あらまし
国立大学は法人化を機に再編・統合が進めら れている。しかし、この政策が大学経営という 観点から合理的であるかどうかについては、十 分に検証されてきたとはいえない。そこで本稿 では、多入力多出力システムの相対的効率性評 価手法である包絡分析法(Data Envelopment Analysis:以下、DEA)を用いて、大学経営の 効率性について分析する。
大学には教育・研究を直接的に管理運営する 組織体と、それを支援する組織体が存在する。
これらは異質の体制を保有し、学部及び本部と いう関係を形成する中で、それぞれの業務を分 担してバランスを保っている。したがって、教 育研究、管理運営の両面から国立大学の経営(活 動)の効率性を分析し、規模の経済と範囲の経 済がどのように働いているかを検証した。
分析の結果から、相対的に大規模大学及び単 科大学の効率性は高いが、中規模で付属病院を 有する大学は低いこと、規模の経済については 存在するが、学生数が7,000人以上の規模になる と規模の不経済が生じること、専門分野の異な る学部間での範囲の経済は存在しないことが明 らかになった。
したがって、大規模総合大学に医科大学等の 単科大学を統合するという従来の統合パターン は、経営の効率性という観点からすると合理的 ではないといえる。今後は、抜本的な組織改革 や環境整備を伴う再編・統合について検証する
ことが必要である。
₁.はじめに
近年、「教育研究の高度化」、「高等教育の個 性化」、「組織運営の活性化」を柱とした諸制度 の改革が進められ、個々の教育機関における質 の保証の仕組みや活動の効率性が問われてい る。2004年度に独立行政法人化された国立大学 では、運営費交付金が2009年度まで毎年1%減 額され、中期目標・中期計画の下、経費削減に 努めている。さらに2010年度からは、配分額決 定に成果主義を導入することが検討されてい る。成果による配分は、どのような指標による 評価を行うのかによって配分額に大きな差が生 じる1。例えば、財務省や文部科学省が試算に使 用した科学研究費補助金や特別教育研究経費を 指標とした場合には、大規模大学や実績のある 大学が有利であり、すでに顕在化している大学 間格差をさらに拡大する可能性がある。大学界 全体の多様な発展を図るには、大学の個性を尊 重した上で、公正性の観点からも納得できる客 観的な手法による評価が必要である。
また、国立大学は法人化を機に統合が進めら れている。2001年の「大学(国立大学)の構造 改革の方針」2では、①国立大学の再編・統合を 大胆に進める、②国立大学に民間的発想の経営 手法を導入する、③大学に第三者評価による競 争原理を導入する、という3つの項目が挙げら
国立大学法人における経営の効率性改善
山 﨑 そ の・伊 多 波 良 雄
1 財務省による科学研究費補助金の配分割合に基づいた試算では、大規模総合大学は交付額が増えるが、全体の85%にあたる74 大学法人は減額となり、とりわけ地方の教育大学を中心にした50大学では2007年度予算額と比べて50%以上の減額となる。
出所:財務省ホームページ。http://www.mof.go.jp/shingikai/zaiseseido/shiryo/zaiseib190521/02_epdf
2 「大学(国立大学)の構造改革の方針―活力に富み国際競争力のある国公私立大学づくりの一環として―」出所:文部科学省ホー ムページ。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/01/020199a.htm
れている。とりわけ①再編・統合については、ア.
教員養成系の大学は規模の縮小・再編(地方移 管等も検討)、イ.単科大学(医科大など)は 他大学との統合等、ウ.県域を越えた大学・学 部間の再編・統合、といったように具体的に記 されている。さらに、国立大学の数の大幅な削 減を目指すということも明記されている。
実際に、2002年の101大学から14組29大学が 統合され、2007年には86大学となっている(表 1)。これらの統合のうち、2003年10月の東京 商船大学と東京水産大学の統合以外は、医科大 学を地方国立大学に統合、あるいは特殊な分野 の単科大学を総合大学に統合するという、「大 学(国立大学)の構造改革の方針」どおりの統 合が行われている。
しかし、天野(2004)によれば、戦後、国立 大学に対して一貫して取られてきた方針は、① 基幹大学は研究大学として育成していく、②地 方国立大学は総合化して、地域の拠点大学とし ていく、③単科大学のなかで新構想のものはそ れぞれ特色を持たせた大学として育てていく3、 というものであった4。このように国立大学に対
する方針自体が大きく変わったのは、その背景 に「小さな政府」を目指す行財政改革の一環と して国立大学の再編・統合が進められてきたと いうことがあると考えられる。しかし、再編・
統合の理念や政策目的は何なのかといったこと について、中央教育審議会はスケールメリット 以外には具体的に示していない5。また、こう いった統合については、「教育や研究上どのよ うなメリットがあるのかを中心に、各々の将来 の発展という観点から幅広く検討がなされてき た」6といわれているが、大学経営という観点か ら合理的であるかどうかについての検証は、十 分になされてはいない。
そこで本稿では、多入力多出力システムの相 対的効率性評価手法であるDEAを用いて、国立 大学の経営(活動)の効率性を教育研究、管理 運営の両面から分析する。本稿の構成は次のと おりである。第2節では国立大学の現状につい て概観し、第3節でDEAを用いて大学の経営効 率値を計測する。第4節では、規模の経済と範 囲の経済がどのように働いているかを検証す る。第5節では3節と4節の結果を踏まえて、
3 新構想の大学は1970年代に入ってつくられるようになり、1972年から81年の10年間に21校が設置されている。そのうち、筑波 大学以外はすべて単科大学で、従来の国立とは異なる新しい試みを取り入れた大学をつくるという政策的な意図で設置された。
具体的には医科大学12校、教員養成系大学3校、技術科学大学2校、大学院大学4校である。
4 天野(2004)3ページ。
5 「国立大学の法人化を控え、全学的視点で限られた資源を活用した戦略的な経営を進める上で、ある程度のスケールメリットを 確保することも有効である」としている(中央教育審議会大学分科会(第16回)2003.3.6資料より)。
6 中央教育審議会大学分科会(第16回)2003.3.6資料4「国立大学の再編・統合の現状と今後の取り組み」より。
統合年月 統合大学 統合後の名称
2002年10月 筑波大学と図書情報大学 筑波大学
山梨大学と山梨医科大学 山梨大学
2003年10月
東京商船大学と東京水産大学 東京海洋大学
福井大学と福井医科大学 福井大学
神戸大学と神戸商船大学 神戸大学
島根大学と島根医科大学 島根大学
香川大学と香川医科大学 香川大学
高知大学と高知医科大学 高知大学
九州大学と九州芸術工科大学 九州大学
佐賀大学と佐賀医科大学 佐賀大学
大分大学と大分医科大学 大分大学
宮崎大学と宮崎医科大学 宮崎大学
2005年10月 富山大学と富山医科薬科大学と高岡短期大学 富山大学
2007年10月 大阪大学と大阪外国語大学 大阪大学
表1 大学の統合
限られた資源の中での効率的な経営のあり方 と、国立大学の機能をどのような形で集約化す るのが大学経営の観点から合理的かについて考 察し、今後の課題を述べる。
₂.国立大学の現状と特性
₂.₁ 国立大学の現状
はじめに国公私立を含めた大学全体の状況を 概観する。2008年度の大学数は国立86校、公立 90校、私立589校の計765校である。この数は、
直近で18歳人口が最も多かった1992年度の約1.5 倍である。進学率(過年度高卒者を含む)は 49.1%、収容率(入学者数/志願者数)は92%
である。
図1の折れ線グラフで示した国立大学の入学 者数は、1997年度から2008年度の間に約7,000人 減少している。同様にこの間の入学定員数は 104,000人から96,000人と約8,000人減少してい る。この推移を2002年度を境とする統合以前と 以後に分けてみると、1997年度から2002年度は 入学者数が6,000人、入学定員が7,000人の減少 であったのに対し、再編・統合が行われた2002
年度から2008年度の間は入学者数が1,000人、入 学定員数が1,300人と僅かな減少となっている。
また、図1の棒グラフで示した入学定員充足 率の推移をみると、国立大学の入学定員充足率 は上昇傾向にあった。しかし、2006年度に国立 大学の入学定員充足率が私立大学を上回ったた め入学定員の管理が厳しくなり、国立大学の入 学定員充足率はこれ以降、低下している。この ことは、国立大学全体の規模が縮小している一 つの要因と考えられる。
したがって、2002年以降の再編・統合は18歳 人口の減少等を鑑みた国立大学全体の規模の縮 小というより、先述のとおり大学単位でのス ケールメリットを目的としたものということが できる。
₂.₂ 収入・支出面からみた特性
財務の視点から国立大学の多様な特性をみる ため、表2のようにAからHの8つのグループに 分類した。図2から図6までのデータの出所は 文部科学省科学技術政策研究所第1調査研究グ ループ(2008)「国立大学法人の財務分析」に よる2006年度のデータである。
図1 入学者数・入学定員・入学定員充足率の推移
資料:文部科学省『学校基本調査』1997年から2008年度の各年度版
収入面では、経常収益7に対する運営費交付金 の割合が高いのは「E:教育大学」や「H:中 規模病院無大学」である。反対に運営費交付金 の割合が低いのは「D:医科大学」である(図2)。
一方、経常収益に対する自己収入8の割合が高い のは「D:医科大学」や「G:中規模病院有大学」
である(図2)。ただし、附属病院収益を含ま ない場合は「C:文科系中心大学」や「H:中
規模病院無大学」の割合が高くなる。反対に低 いのは「B:理工系中心大学」や「E:教育大学」
である。
次に、経常収益に対する外部資金9と科研費や その他の助成金・補助金を加えたものの割合が 高いのは「A:大規模大学」や「B:理工系中 心大学」で、最も近い「E:教育大学」の約8 倍となっている(図3)。
7 国立大学法人における経常収益とは、教育・研究等の経常的な事業を行ったことによる収入等のこと。主たるものは運営費交 付金、授業料等の学生納付金、受託研究、受託研究、寄付金等。
8 自己収入とは授業料、入学金、検定料、病院収益、財務収益。
9 外部資金とは受託研究・受託事業・寄付金、補助金。
区 分 定 義
A 大規模大学
(13大学) 学生収容定員1万人以上、学部等数概ね10学部以上(学群、学類制などの場
合は、学生収容定員のみ)
B 理工系中心大学
(13大学)
医科系学部を有さず、学生収容定員に占める理工系学生数が文科系学生数の 概ね2倍を上回る。
C 文科系中心大学
(7大学) 医科系学部を有さず、学生収容定員に占める文科系学生数が理工系学生数の
概ね2倍を上回る。
D 医科大学
(4大学)
医科系学部のみで構成される。
E 教育大学
(11大学) 教育系学部のみで構成される。
F 大学院大学 大学院のみで構成される。
G 中規模病院有大学
(25大学) 医科系学部その他の学部で構成され、A ~ Fのいずれにも属さない。
H 中規模病院無大学
(9大学)
医科系学部を有さず、A ~ Fのいずれにも属さない。
表2 国立大学法人の財務分析上の分類
資料: 文部科学省高等教育局高等教育企画課「国立大学法人及び大学共同利用機関法人の各年度終了時の評価における財務情報 の活用について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/sonota/06030714.htm(2008.2.27)
注1: 区分欄の括弧内の大学数は、本分析の対象とした大学数。「F:大学院大学」は、設置形態の特異性からデータの整合性がと れないため、分析対象から外した。
注2:2005年10月に統合された富山大学・富山医科薬科大学・高岡短期大学は「G:中規模病院有大学」とした。
注3:筑波技術大学はデータの整合性がとれないため、分析対象から外した。
図2 運営費交付金と自己収入の割合 図3 外部資金+科研費他の割合
支出面の特徴をみると、「学生一人あたり教 育経費」では、「D:医科大学」や「B:理工系 中心大学」が高く、低いのは「C:文科系中心 大学」や「H:中規模病院無大学」である(図4)。
「教員一人あたり研究経費」で最も高いのは「A: 大規模大学」、次いで「B:理工系中心大学」、
反対に低いのは「E:教育大学」、「C:文科系中 心大学」である(図5)。また、「経常経費にお ける人件費比率」で人件費の割合が高いのは「E: 教育大学」、「C:文科系中心大学」「H:中規模 病院無大学」となっている(図6)。
表3の運営費交付金の推移をみると、2008年 度の予算額は約1兆1800億円が計上されている が、法人化初年度の2004年度と比較すると600 億円を超える金額が削減されている。今後も公 的資金が拡充されることは困難という見通しの 中で、第2期中期目標期間となる2010年度から は、運営費交付金の配分について次のような見
直しが検討されている。
教育再生懇談会の第三次報告では、国立大学 法人運営費交付金、私学助成金、各種GP(Good Practice)などの公的支援の配分について、「大 学教育の質の担保・向上に向けた取組を厳正に 評価した上で、その評価に応じ配分の在り方を 大胆に見直すことを前提に、国はこれらの公的 支援を拡充する。その際、取組が不十分であり、
納税者の支持を得られないと評価される大学に は公費は投入しないことも選択肢として含め る」ことを提言している10。つまり、これまで のような教員数や学生数等の外形的な基準によ る一律的な配分から、「納税者の支持を得られ ると評価される大学」に「選択と集中」による 配分を行うという方向性が示されている。この ような施策が進めば、運営費交付金配分額の大 学間格差はますます拡大する可能性が高い。
特に、「E:教育大学」や「C:文科系中心大学」
10 教育再生懇談会「これまでの審議のまとめ―第三次報告―」11-12ページ。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku_kondan/houkoku/singi-matome.pdf(2009.3.9) 図4 学生一人当たり教育経費
図6 人件費比率
図5 教員一人当たり研究経費
表3 運営費交付金の推移(百万円)
年度 予算額 比較増減額
2004 年度 1,241,570 -
2005 年度 1,231,729 ▲ 9,841 2006 年度 1,221,478 ▲ 10,251 2007 年度 1,204,377 ▲ 17,101 2008 年度 1,181,333 ▲ 23,044 資料: 文部科学省「国立大学法人運営費交付金の推移」
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/05/08060201/001/008/0 04.pdf(2009.3.9)
のように、収入面では運営費交付金への依存率 が高く、外部資金等の割合が低い、支出面では 人件費率が高いという特徴を持つ大学は、運営 費交付金の配分基準によって大きな影響を受け る。運営費交付金の大幅な減額は大学の存続自 体も危くしかねない。したがって、各大学の特 性を活かし、大学界全体の多様性を確保した上 で評価による配分を行うには、単一指標による 評価ではなく、様々な指標を組み合わせた総合 的な評価が必要である。
₃.DEAによる分析
₃.₁ DEAの概要
DEAは、 テ キ サ ス 大 学 のA.Charnesと W.W.Cooper両教授によって開発された評価法で あ る。 基 本 概 念 は、 分 析 対 象 と な る 事 業 体
(Decision Making Unit:以下、DMU)の効率値 を産出/投入で定義する。そして、図7のよう に最も優れたパフォーマンスを示すDMUが作 る効率的フロンティアを特定し、そのフロン ティアからの距離で効率値を計測する。例えば AからFまでのDMUのうち、BDEFは効率的で、
AとCは非効率である。しかし、点P・Qの位置 まで入出力を変化させれば効率的となる。
DEAの特徴は、直接的な観測値のみに基づき 生産可能集合を求めるノン・パラメトリックな 分析方法で、入出力項目ともに計測単位を問わ ない。項目数にも制限がないため、複数の評価 基準があり、入出力項目が多数存在する分野の 相対的効率性を評価することができる。また、
各入出力項目に対するウェイトづけは、各DMU ごとに最適となるように自動的になされる。非 効率なDMUについては、改善のための目標値 を示すこともできる。一方で、誤差項を仮定し ないため、特異なデータなどによって計測結果 が影響を受けるという問題点が存在する。
DEAの基本モデルとしてCooperらが提案した CCR(Charnes-Cooper-Rhodes)モデルがある。
CCRモデルは規模の経済に関して収穫一定を仮 定したモデルである。Bankerらはこのモデルを 発展させて、規模の経済に対して収穫可変を分 析可能とするBCC(Banker-Charnes-Cooper)モ デルを提案している。次に両モデルの定式化に ついて説明する。
ここにn個のDMUがあると仮定し、対象とす るDMUをDMUoとする。インプットとアウト プットの対を とし、インプッ ト 、アウトプット をもとに の効率性を測定する。CCRモデルの効率値を
、BCCモデルの効率値を とすると、こ れらの最適解は次の線形計画を解くことによっ て求められる。
(CCRモデル主問題)
s.t.
は各DMUに対するウェイトを示す。
図7 1入力2出力の場合
(CCRモデル双対問題)
s.t.
,
はインプット、
はアウトプットに関する
ウェイトを示す。
(BCCモデル主問題)
s.t.
,
は各DMUに対するウェイトを示す。
(BCCモデル双対問題)
s.t.
,
はインプット、
はアウトプットに関する
ウェイトを示す。
この線形計画問題の最適目的関数値を とす
ると、 ならばDMUoは効率的であり、0に
近づくほど非効率となる。
₃.₂ DEAを用いた先行研究
アメリカ・イギリス・オーストラリア等では、
大学の教育研究の効率性についてDEAを用いた 実証研究が豊富にある。アメリカの大学を対象 としたAhn et al(1988)、イギリスの高等教育機 関 を 対 象 と し たJohnes(2006) な ど で あ る。
Coelli(1996)はEmployment, Education, Training and Youth Affairs(DEETYA)の1994年のデータ を使用し、オーストラリアの36大学について大 学、アカデミック、管理の3つのモデルで分析 している。大学モデルのインプットは総スタッ フ数と非スタッフ費用、アウトプットは学生数
と出版物数、アカデミックモデルのインプット は教員数とその他の費用(研究助手や技術ス タッフのような補助スタッフの費用と図書館や コンピュータサービスのようなアカデミックな サポート費用を含む)、アウトプットは学生数 と出版物数、管理モデルのインプットは管理ス タッフの人件費とその他の管理経費、アウト プットは学生数と総教員数としている。
大学の管理部門に関する分析についてはCasu and Thanassoulis(2003)がある。イギリスの大 学のCentral Adminstrative Services(CAS)の効 率性について、インプットを管理スタッフの人 件費と運営経費、アウトプットを学生からの収 入、管理スタッフの人件費を除く人件費及び技 術移転とし、BCCモデルで分析している。その 結果、平均して27%の非効率があったとしてい る。
日本における先行研究は、まだ数少ない。妹 尾(2003)は日本の医学部について、設置形態 による効率性の違いを分析している。インプッ トは医学部の教員数(教授、助教授、講師の合 計)、科学研究費補助金(大学全体の配分額に 医学部教員数のウェイトをかけたもの)、アウ トプットは医学部の学生数、国家試験合格者数、
論文数とし、BCCモデルを使用している。分析 結果から、相対的に国立大学の効率値は高く、
私立大学は低い傾向がある、教育と研究の成果 を同時に考慮した場合、公立大学や私立大学に 比べて国立大学の方がより効率的な教育・研究 活動を行っているとしている。村澤(2006)は 大学生の入学以前・入学時点の状況が学習成果 にどのように反映しているかについて、「大学 生の教育・学習経験に関する調査」のアンケー ト結果をアウトプットの代理変数とした分析を 行っている。入力・出力・DEAモデルの組合せ によって効率性には変動があるとしながらも、
偏差値の低い大学の教育成果が相対的に高いこ とを指摘し、偏差値を中心とした大学階層構造 の中・低位に位置している大学を積極的に評価 することを提言している。その他、水田(2007)
による医学部を持たない国立大学を対象にした 2段階入出力DEA分析(BCCモデル)などがあ る。
₃.₃ 国立大学の実証分析
図8のように大学を教員・職員・施設・設備・
図書といった複数の資源を投入し、教育・研究・
社会貢献という複数の生産物を産出する生産主 体(Multi Products Firm)とすると、多入力・多 出力の事業体の効率性を測ることができるDEA は有効な評価手法の一つといえる。
大学には教育・研究を直接的に運営する教学 組織体と、それを支援する管理運営組織体が存 在する。これらは学部と本部という関係を形成 する中でそれぞれ業務を分担している。また、
殿村(2008)が指摘するように、教学組織は水 平的な合議体系と構成員の分散的行動が是とさ れ、これとは対極的に管理運営の組織体、すな わち法人組織は、垂直的集中型の意思決定体系 を基に、構成員の集団的行動が求められる。つ まり、二つの組織はまったく異なる行動原理を 有しているということができる。
したがって、大学経営の効率性を改善するに は教育・研究面からのアプローチだけでなく、
間接的に関係する管理運営面の効率化を別途、
図ることが重要と考える。そこで、本分析では
先述のCoelli(1996)と同様に、大学全体、教 育研究、管理運営の3モデルを設定した。
インプット・アウトプットの代理変数には、
様々な指標設定が考えられる。本分析では、整 合性のあるデータ入手の可能性から、各モデル の入出力の組合せを表4のとおりとした。デー タは文部科学省科学技術政策研究所第1調査研 究グループ(2008)が財務分析のために収集し た「国立大学法人の財務分析」のデータを用い た。分析対象は、大学院大学及び短期大学を除 く82大学である。分析モデルは、BCCの入力指 向型モデル(BCC-I)とした。
大学全体・教育研究・管理運営の各モデルの 計測結果は、表5から表7のとおりである。分 析は年度別及び総当り式ウィンドー分析11(2004 年度から2006年度)で行った。なお、個別大学 の計測結果は付表1のとおりである。
計測結果から明らかになった点は、次のとお りである。
⑴各モデルの総当り式の平均値は、教育研究モ デルが最も高く(0.876)、次いで大学全体
(0.819)・ 管 理 運 営(0.809) の 順 で あ っ た。
標準偏差は大学全体モデル(0.176)が最も大
11 ウィンドー(Window)分析法には、隣接する2期を比較対象とした基本的な分析法と、離れた期間の効率性の違いを考慮する 総当り式の分析法がある。本分析では2004年度から2006年度の3年間のデータを用いて、総当り式分析法で行った。
図8 大学の生産活動
表4 インプット・アウトプットの組合せ
モデル インプット アウトプット
大学全体モデル 教員数、職員数、経常費用(人件費を除く) 学生数、論文数、特許公開件数、受託事業等 収益、寄付金収益
教育研究モデル 教員数、教育経費、研究経費、科学研究費補 助金
学生数、論文数、特許公開件数
管理運営モデル 職員数、一般管理費、教育研究支援経費 教員数、学生数、受託事業等収益、寄付金収益
き く、 次 い で 管 理 運 営(0.150)・ 教 育 研 究
(0.120)の順であった12。
⑵総当り式の平均値を分類別でみると、大学全 体モデルでは「B:理工系中心大学」「A:大 規模大学」の平均効率値が高く、「G:中規模 病院有大学」が最も低い。教育研究モデルで
は「A:大規模大学」が最も高く、「D:医科 大学」が最も低い。管理運営モデルでは「E:
教育大学」の効率値が最も高く、「G:中規模 病院有大学」が最も低い。
⑶ 2004年度と2006年度の効率値を比較すると、
全体では各モデルとも2006年度の方が効率値
12 Coelli(1996)による計測結果は、大学全体モデルの平均値が95.2%と最も高く、教育研究モデルは92.6%、管理運営モデルは最
も低く87.0%であった。
表5 大学全体モデル(BCC-I)
表6 教育研究モデル(BCC-I)
表7 管理運営モデル(BCC-I)
分類 大学数 2004年度 2006年度 総当り式
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
A 13 0.958 0.069 0.950 0.083 0.946 0.082
B 13 0.958 0.091 0.964 0.063 0.947 0.086
C 7 0.873 0.159 0.923 0.116 0.878 0.135
D 4 0.524 0.037 0.987 0.015 0.646 0.021
E 11 0.906 0.125 0.928 0.109 0.888 0.122
G 25 0.641 0.129 0.665 0.109 0.623 0.118
H 9 0.942 0.103 0.967 0.098 0.939 0.096
計 82 0.842 0.186 0.864 0.162 0.819 0.176
分類 大学数 2004年度 2006年度 総当り式
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
A 13 0.921 0.112 0.978 0.046 0.971 0.052
B 13 0.931 0.124 0.969 0.063 0.943 0.094
C 7 0.709 0.238 0.855 0.140 0.816 0.167
D 4 0.817 0.114 0.906 0.109 0.804 0.135
E 11 0.839 0.200 0.886 0.135 0.872 0.105
G 25 0.779 0.139 0.832 0.123 0.812 0.110
H 9 0.876 0.096 0.934 0.106 0.900 0.108
計 82 0.840 0.160 0.901 0.118 0.876 0.120
分類 大学数 2004年度 2006年度 総当り式
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
A 13 0.930 0.105 0.926 0.110 0.915 0.103
B 13 0.729 0.161 0.827 0.146 0.752 0.139
C 7 0.882 0.118 0.940 0.066 0.882 0.097
D 4 0.708 0.233 0.867 0.130 0.747 0.155
E 11 0.933 0.097 0.970 0.082 0.932 0.091
G 25 0.685 0.186 0.779 0.176 0.701 0.132
H 9 0.854 0.136 0.918 0.120 0.856 0.125
計 82 0.801 0.181 0.869 0.150 0.809 0.150
は高く、標準偏差は小さくなっている。
⑷分類別では、「A:大規模大学」が大学全体モ デルと管理運営モデルで2004年度より2006年 度の効率値の方が低くなっている。
⑸大学全体モデル(総当り式効率値)の分類別 の平均値について分散分析を行った結果、
5%水準で有意差が認められた13。
₄.規模の経済と範囲の経済
日本の高等教育に関する規模の経済、範囲の 経済に関する実証的研究が行われるようになっ たのは最近で、とりわけ私立大学に関しては個 別データを入手することが困難なため、その数 は少ない。国立大学を対象としたものでは中島 他(2004)、妹尾(2004)、私立大学を対象とし たものではHashimoto and Cohn(1997)がある。
これらの先行研究では、大学全体・学部教育・
大学院教育・研究のそれぞれについて費用関数 を推計し、規模の経済と範囲の経済に関する分 析を行っている。教育面の生産物は学部の学生 数と大学院の学生数、研究面の生産物は科学研 究費補助金としている。
中島他(2004)の分析では、生産物ごとの規 模の経済はすべての活動に存在するとしてい る。また、大学全体の規模の経済については非 常に小規模な大学を除いて存在し、規模が大き くなるほど規模の経済も大きくなるとしてい る。範囲の経済は、非常に小規模な大学の教育・
研究活動及び大規模大学における大学院教育以 外は存在し、とりわけ研究で大きい。平均増分 費用、限界費用は、研究<学部教育<大学院教 育となっており、研究が最も低いとしている。
妹尾(2004)は国立大学を理系のみの大学と文 系のみの大学に分けて分析している。文系のみ、
理系のみのどちらの場合でも、教育、研究に関 する規模の経済、範囲の経済の存在が確認され ている。ただし、文系と理系では規模の経済、
範囲の経済が存在する生産水準が異なるとして いる。
Hashimoto and Cohn(1997)では、全体の規 模の経済は存在するとしている。しかし生産物 ごとでみると、学部教育・大学院教育は小規模 大学ほど規模の経済は大きく、規模が大きくな ると規模の不経済が生じる。しかし研究は、大 規模大学になるほど規模の経済は大きくなり、
非常に小規模な大学では規模の不経済が生じる としている。範囲の経済については、学部教育、
大学院教育、研究のすべてで存在し、とりわけ 学部教育で大きい。平均増分費用、限界費用は 共に学部教育<研究<大学院教育の順で低く、
大学院教育は学部教育の約50倍の費用がかかる としている。
₄.₁ 規模の経済
すべてのインプットをλ倍するとアウトプッ トがλ倍増加するとき、規模に関して収穫一定
(CRS)であるといわれる。また、すべてのイ ンプットをλ倍するとアウトプットがλ倍以上 に増加するとき規模に関して収穫逓増(IRS)、
λ倍以下にしか増加しないとき収穫逓減(DRS)
であるといわれる。技術効率性と規模の経済を 関 係 づ け る た め、 規 模 の 効 率 性(Scale Efficiency:以下、SE)を、
と定義する14。SEは定義により、1を超えるこ とはない。特に、最も効率的な状況、つまり、
BCCとCCRで効率値が1を取る状況において、
SEは1になる。SEは次のように書き換えること ができる。
この関係から、技術的効率性( )は、可変的な 規模の経済の下での純技術的効率性( )と規 模の効率性(SE)に分解することができる。た とえば が1であってもSEが1よりかなり小 さければ、技術的効率性の低さは規模の経済に よるものと考えることができる。SEが1より小
13 Johnes (2006)は、イギリスの高等教育機関を3つのサブグループ(pre-1992, post-1992, SCOP)に分けて効率値の分散を検定した
結果、サブグループ間には5%水準で有意差がなかったとしている(p.279)。pre-1992とは、1992年以前に設置された大学、
post-1992は1992年に大学に昇格した、あるいは1992年以降に設置された大学、SCOPは学長常任委員会が所管するカレッジ等で ある。
14 Cooper,W.W,, L.M. Seiford, and K. Tone (2007)、p.153.
さい場合、規模に関して収穫逓減か逓増かは数 値自体からは分からないが、DEA Solver Proを 用いることによって確認することができる15。
₄.₂ 規模の経済の計測結果
2006年度のデータによる大学全体モデルの規 模(学生数)別、分類別の経営効率値・SE及び 規模に関する収穫の性質の計測結果は表8・9 のとおりである。分析モデルはBCC-Iで、入 出力の組合せは表4と同じくインプットを教員 数、職員数、経常費用(人件費を除く)、アウ トプットを学生数、論文数、特許公開件数、受 託事業等収益、寄付金収益とした。
表8・9より以下のことが明らかになった。
⑴学生数7,000人以上のRTS(Returns to Scale)
はDRSが多く、4,999人以下ではIRSが多い。
したがって、学生数4,999人以下で規模の経済、
7,000人以上で規模の不経済が存在すると考え られる。
⑵分類別では「A:大規模大学」「G:中規模病 院有大学」でDRSが多く、「H:中規模病院無
大学」はすべてIRSであった。
⑶規模の効率性は、学生数5,000~6,999人の規 模が最も高く、1,499人以下が最も低い。
⑷分類別の規模の効率性は、「H:中規模病院無 大学」が最も高く、「A:大規模大学」が最も 低い。
⑸経営効率値とSEの関係をみると、学生数5,000
~6,999人、7,000人~9,999人の規模では、SE 値は比較的高いが、経営効率値はそれぞれ 0.778、0.742と低い。分類別では「G:中規模 病院有大学」のSE値は比較的高いが、経営効 率値は0.665と低い。したがって、これらの大 学の非効率性は、規模以外に要因があるとい える。
⑹学生数15,000人以上、1,500~2,999人及び1,499 人以下の規模の大学は、経営効率値は高いが SE値が低い。分類別では「A:大規模大学」「D: 医科大学」「E:教育大学」の経営効率値は高 いが、SE値は低い。したがって、これらの大 学の非効率性は規模に要因があるといえる。
⑺「H:中規模病院無大学」は経営効率値・SE 値ともに高く、望ましい規模で効率的な運営 をしているといえる。
15 DEA Solver Proの詳しい説明は、http://www.saitech-inc.com/で確認せよ。
学生数 大学数 効率値 SE DRS CRS IRS
15,000人以上 13 0.955 0.849 77% 23% 0%
10,000 ~ 14,999人 9 0.891 0.913 67% 33% 0%
7,000 ~ 9,999人 12 0.742 0.921 92% 8% 0%
5,000 ~ 6,999人 19 0.778 0.992 26% 58% 16%
3,000 ~ 4,999人 12 0.866 0.969 0% 33% 67%
1,500 ~ 2,999人 12 0.949 0.820 0% 17% 83%
1,499人以下 5 0.995 0.808 0% 20% 80%
分類 大学数 効率値 SE DRS CRS IRS
A 13 0.950 0.842 77% 23% 0%
B 13 0.964 0.924 8% 46% 46%
C 7 0.923 0.938 0% 57% 43%
D 4 0.987 0.859 33% 33% 33%
E 11 0.928 0.868 18% 36% 45%
G 25 0.665 0.941 64% 16% 20%
H 9 0.967 0.967 0% 0% 100%
表8 大学全体モデル 規模(学生数)別(BCC-I ・2006年度)
表9 大学全体モデル 分類別(BCC-I ・2006年度)
同様に、教育研究モデルでは3,000~4,999人 の規模の効率値が最も高く、最低は1,499人以下 で、すべてIRSであった(表10)。分類別では「C:
文科系中心大学」と「G:中規模病院有大学」
以外はSE値より経営効率値が低くなっており、
規模に非効率性の要因があるといえる(表11)。
管理運営モデルでは5,000~6,999人の効率値が 最も高く、すべてCRSであった。最低値は1,499 人以下であった(表12)。分類別では「A:大規 模大学」を除くすべての分類で経営効率値より SE値が高くなっており、これらの大学は規模以 外に非効率性の要因があるといえる(表13)。
学生数 大学数 効率値 SE DRS CRS IRS
15,000人以上 13 0.976 0.843 85% 15% 0%
10,000 ~ 14,999人 9 0.989 0.905 44% 56% 0%
7,000 ~ 9,999人 12 0.841 0.918 83% 17% 0%
5,000 ~ 6,999人 19 0.859 0.959 42% 58% 0%
3,000 ~ 4,999人 12 0.842 0.967 0% 58% 42%
1,500 ~ 2,999人 12 0.924 0.851 0% 42% 58%
1,499人以下 5 0.932 0.687 0% 0% 100%
分類 大学数 効率値 SE DRS CRS IRS
A 13 0.978 0.831 85% 15% 0%
B 13 0.969 0.946 15% 62% 23%
C 7 0.855 0.929 14% 43% 43%
D 4 0.906 0.784 44% 33% 22%
E 11 0.886 0.836 18% 36% 45%
G 25 0.832 0.953 52% 48% 0%
H 9 0.934 0.897 0% 25% 75%
学生数 大学数 効率値 SE DRS CRS IRS
15,000人以上 13 0.924 0.856 62% 38% 0%
10,000 ~ 14,999人 9 0.930 0.904 56% 44% 0%
7,000 ~ 9,999人 12 0.735 0.938 50% 50% 0%
5,000 ~ 6,999人 19 0.859 0.989 0% 100% 0%
3,000 ~ 4,999人 12 0.902 0.972 0% 75% 25%
1,500 ~ 2,999人 12 0.853 0.845 0% 25% 75%
1,499人以下 5 0.931 0.771 0% 60% 40%
分類 大学数 効率値 SE DRS CRS IRS
A 13 0.930 0.844 69% 31% 0%
B 13 0.729 0.883 8% 46% 46%
C 7 0.882 0.921 0% 57% 43%
D 4 0.708 0.923 22% 67% 11%
E 11 0.933 0.940 9% 55% 36%
G 25 0.685 0.961 24% 76% 0%
H 9 0.854 0.960 0% 100% 0%
表10 教育研究モデル 規模(学生数)別(BCC-I ・2006年度)
表11 教育研究モデル 分類別(BCC-I ・2006年度)
表12 管理運営モデル 規模(学生数)別(BCC-I ・2006年度)
表13 管理運営モデル 分類別(BCC-I ・2006年度)
₄.₃ 範囲の経済
複数の生産物 をそれぞれ別に生産した 場合の費用の和よりも、一緒に生産した方が少 な い 費 用 で 生 産 で き れ ば、 範 囲 の 経 済
(Economies of Scope:SC)があるといえる。
DMUjの範囲の経済は、次式のように表すこと ができる。
>0であれば範囲の経済が存在し、 <0 であれば範囲の不経済性が存在する。
本分析では、生産物を専門分野(学部)別に 捉えて範囲の経済の存在を計測した。計測モデ ルはBILATERAL BCC-Iを用いた。計測手順は、
まず一つの専門分野のみを生産するDMUごと に効率値を計測し、効率値が1となったDMUを 選出する。次に効率値が1となったDMUをすべ て組合せたバーチャルDMUを設定し、バーチャ ルDMUと複数の生産物すべてを生産するDMU をそれぞれ1つのグループと考えて計測する。
入出力の組合せは、インプットを教員数(学部 の教員)、職員数、経常費用(人件費を除く)、
アウトプットを学生数(学部生)とした。文部 科学省科学技術政策研究所第1調査研究グルー プ(2008)のデータは大学だけでなく付属病院 や付属学校のデータを含んでいるため、学部別 の学生数と教員数は、朝日新聞社の『大学ラン キング』2008年度版のデータを使用した。分析 対象とした専門分野は医学・工学・教育の3分 野で、対象大学は表14のとおりである。
以上の分析モデルによる結果では、バーチャ ルDMUと3分野を提供するDMU(福井大学と
山梨大学)の2つのグループは同じ効率性の分 布に従っているという帰無仮説は有意水準10%
で棄却されなかった。実際、計測結果は、福井 大学、山梨大学とも範囲の経済は1であった。
したがって、異なる専門分野の学部間には、範 囲の経済は存在しないということができる16。 この結果の背景には、大学に関する法令や省 令、さらには政府や文部科学省の諸政策等によ る制約や影響が考えられる。1991年の大学設置 基準の大綱化以降、規制緩和の大きな流れの中 で国立大学は法人化され、経営の自律性が高 まった。しかし、現在も国立大学法人法という 法的規制があり、教育研究の質を保証するミニ マムスタンダードとして大学設置基準がある。
大学設置基準では学部の種類や規模(収容定員 数)によって必要とされる専任教員数や校地・
校舎面積が定められている。その他、図書や施 設・設備、事務組織等についても教育研究に支 障がないよう一定の基準を充たすことが規定さ れている。したがって、本稿では入力指向型
(BCC-I)モデルによる分析を行ったが、異な る専門分野の学部を持つ複数の単科大学を一つ の大学に統合しても、インプットは容易に縮小 できないという制約がある。また、実態として の組織の再編や教育研究環境の整備には相当の 時間を要する。福井大学は2003年に福井医科大 学と、山梨大学は2002年に山梨医科大学と統合 しているため、組織改革や環境整備等がまだ十 分に進んでいないということも、範囲の経済が 存在しない要因の一つと考えられる。
₅.まとめと今後の課題
法人化後の国立大学の経営に関する効率性に
表14 範囲の経済の対象大学
専門分野(学部) 大 学 名
医学のみ 旭川医科大学、浜松医科大学、滋賀医科大学
工学のみ 室蘭工業大学、北見工業大学、長岡技術科学大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、
京都工芸繊維大学
教育のみ 北海道教育大学、宮城教育大学、東京学芸大学、上越教育大学、愛知教育大学、京都教
育大学、大阪教育大学、兵庫教育大学、奈良教育大学、鳴門教育大学、福岡教育大学
医学・工学・教育 福井大学、山梨大学
16 インプットの教員数を法人全体としたモデルでも、範囲の経済は存在しなかった。
ついてDEAを用いた分析を行った。DEAは多入 力・多出力の事業体の相対的効率性を評価し、
大学の経営効率が良いか悪いか、全体の中でど の位置にあるのかを数値で示すことができる。
また、経営効率が悪い場合は良い大学を参考に して、何をどれだけ増やせばいいのか、あるい は減らせばいいのかという改善目標案を提示す ることができる。したがって、DEAは各大学の 特性を生かした上で大学経営の効率性や合理性 を評価し、改善に導くための一つの有効な評価 方法と考える。
本分析の計測結果から、次のことが明らかに なった。まず、大学の規模や学部構成によって 区分した分類別の効率性には有意な差があっ た。とりわけ、医学・工学・教育といった単科 大学の効率性は相対的に高かった。この結果は、
Johns(2006)によるイギリスの高等教育機関
(HEIs)においてはサブグループ間に有意差は なかったとする結果とは異なっている。
次に、規模の経済については、学生数7,000人 以上の大規模大学には規模の不経済が存在する ことが確認された。これは中島他(2004)の大 学の規模に関わらず規模の経済が存在し、しか も大学の規模が大きくなるに従って規模の経済 も大きくなるという結果とは異なっている。ま た、教育研究と管理運営では規模の経済が存在 する水準が異なることも確認された。
範囲の経済については、専門分野が異なる学 部間では存在しないことが明らかになった。
今後、18歳人口の減少等によって高等教育界 の市場が縮小する中、個別大学の質を保証しつ つ効率化を図るために、大学の再編・統合はさ らに進められていくと思われる。従来の統合パ ターンは、大規模総合大学に医科大学等の単科 大学を統合するというものであった。しかし上 記の分析結果から、従来の統合パターンは経営 の効率性という観点からすると合理的ではない といえる。ただし、この結果には学部自治に代 表されるように水平に分化した大学組織の特性 や法的規制が大きく影響していると考えられ る。したがって、抜本的な組織体制の改革や大 学設置基準の見直し等が進められた上での再 編・統合であれば、本分析とは違った結果にな る可能性がある。
今後の課題は次の3つである。第一は整合性 のあるデータを収集し分析することである。
DEAは絶対評価ではなく相対評価であるため、
分析するグループや入出力の変数の組合せに よって評価が異なる。さらにデータに含まれた 異常値によって、計測結果は大きな影響を受け てしまう。例えば、今回の分析で使用したデー タには附属病院や附属学校の教員数や経常経費 が含まれているので、こういった要素を取り除 いて比較可能性を高めることが今後の課題であ る。また、論文数については理工系に偏ったデー タが収集されているため、評価の目的によって は分類別に分析することも必要と考える。範囲 の経済については、今回はアウトプットが学生 数だけと限られたデータによる評価に留まって いるため、新たに指標となるデータを収集して 計測することが課題である。
第二は、DEA分析の結果から、効率性を規定 する要因を明らかにすることである。本分析は 効率値の計測に留まっているが、効率性を改善 するための具体策を提案するにはその要因を明 らかにすることが必要であり、今後の課題であ る。
DEA分析の目的の一つは大学経営を今後どの ように改善するべきかという改善案を提示する ことにある。DEAで効率的と評価された大学で あっても、それはあくまでも相対的なものであ るため、さらなる改善が必要である。DEAは極 めて定量的な分析手法であるため、数値化が困 難な要素は定性的な分析で補完する必要があ る。そこで、自己点検・評価とDEAによる定量 的・客観的な評価を組み合わせることによって、
より具体的で実現可能な改善案を提示すること ができると考える。
第三は、教育研究の質と経営の効率性の指標 は矛盾するものが多いため、両者のバランスを とりながら改善を図ることができる指標を設定 することである。大学の管理運営に関しては、
山本(2003)が共通間接部門における規模の経 済や範囲の経済について分析している他には、
先行研究がほとんどない。したがって、財務情 報以外の管理運営に関する新たな指標を設定 し、一法人複数大学のように本部機能だけを統 合するパターンが大学経営の観点から合理的で あるかどうかについての検証も行いたい。
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付表 各モデルにおける総当り式ウィンドー分析及び年度別の効率値