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Masanori Hashimoto Rene Fahr and Hilmar Schneider 1. Hashimoto, Masanori Fahr, Rene and Hilmar Schneider Hashimoto, Masanori 2004 Fahr

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第4章 入職経路の日米欧比較分析−日本は欧米と異なるのか−1)

平成 17 年 6 月 22 日

樋口美雄・児玉俊洋・阿部正浩 Masanori Hashimoto

Rene Fahr and Hilmar Schneider

1. はじめに 本書が分析の主要課題としている外部労働市場の機能向上のためには、能力開発と並ん で求職者と求人企業のマッチングに直接に関わる職業紹介システムの整備が極めて重要で ある。職業紹介経路としては、公共及び民間の「職業紹介機関」、求人広告等の「広告」、 並びに「縁故」などがあり、これらは、「求職手段」、または、「入職経路」とも呼ばれ ている。「入職経路」とは、現職への入職を果たした転職者が利用した経路という意味で あり、「求職手段」とは、失業者または在職中の求職者が職を探すための方法または経路 という意味である。現職への入職に導いた「入職経路」は通常一つであるが、失業者の「求 職手段」としてはこれは一つとは限らず、一人の失業者が同時に複数の「求職手段」を利 用する場合もある。また、求職者と求人企業のマッチングが一定期間に成立する確率(す なわちスピード)、及び、成立したマッチングの成功度合いを総称して「マッチング効率」 という。本書では、職業紹介経路に関して、特に、転職者が現職を見出すために利用した 「入職経路」の機能に注目し、「入職経路」の相違が「マッチング効率」とどのような関 係を持っているかについてを中心とした分析を行っている。 前章では、まず、わが国国内の入職経路について分析を行った。本章では、新たに米国 及び欧州主要国についての分析を加え、第3節及び第4節として紹介する。これらの米欧 分の分析については、Hashimoto, Masanori が米国に関して、Fahr, Rene and Hilmar Schneider が欧州主要国(デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国)に関して、 それぞれ、労働者の転職状況を「入職経路」との関連で把握できる個票統計の利用によっ て分析を行った。これら、日、米、欧それぞれの分析は、相互に比較可能になるよう、可 能な限り共通の変数や式の特定化を用いて行われた。 本章では、これらの日、米、欧の分析結果を踏まえ、比較検討を行う。本章の目的は、 日米欧における入職経路とマッチング効率との関係について、個票統計を利用し、極力統 一的な枠組みの下で比較を行い、これを通じて、特に日本の労働市場及び政策に対する示 唆を導き出すことである。 2. 既存研究と本章の研究の特徴

1)本章は、樋口美雄・児玉俊洋・阿部正浩(2004)、Hashimoto, Masanori (2004)及び Fahr, Rene and Hilmar Schneider (2004)を基にこれらを再構成して作成した。

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求職手段または入職経路のマッチング効率との関係を論じた欧米の既存文献の多くは、 Fahr and Schneider(2004)によると、失業中の求職者の観点に立っている。英国についての Gregg and Wadsworth (1996)、Böheim and Taylor (2002)、米国についての Holzer (1988)、カナダについての Osberg (1993)がその例である。Holzer は、「縁故(friends and relatives)」並びに「直接求職(direct search)」の求職手段が最も頻繁に用いられ、ま た、求人を開拓する上でも生産的であると論じている。Gregg and Wadsworth(1996)は、 「広告(advertisements)」と「ジョブセンター(Jobcentre)」が英国で最も普及した 2 つの求職手段であると指摘している。これらの求職手段の成功率は高くないが、もっとも 頻繁に用いられることから、絶対数で見た就職成功件数は最大のものになっている。また、 入職を条件として、さまざまな求職手段を用いる確率をモデル化すると、失業期間とジョ ブセンター利用との間には正の相関関係が存在し、他の求職手段との間には負の相関関係 があることを示している。

英国についてはさらに、Böheim and Taylor (2002)は、広告への応募と、ジョブセンタ ーすなわち職業紹介機関が、2 つの最も一般的な求職手段だと論じている。Böheim and Taylor は、求職者が一度に複数の手段を用いる場合が多いことを強調した。特に彼らは、 最も一般的な方法として、直接応募(direct application)、広告への応募、ジョブセンタ ーの訪問、縁故(friends and contacts)が組み合わされて用いられることを指摘した。 Böheim and Taylor はまた、面接直後に採用される確率が最も高い求職方法、すなわち潜 在的な雇い主に直接応募することが、最も一般的な求職手段と一致するわけではないと指 摘している。これらの研究の弱点は、当該データから就職に結びついた入職経路の観測が できないにもかかわらず、用いられた求職手段がその後の就職と因果関係を有すると仮定 せざるを得ない点である。

例外はAddison and Portugal (2001)で、ポルトガルのデータから、求職手段と最終的な

入職経路の情報を得ている。Addison and Portugal は、翌期の入職につながる求職手段と

見なされる方法の「成功率」が、「自営(self-employment)」、「縁故(friends and relatives)」、「直接応募(direct application)」において最も高いことを発見している。 しかし、これらの手段を通じて職を見つけることが、必ずしも賃金上昇に結びつくとは限

らない。また、公共の職業紹介サービスの効率の低さを論じるとき、Addison and Portugal

は、それを示す推計値が、制度的な非効率性と選択の効果(公共職業紹介の利用者という グループに一定の傾向のあること)が混ぜ合わさったものと考えるべきであることを認め ている。 このように、欧米においては、求人と求職者とのマッチングと求職手段の関係について いくつか分析がなされており、その一部は、入職経路とマッチング効率との関係を分析し ている。また、前章で紹介したように、わが国についても、少ないながらも、入職経路と マッチング効率性の関係について分析した研究がある。しかし、これらは、いずれも、国 別に行われた分析であり、入職経路または求職手段とマッチング効率性との関係を国際比 較した分析ではない。本章は、入職経路とマッチング効率性の関係について、個票統計を 利用した計量分析によって、日米欧間の比較分析を行うものであり、その点に大きな特徴 がある。

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2-1 比較の枠組み 本章において入職経路の日米欧比較は、次のような枠組みに基づき行う。 2-1-1 中心的な変数(転職者に関する入職経路とマッチング効率) (入職経路) 職業紹介経路は、「入職経路」と「求職手段」としての性格があるが、我々の関心は、 職業紹介経路がマッチングの成果とどのような関係を持っているかにあるため、最終的に 入職に利用された「入職経路」としての職業紹介経路に注目する。幸い、本章でわれわれ が利用する日米欧のデータ出所は、基本的には「入職経路」を調査している。米国につい ては、データ出所として使用した Current Population Survey (CPS) が失業期間中の「求職手 段」(job search methods)を調査しているので、本章の 3.においても「求職手段」の用語 を用いている。しかし、直接の分析対象としては、転職者が入職した月の前月に利用して いた「求職手段」の中で最も重要な1つを使用しているので、事実上、日本及び欧州の分 析における「入職経路」(entry methods)とほぼ同じものを指している。 さて、「入職経路」として日米欧のデータ出所から共通に把握できる職業紹介経路は、 「職業紹介機関」、「広告」、「縁故(家族及び友人等)」である。「職業紹介機関」に ついては、米国及び英国については、公共と民間の区別が可能である。日本については、 1999 年までは公共のみ区分して調査され、民間は「その他」の中に含まれていたが、2000 年から公共も民間も区分して調査されている。他の 5 か国については公共と民間の区別は できない。もっとも独、仏、デンマークでは、「職業紹介機関」といえば、もっぱら公共 機関であるといってよく、民間はほとんど存在しないために区別されていない。また、米、 欧各国については、雇用主への「直接応募」が区分されており、また、日本については、 「前の会社」による紹介及び「学校」、英国を除く欧州については「創業または家業従事」 が区分されているといった違いがある。 (マッチング効率) 本章は、入職経路とマッチング効率との関係を分析する。前章のわが国の分析において は、マッチング効率を表す指標として、マッチングが成立するまでのスピードを表すとこ ろの、前職の離職から現職への再就職までに要した「離職期間」、並びに、成立したマッ チングの質の良し悪しを示すところの前職と現職との間の「賃金変化率」、及び、再就職 先における転職後の「満足度」を用いた。本章では、日、米、欧で比較可能な分析を行う ために、マッチング効率としては、「離職期間」と前職と現職との間の「賃金変化率」を 用いる。「離職期間」が短いほどマッチング効率は高く、また、前職に比べて現職の賃金 が高いほど(または賃金低下幅が小さいほど)マッチング効率が高いと考える。 このうち、「離職期間」については、「失業期間」との関係を説明する必要がある。「失 業期間」とは、仕事がない状態で、かつ、求職活動をしている期間のことであり、「離職 期間」とは、求職活動の有無にかかわらず、仕事がない期間のことである。したがって、 「失業期間」は、「離職期間」のうち求職活動を行っている期間であると言い換えること もできる。「離職期間」か「失業期間」かは、日米欧各国のデータ出所によって異なって いる。米国については、Hashimoto(2004)は、「失業期間」を用いている。欧州についても、

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Fahr and Schneider(2004)は、「失業期間」の用語を用いているが、国によっては求職活動 をしていない時期も含んでいる(特に、ドイツ)。日本の場合は、主たるデータ出所であ る『雇用動向調査』で把握できるのが「離職期間」のみであるため「離職期間」を用いて いる。このように「失業期間」概念によるデータを使用している国も含んでいるが、後節 5.において、日米欧の分析結果を比較する際には、統一的に「離職期間」の用語を用いる。 (対象となる労働者の範囲) 本章は、「転職者」を対象として分析する。「転職者」は、前職を離職してから現職へ の再就職に成功した労働者である。再就職に成功した労働者である点で、標本選択に偏り が生じている可能性があるため、本来は、離職期間分析については、「転職者」と「求職 継続者」であるところの「失業者」を含めた分析であることが望ましい。しかし、この章 では、日米欧比較に利用可能なデータの範囲から、「転職者」に絞った分析を行っている。 「求職継続者」を加えることによって分析結果が影響を受けるかどうかについて、日本 について分析した前章において、「求職継続者」を含めて分析できる『労働力調査特別調 査』(以下では『労調特別』という)を利用した阿部正浩・戸田淳仁(2004)の分析結果と、 雇用動向調査の分析結果との比較によって検証した2)。その結果、雇用動向調査を用いた 分析結果と阿部・戸田(2003)の分析結果との間で、「離職期間」で評価した入職経路間の 順位に違いはなかったことが確認されている。 2-1-2 データ出所 分析に用いたデータ出所は以下のとおりであり、その概要は表4−1に示した。それぞ れの説明は、日本については前章で述べたとおりであり、米国及び欧州については、本章 3.及び 4.で詳細に述べる。ここでは、それぞれの概要を簡潔に述べる。 (日本) 日本については、厚生労働省の『雇用動向調査』の個票統計を用いた。本章の集計・分 析結果は、前章で紹介した集計・分析結果を米・欧との比較用に編集したものである。『雇 用動向調査』は、厚生労働省が、半年毎に、常用労働者 5 人以上の事業所を対象として、 入職・離職等の状況を調査する調査である。『雇用動向調査』において入職経路、離職期 間、前職からと現職への賃金変化率が把握できる調査対象は、離職期間が1年未満の転職 者に限られる。従って、本章で紹介する日本についての回帰分析は、離職期間1年未満の 転職者のみを対象としているが、記述統計分析においては、必要に応じて、阿部・戸田(2003) が行った『労調特別』の集計結果を用いてデータを補完する。 2)阿部・戸田(2004)は、総務省統計研究所において、労調特別の個票統計を用いて、求職 者が一定期間に失業を脱する確率を求職手段(入職していない標本も対象としているので 「求職手段」と呼ぶ)及び個人属性で説明するハザードモデルを推計した。阿部・戸田(2003) の推計結果とその雇用動向調査の分析結果との比較についてのより詳細な説明について は、前章を参照。

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(米国)

米国については、米国国勢調査局の Current Population Survey(以下では、「CPS」と呼 ぶ)を用いる。CPS は、米国国勢調査局が、約 5 万世帯を対象に毎月行っている調査であ る。この調査は、ある標本単位について、4 か月連続で調査し、その後 8 か月の空白期間 を置いて、1 年後の同じ 4 か月連続で調査し、計 1 年 4 か月の間に 8 か月を調査している。 この間に、当初就業状態にあり、その後失業を経験し、再び就業状態にはいったことが観 察される標本を転職者としてとらえている。従って、事実上、CPS で把握できる転職者は、 離職期間が1年以内の転職者に限られている。 そこで、日米欧の分析結果の比較を行う 5.節での記述統計分析においては、CPS とは別 に、離職期間についてのみ、その一般傾向の確認のため、米国の代表的なパネル・データ である National Longitudinal Survey of Youths (以下では、「NLSY」と呼ぶ)を用いた集計 も行った。

(欧州)

欧州については、デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ及び英国の 6 か 国を対象としている。Fahr and Schneider (2004)による検討の結果、英国を除く 5 か国につ いては、The European Community Household Panel (以下では「ECHP」という)を用い、 英国については、The British Quarterly Labor Force Survey (以下では「BQLFS」という)を 用いた。これは、英国以外の 5 か国については、ECHP で統一的なデータが得られ、英国 については ECHP では入職経路のデータが得られないからである。 ECHP は、1994 年以来継続する標本世帯に対して毎年1回ずつの調査を行っている。入 職経路や離職期間等のデータは、現職入職後の最初の調査での回答から得られる。離職期 間は、多くの国については月単位で回答が得られるが、ドイツについては年単位のデータ しか得られない。このため、離職期間の分析からはドイツを除外している。 英国の BQLFS は、5四半期継続する標本家計に対して、四半期毎に調査を行っている。 入職経路情報は現職に入職した四半期の調査において、また、離職期間情報は現職に入職 した四半期の前の四半期に失業していた場合に入手される。一方、賃金に関する情報は欠 損値が多いため、賃金変化率の分析からは英国を除外している。 2-1-3 分析手法の概観 分析手法としては、記述的な集計表の作成と回帰分析を用いる。いずれにおいても、マ ッチング効率指標と入職経路との関係をみる。 回帰分析においては、マッチング効率を示す離職期間または賃金変化率(賃金変化率に ついてはその対数)を被説明変数として、入職経路を示すダミー変数と性別・年齢・教育 水準・離職理由など、転職者の個人属性をコントロールする他の観察可能な変数を説明変 数として推計を行った。回帰分析方法の詳細については、各関連か所で述べるとともに、 回帰分析結果の比較については、後節 5.においてあらためて述べる。

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3. 米国における求職手段とマッチング効率の関係 本節の目的は、米国における失業者について、利用可能な個票データを用いて、日本及 び欧州の分析結果と比較可能できるように、求職手段とマッチング効率との関係を分析す ることである。 3-1 データの出所 データの出所としては、本章のテーマに取り組むうえでは、労働人口の実態・賃金の漸 進的変化を観察できるような、長期的なパネル・データが望ましい。日本について用いら れた『雇用動向調査』は、パネル・データではないが、標本となる労働者の前職の状態も 調査されており、前職と現職の間の変化を分析することができる。そこで、米国に関して は、まずパネル・データの本分析への利用可能性を検討すると、米国の代表的なパネル・ データである National Longitudinal Survey of Youths Data(NLSY)と Panel Study of Income Dynamics(PSID)が候補として挙げられる。NLSY 及び PSID は、パネル・デー タであるという利点はあるものの、NLS の回答者は狭い年齢に限定されており、また失業

者の標本数は少ないため、日本や欧州との比較には適さない3)。また PSID においては、

求職手段に関する情報が包括的ではなく、また各年度で一貫した基準での情報が得られな い。

米国のさまざまなデータのメリット・デメリットを考量した結果、本節の分析では Current Population Survey(CPS)のデータを用いることにした。CPS は労働市場調査に 関して米国で入手できる最も包括的で標本数の大きいデータの一つである。 CPS は、米国勢調査局が労働統計局向けに約 5 万世帯を対象に毎月行っている調査であ る。CPS には、各世帯の 15 歳以上の全世帯員に関する就業状況の情報が含まれており(た だし発表されるデータでは 16 歳以上に重点を置いている)、米国の労働力としての特徴に 関する一次情報源となっている。CPS では、就業・失業状況、所得、労働時間その他の変 数が、年齢・性別・人種・既婚/非婚の別・学歴・職種・業種・労働階層といった人口統 計上の特性別に分類されている。 CPS は時系列的に蓄積されたクロスセクション・データであって、本格的なパネル・デ ータのように長期にわたって調査標本を追跡することはできないが、同一の調査標本を一 定期間継続し毎月少しずつ入れ替えているため、短期についてはパネル・データに準じた 分析を行える。ここでその仕組みを説明しておこう。毎月、調査担当者が無作為抽出され た調査単位に接触し、その住所に居住するすべての成員の基本的な人口統計情報と、15 歳 以上の成員全員に関する詳細な労働情報を取得する。月次・年次データの変化を推計する 際の信頼性を改善するため、8 つのパネル(パネル=調査標本のグループ)を用意して毎 月の調査標本をローテーションさせている。ある標本単位は 4 か月連続で調査を受け、そ 3) NLSY は 1979 年、14 歳から 21 歳までの個人 1 万 2686 名を対象とした年次調査として開 始された。1990 年代半ば以降、調査は隔年で行われるようになった。このデータでは求職者の 数は比較的少ない。たとえば 2000 年の NLSY には、雇用されていない求職者 269 名、雇用さ れている求職者 617 名しか含まれていない)。

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の後 8 か月の空白期間を置いて、1 年後の同じ 4 か月間、また調査対象となる。そして、 毎月、調査対象パネルが一つずつ(つまり標本全体の 8 分の 1 ずつ)新しいものに入れ替 わっている。CPS のデータはパネル・データに準ずる性格を備えており、制約はあるもの の、特定個人の求職活動をその成果と結びつけることが可能になっている。 CPS 調査において失業者としてカウントされるには、回答者は一時的なレイオフ状態に あるか、過去 4 週間にわたって積極的な求職活動を行ったと主張しなければならない。求 職活動を放棄した人は、労働人口から離脱したと見なされる。回答者は、求職活動をして いるかどうかだけでなく、職を見つけるために具体的にどのような活動を行っているかを 質問される。回答される活動としては、通常、「州の(公共の)職業紹介機関に問い合わ せる」「民間の職業紹介機関(に問い合わせる)」「雇用主に直接連絡する」「友人・親 戚に照会」「求職広告の出稿/回答」「新聞の求人広告を探す」といったものがある。求 職活動の結果のデータとしては、現在の就業形態や賃金、雇用期間など、労働市場におけ る通常の特性が含まれる。 一般のデータ群と同様、この CPS のデータ群にも長所と限界がある。長所としては、 (1)大規模なデータ群であり、あらゆる年代の(16 歳以上)回答者を含んでいる、(2) コントロール変数として使える社会経済的変数を豊富に含んでいる、(3)求職手段に関 する情報を伴う雇用者・非雇用者の標本が、他の標準的なデータソースに比べ、はるかに 多く取得できる、(4)失業者が用いる求職手段に関する情報を豊富に含んでいる、とい った点がある。限界としては、(1)就業中の労働者が求職活動を行っている場合に関し ては求職手段に関する情報がない、(2)パネルのローテーションにより同一の個人の集 合をある程度の期間追跡調査できるとはいえ、個人を追跡調査できる月数は限られている ため、何か長期的な影響があったとしても確認できない、(3)8 か月の空白期間がある ため、その期間中の就業状況については仮定が必要になる。これについては後で確認する。 3-2 標本の抽出 CPS は豊富なデータを提供しているため、失業、求職手段、その後の結果について、い ろいろな分析を行うことが可能である。しかしここでの第一の目標は、日本についての調 査標本と比較できる標本を構成することである。本章の分析で日本について用いる『雇用 動向調査』の標本特性を考慮し、これとなるべく類似したデータがとれるよう、CPS の回 答者のうち失業から脱した人に注目する。失業期間の前後での賃金の変化を追求するには、 転職入職者に限定する必要がある。 CPS の調査体制では 8 か月の空白期間があるため、空白期間中の就業状況については仮 定が必要になる。我々は、以下の仮定が最も自然なものだと考えている[以下の仮定にお いて E(あるいは U)は、その人が 8 か月の空白期間の直前の月、あるいは 8 か月の空白 期間の終了直後に就業(もしくは失業)状態にあったことを意味する]。 [E、8 か月の空白期間、E]→空白期間中も就業。 [E、8 か月の空白期間、U]→空白期間のうち前半 4 か月は就業、後半 4 か月は失業。 [U、8 か月の空白期間、E]→空白期間のうち前半 4 か月は失業、後半 4 か月は就業。 [U、8 か月の空白期間、U]→空白期間中も常に失業。

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3-3 標本結果 本分析で利用する全調査期間(1998 年 1 月∼2002 年 3 月)において、標本調査期間中の どこかで失業を経験した人は 21,530 人である。このうち標本調査期間中に失業と再就職の 両方を経験した標本、すなわち、転職入職者は 966 人である4。 表4−2は、観察が可能であった月数別に人数をまとめたものである。CPS 調査への協 力継続を拒否した人がいる、転居し現住所が不明な人がいるなどの理由で、調査対象とな っていた全員が調査サイクルを完了したわけではない。男女を問わず圧倒的に多いのは、4 か月しか調査に参加しなかった人である。 表4−3は、転職のパターン別に個人の分布をまとめたものである。最初の列(EUE) は、調査期間中に失業と再就職を経験した調査標本であることを示す。調査期間中に失業 したすべての事例のうち、調査期間中に再就職に至った例は少数に留まっている。 3-4 失業期間の長さ 表4−4は、失業と再就職を経験した調査標本を、失業期間の長さ別に分類したもので ある。失業し、最終的に再就職した(つまり失業から脱した)966 人に関しては、男女双 方とも、失業期間は約 5.5 か月となっている。 失業期間をもっと幅広く把握するには、調査標本のうち、調査期間中に失業を経験し、 失業が継続している人について失業期間を推定することが有益である。つまり、再就職し た人に加えて、調査期間中に再就職できなかった人、また最初に調査標本となった時点で すでに失業していた人についての検証も行わねばならないということである。 再就職した人だけでなく、調査標本全体について失業期間を推定するには、状態遷移確 率を伴う一次マルコフ連鎖を想定する必要がある。 これに基づき、1998 年∼2001 年までの失業期間を、性別、学歴、年齢別に推定した結 果が表4−5である。この時期の推定失業期間は 3∼4 か月と短くなっている5)。女性は男 性よりも失業期間が短くなる傾向にあり、また学歴の高い者は低い者よりも失業期間が長 くなる傾向が見られる。ただしその差は有意ではない。年齢の差異に注目すると、年齢が 高くなるほど失業期間が長くなる傾向にある。 米国の労働市場の特異性として、短期的な雇用の調整のために一時的レイオフが用いら れることが多いという特徴がある。一時的レイオフは、企業固有のスキルを有する労働者 がその企業と完全に切り離されてしまう可能性を最小限に抑えている(Feldstein (1976)、 Katz (1986))。 失業期間が短い理由は、これらの個人のほとんどが、一時的レイオフの結果として職か ら離れていたことによるのかもしれない。表4−6は、失業者のなかに一時的レイオフの 4 ) 本節の基となった Hashimoto (2004)は、CPS からの標本抽出の手順についても言及している。 5) これは調査期間中に失業から脱した人の実際の平均失業期間が 5.5 か月だったのとは対照 的である(表4−4参照)。もちろん、予測と実績が必ずしも類似しているとは限らないし、 またこの差異は、一つには 8 か月の空白期間中の就業状況に関する仮説に基づくものかもしれ ない。

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対象となった者がどの程度いるかを、学歴・年齢別に、失業者全体に占めるレイオフ対象 者の比率(L/TU)で示したものである。この時期、失業者全体に占めるレイオフ対象者の比 率は、学歴・年齢層を問わず、25%前後となっている。したがって、一時的なレイオフは、 すべてのレイオフが一時的なものではないこともあり、失業の主要な原因であるとは言え ないが、失業の大きな原因となっている可能性がある6。一時的なレイオフが女性よりも男 性にとって、また低学歴の労働者、高齢の労働者にとってより重要であることに注意され たい。 3-5 求職手段についての記述統計 表4−7は、失業期間中に 966 人の回答者が用いたさまざまな求職手段をまとめたもの である。CPS データの構成により、これらは排他的な区分となっている。先にも述べたよ うに、本節の「求職手段」は、転職者が入職した月の前月に利用していた「求職手段」の 中で最も重要な1つを使用しているので、事実上、日本及び欧州の分析における「入職経 路」とほぼ同じものである7)。非常に目立つ点は、「企業への直接の問い合わせ/面接」 という手法を用いた人が多い(52.1%)ことである。この手法は、「履歴書・応募願書を 送付」(21.7%)「公共の職業紹介機関に照会」(7.8%)「求人広告を見る」(6.7%) といった他の手法よりも圧倒的に多い。 3-6 求職手段についての回帰分析 さまざまな求職手段は、失業期間を短縮する上で、また、賃金上昇を実現する上で、ど の程度有効なのだろうか。この疑問に答えるために、失業期間については、調査期間中に 失業し失業から脱した人の失業期間を被説明変数とし、年齢、既婚/非婚の別、人種、学 歴、業界、求職手段などさまざまな説明変数を持つ多重回帰モデルを推定した。また、賃 金変化に関しては、ln(w wt/ t−τ)(ただし w tは新たな職における賃金、wt-τ は前職におけ る賃金)を被説明変数とし、失業期間関数と同様の多重回帰モデルを推定した。求職手段 を表すダミー変数は、「求人広告を見る」を基準として作成している。 6 ) ただし、CPS は、恒常的レイオフと一時的レイオフを区別していない。CPS は、労働者が、 需要の一時的減少、景気後退、工場の改装、材料の不足、在庫の削減など、業況に関連した理 由によって一時的に職を離れ、元の職場に呼び戻されることを待っている状態をレイオフとし ている。また、レイオフとみなされるためには、勤務再開日があらかじめ告げられているか、6 か月以内に職場に呼び戻されると期待できることが必要である。レイオフ対象者は、求職活動 をしていなくても失業者に分類される唯一のカテゴリーである。このような定義は、レイオフ が通常は一時的レイオフであることを意味している。 7) CPS では回答者に対し、求職手段について複数回答を可能とするよう、同じ質問を 6 回繰 り返している。仕事を見つけるために 1 人の人間が複数の方法を試みることは十分考えられる。 一般には、最も頻繁に試みた手法が一番目の回答となり、最も頼ることが少なかった方法が 6 回目の質問の回答になると思われる。いずれにせよ、この質問に複数回答えた回答者は少数に 留まっている。したがってここでは一番目の回答のみを用いている。

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これらの回帰分析では、前職賃金も説明変数としている。これは、前職賃金には個人に 特有の人的資本その他の観察不可能な要因が反映されているという仮定に基づき、個人の 不均一性を調整するためである。さらに、前職賃金は、提示された職を引き受けるか否か、 また、職探しをどれだけ長く行うかを個人が判断する「留保賃金」に影響を与え、従って、 個人は、直前の仕事で得ていた賃金が次の仕事に反映されることを期待するからである。 表4−8は、失業期間について回帰分析の結果を示したものである。われわれが注目す るのは求職手段の効果である。ここでは、すべての転職者標本を対象とした場合には、求 職手段と失業期間のあいだの関係ははっきりしない。どの手法も統計的に有意な係数を示 していない。男性に限れば、唯一有意な(失業期間を短くする方向での)係数は、民間の 職業紹介機関の利用に関連するものである。女性に限れば、「民間の職業紹介機関に照会」 が統計的に有意で失業期間を長くする方向での係数を示しており、また「組合/専門職登 録機関に照会」が有意性は低いものの失業期間を短くする方向での係数を示している。公 共の職業紹介機関の利用は、男性に関しては失業期間の短縮につながっているが、女性に 関しては逆に失業期間が長期化している。もっとも、いずれも有意であるとは言えない。 表4−9は、賃金の変化に関する回帰分析の結果をまとめたものである。利用された求 職手段のうち、統計的に有意な効果が得られたのは、「民間の職業紹介機関に照会」と「組 合/専門職登録機関に照会」のみだった。この結果は、男女別には必ずしも有意ではない が、男女合計では、「公共の職業紹介機関」に比べ、「民間の職業紹介機関」のほうが賃 金上昇を実現するうえではるかに効果的であることが表れている。また、「組合・専門職 登録機関」が賃金上昇に関してポジティブな影響を与えているというのは、自然な結果で あると考えられる。 失業期間及び賃金の変化に関する回帰分析の結果からは、「民間の職業紹介機関」を利 用すると、女性の場合は失業期間が延びる可能性がある(逆に男性の場合は失業期間が短 縮される)ものの、いったん新たな職が見つかれば、賃金上昇の幅は他の求職手段の場合 よりも大きくなることがうかがわれる。ただし、「民間の職業紹介機関」と「組合/専門 職登録機関」が、求職手段としてはあまり頻繁に用いられる方法ではないことに注意すべ きである。表4−7に見るように、この 2 つの手法は全体の 2.8%を占めるにすぎない。 したがって、これらは求職手段としては一部の労働者のみが利用できる手法である。これ らをうまく活用できる人が、賃金上昇を実現しているように見える。対照的に、「公共の 職業紹介機関」は、利用頻度は高いものの(7.8%)、賃金や失業期間に対する影響という 点ではあまり効果的であるとはいえない。 3-7 米国の求職手段に関する分析結果のまとめ 本節の主眼は、米国において新たな雇用を早期に見つけるうえで、どの求職方法が有効 か、また、以前よりも賃金のいい仕事を見つけるうえで、さまざまな求職手段がどの程度 有効かという点である。早期再就職に関しては、回帰分析の結果によれば、「民間の職業 紹介機関」は、幅広く利用されてはいないものの、男性に関しては失業期間を短縮し、女 性に関しては失業期間を延長する傾向が見られた。対照的に、「公共の職業紹介機関」の 活用は、男性に関しては失業期間を短縮するが、女性に関してはこれを延長する。しかし、 いずれも有意であるとはいえない。

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賃金変化に関しては、転職者標本に関しては、「民間の職業紹介機関の利用」と「組合 /専門職登録機関への照会」が賃金上昇をもたらす傾向が見られた。対照的に、「公共の 職業紹介機関」はあまり効果的ではないように思われる。 4. 欧州における入職経路とマッチング効率の関係 本節の分析の目的は、欧州主要国の入職経路を国際比較することにより、これらを日米 の入職経路と比較できるようにすることである。具体的には、デンマーク、ドイツ、フラ ンス、イタリア、オランダ、英国の 6 か国を対象とする分析を行う。ところで、国際比較 にはさまざまな問題が付随し、特に、完全に比較可能なデータを見つけ出すことの困難さ がある。本節では欧州主要 6 か国の分析を行うに当たり、各国間のデータの比較可能性に ついて留意点を述べておこう。たとえ、質問票の設計された欧州共同体家計パネル (European Community Household Panel = ECHP)によって、極めて比較しやすいデー タが入手できるとしても、慣習や慣行が異なる国の間で質問と変数がまったく同じ内容に なっているかどうかは分からない。ましてや各国の質問項目は、その国の問題意識のもと に追加、削除されていることも多い。ときには、分析結果は各国固有の労働市場制度、文 化的側面から直接的に影響を受けている面もあり、他国への政策提言に有益な示唆を得る ことのできないものも多い。しかし、複数の国にまたがって類似したパターンが見つかれ ば、分析結果はより信頼性の高いものになるだろう。国による相違があったとしても、労 働市場を有効に機能させるための共通な改善点や問題点が見つかれば、結果として示唆さ れる政策的インプリケーションも一層重みを増すことになる。 4-1 データの出所 本節の主要目的は、欧州主要 6 か国にまたがる入職経路の実態やその効率性に関する分 析結果を提供することである。そのためには、極力一つのデータセットを用いることが望 ましい。本研究は、欧州、日本、米国の入職経路の比較を提供することにあるため、欧州 について単一のデータセットを用いることができれば、分析を簡素化できるばかりではな く、各国毎に入手可能なデータに基づき単一の比較分析フレームワークを提供できるとい う点でも望ましい。

欧州共同体家計パネル(European Community Household Panel = ECHP)は、ほとんど の欧州諸国について標準化されたデータを提供しており、幸い、我々は、主要な欧州諸国 のうち 5 か国について比較可能なデータを用いることができた。しかし英国については、 ECHP の中に入職経路に関する情報がないため、代わりに英国四半期労働力調査(British Quarterly Labor Force = BQLFS)を用いることにした。ただし、このデータセットに示 されている情報やデータの構造は、ECHP とはまったく異なるものである。重要な点とし ては、賃金に関して、前職から現職に転職した際の賃金変化を分析し、これを入職経路と 関連付けるために十分な情報が含まれていないことである。データセットの一般的構造と、 我々の分析において行われた選択について以下に説明することとする。

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1) 概要 欧州共同体家計パネル(ECHP)は、EU 中央統一局(ユーロスタット)の指導のもと、 統一された共通な質問票を基礎に、各国の事情を反映して修正された調査である。各国の 家計及び個人を無作為に抽出し、同じ対象者に対して毎年、面接調査を行い、所得、健康、 教育、住宅、人口統計、雇用の特性等の幅広いテーマについて調査している。ECHP は、 1994 年から実施されており、我々は 2001 年までの計 8 年のデータを利用する。当初、す なわち1994 年には、当時の加盟国 12 か国で各国の家計を代表する約 6 万 5000 の標本(す なわち、16 歳以上の成人約 13 万人)に対して面接調査が行われた。 ECHP は、3 つの特徴を持っている。 すなわち、第一の特徴は、ECHP は、当該個人の経済活動と個人所得という 2 つの主要 分野について細部に及ぶ調査を行っている点である。各個人の社会的関係と責任、健康と 年金と保険、仕事と生活の様々な側面に関する満足度、教育と訓練、これまでの経歴情報 その他幅広いテーマが調査の対象となっている。欧州連合(EU)が行っている他の社会調 査に比べて、ECHP ははるかに広範かつ総合的な性質を有するものとなっている。ECHP は、例えば所得、社会保障手当、雇用、労働条件、住宅、家族構成、社会的関係、物の考 え方に関して、比較可能で相互関連した情報の提供を目指している。これらのテーマの一 部に関する情報は、単一テーマの情報源ほど詳しくなく、あるいは、厳密さに欠けるかも しれないが、ECHP は、異なる分野の相互関係や個人の生活状況に対する特定の要因の重 要性を分析することができる基盤の上に単一のミクロ情報源を形成している。 第二の特徴は、統一された手法と手順を各国に適用することによって、各国間にまたが って、このような相互関係を比較検討することができる点にある。このような比較可能性 は、EU 中央統計局が各国国内調査を統一的に支援及び調整するとともに、統一された調 査設計及び共通の技術的・実施上の手順を用いることによって実現した。ECHP の設計に は、国家間の比較可能性を高めるために導入された数多くの特徴がある。その特徴とは、 共通の調査構造と手順(所定の追跡調査規則を用いてのパネルへの毎年の面接など)、編 集、変数の構築、ウェイト付け、データ調整、分散の計算などデータ処理と統計分析の共 通基準、共通した標本抽出要件(標本数の規模、確率を選別する手順などに関して)、さ らには、実際の調査設計を各国の国内条件に合わせたものとする柔軟性である。比較可能 性をもたらす中心的な手法として、ECHP では共通の「青写真」である質問票を用いてお り、これはすべての各国調査の出発点となっている。 第三に、パネル・データとして設計されていることは、ECHP のとりわけ重要な特徴で ある。各国内で当初の家計と個人の標本は、1 年間隔で長期的に追跡調査される。長期的 パネル・データを与えるだけでなく、ECHP はさらに、適切な追跡調査規則を通じて常に 標本を更新することによって、時間を通じた代表的な部門横断的(クロスセクションの) 状況描写も与えるように設計されている。新たな家計に移動した者、新たな家計を形成す る者又は新たな家計に参加する者は、新しい居所で追跡調査を受ける。子供だった者は、 16 歳の年齢に達したときに、詳しい本人面接の対象者となる。標本の女性から生まれた子 供は、自動的に調査対象母集団の一部に組み込まれる。このようにして、標本は母集団の 人口構造の変化を反映し、標本の減少によるロスや母集団への新規移民だけで純粋に形成 される家計を除いて、長期的に母集団の代表であり続ける。その上、常に、当初の標本の

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誰かと同じ家計内で一緒に暮らす者全員が、詳細調査の対象となる。これは、標本である 者を家計全体という文脈の中で調査するためである。 研究者は、厳格な契約条件の下で、原データをさらに匿名化した副次標本(sub-sample)、 すなわちユーザー・データベース(UDB)が利用できる。回答なしの取り扱い方法を含め、 このデータセットの詳しい説明は、Peracchi (2002)で示されている。 2) 問題と制約 調査対象者が現職へ新たに入職したことを知ることができるのは、労働者が就業状態に あると報告する面接のなかで、現在の雇用関係の始まりについての情報が、その面接に先 立つ最も直近の面接での情報に比べて、新しいときである。入職経路に関する情報を含め て、現職に関する情報はすべて、その面接によって得られる。前職に関するすべての情報 は、新規入職を認知した面接の前に当該個人が就業していたことが観察される最も直近の 面接から得られる。質問票には、前職に直接触れる質問もいくつかあるが、この情報には、 たくさんの欠損値が含まれていることがわかっている。そのため、前職の情報については、 当該個人が新規入職に先行する職に就いていたことが観察できる面接から得た情報のみを 採り上げることにする。回帰分析における観測の独立性を確保するため、われわれは、各 人の新たな雇用関係への最新の変化のみを標本とする。標本 1 人につき一つの変化に制限 することで、それほど多くの観察を取りこぼすわけではない。 しかし、この認定手順によって前職から現職への変化を把握しているために、多くの雇 用関係が安定したものであると仮定しなければならない。すなわち、失業期間については、 雇用主が異なる時点の面接を比較するだけでは、労働者がそれらの面接の間に短い失業期 間を経て雇用されたかどうかを把握することはできない。現職を見つける前の失業期間に 関する情報は、現職になって最初の面接と認知した面接での質問票への回答から入手され る。この質問に対する回答は、ECHP の大半の国で、失業していた月数を報告する形にな っている。例外はドイツで、現職を見出すまでの失業期間としては年数のみが調査されて おり月数は不明である。このため、失業期間と入職経路との関係の分析ではドイツを除外 する。もうひとつの問題は、月単位で調査されているために非常に短期の失業期間(例え ば 2 週間)を、1 か月の失業期間と区別できないことである。しかし、前職から現職への 直接の転職(失業期間が介在しない)があったかどうかは、はっきりと識別される。 また、本節では、消費者物価指数によって賃金をデフレートした実質賃金の変化を使用 している。賃金は、被雇用者の所得と定義する。したがって、「自営」の入職経路を賃金 変化と関係づけることはできない。 他にも、ECHP で扱われるそれぞれの国について、いくつか把握できない重要な情報が ある。例えば、ECHP ではドイツについては産業についての情報を得ることはできない。 回帰分析では、分析対象の欧州各国のすべてについてデータが入手できるモデルを選択し ようとして、各国毎に適合度が高い代わりに比較分析を妨げかねないモデルよりも、分析 対象の欧州各国について比較可能なモデルを選ぶことにした。 4-1-2 英国四半期労働力調査(BQLFS)

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1) 概要8) 英国の労働力調査(LFS)は、英国内の個人住所に居住する家計を調査するものである。 その目的は、労働市場政策の策定、管理、評価、報告に用いることのできる英国労働市場 に関する情報の提供にある。実施機関は、グレートブリテンについては国家統計局(ONS) の社会調査部(SSD)であり、北アイルランドについては経済開発部の依頼によって財政 人事部中央調査課が実施している。 LFS の調査設計も、ありうる変化に関してある種の推測を要するものとなっている。標 本は、以下に述べるように相互に重なり合って存続しており、ある四半期に入れ替わった 標本に関して変化の推測が行われる。LFS は、英国の全人口を代表することが意図されて いる。LFS の標本の設計とその実行詳細については、国家統計局の社会調査部が責任を負 っている。調査対象となる母集団は、民間の家計に属する全ての居住者、国民健康保険制 度の施設内の全居住者、学期中に親元から離れ学生寮などの施設で暮らす若者である。(最 後のグループは、特に若者の対象率を上げるため、LFS の標本に含められている。)現在 の標本設計は、各四半期にグレートブリテン内の約5 万 9000 世帯の回答家計で構成され、 グレートブリテン人口の0.3%に相当する。北アイルランド人口の 0.4%に相当する北アイ ルランドの約 2000 世帯の回答家計の標本がこれに加えられ、英国全体の分析を行うこと が可能になっている。 各四半期の英国 6 万1000 世帯の LFS 標本は、5 つのグループで構成され、それぞれが 約 1 万2000 民間世帯で構成される。それぞれのグループは 5 四半期連続でインタビュー を受ける。ある四半期では、あるグループが初回のインタビューを受け、あるグループが 2 回目のインタビューを受けるというふうにして、あるグループは最終の 5 回目のインタ ビューを受ける。従って、それぞれに引き続く四半期の標本は80%が前の四半期と同じ標 本となっている。家計は、調査に初めて加わったときに対面インタビューを受け、以後は、 可能であれば四半期ごとに電話インタビューになり、初回インタビューの 1 年後に 5 回目 の最終四半期インタビューを受ける。LFS のインタビューは、インタビューが 1 年の各週 に関する情報を収集するために行われており、この点で継続的なものとなっている。 調査結果は、英国内の民間家計及び国民健康保険制度施設の居住者に関するものである。 大半の人々は一つの住所に住んでいるため住所の確定に疑問の余地はない。複数の住所を 持つ人の場合、彼らが主たる住所とみなす住所の居住者としてカウントされる。この四半 期労働力調査は、地域的な偏りが少なくなるよう標本設計されている。無作為に開始し、 一定の間隔をあけることによって地域的な偏りのない住所標本が、スコットランド・カレ ドニア運河以南のグレートブリテンの郵便番号住所ファイル(Postcode Address File)か ら抽出された。LFS は、並べられたリスト(事実上、地域別に層化)からの系統的な無作 為住所標本を用いる。標本は 145 のインタビュー地域に割り当てられている。各地域は 13 の区域に分割される。これら 13 の区域は、1 四半期(13 週間)に無作為に配分される。一 人のLFS インタビュー担当者が、1 四半期の同じ週に同じ区域をカバーする。体系的な住 所標本が、国全体で四半期ごとに選び出され、毎週のインタビューのための住所リストに

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分割される。 質問票は、毎回の調査に含まれる基本質問と、四半期ごとに変わる特別質問から成り立 っている。特別質問は、1 年に 1、2 回のみ必要とされる情報を提供する。基本質問の一部 は最初のインタビューにおいてのみ質問されるが、それは時間がたっても変化しない性質 に関わるからである(例えば、性別、人種)。所得に関する質問もあり、1997 年春以降、 初回と 5 回目のインタビューで回答者に質問されている(以前は、5 回目のインタビュー でのみ質問されていた)。所得データは残りのデータとともに四半期ごとに処理されるが、 別途、集計される。 2) 問題と制約 BQLFS の質問票と構造には、何度か変更があった。比較的統一された情報を得るため、 我々は1997 年春の四半期から 2002 年春の四半期までの個人を追跡することにした。その 結果、我々の分析に用いた期間は合計20 四半期となる。 概要で述べたとおり、家計は 5 四半期連続でインタビューを受ける。われわれは、現職 または前職に関連する背景情報と入職経路を関連付けるため、二つの異なる職で個人を観 測する必要があり、5 四半期通して得られる家計だけを採り上げることにした。このよう にして 16 グループを分析することができ、それぞれが上記のとおり、約 1 万2000 の民間 世帯で構成される。 入職経路情報は、労働者がインタビュー日前 3 か月以内に新たな雇用関係に入ったとき に入手できる。データセットが以前の雇用関係について情報を一切与えないため、前職に 関する情報はすべて、当該個人が入職経路情報を得られるインタビューの四半期に先立つ どこかの四半期で働いていたことが観察された場合のみ入手できる。 失業期間に関する情報は、失業中の労働者から収集される。我々は、この情報を収集す るため、労働者が新規入職した四半期より前のインタビューで、自分の雇用状態を失業中 と回答したかどうかを確認した。そのように回答していた場合の失業期間の長さについて の回答を、入職までに要した失業の長さとみなす。しかし、当該個人が新たな雇用関係に はいった期日を正確に測れない点に留意する必要がある。本当の失業期間は、実は約1、2 か月長い可能性もある。加えて、労働者が転職の際に、短い失業期間を全く経なかったか どうかをはっきりとは見極められない。これは、新規入職者への質問からは、それに先立 つ失業期間に関する情報を得られないためである。既に説明したとおり、我々は代わりに、 新規入職者として行われたインタビューの 3 か月前に失業者だった時に尋ねられた質問を 利用する。このことは、失業が「3 か月未満」の回答区分に失業期間がない者がはいって いないことを意味する。また、失業期間の定義に関するもう一つの問題は、失業期間と前 職に関する情報を結び付けられないことである。これは、我々が前職に関する情報を観察 できるのが、前職がデータ収集期間(すなわち、連続5 四半期)の中にはいっている場合 に限られ、これにあてはまらない失業期間である場合が多いからである。 他にもいくつか重要な情報がBQLFS に欠けている。我々が分析対象とする四半期では 職業に関する情報がない。また、賃金情報は、あるにはあるが、欠損値や異常値が多く、 利用できない。

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4-2 求職手段か入職経路か

求職に関する大半の既存研究は、失業者または在職の求職者がどの求職手段を用いるの

かについて分析している(例えば、最近の例ではBöheim and Taylor (2003))。個別の求

職手段の成功は、求職過程の長さ、すなわち、労働者が新たな雇用を見つけるまでに経過 した時間で評価されることが多い。しかし、新たな雇用が特定の求職手段で得られたのか、 他の経路で得られたのかは、はっきりしないことが多い。新たな雇用関係にはいる者から 入職経路の情報を得た場合には、どの経路が最終的に新たな雇用関係を得る原因となった か、疑問はない。しかしその一方、求職過程の履歴に関する情報がない。利用した求職手 段と最終的な入職経路を結び付けることのできた研究は、ごくわずかである(Addison and Portugal (2002)を参照)。 日本のデータ出所である『雇用動向調査』からは、入職経路についての情報を得られる。 本節では日本のデータと比較するため、分析対象の変数としては入職経路を選択する。欧 州における求職活動を調べるデータの利用可能性から見ても、このことは好ましい。なぜ なら、欧州のデータ出所となるECHP UDP データセットからは、入職経路について詳し い情報を得られるが、求職手段については非常に雑駁な情報しか得られないためである。 ECHP データの英国カバレッジが不十分なため我々が英国の分析に用いる英国四半期労働 力調査(BQLFS)からも、新たな雇用関係にはいる転職者の入職経路についての情報は得 られる。 4-3 記述統計 記述統計については、次節 5.の日米欧比較の中であらためて紹介するが、この節では、 以下の諸点のみ紹介する9。表4−10及び表4−10a は、欧州の入職経路の分布を示す。 「家族及び友人」の分類は、欧州各国で大きさが似通っている。入職経路「その他」は、 どのような個別の経路が含まれているのかが不明なため、やや評価しにくい。デンマーク と英国では、これはあまり重要な入職経路ではないが、ドイツでは大きな構成比を占める。 労働市場の制度的違いを端的に示すのは、「直接応募」が、デンマーク、イタリア、英国 では大きな構成比を占めるのに、ドイツでは小さな役割を果たすに過ぎない点である。 表4−11は、ECHPで比較可能なデンマーク、フランス、オランダ、イタリアの男 性について、入職前の失業期間の平均月数を見たものである。同表によると、各国におい て職業紹介機関利用者の失業期間が非常に長い。この点をさらにはっきりと示すため、図 4−1a と図4−1b は、デンマークとフランスにおける、入職経路毎の、前職から現職へ の直接転職者(失業期間のない転職者)と現職に入職するまで1 年以上の失業期間のある 転職者との間の構成比を示し、これを入職経路間で比較した図である。 デンマークでは、直接転職者の全体に対する割合が非常に高い。したがって、直接転職 者は、この図に示された転職者の大部分を占める。例外は職業紹介機関であり、長期失業 9

)本節の基になった Fahr and Schneider (2004) は、入職に成功した入職経路の観察され る頻度が、マッチング効率と関係があるかどうかについても検討している。入職に成功し た入職経路の観察された頻度の比較(例えば構成比に表される)そのものから入職経路の マッチング効率を判断することはできないが、欧州においては、ある程度、失業期間の短 い求職手段がより高い確率で選択されている傾向が認められるとの観察を行っている。

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経験者もこれを同じようによく用いている。このパターンは、フランスの数値にも反映さ れている。フランスでは、全体に長期失業経験者の構成比がかなり大きいが、職業紹介機 関は他の入職経路よりもその利用者に長期失業経験者の割合が高いという点は共通してい る。デンマークと比べると、フランスでは、「直接応募」と「広告」の利用者における長 期失業経験者の割合が特に大きい。これは、長期失業者の割合が高くなるほど、これらの 求職手段への入職障壁が低くなることを示唆している可能性がある。 4-4 回帰分析の結果 入職経路を評価するため、本節でも、日本及び米国と同じように、二つのマッチング効 率指標を使用する。その一つは、ある入職経路を経由して入職に至るまでに経過した失業 期間であり、もう一つは、前職と現職との間の賃金変化、である。特定化された実証モデ ルを用いて失業期間と賃金変化を説明できるかどうかは、記述統計以上にデータの入手可 能性に左右される。欧州各国の標本数が日本に比べて少ないため、賃金変化を職業や業種 など前職と現職の属性を用いて説明することはできない。 また、本節においては、入職経路によるマッチング効率の違いが、入職経路の違いその ものによってもたらされているのか、それとも、入職経路を利用する転職者の属性の違い によってもたらされているのかを少し詳しく分析する。そのため、以下においては、説明 変数として入職経路ダミー変数(「職業紹介機関」を基準(reference)とする)のみを用 いた回帰式(以下では「一類型説明変数モデル」という)と入職経路ダミー変数とともに 転職者の属性を表す変数として利用できる他の説明変数を全て用いた回帰式(以下では「多 説明変数モデル」という)の両方の推計結果を比較した考察を行う。 4-4-1 失業期間の回帰分析 1) 一類型説明変数モデル(デンマーク、フランス、イタリア、オランダ) 表4−12は、デンマーク、フランス、イタリア、オランダについて、現職に入職する までの失業期間(ただし、失業期間のない転職者を除く)を入職経路のみを説明変数とし た一類型説明変数モデルを最小自乗法で回帰した推計結果である。入職経路と入職までに 要した失業期間との間には一定の相関関係が認められる。 表4−12によると、デンマークでは、直接応募と広告への応募を通じて入職する労働 者の平均失業期間が、「職業紹介機関」を通じて入職する労働者の失業期間より 4 か月短 く、また、これは統計的に有意である。「家族及び友人」による職業紹介は、「職業紹介 機関」を経由する労働者よりも失業期間が 3 か月半短く、これは統計的に弱い有意性があ る。 イタリアについては、「職業紹介機関」に比べてほぼ全ての入職経路が大幅に短い失業 期間を示すという非常に大きな効果が見出される。すなわち、「直接応募」2 年、「家族 及び友人」21 か月、「自営」1 年、「その他」8 か月となっている。後に紹介する賃金水 準の入職経路による回帰結果(後掲表4−16)から、イタリアでは「職業紹介機関」に 登録される求職者と求人が他の国より質が高いと見られることを踏まえると、この結果は 興味深い。これほど大幅な失業期間の短縮が観察されるのは、記述統計から明らかなとお り、長期失業にある労働者数が我々の標本では非常に多いことと関係すると考えられる。

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オランダについては、この表は、広告に応募する労働者の失業期間が、「職業紹介機関」 によって紹介される労働者に比べて 4 か月短いという弱い有意性のある効果を示してい る。他の経路を通じて入職した労働者は、「職業紹介機関」を通じて入職した労働者に比 べて、統計的に有意ではないが、失業を脱するのに 3 か月余分に必要としている点が興味 深い。 さしあたって、観察された効果は、それが入職経路自体の効果だと仮定すると、全ての 労働者がそれぞれの求職手段を同等に利用できるとの仮定を追加することで、政策提言に つなげることができよう。しかし、一部の求職手段は、全員が均等に利用できるわけでは ない。例えば、相当な社会的ネットワークを持っているか、新たな雇用主に勤務する家族 がいる求職者については、「家族及び友人から職を知らせてもらう」の入職経路が観察さ れるだろう。また、事業を起こすことが失業者にとって代替策となるには、一定のソフト 面のスキルや、借り入れ資金を調達する機会が必要である。観察された入職経路の係数が 入職経路自体の効果かどうかについては、疑問の余地がある。むしろ、ここでの入職経路 についての推計結果は、それぞれの経路を通じて雇用される労働者の入職経路以外の観察 可能及び観察不可能な属性を示している可能性が大きい。もし、高学歴の在職求職者が、 もっぱら新たな雇用主への直接応募によって求職活動を行っているとすれば、表4−12 のモデルにおいて、「職業紹介機関」を基準(reference)とする「直接応募」のダミー変 数に負の係数が観測されるとともに、これは実は、高学歴転職者は、通常、「直接応募」 によって求職活動を行っていることを示唆することになる。この場合、入職経路(そして それゆえに求職手段)は観察結果と因果関係はなく、最適な求職手段に関する政策提言は 無意味となってしまう。われわれは求職手段の効果に関するこの仮説を表4−13で詳し く検討する。 2) 一類型説明変数モデル(英国) 表4−12a は、表4−12に対応する英国の推計結果を示している。被説明変数は、8 つの分類(3 か月未満、3-6 か月、6-12 か月、1-2 年、2-3 年、3-4 年、4-5 年、5 年以上) から成る失業期間の分類変数で、より高い分類順位がより長い失業期間に対応する。表4 −12a(及び表4−13a)は、順位ロジット・モデルの推計結果であり、係数は定性的 にのみ解釈しなければならない。入職経路ダミー変数の基準(reference)は、他の欧州諸 国の公共職業紹介機関に相当する「ジョブセンター(Jobcentre)」である。公共職業紹介 機関の一形態である「ジョブクラブ(Jobclub)」10)を除いて全ての入職経路は、「ジョブ センター」よりも失業期間の短い分類の方向に、高い統計的有意性をもって関連している。 「ジョブクラブ」は、失業期間に対して強く有意な正の係数を示している。 3) 多説明変数モデル(デンマーク、フランス、イタリア、オランダ) 10)「ジョブクラブ」とは、英国の公共職業紹介機関における、求職者がグループで行う 自主的な求職活動を活動場所や活動資源(電話、文房具、新聞など)の提供、専門家によ るアドバイス等により支援する支援メニューの一つ(厚生労働省職業能力開発局(2002))。

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表4−13は、入職経路に加え、入職までの失業期間(ただし、失業期間のない転職者 を除く)を説明しうる他の属性要因を説明変数に加えた多説明変数モデルの推計結果を示 す。デンマーク、フランス、オランダの入職経路ダミーについては、表4−12で示した 入職経路モデルとある程度共通した結果が観察されている。しかし、イタリアの係数は低 く、標準誤差は大きいため一部の入職経路ダミーは有意でなくなっている。一方、拡張さ れたモデルの説明力は、大幅に高まっている。デンマーク、フランス、オランダについて は、他の属性要因を一定とした場合に、前職を自発的に失業した転職者の方が非自発的な 理由で失業した転職者よりも失業期間が長いという結果が見出されている。イタリアの失 業期間は主に、景気循環に左右されている。さらに、デンマーク、フランス、イタリアで、 女性の求職者にとって明らかに入職に至るまでの期間が長くなっている。また、全ての国 で、高齢者ほど失業期間が長い傾向が見られる。総じて、ここでの分析結果からは、入職 経路自体は、失業期間を強く規定する要因ではないと見られる。失業期間への効果が見ら れる他の要因についても、各国で共通する明らかな要因は特定できない。 4) 多説明変数モデル(英国) 表4−13a は、英国に関して、8 つの分類で構成される失業期間を入職経路で回帰する 順位ロジット・モデルに、他の説明変数を加えた推計結果を示す。説明変数のリストは、 BQLFS で入手できる情報の関係で、ECHP による他の欧州各国のモデルとは多少異なる。 しかし、英国のモデルの説明力は、他の欧州各国を上回っている。 入職経路ダミー変数の基準とする「ジョブセンター」に対して、「ジョブクラブ」は依 然として、失業期間を有意に長期化する効果をもっていることを示している。「民間の職 業紹介機関」は失業期間を短縮する方向で弱い有意性を示している。ECHP を用いて分析 した他の欧州各国では公共と民間の職業紹介機関を区別できなかったが、英国における両 者の違いは興味深い。このことは、英国におけるジョブセンターと他の欧州各国における 「公共職業紹介機関」が欧州全土で比較可能であり、「民間職業紹介機関」も欧州全土で 比較可能だとすると、ECHP のデータで分析した欧州各国において「職業紹介機関」を基 準とした他の全ての入職経路の効果は過小評価されていることを示唆することになろう。 英国に関する回帰分析では、産業間移動を示すダミー変数を加えた。この産業間移動ダ ミー変数は、失業期間との間で、強く有意な正の相関関係にある。これは、長期間失業し ている人々だけが、異業種に就職する傾向があるのと同時に、産業特有の人的資本を失う ことを受け入れるためであるのかもしれない。年齢については、失業期間に対して想像通 り、正の影響を示していた。

女性については、明らかに失業期間が短い。同じことは、Gregg and Wadsworth (1996)

によって確認されている。彼らは 1992 年に英国で、求職手段全般にわたり、失業中の女 性は男性と比べて、職業紹介が成功する「成功率」が総じて高いと論じた。ただし、女性 は、職探しに用いる求職手段は少ないという。これは、女性はすぐに新しい仕事を見つけ られない場合、さらに長く職業紹介機関に登録する(すなわち失業状態にとどまる)ので はなく、労働市場から撤退し労働力でなくなることが多いためということが考えられる。 女性は就職の際に、男性ほどえり好みがうるさくないということも考えられる。

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