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卒業論文 電子 陽電子対消滅ガンマ線の角度揺動の測定 平成 24 年度 信州大学理学部物理科学科 高エネルギー研究室 赤澤健

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(1)

卒業論文

電子・陽電子対消滅ガンマ線の角度揺動の測定

平成 24 年度

信州大学理学部物理科学科

高エネルギー研究室

赤澤健

(2)

目次

第1章 陽電子放射断層撮影法(

Positron Emission Tomography

PET

1-1.

概要

(a)PET

検査の流れ

(b)PET

検査の特徴 

1-2.PET

の原理

(a)

陽電子崩壊(

β

+崩壊)

(b)

陽電子飛程

(C)

電子陽電子対消滅

(d)PET

装置の原理

1-3.PET

の解像度向上における物理的な問題

(a)

陽電子飛程

(b)

角度揺動 第

2

章 陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動の測定の準備

2-1.

研究内容

2-2.

放射線源22

Na

 

2-3.

ガンマ線検出器

(a)

シンチレーター「

LYSO

(b)

光検出器「

MPPC

2-4.

測定機器の接続

(a)

シンチレーター「

LYSO

 

3×3×15 mm

3

(b)

光検出器「

MPPC

 

1600

ピクセル、

Serial No.:9024

、他」

(c)ADC

REPEC RPC-022

(d)

読み出し回路

(e)

アンプ「

CXA 3183 ASD BUFFER KEK N0641-016

(f)

信号の分岐

(g)

ディスクネーター「

DISCRIMINATOR N-TM716

(h)

コインシデンス「

COINCIDENCE N-TM 103

 

(i)

ゲートジェネレーター「

DUAL GATE GENERATOR N-014 HOSHIN

(j)

クロックジェネレーター「

CLOCK GENERATOR N010 HOSHIN

2-5.

ノイズ対策

3

章 陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動の測定

3-1.

バックグラウンドの測定

(a)

方法

(b)

結果

3-2.

陽電子飛程の測定

(a)

方法

(3)

(b)

結果

3-3.

ガンマ線の角度揺動の測定

(a)

方法

(b)

結果 第

4

章 考察

4-1.

コリメーターでのガンマ線の散乱の有無

4-2.

最大飛程の定義

4-3.

角度揺動の最大値

4-4.

ディスクリミネーターのスレッショルド電圧以下の信号が測定された理由 第

5

章 まとめ

5-1.

陽電子飛程、対消滅ガンマ線角度揺動の

PET

の解像度への影響

5-2.

今後の課題 付録 付録

1.

シンチレーター

LYSO

の自己放射線  付録

2.

放射線のエネルギーと

ADCcount

の線形性  付録

3.

22

Na

ADC

分布で

1.275 MeV

ガンマ線の光電効果のピークが確認できなかった理由 謝辞 <参考文献>

(4)

第1章 陽電子放射断層撮影法

(Positron Emission Tomography:PET)

1-1.

概要

 陽電子放射断層撮影法(

Positron Emission Tomography

PET

)は、生体機能を3次元画像とし

て測定する技術で、特にがんの発見に有効な手法である。

(a)PET検査の流れ

 まず薬剤を作成する。代表的な薬剤にフルオロ・デオキ シ・グルコース

(Fluoro Deoxy Glucose

FDG)

(図

1.1

がある。これは、 グルコース(ブドウ糖)の

-OH

基の一つ を陽電子放出核種である18

F

に置き換えたもので、がんの診 断に用いられる。18

F

は半減期が

110

分と短いため、病院内 に設置されたサイクロトロンで作成する。   図

1.1

 

FDG

 作成した薬剤を被験者の体内に注射し、しばらく安静にして

FDG

を体内に行き渡らせる。がん細胞 は活動が活発なため正常な細胞に比べて

3

8

倍のグルコースを取り込む性質があり、グルコースと同 じ構造の

FDG

も正常な細胞と比べてたくさん取り込む。体内から出てくる放射線を測定・解析し、

FDG

の分布を調べると、がんが疑われる場所、悪性の度合いなどが推測できるのである。[PET検査ネット]  図

1.2a

FDG

を使用したときの

PET

検査の画像である。

FDG

が特定の臓器に集積しているようす がわかる。脳は生理的にブドウ糖の代謝が活発なため、

FDG

が集積している。 図

1.2a PET

検査の画像[ウィキペディア]

1.2b X

線検査の写真 [東海大学医学部附属病院]

(5)

(b)PET

検査の特徴 

 比較のために図

1.2b

X

線検査の写真を載せた。

X

線検査は被験者に

X

線を当てて、透過する

X

線 をイメージング・プレート(有機フィルム状の片面に蛍光体粉末を塗布した板。写真フィルムの代わ りに用いられる[メディカルウェア])でとらえて画像化し、内部の様子を調べる方法である。診断は人が 目で見て、異常箇所がないか調べる。これに対して

PET

は放射性物質を体内に入れて、体内からの放 射線を検出器でとらえて画像化し内部の様子を調べる。診断は、薬剤がある意味で能動的に患部に集 積するので、薬剤が異常箇所を知らせてくれるようにもみえる。このように

PET

検査は体の内部から の放射線を利用しているという点で、従来の

X

線検査と異なる特徴がある。  

1-2.PET

の原理

 体内に注射された薬剤

FDG

18

F

から陽電子が放出され、その陽電子が体内中の電子と対消滅して、 対消滅ガンマ線が放射される。このガンマ線を測定・解析して、体内中の

FDG

の集積を見つける。 (a)陽電子崩壊(β+崩壊)  あらゆる元素は、原子核内の陽子数と中性子数とが特定の比率で存在しているとき、エネルギー的 に安定であり、中性子数に過不足を生じた原子核は不安定である。そこで、中性子不足核では核内の 陽子が中性子に壊変し、その際、陽電子(

positron

e

+と電子ニュートリノ

νe

が放出されるこれ を陽電子崩壊(または

β

+崩壊)といい、陽電子崩壊によって放出された陽電子を

β

+粒子という(式

1.1

)。式

1.2

は薬剤

FDG

の18

F

の崩壊式である。18

F

は陽電子を放出して、18

O

に崩壊する。[大塚、 西谷 2007 60-61]

p → ne

+



e

(1.1)

F

18

→ O

18

e

+



e

(1.2)

(b)陽電子飛程  陽電子崩壊によって放出された陽電子が物質中を通る際には、周囲の原子を次々と電離して進み、 しだいにエネルギーを失う。陽電子がエネルギーを失うまでに進んだ距離のことを陽電子飛程という。 陽電子崩壊は

3

体崩壊のため、陽電子の初期運動量の大きさにはばらつきが生じる。さらに陽電子は 周囲の原子を電離するたびに運動方向が変化するため、陽電子飛程にはばらつきが生じる。図

2.2

陽電子飛程のイメージである。 (c)電子陽電子対消滅  粒子と反粒子が衝突すると、互いに消滅して、粒子と反粒子の静止質量に相当したエネルギーに変 換される。電子と陽電子は互いに粒子、反粒子の関係にあり、陽電子放出核種から放出された陽電子 は、電離能力を失うと、付近の電子と対消滅し、電子と陽電子の静止質量

2×m

0

c

2

(=2×0.511

MeV)

に相当したエネルギーの

2

本ガンマ線に変換される。これを電子陽電子対消滅という。対消滅時 の電子と陽電子の運動エネルギーは電子と陽電子の静止エネルギーにくらべて十分小さいので電子と 陽電子の運動量を

0

とみなせば、エネルギー保存則と運動量保存則を満たすために、エネルギーが

0.511MeV

2

本のガンマ線が互いに反対方向(

180°

)に放射される(式

1.3

)。エネルギーが等し いガンマ線が互いに反対方向に放射されれば、運動量

0

が保存されるというわけである。対消滅に

(6)

よって生じるガンマ線のことを対消滅ガンマ線とよぶ。[ 大塚、西谷 2007 119-120]

e

+

e

-

=2 

(1.3)

(d)PET装置の原理  薬剤

FDG

18

F

から陽電子が放出され、その 陽電子が付近の体内中の電子と対消滅して、対 消滅ガンマ線を放出する。

PET

装置ではガンマ 線検出器が被験者を取り囲むように配置され、 反対方向に放出された

2

本の対消滅ガンマ線を 同時に検出することにより、その直線上に

FDG

があることが分かる。この対消滅ガンマ線はあ らゆる方向に放出されるため、それぞれの対消 滅ガンマ線の交点を求めれば、

FDG

の位置を特 定することができる

(

1.3)

。つまり、

PET

検 査では、18

F

から放出される陽電子をとらえる のではなく、電子陽電子対消滅で生じるガンマ 線をとらえるのである。 図

1.3 PET

装置の原理  

1-3.PET

の解像度向上における物理的な問題

 

PET

の解像度は年々向上し、市販の全身用では

4

5 mm

、研究用では

3 mm

以下の精度が得られてい る[山下 2011 632]

PET

の解像度向上に困難を与える物理的な要因として、陽電子放出核種から放出 された陽電子が電子と対消滅するまでに移動する現象(陽電子飛程)と対消滅ガンマ線が反対方向 (

180°

)からずれる現象(角度揺動)がある。

(a)

陽電子飛程  陽電子飛程のため、「薬剤

FDG

の位置」と「陽電子が電子と対消滅を起こし、対消滅ガンマ線が発 生する位置」にはずれが生じる。陽電子飛程の大きさは、陽電子が陽電子放出核種から放出されると きの陽電子のエネルギーの大きさによる。陽電子崩壊は

3

体崩壊であり、陽電子はさまざまな値のエ ネルギーをとるため、ここでは陽電子のエネルギーが最大

Emax[MeV]

のときの陽電子飛程を考える。 これを最大陽電子飛程

Rmax[g/cm

2

]

といい、実験式は次のようになる[大塚、西谷 2007 113]

R

max

=0.470 E

max1.38

 0.15  E

max

 0.8  MeV

R

max

=0.542 E

max

−0.133

0.8  E

max

 3 MeV

(1.4)

  たとえば、放射性同位体である22

Na

は、陽電子崩壊により最大エネルギー

0.54 MeV

の陽電子を

放出する。このとき、最大陽電子飛程は

0.20 g/cm

2となる。これは水中(密度

1.0 g/cm

3)ならば、

(7)

(b)

角度揺動  電子陽電子対消滅で生じるガンマ線は、対消滅時の電子と陽電子の運動量を

0

と仮定すると、運動 量保存則により、反対方向(

180°

)に放出される。しかし、実際には電子は原子の軌道電子であるか ら、運動量があり、また陽電子は電離能力を失っていても、静止しているわけではなく、運動量があ るはずである。これらの運動量のため対消滅ガンマ線が反対方向(

180°

)からずれることがある。こ の現象を角度揺動という。角度揺動の大きさは最大で

10 mrad

程度となる。      図

2.2

 陽電子飛程と角度揺動        図

2.3

 角度揺動の見積り  ここでは、図

2.3

のように、水素原子の軌道電子が、電離能力を失って静止している陽電子に衝突 したと仮定して、対消滅ガンマ線の角度揺動を見積もった。   水素原子において、軌道電子がクーロン力を向心力として、原子核の周りを円運動していると仮定 すると、

1

4 

0

q

1

q

2

r

2

=m

e

v

e 2

r

(1.5)

 ここに、

ε0

は真空の誘電率で

8.85×10

-12

Fm

-1

q1

q2

はそれぞれ陽子、電子の電荷の大きさで

q1=q2=1.60×10

-19

C

r

は軌道電子の円運動の半径で

3.0×10

-11

m

me

は電子の質量で

9.109×10

-31

kg

である。よって、軌道電子の速さは

ve=2.90×10

6

m/sec

と求まる。  エネルギー保存則より、

1

2

m

e

V

e 2

2⋅m

e

c

2

=2 E

        

(1.6)

ここに、

1

2

m

e

V

e 2 は電子の運動エネルギー、

2⋅m

e

c

2 は電子と陽電子の静止エネルギー、

2

E

2

本のガンマ線のエネルギーである。また、運動量保存則より、

m

e

v

e

=2⋅P

cos '

(1.7)

ここに、

m

e

v

e は電子の運動量、

P

 はガンマ線の運動量である。式

(1.6)

、式

(1.7)

を解くと、

θ'=89.7°

と求まるので、角度揺動は

θ=0.6°(=10 mrad)

と見積もることができる。

(8)

第 2 章 陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動の測定の準備

2-1.

研究内容

 本研究の目的は実際の

PET

に用いられるガンマ線検出器に準じた検出器を作成し、それを用いて陽 電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動を測定することである。第

2

章では検出器の作成について、第

3

章では作成した検出器を使用しての陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動の測定について述べる。

2-2.

放射線源

22

Na

 本実験では陽電子放出核種として、22

Na

線源を用いた。

Na

22

→ Ne

22

e

+



e        

(2.1)

 全体の形状(図

2.1a

)は直径

25.10 mm

、厚さ

3.07 mm

の円盤状で、質量

1.75142 g

、密度は

1.15 g/cm

3である。放射能自体は直径

0.85 mm

の球状に密封されている(図

2.1b

)。なお、放射能 の回りに見える霧のような部分は放射線ダメージによるもので、放射能はない。      図

2.1a

 放射線源

Na-22

          図

2.1b

 球状に密封された放射能

2-3.

ガンマ線検出器

 本研究では、シンチレーター「

LYSO

」と光検出器「

MPPC

」を組み合わせて、ガンマ線検出器を作成 した。

(a)

シンチレーター「

LYSO

 シンチレーターとは放射線の入射により発光する物質のことである。この発光のことをシンチレー ションという。発光量は放射線がシンチレーター内で落したエネルギーの大きさに比例するといわれ ている。放射線がシンチレーターに入射し、光電効果を起こした場合は、放射線は全エネルギーを失 うので発光量は入射した放射線のエネルギーの大きさに比例する。一方、放射線がシンチレーターに 入射し、コンプトン散乱を起こした場合は、放射線はエネルギーの一部を落して、シンチレーターを 通過する。シンチレーター内で複数回のコンプトン散乱を起こすことも考えられるが、コンプトン散 乱の時間間隔(光が

1cm

のシンチレーターを進むのにかかる時間は

3×10

-2

nsec)

がシンチレーショ ン光の減衰時間(

LYSO

のシンチレーション光の減衰時間は

44 nsec

)に比べて小さいため、

1

回のシ ンチレーションとして観測される。いずれにしても

1

個の放射線により

1

回のシンチレーションが起

(9)

き、発光量は放射線がシンチレーター内で落したエネルギーの大きさに比例するとみなせる。  本実験ではシンチレーターとして無機シンチレーター「

LYSO

 

3×3×15 mm

3」を用いた。シンチ レーターには反射フィルムを巻き、セロハンテープで

MPPC

の受光面に取り付けた。

(b)

光検出器「

MPPC

」  シンチレーションで生じた光は光検出器で検出する。従来は光電子倍増管(フォトマル)が用いら れてきたが、本実験では

MPPC

という光検出器を用いた。

MPPC

は浜松ホトニクス社の製品である。さ まざまなピクセル数のものがあるが、本実験では

1600

ピクセルの

MPPC

を用いた。

2-4.測定機器の接続

 図

2.2

の接続図上側の

2

組の

LYSO

MPPC

はガンマ線の検出を行うもので、ガンマ線検出器、下側 の

MPPC

はノイズの検出行うもので、ノイズ検出器とよぶことにする。ここでは、ガンマ線が

LYSO

に 入射して発光し、その光を信号として読み出すまでの流れを順を追ってを説明する。ノイズ検出器に ついては

2-5.

ノイズ対策で説明する。  図

2.2

 測定機器の接続図

(10)

(a)

シンチレーター「

LYSO

 

3×3×15mm

3

ガンマ線がシンチレーター

LYSO

に入射すると、シンチレーションが起き、発光する。

(b)

光検出器「

MPPC

 

1600

ピクセル、

Serial No.:9024

、他」

 

MPPC

がシンチレーション光を検出すると、検出した光の量に対応した電流(信号)を出力する。

(c)ADC

REPEC RPC-022

 

ADC

はゲートが開いている間(

Gate

端子に

NIM

パルスが入力されている間、

NIM

パルスとは、図

2.3

Gate

信号のような矩形波である)、

Signal

端子に入力されたアナログ信号の電荷量を数値と して出力する装置である。ここでいうアナログ信号とは

MPPC

からの信号のことで、

MPPC

からの信号 の電荷量を求めることで、

MPPC

が検出した光量を知ることができる。     ゲート用信号も

MPPC

からの信号を利用する。図

2.3

はそのイメージ図である。濃い緑色の部分と明 るい緑色の部分が

ADC

に出力される電荷量(

ADCcount

)である。ただし、濃い緑色の部分はペデスタ ルといって、正の電圧の信号を考慮して常に底上げされているものである。

ADCcount

から光量を求め る場合には、ペデスタルを差し引く必要がある。 図

2.3 ADC

のイメージ図

(d)

読み出し回路  

MPPC

からの信号を読み出すためには、読み出し回路が必要である。読み出し回路には、電圧をかけ る必要があり、この電圧の大きさは

MPPC

が動作し始める電圧(ブレークダウン電圧)より、

1

3 V

程度、絶対値で上に設定する。この電圧をバイアス電圧という。

MPPC

からの信号の大きさはバイアス 電圧の大きさにほぼ比例するので、測定したい光の強さによって、バイアス電圧を決める。信号は大 きいほうが見やすいが、大きすぎると

ADC

で読みきれなくなってしまう

(

オーバーフローしてしまう

)

ので、適当なバイアス電圧を決める必要がある。本実験ではバイアス電圧を

1.5 V

に設定した。

(e)

アンプ「

CXA 3183 ASD BUFFER KEK N0641-016

(11)

の増幅率は

596.4

倍である。図

2.4

はアンプを通した後の

MPPC

の信号のオシロスコープの画像であ る。対消滅ガンマ線を

2

つの

MPPC

で同時に検出しているようすがわかる。 図

2.4

 

ASD

アンプを通した

MPPC

の信号

(f)

信号の分岐  アンプを通した後、下側のガンマ線検出器からの信号をゲート用信号、シグナル用信号の

2

つに分 ける。信号を

2

つに分けると電圧が半分になる。上側のガンマ線検出器からはシグナル用信号は取ら ずに、ゲート用信号のみを取るが、電圧を下側と同じく半分にするために、信号を

2

つに分けている。 このうち、不要な信号の先には

50 Ω

の抵抗を付けておく。

(g)

ディスクネーター「

DISCRIMINATOR N-TM 716

」  次に、ゲート用信号をディスクリミネーターに入れる。ディスクリミネーターは、入力されたアナ ログ信号の電圧が設定した電圧(スレッショルド電圧)を越えたとき、

NIM

パルスを出力する装置で ある。

MPPC

は受光面に光が入らなくも信号(ダークノイズ)を出してしまうことがあるが、ダークノ イズによる信号の電圧は実際に見たい信号の電圧より小さいので、スレッショルド電圧を適切な値に することによって、実際の信号をそれほどカットせずに、ダークノイズのみをカットすることができ る。

MPPC

は他にもアフターパルスなどのノイズも出してしまうが、これも同じ理由でカットすること ができる。スレッショルド電圧が小さすぎるとノイズをカットできず、また大きすぎると見たいの信 号もカットしてしまうので、調整が必要である。本実験ではディスクリミネーターのスレッショルド

(12)

電圧を

100 mV

、出力する

NIM

パルスの幅を

100 nsec

に設定した。図

2.5

の緑色の波形は

50 Ω

抵抗を外してオシロスコープに繋いだもの(つまりディスクリミネーターに入力される前のアナログ 信号)で、黄色の波形はディスクリミネーターから出力された

NIM

パルスである。

NIM

パルスの大き さは本来

0.8 V

であるが、本実験では終端処理をしなかったため、

1.2 V

になっている。

2.5

 ディスクリミネーターに入力された信号(緑色)と出力された信号(黄色)

(h)

コインシデンス「

COINCIDENCE N-TM 103

」  ディスクリミネーターから出力された

NIM

パルスをコインシデンスに入れる。コインシデンスは各 チャンネルに入力端子が

4

つ(

A,B,C,D

)あり、指定した入力端子に同時に信号がくると

NIM

パルス を出力する装置である。本実験では、

2

つのディスクリミネーターからの信号(

100 nsec

NIM

パル ス)をコインデンスの

A

端子、

B

端子に入れた。

2

つのディスクリミネーターからの

NIM

パルスが重な ると同時とみなされ、コインシデンスから

NIM

パルスが出力される。

(i)

ゲートジェネレーター「

DUAL GATE GENERATOR N-014 HOSHIN

 コインシデンスから出力された信号をゲートジェネレーターに入れる。ゲートジェネレーターは

NIM

パルスが入力されると、

NIM

パルスを任意の幅に変換し(

WIDTH

の調整)、任意の遅延をかけて

DELAY

の調整)出力する装置である。

DELAY

の調整をしてゲート用信号とシグナル用信号のタイミ

ングを合わせる。まず、アンプを通した後の

MPPC

のシグナル用信号を

ADC

Signal

端子に入れるが、

(13)

ターの

DELAY

の調整によりゲート用信号を遅らせて、ゲート用信号とシグナル用信号が同時に来るよ

うにする。ゲート用信号の

NIM

パルスの幅はシグナル用信号が収まるように、広く設定する。本実験

では

400 nsec

に設定した(図

2.6

)。

2.6 ADC

のシグナル用信号(緑色)とゲート用信号(黄色)

(j)

クロックジェネレーター「

CLOCK GENERATOR N010 HOSHIN

 クロックジェネレーターから

1Hz

の信号を

ADC

Clear

端子に入力する。

ADC

の測定が途中で止

まってしまうことを防ぐためである。   以上の接続により、

2

つのシンチレーターに同時にガンマ線が入射したときのみ

ADC

のゲートが開 き、そのときのシンチレーターの発光量を調べることができる。   

2-5.

ノイズ対策

 測定は実験室で行ったが、実験室周辺の蛍光灯のスイッチの切り替えやコンセントの使用により、 ノイズが入ってしまった。図

2.7

はノイズの一例である。検出するイベントの頻度が高ければノイズ の影響は無視できるが、本実験では検出するイベントの頻度が低い場合で

1

時間に数イベント程度で あるため、ノイズ対策が必要となった。測定器をコンパクトにしたり、アースを各所に繋ぐなどして みたが、このノイズをなくすことはできなかった。そこで、ガンマ線の測定と同時にノイズも測定し て、ガンマ線検出器の測定データからノイズを差し引くことにした。

(14)

2.7

 ノイズの例  ノイズの原因は測定器周辺の電子機器から発せられる電磁波と考えられた。これが、読出回路や ケーブルに乗り、

ASD

アンプで増幅されると、

MPPC

からの信号と区別できなくなってしまう。本実験 ではコインシデンスを取っていているが、

2

つの読み出し回路、

2

つのケーブルに同じノイズが乗って しまうのでコインシデンスでカットすることはできなかった。そこで逆にこの性質を利用して、

MPPC

をもう一つ用意してノイズを測定することにした。この

MPPC

をノイズ検出器とよぶ。ガンマ線検出器 とノイズ検出器が同時に反応すれば、その信号はガンマ線由来のものではなく、ノイズによるものだ とわかる。  ノイズ検出器のからの信号は

2

つに分けていないので、ディスクリミネーターのスレッショルドは

200 mV

とした。ゲートジェネレーターで、幅を十分大きい

10μsec

とし、遅延はかけなかった。図

2.8

で、緑色の波形はノイズによりガンマ線検出器から信号が出て、ゲートが開いている様子である。 ゲートが開いている間、ノイズ検出器からの信号(黄色)が出つづけていることがわかる。これに よって、ノイズにより

ADC

のゲートが開いているときは、ノイズ検出器からの信号はかならずオー バーフローする。

(15)

2.8

 ガンマ線検出器からのゲート用信号(緑色)とノイズ検出器からの信号(黄色) 

 また、ガンマ線検出器のディスクリミネーターのスレッショルド電圧は

100 mV

に設定したが、これ

ADCcount

600 ADCcount

に相当する。さらにコインシデンスを取っているので、

MPPC

自体のノ

イズでは

ADC

のゲートは開かないはずだが、図

2.9a

をみると、

600 ADCcount

より小さい信号や、

ペデスタルのようなものも測定されていた(図

2.9a

は角度揺動の測定で

θ=0 mrad

としたときの測 定結果である)。そのため、

599 ADCcount

以下の信号もノイズとして扱うことにした。  表

2.1

は実際の測定データである。着色部分のように、ノイズ検出器からの信号がオーバーフロー している、またはガンマ線検出器からの信号が

599 ADCcount

以下の場合をノイズとした。このよう にして、ノイズを除去して

ADC

分布を書き直すと図

2.9b

のようになる。対消滅ガンマ線の光電効果の ピークが

2300 ADCcount

付近に確認できる。

(16)

  表

2.1

 信号とノイズの区別方法 ガンマ線検出器 ノイズ検出器 ガンマ線検出器 ノイズ検出器 1 2317 118 21 2260 117 2 2141 118 22 2431 118 3 2312 117 23 1608 118 4 2014 116 24 1425 118 5 1404 119 25 2217 117 6 1393 118 26 844 4095 7 2048 118 27 29 4095 8 1163 118 28 1535 117 9 2273 119 29 2029 117 10 1941 118 30 2108 116 11 2600 117 31 961 4095 12 2037 118 32 1667 118 13 2449 118 33 1288 118 14 1571 117 34 2533 119 15 2120 119 35 1368 118 16 2108 117 36 1779 118 17 1867 117 37 1388 116 18 455 115 38 1961 118 19 239 115 39 2145 118 20 1626 120 40 1242 119

(17)

2.9a

 ノイズを除去する前の

ADC

分布

(

縦軸は対数をとっている

)

(18)

第 3 章 陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動の測定

 第

3

章では、第

2

章で作成した検出器を使い、陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動を測定する。 以下では 2-5.ノイズ対策で述べた方法でノイズを除去した結果を示す。

3-1.

バックグラウンドの測定

(a)

方法  検出器をガンマ線の角度揺動の測定と同じように配置し、放射線源を置かず測定した。

(b)

結果  

7

時間

59

分測定した結果、

16

イベント検出された。よってバックグラウンドは

60

分あたり

2

とす る。図

3.1

はこの時の

ADC

分布である。以下、実験結果はこのバックグラウンドを引いた結果を示す。         図

3.1

 バックグラウンドの

ADC

分布

3-2.

陽電子飛程の測定

(a)

方法  図

3.2a

のように、長さ

20 cm

の鉄ブロックの間に厚さ

1.06 mm

のプラスチック板を挟み、コリ メーターを作った。このコリメーター

2

つ用意し、向かい合わせて互いに

4 cm

離して置き、さらにコ リメーターから

1 cm

離したところにシンチレーターを置いた。

2

つの検出器間の距離は

46 cm

となる。  次に、

2

つのコリメーターの間に自動ステージをコリメーターに対して垂直に動くように置いた。ス テージはパソコンで制御し、位置分解能は

0.0001 mm

である。図

3.2b

のようにステージを動かして 線源をだんだんとコリメーターから遠ざけていき、どこまでガンマ線を検出できるか調べることに よって陽電子飛程を求める。  

(19)

  図

3.2a

 陽電子飛程の測定   図

3.2b

 陽電子飛程の測定

(b)

結果  測定は各点で

70

分程度行い、

60

分あたりのイベント数を求めた。図

3.3

はその結果である。横軸 の誤差棒はコリメーターの幅によるもので、片側

0.5 mm

とした。まず、放射線源の中心を求めた。図

3.3

のようにカウント数の大きい

7

点が入るようにガウス関数でフィッティングすると、中間値は

0.754 mm

となった。よって、この点を放射線源の中心とする。なお、カウント数が最大の点は

x =

0.750 mm

の点であり、中心ではない。

3.3

 放射線源の中心の決定

(20)

 一般的に、放射線源からの距離

r

と、そこまで到達した陽電子の個数の関係は、指数関数で近似で きることが実験的に確かめられているので[大塚、西谷 2007 112項]、式

3.1

のように書くことができる。

N r= N

0

e

−r

(3.1)

実験で用いた放射線源は半径

0.45 mm

の大きさがあるので、その外側を考える。放射線源の左側(図

3.3

の 

x < 0.754

 側)を(式

3.1

)でフィッティングすると、図

3.4a

のようになり(放射線源の 中心を

0 mm

として、横軸を取り直した)、

NO=901±28

μ

4.5±3.2 mm

-1と求まった。  同様に、放射線源の右側(図

3.3

0.754 < x

側)でフィッティングすると、図

3.4b

のように なり

NO=378±7.1

μ

3.1±1.5 mm

-1と求まった。

3.4a

線源の左側

3.4b

線源の右側

(21)

両者の平均をとると

NO=644±29

μ

3.8±0.7 mm

-1と決まる。よって、式

3.1

は次のようになる。

N r=644 e

−3.8r

(3.2)

最大飛程については、第

4

章 考察で述べる。 

3-3.

ガンマ線の角度揺動の測定

(a)

方法  鉄ブロックなどの配置は陽電子飛程の測定と同様である。角度揺動の測定では自動ステージは用い ずに、図

3.5

のように

2

つのコリメーターの角度を変化させていき、対消滅ガンマ線の検出数の角度 依存性を調べた。 図

3.5

 ガンマ線の角度揺動の測定

(b)

結果  測定は中心軸の角度

θ

0

26 mrad

の範囲で変化させ、それぞれの角度で

70

分程度行い、

60

あたりのイベント数を求めた。  図

3.6

の結果を見ると、横軸の誤差棒が大きいが、これはコリメーターの幅によるものである。図

3.7

のように、たとえばコリメーターの中心軸の角度を

θ

2.2 mrad

にしたとき、実際には、

-6.9 mrad < 11 mrad

の角度のずれをもったガンマ線を検出することになり、

0 mrad

、つまり角度

のずれがない

180°

逆向きのガンマ線も入ってしまう。しかしコリメーターの中心軸の角度をどんど

ん大きくしていくと、

θ=13 mrad

になったとき、検出するガンマ線は 

3.9 mrad < 22 mrad

のず

れをもったものとなり、つまり最低でも

3.9mrad

のずれをもっていることになる。このときのカウン

ト数は

60

分あたり

11

であった。さらに角度を大きくして、中心軸

θ

18 mrad

9.2 mrad < 27

mrad

)を測定すると、カウント数はほぼ

0

だった。よってガンマ線の角度揺動は最大で、 

13 mrad

程度以下

(22)

3.6

 対消滅ガンマ線角度揺動の結果

(23)

第 4 章 考察

4-1.

コリメーターでのガンマ線の散乱の有無

 本実験ではガンマ線の角度分布を見るために鉄のコリメーターを用いたが、シュミレーションによ れば、ガンマ線がシンチレーターに直接入射せずに、いったんコリメーターに入射し、コンプトン散 乱を繰り返してシンチレーターに入ることが考えられた。しかし、角度揺動の測定結果の図

4.1a

4.1b

をみると

θ

3.0 mrad

の場合も、エネルギー

0.511 MeV

ガンマ線の光電効果のピークが確認 できた。よって、散乱ではなく、シンチレーターに直接入射したガンマ線があることが確かめられた。

   図

4.1a θ=0.0 mrad

ADC

分布        図

4.1b θ

3.0 mrad

ADC

分布

4-2.

最大飛程の定義

 第 1 章では式 1.4 を用いて

22

Na

から放出される陽電子の最大飛程を 0.20 g/cm

2と求めた。 これは、線源を密封しているプラスチック中では

1.7 mm

に相当する。この値を、本実験で得た、式

3.2

に当てはめると、

N(1.7 mm)=1.0

なる。これは

N0

0.15%

である。つまり、最大飛程とは、陽 電子の強度が

0.15%

になる距離ということができる。過去の実験を調べると、陽電子飛程を測定する とき、制動放射を測定できる実験の場合には、制動放射のバックグラウンドと交わる点を最大飛程と 定義し、また制動放射を測定できない実験の場合には、その他(大気中の放射線の影響など)のバッ クグラウンドとの交点を最大飛程と定義することがある。前者の方法は、制動放射が放射線源の強度 に比例するので、放射線源の強度が強くなると、バックグラウンドも大きくなり、最大飛程は放射線 源の強度に依らない。しかし、後者の方法では、その他のバックグラウンドは放射線源の強度に依ら ないため、最大飛程は放射線源の強度に依ってしまう。このように、最大飛程には明確な定義がなく、 また最大の意味もあいまいなので、次のように「陽電子の強度が、ある値以下に減少する距離」を最 大飛程と定義してはどうだろうか。このように定義し、飛程の分布が式

3.1

に従うことが確かめられ れば、

μ

を求めるだけで最大飛程を求めることができる。もちろんこの方法ならば、最大飛程は線源 の強度によらない。

(24)

4-3.

角度揺動の最大値

 実験の結果から角度揺動は最大で 13 mrad 程度以下と結論した。θ=13 mrad までガンマ線が検出さ れたのでこのように結論したが、先に述べたとおり、 θ=13 mrad とした場合、実際には 3.9 mrad < 22 mrad のずれをもったものが検出される可能性がある。さらに θ=18 mrad(9.2 mrad < 27

mrad)を測定すると、カウント数がほぼ 0 だった。そのため、角度のずれは最大で 3.9 mrad から 9.2 mradの範囲であるとも考えられる。しかし、図 3.7 からわかるように、たとえば θ=13 mrad の場合、 3.9 mrad や 22 mrad などの角度のずれをもったガンマ線は線源の端で発生したもので、その数は線源 の中心付近で発生したものに比べて非常に少ない。そのため、ガンマ線の角度分布は実際は図 4.2 (上)のようになると考えられるが、この実験で は同図(下)のようになると考えられる。このよ うに考えれば、θ=18 mrad(9.2 mrad < 27 mrad)では、ずれが 13 mrad 程度のガンマ線は線 源の端から発生するため、数が少なく有意な数が 検出されなかったと考えられる。よって、ガンマ 線の角度揺動は最大で

13 mrad

程度以下と結論で きる。  図

4.2

角度揺動の分布のイメージ。実際(上)と実験(下)

4-4.

ディスクリミネーターのスレッショルド電圧以下の信号が測定された理由

 測定はディスクリミネーターのスレッショルド電圧を

100 mV

に設定して行った。これは

ADCcount

600 ADCcount

に相当するので、図

4.3a

のような小さな信号は測定されないはずである。しかし 図

2.9a

を見ると

600 ADCcount

より小さい信号、またペデスタルのようなもの測定されていた。こ れはノイズの電圧がスレッショルド電圧を越えたためだと考えられる。図

4.3b

のようなノイズの場合、 スレッショルド電圧をこえて、

ADC

のゲートが開くが、電荷量は正側と負側が打ち消し合って

0

に近 くなる。そのため、ペデスタルで底上げされた部分の電荷量が測定されてしまったと考えられる。 図

4.3a

スレッショルド電圧に達しない信号

(25)
(26)

第 5 章 まとめ

5-1.

陽電子飛程、対消滅ガンマ線角度揺動の PET の解像度への影響

 陽電子飛程の影響は最大で

2 mm

である。ガンマ線の角度揺動の影響は、角度揺動を

10 mrad

とす ると、

PET

装置のドーム径が直径

70 cm

の場合、

3 mm

である。よって、本実験で用いたの装置では、 薬剤

FDG

の集積は実際よりも

5 mm

程度大きくゆらいで見えると考えられる。

5-2.

今後の課題

 本実験はコリメーターの幅を

1 mm

としたため、特に角度揺動の実験で角度の誤差が大きくなった。 また線源と検出器の距離を

23 cm

としたため、角度分布は

4 mrad

刻みで調べるのが限界だった。測 定の精度を向上させるためには、線源を強度の強いものにして、線源と検出器の距離を遠くする必要 がある。  陽電子の飛程、対消滅ガンマ線の角度揺動の分布をさらに詳しく調べることによって、解像度を向 上させることができると考えられる。もともと

FDG

の集積は中心部から遠ざかるほど密度が薄くなる ので周辺部は薄く見えるはずであるが、それとは別に、陽電子飛程と角度揺動の影響で、実際には

FDG

が存在しないところまで、揺らいで見えてしまう。そのため陽電子飛程、対消滅ガンマ線の角度 揺動は

PET

の解像力に限界を与える[山下 2011 632]とされている。しかし、陽電子飛程、角度揺動の 分布が詳しく分かれば、

FDG

集積周辺の揺らぎのうち、どの程度陽電子飛程と角度揺動に依るものな のかが分かり、この影響を取り除いて、

FDG

の分布をより正確に調べることができる。

(27)

付録

付録 1.シンチレーター LYSO の自己放射線

  シンチレーター

LYSO

は自身に放射性物質を含んでおり、自らが出した放射線でシンチレーションを 起し、発光する。その放射線の強度は、 測定値:

38.5±2.8 Bq

理論値:

38.0 Bq

となった。測定方法と理論値の計算方法を示す。

測定

1

 測定機器の接続図  図

2

 測定のパターン(

A,B,C,D,E

(28)

パターン

A

MPPC

のみ パターン

B

MPPC

の受光面に

LYSO

を取り付けた パターン

C

MPPC

の受光面に

LYSO

を取り付け、全体を鉛で遮蔽した パターン

D

MPPC

の受光面に

LYSO

を取り付け、全体を鉛で遮蔽して、近くに放射線源22

Na

を置いた パターン

E

MPPC

の受光面に

LYSO

を取り付け、近くに放射線源22

Na

を置いた  測定機器を図

1

のように接続した。青色の点線の囲いの中に図

2

5

つのパターンの設定をつくり、 データを比較する。  

MPPC

のバイアス電圧は

2.0 V

に設定した。それぞれのパターンでディスクリミネーターのスレッ ショルド電圧を

20mV→50mV→100mV→150mV

と変化させ、それぞれのスレッショルド電圧で

10

sec

の測定を

3

回行い平均値を求めた。  図

3

はその結果である。パターン

A

はスレッショルド電圧

150 mV

で信号が検出されなくなる。これ より、

MPPC

自体のノイズはスレッショルド電圧

150 mV

でカットされることが分かる。  スレッショルド電圧

150 mV

B

E

を比べると

E

のほうがイベント数が多い。これにより線源 22

Na

からは確かに放射線が出ていて、検出器で検出できていることが分かる。次に

C

D

を比べると、 ほとんど同じであるから、鉛ブロックで放射線を遮蔽できていることが確認できる。よって、パター ン

C

D

でスレッショルド電圧

150 mV

のときのイベントは

MPPC

のノイズでも、外からの放射線でも ないので、

LYSO

の自己放射線によるものだと結論できる。

B

C

D

にくらべて若干イベント数が多 いので、鉛で遮蔽しないと、大気中の放射能や宇宙線の影響があるかもしれない。なお、日本の屋内 ラドン濃度の算術平均は

15.5 Bq/m

3で、鉛ブロック中の容積は

3×3×5 cm

3であるので、鉛ブロッ クで遮蔽すると大気中のラドンの影響は

3.5×10

-3

Bq

と小さいので無視できる。  次にその強度を求める。スレッショルド電圧

150 mV

MPPC

自体のノイズがカットできると述べた が、スレッショルド電圧をここまで高くすると

LYSO

の自己放射線による信号もいくらかカットしてし まうので、パターン

C

でスレッショルド電圧 が

50 mV

の場合を考える。図

4a

がその

ADC

分布である。また図

4b

はパターン

A

でス レッショルド電圧が

50mV

の場合である。こ れを見ると、

MPPC

のノイズは

420

ADCcount

以下に収まっていることが分かる。 よって、パターン

C

でスレッショルド電圧が

50mV

のデータから、

420 ADCcount

以下の イベントを差し引くと、

LYSO

からの自己放 射線の強度が求まり、結果は

38.5±2.8 Bq

となった。

LYSO

の放射線のエネルギーにつ いては付録

2

で考える。        図

3

 結果図

(29)

4a

パターン

C(

スレッショルド電圧

50mV)

(30)

理論

 シンチレーター

LYSO

2

種類のシンチレーター(

LSO

Lu2SiO5

YSO

Y2SiO5

)の混成結晶であ る。実験で使用した

LYSO

の形状を測定すると、

3.030×3.041×15.039 mm

3、質量は

0.99956 g

あった。それぞれの密度は次のとおりである。 LYSO : 7.2134 g/cm3 (実測値) LSO : 7.40   g/cm3 YSO : 4.45   g/cm3 よって、今回使用した

LYSO

は、 の比率の混合である。  自己放射の原因は176

Lu

である。176

Lu

は天然放射性核種で、存在比

2.59

%、壊変形式は

β

-、半 減期は

3.36×10

10年である。 存在比 175

Lu : 97.41%

176

Lu : 2.59%

 つぎに、

LSO

中の

Lu

の割合を求める。原子量は、

Lu:174.9668

O:15.9994

Si:28.0885

であるから、

LSO

中の

Lu

の割合

(

質量比

)

Lu ×2

Lu ×2SiO×5

=0.7640

となる。よって

LYSO 0.99956 g

中の176

Lu

の質量は、  

0.99956

 

×0.960 ×0.764 ×0.0259 = 0.01899 g

  と求まる。これを原子数に変換すると、

N=6.022×10

23

×

0.01899

175.9

=6.501×10

19 となる。  時刻

t=0

における放射性核種の存在量を

N0

とすると、時刻

t

における存在量は次のように表せる。

N=N

0

×2

− t T

(31)

 よって、放射線源の強度

Bq

は核種の半減期

T

と存在量

N

で一意に決まる。

dN

dt

= −

d

dt

 N

0

×2

−t T

= log2

T

N

= λN

ここで

λ

を壊変定数といい、176

Lu

の壊変定数は半減期が分かっているから、

λ

5.84×10

-19 まる。  よって、シンチレーター

LYSO

の自己放射の強度の理論値は、

λN

5.84×10

-19

×6.501×10

19

=38.0 Bq

と求まる。

(32)

付録 2.放射線のエネルギーと ADCcount の線形性

 22

Na

は陽電子を放出し、さらにその陽電子が電子と対消滅して

0.511 MeV

のガンマ線を放出する。 137

Cs

は崩壊により

0.6617 MeV

のガンマ線を放出する。これらを、シンチレーター

LYSO

1600

クセル

MPPC

を用いて測定したときの、放射線のエネルギーと

ADCcount

の線形性を調べた。  図

1

と同じように測定機器を接続し、青い点線の囲いの中に図

2

のパターン

E

を作った。ただし、

MPPC

Serial No.:9027

を使用し、バイアス電圧、スレッショルド電圧は、付録

1

の実験とは異な る。

 ここで、図

5

MPPC

Serial No.:9027

)のゲインを測定した際の、

ADC

分布である。バイアス

電圧を変化させてペデスタルと

1 p.e

ADCcount

を測定すると、図

6a

、図

6b

のようになった。こ

れによりバイアス電圧の大きさが

1.0 V

のときは、ペデスタルは

119 ADCcount

1p.e

43.2

ADCcount

である。よって、次の式によって

ADCcount

から光子数を求めることができる。

A[p.e]=(B[ADCcount]-119)/43.2

MPPC9027

、バイアス電圧

1.0V

) 

(※)

なお、

MPPC

には個体差があるため、素子ごとに測定する必要がある。

(33)

  図

6a

 バイアス電圧とペデスタルの関係    図

6b

 バイアス電圧と

1p.e

の関係

 図

7a

と図

7b

は、バイアス電圧

1.0 V

での、22

Na

137

Cs

ADC

分布である。これにより、

0.511

MeV

ガンマ線の光電効果ピークは

1545±3 ADCcount

0.6617 MeV

ガンマ線の光電効果のピークは

1842±5 ADCcount

となった。また、ペデスタル(つまりエネルギー

0 MeV

)は

119±1 ADCcount

なので、ガンマ線のエネルギーと

ADCcount

の関係は図

8

のようになる。 図

7a 22Na

ADC

分布   図

7b 137Cs

の分布  図

8

 放射線のエネルギーと

ADCcount

の関係 0 1 2 3 4 5 6 85 90 95 100 105 110 115 120 125 バイアス電圧 [V] ペ デ ス タ ル [A DC co un t] 0 1 2 3 4 5 6 0 50 100 150 200 250 f(x) = 43.2x + 0.1 バイアス電圧 [V] 1p .e の 大 き さ [A DC co un t] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 f(x) = 2652x + 132 放射線のエネルギー [MeV] AD Cc ou nt

(34)

 次に、式(※)を用いて、

0.511 MeV

のガンマ線が

LYSO

に入射し光電効果を起こしたときに生じ る光子数を求める。ゲインの測定の際にはゲート用信号はクロックジェネレーターからとったので、

MPPC

の信号を分岐していないが、今回の実験では

MPPC

からの信号をシグナル用信号とゲート用信号 に分岐したため、式(

1

)を使うためには、得られた

ADCcount

2

倍してやる必要がある。そのよう にして求めると、

0.511 MeV

のガンマ線が

LYSO

に入射し光電効果を起こしたときに生じる光子数は

69

程度となる。  同様の設定で

LYSO

の自己放射線を測定し、図

8

の結果によって

ADCcount

をエネルギーに変換する と図

9

のようになる。なお、ペデスタルは取り除いてある。176

Lu

はベータ崩壊によって176

Hu

に崩壊 する。

β

崩壊は

3

体崩壊なので、ベータ粒子のエネルギーは連続スペクトルになる。176

Lu

の崩壊エ ネルギーは

1.193 MeV

なので、ベータ粒子の最大エネルギーは

1.193 MeV

となるはずであるが、今 回の実験では最大エネルギーは

1.0 MeV

程度と測定された。ベータ線のスペクトルの形は核種によっ て多少異なるが、その平均エネルギーは最大値のおよそ

1/3

になる[大塚、西谷 2007 63項]という。最大

エネルギー

1.193 MeV

1/3

0.4MeV

であり、実験で平均エネルギーは

0.42MeV

となったので、

確かにおよそ

1/3

になっている。

        エネルギー[MeV]

(35)

付録 3.

22

Na

の ADC 分布で 1.275 MeV ガンマ線の光電効果のピークが確認できな

かった理由

 22

Na

は陽電子の他に、軌道電子捕獲によって、

1.275 MeV

のガンマ線(特性

X

線)を放出する。し かし、図

10

をみるとピークに見えるのは

2564 ADCcount

であり、これは

0.92MeV

に相当する。

1.275 MeV

3513 ADCcount

に相当するが、ここにピークは確認できなかった。この理由を考える。 図

10

 

22Na

ADC

分布(縦軸は対数)  量子論によると、原子

1

個あたりの

K

殻電子の光電効果の発生確率を表す光電吸収断面積

σphoto(K)

と、入射光子のエネルギーが比較的高いときの原子

1

個あたりのコンプトン散乱の断面積

σcomp

は、 次のように表せる[大塚、西谷 2007 123-131]

photo

K

=

4

2

137

4

T

Z

5

m

0

c

2

h −I

k

comp

=

3

8

T

m

0

c

2

h 

ln

2h 

m

o

c

2

1

2

T

=8  

e

2

m

0

c

2

2

=6.65×10

−29

m

2 ここに、

は電磁放射線のエネルギー、

Z

は物質構成原子の原子番号、

IK

K

殻電子の電離エネル ギー、

σT

はトムソン散乱の断面積(定数)である。

LYSO

中の各元素の割合(原子数比)は、

Lu:24%

 

Si:13%

 

O:63%

 

Y:1%

である。また、

0.511 MeV

1.275 MeV

のガンマ線の割合は 、

(36)

なので、それぞれの反応断面積の割合は表

1

のようになる。

0.51MeV

1.275MeV

photo

compton

photo

comptpn

29.4

65.3

0.04

5.2

1

 反応断面積の割合  ガンマ線のエネルギーが

1.275 MeV

と高くなると、光電効果の割合はコンプトン効果の

1%

ほどに なる。このため、

1.275 MeV

ガンマ線の光電効果のピークはコンプトン効果に埋もれてしまい見えな くなった。これを見るためには、検出器のエネルギー分解能を上げて、ピークが鋭くなるようにする 必要がある。

 また、

2564 ADCcount

0.92MeV

)に見えたピークであるが、これは

1.275 MeV

ガンマ線のコン

プトン散乱によるものである。散乱された光子のエネルギー

hν'

は次のように表せる[大塚、西谷 2007 123-131]

h '=

h 

1

h 

m

0

c

2

1−cos 

ここで

θ

は散乱角の大きさである。

θ=180°

のとき、散乱光子のエネルギー

hν'

が最小になる ので、ガンマ線はもっともエネルギーを落とすことになる。その大きさは、ガンマ線のエネルギーが

1.275 MeV

の場合、

1.07 MeV

である。理論的にはここにコンプトン散乱のエネルギーのピークが見 えるはずであるが(図

11

の黒線)、実験ではたたみこみにより図

11

の赤線のように測定されたと考 えられる。 図

11

 コンプトン散乱のエネルギーの分布、理論(黒)、実験(赤)

(37)

謝辞

 本研究をするにあたって、竹下徹教授、長谷川庸司准教授、小寺克茂研究員には、多忙な中、研究 のご指導や、論文の添削など多くの時間を割いていただきました。また研究室の先輩方、特に浜崎さ ん、小倉さんには実験装置の使い方を一から教えていただくなど、大変お世話になりました。実験が が思うようにいかず、苦労もたくさんありましたが、一緒に研究を行ってきた同期の仲間がいたから こそここまでくることができました。そして、大学に通わせてくれた両親には心から感謝しています。  本当にありがとうございました。

(38)

<参考文献>

(1)

山下貴司、「ポジトロン

CT

PET

)」、山田作衛、他、『素粒子物理学ハンドブック』 朝倉書店、

2011

(2)

浜島書店編集部、「ニューステージ 新訂 科学図表」、浜島書店、

2006

(3) PET

検査ネット、

http://www.pet-net.jp/pet_html/treat/pet.html

日本メディカルネットコミニケーションズ株式会社、

2013

2

(4)

ウィキペディア ポジトロン断層法  

http://ja.wikipedia.org/wiki/

ファイル

:PET-MIPS-anim.gif

2013

3

(5)

東海大学医学部附属病院 画像検査センター  

http://trhome.med.u

- tokai.ac.jp/contents/HT/HT01.html

 

2013

3

(6)

大塚徳勝、西谷源展、

Q

A

放射線物理改訂新版、共立出版株式会社、

2007

(7)

三浦功、他、「放射線計測学」、裳華房、

1982

(8) FUJIA YANG,JOSEP H HAMILTON,Modern Atomic and Nuclear Physics,

World Scientific

2010

(9)

国立天文台、理科年表、丸善出版株式会社、

2012

(10)

山崎真、『

MPPC

を用いた次世代

PET

装置の基礎研究』 信州大学大学院工学系研究科、修士学位論文、

2010

 

(11)

メディカルウェア イメージング・プレート   

http://medicalware.org/wiki/

イメージング・プレート 

2013

3

図 2.6  ADC のシグナル用信号(緑色)とゲート用信号(黄色)
図 2.7  ノイズの例  ノイズの原因は測定器周辺の電子機器から発せられる電磁波と考えられた。これが、読出回路や ケーブルに乗り、 ASD アンプで増幅されると、 MPPC からの信号と区別できなくなってしまう。本実験 ではコインシデンスを取っていているが、 2 つの読み出し回路、 2 つのケーブルに同じノイズが乗って しまうのでコインシデンスでカットすることはできなかった。そこで逆にこの性質を利用して、 MPPC をもう一つ用意してノイズを測定することにした。この MPPC をノイズ検出器とよぶ。ガンマ
図 2.8  ガンマ線検出器からのゲート用信号(緑色)とノイズ検出器からの信号(黄色) 
図 2.9a  ノイズを除去する前の ADC 分布 ( 縦軸は対数をとっている )
+5

参照

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