道路改良工事における、法面観測および対策工について 長崎振興局 建設部 道路建設課 ◎木戸 正敏 ○持永 修史 1).はじめに 法面においては、現地踏査や地質調査等の事前調査を踏ま えた設計を元に工事を行うが、施工段階において当初想定さ れなかった地質等の発現により、安全を確保するための対策 工事の再検討を要するケースがある。 本件では、その 1 例として現在、整備を進めている主要地 方道 野母崎宿線 茂木工区における地すべりの例(施工済 みの法面)を用いて「法面観測によって新たに確認された地すべり」 と「発生状況およびその対策工」の経緯について紹介し、初期調査 の手法等について提案したい。 2).地すべりの発生状況および法面観測について 本法面付近一帯の基盤岩は、長崎変性岩類に属す る泥質片岩~緑色片岩で、一部ではあるが、片岩は 花崗岩の小岩体をブロック状に取り込んでいた。現 地は崩壊跡をブロック積とモルタル吹付けで復旧 している箇所が観察されるが大きな変状は認めら れなかった。 以上の現地調査結果を踏まえ、平成21年度に地質 調査と設計を行い、平成24年7月に切土及びアンカ ー等の工事を完了していたが、8月17日(震度2)、9 月14日(震度3)の地震および9月5日(107mm/日)の 降雨により、9月14日から18日にかけて表層部の崩 壊が図-1や写真①~③のように確認された。 表層崩壊の対策として「鉄筋挿入工+ 吹付法枠工」(現象①箇所)、「受圧板 背面充填+アンカー再緊」(現象②箇所)、 「仮設鉄筋挿入工」(現象③箇所)を施 し、以後の工事を続行していた。 本法面は、定点観測を行いつつ終了し 図-1 写真 – ③ 写真 - ② 写真 - ① Gr: 花崗岩 Bs: 黒色片岩 Gs: 緑色片岩 凡 例
たが、定点観測の変位が収まらないため、その後の抑制工として「横ボーリング工」や 「大型土のうによる仮押さえ盛土」を実施したが、斜面に「変位(亀裂等)」が確認さ れたため、アンカーの緊張状態を確認する目的で全アンカー対象に「リフトオフ試験」 を実施した。その結果、21本のアンカー中、健全と判断されるアンカーは7本で、残りの 14本の内、「危険な状態になる恐れあり」が3本、「破断の恐れあり」が11本と計画以上 の荷重がアンカーに作用していることが判明した。 3)地すべり状況および対策工の検討について リフトオフ試験の結果から、当初計画したすべりよりも大きな すべりが生じていると考えられることから、新たにボーリング調 査(4本)と孔内傾斜計やひずみ計による地すべり観測を実施し、 現状の把握と対策工 の再検討を実施した。 観測の結果、 H26-No.1 の深度 16.0m に小さな変動 量ではあるが、変動が 確認されたことから、 規模の大きな地すべ りが存在することが 考えられた。また、主 測線上にあるパイプ ひずみ計(3 孔)と孔 内傾斜計(2 孔)につ いて、平均日変動量を 算出して比較すると、 差があるため、規模の 大きな地すべりとは 別にH25-No.3,4,5を 巻き込んだすべりが ある可能性が高いと 考えられた。 以上の結果から、当 該地には、緩慢な動き をする「大すべり」と、 やや滑動的な「小すべ 深 度 別 歪 量 (νstrai n) -600 200 400 600 0 -400 -200 14m 複数の深度で累積する変動を確認するが、 14.0m付近に粘性土を確認しており、降 雨との相関もみられることからすべり面 と考えられる。 13m (mm) 100 50 降水量 130mm/日超 降 水 量
り」の2つの地す べりの存在が考 えられた。 このため、次 の ス テ ッ プ と して、「小すべ り」と「大すべ り」の地すべり ブ ロ ッ ク を 決 定 す る た め に 踏 査 を 実 施 し た。 現 地 踏 査 お よび観測結果を踏まえて検証した結果、「小すべり」と「大すべり」の素因と誘因は次の とおりであった。 [小すべりの素 因] ・基盤岩が破砕さ れた片岩類が分 布し、一部粘土化 していることが 確認されすべり 面を形成しやす い状態であった。 [小すべりの誘 因] ・ブロック積床 掘時に地震や豪 雨によって表層が崩壊していることから(地山に緩みが生じ)進行性破壊のように深部 でも緩みが生じて、地すべりを誘因した。 [大すべりの素因] ・基盤岩が断層破砕帯による破砕された片岩類が分布し、各ボーリング調査のコアで緑 色片岩とその下位の黒色片岩の境界が粘土化していることが確認できることから、地層 境界部に潜在的な断層が存在し過去からすべり面が形成されていたと考えられた。 [大すべりの誘因] ・孔内傾斜計H26-No.1、H26-No.4 の変動状況より豊水期に変動して渇水期にはほぼ停止 計測 機械の変更によりリセット 深度16.0mで0.03mm/日(平均)の 変動を確認 孔内傾斜計変動図 H26 -No1 (X ) H26 -No1 (Y ) 5 10 15 20 25 28 1.5 1.0 0.5 0 深度別変動量 (mm) 100 50 降 水 量 16m 深 度
状態であることが確認できるので、降雨による地下水の上昇に伴って活動を行うものと 考えられた。 続いて、小す べりと大す べりの発 生・運動機構 の総合検討 結果は、次の とおりであ った。 [小すべり] ・小すべりは 「掘削の緩 み」と「地震」「豪雨」 が重なり発生した地す べりであるが、先に打 設したアンカー工の抑 止効果によって崩壊が まぬがれた状態にある。 ただし、リフトオフ試 験結果から、アンカー 鋼材の降伏点荷重の 0.9 倍を超えた状態に あることから、対策工 は、「アンカー工」を追加し、既設アンカーへの荷重を低減させることが有効な工法で あると考えた。 なお、応急対策として計画した横ボーリング工4孔のうち起点側2孔から常に排水され ている状態であり、地下水位の減少が確認されていることから「横ボーリング工」によ る地下水排除工も有効な 対策であると考えられた。 [大すべり] 大すべりは平成24年度 の法面工事以前から緩慢 に活動していたものと考 大すべりの すべり面 小すべりの すべり面 最高地下水位 観測データとコア写真からの変動位置 変動量が小さいことからすべり面が緩いと想定し、地形の 勾配に平行とした 地質構造に規制された地形が確認できないため円弧とした 観測水位の最高水位 すべり面 と平行とし た L=135m H25- No3 H25- No4 H25-No5 H26- No4 H26- No1 大すべり地すべり形状図
えられるが、豊水期における平均日変動量は0.03mm/日であり、地すべり事業における概 成(※)にあたる速度であった。このため、現状の安全率としては、ほぼ計画安全率に近 い状態にあるものと考え、横ボーリングによる地下水排除工ならびに部分的に切土によ って押え側の土塊が無くなっているので、小すべりに計画するアンカー力をこれに変え ることで大すべりの安定を確保するものとした。 ※概成 地すべりのメカニズムは複雑であり、対策工事で地すべりを完全に止めることは大変困難である。このため、実害が ない程度に地すべりの動きが減速した状態、あるいは将来的に動き出す可能性がないとは言えないが止まった状態を 確認して「概ね成った」と考え「概成」と呼ぶものである。 4)現状の安全率について 安定解析を行うにあたり、対象案件が対策工(押え盛土、横ボーリング工)を施して ある状況であり、解析対象としては非常に稀なケースであるが「現状の安全率(※以下 Fsと略す)」への評価は次のとおりに考えた。 [小すべり] 小すべりは、既設のアンカーに よって安定が確保されている状態 であり、仮に既設アンカーが整備 されていなければ、降雨に関係な く地すべり活動が発生している状態 と考えられ、現状としてはFs=0.95 と 設定した。 [大すべり] 大すべりは、地すべりとしては、ほ ぼ停止している状態であると考えられ ることから、「道路土工 切土工・斜面 安定工指針 平成21年6月(社)日本道 路協会」を参考にし、現在活動してい ない風化岩地すべりの現状の安全率の 安定している場合の値として、現状と してはFs=1.15 と設定した。 5)対策工の選定について 工法および当該箇所での適用性を踏まえて検討した結果、本件では対策工を抑制工と 抑止工の2つを実施することとした。 1つ目は「横ボーリング工(深層地下水排除工)」で、「梅雨や台風などの降雨への対 策」や「地下水が比較的深い位置にある」こと、「横ボーリング工によって排水の実績
がある」ことから採用した。 2つ目は追加の「アンカー工」 で、小すべりに対して既設アンカ ーは効果を発揮しており、プレス トレスを作用できるため、荷重を 地山に作用させることで既設アン カーの荷重を低下させることが可 能となることから採用した。 6)終わりに 当初(平成 21 年度)、今回の新 たな地すべりが想定できなかっ た主な原因の1つとして、現地の 状況(基盤岩分布や崩壊跡)や、 これらの調査結果を踏まえると、 当時の検討対象法面約 300㎡が狭 く、ボーリング調査等の箇所数(2 箇所・10m間隔)が少ないことが 考えられる。 茂木町以南の工区においては、 脆い地層が度々確認され、「想定外の地すべり」や「掘削施工中の法面の崩落」という過 去の出来事があったにも関わらず、当初調査で「現地調査で崩壊跡をブロック積とモル タル吹付けで復旧している箇所が観察された」としながらも「大きな変異が確認されな い」と評価してしまったことから、地すべり等の不安要素を考慮した現地踏査の拡大や、 それに基づく地質調査の追加ならびに孔内傾斜計などによる変動観測は行われていなか った。これらが当初から実施されていれば、地質調査の解析結果や、それに基づく設計、 ひいては施工中の表層崩壊は回避できた可能性は高いと考えられる。 このように、過去の実績が根強い地域で地質調査を行う場合は、現地着手後の手戻り や事故等が生じないよう、たとえ初期調査費用が高く、時間を要してでも、現況を把握 する主要な調査である「現地踏査やボーリング調査、変動観測等」の位置(範囲)およ び箇所数が少なくなりすぎることが無いよう、Webシステム活用などによる過年度資 料入手等によって幅広い情報収集を行った上で、「現地踏査の範囲」や「ボーリング調査 の頻度(本数と間隔)」、「変動観測」について慎重に協議・調整・判断を行うことが欠か せられないと考える。 現在、本法面の工事ならびに茂木トンネル工事においては、追加の変動観測を行いつ つ、臨機対応が図れる体制で、現地着手している。 この付近の地下水 低下を目的とする 新設横ボーリング工 H25-No3 H25-No5 横ボーリング工図 横ボーリング工 アンカー工 H25-No3 H25-No4 H25-No5 No22 標準断面図 H26-No1 H26-No4