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第 28 回 臨床内分泌代謝 Update Proceeding 5 下垂体細胞腫 pituicytoma の臨床的特徴と術前診断の意義 日本医科大学 大学院医学研究科 解剖学 神経生物学分野 1 日本医科大学脳神経外科 2 服部裕次郎 1 2 田原 森田 明夫 2 重志 2 喜多村孝雄 2 久保田

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下垂体細胞腫

pituicytoma

の臨床的特徴と術前診断の意義

日本医科大学 大学院医学研究科 解剖学・神経生物学分野1) 日本医科大学脳神経外科2) 服部裕次郎1)、2) 田原 重志2) 喜多村孝雄2) 久保田麻紗美2) 石坂栄太郎2) 森田 明夫2) はじめに 下垂体細胞腫(pituicytoma)は下垂体後葉に由来する WHO gradeⅠに分類される良性腫瘍であるが、2017年 に改訂されたWHO内分泌腫瘍第4版において、新たに 「下垂体後葉腫瘍」という概念が提唱された1) 。それらは pituicytoma、granular cell tumour of the sellar region、 spindle cell oncocytoma、sellar ependymomaの4種 の 良性腫瘍からなり、いずれもthyroid transcription factor - 1(TTF-1)を核内に発現していることが特徴であると今 回明記された。しかし、非常に稀な腫瘍であり全世界的 にも報告が少なく、その臨床像はいまだ不明な点が多い。 一方、pituicytomaの画像所見が下垂体腺腫と非常に 似ているという報告2)-4) があり、一見すると診断を誤っ てしまう可能性がある(Fig.1)。下垂体腺腫と異なり、 pituicytomaは血流豊富ゆえ術中出血に悩まされる腫瘍 であるため、術前の情報から正確に診断する必要性が求 められる。 1.目的・方法 Pituicytomaの臨床的特徴を見出すべく、当院で内 視鏡下経鼻的腫瘍摘出術を施行した全症例を検索し た。2001年11月から2018年5月までの1,675症例中、 pituicytomaは5症例(0.3%)であった。うち1例は再発 し再手術となったため計6手術例を対象とし、臨床的特 徴を後方視的に検討した。 2.結  果 患者はいずれも男性であり、初回手術時の平均年齢は 58.6歳(41-81歳)であった。手術に至った経緯は視野障 害、副腎不全、性欲減退、偶発腫など多様であった。一方、 尿崩症を来した例は認められなかった。内分泌学的検査 では下垂体前葉ホルモンの3種(LH, FSH, GH)の低下を 1例で認めた他は、いずれも汎下垂体機能低下を呈して いた。MRI画像上の特徴としては、全例ともT1強調画 像にて灰白質と比較し等信号、T2強調画像にて等~高 信号を呈し、腫瘍局在としては4例が鞍内から鞍上部に かけて存在し、純粋な鞍上部発生例は1例のみであった。 また、正常下垂体を腫瘍前方に認めた例は1例のみで あった。全例とも腫瘍周囲ないし腫瘍内にflow voidを 認め、強いガドリニウム造影効果を示した。脳血管撮影 を施行した症例では豊富な血流を反映し非常に強く濃染 された(Fig. 2)。

Fig.1.当院における pituicytoma と非機能性腺腫の MRI 所見(各 2 例ずつ)

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この6手術例の術前診断として、手術経験順に並べた ときの前半2例は下垂体腺腫を考え手術を、後半4例は 我々の経験も蓄積してきたことからpituicytomaも鑑別 にあげたうえで手術を行った。下垂体腺腫を念頭に手術 を行った前半2例では、術中に予期せぬ出血に苦慮し、 腫瘍は部分摘出にとどまった。術中出血量は平均1,350ml (1,000-1,700ml)であり、1例は術中輸血を必要とした。 一方、pituicytomaも考慮した後半4例では、術中出血 に対応すべく術中ワーキングスペースを通常よりも広く 確保する工夫(両鼻アプローチ、鼻腔の狭い症例では中鼻 甲介の部分切除、篩骨胞を大きく開放、など)や先端だけ が開き深い術野でも小回りがきくバイポーラを準備する などした結果、出血量を平均212ml(75-399ml)と大幅に 抑えることができた。また、4例とも肉眼的に全摘出が でき、その後も再発を認めず経過している。永久標本所 見では、紡錘形の核をもつ好酸性の細胞がシート状に増 生し、TTF-1やS-100がびまん性に陽性であり、全例と も病理学的にpituicytomaの診断であることを確認した。 3.考  察 これまでにpituicytomaに関して100例以上の報告が あるが、TTF-1を調べていないものなども多く含まれ ており、WHO内分泌腫瘍第4版が出版された現在から 後方視的にみるとpituicytomaと断定できないと思われ る症例も存在すると考えられた。今回、術前の情報から pituicytomaと画像所見が似ている下垂体腺腫を鑑別す る目的のもと、過去文献のうちTTF-1陽性かつ術前情 報の記載のある症例に絞り、条件に合致した23文献63 症例を対象として検討した2)-24) 。 手術に至った経緯は自験例と同様、視機能障害、頭 痛、副腎不全など多様であり、尿崩症の記載があったも のはわずか4例のみであった。下垂体後葉由来の腫瘍 でありながら尿崩症をほとんど認めない理由は明らかに なっていないが、バソプレシン産生ニューロンの存在す る視床下部に障害が及ぶ例が少ないからではないかと考 えられる。画像所見として、flow voidや腫瘍前方の厚 い下垂体前葉などがpituicytomaに特徴的であると報告 されているが、本症例ではflow voidは全例に認めたも のの、下垂体前葉の前方偏在は1例のみ認めただけで あった。非機能性下垂体腺腫の自験例でflow voidを認 めた例はなく、やはりflow voidは術前診断の鑑別に有 用であると思われた。内分泌学的特徴に関しては、自 験例を加えたpituicytoma 68例と、年齢性別をマッチ させた同数の非機能性腺腫自験例とを比較したところ、 pituicytomaでは汎下垂体機能低下を来す例が多かっ た(22%vs 4%)。また、各68例中、部分型下垂体機能 低下を認めた症例はそれぞれ約20数例いたが、そのう ちGH分泌不全(GHD)を認めた割合は非機能性腺腫 (23/23, 100%)と比べpituicytoma(5/22, 24%)では有意 に少ない、すなわち、GHが正常でそれ以外のホルモン 分泌不全を認める場合は非機能性腺腫よりpituicytoma を考えやすいことが見出された。 結  語

Pituicytomaの臨床的特徴として、MRIでflow void を認めやすい、汎下垂体機能低下を来す例が多いが尿崩 症はまれ、部分型下垂体機能低下例ではGH以外が障 害されやすい、などの点が見出された。Pituicytomaは 血流豊富な腫瘍であるため、それらの点をふまえ、術前 に鑑別として挙げられれば、術中出血に対応するための 準備が可能となり、術中出血量が大幅に抑えられる可能 性がある。 Fig.2.pituicytoma の鞍上部発生例の自験例 T1 強調画像(A:単純、B:造影)で強く造影される鞍上部腫瘍を認める。T2 強調画像(C)では腫 瘍内にflow void が確認される(三角)。脳血管撮影(D, E)で非常に強く濃染されている(三角)。

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下垂体炎との鑑別に難渋した節外性

NK/T

細胞リンパ腫鼻型

の下垂体転移の

1

山形大学医学部附属病院 第三内科1)  同 脳神経外科2)  同 病理診断学3)  山形市立病院済生館 内科4) 石井 康大1) 亀田  亘1) 羽田幸里香1) 長谷川 慎1)、4) 海野  航1) 塩野 洋介1) 高窪 野恵1) 高瀬  薫1) 多田 杏子1)  宇都宮 文3) 伊藤美以子2) 諏佐 真治1) 園田 順彦2) 山川 光徳3)  石澤 賢一1) 緒  言 転移性下垂体腫瘍は傍鞍上部腫瘍の約1%と稀である が、近年、悪性腫瘍の長期生存に伴い、増加していると 報告されている1) 。 今回、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型(ENKL)が寛解 状態の患者に下垂体腫大、汎下垂体機能低下症が発症し、 リンパ球性下垂体前葉炎との鑑別に難渋した症例を経験 した。診断により、治療内容、予後が大きく異なるため、 重要な症例と考え、報告する。 1.症  例 【症 例】36歳、男性。 【主 訴】全身倦怠感、左眼瞼下垂。 【既往歴】アレルギー性鼻炎(スギ花粉) 【生活歴】喫煙:10本/日×10年、6年前より禁煙。飲 酒:機会飲酒。 【家族歴】特記事項なし。血液疾患なし。内分泌疾患なし。 【現病歴】201X-1年2月頃より左鼻閉感があり、近医耳 鼻咽喉科を受診して、アレルギー性鼻炎の診断にて、抗 ヒスタミン薬で改善した。同年4月より左鼻出血があ り、同院を再診し、左鼻腔内に腫瘤性病変を認めたため、 4月5日に当院耳鼻咽喉科へ紹介された。同部位の生検 を行い、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型(ENKL)の診断 を受け、5月8日に当科の血液内科グループを受診し、 同日に入院した。5月10日より放射線化学療法として 50Gy/25fr+2/3DeVIC(デキサメタゾン、エトポシド、 イホスファイド、カルボプラチン)療法を3コース行い、 完全寛解に至り、6月27日に退院した。201X年1月の CTでは副鼻腔病変は完全寛解を維持していた。 同年1月下旬より全身倦怠感が出現し、その後も改善 なく、2月3日に当院救急外来を受診した。CTで副鼻 腔病変の増大は認められず、感冒として加療を受けた。 その後も全身倦怠感は改善なく、2月13日に左眼瞼下 垂が出現したため、当院眼科を受診した。左動眼神経麻 痺、左視力低下を認め、脳MRI検査、採血を施行した。 下垂体腫大、低Na血症を認め、当科の血液グループと 内分泌代謝グループへ紹介を受け、入院した。 【入院時現症】身長166.3cm、体重68.4kg、BMI 24.7、 JCS0、体温36.4℃、血圧114/71mmHg、脈拍50/分・整、 SpO2 97%(室内気)。頭頚部:眼瞼結膜貧血なし、眼球 結膜黄染なし、瞳孔2/4mm、対光反射は左で消失、左 眼瞼下垂、左眼の上転・下転・内転障害あり。視力:右1.0、 左0.08。視野:左下鼻側暗転あり。表在リンパ節触知なし。 胸部:心音整、心雑音なし、ラ音なし。腹部:平坦、軟、 圧痛なし、グル音あり、肝脾腫なし。四肢:下腿浮腫なし。 【血液・生化学所見】 好酸球増多、低Na血症を認め、副腎不全を疑う所見 を認めた。内分泌学的検査の基礎値では、FT3、FT4、

TSH、ACTH、Cortisol、DHEAS、LH、FSH、 テ ス ト

ステロン、GH、IGF-1の低値であり、汎下垂体機能低

下症の所見を認めた。下垂体炎を疑う検査所見である IL-2 receptor、 抗 核 抗 体、IgG4、ANCA、ELISPOTは 全て陰性だった(表1)。 【画像検査】 脳造影MRI検査では、下垂体柄から下垂体にかけて 全体的に造影効果の強い腫大を認め、視交叉と視神経の 圧迫、左動眼神経の圧迫が認められた(図1)。 表1.入院時検査所見

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2.経  過 入院後、緊急処置としてデキサメタゾン6.6mg/日 の 点 滴 加 療 を 開 始 し た。CRH+TRH+LHRH+ GHRP-2負 荷 試 験 を 行 い、ACTH、TSH、LH、FSH、 GHの分泌低下を証明し、汎下垂体機能低下症と診断 した。デキサメタゾン6.6mg/日の投与3日後に左動眼 神経麻痺は改善し、第7病日のMRI検査では下垂体腫 大は縮小した。下垂体生検は延期し、第4病日よりプ レドニゾロン20mg/日から漸減した。鑑別としては、 ENKLの下垂体転移の他、リンパ球性下垂体前葉炎、胚 細胞腫などステロイドで縮小する疾患を想定しつつ、経 過観察した。 ステロイド投与後も尿崩症はなく、第8病日よりレボ チロキシンNa25μg/日から開始し漸増した。第25病日 のMRI検査で下垂体は軽度増大するも自覚症状なく経 過観察したが、第33病日に左眼瞼下垂、複視が出現し、 第35病日に施行したMRI検査では、下垂体は更に増 大を認め、第44病日に下垂体生検を施行した。 病理所見では、中型~大型のリンパ球様異型細胞の増 殖が見られ、アポトーシス小体が多く認められた。血 管増生はあるが、血管破壊像は目立たない。また、下 垂体前葉細胞の残存が認められた。リンパ球様異型細 胞 はCD2陽 性、CD3陽 性、CD20陰 性、CD56陽 性、 Granzyme B陽性、TIA-1陽性、EBERISH陽性、Ki-67 LI 90%であり、ENKLの転移性下垂体腫瘍と診断した (図2)。 図2.病理組織標本 a)HE 像、b)CD2 陽性、c)CD3 陽性、 d)CD56 陽性、e)EBERISH 陽性、f)Ki-67 LI 90% 図1. 造影 MRI(第 1 病日:全脳条件、第 7、25、33 病日:下垂体条件)

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第66病日より再発ENKLに対する化学療法として、 SMILE療法(デキサメタゾン、メトトレキサート、イホ スファミド、L-アスパラギナーゼ、エトポシド)を開始 した。2サイクル施行予定だったが、2サイクルday4 以降は肝機能障害のために中止した。治療効果は完全寛 解であり、妹より同種造血幹細胞移植を行った。 現在、移植後7ヶ月時点おいて、明らかなリンパ腫の 再発は認めていないが、ぶどう膜炎、眼球周囲炎が生じ ており、再発や放射線照射後の炎症を鑑別に精査を行っ ている。ホルモン補充療法としては、ヒドロコルチゾン 20mg/日、レボチロキシンNa100μg/日、テストステロ ン125mg/月で投与を行い、安定している。 3.考  察 ENKLは悪性リンパ腫の1種で鼻腔周囲に好発する NK(natural killer)細胞の腫瘍である。初発症状として は、鼻閉、鼻汁、鼻出血がほとんどである。進行例では 鼻の腫脹や壊死を認めることもある。診断は、病理組織 学的所見として、腫瘍細胞が中~大型でびまん性に浸潤 し、凝固壊死を伴い、血管中心性・破壊性増殖を認め ることが多い。細胞表面マーカーとしてはCD2陽性、 CD3陽性、CD20陰性、CD56陽性を示し、EBウイル ス感染を示すEBERの検出が重要な所見である。本邦 では全悪性リンパ腫の約3%を占め、欧米での約1%に 比較して、東南アジアに多い。月単位で進行する中悪性 度に該当し、限局期の初回治療としては、放射線化学療 法で5年生存率72%2) であり、進行期、再発・難治例 では大量化学療法を行い、5年生存率24%3) である。そ の後に移植可能であれば造血幹細胞移植を行う4) 。 転移性下垂体腫瘍は、下垂体外原発の悪性腫瘍が下垂 体に転移して生じる。剖検例としては、悪性腫瘍の数~ 30%と高率に認められるが、臨床的には下垂体部腫瘍 の約1%と稀である。原発巣としては、肺癌が37%で 最も多く、悪性リンパ腫の転移は約5%と報告されてい る5) 。固形癌が原発の場合の画像所見としては、鞍隔膜 裂孔部でくびれをつくり、ダンベル型に増殖することが 多いと報告されている5) 。また、転移性下垂体腫瘍の下 垂体機能としては、非機能性下垂体腺腫による汎下垂体 機能低下症と比較して、尿崩症症状を伴いやすいことが 特徴としてあげられる5)、6) 。本症例においては、リンパ 球性下垂体前葉炎と同様にMRI検査所見では、造影効 果の強い下垂体全体の腫大を認め、臨床症状では下垂体 前葉機能低下を来したが、後葉症状としての尿崩症を来 さなかった。悪性リンパ腫の下垂体転移の場合には、固 形癌の下垂体転移とは症状の生じやすさが違う可能性も 示唆された。これについては症例の集積が必要と考える。 また、左動眼神経麻痺による緊急処置のため、ステロ イド使用したことで、下垂体腫大が縮小したことも診断 に難渋した一因だった。ステロイドで縮小する腫瘍には 良性疾患の下垂体炎の他に悪性疾患の転移性下垂体腫 瘍、胚細胞腫を想定する必要がある。本症例は、どちら も鑑別にしつつ、血液内科、内分泌内科、脳神経外科で 慎重に観察した。再増大時に下垂体生検を施行し、診断 に至り、治療介入できたENKLの転移性下垂体腫瘍の 1例であった。 結  語 初発時点の経過では、転移性下垂体腫瘍の診断が困難 な場合があり、下垂体腫大を認めた場合には、下垂体炎 の他にも転移性下垂体腫瘍も念頭におく必要がある。ま た、ステロイドで縮小する下垂体腫大は下垂体炎の他に、 胚細胞腫、転移性下垂体腫瘍などの可能性を考慮する必 要があり、適切な時期に生検術も行うべきである。 文  献

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(7)

急速に腫瘍が増大し悪性転化が疑われた

Cushing

病の

1

徳島大学病院 内分泌・代謝内科1)  徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学2)  徳島大学病院 脳神経外科3) 吉田守美子1) 原  倫世1) 山口 佑樹1) 近藤 剛史1) 遠藤ふうり1) 筒井 康継1) 桝田 志保1) 倉橋 清衛1) 明比 祐子1) 遠藤 逸朗1) 粟飯原賢一1) 安倍 正博2) 中島 公平3) 福本 誠二1) まえがき Cushing病のうち、浸潤性のマクロアデノーマは全摘 が困難で、再手術や放射線治療を行っても治療抵抗性と なることがある。また非常にまれであるが、脳脊髄播種 や遠隔転移をきたし下垂体癌と診断される症例もある。 浸潤性の高い難治性下垂体腫瘍や下垂体癌の治療は腫瘍 摘出の他に放射線治療、薬物療法(パシレオチド)、化学 療法(テモゾロミド)が行われるが、それぞれの適切な施 行時期、方法、組み合わせについては、各施設で試行錯 誤しているのが現状である。我々が経験した、

aggres-sive corticotroph adenomaに対して複数回の手術・放射

線治療を行ったものの、7年の経過で悪性転化したと考 えられ腫瘍死した症例を提示する。 1.症  例 【症例】初診時年齢47歳、女性 【主訴】視力低下、視野異常、複視 【現病歴】43歳時に糖尿病と脂質異常症を指摘、46歳 頃より体重増加と満月様顔貌を自覚した。47歳時に視 力低下、視野異常、複視を自覚し、運転ができなくなり 近医を受診した。頭部CT検査で鞍上部腫瘍を認め、当 院脳外科に紹介された。MRIで海綿静脈洞浸潤を伴う 3cmの下垂体腫瘍を認め、ACTH 353.8pg/ml、cortisol 34.8ug/dlより、Cushing病が疑われた。 【初診時現症】身長156.3cm、体重55.4kg、BMI 22.6、 血圧131/94mmHg、脈拍85回/分・整、体温36.4℃。 満月様顔貌、buffalo hump、口周囲の痤瘡、背部の多毛、 皮膚菲薄化、皮下溢血点、軽度の四肢筋力低下などの Cushing徴候を認め、神経学的所見では右眼の視力低下 と右耳側半盲を認めた。 【既往歴】39歳 直腸癌で開腹手術および術後化学療法、 39歳 右卵巣腫瘍(奇形腫)切除。 【嗜好歴】喫煙なし、飲酒なし。 【家族歴】父 糖尿病、兄 直腸癌で35歳で死亡、祖 母 乳癌。下垂体腫瘍や内分泌腫瘍はなし。 【初診時検査】尿検査異常なし。末梢血:Hb 13.9g/dl、

WBC 6,300/ul(neutro 76.6%、eosino 0.2%、baso 0.5%、 mono 4.0%、lympo 17.2%)、Plt 25.6万/ul。生化学: T-bil 0.9mg/dl、AST 16U/l、ALT 27U/l、LDH 370U/l、

γGTP 49U/l、BUN 13mg/dl、Cr 0.89mg/dl、Na 145mEq/l、K 4.2mEq/l、Cl 102mEq/l、Ca 9.9mg/dl、 TG 254mg/dl、LDL-cho 242mg/dl、HDL-cho 85mg/dl、 FBS 99mg/dl、HbA1c 6.3%。

【 内 分 泌 学 的 検 査 お よ び 下 垂 体 造 影MRI】ACTHと cortisol日 内 変 動 は、7時ACTH 312.5pg/ml、cortisol 22.6ug/dl、23 時 ACTH 315.3pg/ml、cortisol 20.7ug/ dlと 消 失 し、 尿cortisol排 泄 量342.3ug/日、DHEA-S 200ug/dl。デキサメタゾン抑制試験は、0.5mgでACTH 351.1pg/ml、cortisol 20.7ug/dl、8mg で ACTH 375.8pg/ ml、cortisol 28.1ug/dlと少量・大量ともに抑制を認めず。 DDAVP試験ではACTHの反応を認めず、嚢胞変性を 伴う大きな腫瘍のため術前のCRH試験は施行しなかっ た。その他のホルモンは、TSH 0.71uU/ml、FT4 0.67ng/ dl、PRL 31.5ng/ml、GH 0.4ng/ml、IGF-1 234.8ng/ml、 LH 0.8mIU/ml、FSH 5.2mIU/ml、E2 19pg/mlと 一 部 の下垂体機能低下症を伴っていた。原発性副甲状腺機能 亢進症や膵腫瘍は認めずMEN1は否定的であった。下 垂体造影MRIでは、トルコ鞍上部への進展、海綿静脈 洞浸潤(特に右側)を伴う3cm大の下垂体腫瘍を認め、 内部に嚢胞変性を有していた(図1)。以上よりCushing 病と診断した。 図1.初診時下垂体造影 MRI

(8)

【治療経過】

①Hardy手 術 を 行 い、 病 理 所 見 で はACTH陽 性 で、 TSH、PRL、LH、FSH、GHは陰性、Crooke変性を 伴うcorticotroph adenomaと診断した。MIB-1陽性 率10%と高く、SSTR2 30~40%陽性、SSTR5 5%陽 性であった(図2)。初回Hardy術後も腫瘍は右側の大 部分が残存し、ACTH 299.8 pg/ml、cortisol 26.6ug/ dlとホルモン値も低下せず、高cortisol血症に対して メチラポン1,000mg/日とヒドロコルチゾン10mg/日 による治療を開始した(図3)。 ②図3に初回Hardy術後の経過を示す。残存腫瘍は術後 早期より増大傾向であり、術後4か月(初診から6か 月)でACTH 419.7pg/mlと増加し、右海綿静脈洞部に γナイフ治療(最大線量32Gy、辺縁線量16Gy)を行っ たが、ACTHの低下は認めなかった。γナイフ治療後 も右海綿静脈洞の残存腫瘍は徐々に増大し、Cushing 病には適応外であったが、腫瘍がSSTR2陽性であっ たことからオクトレオチドLAR 20mg/4週も併用した が、明らかな腫瘍縮小効果やACTH低下は認めなかっ た。初診から1年3か月後には右眼視力低下が出現し、 開頭腫瘍摘出術を施行した。腫瘍は大部分が摘出でき たが右海綿静脈洞には残存し、ACTHは400pg/ml台 から200pg/ml台に低下した。その後、視野障害の進 行があり、右海綿静脈洞部に2回目のγナイフ治療 (最大線量36Gy、辺縁線量18Gy)を施行した。初診か ら2年4か月の時点で再び視野障害が進行し、右海綿 静脈洞から視神経周囲の腫瘍に対して2回目の開頭腫 瘍摘出術を施行した。視神経周囲に腫瘍は残存するも ACTHは200pg/ml台 か ら160pg/mlに 低 下 し、 cor-tisolも7.0ug/dlに低下したためメチラポンは中止し、 汎下垂体機能低下症に対してヒドロコルチゾン10mg/ 日の補充のみ継続した。ACTHは十分なヒドロコルチ ゾン補充でも150pg/mlから抑制されず、生理活性の 低いACTHが腫瘍から分泌されていると診断した。3 年7か月の時点で右視神経周囲の残存腫瘍の増大を認 め、右視神経周囲に定位強度変調放射線治療(中心線 量54Gy、辺縁線量48Gy)を追加した。その後右海綿 静脈洞部の病変は嚢胞変性などの治療後変化を認めた が、3年に渡って再発の所見は認めなかった。 ③初診から4年が経過したころから斜台部に腫瘤影が出 現し、徐々に増大傾向を認めていたが、ACTHおよ

びcortisolに 変 化 は な く(ACTH 140pg/ml、cortisol 6ug/dl前後)、経過観察していた(図4)。6年が過ぎ

たころから斜台部腫瘍は急に増大し、ACTHも再上

昇した。パシレオチドLAR 40mg/4週を2回投与す

るも(Cushing病に承認前)、腫瘍にもACTH値にも 効 果 が な く、ACTH 485.9pg/ml、cortisol 58.0ug/dl

に上昇し、メチラポン最大1,750mg/日を使用して 高cortisol血症の管理を行った。経過より斜台部腫瘍 はACTH産生腫瘍の再発と判断し、大阪市立大学病 院で経鼻内視鏡下経斜台到達法にて斜台部腫瘍摘出 術を行い、腫瘍は肉眼的に全摘できた。腫瘍細胞は ACTH陽性で、ホルモン値もACTH 529.6→38.3pg/ ml、cortisol 29.7→4.6ug/dlに 低 下 し た。 病 理 所 見 では、多数の核分裂像を認め、Ki-67は多いところで

30%に陽性で、Crooke変性、oncocytic changeを認

めた(図5)。また、画像では原発の鞍上部腫瘍と斜台 部腫瘍との連続性は認めなかったが、近接する部位で あり、臨床的に播種より浸潤(異所性再発)と考えるの が妥当と診断した。 ④斜台部腫瘍手術から2か月後(初診から6年10か月 経過時点)に、ACTHが再び上昇し始め、斜台部の再 発はなく、右海綿静脈洞に右内頚動脈を巻き込むよう に腫瘍が出現した(図6左)。間もなく外転神経麻痺さ らに動眼神経麻痺が出現し、腫瘍は急速に増大し右視 神経管への進展を認めた。病院内倫理委員会に適応外 使用を申請し、テモゾロミド150mg/m2/日×5日を 開始したが腫瘍縮小は得られなかった。また、腫瘍増 大に反してACTHは30pg/ml台まで低下し、腫瘍細 胞が脱分化しACTH産生能が低下したことが示唆さ れた。テモゾロミド3コースが終了した直後に、眼 球突出と意識障害で緊急入院した。右海綿静脈洞から 発生した腫瘍は、副鼻腔、眼窩、右大脳半球方向に著 明に増大し、腫瘍辺縁には出血を伴い、右大脳半球、 脳幹の圧排・浮腫を認めた(図6右)。ACTH 30.1pg/ ml、cortisol 2.8ug/dlで、LDHが2,337U/lと 著 増 し ていた。可溶性IL-2受容体は530U/mlと上昇はなく、 全身CTでは明らかな転移病変はなく、腫瘍マーカー は各種陰性であった。副鼻腔内には非常に柔らかい白 色腫瘍が充満し、生検を行うも壊死組織のみで腫瘍の 病理診断は困難であった。また髄液細胞診は陰性で あった。パシレオチドを投与するも効果はなく、全身 状態不良で放射線治療に耐えうる状況になく、ステロ イドで症状を緩和し、緊急入院後約2週間で腫瘍増大 により永眠した。剖検は家族の承諾が得られず行わな かった。 ACTH陽性 TSH, PRL, LH, FSH, GH陰性 Crooke変性を伴う corticotroph adenoma MIB-1陽性率10% SSTR2 30-40%、SSTR5 5%陽性 HE CAM5.2 ACTH 核周囲にヒアリン沈着(Crooke変性)を認める 核周囲に強陽性 図2.初回手術病理所見

(9)

ACTH(pg/ml) 419.7 428.4 247.7 233.9 183.1 cortisol (ug/dl) 23.6 16.3 10.0 14.4 6.6 Hardy 手術 右海綿静脈洞部γナイフ 最大線量32Gy 辺縁線量16Gy 開頭腫瘍 摘出術 開頭腫瘍 摘出術 右海綿静脈洞部 γナイフ(2回目) 最大線量36Gy 辺縁線量18Gy 定位強度変調放射線 治療(右視神経周囲) 中心線量54Gy 辺縁線量48Gy 初診から の経過 6か月 1年3か月 右眼視力低下 右側残存腫瘍 術後早期より増大 1年7か月 2年4か月 右視神経周囲 残存腫瘍増大 3年7か月 視野障害進行 視野障害進行 メチラポン1000mg+ ヒドロコルチゾン10mg オクトレオチドLAR(適応外) 20mg/4W ヒドロコルチゾン 10mg ACTH(pg/ml) 143.3 334.3 485.9 cortisol(ug/dl) 6.6 10.8 58.0 オクトレオチドLAR(適応外) 20mg/4w ヒドロコルチゾン10mg 4年3か月 6年2か月 6年7か月 2回投与するも 効果なし メチラポン(最大1750mg/日) パシレオチドLAR 40mg/4w(承認前) 経鼻内視鏡下 経斜台到達法にて 斜台部腫瘍摘出 (術後) 手術前 手術直後 529.6 38.3 29.7 4.6 初診から の経過 ヒドロコルチゾン 10mg HE 多いところは30% Ki-67 核分裂像 Crooke変性、oncocytic changeを認める HE CAM5.2 6年10か月 7月1か月 7年2か月 テモゾロミド 150mg/m2/日×5日 3コース 眼球突出 動眼神経麻痺 ヒドロコルチゾン 10mg ACTH(pg/ml) 106.5 55.1 33.5 cortisol(ug/dl) 4.3 3.4 2.8 Gd 3D FIESTA-C T2 20mg 初診から の経過 7年3か月 MultiPlanar Reconstruction 副鼻腔内腫瘍 パシレオチド LAR 40mg 図3.治療経過(1) 図4.治療経過(2) 図5.斜台部腫瘍病理所見 図6.治療経過(3) 2.考  察 本例は、初回Hardy手術の病理所見でCrooke変性を 伴い、またKi-67 labeling indexが高く、病理所見は経

過とともに増悪していった。Crooke変性を認める腺腫 は浸潤性のマクロアデノーマが多く、aggressiveな経過 をたどるものが多いとされているが、病理診断で下垂体 癌を予測・診断することはできないとされている1) 。本 例は多臓器転移や頭蓋内播種は明らかでなく下垂体癌の 定義には該当しなかったが、最後の数か月の腫瘍の増大 のスピードは臨床的には癌といえる経過であった。下垂 体腺腫が下垂体癌に悪性転化したのか、別の悪性腫瘍が 発生したのかは画像だけでは確定診断できなかったが、 ACTHが腫瘍増大とともに低下したことから、腫瘍細 胞が脱分化しACTH産生能を消失したと考えられ、下 垂体腺腫が悪性転化した可能性を強く疑った。放射線治 療は悪性転化や二次発癌を招くリスクがあり2) 、本例で も複数回の放射線治療が転帰に影響した可能性は否定で きなかった。 経口アルキル化剤であるテモゾロミドは、浸潤性下垂 体腫瘍・下垂体癌の一部に有効性が報告されている。テ モゾロミドに対する反応は腫瘍のDNA修復酵素 O(6)-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)の発現 に逆相関する、つまり免疫染色でMGMT発現が低いと テモゾロミドの奏効率が高いことが報告されているが 3) 、MGMTと抗腫瘍効果との関連性はない、陽性でも 効果があるなど様々な報告もあげられている4) 。テモゾ ロミドによる抗腫瘍効果にはミスマッチ修復(MMR)機 構が関与し、MMR遺伝子に変異があるとテモゾロミド に耐性を示し、MMR蛋白であるMSH2やMSH6の発 現の低下に伴いテモゾロミドに耐性を獲得した下垂体腫 瘍の例も報告されている5) 。なお、本例では死亡後に斜 台部腫瘍がMGMT陰性であったことが確認されたが、 テモゾロミドの標的である右海綿静脈洞から再発した腫 瘍ではMGMTの発現が異なっていた可能性は否定でき ない。

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本例は本人と兄に若くして直腸癌の既往があり、少な くとも本人は非ポリポーシス大腸癌で、卵巣腫瘍の合併 もあったことからLynch症候群が疑われた。Lynch症 候 群 は、MLH1MSH2MSH6PMS2な ど のMMR 遺伝子の生殖細胞系列変異により、大腸癌および子宮内 膜、胃、卵巣、小腸、肝胆道系、尿路、脳および皮膚の がんのリスクが上昇することを特徴とする常染色体優性 遺伝形式の疾患である。本人の遺伝学的検査は実施でき なかったが、斜台部腫瘍の標本を用いて追加検査した ところ、MSH6およびPMS2の免疫染色は陽性であり (Lynch症候群では陰性となる)、MSI(マイクロサテラ イト不安定性)検査はhighではなく、Lynch症候群の可 能性は低かった。また16年前の直腸癌標本でも MSI-highではなかったが、これは古い標本のためDNAが 断片化していた可能性があった。浦木らは、下垂体腺腫 の増殖とMMR遺伝子の関連の研究で、MSH6MSH2 遺伝子発現の低下は下垂体腫瘍の増殖に促進的に働いて いることを報告している6) 。本例では、最終的に死亡原 因となった右海綿静脈洞から再発した腫瘍の病理所見が 不明なままであるが、MMR機構の詳細な検討を加える ことでaggressiveな経過の機序が明らかになる可能性が ある。 最近、イピリムマブとニボルマブの併用療法が下垂体 癌に有効であったと報告された7) 。MMR機能欠損癌に 対して免疫チェックポイント阻害薬がすでに承認されて おり、下垂体腫瘍増殖におけるMMR遺伝子発現低下 の研究成果を踏まえると、浸潤性の高い難治性下垂体腺 腫や下垂体癌に対する新しい治療方法として大いに期待 される。 結  語

Crooke変性を伴いKi-67 labeling indexの高い corti-cotroph adenomaに対して、複数回の手術・放射線治療 を行ったもののaggressiveな経過をたどり、初診から7 年目に右海綿静脈洞の病変が急速に増大し数か月の経過 で腫瘍死した症例を経験した。最後に急速に増大した腫 瘍の病理診断は不明で、corticotroph adenomaの悪性 転化や他の悪性腫瘍の可能性があり、パシレオチドもテ モゾロミドも無効であった。浸潤性の高い下垂体腺腫や 下垂体癌に対して、従来の手術、放射線治療に加え、パ シレオチドやテモゾロミド、最近では免疫チェックポイ ント阻害薬も期待されている。 文  献

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(11)

長期の成長ホルモン補充療法による糖代謝への影響

日本医科大学 武蔵小杉病院 内分泌・糖尿病・動脈硬化内科1) 東邦大学医療センター大森病院 糖尿病・代謝・内分泌センター2) 日本医科大学付属病院 糖尿病・内分泌代謝内科3) 石川真由美1) 八木  孝1) 弘世 貴久2) 杉原  仁3) 南  史朗1) 緒  言 成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)では、体組成 の異常や脂質異常、脂肪肝の発症といった代謝関連の障 害から心・血管イベントを引き起こし1)-4) 、生命予後 の悪化が報告されている5) 。 AGHDに対する成長ホルモン(GH)補充療法は、上 記の代謝面において改善をもたらすが3)、6)、7) 、本邦で は欧米諸国8)、9) と異なり、糖尿病が合併したAGHD患 者には禁忌とされている10) 。 そこで我々はGH補充療法開始前のHbA1cが5.5~ 6.2%と、将来、糖尿病が発症しやすいとされる正常高値 群から糖尿病予備群に相当する患者対し、インスリン様 成長因子-I(insulin like growth factor-I: IGF-I)値だけで

はなく、血糖値の推移を観察しながらGHの補充量を調 節した。そしてその患者群の長期GH補充療法後の糖代 謝と内臓脂肪の変化などを解析したので報告する。 1.症  例 GH補充療法開始前のHbA1cが5.5~6.2%と、将来、 糖尿病が発症しやすいとされる正常高値群から糖尿病予 備群に相当する患者、男性4例、女性2例の6症例を解 析した。表1に個々の症例の原疾患、GH以外の分泌不 全のある下垂体ホルモンとGH以外のホルモンの補充 療法について示す。GHの補充開始年齢の平均は、56.8 ±18.6(平均±SD)歳であった。GH投与量は、0.021mg/ kg/week(3μg/kg/day)で開始し、平均7.4±3.6(平均± SD)年、施行した。 GH補充量はIGF-Iだけではなく、食後血糖やHbA1c を観察しながら調整した。その結果、これらの症例は開 始時のGH補充量を維持量としている。これらの症例 のIGF-I、空腹時血糖、HbA1C(JDSのデータはNGSP 値に換算して計算した)、インスリン(immunoreactive insulin(IRI))、AST、ALT、BMI、内臓脂肪を治療前と

治療開始後で比較検討をおこなった。IGF-IのSDスコ アはIsojima T、他11) の論文を参照とし、77歳以上の症 例は77歳としてのSDスコアを用いて算出した。内臓脂 肪(V)/皮下脂肪(S)(V/S)比は、腹部CTを施行し、臍 の高さにおいてそれぞれの面積を測定し算出した。統計 は治療前と治療後の2群間でt検定を行った。 2.結  果 IGF-IはGH補充療法により有意に増加し、その年齢相 応のSDスコアも平均-3.33から-0.83へ改善した(図1)。 空腹時血糖、HbA1C、IRI値はGH補充療法で有意 な変化は認めなかった。新規の糖尿病発症も認めなかっ た(図2)。 AST、ALT値はGH補充療法で有意な変化は認めな かったが、低下する傾向があった(図3)。 GH補充療法によりBMIは変化しなかった。内臓脂 肪/皮下脂肪(V/S)比は補充療法の前後で有意差はない が低下する傾向にあり、6症例のうち3症例が低下した (図4)。症例1のCTにおける内臓脂肪の変化を示す(図 4)。IGF-IのSDスコアは-0.4までの回復であるが、V/ S比は1.06から0.72まで改善していた。またこの症例 のHbA1Cは6.0前後で推移した。 表1.各症例の背景 図1.治療前後の IGF-I の変化

GH 補充療法前後の血清 IGF-I 値の変化(A)と IGF-I の SD ス コアの変化(B)を示す。GH 補充療法により有意に IGF-I 値 とその年齢相応のSD スコアが増加した(Mean ± SD, ** : p < 0.01)。

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3.考  察 欧米では成長ホルモンの補充療法は糖代謝の悪化に注 意をするべきという勧告はされているが、糖尿病患者へ の禁忌にはなっておらず、糖尿病の増殖性網膜症や活動 性のある網膜症に関してのみ、禁忌となっている8)、9)、 12) 。その網膜症においても、GH補充療法が悪化の原因 にはなっていないという報告もある13) 。 本邦におけるGH補充療法と糖代謝に関わる報告は すでにいくつかある。糖尿病の発症率は一般人口の発症 率と変わらないという報告や14) 、2型糖尿病を合併した AGHD患者にGH補充療法を行ったところQOLの改 善や活動量の増加に伴う耐糖能の改善を認めた15) とい う報告がある。その一方で、27症例のAGHDに48週間、 GH補充療法を施行したところ、2名のHbA1cが上昇 し、うち一例はGHの補充量を減量して補充療法を続行、 もう一例は中止となったという報告16) もある。 我々が今回、解析した症例は、GH補充療法開始前の HbA1cが5.5~6.2%と、将来、糖尿病が発症しやすいと される正常高値群から糖尿病予備群に相当する。こういっ た耐糖能増悪のリスクがある症例で、長期にわたり空腹時 血糖やHbA1Cの有意な上昇、糖尿病発症がみられなかっ たことや、また動物実験の結果ではあるが、 high-fat/high-sucrose食を摂取させたマウスにGHを投与すると内臓脂 肪が減少し耐糖能が改善した報告もあり17) 、一概にGH補 充療法が耐糖能の悪化を招くとは言えないと考える。 今回の解析から、今後、本邦においても血糖コントロー ルが良く網膜症などの合併症が進行していない糖尿病合併 AGHD患者に対するGH補充療法の必要性とその補充療 法のリスクを再考する必要があると考える。またこれらの症 例の中には、IGF-Iが正常域に入らなくても、内臓脂肪の減 少が認められた症例もあり、補充量に関しても、今回示し た症例のようにIGF-Iが正常内まで改善しなくても、耐糖能 を観察しながら血糖コントロールが増悪時には補充量を減 量するなどの調節していくのも一つの方法であると考えた。 図3. GH 補充療法の前後の AST と ALT 値 GH 補充療法開始後は、AST(A)と ALT(B)値は、有意差はな いが低下する傾向にあった(Mean ± SD)。 図2.GH 補充療法の前後の空腹時血糖、HbA1c、インスリン (immunoreactive insulin(IRI))値 GH 補充療法の前後で空腹時血糖(A)、HbA1c(B)、IRI(C) 値は有意な変化は認めなかった。新規の糖尿病発症も認めな かった(Mean ± SD)。 図4. BMI と内臓脂肪 / 皮下脂肪比 GH 補充療法の前後で、BMI は変わらなかった(A)。内臓脂肪(V)/ 皮下脂肪(S)(V/S)比は補充療法の前後で有意差はないが低下す る傾向にあり(Mean ± SD)(B)、個々の症例では 3 症例が低下した(C)。症例 1 の腹部 CT を示す(D-F)。GH 補充療法後 6 カ月で、 V/S 比は 1.08 から 0.98 と改善し、治療開始後 11 年でも V/S 比 0.72 と治療開始前より低下した状態を維持していた。

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結  語 GH補充療法開始前のHbA1cが5.5~6.2%と、将来、 糖尿病を発症しやすいとされる正常高値群から糖尿病予 備群に相当する患者対し、平均7.4±3.6(平均±SD)年 のGH補充療法をおこなった。治療後、空腹時血糖や HbA1Cの有意な上昇、糖尿病発症は認められなかった。 文  献

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Boguszewski M, Burman P, Butler G, Chihara K, Chris-tiansen J, Cianfarani S, Clayton P, Clemmons D, Co-hen P, Darendeliler F, Deal C, Dunger D, Erfurth EM, Fuqua JS, Grimberg A, Haymond M, Higham C, Ho K, Hoffman AR, Hokken-Koelega A, Johannsson G, Juul A, Kopchick J, Lee P, Pollak M, Radovick S, Robison L, Rosenfeld R, Ross RJ, Savendahl L, Saenger P, Toft Sorensen H, Stochholm K, Strasburger C, Swerdlow A, Thorner M. GH safety workshop position paper: a critical appraisal of recombinant human GH therapy in children and adults. Eur J Endocrinol. 2016; 174: P1-9.

10)成人GH分泌不全症の治療の手引き.厚生労働科学

研究費補助金難治性疾患克服研究事業関脳下垂体障

害に関する調査研究班平成24年度総括・分担報告書.

11)Isojima T, Shimatsu A, Yokoya S, Chihara K, Tanaka T, Hizuka N, Teramoto A, Tatsumi KI, Tachibana K, Katsumata N, Horikawa R. Standardized centile curves and reference intervals of serum insulin-like growth factor-I (IGF-I) levels in a normal Japanese population using the LMS method. Endocr J.; 2012: 771-80. 12)No authors listed. Consensus guidelines for the

di-agnosis and treatment of adults with growth hormone deficiency: summary statement of the Growth Hormone Research Society Workshop on Adult Growth Hormone Deficiency. J Clin Endocrinol Metab. 1998; 83: 379-81. 13)Blank D, Riedl M, Reitner A, Schnack G, Clodi M,

Frisch H, Luger A. Growth hormone replacement therapy is not associated with retinal changes. J Clin Endocrinol Metab. 2000; 85: 634-646.

14)Shimatsu A, Tai S, Imori M, Ihara K, Taketsuna M, Funai J, Tanaka T, Teramoto A, Irie M, Chihara K. Effi-cacy and safety of growth hormone replacement thera-py in Japanese adults with growth hormone deficiency: a post-marketing observational study. Endocr J. 2013; 60: 1131-44.

15)成澤 学,岡田洋右,新生忠司,森 博子,田中良哉.

2型糖尿病合併成人成長ホルモン分泌不全症に成長

ホルモン補充療法が有効であった1例.内科,2013;

112: 397-401.

16)Chihara K, Shimatsu A, Kato Y, Kohno H, Tanaka T, Takano K, Irie M. Growth hormone (GH) effects on central fat accumulation in adult Japanese GH deficient patients: 6-month fixed-dose effects persist during second 6-month individualized-dose phase.Endocr J. 2006; 53: 853-8.

17)Fukushima M, Okamoto Y, Katsumata H, Ishikawa M, Ishii S, Okamoto M, Minami S. Growth hormone ameliorates adipose dysfunction during oxidative stress and inflammation and improves glucose tolerance in obese mice. Horm Metab Res. 2014; 46: 656-662.

(14)

当科で経験した低

Na

血症

52

例の臨床的特徴と鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症

MRHE: Mineralocorticoid-responsive hyponatremia of the elderly

)および抗利尿ホルモン不適合分泌症候群

SIADH: Syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone

)との比較検討

公立学校共済組合 関東中央病院 代謝内分泌内科 渡邊  智  楠  和久  鈴木 紗弥  高野 倫嘉  水野 有三 まえがき 低Na血症の有病率は一般人口で2-4%、高齢外来患 者では7-11%に及ぶ1)、2) という報告もあり低Na血症 は日常診療で多く経験する電解質異常である。低Na血 症は様々な要因で引き起こされ診断によって治療法が異 なるため正確に診断することが重要である。しかし日常 診療において確定診断に難渋することも少なくない。本 稿では当院で経験した低Na血症患者の患者背景を調査 し、特に鑑別が困難な鉱質コルチコイド反応性低ナトリ ウ ム 血 症(MRHE: Mineralocorticoid-responsive hypo-natremia of the elderly)および抗利尿ホルモン不適合分 泌 症 候 群(SIADH: Syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)の背景因子を比較し今後の鑑別 診断の一助となりうるかを検討した。 1.対象と方法 2013年4月-2018年4月の期間に当科に入院し低Na 血症と診断された患者を検討した。 上 記 期 間 内 にDPC病 名 に「 低Na血 症 」 を 含 ん で いる例と抗利尿ホルモンを測定している例を抽出し血 清Na濃度135mEq/l未満を満たす症例を対象とした。 SIADHの診断は『SIADHの診断と治療の手引き』≪図 1≫に基づいて行った。MRHEの診断基準は明確には されていないため、『SIADHの診断と治療の手引き』内 の低ナトリウム血症、低浸透圧血症、高張尿、ナトリウ ム利尿の持続、副腎皮質機能正常を満たす患者の中で① 脱水を示唆する所見を認めること②フルドロコルチゾン が奏功すること③SIADHの原因となる疾患や薬剤使用 が無いことなど経過から総合的にMRHEと診断した。 MRHE群とSIADH群で年齢、血清Na濃度、尿Na濃度、 血漿浸透圧、尿浸透圧、血清BUN濃度、eGFR、PAC、 PRA、ADH、ACTH、コルチゾール、ARB・サイアザ イド利用薬の内服割合を比較検討した。統計学的解析は EZR(Ver. 1.37)を用いた。 Ⅰ.主症候 1.脱水の所見を認めない。 2.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。 Ⅱ.検査所見 1.低ナトリウム血症:血清ナトリウム濃度は 135mEq/l を下回る。 2.血漿バゾプレシン値:血清ナトリウム濃度が 135mEq/l 未満で、血漿バゾプレシン濃度が測定感度以上である。 3.低浸透圧血症:血漿浸透圧は 280mOsm/kg を下回る。 4.高張尿:尿浸透圧は 300mOsm/kg を上回る。 5.ナトリウム利尿の持続:尿中ナトリウム濃度は 20mEq/l 以上である。 6.腎機能正常:血清クレアチニンは 1.2mg/dl 以下である。 7.副腎皮質機能正常:早朝空腹時の血清コルチゾールは 6μg/dl 以上である。 Ⅲ.参考所見 1.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。 2.血漿レニン活性は 5ng/ml/h 以下であることが多い。 3.血清尿酸値は 5mg/dl 以下であることが多い。 4.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。 [診断基準] 確実例:Ⅰの1 およびⅡの 1 ~ 7 を満たすもの。 [鑑別診断] 低ナトリウム血症をきたす次のものを除外する。 1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群 2.ナトリウム漏出が著明な低ナトリウム血症:腎性ナトリウム喪失、下痢、嘔吐 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班:バゾプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断と治療の手引き(平成 22 年度改定)より引用 図1.SIADH の診断と治療の手引き

(15)

2.結  果

対象患者52例の内訳はMRHEが23例、SIADHが

10例、水中毒を含む飲水過多が9例、副腎皮質機能低

下 症 が3例、Na摂 取 不 足 が2例、 そ の 他4例 で あ っ た。MRHE群とSIADH群の患者背景は平均年齢、血 清BUNはMRHE群 の 方 が 高 値 でeGFR、 尿Na濃 度 はMRHE群 の 方 が 低 値 で あ っ た( 表1)。 両 群 で は 男

女の偏りはなく血清Na濃度、血漿浸透圧、尿浸透圧、

PAC、PRA、ADH、ACTH,コ ル チ ゾ ー ル で は 大 き な

差は認めなかった。ARB、サイアザイド利尿薬内服は

MRHE群 で 多 い 結 果 で あ っ た。MRHE群 でADHが 0.8pg/ml未満の患者が5例存在した。有意差の判定の た め にMann-Whitney U検 定 とFisherの 正 確 検 定 を 行った。Mann-Whitney U検定を行ったところMRHE 群、SIADH群の年齢の中央値はそれぞれ84歳、77歳 (p=0.039)と 有 意 にMRHE群 で 高 く、eGFRの 中 央 値は66.9、90.0(p=0.025)と有意にMRHE群で低く、 尿Na濃度の中央値は59mEq/l、100mEq/l(p=0.046) と有意にMRHE群で低値であった(表2)。BUNの中央 値は17mg/dl、12mg/dl(p=0.074)と有意差はないが MRHEで高い傾向を認めた。血清Na濃度、血漿浸透圧、

尿浸透圧、PAC、PRA、ADH、ACTH、コルチゾール

では有意差は認めなかった。Fisherの正確検定を行った ところMRHE群、SIADH群のサイアザイド利尿薬内 服の割合はそれぞれ23人中9人、10人中0人(p=0.032) とMRHE群で有意に高く、ARB内服の割合はそれぞれ 23人中14人、10人中3人(p=0.141)と有意差はない がMRHE群で高い傾向がみられた(表3)。 表1.MRHE 群と SIADH 群の患者背景 ※MRHE 群で ADH が 0.8pg/ml 未満の患者が 5 例存在した 表2.Mann-Whitney U 検定

(16)

3.考  察 MRHEは高齢者における近位尿細管でのNa再吸収 能の低下に起因する病態である。低Na血症、低浸透圧 血症、尿中Na排泄の増加、高張尿を認めSIADHの診 断基準と重なる項目が多いためSIADHと誤って診断さ れる可能性がある。入院中に発生する低Na血症の原因 としてSIADHが最も多い3) という報告があるが今回の 検討ではMRHE 23人、SIADH 10人とMRHEが多い

結果が得られた。MRHEが多かった原因として平均年 齢が78歳と対象患者が高齢であったことも一因として 考えらえるが一般的にSIADHと診断されている患者の 中にはMRHE患者が紛れている可能性があると推測さ れる。MRHEは細胞外液量の軽度低下を伴うという点 ではSIADHと異なり治療は水制限でなく塩分負荷、フ ルドロコルチゾン投与であり誤った治療が行われること で致死率が高まる危険性も指摘されており4) 正確に診断 することが大切である。 今 回 の 検 討 に お い て 尿 中Na濃 度 はMRHE群 の 方 がSIADH群よりも低値という結果が得られた。病態 か ら 考 え るとMRHE群がよ り 尿Na濃 度 が 高値 とな ることを予測していたが、予想に反する結果が得られ た。MRHE群で尿中Na濃度が高値であることは確か であるが、SIADH群でも濃縮尿が診断の必須項目で あり、結果的に尿中Na濃度も高値となると考えられ た。MRHEの診断基準は明確にされておらず、慣例と して尿中Na濃度が高いことをもって診断の補助として いることが多いが尿中Na濃度が高いというだけでは SIADHと鑑別することはできないと思われる。 MRHE患者はSIADH患者と比較し血中コルチゾール が有意に低下しており、ACTHは有意差はないが高い 傾向になる5) という報告もあるが、今回の検討ではコル チゾール、ACTHの値はほぼ同程度であった。MRHE 患者では加齢に伴いレニン活性が低下することでレニ ン、アルドステロンとも低値となり、SIADH患者では 循環血液量が増加することでレニン・アルドステロン系 が抑制される。メカニズムは異なるがレニン、アルドス テロンともに低値となることはMRHE、SIADHで共通

している。MRHE患者とSIADH患者のPAC、PRAを 比較している文献は他に見当たらなかったが今回の検討 ではPAC、PRAは両群で有意な差は認めなかった。 MRHEはアルドステロン作用の低下により一次性に 尿中Na排泄が増加することで体液量が軽度減少し、二 次 性 にADHが 上 昇 す る6) と さ れ て い る がMRHEで ADHが低値であった症例報告は複数なされている。実 際に今回の検討においてもMRHE群でADHが0.8pg/ ml未満であった患者が5例存在した。体液量減少の程 度によりADHの上昇幅は症例によって様々であると考 えられるためSIADHと異なりADHが感度以上になら ない例も存在しうることが示唆される。 今回の検討における問題点としてはMRHEの診断に おいて具体的な診断基準を設けていなかったために診断 の正確さが不十分であり、今後基準を明確に設定し再検 討する必要があると思われる。また、塩分摂取状況、利 尿剤・RAS阻害薬使用自体が検査項目に強く影響を与 えていると考えられるため、塩分摂取を一定にし、利尿 剤・RAS阻害薬を休薬した状態でどのような結果が得 られるかについても今後の検討課題である。 高齢者では腎機能、食事摂取量が低下している例が多 く、低Na血症のリスクは極めて高い。そのため高齢者 においてはNaを喪失するような利尿剤・RAS阻害薬の 内服には十分に注意が必要である。今回の検討において も利尿剤・RAS阻害薬を内服している例を多数認めて おり、高齢者ではこれらの使用は必要最小限とし、使用 する場合は必ず定期的に電解質検査を行う必要があると 考えられた。 今回、MRHEとSIADHの鑑別に有用な項目につき 検討したが、やはり検査所見のみで判断するのは困難で あると考えられた。MRHE患者をSIADHとして水制 限を行うと病状を悪化させるリスクがあり、SIADHが 疑われる高齢患者では常にMRHEを鑑別に挙げ、脱水 の有無を注意深く診察する必要がある。鑑別が困難な場 合には、塩分負荷、フルドロコルチゾン投与の診断的治 療を開始し、改善を認めない場合にSIADHとして水制 限を検討する方が安全と思われる。 表3.Fisher の正確検定

(17)

結  語 MRHEとSIADHを検査所見のみで鑑別することは 困難であり、脱水所見の有無や利尿剤・RAS阻害薬の 服薬の有無、臨床経過およびフルドロコルチゾンの有効 性の有無にて総合的に判断する必要がある。高齢患者で SIADHを疑う際は常にMRHEを鑑別に挙げ治療選択 の際は十分に注意が必要である。 文  献

1)Miller M, Hecker MS, Friedlander DA, Carter JM. Ap-parent idiopathic hyponatremia in an ambulatory geri-atric population. J Am Geriatr Soc. 1996; 44: 404-408. 2)Hawkins RC. Age and gender as risk factors for

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3)Hannon MJ, Thompson CJ. The syndrome of inap-propriate antidiuretic hormone: prevalence, causes and consequences. Eur J Endocrinol. 2010; 162: s5-12. 4)Ayus JC, Arieff AI. Chronic hyponatremic

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5)Ishikawa S, Saito T, Fukagawa A, Higashiyama M, Nakamura T, Kusaka I, Nagasaka S, Honda K, Saito T. Close association of urinary excretion of aquaporin-2 with appropriate and inappropriate arginine vasopres-sin-dependent antidiuresis in hyponatremia in elderly subjects. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86: 1665-1671.

6)太田樹,内田俊也.水・ナトリウム代謝異常.日本

(18)

禁煙により短期間で改善を認めた

SIADH

の一例

福岡大学筑紫病院 内分泌・糖尿病内科1) 同 呼吸器内科2) 同 脳神経外科3)

生駒  輝1) 阿部 一朗1) 大石 華子1) 藤井 秀幸1) 峯崎みどり1)

杉本  薫1) 宮崎 浩行2) 森永 裕介3) 工藤 忠睦1) 小林 邦久1)

はじめに

ア ル ギ ニン バソプレシン(arginine vasopressin: AVP)

は、腎集合尿細管のV2受容体に結合し、細胞内におけ

るcAMP濃度を上昇させ、AQP2受容体の発現を増加さ

せることで水再吸収を亢進させる作用をもつ1)

。そのため AVPは抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone: ADH)とも 呼 ば れ、SIADH(secretion of inappropriate antidiuretic hormone)においては、その分泌過剰によって、水利尿不 全を来し、希釈性の低ナトリウム(Na)血症が起こる2) 。そ の原因は多岐に及ぶが、その中で、肺疾患によるSIADH は多数報告されている3) 。今回我々は、禁煙のみで短期間 にSIADHの改善を認めた症例を経験したので報告する。 1.症  例 症例:70歳、男性。 既往歴:50歳時に高血圧、2型糖尿病指摘 家族歴:特記なし 生活歴:飲酒なし、喫煙:30本/日、40年間 現病歴:X-8年に低Na血症を指摘され、前医での精査にて、 SIADHと診断されるも、原因不明とされていた。1日塩分 摂取量15gの食事療法を指導され、経過観察されていたが、 血清Na 130mEq/L程度と低Na血症は遷延していた。転 居に伴い、X-1年に当院紹介受診となった。当院初診時、

Na 130mEq/L、ADH 0.4pg/mL、血清浸透圧267mOsm/ kg、尿浸透圧391mOsm/kgであり(表1)、SIADHに矛盾 しない所見であった。頭部CT検査では異常を認めなかっ たが、喫煙歴(30本/日、40年)があり、診察上、両下肺 にfine crackleを認め、胸部CT検査を施行したところ、 肺気腫及び軽度の間質性肺炎の所見を認めた(図1)。血清 KL-6値は1,330U/mLと高値であった。スパイログラムで は、%VC 84.1%、FEV 1.0% 80.7%とほぼ正常であった ため、当院呼吸器内科にコンサルトし、肺気腫及び間質性 肺炎については薬物療法は行わず、禁煙指導を行う方針 となった。禁煙指導後、禁煙に成功。その後外来で経過 観察していたが、低Na血症は徐々に改善し、塩分摂取量 を漸減していった。X年には、1日塩分摂取量7gの食事 療法で、Na 135mEq/Lと改善した(図2)。尚、X年の時 点で、血清KL-6値は1,310U/mLと変化なく、画像所見、 スパイログラムでも明らかな改善は認めていなかった。 表1.検査所見 図1.胸部 CT 図2.臨床経過

(19)

2.考  察 肺疾患によるSIADHに関しては、肺結核をはじめ様々 な疾患が原因疾患となりうる。肺疾患によるSIADHの 原因としては、胸腔内圧の上昇、静脈還流の減少が左心 房の容量受容器に感知され、迷走神経を介するADH分 泌抑制機序が解除されることが原因とされている4) 。し かし、それだけでなく、圧受容体を介さないADH分泌 促進として、CO2貯留の関与を示唆する報告もある5) 。 本症例における肺疾患は、喫煙に起因すると推測される 肺気腫、間質性肺炎であったが、経過中、血清KL-6値、 画像所見、スパイログラムにおいての変化が認められな いにも関わらず、低Na血症が改善した。これは、禁煙 によるCO2貯留の低減がSIADHの改善に寄与したこ とを示唆する所見と考えられる。その観点で見れば、本 症例は喫煙によるCO2貯留がSIADHの病態に与える 影響を明らかにした症例とも言える。本症例と同様の報 告は文献上なく、禁煙のみで短期間でSIADHが改善し た経過を追えた興味深い症例であった。 原因不明のSIADHにおいて、本症例と同様な肺疾患 が存在しなくとも、喫煙者であれば、SIADHの原因が 喫煙によるものであり、禁煙による改善が期待できる可 能性があることも示唆された症例であり、今後の症例の 蓄積による検討が必要であると考えられた。 文  献

1)Kinzie BJ. Management of the syndrome of inappro-priate secretion of antidiuretic hormone. Clin Pharm 1987; 6(8): 625-33.

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図 1. 造影 MRI (第 1 病日:全脳条件、第 7、25、33 病日:下垂体条件)

参照

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東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

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