1.背景
インターネットが普及し活字離れが叫ばれる現在にあって,ファッション(装 いにかかわる流行)に限っては雑誌メディアの勢いは衰えをみせていないようで, 近年の調査でもファッションに関しては他のメディアを圧倒して参考にされてい ることが明らかにされており(渡辺・城 2007),重要な参照先として機能している。 また,わが国においては実に多くのファッション誌が出版されており,とりわ け女性向けのファッション誌は世界一のセグメンテーションを誇る(吉良 2002) と言われるほど細分化されマス・ファッションを中心に多様な装いが巷間を賑わ せている。 このように多様なファッション誌が存在する反面,ひとつ,わが国に際立って 特徴的ともいえる部分がある。それは雑誌の「顔」として誌面を賑わすモデルた ちの存在である。誌面では,たとえば「好感度レディ・みゅう OL 憧れイイ女 系・直子 OL ミーハーかわいい・あいく OL 3つの生き方,あなたならどれ でいく?」(『CanCam』2010 年4月号)という具合にモデルの存在を前面に押し出 した特集がしばしば組まれ,「モデルが誰であるのか」が常に重要な意味をもち, 憧れだけではなく親近感をも同時に抱かせるような存在として(古賀 2007)描か れ,高い人気を獲得している(1)。 もっとも,モデルを中心に構成される誌面は今日全体的な傾向として見られる ものの,『CanCam』に代表されるような一部の雑誌やモデルによって牽引されファッション誌と痩身志向®
モデルに対する憧憬と親近感及び読書傾向の
視座からの実証的検討
佐々木 孝 侍
(東京大学大学院)
ているところが大きく(松谷 2007;今井 2007),各誌が人気モデルを擁立しよ うとしていることと,実際のモデルの受容のされ方には差異がありそうである。 事実,モデル人気を象徴する出来事として 2005 年から開催されている「東京ガ ールズコレクション(2)」と呼ばれるイベントがあるが,同イベントに登場するモデ ルもやはり『CanCam』や『ViVi』といった一部の雑誌の専属モデルが中心的な 役割を果たしてきている(3)のである。 今日のファッション誌とそこに登場するモデルのありようを,主に上述したよ うな一部の雑誌に照準して直截に表現するとすれば,「モデルの存在に依拠せず に人気があるファッション誌は存在し得」(米澤 2008:68)ず,高い人気を獲得 したモデルたちは「『私もそうなれるかもしれない』と感じさせる身近な理想と して」(松谷 2007:246)読者の重要な参照先となっており「読者たちはモデルに 憧れ,モデルを目指す」(米澤 2008:68)とでも特徴づけられるように,モデル と読者の距離はきわめて近いと考えられるところにわが国に独特の状況を見出す ことができよう。
2.問題提起
2−1 モデルと痩身志向の関係 ファッションにとってモデルの存在はきわめて重要であり,モデルに注目が集 まること自体に問題があるわけではない。しかしながら,このファッションとモ デルの関係をめぐっては,たとえばスペインやイタリアのファッション・ショー では間違った身体イメージを与えかねないとして痩せ過ぎモデルの出場が禁止さ れるなど,近年になって彼女たちの痩身体型がしばしば問題視されている(4)。 わが国においてファッション・モデルを考える場合,その知名度や人気の高さ を勘案すれば,多くの者が雑誌に登場する女性たちを思い浮かべるであろうこと は想像に難くないが,彼女たちもまた,痩せている。しかしながら,わが国にお いてはモデルの痩身体型についての議論が活発になされているとはいい難いのが 現状である。 また,わが国の若い女性は他の年代や男性と比べても医学的に痩せと定義され る低体重(BMI < 18.5)の者の比率が際立って高く,たとえば国民健康栄養調査 (2008)では 20 代女性の 22.5%が低体重に該当する結果となり,青年女性の極端 な痩身傾向は他国には見られないとの指摘もある(菅原・曽根 2010)。低体重は様々な疾病のリスクを高める要因であるにもかかわらず,わが国においてはその 是非について公に論じられることはほとんどない。 これまでの先行研究においてもメディアと痩身願望の関係についてはたびたび 議論されてきた。フィジーの少女たちに取材し,急速な西洋化と共にもたらされ るテレビの強力な影響を明らかにした Becker(2004)のような局地的な例外はあ るものの,それらはファッション誌からの強力な影響を認めるものであって(小澤・ 富家・宮野・小川・川上・坂野 2005;諸井・小切間 2008:佐々木 2011 他),テレ ビとの比較においてもファッション誌の影響力が強いことが明らかにされている (Harrison & Cantor 1997)。例えば,小澤らは質問紙調査の結果からファッション 誌が痩身願望に大きな影響を及ぼし,さらに摂食障害傾向とも密接に関係してい ることを明らかにしている。このように,今日においてもその影響力が確認でき ることから,本論でも痩身願望の背景にある大きな要因としてファッション誌を 措定するが,先述したようにわが国の場合,モデルと読者の密接な関係があるこ とと諸外国に例をみないほど多様なスタイルを提供するファッション誌が存在す ることを十分に考慮しながら議論を展開する必要があると考える。 2−2 先行研究の限界 上述したように,ファッション誌が痩身願望に及ぼす影響については従前指摘 されてきたことではあるが,これらの知見は大きな問題点を内包していると考え られる。 一つめに,これまでの実証的研究ではファッション誌に漠然とその影響力があ るということだけが明らかにされてきただけであって,ファッション誌が痩身願 望に及ぼす影響力を単一的なものとみなしてしまう欠点があり,いったいファッ ション誌のどのような要素が痩身願望に影響を及ぼしているのかについては明確 にされていなかったといえる。 また,これまで用いられてきたファッション誌からの被影響性を測定する尺度 やモデルの身体を内面化する程度を測定する尺度は,マス・ファッションがわが 国ほど拡大していない諸外国の研究で用いられた尺度を翻訳したものがほとんど であって,わが国におけるファッション誌とそこに登場するモデルの独特なあり ようを十分に反映させているとはいえず,心理傾向を測定するうえで十分な結果 が得られないと考えられる。そこで本論では主に筆者が独自に開発した尺度を用 いて分析を行う。
二つめに,「雑誌が痩身願望に影響を及ぼす」という単純な図式では漠然と全 体を把握したに過ぎないのである。先述したようにわが国のファッション誌が提 案するスタイルは多様性に富んでおり,支配的なファッションというものがある わけではない。また,一部の雑誌に登場するモデルに高い人気が集まるというわ が国に特有の状況がある。これまでも調査対象者が日常的に接触する雑誌の違い によって心理傾向や BMI 等の基本属性に差異があることが明らかにされている(栗 田 2008;佐々木 2011)ことからも,調査対象者がどのような雑誌を読むのか(読 書傾向)という変数を考慮した分析は必須の作業である。 2−3 本論の意義と目的 一つめの目的は,ファッション誌が包含する要素を,「雑誌モデル(5)への憧憬」「雑 誌モデルへの親近感」といったモデルへの態度を測定する尺度や「入手欲求」「誌 面模倣」といったファッション誌からの影響されやすさを測定する具体的な尺度 に分解し,個別の側面からの影響力を明らかにすることである。また,近年広く 普及したインターネットの利用傾向も変数に加え,ファッション誌からの影響を 自明のものとしてしまわずに,どのような因子が痩身願望に影響を及ぼし,ある いは及ぼさないのかを明らかにするために実証的に検討する。 二つめの目的は,多様なファッション誌が存在することを考慮し,調査対象者 の読書傾向を調整変数に用いることで,調査対象者が日常的に接触する雑誌の違 いが痩身志向の多寡と関係していることを明らかにすることである。 これらの目的を検討するうえで,とりわけ雑誌モデルに対する「憧憬」と「親 近感」の態度に注目したい。先に述べたように,わが国の場合は雑誌に登場する モデルたちが人気を集めており,読者との心理的距離が近いところに独特の状況 がある。彼女たちの人気を考えれば,「私もそうなりたい」という憧憬の心理が 痩身願望を喚起することは十分に予想されることである。さらにいえばモデルの 高い人気に支えられているような雑誌に接触している者にとっては,モデルに「親 近感」を抱き,「私もなれるかもしれない」というモデルの身体を身近なものと みなす心理もまた,昨今の痩身願望と大いに関係していることが予想される。
3.研究方法
3−1 質問紙調査の概要 2010 年6月に,首都圏にある4つの女子大学の5学部において,講義の時間 を利用して質問紙調査を実施した。612 票を回収し回答内容が不十分であった調 査票を除いた 592 票を有効回答とした。調査方法は無記名自己記入式で行い,匿 名性が守られることと,回答内容は研究目的以外に用いない旨を説明した。また, 社会的望ましさの観点から,「ファッション誌の利用傾向に関する調査」の名目 で調査を行い,調査終了後に本来の調査の目的と研究上の意義についての説明を 行った。 3−2 質問項目 ⑴ 基本属性 調査対象者の現在の年齢,身長,体重,さらに理想体重について回答を求めた。 理想体重とは,身長を現在のままだと仮定した場合に現在の体重に対してどの程 度増減させたいかを尋ねて得られた数値を現実の体重数値から減算あるいは和算 したものを「理想体重」とした。最もファッションの情報源となるメディアを「雑 誌」「テレビ」「インターネット」「映画」「その他」の中からひとつだけに回答を 求めた。ファッション誌を日常的に読む頻度を尋ね,1冊以上読むと回答した者 に対しては具体的な雑誌名をプリコード式の項目群からよく読む順に最大3つの 回答を求めた。 ⑵ インターネット利用傾向 インターネット利用傾向として,「ニュースサイト」「SNS(mixi やモバゲータウ ンなど)」「ブランド(ショップ)の web サイト」「ストリートスナップの web サイ ト」「衣服の通販サイト」「芸能人のブログ(モデル以外)」「雑誌モデルのブログ」 「読者モデルのブログ」「ファッション雑誌の web サイト」「ブランドや商品の口 コミサイト」の各項目の利用頻度について,同一項目をパソコンと携帯電話に分 けて「よく利用する~まったく利用しない」の4件法で尋ねた。それぞれの得点 を合計し,尺度項目の数で除算した数値を「PC インターネット得点」「携帯イ ンターネット得点」として分析に用いた。⑶ モデル同一化尺度 ファッション誌を月に平均して1冊以上読むと回答した者を対象としたサブク エスチョンとして設定した。雑誌モデルに対する「憧れ」の度合い,「親しみ」 の度合いを測定するための項目により1つの設問とした。評定には「そう思う」 ~「そう思わない」の4件法を用いた。 ⑷ 誌面構成被影響尺度 ファッション誌を月に平均して1冊以上読むと回答した者を対象としたサブク エスチョンとして設定した。ファッションに関係する行動や態度がファッション 誌の誌面内容からどの程度影響を受けているのかを測定する尺度である。評定に は「あてはまる」~「あてはまらない」,「そのような記事を目にしなかった」の 5件法を用いた。 ⑸ 痩身願望尺度 調査対象者が抱いている身体観や痩身志向についての考え方や態度がどうであ ったかといった痩身願望の程度を測定する尺度である。ここでは馬場・菅原(2000) によって作成された尺度を参考にして本論の趣旨に合うものを抽出した。評定に は,「かなりあてはまる」~「全くあてはまらない」の4件法を用いた。
4.分析結果
4−1 基本属性 調査対象者の平均年齢は 19.36 歳(SD=1.21,18~25 歳),平均身長 158.7 ㎝(SD =5.08,145~171 ㎝),平均体重 49.7 ㎏(SD=5.39,36~70 ㎏)であり,さらに平均 BMI を求めたところ,19.66(SD=1.95)であった。日本肥満学会が定める肥満 (BMI > 25)の者が 1.2%,一方で低体重(BMI < 18.5)の者は 27.5%であった。 理想体重の平均は 45.76 ㎏(SD=4.23)であった。調査対象者の現在の身長に理 想体重を組み合わせることで理想 BMI とし,理想 BMI の平均は 18.12(SD= 1.36)であった。調査対象者全体の 63.8%が低体重に該当する体型を理想として いることがわかった。理想体重および理想 BMI が現実のそれを大きく下回って おり,痩身願望の強さがうかがえる。 最もファッションの情報源となるメディアを1つだけ尋ねた質問では,雑誌が 76%,テレビ 11%,インターネット 10%,映画9%,その他2%という結果と なり,あらためてファッション誌が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。したがって,ファッション誌を本研究における分析の中心に据えることは 妥当であろう。 ファッション誌を日常的に読むと回答した者は 528 名であった。第1位から第 3位で選択されたものを示したのが表1である。 4−2 尺度の検討 ⑴ モデル同一化尺度の検討 記入漏れのなかった 528 名の回答に対して,表2に示した尺度項目について最 尤法による因子分析を行った結果,2因子構造を確認した。さらに信頼性分析を 行った結果,Cronbach のα係数も妥当な値であり,内的整合性が保たれている ことを確認した。 第1因子に負荷量が高い項目は雑誌モデルに対する憧れやモデルと自分自身を 比較するといった項目から構成されており「雑誌モデルへの憧憬」因子と命名し た。第2因子は雑誌モデルへの親しみや身近さの程度を表す内容から構成されて おり,これを「雑誌モデルへの親近感」因子と命名した。調査対象者の下位尺度 得点を合計し,項目の数で除算した数値をそれぞれ「雑誌モデル憧憬得点」「雑 誌モデル親近感得点」として分析に用いた。 ⑵ 誌面構成被影響尺度の検討 記入漏れのなかった 528 名の回答に関して,表3に示した尺度項目について最 表1 読まれているファッション誌上位 10 誌一覧(横の数字は N の数) 最もよく読む雑誌 2番目に読む雑誌 3番目に読む雑誌
1位 non・no(121) non・no(50) ViVi(40)
2位 ViVi(71) ViVi(36) non・no(38)
3位 mina(41) CanCam(36) Soup.(31)
4位 Ray(36) mina(35) CanCam(25)
5位 CanCam(33) sweet(33) sweet(25)
6位 Soup.(26) Soup.(32) mina(23)
7位 sweet(23) PS(29) mini(22)
8位 PS(19) Ray(28) JJ(21)
9位 Zipper(18) JJ(21) Ray(21)
尤法による因子分析を行った結果,2因子構造が認められた。信頼性分析を行っ た結果,Cronbach のα係数も妥当な値であり,内的整合性が保たれていること を確認した。 第1因子に負荷量が高い項目は衣服の採用動機や入手欲求と結びついており「入 手欲求」因子と命名した。第2因子は誌面が提案する内容を日常で実践する程度 を示す内容から構成されており,これを「誌面模倣」因子と命名した。調査対象 者の下位尺度得点を合計し,項目の数で除算した数値をそれぞれ「入手欲求得点」 「誌面模倣得点」として分析に用いた。 ⑶ 痩身願望尺度の検討 記入漏れのなかった 592 名の回答に関して,表4に示した尺度項目に対して最 尤法による因子分析を行った結果,1因子構造が認められた。さらに信頼性分析 を行った結果,Cronbach のα係数も十分な値であり内的整合性が保たれている ことを確認した。各調査対象者の尺度得点を合計し,尺度項目の数で除算した数 値を「痩身願望得点」として分析に用いた。 表2 雑誌モデル同一化尺度項目と検討結果(Promax 回転後の因子負荷量) 因子分析 因子負荷量 因子1 雑誌モデルへの憧憬 雑誌モデルは生き生きしていて楽しそうに見える .682 -.128 雑誌モデルは憧れの存在だ .639 .003 雑誌モデルと仲良くなりたい .638 .007 雑誌モデルのライフスタイルに関心がある .586 .117 雑誌モデルのコーディネートや髪型をまねる 569 .003 雑誌モデルのような体型に憧れる .552 .002 雑誌モデルと自分自身のファッションを比較する .544 .009 α=.81 因子2 雑誌モデルへの親近感 雑誌モデルの体型は現実的だ -.164 .880 雑誌モデルは読者像を反映している .007 .540 雑誌モデルになりたい .254 .377 雑誌モデルは親しみやすい存在だ 226 .348 α=.69 因子間相関 .61
表3 誌面構成被影響尺度項目と検討結果(Promax 回転後の因子負荷量) 因子分析 因子負荷量 因子1 入手欲求 「マストアイテム」等の雑誌が推薦する商品をほ しくなる .729 .003 どちらかといえば雑誌が提案するような服装をす る方だ .679 -.001 雑誌でモデルが着用している衣服やアクセサリー を欲しくなる .683 -.003 自分が持っている服が雑誌に載っていると嬉しい .638 .004 モデルの私服と同じものを欲しくなる .561 .007 雑誌モデルのおすすめコメントがあると商品が魅 力的に見える .518 .148 α=.82 因子2 誌面模倣 雑誌モデルが演じる日記風の記事などに見られる 個別の場面(デート,職場等)に応じたコーディ ネートを自分の日常に取り入れる -.003 .710 雑誌モデルの「1ヶ月コーディネート」などの特 集記事は自分のコーディネートを考える上で役に 立つ .008 .629 「カワイイ系 vs カッコいい系」などのタイプの異 なるスタイルを比較(対決)させる記事に自分自 身のイメージを関連させる .004 .604 α=71 因子間相関 .71 表4 痩身願望尺度項目と検討結果 因子分析 因子負荷量 何が何でも体重を減らしたい .875 今,痩せることに一番興味がある .840 もっと痩せたいという思いでいっぱいだ .810 体重のことが頭から離れない .800 もっと痩せていたらと悔やむことが多い .791 自分が痩せることを考えるとわくわくする .742 やせられると聞けば何でもする .714 体重が増えるのが怖い .692 α=.93
4−3 読書傾向によるクラスタ分類 次に,日常的に読んでいるファッション誌を調整変数に用いて調査対象者を分 類する作業を行った。クラスタ分析の手法はφ係数を利用した栗田(2008)のも のを採用した。調査対象者が「普段読んでいる」と回答した雑誌に対して1の値 を与え,それ以外のものには0の値を与えコーディングした。得られたφ係数の 近接行列を利用し,調査対象者の「読書傾向」に基づいて 23 誌を分類した。ク ラスタ化の方法はグループ間平均連結法を用いた。クラスタ分類の結果は図1に 示した通りである。 図1に示した樹形図を6つに区分すると,これまでしばしば指摘されてきた(渡 辺 2005 他)ような雑誌のファッション・スタイル別のカテゴリーにほぼ分類さ れる結果となった。いうまでもなくこれは誌面の内容に踏み込んで分析したもの ではないことに留意しなければならないが,ここで簡単にクラスタ毎の雑誌の特 徴を,主にモデルのありように焦点化して簡単に説明しておく。 第1クラスタは『ViVi』『JJ』『CanCam』『Ray』といった,いわゆる「赤文字 系 (6) 」といわれる雑誌がクラスタを形成している。これらは専属モデルの高い人気 に支えられている雑誌である。「赤文字系」以外にもこれらには「コンサバ系」 や「お姉系」などの呼称が存在するが,ここでは「お姉系」とする。 第2クラスタを形成する『GLAMOROUS』『GLITTER』がギャル系であるの に対し,『sweet』はカジュアル系寄りで誌面の趣が異なるが,20 代後半から 30 代前半を主な対象としている点において共通する。外国人やハーフのモデルが登 場することが多い。ここでは「アラサー系」とする。 第3クラスタは『S Cawaii!』と『小悪魔 ageha』のギャル系の中でも高めの年 齢層を対象とした雑誌や,ハイティーン向けの『Popteen』とそのお姉さん版で ある『Popsister』,お姉ギャルや大人ギャルなどとも言われる派手さを控えめに した『BLENDA』と『JELLY』といった広義のギャル系雑誌によって形成され ている。プロなのか一般人なのかを弁別するのが難しいような極めて身近なモデ ルが登場し , いずれもモデルの人気は高く,読者との距離も近いといえる。ここ では「ギャル系」とする。 第4クラスタを形成する『CUTiE』と『Zipper』の2誌は個性的なスタイル を提案することが多い。装いの特徴を端的に表現すれば,古着の多用や服の自作, 既製服のリメイクといった特徴に集約できる。特定のモデルに依拠することはほ とんどない。ここでは「古着系」とする。
第5クラスタを形成する『mina』『non・no』『Spring』の3誌の特徴は,服に よる主張が控えめであり一見すると特徴を把握しづらいが,その時代の最大公約 数的なファッションを提示しているということに尽きる。誌面では人気モデルを 擁立しようとする様子が垣間見られるが,際立った人気を獲得しているわけでは ない。これを「カジュアル系」とする。 第6クラスタは『PS』『Soup.』『SEDA』『JILLE』『mini』の比較的最近に創 Ray 83 CanCam 92 Popteen 20 小悪魔ageha 13 JJ 48 GLITTER 18 S Cawaii! 12 ViVi 143 GLAMOROUS 12 sweet 79 Popsister 13 CUTiE 16 Zipper 46 mina 98 JELLY 28 BLENDA 24 Spring 38 お姉系クラスタ Soup. 84 SEDA 44 JILLE 28 mini 49 non・no 203 PS 64 ギャル系クラスタ アラサー系クラスタ 古着系クラスタ カジュアル系クラスタ ストリート系クラスタ 図1 読書傾向に基づいたクラスタ分類 (N=511) (雑誌名の横数字は「ふだん読んでいる」と回答した延べ人数)
刊されたストリート系の5誌によって形成された。共通するのは,街で見かけた 一般人や美容師,服の販売員などの等身大のファッション図版に用いて誌面の中 心に据えていることである。プロのモデルはほとんど登場せず,また,これらの 雑誌においては特定のモデルに人気が集まるという傾向はあまりみられない。こ こでは「ストリート系」とする。 次に,この6つのクラスタに調査対象者を分類する作業を行った。「普段読ん でいる雑誌」の第1位の回答に挙げられた雑誌変数が所属するクラスタを調査対 象者の所属クラスタとした。第1位に挙げられた雑誌が分析対象の雑誌群にない 場合は,第2位,第3位の雑誌を基準にして割り当てた。しかしながら,分析の 対象から漏れた雑誌のみを選んでいた者も相当数存在したため,全員を分類する ことはできなかった。 繰り返すが,このクラスタ分析は誌面内容の類似性を表すものではない。した がって,雑誌毎の特性や類似性を明らかにすること自体を目的としていない。し かし,調査対象者が各々のファッションに合致した,あるいは似通ったファッシ ョン誌を併読することは十分に考えられ,また,渡辺・城(2007)などのこれま での研究において指摘されてきた雑誌の特性別分類やクラスタ分類の結果とほぼ 一致するため,クラスタ分析によって分類された雑誌群にはある程度の類似性が あるとみなすことができると考えられる。 4−4 尺度得点の比較と説明力の検討 調査対象者の痩身願望得点の程度を度数分布に従って「高群」「中群」「低群」 に分けて,基本属性や各尺度の得点を一元配置分散分析によって比較した。分析 の結果,基本属性では年齢や身長といった基本的に変更不可能な部分にかんして は有意な差がみられず,比較的変更が容易な体重及び BMI では有意差がみられた。 また,各尺度においては全ての項目で有意差がみられ,Tukey の多重範囲検定 表5 痩身願望得点群の各項目得点の比較 憧憬 親近感 誌面模倣 入手欲求 PC ネット 携帯ネット BMI 願望高群(N=191) 3.24a 2.45a 3.06a 3.09a 2.72a 2.58a 20.26a 願望中群(N=186) 2.81b 2.06b 2.61b 2.72b 2.57b 2.44a 19.88a 願望低群(N=153) 2.28c 1.89c 2.16c 2.23c 2.36c 2.28b 18.22b 数値右肩の a,b,... は縦に見て同符号間では Tukey の多重範囲検定で p < .05 の有意差がないこ とを示す。
でも有意差があった項目を表5に示した。 年齢と身長といった基本属性の一部を除けば,その他の項目においては一貫し て,痩身願望が高い者ほど各項目の得点が高いことから,当然痩身願望尺度とそ れ以外の項目には有意な相関関係があることが想定される。そこで,Pearson の 相関係数を算出したものが表6になる。 まず,全体的な相関関係の方向性としては,痩身願望が高い者ほど自身の BMI が高く,ファッション誌が包含する個別の要素から全体的に影響を被って いるということがいえ,とりわけ「雑誌モデルへの憧憬」が強い相関を示してい る(表6)。したがって,本論においてもファッション誌からの強力な影響を全体 的に認めるものであり,これまでの知見を支持するものである。 また,インターネット利用とも有意な相関がみられたが,これは主に流行に関 する項目によって構成され ていることが関係している と考えられる。 重 回 帰 分 析 の 結 果( 表 7)からは,「入手欲求」 や「誌面模倣」といったフ ァッション誌からの被影響 性も有意に関係しているも のの,「雑誌モデルへの憧 憬」が最も説明力を有して 表6 尺度間相関行列 X2 X3 X4 X5 X6 X7 X8 X1痩身願望 .560*** .362*** .449*** .499*** .209*** .309*** .336*** X2雑誌モデルへの憧憬 .537** .568** .653** .262*** .348*** .085 X3雑誌モデルへの親近感 .392** .453*** .198*** .268*** -.021 X4誌面模倣 .585** .145** .194*** .117* X5入手欲求 .278*** .341*** .067 X6 PC インターネット .641*** -.079 X7携帯インターネット -.057 X8 BMI 1.0 *p < .05 **p < .01 ***p < .001 表7 痩身願望を従属変数とした重回帰分析結果 β t 値 p 値 雑誌モデルへの憧憬 .345 6.43 .000 雑誌モデルへの親近感 .050 1.14 .254 誌面模倣 .109 2.31 .022 入手欲求 .193 3.67 .000 PC インターネット -.103 -2.09 .037 携帯インターネット .110 2.40 .017 BMI .270 7.67 .000 R2 .456 調整済み R2 .446
いることが明らかとなり,次いで自身の「BMI」であった。また,このように, 全体的な傾向を検討した場合「雑誌モデルへの親近感」は有意な説明力をもたな いのである。 では,読書傾向を調整変数に用いた,クラスタ別に検討した場合はどうである のか。表8にクラスタ別に検討した場合の相関係数を示したが,ここにきてよう やく興味深い結果が得られることとなったといえる。 全体としては各尺度と痩身願望尺度との間に相関があったが,調査対象者が日 常的に接触しているファション誌の違いを考慮したクラスタ別にみた場合,必ず しも痩身願望との間に強い相関があるわけではなく,多様さが認められる。 ここで注目したいのは,「雑誌モデルへの憧憬」については全体的に強い相関 がある一方で,「雑誌モデルへの親近感」において興味深い差がみられ,人気モ デルがしばしば登場するファッション誌を日常的に読むクラスタである「お姉系」 「ギャル系」では強い相関を示したのに対し,これら以外のクラスタは「カジュ アル系」で弱い相関がみられたものの,「アラサー系」「古着系」「ストリート系」 では有意な相関はみられないということである。 表8 クラスタ別にみる各尺度と痩身願望尺度との相関係数及び BMI クラスタ名 痩身願望との相関 BMI 雑誌モデ ルへの憧 憬 雑誌モデ ルへの親 近感 紙面模倣 入手欲求 PC イ ンターネット 携帯イン ターネット 痩身願望× BMI お姉系 N = 145 .793** .599*** .746*** .733*** .036 .232* .324*** 19.24 アラサー系 N = 32 .117 .196 .372* .425* .133 132 .125* 19.75 ギャル系 N = 48 .588** .546*** .307*** .385*** .360* .524* .377*** 19.16 古着系 N = 32 .384* .087 .128 .267 .120 .074 .083 20.76 カジュアル系 N = 181 .562*** .308** .459*** .538*** .228** .332*** .417*** 19.72 ストリート系 N = 73 .271* .000 .100 .194* .216* .215* .422*** 19.80 非読書群 N = 81 ― ― ― ― .078 162 .441** 19.93 ***p < .001 **p < .01 *p < .05
そこで,「雑誌モデルへの親近感」で非常に強い相関を示した「お姉系」及び 「ギャル系」を母数としてひとつのメガクラスタとし,それ以外のクラスタを母 数としたメガクラスタに分けて,重回帰分析を行った結果が表9である。 重回帰分析によってメガクラスタ別に検討した場合も,モデルへの「憧憬」に かんしては共に強い説明力があったが,「親近感」については「ギャル・お姉メ ガクラスタ」では「雑誌モデルへの親近感」は有意な関係が認めたれた一方で, 「ストリート・カジュアルメガクラスタ」においては有意な説明力はないのであ る。
5.考察
本論の分析結果から,わが国のファッション誌と痩身志向の関係は単一的な図 式では把握できない複雑なありようを呈していることが明らかとなった。まず, 本論の一つめの目的として掲げた痩身志向のより具体的な規定要因について,決 定的に影響を及ぼすのは「モデルへの憧憬」であり,次いで身体変数である BMI が影響を及ぼすことを明らかにした。また,全体的な傾向としては「親近感」 を抱くことと痩身願望との間には有意な関係はないものの,二つめの目的であっ た読書傾向を調整変数に用いた場合,一部の高いモデル人気に牽引された雑誌に 接触する者にとっては「雑誌モデルへの親近感」も痩身願望と関係している。「雑 誌モデルへの憧憬」がどのような雑誌に接触するのかということを問題にせず, 全体的に説明力をもつのに対し,「雑誌モデルへの親近感」はモデルが身近な理 表9 痩身願望を従属変数とした重回帰分析結果(メガクラスタ別) ギャル・お姉系メガクラスタ ストリート・カジュアル系メガクラスタ β t 値 p 値 β t 値 p 値 雑誌モデルへの憧憬 .325 4.24 .000 .333 4.67 .000 雑誌モデルへの親近感 .164 2.84 .005 -.056 -.905 .336 誌面模倣 .170 2.49 .014 .072 1.11 .267 入手欲求 .248 3.57 .000 .164 2.24 .026 PC インターネット -.113 -1.76 .080 -.122 -1.72 .086 携帯インターネット .105 1.82 .071 .144 2.14 .033 BMI .157 3.17 .002 .335 6.23 .000 R2 .626 調整済み R2 .603 R2 .351 調整済み R2 .329想像として描かれ,彼女たち自身が高い人気を獲得しているようなファッション 誌に日常的に接触するクラスタにおいてのみ説明力をもつのである。 モデルに対する「憧憬」の心理が,「私もそうなりたい」と願う意識によって 痩身願望を喚起することは全体的な傾向として存在する一方で,人気モデルが「身 近」で「親しみやすい」存在として描かれる雑誌に日常的に接触する者にとって は,「私もなれるかもしれない」というようなモデルの身体を獲得可能とみなす 心理もまた,痩身願望に強い影響を及ぼすことが示唆される。 雑誌モデルに限らず,「有名なるもの」に対する「憧憬」の心理は広く有名人 に対して当てはまると考えられる一方で,「親近感」の心理を抱くことはとりわ け雑誌モデルに対していえることであろう。コレクションショーに登場するモデ ルが 180 ㎝近い身長を要求されるのに対し,わが国のファッション誌で人気を集 めるモデルたちの身長は高くても 170 ㎝前後で,150 ㎝台後半の者も多く存在す る (7) 。本論の調査対象者の平均身長は 158.7 ㎝であり,雑誌モデルは少なくとも身 長という部分ではけっして遠い存在ではなく「私もなれるかもしれない」と感じ させる身近な身体像を提示しているのである。そして,雑誌モデルの体型を現実 的で読者像を反映したものとみなして「親近感」を抱く場合,雑誌モデルの体型 は理想として機能するだけではなく,到達可能な範囲に設定されたボディ・イメ ージとして参照されているといえよう。 また,本論の設計外であったとはいえ,「モデルの誰か」を通したファッショ ンの受容の背景にある,自らの身体の所在を「誰か」に委ね,まるで衣服を装う かのように「モデルの誰か」の身体を選んで「装う」行為の根底にある当人にし か分からない心理については個別の事例にインタビュー取材して更なる研究を試 みたい。 注 (1) パリコレなどに登場するようなモデルに対する人気が彼我の決定的な身体の違 いを見せつけられるような圧倒的な存在感にある一方で,わが国の雑誌モデルに対 する人気は,「私もなれるかもしれない」と感じさせる身近さにある。また,マス・ ファッションを扱う雑誌の職業モデルに人気が集まる現象自体がわが国に独特の現 象なのである(松谷 2007)。 (2) 同イベントは 2005 年から開催されており,ときに3万人を超えるほどの観客 を動員する。携帯電話を用いてモデルが着用している衣服をその場で購入できると いう新たなメディアの仕組みに注目が集まり,「日本のリアルクローズを世界へ」 をテーマに掲げていることからも海外メディアからの取材も多い(『読売新聞』2011
年9月 11 日)が,本論においては観客の大半である若い女性が目当てのモデルを見 るために来場し歓声を上げるという行為自体が特殊な現象であることに注目したい。 (3) 具体例を挙げれば蛯原友里や押切もえといった存在がこれに該当する。 (4) 2006 年頃に問題化され,BMI が 18 以下のモデルを出場禁止にする等の措置が 取られている。http://news.bbc.co.uk/cbbcnews/hi/newsid_6200000/newsid_6205500 /6205509.stm(2006 年 12 月 23 日付) (5) 「雑誌モデル」は,モデルを生業とし日本のファッション誌に主に活動の場が ある者として,コレクションショーのモデルやその他の有名人と弁別するために筆 者が便宜上定義したものであり,この定義に基づいて質問紙調査を行った。 (6) 「赤文字系」をはじめとする「○○系」の呼称は,まとまりのある着装上のス タイルを表す言葉として学術的な定義にもしばしば用いられている。また,本論で は研究の性格上,誌面の内容やファッション・スタイル別の特徴については深く言 及しないが,誌面の内容やスタイル別のクラスタ分類については『ストリートファ ッションの時代』明現社(渡辺 2005)に詳しいので参照されたい。 (7) web サイト上の公式プロフィールに基づいた数値である。サイト上ではモデル 情報は目立つところに記載され,体重こそ記載がないものの身長から靴のサイズま での身体的特徴や趣味等についても細かく記載されていることが多い。例 http:// cancam.tv/profile/index.html 引用・参考文献 今井啓子(2007)『ファッションのチカラ』筑摩書房 小澤夏紀・富家直明・宮野秀市・小川徹平・川上祐佳里・坂野雄二(2005)「女性誌への 曝露が食行動異常に及ぼす影響」『心身医学』Vol.45 No.7 吉良俊彦(2002)『情報ゼロ円。雑誌はブランディング・メディアである』宣伝会議 栗田宣義(2008)「﹁ファッション系統﹂の計量社会学序説―東京都内 10 代女性ファッシ ョン誌読者層の分析―」武蔵大学総合研究所紀要 古賀令子(2009)『「かわいい」の帝国 モードとメディアと女の子たち』青土社 厚生労働省(2008)『平成 20 年国民健康・栄養調査』 佐々木孝侍(2011)「ファッション誌の読書傾向にみる痩身志向性の差異」『繊維製品消 費科学』Vol.52 No.2 菅原歩美・曽根博仁(2010)「若年女性のやせ願望の実態とその問題点」『臨床婦人科産 科』64 巻9号 馬場安希・菅原健介(2000)「女子青年における痩身願望についての研究」『教育心理学 研究』48 号
Harrison, K. & Cantor, J. (1997)The relationship between media consumption and eating disorders. Jounal of Communication, 47(1).
Becker, A.E. (2004) Television, Disordered Eating, and Young Women in Fiji: Negotiat-ing Body Image and Identity durNegotiat-ing Rapid Social Change, Culture, Medicine and Psychiatry, 28(2).
『文化社会学の視座』ミネルヴァ書房 諸井克英・小切間美穂(2008)「女子青年におけるダイエット行動に及ぼす痩身モデルの 影響」『同志社女子大学総合文化研究所紀要』第 25 巻 山田桂子(2011)『東京ガールズコレクションの経済学』中央公論新社 米澤泉(2007)『コスメの時代 「私遊び」の現代文化論』勁草書房 渡辺明日香(2005)『ストリートファッションの時代』明現社 渡辺明日香・城一夫(2007)「ファッションを伝播させる雑誌メディアの変容 1990 年代 のファッション誌とファッションの関係を中心として」『デザイン理論』50