社会学研究科年報 2021 №28
- 63 - 修士(2020 年度)
中国の都市部における祖父母世代による孫育てからみ る世代間関係
――「421
家庭」の事例を中心に――
鄭 云鵲 1.研究背景と目的
現在、中国では主要な育児パターンのひとつに、祖父母世代による孫育てが挙げられる。
馬・張(2012)は「伝宗接代(家系を継ぐ) 」 、 「天倫之楽(一家団欒の楽しみ) 」といった 伝統的な家族倫理観が影響し、孫のあらゆる発達段階で積極的に関与する祖父母が多いと 述べている。また、孫育ての要因を分析する際に、孫育ては規範的であると言及する研究 が多くみられる(李 2004; 黄 2006) 。しかし、これらの研究は孫育てに関する中国社会の 一般的な規範を指摘しているのみで、地域の特殊性は示されていない。中国の都市部と農 村部は世帯構成や家庭の収入状況、育児環境などが異なるため、孫育ての状況も異なると 考えられる。社会経済の発展と変遷に伴い、家庭の構成も絶えず変化している。特に、都 市部では「計画生育政策」が厳しく実施されたため、家族の規模が小さくなり、核家族化 が進行している。
2010年の第
6回の人口センサス調査結果に基づけば、
0歳から
30歳まで の「一人っ子」は約
1.64億人いると推算された(辜
2016) 。初代の一人っ子世代(
1980-90年代生まれ)がすでに出産適齢期に達し、かれらの多くが親として育児する時期に入った。
一人っ子世代が結婚する場合、一人っ子同士の夫婦、夫婦双方の父母
4人、そしてかれら の子ども
1人という
7人から構成される家族が「421 家庭」と呼ばれている(李 2012) 。 「一 人っ子政策」の解禁とともに、 「二人っ子政策」が実施されている現在の中国では、一人っ 子は減少していくかもしれないが、 「
421家庭」という家族形態は急に消えることはなく、
今後においても変わらず中国の都市部における主要な家族形態の
1つであると考えられる。
このことが「421 家庭」に注目する理由である。
本研究では、まず、孫育ての定義と類型、日本と中国の孫育てに関する先行研究から、
祖父母による孫育てに関する状況を概括する。海口市における「
421家庭」に着目し、孫 育てを引き受ける祖父母世代を対象としたインタビュー調査を通じて、かれらにとって孫 の持つ意味や、孫育てに対するかれらの意識を明らかにする。そして、祖父母世代と孫世 代、祖父母世代と親世代の関係を含む「
421家庭」の世代間関係の実態を明らかにする。
2.研究方法
適切な信頼できるデータを取るために、筆者の、一人っ子で子どもを持つ友人と知人を
介して、かれらの親を紹介してもらう。
8人の調査対象者それぞれに
1時間から
1時間半
程度、半構造化のインタビュー調査を行う。主な質問項目は、①孫を世話する経験、②孫
の世話を引き受ける理由または引き受けない理由、③孫の親に対して、家事支援と経済的
な支援の有無とその理由、④孫の意味――孫ができて何らかの変化があるか、⑤孫世代と
の関係について(理想的な孫の人数と性別選好に言及する) 、⑥親世代との関係について(と
くに将来の老後扶養に注目する)である。
- 64 - 3.調査結果
結論は以下の
3つをまとめていく。①多くの祖父母は「家族本位」の考えをもち、子ど もや孫のために苦労をいとわず、自分の余暇生活を犠牲にしてまで孫の世話をし、またそ れは当然のことだと思っており、消極的な気持ちが見られなかった。その一方で、孫の世 話を引き受けたことがあるが、続けたくないと思う祖父母がいた。その理由は「個人本位」
によるものではなく、子や孫の世話をするために、見知らぬ都市に移住することは祖父母 にとって、新たな挑戦であり、移住生活に適応できない場合もある。故郷から離れて都市 で孫の世話に専念する祖父母は生活の行動範囲は限られているため、家族以外の人々と接 触する機会は少なく、人間関係のネットワークを広げることは困難である。それは孫の世 話を継続する意欲を低下させる可能性をもつ。②孫の存在の意味について、
3人の祖父母 は孫を家庭の未来と希望だとみなし、そして
1人の祖父は孫を家庭の安定を維持する重要 な存在に位置づけている。その一方で、孫が日々の生活における楽しみとなり、精神的な 面にポジティブな影響を与えていると同時に、加齢と孫の世話があいまって、 「疲れ」や身 体的な負担を感じる場合もある。孫の存在の意味は対象者の特性により異なるが、対象者 のうちに、自分の人生に異なる体験をもたらすと考える人は
1人のみだが、家庭内におけ る孫の位置づけの意味を見出している祖父母が
7人いるとわかる。③調査対象者
8人のう ち、親世代と別居している
1人を除き、毎日同居(4 人)や平日・週末のみ同居(2 人) 、 近居をしている
1人の祖父母は、かれらの子どもの家族と緊密な居住関係にある。ほぼ毎 日親世代と同居または近居の場合には、年金や仕事の収入を得て経済的に独立している祖 父母世代は余暇の時間を親世代や孫世代のために使い、積極的に孫の日常的な世話を引き 受けたり、学校への送迎をしたり、親世代に家事の支援や経済的な支援を行っている。祖 母
Fのような家庭において、祖父母世代と親世代の間の経済的な援助の流れが一方向では なく、双方向であることは「
421家庭」の緊密な関係を反映している。その一方で、緊密 な関係が築かれていると同時に、第
2子の出産をめぐる観念の対立も現れる。そして、多 くの祖父母が老人を扶養するのは子女が果たすべき義務であり、老後生活は子どもの側で 過ごそうと考える一方で、子どもが自分を扶養する責任を負うことができるかどうかとい う問題についても懸念している。養老院に行くことが選択肢になるひとつだが、施設自体 の問題や養老院の生活に対する偏見があり、老後生活に対する不安がさらに強くなると予 測される。
参考文献
辜子寅, 2016,「我国独生子女及失独家庭规模估计―基于第六次人口普查数据的分析」『常熟理工学院
学報(哲学社会科学)』1:83-88.
黄詳詳, 2006,「论隔代教育与儿童心理的发展」『経済与社会発展』4(4):20-35.
李鶴, 2012,「现代家庭的倒金字塔模式―析“421”家庭面临的困境」『語文学刊』2012(23):64-65.
李立靖, 2004,「“三女童出走”引发的社会忧虑―贵州省安龙县“留守孩子”热点透视」『中国民族教
育』5:16-19.
馬暁霞・張麗維, 2012,「农村家庭隔代教育的问题分析」『継続教育研究』6:13-15.