説のもとで,

PRO

が,補文

I P

の指定部へ

A ‑ b a r

移 動した結果,おugh構文が派生されると考えることによって,第二節で見た 諸条件に対する同構文の分布の一部(指定主語条件)が適切に予測・説明さ れることをみる.第五節で,

VP

内部主語仮説と並んで本論における重要な 仮定となる

DP

仮説とその拡大理論を概観し,第六節において,第四節で 説明しきれなかった問題

( A ‑ O v e r ‑ A

条件)日ついて適切な説明を与える.

(3)

52  tough構文について

E  諸条件に対する特性

tough構文とは次の(1a)のような構文を指す.生成文法の初期段階1

においては, (1 a)は,深層構造として (1b) を持ち,埋め込み丈の目 的語を主文の主語に繰り上げる tough移動変形規則を適用することによっ て,派生されると考えられた.

(1) a.  John is  easy to please.  b.  1 t is  easy to please J ohn 

しかし上記の分析は,最近の束縛・統率理論の枠組みでは格理論と矛盾する ため,2ChomosklやBrowing4によって修正され,眼に見えない空演算子 (Null Operator)の移動が関与する構文として ,tough構文はとらえなおされ た.この移動は,眼に見えないとは言え,演算子の移動であるので,wh匂 などのような顕在的な演算子の移動と同様に,移動着地点をCP指定部と する wh移動となる.したがって(1a)のLFは次のようになる.

(2)  Johni is  easy [cp OPi [IP  PRO to please ti]] 

OPは空演算子をさす.基底生成された空演算子OPがωh移動によって補 文CPの指定部に移動したと考えるのである.

またKawamoto5では,tough構文を補文目的語のPROがwh移動したも のとしてとらえている.その分析においては (1a)は次のようなLFを 持つことになる.

(3)  Johni is  easy [cp PROi [IP  PRO to please tJJ 

空演算子移動として分析するにせよ, PRO移動として分析するにせよ,

いずれの場合も CP指定部へのwh移動を基本に据えていることから,これ らの分析が正しければ,指定主語条件や時制節条件などの制約に関して,顕

(4)

tough構文について 53  在的な ωh移動と同じような分布を ,tough構文は示すはずである.しかし 次に示すように,事実は,両者はさまざまな点において相違を見せるのであ

る.

ω

ugh構文(4)の中の'forNP'が,補文の主語であるのか,主文の形容詞補 助部であるのかという議論があるが,

(4)  The book is  unpleasant for us to publish. 

ここでは後者の立場をとる.その理由としては, (5)で示すようにこのゴor NP'に加えて補文主語の forNP'をとることができる.

(5)  The book is  unpleasant for us for them to publish 

また, (6)のようにforus以下を前置すると, for usとtopublishの聞で休止 をとらない限り, (4)とは別の解釈の丈になってしまうことから, for usとto publish the bookは構成素をなさないことが示される.

(6)  For us to publish the book is  unpleasnt

さらに (7a)のように真の補文主語ならそれだけを前置することは不可能 であるはずであるのに,この問題のゴorNP'は, (7 b)に見られるように それが可能である.

(7) a . *[For them]i, 1 want ti to publish the book.  b.  [For US]i, the book is  unpleasant  .tto publish 

これらの事実から,このゴorNP'は補丈主語ではなく,主文の形容調補財 部であると結論するメそしては)における真の補文主語は空範轄の代名詞 PROであると仮定する.

顕在的な ωh移動は,補文主語が PROであっても,また語素的 NPであっ ても,補文目的語を移動させて, (8 a)のようにwh疑問丈をつくったり,

(5)

54 

ω

'gh構文について (8 b)のように関係詞節をつくったりできる.

(8) a.  What; is  it  unpleasant for you 

吋 〆

ι& h

μ   

.1  

r

ι1  

ι E 

E l

E 'l E

{' EI

Jm ハ

U O

R T   P M

Ii 

rBEES

BE 't目 ︑

b.  This is  thcarwhichi it  is  unpleasant for you 

[  コ { J

山 , ]

それに対して ,tough構文は補丈主語が

PRO

の場合にのみ派生可能で¥補 文主語が語素的NPであると,補文目的語を移動させて tough構文を派生す

ることはできない.

(9) a.  The cafi is  unpleasant for you 

u

‑ ‑

r+ i 

4E

︑ . ︐ 目 目 目 白 目 ︑

p za p

h vι a

‑ BF

O O   R T   PIi EEBB︿B4BS1

つまり,顕在的ωh移動は指定主語条件を免れて指定主語の領域内の要素を 外部に移動させることが可能であるが,tough構文は指定主語条件を受けて,

指定主語の領域内の要素を外部へ抜き取ることができないのである.

また,深く埋め込まれた不定詞節から要素を抜き取ることは,顕在的wh 移動構文,tough構文ともに可能である.つまり,深く埋め込まれた不定調 節から ωh匂を抜き取って, (10 a )のようにωh疑問文をつくったり, (10 b)  のように関係調節をつくったりすることが可能であるのと同様,不定詞節か

ら要素を抜き取って

ω

ugh構文を派生することは,叫に示すように可能であ る.

(6)

ω

ugh構文について 55  (10) a.  What is  it  hard to imagine [to fix斗?

b.  This is  the car whichi it  is  hard to imagine [to fix t;].  (11)  The cari is  hard to imagine [to fix t;]. 

ところが, (12 a ‑d)のように時制節から ωh句を抜き取って ωh移動させ ることはできるが,同じように,時制節から要素を抜き取って

ω

ugh構文を 派生することは, (13 a ‑b)に示すように不可能である.

(12) a.  Whati is  it  hard to imagine [he fixed 

b.  This is  the crwhichi it  is  hard to imagine [he fixed t] 

C. WhOi is  it  hard to imagine [1; fixed the car]? 

d.  This is  the man WhOi it  is  hard to imagin[tifixed the car] 

o

場a. *The can is hard to imagine [he fixed ti].  b . *The mani is  hard to imagin[ιfixedthcar]

つまり,顕在的wh移動は時制節条件を免れるのに対して ,tough構文は時 制節条件を受けて,時制節からの要素の抜き取りが禁じられているのである.

さらに,顕在的ωh移動はA‑Over‑A条件を免れるが,tough構文はこの 条件を受ける.

(14) a.  Whodidyou see [pictures of ti]? 

b.  This is  the man whomi you see [pictures of ti].  (15)  * 

ohni is  fun to see [pictures of t]. 

以上の点から明らかなように ,tough構文は顕在的ωh移動に比べ,はる かに種々の制約が厳しくかかっており,

ω

ugh構文を顕在的τvh移動と並行 的にとらえて,空演算子,ないしPROのA‑bar移動とみることは適切で、は ないと結論する.

(7)

56  tough構文について

VP内部主語仮説

Kuroda 7, Roberts 8などをはじめ数多くの研究者によって,主語はD構 造においてはVP内部一一正確にはVPの指定部一ーに生成されることが 提案されている.本稿においても,そのVP内部主語仮説が正しいものと

して仮定する.

VP内部主語仮説では英語の基底構造は次のようなものとなる.

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ¥ ¥ ¥   S P e c 

‑‑‑‑‑‑¥¥¥ 

1  V P   S p. e c  V' 

D構造において主語はVPの指定部(Spec)に生成される.VP指定部はA 位置で0役割も付与されるθ位置ではあるが,格付与子のIおよびVのい ずれからも統率されないので格付与がなされない位置である.それに対して,

IPの指定部はA位置ではあるがO役割は付与されない非0位置であり, 1  が時制を持つ場合, 1との間の指定部一主要部一致(Spec‑HeadAgreement) 

を通じてIから主格を付与される位置である.

次の (17a)のような文は, D構造として (17b), S構造として(17c) を持つ.

(1カa J ohn wrote a letter 

b.  [IP[ e][VP John wrotaletter]].  C  [IP  Johni [vp ti wrote a letter]] 

D構造においてVP指定部に生成されたJohnは,ここでO役割を付与され るが格は付与されないので格理論の要請にしたがって, IP指定部に移動し,

そこで主格を得る.

(8)

tough構文について 57  (18 a)のように補丈主語としてPROをとっている場合, D構造 (18b)  で

vp

指定部に生成されたPROはそこで格付与を受けないが,空範曙代名 詞である PROに対して格理論は格を持つことを要求しないので,この PROは

vp

指定部に留まることができる.

(

18) a.  J ohn wants to write a letter. 

b.  John wants [cp [IP  [vp PRO to write a letter]]] 

(19 a)のように補丈主語として語業的NPをとっている場合は, D構造(19 b)で

vp

指定部に基底生成されたJohnはそこで格を得ることができない のでIP指定部まで移動し,そこで C主要部のforによって格付与を受ける.

(19) a.  It  would be nice for Tom to go out. 

b.  It would be nice [cp for [IP  [vp Tom to go out]]].  c. It would be nice [cp for [lP Tomi [vpιto go out]]]. 

以上まとめると, VP内部主語仮説のもとでは,主語がPROの不定詞補 文の場合にだけIP指定部を空きのままの状態でおいておくことが可能で,

それ以外の場合一一つまり時制節の場合と語柔的NPを主語にとる不定詞 節の場合一一ーには, VP指定部にある主語が,格理論を満足させるために,

IP指定部に移動しなければならないのである.

代案

第二節で,顕在的な wh移動構文と異なり ,tough構文は指定主語条件,

時制節条件, A‑Over‑A条件の各制約を受けることをみた.NP移動もこれ らの制約を受けることは,よく知られている.

o)a.Johni is  certain for Bill to beat t;. 

b . *BilL is  likely thatwillbeat John. 

(9)

58  tough構文について

cJohni seems [~p pictures of ti]  to be wel1‑preserved 

(20 a)は不定詞補文主語の語素的NPのBillが指定主語となり,目的語 のJohnのNP移動を阻んでいる例である.(20 b)は時制節条件が作用して,

時制節補丈からの抜き取りを阻んでいる例である. (20 け で はA‑Over‑A 条件のためにNP内(後に DPと改める。第五節参照.)からの抜き取りが 阻止されている.

このことから ,tough構文は従来考えられてきたように wh移動のような A‑bar移動を含む構造ではなく, NP移動のようなA移動を経て派生される 構造としてとらえるべきである.

では,いったい何が A位置に移動しているのであろうか.tough構文の補 文内の空所(g勾)は補丈動詞から対格が与えられる位置であるので,語素的 NPが移動してその後にNP痕跡、を残しているとは考えがたい.またA移 動であるなら,演算子が変項を残して wh移動しているとも考えられない.

したがってPROが補文目的語位置から A移動していると考えるのが最も 妥当であろう.

補丈内で基底生成されたPROの移動先について次に考えたい.従来の研 究では ,tough構文は空演算子または PROがA‑bar移動をしている構造と 考えられていたので,移動着地点はA‑bar位置のCP指定部であると想定 されていた. しかし

ω μ

gh構文をA移動を含む構文としてとらえることが より妥当であると結論づけた今, PROの移動先について再考しなければな らない.

第二節で,語柔的NPを主語に持つ不定詞節から目的語を取り出して tough構文を派生することができないこと(指定主語条件),および時制節か ら目的語を取り出して tough構文を派生することもできないこと(時制節条 件)をみた.また,第三節で, VP内部主語仮説のもとでは,語棄的NPを 主語に持つ不定詞節および時制節は IP指定部は主語によって占有される

(10)

tough構文について 59  ことをみた.換言すれば, PROを主語に持つ不定詞補文だけが,唯一tough 構文を派生できる構造であり,また唯一IP指定部が主語で占有されず,空

きのままでいられる構造なのである.このことは単なる偶然以上の意味があ ると考えて差し支えないであろう.補文内で基底生成されたPROは, A位 置である IP指定部に移動することによって tough構文が派生されるのであ る.

補丈主語が語素的

NP

の場合,および補文が時制節である場合には,

I P  

指定部が補文主語によって占有されているので, PROは移動先を失い,次 の (21a ‑c )のように補丈内に留まらざるを得ない.

1)*The car is  hard to imagine for you [cp for [lP  Tom to fix PROJ] 

b. *The car is  hard to imagine [cp [lP  he fixed PROJ]  c . *The man is  hard to imagin[cp[lP  PRO fixed the carJ]. 

PROは (21a ‑b)では補丈動詞によって統率され, (21 c)では補文の一 致要素AGRによって統率される.Kawamoto9にしたがうなら,統率され ているPROは照応形として束縛理論の原則 (A)を満たさなければならな い. (2Ia ‑c)のPROに対する制御領域はいずれも補文

cp

10となるが,

この中には,PROの束縛子となるものが存在しないため束縛原理 (A)の 違反となり,この派生は阻止されることになる.

PROを主語に持つ不定詞補文の場合は,そのPRO主語は格を必要とし ないためIPの指定部に移動する必要がない. したがってそこに補文目的語 のPROが移動,着地できる.

(22)  The cari  is  hard to  imagine for you [cp [lP  PROi [vp  PRO to fix 

ι I I I  

移動してきたPROiは不定詞補文内にあるため補文Iに統率もされず,また 主文述部との問には障壁となる

CP

が介在するために,主文のいかなる要

(11)

60 

ω

ugh構文について

素によっても統率されない. したがって,統率されていないPROとLて, 束縛理論の原則 (B)を満たさなければならない.このPROの制御領域は 補文

cp

llとなり,この中で自由であるため束縛原理 (B) は満たされ,補丈

cp

外部の項theca:rと同一指標の解釈を受けることが許されるのである.

名詞句

Brame 12Abney13において,名詞句の構造としてNPの外側に機能範 轄 のDP(Determiner Phrase)をすえることが提案されている.本稿におい ても基本的にDP仮説を支持するが,外池14に従い, DP仮説を拡大した うえで,採用することにする.それにともなって,ここまでの議論において NPと呼んできたものを以下ではDPと呼ぶことに注意していただきたい.

外池 (1988)は,名詞匂も節と同じように一致要素を備え,機能範時IP を持つと主張する.名詞匂の構造は概略次のようなものになる.

同 [DP .・・ [IP. . . [NP  . . . ] . . ]  . .. . ]  闘は節構造倒と完全に対応する.

(24)  [cp  . . . [IP  . . . [vp  . . . ) . . .]・ー ] 

また, (25 a)のような理由節をともなった表現は, (25 b)のように理由 節内に主語としてPROが存在していると考えるのが一般的である.

(25) a.  yesterday's destruction of the city [to prove a point)  b.  yesterday's destruction of the city [PRO to prove a point)  この理由節主語のPROをコントロールするものは無論yesterdaythe cityのはずはなく, destruction of the cityの動作主としての0役割を担う 項こそがコントローラーとして解釈されるべきであることは明白である.

Roeper 15は, (25 b)における理由節主語のPROのコントローラーとして

(12)

tough構文について 61  動作主

PRO

d e s t r u c t i o no f  t h e  c i t y

の前に存在していると主張する.

[DP[IP 

y e s t e r d a y ' s  

[NP 

PROi d e s t r u c t i o n  o f  t h e   c i t y  [ c p   PROi t o   p r o v e  a  p o i n t l l l l  

つまり,名調句においては,動作主

DP

NP

指定部に

D

構造で生成され ることになり,この点もまた節構造におけるVP内部主語仮説に名詞句構 造も対応していることを示す.つまり,節においてI主要部が選択する VP 内部に主語が基底生成するのと同様に,名詞句においては I主要部が選択す る

NP

内部に主語が基底生成するのである 16さらに,節の場合と同様,顕 在的な主語を持たない名調匂においては,

PRO

NP

指定部に基底生成さ れることになる.格付与のメカニズムも節と名詞勾は対応すると考えるなら,

節において

I

主要部が

I P

指定部に主格を与えるのと同様に,名詞句におい ては

I

主要部が

I P

指定部に属格を与えるということになる.

PRO

は格を 必要としないので,闘において

NP

内の

PRO

主語は,属格を得るために

I P

指定部へ移動する必要がないが,次の

( 2 7a 

)のような諾素的

DP

を動 作主として持つ名調句の場合,その動作主

DP

は仰)の

NP

内の

PRO

主語と 同様,

D

構造で

NP

指定部に基底生成された後,

( 2 7  b )

のように属格が付 与される

I P

指定部へ移動しなければならない.

カ a t h e  e n e m y ' s  d e s t r u c t i o n  o f  t h e  c i t y .  

b .  

[DP  [IP 

t h e  e n e m y ' s i  

[NP 

ι d e s t r u c t i o n  o f  t h e  c i t y

JJl 

V I  

Over

A

効果

最後に,

A ‑ O v e r ‑ A

条件をうけて,名詞句内部の要素を抜き取って ,tough  構文を派生することがなぜ不可能であるのかについて,第四節で提案した

tough構文の構造分析を使って説明したい.

tough構文が,

A ‑ O v e r ‑ A

条件を受けることを示す文同を,凶としてここ

(13)

62  t:gh構文について で再録する.

(

28)  * 

ohn is  fun to see [DP pictures of] 

第四節における提案にしたがうなら DP内のこの PROはofによって統率 されるので,照応形として束縛理論の原理

( A )

を満たさなければならない.前 節において,名詞句は機能範時DPからなり, D主要部が IPを選択し 主 要 部 がNPを選択していることをみた.さらに主語は D構造において NPの指定部に生成し,それが語葉的 DPの場合, 1主要部から属格を得る ために IP指定部に移動する一方で,語柔的 DPが主語として存在していな い名調句であっても,主語としてPROが NP指定部に存在し,しかもこれ は格を必要としないので移動せずNP指定部に留まることをみた.前節の 議論にしたがうなら,凶における補丈動詞seeの目的語DPは次のようなS 構造を持つ.

凶 [DP[IP  [NP PRO pictures of PROllJ 

目的語PROにとっての最小範障は IPで,これを統率する統率子は D主要 部,

SUBJECT

になるのはDP指定部である.したがって目的語 PROの 制御領域はDPとなり,束縛原理

( A )

はこの中でこのPROが束縛されること

を要求する.この要求を満たすために,このPROは空きになっている IP 指定部に移動し A連鎖(PROi,ι)を形成する.

(30)  [NP [IP PROi [NP PRO pictures of fi]]J 

名詞句においても

AGR

があると仮定しているのであるから, IP指定部の PROiは I主要部によって統率される. したがってこの PROiも照応形とし て束縛原理(A)を受け,制御領域内で束縛されねばならない.次に移動できる 場所は,一つ上位の節のIP指定部しかないのでそこへ移動すると, (31)の構 造が得られる.

(14)

tough構文について 63 

1) [IP PRO

, 

[PRO to see [DP  [IP  tI

, 

[NP PRO pictures of t2

' l l l l l  

t1iにとっての制御領域はt2iと同じく DPであり,この中には,t ljを束縛で きる項がない.したがって束縛原理 (A)の違反を引き起こす.さらに, (31)  における A連鎖(PRO"t¥ t2)iは空範時原理(ECP)違反をも引きおこして いる.なぜなら, DPは動詞seeによってLマークされているが,下のIP から障壁性を継承することによって継承バリアーとなり, PROiが,t1jを先 行詞統率することを阻止するからである.

闘のように,名詞句から要素を取り出してtough構文を派生することは,

束縛理論および空範曙原理の両方から排除されるのである.

四 結 語

tough構文は空演算子やPROのA‑bar移動を含む構文として,従来とら えられてきたが,移動に関する諸制約に対する分布は ,tough構文はA‑bar 移動ではなく,

A

移動であることを示している.本論では,

v p

内部主語仮 説およびDP仮説を採用し,tough構文はPROのA‑bar移動を含むと考え ることによって,上記の諸制約に対する

ω

ugh構文の特性が適切かつ包括的 に説明できることを示した.

1例 え ば Noam Chomsky, Cur'entIssues  in  Linguistic  Theory (The  Hague:  Mouton, 1964)参照.

2 この考え方では, S構造は次の(i)のようなものになり, (Johni, t)の連鎖が形成 されることになる.

(i)  Johni is  esyto please ι 

しかしながら ,tがpleaseから対格を得, JohnがAGRから主格を得るため,連 鎖(Johni,ι)は,格を三重に持つことになり,この派生は格理論から排除されなけ ればならない.

3 Noam Chomsky, Some Concepts and Consequences 

0 /  

the  Theory 

0 /  

Government and  Bindg(Cambridge, Mass.: MIT Press, 1982) 

4 Marguerite Browning,Null Operator Constructions," diss., MIT, 1987 

(15)

64  toμgh構文について

5 Yumi KawamotoN ull  Operator  Constructions  and the  Theory of  Control" 

DLS Working Pape5in LiguisticsSpecial Graduate Number 2 (1992): 7‑15. 

6  (7 a)の S構造は次のようになり,

(i)  [For them]. I want [cp  .tto publish the book] 

for themとその痕跡の聞に,障壁CPが介在するために,被文主語のみを文頭に移 動させることができない.

7 Shige‑Yuki KurodWhetherWe Agree or  not: Rough Ideas about ~ompara

tive Syntax of Englishnd]apanes巴 "Linguisticae Jnvestigatωnes 12 (1988)1‑47 8 Roberts, IanPredictiveAPs" Linguisc'J

ηqμiry 19 (1988): 703‑710. 

ヨYumiKawmotoFormalNature of  Control Reltions"M A  thesis, Doshish

University, 1991そこでは9 統率されているPROは照応形として束縛原理(A) また統率されていないPROは代名詞類として束縛原理的を満たさなければならな いことが主張されている

10  制御領域とは次のように定義される.

αの市Ij御領域とは, αを含む最小領域浮の統率子と,戸のSUB]ECTを含 む最小領域である

(21 a ‑c)においてはPROを含む最小範鷹はIPで,これを統率する統率子はI 主要部, SUB]ECTCP指定部であるので,このPROの制御領域はCPとなる.

11凶における PROiの制御領域もp 注目と同じ手

m

l! CP ~こ決まる.

12  Michael BrameThe Hed‑Selectorτheory of Lexical Specifications and the  Nonexistence of Coarse Categories"  Linguistic Analysis 7 (1982): 277‑325  13  Steven AbneyThe English  N oun Phrase  in  its  Sentential  Aspect" diss., 

MIT. 1987 

14  外池滋生.i日英語比較統語論J~言語j (1988)  5月 号 :82‑88̲ 

15  Thomas Roepr"Implicit  ArgumentsndLexicon" ms, University  of  Mas‑

Schusetts1983

16 

e

階層において動作主は最上位にあり,他のいかなる項と共起しようとも動作主 は主語となるので,ここでは,動作主と主語を同義として使用している.それに対 して凶におけるyesterday9 次の文が非文であることから.Chomsky (1965) 意味における主語とは異なる

(i)Yesterdaydestroyed the city 

換言すれば,動作主のDPNの項であるのに対して,舗におけるyesterdayのよ うな DPN0の関係がない.(N oam Choms片手Aspectsof Theory of 五抑tax [CmbridgeMss.:MIT Press1965]) 

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