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商学 69-6☆/6.佐藤

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ダイバーシティとコンプライアンス

──組織文化の視点から──

Ⅰ 組織文化から見たダイバーシティとコンプライアンス Ⅱ 探索的実証分析 今日,働き方改革としても言われているように,ダイバーシティ(多様性)を経営に 生かすことが求められている。また企業の不祥事が相変わらず新聞の紙面を賑わしてお り,経営者は企業組織に対して,多様性を維持すると同時に不祥事が起こらないように コンプライアンスを強化するという,ある意味相反する課題を突き付けられている。一 方,組織文化が経営戦略や経営管理のあらゆる側面と関連してい 1 るのであれば,企業の 持つ組織文化は,こうしたダイバーシティやコンプライアンスとどういった関係にある のか,より具体的には組織文化のどういった次元が,どのような事項と関連してくるの であろうか。本研究ではこうした組織文化とダイバーシティ,コンプライアンスとの関 係を明らかにするために,探索的な実証分 2 析を通じて,その関係性の整理を試みた。

Ⅰ 組織文化から見たダイバーシティとコンプライアンス

1.ダイバーシティとインクルージョン 経済産業省による新・ダイバーシティ経営企業 100 3 選によれば,ダイバーシティとは 多様な人材の事であり,性別,年齢,人種や国籍,障がいの有無,性的指向,宗教・信 条,価値観などの多様性だけでなく,キャリアや経験,働き方などの多様性も含んだ概 念である。そしてダイバーシティ経営とは,この多様な人材を活かし,その能力が最大 限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出し,価値創造につなげてい る経営の事を指している。 また谷口(2005)によると,ダイバーシティを取り込むうえで企業の取りうるパラダ ──────────── 1 佐藤〔25〕55-63 ページ。 2 本研究は,リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社が主催し PwC あらた有限 責任監査法人とインターワイヤード株式会社の協力の下,6 社の一般企業が参加している CCSG(企業 文化研究会:Corporate Culture Study Group)における調査成果を,組織文化研究の視点から改めて論じ たものである。

3 経済産業省編〔10〕1 ページ。

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イムとして,1)違いを拒否する「抵抗」,2)違いを無視し,防御的な,雇用機会均等 などの「同化」,3)違いを認め,適応的で,違いに価値を置く「分離」,4)違いを活か し,競争優位につなげ,戦略的な「統合」の 4 つのパラダイムがあり,広い意味ではこ れら 4 つをダイバーシティ経営と呼ぶことができるが,狭い意味では 4 つ目の統合のパ ラダイムを目指す企業活動こそがダイバーシティ経営となる。そしてダイバーシティ経 営のためには,フォーマルな組織構造だけではなく,インフォーマルな組織文化も変え ていかなければならな 4 い。そしてこれらを組み合わせると,組織構造と組織文化を全く 変えないのが同化,組織構造と組織文化を変えずに特定部門だけに限定して取り入れる のが分離,組織構造・組織文化を全面的に変えるのが統合のパラダイムであると考えら れる。 今日多くの日本企業でいわゆる「多様性尊重」という踊り場にまでしか達していない というのは,この同化の段階にとどまっていることを指し,これを進めて分離から統合 の段階に持ってくることが重要な課題だと言われている。この統合の段階を指す別の概 念としてインクルージョンがあ 5 る。これはもともと福祉の分野から生まれた言葉であ り,ソーシャルインクルージョンは,社会的包摂と訳されており,逆の言葉が社会的排 除になる。このインクルージョンと 6 は,社会の一員であると感じること,ありのままの 自分が尊重され,評価されていると感じること,自分が最善を尽くすことができるよう な他の人からの支持力や貢献度を感じることであるという。こうした概念を含めて今 日,企業経営においても,ダイバーシティ&インクルージョンといったことが言われる ようになってきているのである。そしてこれを実現するためには,多様な社員のすべて が職場の一員として認められていると感じている「多様性風土」の醸 7 成とともに,求心 力としての経営理念が重要となるのである。 2.ダイバーシティ経営と組織文化 それではこうしたダイバーシティ経営は,組織文化の視点から見ると,どのように説 明することができるのであろうか。まず組織文化とはその組織の構成員によって共有さ れている価値観と行動パターンの事であ 8 る。抵抗や同化の段階では,組織内では均一で ある強い組織文化が望まれ,これと違う価値観は排除されたり,同化を求められたりす る。昭和の時代の大企業にみられた日本的経営は,こうした論理をもとにしていたと考 えられる。一方,分離の段階となり,組織にタイバーシティが存在することを認めると ──────────── 4 谷口〔30〕257-259 ページ。 5 大久保他〔17〕135 ページ。 6 二神他編〔6〕42 ページ。 7 佐藤他編〔24〕1-17 ページ。 8 佐藤〔25〕14 ページ。 86( 1088 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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いうことは,構成員が多様な価値観を持ち,そうした意味では強い組織文化が存在して いない状態を指す。そして統合,すなわちインクルージョンの段階に進むことで,異な った価値観が相互作用を起こし,イノベーションが生まれることになる。 ここで大切になるのが,トップマネジメントが持つ価値観と,企業の歴史的な組織文 化の交わる部分,すなわち集合論でいうところの積集合となる経営理念であ 9 る。すなわ ち組織を統制する方法には市場原理,官僚主義と強い組織文化の 3 つを挙げることがで き 10 るが,同化の段階では強い組織文化による組織統合が行われ,分離,統合の段階で は,この強い組織文化による統合が弱まってしまう。代わりに市場原理を導入したり, 官僚制機構を導入したりすることもできるが,組織文化の側面から言えば,トップマネ ジメントが持つ価値観と組織文化の交わる部分である,経営理念が組織に浸透していれ ば,それ以外の価値観や行動パターンに多様性があっても,組織を統治するうえでは問 題とはならない。経営理念を共有する多様な人材が相互交流してこそ,統合の段階に進 んでいくことができるのである。 そしてイノベーションとは新結合の事であり,ダイバーシティ経営を行って統合の段 階におけるインクルージョン,すなわち多様な人材の相互交流を進めることが様々な新 結合を生み,結果としてイノベーションが生まれる可能性を高める事になるのである。 3.コンプライアンスと組織文化 一方,コンプライアンスとは,従来,法令遵守の事であるとされることが多かった が,今日では,法令のみならず社会規範も尊重する,ということが一般的な理解になっ ており,そのためより広い意味では企業倫理という表現が使われるようになってきてい 11 る。そうしたなかで企業倫理の制度化において,法令遵守を主な目的とするコンプライ アンス型とともに,価値共有型の手法が発展してくることにな 12 る。これはコンプライア ンス型が陥りがちな表面的,形式的な制度化を整えたことだけでよしとする弊害を理解 し,克服する方法として,倫理的価値の理解と共有を行おうとするものである。 日本企業の組織文化は,個人性より集団性が強く,また従来は垂直的であったが,今 日,水平的な組織も増えてきてい 13 る。まず集団性が強いということは,強い組織文化を 持つということであるが,そこに信頼関係が存在しないと,組織のウチに強者がいる場 合,ハ ラ ス メ ン ト や ブ ラ ッ ク 企 業 を 生 む 原 因 と な る。ま た 垂 直 的 と い う こ と は, Hofstede(1991)の次元で言えば権力格差の次元が高いということになるが,そこにお ──────────── 9 清水〔27〕124-126 ページ。 10 佐藤〔26〕89 ページ。 11 髙〔29〕55 ページ,渡邊〔34〕37 ページ。 12 岡本他〔19〕150-153 ページ。 13 佐藤〔25〕299 ページ。 ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1089 )87

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いても上司の命令を断れない雰囲気があると,コンプライアンス的に問題を起こすこと になる。 組織文化の観点からすれば,トップが倫理的価値観を持っており,組織が強い組織文 化を持つことを前提とすると,経営理念が十分に浸透し,組織文化にトップの価値観が 重なっている部分が大きければ,組織もまた倫理性を持ち価値共有化型の企業倫理が十 分制度化されている状態であると考えることができる。しかし,経営理念が浸透してい ない,あるいは現場で重んじられている理念と,実際にトップが持っている価値観と が,例えば時間とともにずれてしまい,結果として積集合である経営理念が小さくなっ てしまっていると,価値共有型の制度化が不十分な状態であることになる。 この価値共有型の企業倫理の制度化が不十分であると,例えば組織の中でトップマネ ジメントに対して誤った「忖度」が行われてしまうことになる。また組織が組織文化の 慣性にそのまま従って従来通り繰り返してきた行動が,トップマネジメント,あるいは 経営環境から見て誤った成果をもたらし,結果として不祥事となって世の中に発覚して しまうのである。こうした状態は組織文化が環境との不適合を起こしている成熟期に入 ってしまっているのであり,経営者は様々な方法を駆使して組織文化変革を試みなけれ ばならないのである。 そしてダイバーシティ経営のところで述べたように組織の中に多様性を取り込むと, そのままでは組織文化は弱くなってしまい,価値共有型のコンプライアンスもうまく機 能しなくなる。経営者が持つ倫理的価値観を含めた経営理念を組織に浸透していくこと で,はじめて多様性を取り込みながらもコンプライアンスを高めていくことが可能とな るのである。 4.仮説の設定 本研究においては組織文化と多様性およびコンプライアンスの関係性を見ることにそ の主眼がある。組織文化の次元については様々な議論があり,例えば佐藤(2009)では 3 つの次元を,Hofstede(1991)は 5 つの次元を取り上げている。Hofstede は複数の国 を分類する尺度としてこれらの次元を挙げているが,実際に一つの国の中で測定した場 合,類似の次元と異質な次元に分かれることが想定される。そこでまず個別に測定した 組織文化の次元同士の相関を見ることで,組織文化が大きくどの様な次元に分類される のかを確かめたい。 仮説 1:組織文化にはいくつかの次元が存在する。 次に,本論文では結果変数としてイノベーションを取り上げたい。なぜなら多様性を 組織に持ち込むことで情報の新結合が起こり,イノベーションをもたらす可能性が高ま ると考えるからである。一方,多様性の程度の測定にはインクルージョンの程度を用い 88( 1090 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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たい。これまで述べたように多様性を同化させようとするのではイノベーションは生ま れず,また日本企業も次の段階である分離,統合を目指すことが必要だと考えるからで ある。 仮説 2:インクルージョンとイノベーションには相関関係がある。 そのうえで,インクルージョンの程度は集団性や権威主義といった組織文化によって 異なることが想定される。 仮説 3:組織文化の次元で分類すると,インクルージョンの程度が異なる。 さらに,インクルージョンやコンプライアンスを推進するためには,様々な具体的な 施策が必要であるが,これらもまた組織文化と関連があると考えられる。 仮説 4:組織文化と具体的な施策,結果としてのインクルージョン,コンプライア ンスとの間には相関関係がある。 そして関連の高い組織文化で企業組織を分類すると,それぞれにおいて具体的な施策 やコンプライアンスの水準が異なってくると考えられるのである。 仮説 5:組織文化の次元で分類すると,具体的な施策やコンプライアンスの程度が 異なる。 以上のような仮説を実証するために,以下のように 2 回のアンケート調査を行い探索 的な分析を行った。

Ⅱ 探索的実証分析

1.ダイバーシティと組織文化に関する調査 (1)第一回調査の概要 本研究の仮説を実証するために,インターワイヤード株式会社の協力により,同社が 行っているネットリサーチのディムスドライブに登録している約 19 万人のモニターを 利用して,Web 調査「職場に関するアンケート」を行った。第一回の調査の調査期間 は 2017 年 5 月 24 日から 31 日,調査方法は,上記モニター登録者のうち「組織に属し て働いている」という設問に Yes と答えた回答のみを集計し,1,799 件の有効回答を得 た。 設問の内容は,性別,職制,職種,といった回答者属性,業種や従業員規模といった 企業属性,職場並びに回答者個人のダイバーシティのインクルージョンに関する状況, その職場における組織文化,結果変数としてのイノベーションについて 5 段階の SD 法 で質問した。職場のインクルージョンについては,職場の状況を,個人のインクルージ ョンに関しては,もし自分だったらどうするかをそれぞれ 10 の状況について聞いてい る。また組織文化については,Hofstede(1980, 1991)の文化の次元と,私のこれまで ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1091 )89

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の研究(佐藤 2009, 2015)をもとに調査項目を設定した。 回答者の主な属性は,男性が 68.0% で平均年齢は 49.8 歳となり 20 代以下の回答者は 1.9% と非常に少なかった。配偶者はいる(61.3%)が同居の子供なし(55.5%)が多 く,一般社員(47.2%)や管理職(17.8%)だけではなく契約社員も 23.0% と多く,職 種では管理系 25.5%,営業系 12.6%,会社での勤続年数は 20 年以上が 34.1%,現在の 職場での勤続期間も 20 年以上が 22.8% であった。回答者の所属する企業の属性として は,業種ではメーカー・製造業が 18.1%,外資系ではなく日系の企業がほとんど(93.8 %)であり,従業員規模は 50 名未満とする回答が 32.1% と最も多かったが,次いで 3,000 人以上の 19.3% であった。 以上のような回答者属性から,大企業の正社員だけを対象としたサンプルではなく, 中小企業,あるいは契約社員の方の職場も含まれている点に留意して分析する必要があ ろう。 (2)要因ごとの主成分得点の計算 始めに属性以外の設問について探索的因子分析を行い,変数のまとまりを確認した。 最尤法,プロマックス回転を行い,ほぼ仮説通りの要因が抽出された。そこでこの結果 と仮説をもとに,それぞれの要因を構成する変数について主成分分析を用いて合成して 得点を計算し,クロンバッハの α を求めた(第 1 表)。α の値はどれも十分に高く,探 索的な研究としては十分な水準にあると考えられる。 第 1 表 主成分を構成する変数と α 主成分 質問項目(因子負荷量の大きい順) α Y 1 職 場 の イ ン クルージョン Q 1-5 若手社員,Q 1-10 価値観の違い,Q 1-6 勤続年数が短い,Q 1-3 非正規社 員,Q 1-8 異なる部門,Q 1-7 障がい者,Q 1-2 生え抜き中途,Q 1-9 LGBT, Q 1-1 性別,Q 1-4 外国人 0.922 Y 2 個 人 の イ ン クルージョン Q 2-6 勤続年数が短い,Q 2-5 若手社員,Q 2-3 非正規社員,Q 2-7 障がい者, Q 2-10 LGBT, Q 2-8 異なる部門,Q 2-4 外国人,Q 2-2 生え抜き中途,Q 2-1 性 別,Q 2-9 LGBT 0.967 C 1 集団性 Q 4-13 スキルや能力の発揮,Q 4-5 研修・トレーニング,Q 4-8 作業環境 0.803 C 2 女性性 Q 4-4 協調,Q 4-12 上司と良い関係,Q 4-10 雇用が安定,Q 4-2 望ましい地域 0.845 C 3 権力格差 Q 5-8 上司に反対を躊躇,Q 5-7 上司は権威や権力で従わせる,Q 5-2 経営陣の 意思決定に反対してはならい,Q 5-1 上司は部下と相談せず意思決定すべき 0.797 Q 4 不確実性 Q 5-3 大きな利益をもたらすなら多少ルールは破ってもよい − C 5 理念浸透 Q 5-6 経営理念を意識,Q 5-5 経営理念に共感 0.839 C 6 信頼 Q 5-9 従業員の信頼関係,Q 5-10 改善点はすぐに実現される 0.814 Y 3 イ ノ ベ ー シ ョン Q 10 新しいことに挑戦,Q 9 アイディアがわく,Q 11 挑戦して失敗しても評 価 0.864 90( 1092 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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(3)相関分析 仮説 1,仮説 2 を実証するために,それぞれの要因間についてピアソンの相関係数を 求め,相関分析を行った。第 2 表では 5% 水準で相関係数が有意であった項目を表示し ている。組織文化については,C 1 集団性と C 2 女性性(0.822),C 3 権力格差と Q 4 不確実性(0.453),C 5 理念浸透と C 6 信頼(0.626)という 3 つの相関の高いまとまり があり,3 グループ相互間の相関は相対的に低いことが分かった。これで組織文化には いくつかの次元が存在するという仮説 1 の実証としたい。 ま た Y 3 イ ノ ベ ー シ ョ ン は,Y 1 職 場 の イ ン ク ル ー ジ ョ ン(0.551),C 6 信 頼 (0.561),C 5 理念浸透(0.470)との相関が高いことが分かった。さらに Y 1 職場のイ ンクルージョンと Y 2 個人のインクルージョン(0.430)の相関が高いことが分かった。 一方,Y 1 職場のインクルージョンと文化の関係を見ると,C 6 信頼(0.491),C 5 理念 浸透(0.399)との相関が高いことが分かる。Y 2 個人のインクルージョンに関しては, C 2 女性性(0.266)との相関があることが分かった。これでインクルージョンとイノベ ーションには相関関係があるという仮説 2 が実証された。 (4)クラスター分析 仮説 3 を実証するために,組織文化の違いによりサンプルをグループ化して,各要因 との関係を見た。組織文化のうち,インクルージョンとの相関が見られた C 2 女性性, C 3 権力格差,C 6 信頼の 3 つを選んで,非階層的クラスター分析を行った。トレーサ ビリティと 10% 以下のクラスターができないという基準に従い,サンプルを 6 つのク ラスターに分類した(第 3 表)。Y 1 職場のインクルージョンが高い順にクラスターの 番号を付けたが,3 番目のクラスターは,3 つの文化の次元のすべてに特徴がなく,サ ンプル数も 777 と最も多いので,おそらく自分の職場の組織文化についてよく分からな かったか,すべて中間的な回答をしてしまったサンプルであると考えられる。 第 2 表 要因間の相関係数 Y 1 Y 2 C 1 C 2 C 3 Q 4 C 5 C 6 Y 3 Y 1 職場のインクルージョン − .430 .181 .171 −.132 .399 .491 .551 Y 2 個人のインクルージョン .430 − .223 .266 .014 −.071 .136 .224 .215 C 1 集団性 .181 .223 − .822 .160 .174 .321 .339 .262 C 2 女性性 .171 .266 .822 − .120 .103 .278 .312 .208 C 3 権力格差 −.132 .014 .160 .120 − .453 .179 −.120 Q 4 不確実性 −.071 .174 .103 .453 − .206 .158 .094 C 5 理念浸透 .399 .136 .321 .278 .179 .206 − .626 .470 C 6 信頼 .491 .224 .339 .312 .158 .626 − .561 Y 3 イノベーション .551 .215 .262 .208 −.120 .094 .470 .561 − ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1093 )91

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分析結果を見ると,Y 3 イノベーションの順位も,Y 1 職場のインクルージョンの順 位と同じになっており高い相関があることが,また Y 2 個人のインクルージョンは,C 2 女性性と関連していることが確認できた。そして 3 次元のクラスターを,C 2 女性性, C 6 信頼の 2 つの次元を中心に図にしてみると,次のようになる(第 1 図)。色の濃さ は権力格差の程度,番号は職場のインクルージョンの順位を表している。なお円の大き さは縦軸方向と横軸方向の標準偏差の平均を用いており,これは分布の散らばりのイメ ージを表している。 第 3 表 クラスターごとの要因の平均値 職場のインクルージョンの順位 1 2 3 4 5 6 全体 C 2 女性性 0.44 0.92 −0.44 1.03 −1.45 −0.58 0.00 C 3 権力格差 −1.18 1.20 −0.08 −0.05 −1.18 1.46 0.00 C 6 信頼 1.02 1.22 −0.01 −0.61 −1.34 −1.36 0.00 サンプル数 246 235 777 270 117 154 1799 Y 1 職場のインクルージョン 0.71 0.50 −0.04 −0.26 −0.48 −0.88 0.00 Y 2 個人のインクルージョン 0.69 0.33 −0.30 0.07 −0.47 0.13 0.00 Y 3 イノベーション 0.65 0.61 0.02 −0.31 −0.56 −1.07 0.00 第 1 図 クラスター分析の概要 92( 1094 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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これを見ると C 2 女性性と C 6 信頼の両方が高い右上に行くほど,Y 1 職場のインク ルージョンが高くなることが確認でき,また同じ象限の中では,1 と 2, 5 と 6 が示して いるように権力格差が高いと順位が下がる,すなわちインクルージョンの程度が低くな ることが確認できた。こうした分析により,組織文化の次元で分類すると,インクルー ジョンの程度が異なるという仮説 3 が実証された。 企業はこうした組織文化そのものを短期的変えることは難しいので,各企業の経営者 はそれぞれの文化の違いを前提として,その中でインクルージョン等を高めるための具 体的な施策を考えていくことが必要となろう。 2.具体的な施策,コンプライアンスと組織文化に関する調査 (1)第二回調査の概要 第一回調査と同様にインターワイヤード株式会社の協力により,同社が行っているネ ットリサーチのディムスドライブに登録している約 19 万人のモニターを利用して, Web 調査「職場に関するアンケート 2」を行った。第二回の調査の調査期間は 2017 年 11 月 1 日から 8 日,調査方法は,上記モニター登録者のうち「組織に属して働いてい る」という設問に Yes と答えた回答のみを集計し,1,736 件の回答を得た。ただしデー タを精査し,それぞれの項目ですべて 3 など,同じ回答をしているサンプル等を除去し たところ,有効回答は 1,565 件となった。 設問の内容は,性別,職制,職種,といった回答者属性,業種や従業員規模といった 企業属性,職場並びに回答者個人のダイバーシティのインクルージョンに関する状況, その職場における組織文化,コンプライアンスに関する状況と,ダイバーシティおよび コンプライアンスに関する具体的な施策,結果変数としてのイノベーション等について 5 段階の SD 法で質問した。なお質問の意味がマイナスなものについては小さいほど良 い状態になるように数値を反転して処理している。第一回目の調査の結果を受けて,職 場,および個人のインクルージョンについては,主成分の上位であった 6 つの状況につ いて聞いている。組織文化等についても同様に,第一回調査の結果を利用してより簡便 的な調査項目を設定した。 回答者の主な属性は,男性が 67.4% で平均年齢は 50.6 歳となり 20 代以下の回答者は 1.9% とやはり少なかった。配偶者はいる(63.6%)が同居の子供なし(53.5%)が多 く,一般社員(47.5%)や管理職(18.9%)だけではなくやはり契約社員も 24.5% と多 かった。回答者の所属する企業の属性としては,業種ではメーカー・製造業が 20.9% で,従業員規模は 50 名未満とする回答が 30.5% と最も多かったが,3,000 人以上も 20.5% であった。 以上のような回答者属性から,第一回調査とほぼ同様のサンプルであることが確認で ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1095 )93

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き,今回も大企業の正社員だけを対象としたサンプルではなく,中小企業,あるいは契 約社員の方の職場も含まれている点に留意して分析する必要があろう。 (2)要因ごとの得点の計算 始めに属性以外の設問について探索的因子分析を行い,変数のまとまりを確認した。 最尤法,プロマックス回転を行い,ほぼ仮説通りの要因が抽出された。そこでこの結果 と仮説をもとに,それぞれの要因を構成する変数について単純平均を用いて合成得点を 計算し,クロンバッハの α を求めた(第 4 表)。α の値はどれも 0.65 を超えており,探 索的な研究としてはおよそ分析可能な水準にあると考える。 (3)相関分析 仮説 4 を実証するために,各要因の得点を用いて,全ての要因および変数間のピアソ ンの相関係数を算出し,相関分析を行った。なお以下ではカッコ内の数値はピアソンの 相関係数で,すべて 5% 水準で有意であった項目のみを分析している。 まず全体として,「文化」と「具体的な施策」,そして「結果変数」との間に相関関係 が見られた。分析結果を俯瞰してみると,まず大きくは,1)文化:Q 42 信頼から,施 策:C 7 コミュニケーション活性化と職場風土づくり(0.670),結果:Y 1 職場のイン クルージョン(0.683),そして Y 2 個人のインクルージョン(0.429)へという流れが 第 4 表 各要因を構成する変数と α 要因 質問項目(因子負荷量の大きい順) α Y 1 職場のインクルージ ョン Q 1-3 若手,Q 1-5 異部門,Q 1-4 勤続年数が短い,Q 1-2 生え抜き中 途,Q 1-1 性別,Q 1-6 LGBT 0.900 Y 2 個人のインクルージ ョン Q 2-3 若手,Q 2-4 勤続年数が短い,Q 2-2 生え抜き中途,Q 2-5 異部 門,Q 2-1 性別,Q 2-6 LGBT 0.939 C 1 集団性 Q 3-3 研修・トレーニング,Q 3-8 スキルや能力の発揮 0.718 C 2 女性性 Q 3-2 協調,Q 3-6 雇用が安定 0.706 Y 6 組織のコンプライア ンス違反 Q 5-6 ハラスメント,Q 5-2 違反を隠蔽,Q 5-7 サービス残業 0.699 C 5 社内論理の優先 Q 5-4 上司が対応しない,Q 5-5 社外規範より社内論理 0.773 C 6 ブラック環境 Q 5-8 接待や社内の飲み会,Q 5-11 えこひいきする管理職,Q 6-3 プ レッシャーを感じる 0.651 C 7 コミュニケーション 活性化と職場風土づくり Q 5-13 上下のコミュニケーション,Q 5-14 多様性に関して意見でき る場,Q 5-12 会議で活発な意見交換,Q 6-22 職場間の情報交換, Q 5-3 相談できる雰囲気 0.881 C 9 人事制度・人材登用 Q 6-19 多様性の数値目標,Q 6-18 女性の管理職 0.800 C 10 勤務環境・体制整備 Q 6-12 育児休暇制度,Q 6-8 フレックスタイム等,Q 6-13 多様性のた めの職場環境,Q 6-9 在宅勤務 0.792 C 11 社員の意識改革・能 力開発 Q 6-11 ボランティア休暇制度,Q 6-10 留学や自己啓発の支援, Q 6-21 多様性に関する研修 0.859 C 12 積極採用・抜擢 Q 6-17 外国人の採用,Q 6-16 中途を積極的に採用,Q 6-20 若手社員 の抜擢,Q 6-15 出向者や派遣社員の受け入れ 0.698 94( 1096 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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ある。もう一つは,2)文化:Q 44 不確実性から,施策:Q 64 利益至上主義(0.434), C 6 ブラック環境(0.559),そして結果:Y 6 組織のコンプライアンス違反(0.709),と いう流れがあり,これら二つが大きな流れである。この 1)の流れから,まず Y 2 個人 のインクルージョンを高めるには,Y 1 職場のインクルージョンを高めることが必要だ ということが分かる。さらに Q 51 個人のコンプライアンス違反(行動規範)を防ぐに は Q 61 コンプライアンス施策(制度)(0.522)が,Q 65 個人のコンプライアンス違反 (公正な取引)のためには Q 66 コンプライアンス施策(経費精算)(0.421)が重要であ ることも確認できた。 一方組織文化は,第一回調査と同じように C 1 集団性と C 2 女性性(0.716),Q 41 経 営理念と Q 42 信頼(0.611),Q 43 権力格差と Q 44 不確実性(0.475)3 つのグループ に分かれた。ただし,組織文化の Q 41 経営理念と Q 44 不確実性との間には負の相関 (−0.325)が見られ,経営理念・信頼と権力格差・不確実性が逆の動きをすることにな る。従って Q 42 信頼から始まる 1)の流れと Q 44 不確実性から始まる 2)の流れは別 の動きをしており,全体的に負の相関関係にある。そのため 2)の流れの結果変数であ る C 62 個人のコンプライアンス違反(SNS)と Y 6 組織のコンプライアンス違反も, 1)の流れの結果変数である他の個人のコンプライアンスと逆の動きをするので,1)の 流れの施策である C 11 意識改革・能力改革(Q 62 と−0.337)を行うことが,2)の流 れのコンプライアンス違反を誘発する可能性が指摘できる。 こうした分析を通して組織文化と具体的な施策,結果としてのインクルージョン,コ ンプライアンスとの間には相関関係があるという仮説 4 が実証された。 (4)文化による分類 相関分析で二つの大きな流れのスタートとなっていた組織文化の項目に関連して,5 段階の SD 法で聞いた Q 42 信頼と Q 43 権力格差の 2 つの設問を選び,これらへの回 答のされ方から,サンプル数がなるべく均等になるように回答を 5 つに分類し,それぞ れ佐藤(2009)などをもとに,ネーミングを行った。①ファミリーは信頼あり(1,2) で権力格差あり(4,5)。②ネットワークは信頼あり(1,2)で権力格差なし(1,2,3)。③ アベレージは信頼中程度(3)で権力格差中程度(3)。④ピラミッドは信頼なし(3,4,5) で権力格差あり(4,5)。⑤マーケットは信頼なし(3,4,5)で権力格差なし(1,2,3)のグ ループである。それぞれの構成率は次の第 5 表のようになる。 ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1097 )95

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(5)文化ごとに見た各要因の平均 第 5 表 組織文化による分類の構成率 Q 42 信頼 1 2 3 4 5 ①ファミリー 17.6% ④ピラミッド 14.3% Q 43 権力格差 5 3.1% 1.2% 0.9% 1.9% 2.1% 4 0.9% 12.4% 5.2% 3.6% 0.6% ②ネットワーク 20.6% ③アベレージ ⑤マーケット 19.9% 3 0.8% 8.6% 27.6% 3.6% 0.6% 2 1.2% 6.8% 6.3% 4.2% 0.5% 1 1.5% 1.8% 0.9% 0.8% 3.1% 第 6 表 Q 42 信頼に関連の強い要因 ファミリー ネットワーク アベレージ ピラミッド マーケット 全体 サンプル数 275 322 432 224 312 1565 Q 42 信頼 〇 1.8 〇 1.8 − 3.0 △ 3.8 △ 3.9 2.8 Q 41 経営理念 ◎ 2.0 〇 2.6 − 3.0 △ 3.5 × 3.7 2.9 C 1 集団性 ◎ 2.0 〇 2.3 △ 2.8 △ 3.0 △ 2.9 2.6 C 2 女性性 〇 1.9 〇 2.0 △ 2.6 △ 2.6 △ 2.6 2.3 Y 1 職場インクルージョン ◎ 2.3 〇 2.5 − 3.1 × 3.5 × 3.5 3.0 Y 2 個人インクルージョン ◎ 1.9 ◎ 2.0 △ 2.5 〇 2.2 △ 2.5 2.3 Q 51 行動規範 〇 2.0 〇 2.0 △ 2.6 △ 2.8 × 2.8 2.4 Q 65 公正な取引 〇 2.4 〇 2.4 △ 2.9 △ 2.9 △ 3.0 2.8 C 7 活性化と風土づくり ◎ 2.4 〇 2.6 − 3.0 × 3.6 △ 3.5 3.0 Q 510 実力主義 〇 2.4 〇 2.6 − 3.0 △ 3.4 △ 3.3 3.0 Q 61 コンプ制度 〇 2.3 〇 2.5 − 2.9 △ 3.3 △ 3.2 2.8 Q 66 経費精算 〇 2.3 〇 2.3 △ 2.8 △ 2.7 △ 2.9 2.6 Q 614 転勤異動 〇 2.9 − 3.3 − 3.1 − 3.1 △ 3.5 3.2 Q 623 経営トップ ◎ 2.7 〇 3.1 〇 3.2 △ 3.8 △ 3.7 3.3 C 9 人事制度・人材登用 ◎ 2.9 − 3.2 − 3.2 △ 3.8 △ 3.7 3.3 C 10 勤務環境・体制整備 ◎ 2.9 〇 3.2 〇 3.3 △ 3.8 △ 3.7 3.4 Q 67 成果主義 〇 2.8 − 3.2 − 3.1 △ 3.5 △ 3.6 3.2 C 11 意識改革・能力開発 〇 2.9 − 3.4 − 3.3 △ 4.0 △ 3.9 3.4 C 12 積極採用・抜擢 ◎ 2.7 〇 2.9 − 3.1 △ 3.4 △ 3.3 3.1 Q 7 革新性 〇 3.5 〇 3.7 − 4.1 △ 4.7 △ 4.5 4.1 Q 8 イノベーション ◎ 3.3 〇 3.5 − 3.9 △ 4.6 △ 4.4 3.9 Q 9 成長性 〇 3.0 〇 3.2 △ 3.6 △ 3.6 △ 3.7 3.4 Q 10 やる気 〇 2.6 〇 2.6 △ 3.1 × 3.5 × 3.5 3.0 Q 11 定着率 〇 2.4 〇 2.2 △ 2.8 △ 3.0 △ 2.9 2.7 96( 1098 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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仮説 5 を実証するために,文化の 5 分類ごとに各要因の平均に差があるかどうか,分 散分析と一対比較による平均の差の検定を行った(第 6, 7 表)。表にあるものはすべて 5% 水準で統計的に有意であった要因である。まず分散分析が有意であった要因につい てそれぞれ Leven 検定を行ったところ,すべての項目で等分散が仮定できたため,表 の中では Tukey の HSD 検定による一対比較の結果を,◎は平均より高い,〇はやや高 い,−は平均並み,△はやや低い,×は低いという記号を用いて表している。またカテ ゴリ変数である属性については,χ 自乗検定を行って有意であった変数について,相対 的に頻度の高いカテゴリを表示している。 (6)文化による分類のそれぞれの特徴 各文化の分類ごとに全体と同じような相関分析を行い,これと前述の平均の差を合わ せて各分類の主な特徴を見たところ,次のようになった。カッコ内は,それぞれのカテ ゴリの平均値,あるいは 5% 水準で有意となった相関係数の値である。 ① ファミリー サンプル数 275 で,全体の 17.6% を占めている。Q 42 信頼がある(〇 1.8)が Q 43 権力格差の高い(△ 4.2)グループである。回答者は年齢が少し高い(51.0 歳)新卒入 社の管理職が多く,企業としてみるとその社長は 40 代の創業者が多い。典型的な日本 的経営の組織のイメージであろうか。 Q 42 信頼があるので,Y 1 職場(◎ 2.3)も Y 2 個人(◎ 1.9)もインクルージョンが 良く,Q 51 個人のコンプライアンス違反(行動規範)(〇 2.0),Q 52(公正な取引) (〇 2.4)はやや少ない。一方,Q 43 権力格差があるので,Y 6 組織(△ 3.0),Q 62 個 第 7 表 Q 43 権力格差に関連の強い要因と,属性項目 ファミリー ネットワーク アベレージ ピラミッド マーケット 全体 Q 43 権力格差 △ 4.2 〇 2.3 − 3.0 △ 4.3 ◎ 2.0 3.1 Q 44 不確実性 △ 3.7 〇 2.3 − 2.8 − 2.8 〇 2.2 2.8 Y 6 組織コンプ違反 △ 3.0 〇 2.2 − 2.8 × 3.2 − 2.7 2.7 Q 62 個人コンプ違反 SNS × 2.8 〇 2.0 △ 2.6 − 2.5 − 2.3 2.4 C 5 社内倫理の優先 △ 3.2 〇 2.5 − 3.0 × 3.5 − 2.9 3.0 C 6 ブラック環境 △ 3.0 〇 2.4 − 2.9 × 3.3 − 2.7 2.8 Q 59 人手不足 − 3.4 − 3.3 − 3.2 △ 3.9 − 3.4 3.4 Q 64 利益至上主義 △ 2.9 ◎ 2.2 △ 2.8 △ 2.8 〇 2.4 2.6 F 2 年齢(歳) 51.0 51.9 49.8 51.6 49.1 50.6 F 7 新卒中途 新卒 やや中途 中途 F 8 職制 管理 やや管理 一般 一般契約 F 11 従業員数 小 中 中小 F 12 社長の属性 創業者 外部 一族 一族 F 13 社長の年齢 40 代 60 代 70 以上 4, 50 代 ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1099 )97

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人のコンプライアンス違反(SNS)(× 2.8)の水準が悪い。また相関係数でみると,Q 67 成果主義と C 6 ブラック環境(−0.479),C 10 勤務環境・体制整備と Q 62 個人のコ ンプライアンス違反(SNS)(−0.505)に負の相関があるので,多様性に関する制度を 進めすぎるとコンプライアンスの問題を誘発する可能性を持っている。 ② ネットワーク サンプル数 322 で,全体の 20.6% を占めている。Q 42 信頼があり(〇 1.8),Q 43 権 力格差もない(〇 2.3)グループである。回答者は年齢が少し高く(51.9 歳),管理職が やや多く,従業員規模が小さく,社長は 60 代の外部からが多い。文献ではよくイノベ ーション型とネーミングされることが多いが,この分析では Q 8 イノベーション(〇 3.5)が一番高いわけではない。Q 8 イノベーションの平均が最も高い分類は①ファミリ ー(◎ 3.3)である。 Q 42 信頼があるので,Y 1 職場(〇 2.5)も Y 2 個人(◎ 2.0)もインクルージョンが 良く,Q 51 個人のコンプライアンス違反(行動規範)(〇 2.0),Q 52(公正な取引) (〇 2.4)はやや少ない。一方 Q 44 権力格差がないので,Y 6 組織(〇 2.2),Q 62 個人 のコンプライアンス違反(SNS)(〇 2.0)の水準がやや良い。相関係数でみると Q 614 転勤異動と C 6 ブラック環境に負の相関(−0.400)があるので,多様性に関する制度を 進めすぎるとコンプライアンスの問題を誘発する可能性を持っている。ただし前述のよ うに Q 51 個人のコンプライアンス違反(行動規範)と Y 6 組織のコンプライアンス違 反の水準はどちらもやや良く,正の相関(0.400)がある。 インクルージョンもコンプライアンスもうまくいっている,ある種,理想的な組織で あるが,組織文化そのものは短期的には動かせないので,他の分類の企業はまずはそれ ぞれの組織文化の下で,施策を打って結果を改善していくことが重要である。 ③ アベレージ サンプル数 432 で,全体の 27.6% を占めている。Q 42 信頼(− 3.0)も Q 43 権力格 差(− 3.0)も中程度で,特徴がない。会社としては社長に 70 歳以上がやや多い。 組織の特徴がはっきりしないか,回答者が組織文化についてよく分からなかったた め,多くの項目に 3 を付けてしまったカテゴリである可能性があるため,あまり積極的 にこの分類から意味を抽出する必要はないかもしれない。全体として文化も,施策も, 結果も,それぞれ中程度かやや悪い状態である。また全体の分析と同じように 1),2) の流れのグループ間での負の相関がみられる。 ④ ピラミッド サンプル数 224 で,全体の 14.3% を占めている。Q 42 信頼がなく(△ 3.8),Q 43 権 力格差がある(△ 4.3)グループである。回答者は年齢が少し高く(51.6 歳),一般社員 が多く,従業員規模は中程度,社長は創業者一族が多い。いわゆるお役所的な組織であ 98( 1100 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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ろうか。 Q 42 信頼がないので,Y 1 職場のインクルージョンが悪く(× 3.5),Q 51 個人のコ ンプライアンス違反(行動規範)(△ 2.8),Q 52(公正な取引)(△ 2.9)はやや多い。 また Q 44 権力格差があるので,Y 6 組織のコンプライアンス違反の水準も悪い(× 3.2)。ただし,Y 2 個人のインクルージョンが平均よりやや良い水準(〇 2.2)にあるの が特徴である。相関係数で見ると,Q 41 経営理念と Q 43 権力格差に正の相関(0.226) があり,1),2)の流れのどちらも相対的に水準が低いので,全体に正の関係となって いる。同様に C 5 社内論理の優先と Q 51 個人のコンプライアンス違反(行動規範)に 正の相関(0.464)がある。 ⑤ マーケット サンプル数 312 で,全体の 19.9% を占めている。Q 42 信頼がない(△ 3.9)が,Q 43 権力格差もない(◎ 2.0)グループである。回答者は年齢がやや若く(49.1 歳),一般社 員あるいは契約社員が多く,従業員規模は中小,社長は 4, 50 代の創業者一族が多い。 フリーランスがバラバラにそれぞれ活躍しているようなイメージの組織である。 Q 42 信頼がないので,Y 1 職場(× 3.5),Y 2 個人のインクルージョン(△ 2.5)が 悪く,Q 51 個人のコンプライアンス違反(行動規範)(× 2.8),Q 52(公正な取引) (△ 3.0)はやや多い。ただし Q 44 権力格差がないため,Y 6 組織(− 2.7),Q 62 個人 のコンプライアンス違反(SNS)(− 2.3)の水準は平均的である。相関係数でみると全 体の分析と同じように経営理念と Q 43 権力格差に負の相関(−0.323)があり,C 9 人 事制度・人材登用と Q 62 個人のコンプライアンス違反(SNS)にも負の相関(−0.338) があるので,多様性の施策を進めすぎると個人のコンプライアンス違反を誘発する可能 性がある。 以上の分析を通じて,組織文化の次元で分類すると,具体的な施策やコンプライアン スの程度が異なるという仮説 5 の実証としたい。 3.結論に代えて 第一回調査においては,組織文化と多様性インクルージョン,イノベーションとの関 係を明らかにした。そこでは職場のインクルージョンとイノベーションの相関が高いこ と,またイノベーションと理念浸透,信頼の相関が高いことが分かった。そして第二回 調査では組織文化との関係を通して,さらに多様性,イノベーション,コンプライアン スのための具体的な施策についての分析を行った。 本研究の実務的なインプリケーションとして,まずイノベーションと多様性そして組 織文化に関しては,多様性のインクルージョンはイノベーションに寄与し,企業の成長 をもたらすことが分かった。そして信頼と理念浸透が,コミュニケーション活性化と職 ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1101 )99

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場風土を通して,職場の多様性インクルージョンを高める事が分かった。従業員間の信 頼の醸成が多様性インクルージョンの基礎となっていると言えよう。さらにコミュニケ ーションの活性化と職場風土作りが有効なのであり,経営トップによるリーダーシップ が必要である一方,成果主義を伴う働き方改革も関連している。 こうしてみると,多様性を高める対応策として,まずは従業員間の信頼を高める工夫 をするべきであろう。信頼は経営理念の浸透と正の相関があるため,理念浸透策が間接 的に有効となる可能性もある。そしてトップのリーダーシップ,コミットメントが成功 の鍵であり,強く明確なメッセージを出していく必要がある。特にコミュニケーション の活性化・相談できる風土作りが対策の中心として重要である。時には突飛な意見も出 るかもしれないが,多様な意見の腰を折らないように,トップや管理職は気をつけるべ きであり,またあえて部外者を会議に招聘する等によって,会議を活発化させるべきで あろう。さらにフレックスタイム,在宅勤務等,働き方改革とも歩調を合わせるのが良 いと思われる。その際,従来型の年功序列型ではうまく機能しないのではないだろう か。 コンプライアンスと多様性そして組織文化に関しては,組織のコンプライアンス違反 には,利益至上主義,社内論理の優先,ブラックな職場環境等の影響が大きく,また組 織文化としては権力格差の大きさが基礎的な要因となっていた。そして多様性施策によ って違反が増える可能性がある点は,要注意であろう。組織のコンプライアンスに対し て,権力格差が影響を与えており,利益至上主義,社内論理の優先,ブラックな環境が 組織の不正トライアングルを作っているのである。そこでコンプライアンス対応策につ いて考えると,まず組織文化である権力格差を短期間で変えるのは難しいし,会社によ っては変えないという選択肢もありうる。そのため組織の不正トライアングルの悪循環 を断ち切ることが重要であり,組織の不正トライアングルの強さを定期的にモニタリン グすることも必要となろう。 組織文化による企業の分類に関しては,従業員間の信頼の高さと権力格差の大きさで 企業を分類すると,組織の性格が明確になることが分かった。例えばファミリー型企業 (信頼が高く,権力格差が大きい),ネットワーク型企業(信頼が高く,権力格差が小さ い),ピラミッド型企業(信頼が低く,権力格差が大きい),マーケット型企業(信頼が 低く,権力格差が小さい)等に分類でき,それぞれの型に,長所と短所が存在するので ある。すなわち従業員相互の信頼の水準,権力格差の二軸によって,自社の組織文化が どの様なものであるか認識することがスタートとなる。そして短期的に文化を変えるこ とは困難であるため,まずは現状の文化を所与として,どの様な長所・短所があるのか を理解する必要がある。 組織文化と施策について考えると,まずは自社の文化を分析してその長所・短所を認 100( 1102 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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識し,その上で戦略との関連から,多様性,イノベーション,コンプライアンスに係る 方針を決め,その方針に沿って実効性のある施策を策定し,実施していくことが重要と なる。また組織文化に関する中長期的なビジョンを持つ必要もあろう。すなわちリーダ ーの交代,戦略やビジネスモデルの変化,世代交代等により,中長期的には文化が変わ ることはありうるため,マネジメントは常に方向性を示し,その方向に組織文化を変革 していくべきなのである。このように多様性,イノベーション,コンプライアンスに対 して,自社の戦略との関連で,どの部分をどこまで強化するか方針を決めることが大切 なのであり,まずは定期的に社員サーベイ等を通じてモニタリングを行っていく必要が あるのではないだろうか。 学術的にみると本研究は従来別々に議論されてきた組織文化と多様性,イノベーショ ン,コンプライアンスに関して,これらを総合的にとらえようと試みた点が大きな貢献 となろう。もちろんまだまだ探索的な研究であり,個別の尺度や厳密なモデルの作成 等,残された課題は多い。また個人レベルのミクロなアンケートでどこまで組織の特性 である組織文化について語れるのかという点は,こうした研究の一つの限界であろう。 しかし,まずは組織文化によって経営管理の在り方が異なってくる,という事実が大変 重要な事であると私は考えている。今後のさらなる理論研究並びに実証研究を通じて, 残された課題を一つずつ解決していきたいと思う。 参考文献

〔 1 〕Hofstede, G.,(1980)Culture’s Consequences, SAGE,[萬成博他訳『経営文化の国際比較』産業能率 大学出版部,1984 年].

〔 2 〕Hofstede, G.,(1991)Culture and Organization, McGraw-Hill,[岩田紀子他訳『多文化世界』有斐閣, 1995 年]. 〔 3 〕有村貞則「日本企業とダイバーシティ・マネジメント」『国際ビジネス研究』第 1 巻第 2 号,2009 年,1-17 ページ。 〔 4 〕CIA フォーラム研究会「ダイバーシティ経営への内部監査による貢献の勧め」『月刊監査研究』第 525 号,2017 年,26-42 ページ。 〔 5 〕藤森三男,榊原貞雄,佐藤 和『ハイブリッド・キャピタリズム』慶應義塾大学出版会,1997 年。 〔 6 〕二神枝保,村木厚子編著『キャリア・マネジメントの未来図』八千代出版,2017 年。 〔 7 〕辺見佳奈子「米国におけるダイバーシティ・マネジメントの台頭と理論的展開」『経営研究』第 68 巻第 2 号,2017 年,73-96 ページ。 〔 8 〕古川靖洋『テレワーク導入による生産性向上戦略』千倉書房,2015 年。 〔 9 〕井上詔三「ダイバーシティ&インクルージョン推進と経営成果」『立教ビジネスレビュー』第 8 号, 2015 年,32-40 ページ。 〔10〕経済産業省編『ダイバーシティ経営戦略 4』経済産業調査会,2016 年。 〔11〕北居 明『学習を促す組織文化』有斐閣,2014 年。 〔12〕小林 学「企業コンプライアンスと法」『桐蔭論叢』第 35 号,2016 年,57-63 ページ。 〔13〕小山健太「ダイバーシティ・マネジメントにおけるリーダーシップ行動」『組織学会大会論文集』 第 6 巻第 1 号,2017 年,150-155 ページ。 ダイバーシティとコンプライアンス(佐藤) ( 1103 )101

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〔14〕馬越恵美子『ダイバーシティ・マネジメントと異文化経営』新評論,2011 年。 〔15〕正木郁太郎,村本由紀子「多様化する職場におけるダイバーシティ風土の機能ならびに風土と組織 制度との関係」『実験社会心理学研究』第 57 巻第 1 号,2017 年,12-28 ページ。 〔16〕中村 豊「ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義」『高千穂論叢』 第 52 巻第 1 号,2017 年,53-84 ページ。 〔17〕大久保幸夫,皆月みゆき『働き方改革 個を活かすマネジメント』日本経済新聞出版社,2017 年。 〔18〕岡本大輔,古川靖洋,佐藤 和,馬塲杉夫『深化する日本の経営』千倉書房,2012 年。 〔19〕岡本大輔,梅津光弘『企業評価+企業倫理』慶應義塾大学出版会,2006 年。 〔20〕奥井めぐみ,大内章子,脇坂 明「企業の男女均等施策や WLB 施策が業績に与える影響」『学習 院大学経済論集』第 53 巻第 2 号,2016 年,43-66 ページ。 〔21〕尾崎俊哉「ダイバーシティ・マネジメントの理論的考察」『立教ビジネスレビュー』第 8 巻,2015 年,17-31 ページ。 〔22〕尾崎俊哉『ダイバーシティ・マネジメント入門』ナカニシヤ出版,2017 年。 〔23〕ペイン,L. S. 著,梅津光弘,柴柳英二訳『ハーバードのケースで学ぶ企業倫理』慶應義塾大学出 版会,1999 年。 〔24〕佐藤博樹,武石恵美子編『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会,2017 年。 〔25〕佐藤 和『日本型企業文化論』慶應義塾大学出版会,2009 年。 〔26〕佐藤 和「アジアにおける企業文化の比較研究に向けて」『三田商学研究』第 58 巻第 2 号,2015 年,87-98 ページ。 〔27〕清水龍瑩『能力開発のための人事評価』千倉書房,1995 年。 〔28〕髙 巌「経営理念はパフォーマンスに影響を及ぼすか」『麗澤経済研究』第 18 巻第 1 号,2010 年, 57-66 ページ。 〔29〕髙 巌『コンプライアンスの知識(第 2 版)』日本経済新聞出版社,2010 年。 〔30〕谷口真美『ダイバシティ・マネジメント』白桃書房,2005 年。 〔31〕谷口真美「多様性とリーダーシップ」『組織科学』第 50 巻第 1 号,2016 年,4-24 ページ。 〔32〕牛尾奈緒美,石川公彦,志村光太郎『ラーニング・リーダーシップ入門』日本経済新聞出版社, 2011 年。 〔33〕牛尾奈緒美,志村光太郎『女性リーダーを組織で育てるしくみ』中央経済社,2014 年。 〔34〕渡邊隆彦「企業コンプライアンス」『月刊監査研究』第 511 号,2016 年,35-41 ページ。 〔35〕渡邊隆彦「企業コンプライアンスにおける PDCA サイクル」『専修大学商学研究所報』第 48 巻第 8 号,2017 年,1-15 ページ。 102( 1104 ) 同志社商学 第69巻 第6号(2018年3月)

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