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水平合併における反競争効果分析の動向 : 二〇一

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水平合併における反競争効果分析の動向 : 二〇一

〇年米国水平合併ガイドラインにみる合併審査

著者 田平 恵

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 2

ページ 1193‑1275

発行年 2011‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013807

(2)

同志社法学 六三巻二号三二五(    

―二〇一〇年米国水平合併ガイドラインにみる合併審査―

田      平       

章 章  節  節  節 章  節  節  節 

一一九三

(3)

(    同志社法学 六三巻二号三二六

 節  節 調 節  節 章  節  節  節 章 

第一章 問題の所在

 米国では、二〇〇九年から行われていた水平合併ガイドラインの見直し作業が終了し、二〇一〇年八月一九日に水平合併ガイドラインが改定された (以下、﹁二〇一〇年ガイドライン﹂と記す)。一九九七年に改定された効率性の箇所を除く大部分は、一九九二年以来一八年ぶりの改定となった。二〇一〇年ガイドラインには、水平合併分析の分析枠組みの変更や、経済分析 の取り込みなどによる新しい反競争効果分析の手法が示されている。改定の主たる目的は、実務の反映および経済的知見の反映であった。改定により、反競争効果分析の対象となる項目の内容や基準が変化しただけではなく、分析枠組みの変更や新しい分析手法の導入など、大きな変化もみられる。 米国の合併規制の根拠規定であるクレイトン法・連邦取引委員会法が制定されたのは一九一四年のことであったが、 一一九四

(4)

同志社法学 六三巻二号三二七(     二〇一〇年ガイドラインが示す分析方法からは、現在もなお水平合併分析の手法が変化を遂げていることがうかがえる。実際に、近年米国では計量経済学的手法を用いて直接的に反競争効果をはかる試みがなされており、水平合併分析における反競争効果分析の手法は未だ確立しているとは言いがたい。 二〇一〇年ガイドライン公表までは、市場画定、潜在的な反競争効果、参入分析、効率性、破綻という五つの項目に沿って、水平合併分析が行われることがガイドラインによって示されていた。一般的に、水平合併による反競争効果のタイプは単独効果と協調効果の二つのタイプに分類される。合併企業が圧倒的な市場シェアを持ち、市場支配力を形成しうる場合に行われる単独効果分析では、市場シェア・集中が重要な指標となる。ただし、製品が差別化されている場合には市場シェア・集中が反競争効果の指標となりにくい。合併によりカルテルや暗黙の協調が行われやすくなり、それによって市場支配力が形成される場合には協調効果が懸念される。この場合も、市場シェア・集中度が重要な考慮要素とはなるが、その他透明性や同質性も考慮される。このように、様々な形で生じうる反競争効果に対して一律の分析枠組みをあてはめることに関して、必ずしも正確な反競争効果分析がなされているとはいえないという問題点が生じていた。また、一律の分析枠組みをあらゆる水平合併にあてはめるという点では画一的な分析が行われていたともいえる。しかし、他方では現在までの米国の水平合併規制の分析方法と比較した場合、市場シェア・集中以外の考慮要素を広く認めるという点で柔軟性のある分析手法であるとの評価がなされていた(第二章第二節参照)。 このように、現在利用されている水平合併分析手法を正確に理解、認識することが重要であることはもちろんのこと、当該手法がこれまでの水平合併規制との関係ではどのように位置づけられるのかという点についての検討も不可欠である。そこで本稿では、現在までの判例法、合併ガイドラインにおける反競争効果の認定手法の変遷について整理し、そのなかで二〇一〇年ガイドラインにみられる水平合併分析の手法がどのように位置づけられるのかということを明らか

一一九五

(5)

(    同志社法学 六三巻二号三二八

にする。そのような検討を通じて、米国の水平合併規制の動向を整理し、現在の水平合併による反競争効果の分析手法およびその意義を明らかにすることを目的とする。また、二〇一〇年ガイドラインの特徴を把握するだけではなく、改定前後の議論、今後の水平合併規制の展開の可能性についても検討する。 二〇一〇年ガイドラインを検討素材とすることは、米国の競争当局による水平合併分析についての思考・実態・傾向を読み取ることになる。現在の米国における合併規制の動向をとらえるうえで有意なことといえる。二〇一〇年ガイドライン改定についてはその内容紹介を行う邦語の先行研究 はいくつか公表されているものの、改定が持つ意義や影響について十分な検討がなされたものとは言い難い。本稿の整理・検討は、①競争当局による見直し作業、実務との整合性、②ガイドライン利用者にとっての予見可能性・透明性、③(ガイドラインは競争当局の指針であり、裁判所への拘束力はないことから)裁判所による判断との関係、という視点から改定の持つ意義や影響を明らかにすることにより、今回のガイドライン改定の持つ意味や内容理解の豊富化を図ろうと試みるものである。 叙述の順序は以下の通りである。まず、米国における水平合併規制について整理する(第二章)。判例および現在までに公表されたガイドラインにおける反競争効果認定手法の内容、変化についてその変遷を追う。そして、二〇一〇年ガイドラインの特徴を把握し、改定の背景、改定前後の議論などを紹介する(第三章)。それらを踏まえ、反競争効果認定の手法の傾向、今後の展開の可能性を提示する(第四章)。最後に、本稿での検討内容を総括する(第五章)。

第二章 米国における現在までの水平合併規制

 本章では、米国における水平合併規制において、反競争効果分析がいかなる目的、手法で行われてきたかを概観する。 一一九六

(6)

同志社法学 六三巻二号三二九(     一九六〇年代以降の主要判例をみることで、合併規制がいかなる目的で行われ、反競争効果分析においてそれぞれの要因がどのように考慮の対象とされてきたのか、その変遷をみる(第一節)。併せて合併ガイドラインについてもどのような変遷がみられるのかということについても確認する(第二節)。

第一節 判例(一) 市場画定の立証を必要とする最高裁判例 クレイトン法が制定されたのは一九一四年のことであった。それ以前は、シャーマン法のもとで違法性判断が行われていた 。ただし、クレイトン法制定後も、クレイトン法七条の適用範囲は株式取得に限定されていた。そのため、合併が規制の対象とされるようになったのは一九五〇年にセラー・キーフォーバー法改正によりクレイトン法七条が改正された後のことであった。クレイトン法七条は、国のいずれかの地域における取引若しくは取引に影響を及ぼす活動のいずれかの分野において競争を実質的に減殺することとなり、又は独占を形成するおそれがある株式取得、資産・事業の取得、合併を禁止している。 最高裁判例では、クレイトン法七条違反とされるには市場画定が必要であるとの判断がなされてきた。一九五七年の

D u P on t

事件 では関連市場の画定はクレイトン法七条に基づく主張に必要なものであると判示された。また、一九六二年の

B ro w n Sh oe

事件 では、国のいずれかの地域における取引の競争を実質的に減殺する取得を禁止するというクレイトン法七条の文言により、市場画定が必要とされていると判断された。これらの最高裁判例があるために、現在でも裁判所は、市場画定の立証を必要としている。他方、競争当局は、関連市場の画定は必ずしも必要ではないという立場をとるようになっている

一一九七

(7)

(    同志社法学 六三巻二号三三〇

 このように裁判所と競争当局の市場画定への認識が異なるようになった背景には、間接的に反競争効果の評価を行う手法である市場画定を行わずとも経済学的手法を用いて直接的に反競争効果の評価を行う手法が発達したことがある。合併による反競争効果分析において市場画定が必要とされるようになった経緯や、その後直接的に反競争効果分析を行う手法が発展したことについては、後掲第三章第六節で詳述する。

(二) 判例における市場シェア・集中度の取り扱い 水平合併は、競争者の数を減少させることにより市場集中を高め、そのことにより明示的な合意がなくとも、価格やその他の競争上の条件について市場参加者間で共謀することを容易にすることがある。また、水平合併により市場支配力を得た合併企業が単独で価格を上昇させることがある。 水平合併により合併企業が圧倒的な市場シェアを占めることがある。そのような場合には、市場シェアや市場集中度は、水平合併分析で大きな意味を持つ。実際に、市場シェアが高まり、市場集中がすすめば反競争効果が推定されると判断される事例もみられた。このように、当初、市場シェア・集中度が持つ意味は現在よりも大きなものであった。しかし、現在までの判例をみると、市場シェア・市場集中度の取り扱い、重点の置き方には変化がみられる。現在では、市場シェア・集中度は依然としてその意味を失ってはいないものの、それら以外の要因が考慮されることも多い。以下では、過去の判例をもとに、その変遷について述べていく。 一九五七年の

D u P on t

事件 でクレイトン法七条違反立証のためには市場画定が必要とされると判示されたことは先述のとおりである。その後の

B ro w n Sh oe

事件 においても市場画定の必要性が判示されたが、本件は市場シェアに関しても重要な判示を行っている。

B ro w n Sh oe

事件では、市場シェアおよび合併による市場集中の変化を強調し、関連市 一一九八

(8)

同志社法学 六三巻二号三三一(     場における合併企業の市場シェアはわずか五%であったにもかかわらず、本件取得を違法とした。本件は、合併審査の基本的手法を示した点で重要な判例でもある。本件では、市場シェアは重要であるものの、その他の考慮要素も合併審査の対象となることが以下のように示された。 ﹁合併においては当該産業の機能的特性に留意する必要がある。市場が集中しているか否か、少数の有力事業者によって市場が支配されている傾向がみられるか、供給者による市場へのアクセスは十分か、購入者によるアクセスは十分か、現在参入を予定している新しい競争者が存在するか、新規参入者に対する参入障壁がないかなどを考慮する必要がある。 小規模の事業者が、大規模な有力事業者に対応するための合併、又は破綻に瀕している企業の合併が禁止されるものではない﹂。 さらに、脚注においても、以下の重要な判断が示された。この脚注部分は、後の

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件 ₁₀

で前半部分のみが残ることとなる。 ﹁有力な事業者と合併事業者についての市場シェアに関する統計資料は市場支配力の基本的な指標である。しかし、合併による反競争効果の蓋然性を判断するにあたっては、市場構造、歴史的要因、将来の参入の見込みなどを考慮する必要がある﹂。 このように

B ro w n Sh oe

事件では、市場シェアや市場集中以外の要素も合併審査の対象となることが示された。しかし、

B ro w n S ho e

事件から一年後の

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件では、関連市場において不当な市場シェアを獲得し、市場集中度を相当増大させる合併は、本質的に競争を実質的に減殺するおそれがあるため、当該合併が反競争効果を有するおそれがないことを証明する明白な証拠がない限り、当該合併は競争を実質的に制限するものであり、禁止されな

一一九九

(9)

(    同志社法学 六三巻二号三三二

ければならないと判示された ₁₁

。高度に集中した市場で実質的な市場シェアの上昇をもたらす水平合併は、クレイトン法七条にいう﹁競争を実質的に減殺する﹂ものであるとの推定を受けることになった。これが違法性推定原則であり、その濃淡については議論があるものの、後の判例やガイドラインを含めて、現在の米国における水平合併規制に影響を及ぼしている(違法性推定原則の維持については、後掲第四章第一節参照)。 一九六六年の

V on ’s G ro ce ry

事件 ₁(

では、七・五%という低い市場シェアを有するに至った合併を違法とした事件である。本件では、シャーマン法一条違反に至らない萌芽(

in cip ie nc y

)の段階でクレイトン法七条により反競争効果を捉えるという萌芽理論が強調された。 一九七〇年代に入り、最高裁は市場シェア以外の要素も考慮要因となることを判示するようになった。一九七四年の

G en er al D yn am ic s

事件 ₁₃

では、

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件の市場集中度による違法性の推定は絶対的なものではないことが示されることになる。本件では、地理的市場で四社が七五%を、一〇社が九八%を支配しており、合併企業は二二%を取得することとなった。これらの市場シェアは、

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件で示された違法性推定原則の適用対象となるものであった。しかし、最高裁は、

B ro w n Sh oe

事件を引用し、統計に基づく立証があったとしても市場構造、歴史、関連市場の将来の可能性を考慮してクレイトン法七条違反とはならないと判断した。最高裁は、実際の競争状況は現在の市場シェアの統計で明らかにされるものではなく、将来の石炭供給に関する競争上の能力の指標となる合併企業の埋蔵炭量をみることで決定されるとし、反競争効果が生じないことを理由にクレイトン法七条違反ではないとした。

G en er al D yn am ic s

事件では、違法性推定原則が絶対的なものではなく、様々な要因を考慮した結果、反競争効果が発生しないと判断される場合には、当該水平合併は許容されるとされた点が重要である。 

G en er al D yn am ic s

事件以降、合併の実質的な審査基準について変更、詳述している最高裁判例はない ₁₄

。下級審や連 一二〇〇

(10)

同志社法学 六三巻二号三三三(     邦取引委員会は、違法性推定原則を適用し続けている ₁₅

。ただし、それは違法性推定原則が適用されるに足りる市場シェアや市場集中であることが明確な事例にあてはまるものであった。裁判所は、市場シェアや市場集中以外の証拠を考慮し、当該合併が協調行為をもたらすか否か、あるいは、高い市場シェアを有する場合であっても合併企業が価格を引き上げることはないといった証拠を重視して合併を認める事例もある ₁₆

。 このように、過去の最高裁判例をみると、水平合併の反競争効果分析における市場シェア・市場集中度の考慮については、その強弱に変化がみられる。

B ro w n S ho e

事件では市場シェア・集中が市場支配力の基本的な指針となるものの、それ以外の要因も考慮されることが示されていた。しかしその後の

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件では市場シェア・集中が市場支配力の指標であるとされ、違法性推定原則が示された。ところが、

G en er al D yn am ic s

事件では、

B ro w n Sh oe

事件が引用され、市場シェア・集中以外の要因も水平合併による反競争効果の評価の対象となることが再度示された。

G en er al D yn am ic s

事件以降、水平合併の実質的判断基準、要素が変更された最高裁判例は出されていない。これらの動向から判断すると、最高裁は、市場シェアや市場集中が水平合併による反競争効果分析において重要な考慮要因であるとしているが、その他の要因も考慮対象となり、それらを判断してクレイトン法七条違反か否かを認定していることがわかる。同様の傾向は、競争当局による合併ガイドラインにもみてとれる。次節では、現在までに公表された合併ガイドラインにおける反競争効果分析の方法や内容をみることにする。

第二節 合併ガイドライン(一) 一九六八年司法省合併ガイドライン 一九五〇年のクレイトン法七条の改正をふまえて連邦の執行当局が最初に合併政策を述べたものとして、

T he re po rt

一二〇一

(11)

(    同志社法学 六三巻二号三三四

of th e A tto rn ey G en er al’ s N at io na l C om m itt ee to S tu dy th e A nt itr us t L aw s

₁₇

が一九五五年に公表された。前掲第一節で挙げた

B ro w n Sh oe

事件や

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件などのウォーレンコート期は、全ての合併事例において反トラスト当局側が勝利したため、明確な訴追基準が必要とされた ₁(

。そこで、司法省は、一九六八年に合併ガイドラインを公表した ₁₉

(以下、﹁一九六八年ガイドライン﹂と記す)。一九六八年ガイドラインの目的は、競争を導く市場構造の維持および促進にあるとされた (₀

。水平合併規制については、市場に実質的な競争効果を及ぼしている競争単位を維持すること、独占的企業の発生を阻止すること、市場の集中化傾向を阻止すること、将来に市場が非集中化する可能性を確保しておくことという四つの目的が挙げられた (₁

。 訴追基準については、以下の基準が設けられた。  ・集中度の高い市場(上位四社の市場シェアが七五%以上)   ①取得企業の市場シェア  四%以上 被取得企業の市場シェア 四%以上   ②取得企業の市場シェア 一〇%以上 被取得企業の市場シェア 二%以上   ③取得企業の市場シェア 一五%以上 被取得企業の市場シェア 一%以上  ・集中度の低い市場(上位四社の市場シェアが七五%未満)   ①取得企業の市場シェア  五%以上 被取得企業の市場シェア 五%以上   ②取得企業の市場シェア 一〇%以上 被取得企業の市場シェア 四%以上   ③取得企業の市場シェア 一五%以上 被取得企業の市場シェア 三%以上   ④取得企業の市場シェア 二〇%以上 被取得企業の市場シェア 一%以上 この基準は、以降に公表されたガイドラインの基準に比べると厳格なものであるが、萌芽理論が適用された一九六〇 一二〇二

(12)

同志社法学 六三巻二号三三五(     年代の裁判例と比べると緩和されたものといえる。一九六八年ガイドラインは当時の裁判例とかけ離れた内容ではなかったが、司法省が訴追の対象とする合併のタイプについて明確な指標を提示するものでもなかったとされる ((

。 一九六八年ガイドラインが示す市場集中度および市場シェアのみに注目した訴追基準は、SCPパラダイムに依拠したものである。SCPパラダイムは、市場構造(

m ar ke t s tr uc tu re

-市

m ar ke t c on du ct

場行動()

派学S、りよに織ドPーバーハるけおCパ論がさたれさ唱提れラる産業組ムイダに (₃

on ce an rm rfo pe ain B M as

表代にやる。市発が争競で場該な当らか点観の)に活さ議あでのもれす論るをか否かるいて -市

t ke ar m

場(果成

。SCPパラダイムは、産業の成果が企業の行動に依存して決まり、企業の行動が市場の構造に依存して決まるというものであった。ハーバード学派は、結局のところ市場成果が市場構造によって決まると考え、市場構造と市場成果の関係についての実証研究を中心に行った。不完全競争を前提として市場構造の差違が、異なる企業行動と市場成果を生み出すと考えた。一九六八年ガイドラインでは構造主義的アプローチが明確化されていた。

(二) 一九八二年司法省合併ガイドライン その後、

St ig le r

B or k

に代表されるシカゴ学派が台頭した (₄

。シカゴ学派は、経済的効率性の実現を反トラスト政策の目的とする。そのため、効率性以外の政策目標については、効率性ほど重視されることはなかった。シカゴ学派は、集中そのものを反競争的であるとする根拠を疑い、極端に集中を促進したり、競争を減殺する合併は規制するべきであると考えた。ハーバード学派がいう構造主義が支持を得ていた時代は、集中度が合併規制のほとんど唯一の指標であったが、シカゴ学派は集中度以外の基準も考慮することを主張した。そのようなシカゴ学派の見解が一九八二年および一九八四年合併ガイドラインに受け入れられることになる。一九八二年に司法省は新たな合併ガイドラインを公表した (₅

(以

一二〇三

(13)

(    同志社法学 六三巻二号三三六

下、﹁一九八二年ガイドライン﹂と記す)。一九八二年合併ガイドラインは、一九六八年ガイドラインを全面的に改定したものであり、ガイドライン公表の歴史の中でも大きな意味を持つ。その変更点は、以下の五点に整理される (₆

。 第一に、合併規制の統一的な目的として、市場支配力を形成・増大させる、あるいは市場支配力の行使を促進する合併は認められるべきではないとされたことである (₇

。これは、クレイトン法七条の主要な目的は競争を導く市場構造の保護または維持であるとした一九六八年ガイドラインと大きく異なるところである。一九八二年ガイドラインで示された目的は、二〇一〇年ガイドラインにおいてもみられる。 第二に、一九八二年ガイドラインは、市場画定の際にSSNIPテスト ((

を導入した。SSNIPテストは、裁判所や競争当局にも広く受け入れられている手法であり、二〇一〇年ガイドラインにおいても採用され、その利用方法が述べられている。 第三に、一九八二年ガイドラインは、ハーフィンダールハーシュマン指数 (₉

(以下、﹁HHI﹂と記す)を採用し、合併後のHHIとHHI増分に基づき提訴基準を以下のように設定した。この基準は、二〇一〇年ガイドラインと比べると厳格なものであるといえる。 第四に、一九八二年ガイドラインは、競争効果に関する議論を発展させ、一九

表1 〔1982年ガイドラインにおける提訴基準〕

HHI

増分

統合後

HHI

50未満 50以上100未満 100以上 1000未満

(非集中的市場) 懸念なし

1000以上1800未満

(やや集中的市場) 懸念なし 懸念あり

1800以上

(高度に集中的市場) 懸念なし 懸念あり 懸念が大きい

一二〇四

(14)

同志社法学 六三巻二号三三七(     六八年ガイドラインに比べて市場集中の役割を控えめにした。この傾向は二〇一〇年ガイドラインにも通じるところであり、詳細は後掲第三章第四節を参照されたい。 第五に、一九八二年ガイドラインでは、共謀(

co llu sio n

)が容易になり、共謀により利益が生じうる要因が挙げられた。二〇一〇年ガイドラインにおいても、同様の要因が挙げられているものがある。

(三) 一九八二年水平合併に関する連邦取引委員会の声明 一九八二年ガイドラインが公表された同日、連邦取引委員会も水平合併規制に関する声明を公表した ₃₀

(以下、﹁一九八二年声明﹂と記す)。この声明は、一九八二年ガイドラインに﹁かなりの配慮を払う ₃₁

﹂としていたが、市場画定、HHI利用などについて一九八二年ガイドラインに依拠することはなく、セーフハーバーを設定することもなかった。一九八二年声明は、市場シェアが反競争効果分析における最も重要な指標であるとした ₃(

が、市場シェアが低い場合であっても他の考慮要因から合併を審査の対象とする場合があるとした ₃₃

(四) 一九八四年司法省合併ガイドライン 司法省は、一九八二年ガイドラインに追加的な改定を行う形で一九八四年にガイドラインを公表した ₃₄

(以下、﹁一九八四年ガイドライン﹂と記す)。一九八四年ガイドラインは、一九八二年ガイドラインを以下のように変更した ₃₅

。 第一に、市場画定における五%の価格引上げの仮定について、引上げ幅は固定的なものではなく、産業に応じて変化しうるとした。第二に、市場画定および市場シェア算定の際に、原則として外国企業を国内企業と同様に扱うとした。第三に、市場シェア及び市場集中度以外の考慮要因を以下のように充実させた。①市場シェアと市場集中度の評価に影

一二〇五

(15)

(    同志社法学 六三巻二号三三八

響を与える要因として、市場状況の変化、企業の財務状況、輸入品に関する考慮が挙げられた ₃₆

。②新規参入の容易性が挙げられた。③カルテル形成を容易にする要因として、関連製品の性質と販売条件、個別取引情報と買手市場の特質、周辺企業の生産能力、合併市場における市場行動及び市場成果が挙げられた ₃₇

。そして、一九八二年ガイドラインでは訴追の対象と述べるのみであった、高度に集中した市場においてHHI増分一〇〇以上となる合併の取り扱いに変更がみられた。一九八四年ガイドラインでは、﹁特に例外的な場合には、そのような考慮事由は合併が競争を実質的に制限しないことを証明する﹂とされた ₃(

。 このように、一九八四年ガイドラインでは、単に市場集中度が高まったことを立証するだけではなく、市場集中度が高まった場合でも具体的な市場に対する悪影響が立証されなければならないことが示された。このアプローチは後に日本の二〇〇四年合併ガイドラインで採用されることになる。一九八四年ガイドラインでは市場シェア・集中以外の考慮要因が提示されたことで個々の合併の特性に応じた分析が行われうることになり、柔軟性がもたらされたといえる。

(五) 一九九二年司法省・連邦取引委員会水平合併ガイドライン 一九九二年、司法省と連邦取引委員会は共同で水平合併ガイドラインを公表した ₃₉

(以下、﹁一九九二年ガイドライン ₄₀

﹂と記す)。以前のガイドラインとは異なり、一九九二年ガイドラインは司法省と連邦取引委員会が共同で公表したものであり、水平合併のみを対象としていた ₄₁

。一九九二年ガイドラインは以下のような五部構成をとった。①当該合併により集中が相当促進するかどうかの検討(第一章・市場の画定、測定および集中度)。②潜在的な競争を制限する影響に対する懸念が生じるかどうかの検討(第二章・水平合併の潜在的な反競争的影響)。③反競争効果を打ち消すほどの新規参入がタイムリーに、蓋然性をもって、十分に行われるかどうかの検討(第三章・参入分析)。④当事者が当該 一二〇六

(16)

同志社法学 六三巻二号三三九(     合併以外の方法では合理的に達成できない効率性が当該合併にあるかどうかの検討(第四章・効率性)。⑤合併をする企業のいずれかが、合併をしなければ倒産し、その資産が市場から退出するかどうかの検討(第五章・破綻と資産の退出)。この構成は、競争当局による五段階の分析枠組みに対応しているとされていた ₄(

。 一九九二年ガイドラインでは、水平合併による反競争効果のタイプとして単独効果と協調効果の二つのタイプがあることが示された。協調効果については、一九八二年ガイドラインおよび一九八四年ガイドラインでは﹁共謀﹂と書かれていたが、変更された ₄₃

。意思の連絡に基づく協調行為については、協調行為が成立する要素 ₄₄

、協調行為からの逸脱を探知する要素、逸脱に制裁を加える要素に分類 ₄₅

され、市場シェア・集中度以外の考慮事由が整理された。単独効果に関しては、製品が差別化された市場、製品が差別化されていない市場に分類され、反競争効果発生のシナリオが記述された ₄₆

。 そして、一九九二年ガイドラインは、参入分析を精緻化した。サンクコスト(

su nk c os t

・埋没費用)を伴う参入であるか否かで分類し、サンクコストを伴う参入者をコミットしている参入とし、伴わない参入者をコミットしていない参入とした ₄₇

。コミットしている参入者についてはさらに新規参入者としての三要件、すなわちタイムリー性、蓋然性、十分性に基づいて判断されるとされた ₄(

。 また、一九九二年ガイドラインでは、HHIに基づく審査基準についても変化が見られる。表2A部分について、一九八四年ガイドラインでは、その他の考慮要因による反証がない限り訴追の対象とされていた。一九九二年ガイドラインでは、その他の考慮要因によっては重大な競争上のおそれを生じさせるとされることとなった。同様の変更が表2B部分についてもなされた。表2Ⓒ部分については、一九八四年ガイドラインでは﹁特に例外的な場合﹂にその他の考慮要因が検討されると示されていた。一九九二年ガイドラインでは、単に他の考慮事由により反証が可能な違法推定を行

一二〇七

(17)

(    同志社法学 六三巻二号三四〇

うとされた。このように、一九九二年ガイドラインでは、一九八四年ガイドラインからさらに市場シェア・市場集中の役割の低下が進んだ。 一九九二年ガイドラインは水平合併による反競争効果分析のタイプが整理され、その分析枠組みが提示されたことを特徴とする。一九九二年ガイドラインは、訴追基準を示すというガイドラインとしての性格よりも分析枠組みを示すものであり、規範としての価値を薄めたとの評価がなされている ₄₉

。この背景には、ゲーム理論の研究成果を応用する規制枠組みが必要になったことが挙げられている ₅₀

。 一九九二年ガイドラインによりさらに市場シェア・市場集中度の果たす役割が減ぜられたが、この傾向は二〇一〇年ガイドラインにおいても引き続きみられる。詳細については第四章第二節を参照されたい。

(六) 一九九七年ガイドライン改定 一九九二年ガイドラインでは、効率性についてはほとんど変更されなかった ₅₁

。その後、一九九七年に効率性の箇所が改定されることとなった。考慮の対象となる効率性を﹁認識可能な効率性﹂として、

HHI

増分

統合後

HHI

50未満 50以上100未満 100以上 1000未満

(集中化していな い市場)

1000以上1800未満

(やや集中が進ん でいる市場)

反競争効果をもたらすおそれは乏し く、通常さらなる分析を必要としな い

検討される諸要因 次第では、競争上 のおそれを生じさ せる(A)

1800以上

(高度に集中が進 んでいる市場)

検討される諸要因 次第では、競争上 のおそれを生じさ せる(B)

市 場 支 配 力 を 形 成・強化し、また はその行使を助長 させるおそれがあ る と 推 定 さ れ る

(C)

表2 〔1992年ガイドラインにおける市場集中度による合併審査基準〕

一二〇八

(18)

同志社法学 六三巻二号三四一(     効率性が﹁合併特有﹂のものであること、効率性が﹁合理的方法で立証される﹂ことの二つを要件とした。また、反競争効果が大きくなるほど抗弁としての立証に必要とされる効率性の程度は大きくなること、効率性の抗弁が問題となるのは合併による反競争効果がそれほど大きくない場合であるとされた。ガイドラインにおける効率性の取り扱いについては、後掲第四章第二節を参照されたい。

(七) 二〇〇六年水平合併ガイドラインコメンタリー 二〇〇六年に司法省・連邦取引委員会は、水平合併ガイドラインに関する解説を公表した ₅(

(以下、﹁コメンタリー﹂と記す)。コメンタリーでは、例えば、効率性の考慮については、一九九二年ガイドラインでは競争上の効果や市場画定のあとに行われるとされていたが、実際には統合アプローチの一部をなしているとされた。また、単独効果の評価の際に、市場画定を経ることなく直接的に反競争効果分析を行う手法の利用可能性などについても記述がみられた。競争当局が実際に用いているのは、一九九二年ガイドラインで提示された五段階の分析方法ではなく、統合アプローチであることが指摘された。

(八) 二〇一〇年司法省連邦取引委員会水平合併ガイドライン 実務と一九九二年ガイドラインの乖離の解消、一九九二年以降の経済的知見の発展の反映を目的として一九九二年ガイドラインが改定されることとなり、二〇一〇年ガイドラインが公表された。二〇一〇年ガイドラインでは、一九九二年ガイドラインで提示された五段階の分析方法とは別に、市場画定を経ることなく反競争効果を直接的に認定する方法が提示された。それに伴い、市場画定の位置付け、反競争効果分析のための手法の取り扱いなどに変化がみられる。ま

一二〇九

(19)

(    同志社法学 六三巻二号三四二

た、HHIに基づく審査基準も変更された。二〇一〇年ガイドラインにより、市場シェア・集中の役割は一層減ぜられることとなった。これら詳細については、後掲第三章第四節を参照されたい。

第三節 小括 現在、クレイトン法七条を根拠として合併規制がなされている。

D u P on t

事件および

B ro w n Sh oe

事件では、クレイトン法七条違反を立証するためには市場画定が必要であるとされた。これらの最高裁判決をもとに、以降の判例法が形成されている。 一九六〇年代からの合併に関する判例をみてみると、市場シェア・集中への取り扱いについて濃淡がみられる。

B ro w n Sh oe

事件では、市場シェア・集中が市場支配力の測定のために重要な指標であるものの、その他の要因も考慮の対象になることが判示された。しかし、

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件では、市場集中が進めば合併の違法性が推定されるという違法性推定原則が示された。ところが、

G en er al D yn am ic s

事件 ₅₃

では、

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件の市場集中度による違法性の推定は絶対的なものではないことが示され、

B ro w n Sh oe

事件を引用して市場シェア・集中以外の要因も考慮の対象となることが示された。

G en er al D yn am ic s

事件以降、水平合併の実質的判断基準、要素が変更される最高裁判例は出されていない。これらの動向から判断すると、最高裁は、市場シェアや市場集中を水平合併による反競争効果分析における重要な考慮要因とするものの、その他の要因も考慮の対象とし、それらの要因を判断してクレイトン法七条違反か否かを認定していることがわかる。 同様の傾向は、競争当局による合併ガイドラインにもみてとれる。一九六八年、司法省により初めて合併ガイドラインが公表された。一九六八年ガイドラインの目的は、競争を導く市場構造の維持および促進にあるとされ、現在に比べ 一二一〇

(20)

同志社法学 六三巻二号三四三(     て厳格な訴追基準が設定されていた。萌芽理論に基づき合併規制が行われていたことが反映されている。 一九八二年ガイドラインは、市場支配力を形成・増大させる、あるいは市場支配力の行使を促進する合併の阻止を目的とした。その他、仮想的独占者基準、HHIに基づく提訴基準の設定など、現在の合併審査や水平合併ガイドラインに通じる目的や手法が提示された。司法省による合併ガイドラインが公表された同日に連邦取引委員会が水平合併ガイドラインに関する声明を公表した。一九八二年声明では、司法省の合併ガイドラインに負うことが示されたが、実際には市場画定、HHI利用などについて一九八二年ガイドラインに依拠することはなく、セーフハーバーを設定することもなかった。一九八二年声明は、市場シェアが反競争効果分析における最も重要な指標であるとしたが、市場シェアが低い場合であっても他の考慮要因から合併を審査の対象とする場合があるとした。 一九八四年ガイドラインでは、市場シェア・集中以外に考慮対象となる要因が整理・列挙された。単に市場集中度が高まったことを立証するだけではなく、市場集中度が高まった場合でも具体的な市場に対する悪影響が立証されなければならないとされた。一九八四年ガイドラインの記述により、個々の合併の特性に応じた分析が行われうることになり、柔軟性がもたらされることになった。 一九九二年ガイドラインでは、水平合併による反競争効果分析のタイプが整理され、反競争効果分析のための五段階の枠組みが提示された。一九九二年ガイドラインでは、市場シェア・集中の役割がさらに減ぜられることとなった。 一九九七年には、一九九二年ガイドラインの第四章である効率性の箇所が改定された。二〇〇六年に司法省と連邦取引委員会は水平合併ガイドラインに関するコメンタリーを公表した。コメンタリーでは、競争当局が実際に用いているのは一九九二年ガイドラインで提示された五段階分析ではなく、統合アプローチであること、市場画定を経ることなく反競争効果分析を行いうることなどが指摘されていた。これらは後に二〇一〇年ガイドラインで提示されることになる。

一二一一

(21)

(    同志社法学 六三巻二号三四四

 このように、ガイドラインにおいても、判例法と同様の傾向がみられる。すなわち、市場シェア・集中は反競争効果分析において重要な指標であるとされながらも、それ以外の要因についても考慮対象となる。また、ガイドラインが改定されるたびに市場シェア・集中以外の要因が整理、列挙されるようになり、それと同時に市場シェア・集中が反競争効果分析において果たす役割は減ぜられるようになっている。 このような流れをくむ判例法や合併ガイドラインの変遷を踏まえると、二〇一〇年ガイドラインはいかなる意味を持つのか。次章では、二〇一〇年ガイドラインの特徴およびその意義について論じていく。

第三章 二〇一〇年ガイドラインにみる合併審査

 本章では、二〇一〇年ガイドラインの特徴、改定の背景、改定前後の議論、改定後の評価などを紹介・検討する。その前提として、以下では、ガイドラインの目的、見直し作業時の目的を確認する。 二〇一〇年ガイドライン§1には、ガイドラインの目的として以下の意義が挙げられている。第一に、ガイドライン利用者との関係である。ガイドライン利用者に指針を提示するべく、二〇一〇年ガイドラインには、一九九二年以降の競争当局の実務を反映させることが挙げられている。第二に、裁判所との関係である。裁判所に対しても、水平合併への反トラスト法の解釈・適用の適切なフレームワークを提示することが必要であるとされている。 競争当局は、改定目的について、ひとつめに競争当局による運用とガイドラインの記述との乖離を調整すること、ふたつめに一九九二年の改定以降一八年間に展開された経済的知見を反映することを挙げていた。見直し作業には、カリフォルニア大学バークレー校教授である

Sh ap iro

F ar re ll

とが参加し、改定チームの主要メンバーとなった。司法省 一二一二

(22)

同志社法学 六三巻二号三四五(     の次長である

Sh ap iro

は司法省のチーフエコノミストとして、連邦取引委員会の経済局長である

F ar re ll

は連邦取引委員会のチーフエコノミストとなり今回の改定作業に関わった。

Sh ap iro

は、ガイドライン公表後のスピーチで、ガイドラインは以下の者に向けて書いたものであるとの認識を示している ₅₄

。第一に、ビジネスコミュニティなど反トラスト法の利用者に対して、分析テクニック、エンフォースメントポリシー等を提示しているとする。一九九二年以降の競争当局による実務を、二〇一〇年ガイドラインに反映させているとする。第二に、裁判所に対しても水平合併について反トラスト法の解釈・適用の適切なフレームワークを提示しているとする。競争当局による評価方法のみならず、当該方法を用いる理由についても提示しているとする。第三に、競争当局がスタッフに対して、実務の反映という側面だけではなく、スタッフの指針となるような恒久的なフレームワークを提示しているとする。また、他国との競争法との収斂についても意識しているとする。

第一節 目的および視点 二〇一〇年ガイドラインでは、反競争効果に着目して水平合併分析を行うことが重要視されている。反競争効果分析のために、市場画定や市場シェア・集中の考慮が必要とされるというスタンスになった。それゆえ、個々の水平合併における事実、考慮要因がより一層重要な意味を持つようになった。それは、二〇一〇年ガイドライン§2に反競争効果に関する証拠についての章が設けられたことからも伺える。 二〇一〇年ガイドラインで反競争効果に着目することが重要であるとされたことにより、一九九二年ガイドラインで示された分析方法とは異なる分析方法が提示され(後掲第二節参照)、水平合併審査における市場画定の位置づけも変化し(後掲第三節参照)、市場シェア・集中の取り扱いについても変化がみられることとなった(後掲第四節参照)。こ

一二一三

(23)

(    同志社法学 六三巻二号三四六

れらについては後述する。

第二節 分析枠組み 一九九二年ガイドラインでは、五段階の分析方法が提示され、それに対応した形でガイドラインが構成されていた。しかし、二〇一〇年ガイドラインでは、市場支配力や市場集中に焦点を当てて競争効果を重視する統合(

in te gr at ed

)アプローチと呼ばれる方法がとられるようになった。統合アプローチのもとでは、市場画定を行うことなく反競争効果が評価されうる場合が生じることになった。この点については、第三節で詳述する。また、統合アプローチのもとでは、効率性の考慮は、競争当局による合併審査の競争上の効果や市場画定のあとになされるのではなく、同時になされることになる ₅₅

。 以前から、競争当局と裁判所は一九九二年ガイドラインが示す五段階の分析方法を放棄し、統合アプローチを用いているとの指摘がなされていた ₅₆

。また、二〇〇六年に競争当局が公表したコメンタリーにおいても、競争当局は実際には一九九二年ガイドラインを段階的に適用してはいないとの指摘があった ₅₇

。二〇一〇年ガイドラインの分析枠組みの変更の箇所については、競争当局の実務を反映させたものと評価されうる。 他方、一九九二年ガイドラインで提示されていた五段階分析、およびそれに対応したガイドラインの構成については、﹁どういう調査・分析方法を用いて最終判断に至るのかを示す﹃ロードマップ﹄が作成・公表﹂されているといわれていた ₅(

。今回の改定にあたっては、水平合併分析の五段階のうちの特定の段階でセーフハーバーを設けることができるため、五段階分析を維持すべきであるとの評価もなされた ₅₉

。 二〇一〇年ガイドラインにおける分析枠組みの変更により、必ずしも市場画定というプロセスを経ることなく反競争 一二一四

(24)

同志社法学 六三巻二号三四七(     効果分析が行われうることが明示されたことになる。分析枠組みの変更については、次節以降で検討する市場画定の位置付け、単独効果分析の方法と深く関係している。これらの点については、適宜言及する。

第三節 市場画定 第一節でみたように、水平合併分析は必ずしも五段階分析に沿って行われるものではないことが二〇一〇年ガイドラインで示された。二〇一〇年ガイドラインにより、市場画定を経ることなく反競争効果が認定されうる場面が生じうることが競争当局により示された。そこで、市場画定の意味・位置づけについて再考する必要が生じた。以下ではそのような変更に至った経緯、二〇一〇年ガイドライン公表前後の重要事例について検討する。

(一) 経緯 第二章第一節で紹介したように、

D u P on t

事件および

B ro w n Sh oe

事件では、クレイトン法七条違反を立証するためには市場画定が必要とされることが示された。これらの最高裁判決をもとに、現在までの判例法が形成されてきた。 一九九二年ガイドラインにおいても、判例法同様の考え方が示され、市場画定は水平合併分析の第一段階、すなわち出発点としての位置づけがなされていた。しかし、近年、競争当局は、反競争効果が直接的に立証される場合にまで市場画定を行う必要はなく、合併分析において必ずしも市場画定に拘る必要はないとのスタンスをとるようになっている ₆₀

。そのようなスタンスがとられた一因としては、以下(二)で検討するケースがあると考えられる。

一二一五

(25)

(    同志社法学 六三巻二号三四八

(二) 市場画定の限界

―Oracle

事件、

Whole Food

事件

 実際に、競争当局が市場画定の立証に失敗したために反競争効果を生じさせているとされる合併を阻止することができない事例が生じていた ₆₁

。その裁判例として、

O ra cle

による

P eo ple so ft

の買収 ₆(

W ho le F oo ds

による

W ild O at s

の買収 ₆₃

がある。以下では、各事例を紹介する。

①  O ra cle 事 件

 米国における有力な大型事務用品小売チェーンであった

O ra cle

による競合チェーンの

P eo ple so ft

の買収も、原告である司法省が市場画定の立証に失敗したために敗訴となった事例である。本件では、原告が、①関連市場および地理的市場、②関連市場および地理的市場において本件買収が競争を実質的に減少させる効果をもたらすおそれがあること、について立証しなければならないところ、立証できていないと判断された。①については、以下のように判断された。原告はアウトソーシング、中間市場のベンダーが関連市場に含められないということについて立証できていない。そのうえ、原告は、地理的範囲が米国だけに限定されることを証明しなかった。したがって、原告はクレイトン法七条に基づく分析のための関連市場の立証責任を果たしていない。そのため、本件取得により、適切に画定された製品市場および地理的市場において、

P hil ad elp hia N at io na l B an k

事件における違法推定原則を適用するのに十分な市場シェアを

O ra cle

が持つことを原告は立証できていない。②については以下のように判断された。原告は本件買収後の

O ra cle

SA P

(本件で問題視された、企業にむけたリソースプラニング用のソフトウエアを製造するドイツの会社。当該製品を作るのは

O ra cle

P eo ple so ft

SA P

の三社であった)が顧客又は市場を分割することによって暗黙のうちに協調するという、反競争的な協調効果の立証をしなかった。また、原告は、本件買収の結果として減殺されうるであろう 一二一六

参照

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