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わが国企業における戦略マネジメント・システムと

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(1)

富山大学経済学部富大経済論集 第57巻第3号抜刷(2012年3月)

森 口 毅 彦

わが国企業における戦略マネジメント・システムと

目標管理制度の機能

(2)

わが国企業における戦略マネジメント・システムと 目標管理制度の機能

森 口 毅 彦

ࠠ࡯ࡢ࡯࠼:目標管理(MBO),MBO

の実態調査,MBOの運用目的,MBO の運用効果,MBOの機能,戦略マネジメント・システム,バラ ンスト・スコアカード(BSC)

       1

㸇䋮 䈲䈛䉄䈮

 わが国企業において戦略を実行するための戦略マネジメント・システムとは どのようなものであろうか。

 今日,戦略を実行するための代表的な戦略マネジメント・システムとして,

バランスト・スコアカード(

Balanced Scorecard

:以下,

BSC

と略記)が大 きな注目を集めており,特に欧米企業においてはその華々しい導入効果が紹介 されてきている2。しかし,わが国企業においては,2000 年代前半から中盤に かけて注目が集まったものの,その後,導入自体もそれほど進んでいないよう である3。わが国企業において

BSC

の導入が進まない原因の一つとして,わが 国企業の伝統的なマネジメントにおいて,

BSC

と同様の機能を果たす他のシ

1 本研究は,科学研究費(平成 21 年度〜平成 23 年度科学研究費補助金基盤研究

(C)

:研究題 目「バランスト・スコアカードにもとづく成果連動型報酬システムに関する実態調査研究」)

による研究成果の一部である。

2 

Kaplan & Norton

[2001

,

2006]などを参照。

3 2009 年 1 〜 2 月にかけて筆者が行ったアンケート調査「わが国企業における

BSC

の導入 実態とその導入効果に関する調査研究」の結果では,わが国企業における

BSC

の導入状 況は 11

.

3%,また,「

BSC

の導入を検討中」の企業の割合が 3

.

3%となっており,2003 年〜

2004 年当時より両比率がかなり下がっていることが明らかとなっている。[拙稿,2010

, pp.

129

-

131]

(3)

ステムが存在している可能性が考えられる。そこで,わが国企業における戦略 マネジメント・システムの解明を図る試みとして,本稿ではわが国でも長い伝 統をもつ目標管理を取り上げ,その役割・機能について検討を試みるものであ る。

 目標管理(

Management by Objectives:

以下

MBO

と略記)は,1954 年に

Drucker

P. F. Drucker

)によって提唱されたといわれているが,わが国企 業においては 1960 年代に導入が進み,その後幾度かの導入ブームをへながら,

今日においてもかなりの企業において実践されている代表的な管理手法の一つ である。

 このように長い歴史をもち,近年では,

BSC

と組み合わされて効果的に活 用されている事例などが紹介されるまでに展開されてきている

MBO

は,わが 国企業において,どのような役割が期待され運用されているのだろうか。

 本稿では,わが国企業の

MBO

に対する役割期待の変遷/展開を跡づけ,伝 統的なマネジメント・システムである

MBO

の戦略実行のためのマネジメント・

システムとしての機能について検討することを目的としている。

 以下のⅡ節では,わが国企業における

MBO

の導入状況をいくつかの調査 結果をもとに概観し,わが国における

MBO

の 3 つの発展段階に関する議論 を紹介したうえで,

MBO

に期待される機能・役割の意義を考察するために,

MBO

の概念と 2 つの機能側面を整理する。そしてⅢ節では,これまで行われ たいくつかの調査結果をもとに

MBO

の導入/運用目的とその効果について検 討する。Ⅳ節では,

MBO

を戦略に関連づけ,戦略実行のマネジメント・シス テムとして構想しようとするいくつかの論者の見解について検討する。Ⅴ節で は,筆者が行った

MBO

の導入実態調査の結果にもとづき,

MBO

の運用目的 とその効果について検討する。

(4)

㸈䋮 䉒䈏࿖ડᬺ䈮䈍䈔䉎 㪤㪙㪦 䈱ዉ౉⁁ᴫ䈫 㪤㪙㪦 ᭎ᔨ䈱ዷ㐿 䋱䋮 䉒䈏࿖ડᬺ䈮䈍䈔䉎 㪤㪙㪦 䈱ዉ౉

MBO

は,1954 年に

Drucker

がその著書『現代の経営』において「目標と 自己統制による管理」(

management by objectives and self-control

)を提唱 したことに始まるといわれているが,その後,

McGregor

D. McGregor

)が

Y

理論によって理論的基盤を与え,

Schleh

E. C. Schleh

)によって具体的な 展開手法が示され,1960 年代以降,多くの米国企業の間に広まっていったと される。[幸田,1989

, p.

944]

 わが国においては,1965 年前後から本格的に導入されるようになったと いう。[津田,1994,

p.

11]奥野[1996]では,わが国において,1964 年から 1965 年にかけての

MBO

導入期に不況克服策として 1 度目の導入ブームがあ り,次いで高度成長期後半の 1975 年頃,価値観や労働意識の変化から従業員 の動機づけが問題になった時期に 2 度目の導入ブームがあったと指摘されてい る。[奥野,1996,

p.

91]関西生産性本部の調査によると,1965 年には 24%(183 社中 44 社)の企業が

MBO

を導入していたが,1970 年には 45%(194 社 89 社)

へ[関西生産性本部,1971

, p.

14],そして 1975 年には 59%(486 社中 286 社)

へと急増している。[関西生産性本部,1976

, p.

72]

 そして,バブル経済崩壊後の 1990 年代中頃から,成果主義人事管理を目 的とした 3 度目の

MBO

導入ブームが起こり,今日に至っている。1993 年に 労務行政研究所が行った「平成 5 年人事労務管理諸制度の実施状況」4では,

MBO

の導入企業は 46

.

5%(370 社中)であり,従業員数が 3

,

000 人以上の 企業においては 58

.

4%という調査結果が報告されている。[労務行政研究所,

1994

, p.

35]

 労務行政研究所によるその後の調査結果をまとめると図表 1 のようになる。

4 調査対象企業は,全国 8 証券市場上場会社約 2

,

140 社と資本金 5 億円以上かつ従業員 500 人 以上の主要非上場会社約 370 社の合計約 2

,

510 社であり,このうち回答のあった 370 社を集計 対象としている。

(5)

࿑⴫ 㪈䇭ഭോⴕ᡽⎇ⓥᚲ䈮䉋䉎 㪤㪙㪦 ዉ౉⺞ᩏ⚿ᨐ㩷5

調査年 1995 1997 2001 2003-2004 2006-2007 2009-2010 主要企業 54.3% 54.7% 64.2% 77.3% 76.0% 73.8%

中堅・中小企業 38.3% 42.8% 52.2% 従業員数 3,000 人以上の企業

(2006 年調査より 1,000 人以上)70.1% 68.5% 79.3% 92.3% 85.5% 77.8%

出所:[労務行政研究所,1996,  p.  50],[労務行政研究所,1998,  p.  54],[労務行政 研究所,2001,  p.  61],[労務行政研究所,2004,  p.  60],[労務行政研究所,2007,  p. 

64],[労務行政研究所,2010, p. 72]にもとづき作成。

 この調査によると,MBOは,2000 年代中頃には 7 割を越える企業で導入さ れ,また従業員数が 3,000 人(2006 年より 1,000 人)を越える大規模な企業に おいては 9 割を越える企業で導入されるまでになっているが,その後,若干減 少傾向にあることがわかる。

 奥野[1996]は,わが国における

MBO

の発展を 3 段階――①ノルマ的目標 管理,②参加的目標管理,③近年の目標管理――にわけて考察している。[奥野,

1996,

pp.

101-103]

㽲䊉䊦䊙⊛⋡ᮡ▤ℂ

 わが国における

MBO

の導入期である 1960 年代中後期にみられた

MBO

スタイルで,MBOの機能的側面を重視しノルマ化される傾向のある

MBO

ある。

 この時期にわが国で

MBO

導入企業が急増した背景には戦後最大といわれた 不況があり,この不況の克服策として,これまで効果的な管理方法のなかった スタッフ部門や管理職に対する管理手法として

MBO

が積極的に導入されたた

5 1995 年,1997 年,2001 年における主要企業とは,全国 8 証券市場上場企業ならびに上場企 業に匹敵する非上場企業(資本金 5 億円以上かつ従業員 500 人以上)であり,中堅・中小企 業とは,主要企業以外で抽出した非上場企業(従業員 100 人以上)である(なお,1997 年 調査では,中堅・中小企業の抽出条件は資本金 3 億円以上かつ従業員 100 人以上である)。

2003

-

2004 年の調査から中堅・中小企業は調査対象から外され,調査対象企業は,全国証券 市場の上場企業(新興市場の上場企業も含む)と上場企業に匹敵する非上場企業(資本金 5 億円以上かつ従業員 500 人以上)となっている。

(6)

め,トップダウンの性質を強くもち,上が指示する目標をそのまま本人の目標 として押しつけるようなノルマ的管理が多くみられたのである。

㽳ෳട⊛⋡ᮡ▤ℂ

MBO

の導入期にみられたノルマ的目標管理では

MBO

の機能的側面が強調 される傾向にあったが,

MBO

のもう一つの側面である参加的側面を重視する 傾向が 1970 年代に入るとみられるようになる。

 この背景には,不況から回復したものの,資本の自由化や国際競争の激化な どの環境変化に対応する必要性が叫ばれ,業績一辺倒の経営では柔軟な対応が できないとして,特に管理者層の能力開発を目的とした

MBO

が注目されたこ とがある。1970 年代後半には高度成長を果たした結果,従業員の労働意識や 価値観の変化から組織への帰属意識が薄れ,組織への参加による動機づけが強 調されたことも関係する。同時期は,年功職階制から職能等級制度への転換や,

それにもとづいた職能給体系の導入が進み,能力基準人事への転換期でもある。

このような背景のもと,

MBO

は人事部が主導となり,主に能力開発,動機づ けを中心として導入が進められたのである。

 このように,この時期における行動科学理論の普及とともに,

MBO

は全般 管理システムとしてではなく,人事管理制度として普及するようになったとの 指摘もなされている。

㽴ㄭᐕ䈱⋡ᮡ▤ℂ

 1990 年代に入り,「集団主義から個人主義へ」「個を活かす経営」などとい われる人事管理の大きな変化がみられるようになり,加点主義,人間尊重など が唱えられるなかで,複線型昇格制度や社内公募制,自己申告制度,年俸制な どが導入され始めると,

MBO

も再び注目されるようになる。こうした新しい 人事管理制度のもとでは,各人がそれぞれ個別の業績基準を必要とすることか ら,

MBO

の効果的な併用がポイントであるとされるようになったのである。

 しかし,このような

MBO

は,人事管理制度としての導入であり,全社レベ ルでの目標体系の徹底や全体目標の達成という

MBO

の機能的側面が欠けてい

(7)

るとの指摘がなされている。

 このように

MBO

は,わが国企業における 50 年近い長い伝統の中で,その時々 の経営環境に応じて展開されてきており,今日では企業における代表的な管理 手法として活用されている。

䋲䋮 㪤㪙㪦 ᭎ᔨ䈱ዷ㐿䈫 㪤㪙㪦㩷䈱 㪉 䈧䈱ᯏ⢻஥㕙

 それでは,この

MBO

はどのように捉えられ,そしてまたどのような役割・

機能が期待されてきたのであろうか。

Drucker

によって提唱された

MBO

は「目標と自己統制による管理」である が,これは「企業が必要としているものは,個人の強みと責任を十二分に働か せ,同時にその考え方と努力に共通の方向を与え,チームワークを確立して個 人の目標と会社全体の利益とを調和させるような経営管理の原理」[

Drucker,

1954

, pp.

135

-

136]であり,これを実行できる唯一の原理が,「目標と自己統 制による管理」であるという。そして,この「目標と自己統制による管理」は,「経 営管理『哲学』

philosophy of management

)と呼ばれるにふさわしいもの であろう」[

Drucker,

1954

, p.

136]と述べており,

MBO

は制度や手法という よりも経営管理の理念・哲学であることを強調している6

Drucker

はこうした経営管理の原理について次のように述べている。

 事業が成果をあげるためには,個々の職務が,事業全体の諸目標の 達成に向けて方向づけられることが必要である。……経営管理者に期 待される成果は,その事業全体の達成目標にもとづいて決定され,そ

6 幸田[1989]でも,「目標管理は,よく管理制度もしくは管理方式ととられがちであるが,

むしろ,これは管理の理念とみるべきであろう」とし,「目標管理は,従来の伝統的管理に おける上長の厳格な指揮・指導から脱却して,当人による主体的・自立的な管理を確立しよ うとするから,目標設定における当人の参加,さらには達成過程における自己統制といった,

管理に対する理念的側面が重視されることになる」[幸田,1989

, p.

944]との指摘がなされ ている。

(8)

の結果も,企業の成功にどれだけ貢献したかによって評価されなけれ ばならない。経営管理者は,事業目標が自分たちにどのような成果を 求めているかを知り,理解する必要がある。また,経営管理者の上司 たちも,経営担当者に対しどんな貢献を要求し,期待すべきかを把握 し,これに従って,経営管理者の評価を行う必要がある。[

Drucker,

1954

, p.

121]

 こうした

Drucker

による

MBO

の提唱を受けて,

Schleh

MBO

を「結果 による管理」(

management by results

)として

MBO

の手法を詳細に展開し たが,これは当時の時代的要請のもとに,業績評価システムとして理解され普 及していくことになった。一方,

McGregor

は,

Y

理論にもとづく統合と自己 統制による管理としての

MBO

を主張するなど,この当時の行動科学的管理論 の高揚にともない,

MBO

の動機づけ側面が強調されることになる。その後,

1967 年に

Odiorne

G. S. Odiorne

)が,目標を中心にした

plan-do-see

の管 理サイクルを基礎とした「目標管理サイクル」を提示し,経営管理哲学であっ

MBO

を誰もが利用できる管理システムへと発展させた。[奥野,1996

, pp.

96

-

98]

 このような米国における

MBO

の展開を受けて,わが国ではたとえば次のよ うに

MBO

は捉えられている。

 幸田[1971]では,「『目標による管理』とは,企業の全体目標達成のため,

目標体系にそって,各自が意欲を燃やし,目標を掲げその達成過程を自己統制 していこうとするものである」[幸田,1971

, pp.

33

-

34]と定義づけられている。

そして,

MBO

の意義を「いままでのマネジメントのあり方の仕事中心でも人 間中心でもなく,その両者の統合をはかったものとして,いわば統合的マネジ メントとして『目標による管理』をみることができる」[幸田,1971

, p.

34]と ころに求めている。また,

MBO

のねらいとして,①組織目標と個人目標の統 合と効果的達成,②意欲の増進と責任感の育成,③能力の開発・伸張にあると

(9)

している。[幸田,1988

, p.

944]

 こうした

MBO

のとらえ方は今日でもみられるものであり,今野・佐藤[2009]

は,「目標管理の基本的な考え方は,『組織目標と個人目標を統合して目標を設 定し,個人はそれにむかって自立的に仕事を進める』点にある。これにより,

目標の連鎖によって組織の統合がはかれるとともに,部下を管理統制するので はなく,部下の自主性を引き出すことによって効率的な組織が形成できると考 えられている」[今野・佐藤,2009

, p.

151]と指摘している。

 このようにみてくると,

MBO

には,①個々の職務(個々人の目標)と全体 の目標との整合性ならびに連動(連鎖)性,②目標の自己設定を通じた自己統 制による動機づけ,の 2 つが本質的に不可欠な要素と考えられるのである。

 一方,佐藤・藤村・八代[2003]では,「業績評価は,評価期間の初めに部 下と上司の間で業務目標を設定し,評価期間の終わりに目標の達成度により業 績を評価する目標管理制度によって行う場合が多い」とされ,

MBO

の業績評 価システムとしての役割が強調されている。[佐藤・藤村・八代,2003

, p.

68]

 この見解に関連して注目すべきは,

MBO

は,「最近では,モチベーション に関する目標理論と結びつけられ,目標設定と結果(実績)評価を連動させた 業績管理システム全般を指すものとなっている。待遇や人事制度が,日本的と されてきた年功序列型から成果重視型に見直されるなかで,目標による管理は 新たな意義づけがなされ多くの企業で導入が進んでいる」[古川,1999

, p.

894]

との指摘がなされている点である。前述した 1990 年代中頃からの成果主義人 事管理を目的とした

MBO

の導入ブームの背景にはこのような要因が関係して いるものと思われる。

 このような

MBO

の果たす役割・機能という観点から,下崎[1987]は,

MBO

に「システム的側面」と「動機づけ的側面」という 2 つの側面を見いだ している。すなわち,

MBO

には,「一方において組織全体の目標を達成する ために各従業員に目標を細分化して,それを達成するように方向づけることで 組織構成員の職務行動を統制しようとするシステム的側面と,他方においては

(10)

組織構成員が目標設定や目標達成の過程に参加することあるいは目標達成その ものを通じて組織構成員の職務に対する動機づけを高めようとする動機づけ的 側面とがある」[下崎,1987

, p.

69]と指摘している。そして,「この二側面は 強調点の置き処が異なっているわけで,両者は必ずしも同一の目標管理手法で 充足させられるとは限らない」[下崎,1987

, p.

69]としている。

 また,奥野[1996

,

1998]は,

MBO

における「機能的側面」と「参加的側面」

という 2 つの側面を識別している。「機能的側面」とは,「組織成員の貢献を組 織目標に向けて結集する働きをする側面」であり,「目標管理において設定さ れる各成員の目標は,組織目標からブレークダウンされたものであり,すべて の目標が連鎖体系を成している。個々の成員が自己の目標を達成すれば,それ が組織目標の達成へとつながることになる。この場合,目標は統制の手段とし ての意味をもつ」[奥野,1998

, p.

80]とされる。一方,「参加的側面」とは,「成 員が目標の設定,実行,評価過程に主体的に参加し,自己統制を行う側面」で あり,「成員は,自分が達成すべき目標を自己設定し,その目標達成に向けて 自己指揮を行う。期末には目標の達成度を自己評価する。このような自己設定,

自己指揮,自己評価の過程を含む自己統制によって組織目標に向けての自主的 な貢献が動機付けられる」[奥野,1998

, p.

80]とされる。

 両者の「機能的側面」と「システム的側面」,そして「参加的側面」と「動 機づけ的側面」はそれぞれほぼ対応したものと考えられるが,

MBO

のこうし た 2 つの機能側面から,実際の企業においても「機能的側面」あるいは「シス テム的側面」に関連する「マネジメント・ツール」としての利用と,「参加的側面」

と「動機づけ的側面」に関連する「人事考課(業績評価)ツール」としての利 用という,大きく 2 つの利用形態につながっているものと思われる。

 このように,

MBO

には 2 つの機能側面にもとづく役割期待が識別されるも のであるが,わが国における

MBO

は,全般管理システムとしてではなく,人 事管理システムとして用いられてきたことが特徴であるとともに問題でもある

(11)

との指摘がなされている7

 奥野[1996]は,「日本で行われている目標管理は,人事管理上の制度とし て導入されたものが多く,全社レベルの管理制度として導入されている例は少 ない」点を指摘し,「全体目標を強調し目標体系を意識しながら,全社レベル の管理制度として統合志向型目標管理」[奥野,1996

, p.

105]を行う必要性を 主張し,次のように述べている。

……日本の目標管理の特徴は,それが全般管理システムではなく人事 管理制度として導入されてきた点にある。そのために目標管理の 2 つ の側面のうち参加的側面が強調される傾向にあり,全体目標を意識し た目標管理が行われていない。結果として,目標管理の導入が業績向 上に寄与しているかどうかは,直接的には問われないものとなってい る。しかしながら,筆者が特徴づけたように目標管理は全般管理シス テムであり,企業の全体目標を体系的に組織の末端まで分割していく 過程で,個人目標との一致を図り,組織全体の目標に向けて自己統制 していくことを目的とする。[奥野,1996

, p.

111]

 奥野[1996]は,

MBO

の理論上の特徴として,①

MBO

は目標を中心とし た管理過程,

plan-do-see

を実践するものであること,②

MBO

は組織の全体 目標の達成を目的とした全般管理システムであること,③

MBO

はコミュニ ケーションの場を作り,それを定着させるものであること,の 3 点をあげてい る。[奥野,1996

, pp.

98

-

99]

 すなわち,

MBO

plan-do-see

という一連の管理過程にそって行われるも のであり,また

MBO

は上司と部下という組織の中の最小の上下関係を順番に つないでいくことによって,最終的に組織のトップから末端までを連結させ,

7 このような

MBO

と人事考課とを混同していることに対する問題点の指摘は,奥野[1996]

のほか,津田[1994

, pp.

17

-

19]などにも見られるものである。

(12)

全体目標を達成することを目的としているため,

MBO

の導入と実践には人事 部ではなく,組織のトップの強い承認,あるいは主導が必要となり,そして

MBO

の 2 つの側面間のトレードオフを克服するものとして

MBO

におけるコ ミュニケーションの重要性が強調されるということである。

 米国における

MBO

の発展過程にもみられるように,初期には部分的な人事 管理システムであった

MBO

が,次第に全般管理システムへと発展していくも のであり,したがって,

MBO

は業績評価や動機づけを目的とした人事制度で はなく,全般的な管理システムであると主張している。

 このような指摘にみられるように,わが国における

MBO

が人事管理システ ムとして展開されてきているということは,戦略マネジメント・システムとし て活用されている可能性は低いものと考えられる。そこで,本稿の目的の観点 からは,わが国企業における

MBO

の導入目的・役割期待の検討をとおしてこ の点について検証を行うとともに,

MBO

の 2 つの機能の中に,あるいはこの 2 つの機能を越えて,戦略実行の機能があるかどうか,そして全般管理システ ムとしての

MBO

にそのシステム的要件が備わっているのか(組織目標を個人 目標にブレークダウンしていくのが

MBO

の特徴の一つであるが,それが直ち に組織目標・戦略の実行に結びつくものなのかどうか)といった点を中心に検 討を行っていく。

㸉䋮 䉒䈏࿖ડᬺ䈮䈍䈔䉎 㪤㪙㪦 䈱ዉ౉䋯ㆇ↪⋡⊛

 前節では,わが国企業における

MBO

の導入状況を概観し,

MBO

の概念と 2 つの機能側面を整理してきたが,わが国企業はどのような目的で

MBO

を導 入/運用しているのだろうか。

MBO

は,各時代の経営環境の中で,さまざま な目的・役割を期待され導入/運用されてきている。そこで本節では,これま で行われてきたいくつかの調査結果をもとに,1980 年代後半から 2000 年ぐら いまでの期間における

MBO

の導入/運用目的とその効果について検討してみ たい。

(13)

䋱䋮 ਅፒ 䌛㪈㪐㪏㪎䌝 䈮䉋䉎⺞ᩏ⚿ᨐ

 まず,下崎[1987]による「目標管理についての実態調査」について検討する。

 同調査では,無作為抽出した 500 社(一部上場企業 205 社,富山県内企業 255 社,富山県内官公庁等 40 社)を対象に調査票を送付し,185 通を回収して いる(回収率 37

.

0%)。[下崎,1987

, p.

69]

 同調査における

MBO

の導入状況は 12

.

4%(23 社)であり,「何らかの目標 を設定して管理している」企業(下崎[1987]では「その他企業」と呼称して いる)が 67

.

0%(124 社),「目標によって管理していない」企業が 19

.

5%(36 社)となっている8。[下崎,1987

, p.

70]

 同調査における「目標管理のねらい」についての調査結果は図表2のとおり である。

࿑⴫䋲䇭ਅፒ 䌛㪈㪐㪏㪎䌝 䈮䈍䈔䉎⋡ᮡ▤ℂ䈱䈰䉌䈇 䋨ⶄᢙ࿁╵䋩 (1) 収益の

向上

(2) 会社全体 の行動を 統制

(3) 個人の動 機づけを 高める

(4) 責任の 明確化

(5) 仕事を 委譲

(6) 会社の 活性化

(7) その他

A.目標管理    導入企業

21社 12社 15社 17社 9社 15社 4社 91.3% 52.2% 65.2% 73.9% 39.1% 65.2% 17.4%

B.その他    企業

97社 37社 40社 52社 16社 64社 3社 80.2% 30.6% 33.1% 43.0% 13.2% 52.9% 2.5%

出所:[下崎,1987, p. 88, 表 17-1]の一部を修正

 また,

MBO

の導入効果については次のような結果になっている。

MBO

入企業では,「たいへん大きい」10 社(43

.

5%),「何らかの効果」13 社(56

.

5%)

であり,その他企業では,「たいへん大きい」36 社(29

.

0%),「何らかの効果」

73 社(56

.

9%),「特に効果なし」2 社(1

.

6%),「わからない」7 社(5

.

6%)

8 なお,

MBO

導入企業と「何らかの目標を設定し管理している」企業との相違は,下崎[1987]

によると,「目標を設定して企業を運営するということはほとんどの企業で行われているが,

それを『目標管理』として意識的に行っているところとそうでない企業とがある」[下崎,

1987

, p.

69]ことから,両者を区別して比較分析を行っている。

(14)

などとなっている。[下崎,1987

, p.

89]

 この調査結果より,

MBO

導入企業でもその他企業でも,ともに収益目標が 8 割を越え第 1 位になっているが,第 2 位以下の目的は,

MBO

導入企業では,「責 任の明確化」,「個人の動機づけを高める」と続いているのに対し,その他企業 では,「会社の活性化」,「責任の明確化」となっている。ここで,「責任の明確化」

は,

MBO

のシステム的側面を表しており,一方,「個人の動機づけを高める」

は動機づけの側面を表しており,この調査結果から,

MBO

導入企業とその他 企業との相違点として,

MBO

導入企業では両側面が同じように重視されてい るのに対し,その他企業では動機づけの順位が低くなっていることから,動機 づけ的側面よりもシステム的側面を重視している傾向が見受けられる。

 しかし,下崎[1987]は,「この結果からみる限りでは,現実に行われてい る目標管理はシステム的側面,動機づけ的側面のどちらにより重点があるのか がやはり明確にならないまま実施されていることが理解できる」[下崎,1987

, p.

88]と述べている。

 そして,同調査結果全体から得られる

MBO

の特徴を 2 つの機能側面それぞ れについて以下のようにまとめている。[下崎,1987

, p.

91]

 まず,システム的側面においては,会社全体としてはひとつの目標に統合さ れており,それを組織全体に分解し個人レベルの目標まで設定していることか ら,企業全体を目標によってシステム的に結合しようという

MBO

の重要な傾 向が見られる。

 一方,動機づけ的側面については,導入企業においては目標を達成できるよ うな動機づけ体制が整備されており,そのことにより目標の達成度が高くなっ ている。その体制とは,まず目標を個人にいかに伝達すなわち認知させるか,

受容させるかという認知的問題,達成したあとには効果的な報酬を提供すると いう強化的問題,さらに未達成の際にその個人および課が目標を達成し得るよ うな管理者による支援体制,の大きく 3 つに分類できる。

 そのうえで,大企業との比較をとおして,

MBO

導入企業における次のよう

(15)

MBO

の特徴的な側面を導き出している。①目標を個人レベルまで分解,② 実績を個人にフィードバック,③ボトムアップ的目標設定,④目標達成に対す る援助,⑤目標への意識が高く,達成度も高い。[下崎,1987

, p.

91]

 下崎[1987]は,これら 5 つの

MBO

の特徴は,「ともに個人が目標へと動 機づけられてそして目標を達成するというものである。すなわち目標管理の二 つの側面における動機づけ的側面がより強く現れている」ことから,「日本で 導入されている目標管理では,動機づけ的側面がより強調されていると結論づ けることができる」[下崎,1987

, p.

91]としている。

 以上のように,下崎[1987]の調査結果によると,1987 当時のわが国企業 における

MBO

の導入・運用実態は,動機づけ的側面が強いというものであり

(これは前述の奥野[1996]の発展段階にも合致したものである),したがって,

システム的側面において「会社全体としてはひとつの目標に統合されており,

それを組織全体に分解し個人レベルの目標まで設定している」とはいうものの,

明確に戦略の実行を意図した戦略マネジメント・システムとしての導入・運用 は未だなされていないものと考えられる。

䋲䋮 ↥ഭ✚ว⎇ⓥᚲ 䌛㪈㪐㪐㪎䌝 䈮䉋䉎⺞ᩏ⚿ᨐ

 次に,産労総合研究所が 1996 年に行った「目標による管理制度の導入と運 用に関する調査」について検討する。

 同調査は,同社定期刊行誌読者,産労総合研究所定期刊行誌読者,および

MBO

実践研究所主催セミナー受講企業 3

,

300 社を対象にアンケートを郵送し,

290 社から回答を得たが,集計日までに回答のあった 286 社を対象に集計を行っ ている(回収率 8

.

7%)。

 同調査における

MBO

の導入状況は全体で 47

.

9%(137 社)であり,従業員 数が 1

,

000 人以上の大企業では 56

.

4%,299 人以下の小企業では 30

.

4%であった。

また,「現在は導入していないが今後も導入する予定はない」と回答した企業は,

全体で 22

.

0%であるが,従業員数 1

,

000 人以上の大企業では 13

.

7%,299 人以

(16)

下の小企業では 36

.

7%であった。[産労総合研究所,1997

, pp.

362

-

363]この結 果から,大企業と小企業では

MBO

の導入状況ならびに導入意欲に対して開き があることがわかる。

 同調査による「目標管理導入のねらいと効果」の調査結果は図表3のとおり である。

࿑⴫䋳䇭↥ഭ✚ว⎇ⓥᚲ⺞ᩏ䈮䉋䉎⋡ᮡ▤ℂዉ౉䈱䈰䉌䈇䈫ലᨐ 導入のねらい 導入後の職場状況の変化 今後,強化

したい点  すごくよくなった よくなった 変わらない

成果・業績主義の徹底 75.0% 1.3% 75.3% 23.4% 62.2%

予算の達成 24.2% 66.7% 33.3% 9.9%

管理者のマネジメント力向上 56.5% 1.8% 59.6% 38.6% 49.5%

組織の活性化 59.7% 48.3% 51.7% 18.9%

チャレンジの奨励 58.9% 1.7% 61.0% 37.3% 26.1%

組織目標と個人目標の統合 74.2% 3.7% 72.8% 22.2% 31.5%

参画による動機づけ 43.5% 60.9% 39.1% 9.9%

能力開発 54.8% 1.8% 51.8% 44.6% 29.7%

社員の自己統制 34.7% 55.3% 44.7% 15.3%

社員の働きがいや自己実現 44.4% 47.7% 52.3% 20.7%

個の尊重 20.2% 4.8% 57.1% 38.1% 7.2%

上司と部下のコミュニケーション 68.5% 8.6% 64.3% 27.1% 30.6%

社員の意識改革 44.4% 9.3% 46.5% 44.2% 32.4%

契約主義の浸透 4.0% 75.0% 25.0% 10.8%

経営戦略の具体化 20.0% 5.0% 40.0% 55.0% 17.1%

出所:[産労総合研究所,1997, p. 12, 表 1]ならびに[産労総合研究所,1997, p. 372,  表 4]にもとづき作成。

 まず,導入のねらいとして「成果・業績主義の徹底」(75

.

0%),「組織目標 と個人目標の統合」(74

.

2%),「上司と部下のコミュニケーション」(68

.

5%)

が上位 3 つとなっている。これに対して,「経営戦略の具体化」は 20

.

2%と最 下位のグループに位置づけられることから,この当時の導入目的としてあまり 念頭におかれていなかったものと思われる。

 また,規模別に集計した結果では,大企業では「組織目標と個人目標の統

(17)

合」(85

.

0%),中企業(従業員数 300 〜 999 人)では「成果・業績主義の徹底」

(80

.

0%),小企業では「組織の活性化」(78

.

9%)であった。[産労総合研究所,

1997

, p.

364]これは,会社の規模によって直面する経営課題が異なっており,

それに応じて

MBO

に対して期待する役割も異なることを示していると思われ る。

 次に,導入の効果として

MBO

導入後の職場の状況の変化を調査しているが,

全体的に「すごくよくなった」を選択した企業は少なく,「社員の意識改革」

(9

.

3%),「上司と部下のコミュニケーション」(8

.

6%)などが若干高いぐらい である。また,「悪くなった」を選択した企業はごくわずかであり,「すごく悪 くなった」を選択した企業はなかったことから,ほとんどの企業が「よくなった」

もしくは「変わらない」を選択している。「よくなった」項目としては,「成果・

業績主義の徹底」(75

.

3%),「契約主義の浸透」(75

.

0%),「組織目標と個人目 標の統合」(72

.

8%)などが上位にあげられており,導入目的で上位だったも のが,導入後一定の成果をあげているようすがうかがえる。また,「変わらない」

項目としては,「経営戦略の具体化」(55

.

0%),「働きがいや自己実現」(52

.

3%),

「組織の活性化」(51

.

7%)などであり,やはり「経営戦略の具体化」について は導入の効果もあまりみられないようである。[産労総合研究所,1997

, p.

364

,

372]

 最後に,今後強化していきたい点についての調査結果であるが,「成果・業 績主義の徹底」(62

.

2%),「管理者のマネジメント力の向上」(49

.

5%),「社員 の意識改革」(32

.

4%)などとなっている。この結果から,今後とも,「成果・

業績主義の徹底」のために

MBO

を導入する傾向が続きそうである。一方で,「経 営戦略の具体化」は 17

.

1%となっており,この当時,今後強化していきたい項 目としても関心が低かったことを示す結果となっている。

(18)

䋳䋮 ↥ᬺ⢻₸ᄢቇ 䇸⋡ᮡ䈮䉋䉎䊙䊈䉳䊜䊮䊃⎇ⓥળ䇹 䈮䉋䉎⺞ᩏ⚿ᨐ

 産業能率大学「目標によるマネジメント研究会」では,1995 年と 2000 年 に「『目標による管理』実態調査」を行っている。1995 年の調査では,上場・

非上場企業から無作為抽出した 2

,

512 社の人事担当部門を対象に質問紙を郵送 し,235 通を回収している(回収率 9

.

4%)。[産能大学目標によるマネジメン ト研究会,1995

, p.

6]2000 年の調査では,上場・非上場企業から無作為抽出 した 2

,

496 社の企画,人事担当部門を対象に質問紙を

FAX

で送付し,447 通 を回収している(回収率 17

.

9%)。[産業能率大学目標によるマネジメント研究 会,2000

, p.

1]

 以下では,両調査結果にもとづき,

MBO

の導入状況,導入目的,運用状況 について検討していく。

䋨䋱䋩 㪤㪙㪦 䈱ዉ౉⁁ᴫ

 両調査における

MBO

の導入状況は図表4に示すとおりである。

࿑⴫䋴䇭↥ᬺ⢻₸ᄢቇ⺞ᩏ䈮䉋䉎 㪤㪙㪦 䈱ዉ౉⁁ᴫ 1995 年 2000 年 導入している 57.9%(136社) 79.9%(357社)

導入予定 24.7%(   58社) 11.9%(   53社)

導入予定なし 7.2%(   17社) 4.3%(   19社)

その他 8.9%(   21社) 2.5%(   11社)

不明・無回答 1.3%(       3社) 1.6%(       7社)

合  計 100%(235社) 100%(447社)

出所:[産能大学目標によるマネジメント研究会,1995, p. 11]ならびに

[産業能率大学目標によるマネジメント研究会,2000, p. 5]をもとに 作成。

(19)

䋨䋲䋩 㪤㪙㪦 䈱ዉ౉⋡⊛

 両調査における

MBO

の導入目的に関する調査結果は,図表5に示すとおり である9

࿑⴫䋵䇭↥ᬺ⢻₸ᄢቇ⺞ᩏ䈮䉋䉎 㪤㪙㪦 ዉ౉䈱䈰䉌䈇 1995 年 2000 年 度数(社) 度数(社) 経営ビジョン・経営計画の具体化 138 38.7%

予算の達成 21 15.4% 87 24.4%

成果・業績主義の徹底 82 60.3% 221 61.9%

チャレンジ奨励 37 27.2% 73 20.4%

風土活性化 8 5.9% 38 10.6%

上司と部下のコミュニケーション 97 27.2%

組織と個人の統合 27 19.9% 57 16.0%

個の尊重 5 3.7% 10 2.8%

参画による動機づけ 28 20.6% 44 12.3%

社員の自己統制 4 2.9% 29 8.1%

社員の自己実現(働きがい実現) 13 9.6% 27 7.6%

能力開発 37 27.2% 99 27.7%

人事評価制度の補完 132 37.0%

人材アセスメント 4 1.1%

その他 1 0.7% 4 1.1%

不明・無回答 8 5.9% 2 0.6%

出所:[産能大学目標によるマネジメント研究会,1995,  p.  14,  図表 1 − (5) −①]なら びに[産業能率大学目標によるマネジメント研究会,2000,  p.  8,  図表 1 − (5) −①]

をもとに作成。

9 なお,1995 年の調査では,回答は当てはまるもの 2 つを選択させるものであり,2000 年の 調査では,回答は重視した項目を 3 つ優先順位をつけて選択させるものになっている。また,

2000 年の調査では,調査項目のうち,「成果・実績主義」が「成果・業績主義の徹底」へ,「社 員の自己実現」が「社員の働きがい実現」へと変更され,「経営ビジョン・経営計画の具体 化」,「上司と部下のコミュニケーション」,「人事評価制度の補完」,「人材アセスメント」の 4 項目が追加されている。

(20)

 1995 年の調査結果によると,「成果・実績主義」が群を抜いて高い割合を示 していることがわかる。当時,成果主義人事管理の導入を目的に

MBO

に対す る注目が集まっていた時期であり,それが調査結果にも表れているものと思わ れる。

 ただ,1995 年の調査では,選択項目に組織目標や戦略との関連を問うよう なものは含まれておらず,当時はそうした点についての意識がまだそれほど高 くなかった可能性が考えられる。

 また,2000 年の調査結果では,前回調査と同様に「成果・実績主義」が高 い割合を示しているが,「経営ビジョン・経営計画の具体化」が 138 社(38

.

7%),

「人事評価制度の補完」が 132 社(37

.

0%),「上司と部下のコミュニケーション」

が 97 社(27

.

2%)と,新しく追加された項目の割合が高くなっており,この 時代の導入目的の変化がうかがえる結果となっている。

 この調査では,「目標による管理」の導入時の目的・ねらいに対して優先順 位をつけて回答してもらっており,その結果をみると最も優先度の高い項目は,

「成果・業績主義の徹底」116 社(32

.

5%),「経営ビジョン・経営計画の具体化」

92 社(25

.

8%),「予算の達成」47 社(13

.

2%),「人事評価制度の補完」21 社(5

.

9%)

などとなっている。優先度が 2 番目に高い項目は,「成果・業績主義の徹底」

59 社(16

.

5%),「能力開発」43 社(12

.

0%),「上司と部下のコミュニケーション」

41 社(11

.

5%),「チャレンジ奨励」35 社(9

.

8%),「予算の達成」33 社(9

.

2%),

「人事評価制度の補完」32 社(9

.

0%)などである。[産業能率大学目標による マネジメント研究会,2000

, p.

9]

 したがって,1995 年の調査と同様に,バブル経済崩壊後,「成果・業績主義 の徹底」をはかろうとする企業が多いこと,そして人事評価制度を改革する中 で,「人事評価制度の補完」というニーズも高くなっているようである。しかし,

同調査報告書では,「制度・しくみの精緻化が進み, 人を活かす チャレンジ の奨励や参画への動機づけへの部分が弱くなっていることが気にかかる」[産 業能率大学目標によるマネジメント研究会,2000

, p.

10]と指摘されている。

(21)

䋨䋳䋩 㪤㪙㪦 䈱ㆇ↪⁁ᴫ

 1995 年の調査では,「目標による管理」を導入している企業に対して

MBO

の運用状況を尋ねているが,「修正の必要なし」とした企業が 31

.

8%で,「修正 が必要」とした企業が 59

.

3%であった。[産能大学目標によるマネジメント研 究会,1995

, p.

16]

 そして,「修正が必要」と回答した企業に対して「修正が必要な理由・問題 点」を尋ねている(複数回答)。回答数が多かったのは,「管理監督者の能力 不足」46 社(33

.

8%),「目標達成度の評価」40 社(29

.

4%),「目標設定過程」

38 社(27

.

9%),「目標達成度の処遇への反映」34 社(25

.

0%)などとなっている。

この質問では,選択肢に「経営方針・戦略との連動」という項目があり,これ については 16 社(11

.

8%)の企業が選択している。[産能大学目標によるマネ ジメント研究会,1995

, p.

18]

 さらに,「『目標による管理』の目標設定について」の質問項目として「経 営方針・戦略との連動」について当てはまるものを選択させる質問が設けら れている(複数回答)。この結果は,「経営方針や戦略は,全社目標として具 体化され,社員に明示されている」が 89 社(65

.

4%),「経営方針や戦略は部 門に確実にブレイクダウンされており,部門目標の根拠となっている」が 74 社(54

.

4%),「各自の目標設定は,経営方針や戦略を意識して設定されている」

が 54 社(39

.

7%)となっている一方,「経営方針や戦略は明確でなく,社員に 明示されていない」は 4 社(2

.

9%)に過ぎない。[産能大学目標によるマネジ メント研究会,1995

, p.

19]

 この結果から,経営方針や戦略は具体化・明示化され,部門レベルまでのブ レイクダウンはある程度うまくいっているものの,個人の目標に経営方針や戦 略が反映される割合は低くなっており,

MBO

の修正が必要な理由としての「経 営方針・戦略との連動」の問題とを考え合わせると,やはり,個人の目標と戦 略との連動を通じた

MBO

の戦略の実行という役割に対しては課題が残されて いるようである。

(22)

 また,2000 年の調査でも,「目標による管理」を導入している企業に対して

MBO

の運用状況について尋ねている(回答は運用状況において重視している 項目を 3 つ優先順位をつけて選択させるものである)。その結果,「成果・業績 主義の徹底」281 社(78

.

7%),「経営ビジョン・経営計画の具体化」145 社(40

.

6%),

「人事評価制度の補完」128 社(35

.

9%),「上司と部下のコミュニケーション」

110 社(30

.

8%),「予算の達成」98 社(27

.

5%)となっている。[産業能率大 学目標によるマネジメント研究会,2000

, p.

11]

 この結果を見ると,導入目的としても高い割合を示していた「成果・業績主 義の徹底」が,運用状況としても圧倒的に重視されていることから,

MBO

成果主義人事制度の主要なツールとしてとらえられているという実態を表して いるものと思われる。それに対して,マネジメント・ツールとしての側面であ る「経営ビジョン・経営計画の具体化」は,導入目的ならびに運用状況として も人事管理ツールほどの役割は強調されていない実態を示しているようであ る。

 次に,「『目標による管理』がうまくいっていない理由」をみると(複数回答),

「管理監督者層の能力」196 社(54

.

9%),「成果の評価」190 社(53

.

2%),「目 標設定」186 社(52

.

1%),「業績評価と処遇への反映」151 社(42

.

3%)などとなっ ているが,「経営方針,戦略との連動」を選択した企業が 77 社(21

.

5%)あった。

[産業能率大学目標によるマネジメント研究会,2000

, p.

15]

 この調査結果は,導入目的,運用状況として「成果・業績主義の徹底」を掲 げているが,これがうまくいっていない現状を映し出しているものと思われる。

また,前回の調査より,「経営方針,戦略との連動」を選択した企業が急増し ているが,その背景として,「経営方針,戦略との連動」という目的に対する 意識が高まっていることによって,逆にそこがうまくいっていないことが明ら かになったためではないかと推察される。

 さらに,「『目標による管理』の「目標設定」について」の質問項目として「経 営方針・戦略との連動」について当てはまるものを 1 つ選択させる質問が設け

(23)

られている。この結果は,「経営方針や戦略は部門に確実にブレイクダウンさ れており,部門目標の根拠となっている」が 137 社(38

.

4%),「経営方針や戦 略は,全社目標として具体化され社員に明示されている」が 112 社(31

.

4%),「各 自の目標設定は,経営方針や戦略を意識して設定されている」が 71 社(19

.

9%)

となっている一方,「経営方針や戦略は明確でなく,社員に明示されていない」

は 24 社(6

.

7%)となっている。[産業能率大学目標によるマネジメント研究会,

2000

, p.

16]

 この結果をみると,前回の調査と選択肢の選択方法に違いはあるが,傾向と しては前回と同様の実態が明らかとなっている。すなわち,経営方針や戦略は 具体化・明示化され,部門レベルまでのブレイクダウンはある程度うまくいっ ている一方,個人の目標に経営方針や戦略が反映される割合が低くなっており,

個人の目標と戦略との連動については課題があることがわかる。

 以上,1980 年代後半から 2000 年にかけて行われた 4 つの

MBO

の導入/運 用に関する調査結果についてみてきたが,1990 年代における成果主義人事管 理制度の導入に合わせた

MBO

の導入という流れを裏づける調査結果であると いえる。一方,1990 年代中頃までは,

MBO

の導入/運用に際して戦略との結 びつきについてはそれほど明確に意識されていなかったようであるが,1990 年代中盤以降にそれが意識されるようになると,今度はそこに問題があると認 識されるようになってきていること,そして,個人の目標と戦略との連動を通 じた戦略の実行という役割に対しては課題が残されているということが明らか となった。そこで次に,戦略との連動,結びつきを考慮した

MBO

の議論につ いて検討してみたい。

㸊䋮 ⚻༡ᚢ⇛䈫 㪤㪙㪦

 本節では,

MBO

を戦略に関連づけ,戦略実行のマネジメント・システムと して構想しようとするいくつかの論者の見解について検討してみたい。

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