在タイ日系企業における管理会計システム
著者 中川 優
雑誌名 同志社商学
巻 63
号 4
ページ 253‑279
発行年 2012‑01‑25
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012852
在タイ日系企業における管理会計システム
中 川 優
Ⅰ はじめに
Ⅱ 意思決定の現地化
Ⅲ 仮説の検証
Ⅳ 在外日系企業における研究開発
Ⅴ 研究開発に関するアンケート調査に基づく実証
Ⅵ 追加的な分析:日本本社の影響力
Ⅶ 在外日系企業におけるマネジメント・コントロールに関する先行研究
Ⅷ 仮説の構築
Ⅸ 分析結果
Ⅹ 結果の解釈と考察
Ⅺ むすびにかえて
Ⅰ は じ め に
筆者は,かつてタイに所在する日系企業における管理会計システムに関する実態調査 を実施した。その成果は,拙著およびその他の論文において公表しているとおりであ
1
る。しかし,統計的な処理がやや不完全な点があったため,本稿では,同じデータを用 いて,異なった統計処理を行うことにより,これまでに得られた結論について,新たな 解釈を加えようというものである。データがやや古いため,必ずしも現在の状況を反映 したものではないが,何らかの示唆が得られるものと考える。
Ⅱ 意思決定の現地化
在外日系企業における経営の現地化については,様々な要因が関係していると思われ るが,その中でも「経過年数」(時間)について検証を行うこととする。安保教授の提 唱した「ハイブリッド・モデル」においては,マネジメントのサブシステムにおいて,
時間の経過とともに日本的なシステムの適用が起こるものと現地式のシステムへの適応 が進むものが並存しているという事実を明らかにした。
このように時間の経過によりマネジメント・システムが変化するという事実をさらに 深く検証する必要があると考える。
────────────
1 中川[2004],中川[1999−a],[1999−b]など
(253)17
また,安保[1997]においては,在米企業における適用度および適応度の
4
年間の変 化について検討されているが,さらに在欧日系企業および在アジア日系企業との比較も 行われている。さて,ハイブリッドモデルが想定しているような現象を確認する手がかりとして,ま ず,はじめに現地化の中でも特に「人の現地化」について検討する。
「人の現地化」は,日本企業にとっての長年の課題であると言われている。従来から
「未熟な国際化」として指摘されてきたように,日系企業は長年にわたって日本人が現 地法人のトップの位置を占めてきた。しかしながら,現地において経営を展開して上で いつまでも日本人がマネジメントの主要な位置を独占して,日本本社の方を見て現地経 営を行うというスタイルを維持できないようになってきていると言われている。
すなわち,人事管理の面からは,現地人の採用は現地人マネジャーの方が現地人の特 性や採用活動などの面で,日本人よりも有利であると思われる。したがって,人事関係 の現地化が他の職能の現地化よりもいち早く進展してきた。
さらに,現地の市場ニーズの把握,原材料の現地調達などの活動もやはり日本人より も,現地の事情に詳しい現地人のほうが望ましい。また,いつまでもトップ・マネジメ ントを日本人だけが占めていると,優秀な現地人スタッフが日系企業ではトップになれ ないことがわかって,スピンオフしてしまい優秀な人材の確保が難しくなることも考え られる。
その一方,日本本社の立場からは,本社の戦略と海外子会社の戦略との整合性が必要 となる。このため,特に日系企業においては,日本本社とのコミュニケーションが重視 されるため,現地人をトップに据えることについては,適切な人材の確保が困難なため に見送られている傾向がある。したがって,トップは日本人のままであったとしても,
職位が下位になるにしたがって現地人の比率は高くなることが考えられる。
仮説
1:経過年数の長い企業は,現地化が進んでいる。
この仮説をさらに具体的なレベルに落とし込むと以下のようになる。
仮説
1−1:経過年数の長い企業は,人の現地化が進んでいる。
仮説
1−2:経過年数の長い企業は,意思決定の現地化が進んでいる。
Ⅲ 仮説の検証
1.データの収集
分析に使用したデータは,郵送質問票により収集した。質問票は,1998年
3
月中旬 にタイに所在する日系企業(製造業)約200
社に対して送付された。調査対象の選定同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
18(254)
は,バンコク日本人商工会議所発行の「会員名簿」の中から製造業のうち,タイへの進 出業種の主要産業である電気,機械,化学を中心とする業種とした。これは,1997年 夏のタイ・バーツの暴落を契機とした一連の経済危機の影響が最も深刻である,と考え られた輸送用機器(特に自動車)は,意図的に調査対象からはずしている。そして,調 査対象として
200
社を選定した。しかし,調査対象の中に製造活動を行っていないも の,また転居先不明で返送されてきたもの等があったため,調査対象の母数は190
社と なった。質問票は
1998
年4
月末日を回収期限としていたが,回収状況が悪かったため督促を 行い,54社からの有効回答を得たが,そのうち1
社はタイで製造を行っておらず,ま た,別の1
社は日本に本社を持たず現地で日本人が設立した会社であったため,対象か ら除くこととした。したがって,有効回答会社数は52
社ということになった。回収率 は約28% であった。
2.回答企業の概要
回答企業に関する企業の基礎データは,第
1
表のとおりである。また,回答企業の業 種ごとの数および構成比は第2
表のとおりである。なお,調査時点である1998
年3
月 は,1997年夏に起こったタイの通貨危機の影響が大きいと思われた業種(輸送用機器)を調査対象から除いたために,若干の業種の偏りが存在するが,タイに進出している製 造業の主要な業種はカバーできていると思われ
2
る。
仮説の検証に入る前に,現地化に関して経過年数以外の要因が関係していないかを確 認する必要がある。仮に,該当する変数が確認された場合には,その変数の影響をコン トロールする必要が生じるからである。
そこで,企業規模と現地化に関する相関を確認した。企業規模に関する変数として,
資本金,従業員数,売上高等の変数を選択し,現地化に関わる変数として,人の現地化 および意思決定の現地化に関する変数を選択した。この結果,従業員数と現地化に関す
────────────
2 日本貿易振興会が1996年11月から1997年1月にかけて行ったアンケート調査においては,回答企業 の業種で多い順に,電子・電気機器,輸送用機器,金属製品,化学・医薬品,繊維となっている。
第1表 回答企業の概要
資本金 従業員数 日本人従業員数
平均値 239,564.2バーツ 711.4人 8.63人
標準偏差 295,157.9 763.24 8.39
最大値 1,300,000バーツ 3,400 48
最小値 8,000バーツ 35 1
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (255)19
る変数において,一部有意な相関関係が確認 された。このため,従業員数をコントロール 変数として組み入れることとした。
また,経過年数との相関が確認されたものとして,国内出荷比率がある。第
3
表に示 されているように,経過年数と,国内出荷比率の間には,5% 水準で有意な相関関係が 確認された。そこで,従業員数に加えて,国内出荷比率もコントロール変数に加えて分析を行う。
まず,仮説
1
について,ぞれぞれ検証してみよう。社長については,日本人,現地人,その他という選択肢しかないので,0=日本人,1
=現地人およびその他というダミー変数を与えた。副社長および部長に関しては,それ
ぞれ
1=すべて日本人,7=すべて現地人という 7
ポイントスケールで質問しているので,7ポイントのスコアをそのまま利用した。経過年数については,操業開始年数から アンケート回収時点までの経過年数をそのまま利用した。経過年数は実際の年数であ り,社長国籍については,0と
1
で日本人と日本人以外というダミー変数を与えて相関 係数を求めた。人の現地化に関しては,第
4
表に示されているように在タイ企業においては,副社長 レベルを除いて,経過年数の長い企業ほど,社長に関しては現地人,部長レベルにおい ては,現地人の比率が高くなる傾向が実証されている。在タイ日系企業における経過年数と計画に関する意思決定についての分析結果につい
第2表 回答企業の産業分布 業種 回答数 構成比
食品 0 0.0%
製紙 0 0.0%
ガラス・ゴム窯業 1 1.9%
機械 11 21.2%
化学 12 23.1%
輸送用機器 1 1.9%
鉄鋼・金属 2 3.8%
精密機械 2 3.8%
電機電子 21 40.4%
その他 2 3.8%
合計 52 100.0%
第3表 経過年数と国内出荷比率の相関 相関係数
経過年数 出荷先国内
経過年数 Pearsonの相関係数
有意確率(両側)
N
1 49
.346**
.016 48 出荷先国内 Pearsonの相関係数
有意確率(両側)
N
.346*
.016 48
1 51
**=5% 以下水準で有意
第4表 在タイ企業における経過年数と人の現地化 相関係数
制御変数 経過年数 社長国籍 副社長国籍 部長国籍
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.507***
.002 33
.192 .270 33
.358**
.035 33
***=1% 以下水準で有意
**=5% 以下水準で有意
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
20(256)
ては,第
5
表のとおりである。ここでは,長期計画,短期利益計画,新製品開発計画の
3
つの計画機能が,日本本社 によりどの程度調整されるのかについての質問に基づいて分析を行っている。1=全く 調整されない,7=ほとんど調整される,の7
ポイントスケールで質問している。した がって,スコアが小さいほど計画機能に関する意思決定の現地化がなされているという ことになる。第
5
表の結果からは,在タイ企業において経過年数と計画機能に関する意思決定の現 地化に関して,相関関係は確認できない。しかし,長期経営計画,短期利益計画,新製 品開発計画の相互の間に関しては,強い相関関係が見られる。次に,販売活動について,経過年数との関係を地域ごとに検証することとする。
まず,経過年数と販売に関する意思決定の現地化についてである。販売に関する意思決 定は,販売価格の決定と販売先の決定であり,いずれも
1=すべて日本本社で決定,7
=すべて現地法人で決定の
7
ポイントスケールで質問をしている。したがって,スコア が大きいほど決定の現地化が進んでいるということになる。経過年数とこれらの意思決定との相関関係についての分析は,第
6
表のとおりであ る。第
6
表の結果からは,在タイ企業においては,経過年数と販売先の決定および販売価 格の決定については,有意な相関関係は認められなかった。しかし,販売先の決定と販 売価格の決定には強い相関が確認された。このことは,販売先の決定が現地されていれ ば,販売価格の決定も現地化されているという結果になる。次に,製品企画,基本設計,詳細設計という上流工程の意思決定の現地化と経過年数 の関係を検証することにする。ここでは,それぞれの決定について
1=すべて日本本社
で決定,7=すべて現地法人で決定の7
ポイントスケールで回答するように,質問して第5表 経過年数と計画機能の相関 相関係数
制御変数 経過年数 長期計画 短期計画 開発計画
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.188 .240 39
.178 .265 39
.187 .242 39 長期計画 相関
有意確率(両側)
df
.188 .240 39
1.000 0
.689 .000 39
.428 .005 39 短期計画 相関
有意確率(両側)
df
.178 .265 39
.689 .000 39
1.000 0
.459 .003 39 開発計画 相関
有意確率(両側)
df
.187 .242 39
.428 .005 39
.459 .003 39
1.000 0 在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (257)21
いる。したがって,スコアの大きいほど現地化が進展していることになる。検証の結果 は,第
7
表のとおりである。第
7
表の結果からは,経過年数と開発・設計機能の現地化との間には,有意な相関関 係は確認できなかった。その一方で,製品企画,基本設計,詳細設計の相互間の相関 は,非常に強いことが明らかとなった。これも販売関連の意思決定と同様に,それぞれ の職能に関してすべて現地化している企業とすべて現地化していない企業とに分かれて いる可能性がある。Ⅳ 在外日系企業における研究開発
1.研究開発と現地化
研究開発活動は,日系企業において意思決定の現地化が最も遅れた部分であると言わ れている。これは,在外日系企業は,操業開始当初から製品開発から生産までを一貫し て行うことは稀である。したがって,当初は原材料・部品を日本から輸入して組立のみ
第6表 経過年数と販売関連の意思決定 相関係数
制御変数 経過年数 販売先決定 販売価格決定
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.026 .866 42
.165 .286 42 販売先決定 相関
有意確率(両側)
df
.026 .866 42
1.000 0
.613 .000 42 販売価格決
定
相関
有意確率(両側)
df
.165 .286 42
.613 .000 42
1.000 0
第7表 経過年数と開発・設計関連の現地化 相関係数
制御変数 経過年数 製品企画 基本設計 詳細設計
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.164 .299 40
.167 .291 40
.137 .388 40 製品企画 相関
有意確率(両側)
df
.164 .299 40
1.000 0
.708 .000 40
.547 .000 40 基本設計 相関
有意確率(両側)
df
.167 .291 40
.708 .000 40
1.000 0
.790 .000 40 詳細設計 相関
有意確率(両側)
df
.137 .388 40
.547 .000 40
.790 .000 40
1.000 0 同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
22(258)
を行う「ノックダウン方式」から,次第に現地における部品調達を拡大していくという のが一般的である。このように川下から川上へと現地法人の業務が拡大するにつれて,
意思決定の現地化も拡大するというのがよく見られる,現地生産および意思決定の現地 化のプロセスである。
このような現状を考えると研究開発の現地化が最も遅くなるというのは,合理性があ る。しかし,理想的には,現地市場のニーズを把握して,そのニーズに適合した製品を 開発するためには,やはり現地法人に研究開発の機能を持たせるべきである。特に欧米 のように市場が洗練化,成熟化した地域ではなおさらである。
しかし,日系企業の場合には,以下の理由により研究開発の現地化が進まないと考え られる。1つは研究開発拠点が分散することによる非効率性である。研究開発拠点を進 出国別に持つことは,世界的に見れば研究開発機能の重複となる。もちろん,製品供給 地の近くで研究開発を行えば,市場のニーズに適合した製品開発を行いやすいというメ リットもあるが,現状ではこのメリットよりも重複のコストが大きいと考えていると思 われる。2つ目には,各国別にあるいは地域別に製品が開発されることにより,日本企 業としての製品コンセプトが希薄になるということである。世界的なブランドイメージ 戦略を考えたときに,あまりにもローカルな市場にニーズに重点を置きすぎると,企業 全体とした製品イメージが拡散するという可能性がある。3つ目は日本企業の行動が本 社中心主義であるということである。「未熟な国際化」という指摘がなされて久しい が,依然として現地法人への意思決定権限の委譲が進んでいないという指摘がある。
このような状況から,研究開発のコアの部分を日本本社で行い,詳細設計などの下流 工程を現地で行うという「棲み分け」が多くの日系企業で行われている。特に情報ネッ トワーク技術の進展により,CADなどの設計データを現地法人と日本本社間でやりと りすることで,このような役割分担がより効率的に行える環境が整備されてきたとも言 える。このような棲み分けは,本社主導の研究開発と現地の市場ニーズの把握という両 方のメリットを生かそうという考え方に基づいていると言える。
2.研究開発費とロイヤルティ
前項で述べたように在外日系企業における研究開発活動が限定的であるならば,現地 法人における研究開発費の支出も限定的となる。その場合,研究開発活動は,日本本社 が現地法人に代わって行うということになる。したがって,日本本社としてはこの日本 における研究開発活動についての費用負担を求めることになる。これが現地法人から本 社に対して支払われるロイヤルティである。ロイヤルティは,研究開発費を含む本社費 の配賦分,技術指導料等の形態で現地法人から本社へに対して支払われる。もちろん,
かつては,このロイヤルティが過剰に積算されて現地法人から本社への利益移転と見な
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (259)23
されていたが,移転価格税制の整備によりこのような形態で利益移転は不可能になって いる。
したがって,現地における研究開発機能があまりないすなわち,研究開発費の支出の 少ない現地法人ほどロイヤルティを多く支払っていると考えられる。このように現地法 人における研究開発費の支出とロイヤルティの支払いについてはトレードオフの関係が 存在すると考えられる。
Ⅴ 研究開発に関するアンケート調査に基づく実証
前節で検討した研究開発について検証するために,以下の仮説を構築して,その検証 を行うこととする。
仮説
2:経過年数の長い企業ほど研究開発職能が現地化している。
研究開発機能の移転が現地法人にとっては最も困難である。しかし,市場ニーズを反 映した製品の開発やローカルコンテンツ規制のクリアを考慮すれば,研究開発機能をあ る程度現地法人は持つ必要性がある。そこで,現地における操業年数が長くなるにつれ て,研究開発機能が現地法人に移転されると考えられる。また,研究開発職能が現地に 移転されるにつれて,現地法人における研究開発費の支出の割合が高くなると考えられ る。ただし,研究開発機能を現地化することに対する要請は,地域ごとに異なることが 推察される。
仮説
3:研究開発費の支出の多い企業ほどロイヤルティの支払いが少ない。
研究開発費とロイヤルティの支払いの間に前述のようなトレードオフの関係が存在す るならば,研究開発費とロイヤルティは代替的な関係が存在する。このため,研究開発 費の支出が多いほど,ロイヤルティが少なくなることが考えられる。
仮説の検証は,研究開発活動の裏付けとして,売上高に対する研究開発費の比率を代 理変数として検証を行うこととする。日本本社に対してロイヤルティを支払っている場 合には,売上高に対するロイヤルティの比率を回答するようになっているので,このデ ータをそのまま利用した。
結果は,第
8
表のとおりである。第
8
表の結果からは,経過年数と研究開発費の比率には,有意な相関関係は確認でき なかった。また,研究開発費とロイヤルティの間にはトレードオフの関係はみられな い。同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
24(260)
Ⅵ 追加的な分析:日本本社の影響力
これまで行った分析の結果からは,仮説
1
は,人の現地化を除いて支持されなかっ た。また,仮説2
および3
についても仮説は支持されなかった。そこで,今までの分析 結果からは,人の現地化を除いて,それぞれの職能について,例えば,長期経営計画の 現地化の程度と,短期利益計画および新製品開発計画の現地化の程度との相関は高くな っている。この現象は,販売先の決定と販売価格の決定,製品開発職能においても見ら れる。このような結果から考えると,現地化の程度の高い企業は,すべての職能にわたって 現地化がなされており,逆に現地化の程度の低い企業は,すべての職能にわたって現地 化の程度が低いということになる。
そこで,計画機能における日本本社の関与の程度,具体的には先ほど分析を行った結 果からは,長期経営計画,短期利益計画,新製品開発計画が,日本本社によって調整さ れる程度,すなわち調整の程度が高いということは,日本本社による現地法人に対する 影響力が強く,調整の程度が低いということは,日本本社による現地法人に対する影響 力が弱いということになる。
したがって,日本本社の影響力によりすべての職能の現地が影響を受けているのかと いうことについて,追加的な検証を行うことにする。
まず,長期経営計画,短期利益計画,新製品開発計画の
3
つの計画機能についてのス コアを合計して合成変数を作り,これを影響力と名づけて,この影響力とその他の職能 について相関の程度を検証することとす3
る。ただし,影響力の変数は,国内出荷比率と
────────────
3 合成変数を作成した時に,合成変数としての妥当性を検証するためにクローンバックのα 値を求め た。結果は,0.8625であった。信頼性の基準と言われている0.7を上回っているので,合成変数として の影響力変数には信頼性があると考えられる。
第8表 在タイ企業における経過年数と研究開発 相関係数
制御変数 経過年数 研究開発費比率 ロイヤリティ比率
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.280 .128 29
.118 .529 29 研究開発費
比率
相関
有意確率(両側)
df
.280 .128 29
1.000 0
−.024 .898 29 ロイヤリテ
ィ比率
相関
有意確率(両側)
df
.118 .529 29
−.024 .898 29
1.000 0
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (261)25
強い相関関係が確認されたた
4
め,国内出荷比率をコントロール変数として,偏相関係数 を求めた。結果は第
9
表〜12表のとおりである。第
9
表からもわかるように,日本本社の影響力と人の現地化に関しては,社長,副社 長クラス,部長クラスのいずれにおいても,有意な相関関係は確認されなかった。第
10
表からも明らかなように,日本本社の影響力と販売関連の意思決定のとの間に は,有意な負の相関関係が存在する。したがって,日本本社の影響力が大きいほど,販────────────
4 相関係数=−0.641, p=0.00
第10表 影響力と販売関連の意思決定 相関係数
制御変数 影響合成 販売先決定 販売価格決定
出荷先国内 影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.514***
.000 47
−.438***
.002 47 販売先決定 相関
有意確率(両側)
df
−.514 .000 47
1.000 0
.612 .000 47 販売価格決
定
相関
有意確率(両側)
df
−.438 .002 47
.612 .000 47
1.000 0
***=1% 以下水準で有意
第9表 影響力と人の現地化 相関係数
制御変数 影響合成 社長国籍 副社長国籍 部長国籍
出荷先国内 影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.098 .547 38
.022 .893 38
.044 .788 38
第11表 日本本社の影響力と製品開発関連の意思決定 相関係数
制御変数 影響合成 製品企画 基本設計 詳細設計
出荷先国内 影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.436***
.002 45
−.320**
.028 45
−.205 .168 45
***=1% 以下水準で有意
**=5% 以下水準で有意
第12表 影響力と研究開発費・ロイヤルティ 相関係数
制御変数 影響合成 研究開発費比率 ロイヤリティ比率
出荷先国内 影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.071 .688 32
−.125 .482 32 同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
26(262)
売関連の意思決定が現地化されていないことが明らかとなった。
第
11
表からは,製品企画と基本設計の現地化と日本本社の影響力の間に有意な負の 相関関係が確認された。第
12
表からは,日本本社の影響力と研究開発費率およびロイヤルティ比率との間に 有意な相関関係は確認されなかった。以上の結果から判断すると,人の現地化および研究開発費関連を除いて,日本本社の 影響力が意思決定の現地化に関係していることが,検証することができた。
Ⅶ 在外日系企業におけるマネジメント・
コントロールに関する先行研究
日本企業の海外進出に伴う経営の現地化および,日本本社における海外の子会社管理 におけるマネジメント・コントロール・システムに関する研究は,これまで郵送質問票 調査等による大量サンプル調査に基づく研究がなされてきた。李[1996]および李
[1998]では,経営環境・戦略が本社の海外子会社管理に及ぼす影響を,主としてマネ ジメント・コントロール・システムに注目して,実証研究をおこなっている。この中で 特に注目されるのは,日本本社と海外子会社との間で知識や情報の移転について考察し ている点である。これらの論文では日本本社の海外子会社管理の戦略が,海外子会社と 日本本社との間での知識移転に影響を与えることを,日本本社に対して行った郵送質問 票調査に基づく実証データにより明らかにしてい
5
る。
また,岩淵[1995]では,実証データに基づいて,日本本社と海外子会社の関係につ いて,資源依存モデルを援用して仮説の検証を行っている。ここでは,海外子会社が日 本本社への資源依存度が大きいほど,意思決定プロセスにおける本社の影響度が強くな ることを検証している。
本稿では,これらの先行研究のアプローチを踏まえた上で,子会社のマネジメント・
コントロール・システムの現地への適応について考察する。
すなわち,先行研究においては,現地子会社におけるマネジメント・コントロール・
システムの現地適応の問題を,日本の親会社の戦略や子会社管理の方法との関係で捉え たフレームワークで実証研究等が行われてきた。もちろん,これらの視点が重要である ことは言うまでもない。在外子会社における現地化の進展やマネジメント・コントロー ル・システムの設計に際して,上記の要因は非常に大きな位置を占めるからである。
これに対して,本稿においては,むしろ海外子会社の現地環境に対する環境適応およ び,日本型マネジメント・コントロールの適用という視点を中心にして分析を行う。
────────────
5 李[1998]を参照されたい。
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (263)27
したがって,本稿では日系の在外子会社に対して郵送質問票を送付して,在外子会社 の側から見た現地におけるマネジメント・コントロールの問題を明らかにしようとする ものである。従来,現地子会社と日本本社との間に認知のギャップが存在すると言われ ているが,もしそれが事実であるならば,在外子会社の視点からこのような問題を理解 しようとすることに意味を見出すことができると考えられる。ただし,在外子会社のマ ネジメント・コントロールの問題は,非常に多くの要因が複雑に関係しており,これら すべてを網羅して理論の構築を行い,さらにそれらの関係に関する仮説を網羅的に考案 し,その妥当性を検証するということは,現時点では若干の困難が生じるものと思われ る。
しかし,すでに指摘したように先行研究がある程度蓄積されており,マネジメント・
コントロール・システムに関わる仮説に関してもについて,その妥当性を検証する。
Ⅷ 仮説の構築
1.予算管理と現地化
予算には,計画(planning)調整(coordination),統制(control)という
3
つの役割が ある。予算管理システムに日本本社がどの程度関与するのかという問題は,これらの役 割ごとに考えられる。まず,予算の計画機能に対しては,予算編成方針や予算案の決定 に日本本社がどれだけコミットするのかという問題である。経過年数と現地化との間には,現地への環境適応という視点から,ある程度の相関関 係が存在することが考えられる。しかし,予算は日本本社にとって,海外子会社を財務 的にコントロールする有力な手法であるので,販売活動や製品開発活動のように意思決 定の現地化が進まない可能性もある。したがって,この仮説が妥当するのかどうかを確 認する必要がある。
上記の仮説を具体的なレベルで検証するために,以下のサブ仮説を設定する。
仮説
4:経過年数により,予算管理システムに変化が生じる。
仮説
4−1:予算編成方針に対する日本本社の関与は,経過年数とともに弱くなる。
仮説
4−2:予算編成日数は,経過年数とともに短くなる。
仮説
4−3:予算差異分析の利用度は,経過年数により異なる。
予算編成方針は,日本本社が在外子会社の予算編成についてダイレクトに関与する手 段として用いられる可能性が高いので,予算編成方針の策定に対してどの程度日本本社 が関与するのかを認識することで,予算管理プロセスに対する日本本社の関与を測定す
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
28(264)
ることが可能である。さらに,予算編成日数は,日本本社による予算編成プロセスに対 する関与の程度が高いほど,日本本社によるレビュー,調整等により予算編成に時間が かかると考えられる。そこで,日本本社による予算編成プロセスに対する関与の程度が 低くなれば,予算編成日数も短くなると考えることができる。
ただし,予算編成日数には企業規模も影響を与えると考えられるので,企業規模の影 響も確認する必要がある。
予算差異分析は,予算管理プロセスにおいて次期へのフィードバックあるいは,原価 管理等に対する注意喚起情報として用いられ
6
る,マネジメント・コントロール・システ ムの典型的なシステムと言えよう。経過年数により予算差異分析の利用度が異なるとす れば,経過年数によるマネジメント・コントロール・システムの適用または適応が,起 こっている可能性がある。そこで,経過年数と予算差異分析の利用度に関する仮説
4−3
が導出される。2.業績評価システム
業績評価システムは,存外子会社にとって重要性の高い問題である。それは,日本と の違いが大きいとされてきたからである。そこで以下の仮説を設定する。
仮説
5:業績と報酬のリンクの程度は,経過年数により異なる。
業績と報酬の関係は,マネジメント・コントロール・システムの中核をなす,業績評 価システムに関わるものである。従来から,業績と報酬のリンクが弱いシステムは日本 型であり,業績と報酬のリンクが強いシステムが欧米型とされてきた。これらのシステ ムは,最近その差が縮まる傾向が見られていると指摘されている。しかし,経過年数に よりこれらの関係に変化が見られるとすれば,日本型システムの適用または,欧米式へ の適応が起こっていることになる。これを検証するのが仮説
5
である。3.輸出比率と日本的マネジメント
在タイ企業の場合には,輸出比率と日本的マネジメントの適用に関連があることが,
過去の実証研究において指摘されている。そこで,予算管理システムにおいても同様の 現象が起こっているのかを,以下のような仮説を構築して,輸出比率と日本的マネジメ ントの適用との関連性について検討する。
仮説
6:在タイ企業において輸出比率の高い企業ほど日本的マネジメントの適用度
が高い。
────────────
6 浅田[1993]p.172−173.
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (265)29
この仮説をマネジメント・コントロール・システムのレベルで検証するために,以下 のサブ仮説を構築して,これらを検証することとする。
仮説
6−1:輸出比率が高いほど,予算編成方針に対する日本本社の影響力が高い。
仮説
6−2:輸出比率が高いほど,予算編成日数が長くなる。
仮説
6−3:輸出比率により,差異分析の利用度が異なる。
仮説
6−1, 6−2
は,輸出比率の高い企業ほど予算編成プロセスに対する日本本社の影響力が高くなるということを示している。輸出比率の高い企業は,労務費などを理由と して,現地に生産を移管しており,日本国内と同じ品質の製品をより低いコストで作る ことを目的としている。そのため,できるかぎり日本国内と同じようなマネジメント・
システムを現地においても導入したいと考えている。したがって,予算に関する日本本 社の関与の程度も高くなると思われる。さらに,予算差異分析に関しても,日本と同様 なシステムが構築されていると考えられる。このため,国内市場志向型の企業と輸出志 向型の企業では,予算差異分析の利用度が異なると思われる。
4.日本本社の影響力とマネジメント・コントロール
経過年数や輸出比率が影響与える可能性があると同時に,マネジメントにおける検証 に関しても,日本本社の影響力が現地のマネジメントに何らかの影響与えていることが 確認された。そこでマネジメント・コントロールに関しても同様の仮説を構築する。
仮説
7:日本本社の影響力は,現地子会社のマネジメント・コントロール・システ
ムに影響を与える。
この仮説をマネジメント・コントロール・システムのレベルで検証するために,以下 のサブ仮説を構築して,これらを検証することとする。
仮説
7−1:計画機能に関する日本本社の影響力が高いほど,予算編成方針に対する
日本本社の影響力が高い。
仮説
7−2:計画機能に関する日本本社の影響力が高いほどが高いほど,予算編成日
数が長くなる。
仮説
7−3:計画機能に関する日本本社の影響力により,差異分析の利用度が異な
る。
Ⅸ 分 析 結 果
予算編成方針および編成日数に関する分析結果は,第
13
表〜第14
表のとおりであ る。同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
30(266)
予算編成方針については,1=日本本社が強く関与,7=全く関与しないという
7
ポイ ントスケールで回答するようになっているので,スコアが大きいほど日本本社の関与が 弱いことになる。予算編成日数は,実際に編成にかかった日数で回答するようになって いる。第
13
表〜第14
表の結果からは,経過年数と予算編成方針に対する日本本社の影響 力,および予算編成日数との相関関係は,確認できなかった。第
15
表は,経過年数と差異分析の目的(問題点の発見,次期の計画の改善,直接費 の管理,間接費の管理,職長の業績評価)に対する利用度(1=全く利用しない,7=非 常によく利用する)との相関を求めた結果である。結果からは,経過年数と予算差異分 析の利用度との間には,有意な相関関係は確認されなかった。次に,経過年数と業績と報酬のリンクに関する分析結果は,第
16
表のとおりであ る。部門長,職長の業績評価については,1=全く反映しない,7=非常に強く反映すると いう
7
ポイントスコアで質問をしているため,スコアの大きいほど業績と報酬のリンク の程度が強いということになる。第
16
表の結果からは,経過年数と部門長の業績評価については,有意水準がわずかに
10% を上回っており,相関関係が確認できないが,経過年数と職長の業績評価との
間では,5% 水準で有意な相関関係が認められた。在タイ企業においては,経過年数の 長い企業ほど,職長クラスにおいて業績と報酬のリンクの程度が強いということにな る。
最後は,仮説
6
に関する検証の結果である。仮説6
については,アンケート調査で第13表 予算編成方針への日本本社の関与
制御変数 経過年数 編成方針
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.012 .940 39 編成方針 相関
有意確率(両側)
df
−.012 .940 39
1.000 0
第14表 経過年数と予算編成日数の相関
制御変数 経過年数 編成日数
従業員数&出荷先国内 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.125 .429 40 編成日数 相関
有意確率(両側)
df
.125 .429 40
1.000 0
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (267)31
は,製品の輸出比率は,質問項目には含まれていないが,国内出荷比率が含まれている ので,この国内出荷比率と逆の関係が成立しているのかどうかで,仮説を検証した。結 果は第
17
表〜第19
表のとおりである。第
17
表の結果からは,国内出荷比率が高いほど予算編成方針に関する日本本社の関 与が弱いということが言える(10% 水準で有意)。このことは,逆に言えば輸出比率が 高い企業ほど,予算編成方針に関する日本本社の関与が強いということになる。第
18
表からは,国内出荷比率と部門長および職長における業績と報酬のリンクの程 度には,有意な相関関係は確認できなかった。また,第
19
表からは,国内出荷比率と差異分析の利用目的に関しては,有意な差は第15表 経過年数と差異分析の利用度の相関 相関係数
経過年数 問題点 次期に 利用
直接費 管理
間接費 管理
職長業 績評価 経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.047 .791 32
−.075 .675 32
−.043 .810 32
.075 .674 32
.054 .762 32 問題点 相関
有意確率(両側)
df
.047 .791 32
1.000 0
.557 .001 32
.732 .000 32
.871 .000 32
.501 .003 32 次期に利用 相関
有意確率(両側)
df
−.075 .675 32
.557 .001 32
1.000 0
.644 .000 32
.630 .000 32
.218 .215 32 直接費管理 相関
有意確率(両側)
df
−.043 .810 32
.732 .000 32
.644 .000 32
1.000 0
.862 .000 32
.398 .020 32 間接費管理 相関
有意確率(両側)
df
.075 .674 32
.871 .000 32
.630 .000 32
.862 .000 32
1.000 0
.498 .003 32 職長業績評価 相関
有意確率(両側)
df
.054 .762 32
.501 .003 32
.218 .215 32
.398 .020 32
.498 .003 32
1.000 0
第16表 経過年数と業績・報酬のリンク 相関係数
経過年数 報酬とのリンク 部門長
報酬とのリンク 職長
経過年数 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.253 .106 40
.368***
.016 40 報酬とのリンク
部門長
相関
有意確率(両側)
df
.253 .106 40
1.000 0
.900 .000 40 報酬とのリンク
職長
相関
有意確率(両側)
df
.368***
.016 40
.900 .000 40
1.000 0
***=1% 以下水準で有意
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
32(268)
第18表 国内出荷比率と業績・報酬のリンクの相関 相関係数
制御変数 出荷先国内 報酬とのリンク
部門長
報酬とのリンク 職長 出荷先国内 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.236 .133 40
−.232 .139 40 報酬とのリンク
部門長
相関
有意確率(両側)
df
−.236 .133 40
1.000 0
.903 .000 40 報酬とのリンク
職長
相関
有意確率(両側)
df
−.232 .139 40
.903 .000 40
1.000 0 第17表 国内出荷比率,予算編成方針,予算編成日数の相関
相関係数
制御変数 出荷先国内 編成方針 編成日数
従業員数&経過年数 出荷先国内 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
.281 .075*
39
−.028 .863 39 編成方針 相関
有意確率(両側)
df
.281 .075*
39
1.000 0
−.443 .004 39 編成日数 相関
有意確率(両側)
df
−.028 .863 39
−.443 .004 39
1.000 0
*=10% 以下水準で有意
第19表 国内出荷比率と差異分析の利用度の相関 相関係数
出荷先
国内 問題点 次期に 利用
直接費 管理
間接費 管理
職長業 績評価 出荷先国内 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.147 .408 32
−.241 .170 32
−.157 .376 32
−.127 .474 32
−.199 .259 32 問題点 相関
有意確率(両側)
df
−.147 .408 32
1.000 0
.576 .000 32
.742 .000 32
.874 .000 32
.514 .002 32 次期に利用 相関
有意確率(両側)
df
−.241 .170 32
.576 .000 32
1.000 0
.654 .000 32
.646 .000 32
.260 .137 32 直接費管理 相関
有意確率(両側)
df
−.157 .376 32
.742 .000 32
.654 .000 32
1.000 0
.870 .000 32
.419 .014 32 間接費管理 相関
有意確率(両側)
df
−.127 .474 32
.874 .000 32
.646 .000 32
.870 .000 32
1.000 0
.507 .002 32 職長業績評価 相関
有意確率(両側)
df
−.199 .259 32
.514 .002 32
.260 .137 32
.419 .014 32
.507 .002 32
1.000 0
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (269)33
第20表 影響力と予算編成方針および編成日数 相関係数
制御変数 影響合成 編成方針 編成日数
影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.479***
.002 38
.345**
.029 38
編成方針 相関
有意確率(両側)
df
−.479***
.002 38
1.000 0
−.454 .003 38
編成日数 相関
有意確率(両側)
df
.345**
.029 38
−.454 .003 38
1.000 0
***=1% 以下水準で有意
**=5% 以下水準で有意
第21表 影響力と部門長および職長の業績評価 相関係数
影響合成 報酬とのリンク 部門長
報酬とのリンク 職長
影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.190 .234 39
−.281*
.075 39 報酬とのリンク
部門長
相関
有意確率(両側)
df
−.190 .234 39
1.000 0
.897 .000 39 報酬とのリンク
職長
相関
有意確率(両側)
df
−.281 .075 39
.897 .000 39
1.000 0
*=10% 以下水準で有意
第22表 影響力と予算差異分析の利用度 相関係数
影響合成 問題点 次期に 利用
直接費 管理
間接費 管理
職長業 績評価 影響合成 相関
有意確率(両側)
df
1.000 0
−.018 .919 31
.126 .483 31
.093 .608 31
−.004 .983 31
.043 .810 31 問題点 相関
有意確率(両側)
df
−.018 .919 31
1.000 0
.563 .001 31
.736 .000 31
.871 .000 31
.500 .003 31 次期に利用 相関
有意確率(両側)
df
.126 .483 31
.563 .001 31
1.000 0
.643 .000 31
.639 .000 31
.223 .212 31 直接費管理 相関
有意確率(両側)
df
.093 .608 31
.736 .000 31
.643 .000 31
1.000 0
.868 .000 31
.401 .021 31 間接費管理 相関
有意確率(両側)
df
−.004 .983 31
.871 .000 31
.639 .000 31
.868 .000 31
1.000 0
.496 .003 31 職長業績評価 相関
有意確率(両側)
df
.043 .810 31
.500 .003 31
.223 .212 31
.401 .021 31
.496 .003 31
1.000 0 同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
34(270)
確認できなった。
次に仮説
7
に関する検証結果は,第20
表〜第22
表のとおりである。第
20
表からは,日本本社の計画機能に関する影響力が大きいほど,予算編成方針へ の日本本社の影響力も大きいことが明らかになった(1% 以下水準)。また,日本本社 の計画機能に関する影響力が大きいほど,予算編成日数が長いことも有意な相関関係が 確認された(5% 水準)。また,第
21
表からは,日本本社の影響力と,職長の業績と報酬のリンクに有意な負 の相関関係が確認された(10% 水準)。これは,日本本社の影響力が大きいほど,職長 の業績と報酬のリンクが弱いことを意味する。第
22
表からは,日本本社の影響力と予算差異分析の利用度との間には,有意な相関 関係は,確認できなかった。Ⅹ 結果の解釈と考察
1.仮説 4
に関する検証予算管理システムに関する仮説
4−1,および 4−2
は,いずれも支持されなかった。仮 説の設定の際にも言及したように,予算は,日本本社にとって海外子会社を財務的に管 理,コントロールする有力な手段である。筆者が行っていくつかの企業に対するヒアリ ングにおいて確認したところ,予算の起案自体は在外子会社で行っていて7
も,必ず日本 本社によるレビューが行われており,目標数値等に関して細かい調整が行われているケ ースもあった。そして,日本本社が最終的に承認しないと予算案として認められないと いう事例がほとんどであった。
このようなことから,予算編成方針に対する日本本社の関与は,海外子会社の自律性 に関わらず,ある一定程度留保されている可能性がある。また,海外子会社の業績が不 振の場合には,経過年数に関わらず,日本本社による財務的なコントロールが強化され ることも考えられる。また,経過年数と意思決定の現地化の関係も,すでに検証したよ うにそれほど,明確な関係ではなかったことも影響していると思われる。
経過年数と予算差異分析の利用度に関する仮説
4−3
については,すべての目的につ いて相関関係は検証されなかった。したがって,経過年数と予算差異分析の利用度との 相関はなく,予算差異分析の利用度に関しては,「適用」も「適応」も起こっていない ということが,考えられる。むしろ,結果からは,利用目的間の相関が強く現れてお り,差異分析をよく利用する企業と,あまり利用しない企業があることがわかる。以上 のような結果から判断すると,仮説4−3
については,支持されなかったということに────────────
7 アンケート結果からも,海外子会社の予算の起案は,ほとんど海外子会社において行われている。
在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (271)35
なる。
2.仮説 5
に関する検証次に,経過年数と業績・報酬のリンクについての仮説
5
であるが,在タイ企業につい ては,部門長に関しては相関がなく,職長については,経過年数と業績・報酬のリンク の間に相関関係が認められ,経過年数の長い企業ほど業績と報酬のリンクが強いという 結果になっている。タイについては,業績と報酬が強くリンクしていることが,タイ型 の業績評価システムであるかどうかは,確認できていないが,在タイ日系企業でのイン タビュー調査から得られた知見によれば,同じアジアでありながら日本とはかなり異質 なカルチャーであり,ホワイトカラー層は,アメリカで教育を受けた管理者を中心に,成果主義的な報酬を望む傾向があるということである。しかし,結果は部門長に関して はそうなっていない。この解釈については,さらなる調査が必要であると思われる。
以上のような結果から判断すると全体としては,仮説
5
は,職長に関しては支持され たということになる。3.輸出比率とマネジメント・コントロール・システム
仮説
6
に関しては,3つのサブ仮説に分解して検証した。結果は,仮説6−1
に関して は,予算編成方針については支持されたが,予算編成日数については,支持されなかっ た。仮説
6−2
については,国内出荷比率と業績と報酬のリンクについては,有意な相関 は確認されず,仮説は支持されなかった。仮説
6−3
に関する検証では,国内出荷比率と予算差異分析の利用度との間に有意な 相関関係は確認されず,仮説は支持されなかった。4.日本本社の影響力
日本本社の影響力に関しては,予算編成という計画機能に関連の強いものは,相関関 係が確認された。これは,本社の影響力を現地法人に対する計画機能に関する影響の強 さで測定しているので,予算編成はある種の計画機能そのものであるので相関関係が確 認されたと思われる。業績と報酬のリンクに関しては,職長レベルでは,日本本社の影 響力が強いほど,業績と報酬のリンクが弱い日本型のシステムを採用しているという結 果になった。その一方で,部門長に関してはそのような結果にはなっていない。このこ とから,部門長と職長で異なった業績評価スタイルが採用されている可能性があると思 われる。予算差異分析の利用度に関しては,日本本社の影響力とは無関係であることが 確認された。
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
36(272)
Ⅺ むすびに代えて
前節までで,より厳密な統計手法を適用することにより,過去の研究を再検討してき たが,得られた結論は,大きく変わるものではなかった。しかし,経過年数と日本本社 の影響力に関して,在タイ日系企業における管理会計システムとの関連性をより精緻化 した形で明らかにできたものと思われる。分析結果からは,経年的な現地適応という結 果は限定的であった。また,在タイ企業独自の輸出型と国内市場型との違いに起因する 相違も一部でしか見られなかった。
その一方で,マネジメントの現地化に関して,計画関連の意思決定は日本本社による コントロールの影響が大きいことが明らかとなった。しかし,人の現地化だけは経年的 に現地化が進行することが明らかとなった。全体的には依然として日本本社が主導する 経営が行われていたがことが確認できた。
しかし,全体としては,経過年数,輸出型か国内市場型かというマーケットの相違,
日本本社の計画機能に関する影響力のいずれも,現地化や現地適応を説明するには,十 分な変数とは言えないような状況である。これらが複合的に関係しているのかまたは,
それ以外の要因,例えば,企業個別のマネジメント・スタイルの違いなどが関係してい ることも考えられる。
昨年
10
月に発生したタイにおける洪水被害が現地の日系企業のみならず,国内企業 にも今なお大きな影響を与えていることからも,進出先としてのタイは,調査当時より も重みを増していると思われる。再びの現地調査についてさらなる必要性を感じざるを 得ない。(本稿は平成23年度科学研究費基盤(B)「海外現地マネジメントのための管理会計システムの設計と運 用に関する研究」による成果の一部である。)
参考文献
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安保哲夫編(1995)『日本的経営・生産システムとアメリカ:システムの国際移転とハイブリッド化』ミ ネルヴァ書房。
安保哲夫(1996)「アメリカにおける日本的生産システムの移転,1989−93年:変化の方向とアジア,ヨ ーロッパとの比較」『国民経済雑誌』第174巻第1号。
Ali, A. J.(2000),Globalization of Business : Practice and theory,International Business Press.
Anderson, S. W. and S. Mark Young(2001), Implementing Management Innovations : Lessons Learned from Activity Based Costing in the U. S. Automobile Industry,Kluwer Academic publishers.
Ansari, S. L., J. E. Bell and the CAM-I Target Cost Core Group(1997),Target Costing : The Next Frontier in 在タイ日系企業における管理会計システム(中川) (273)37