1.はじめに
日本語教育振興協会(2015)によると、平成26年度日本語教育機関に在籍している学生数は、 116か国・地域から43,667人(前年度37,918人)となっている。学習者の主な出身国・地域は、中 国16,118人(37.0%)が最も多く、次にベトナム13,758人(31.5%)、ネパール4,779人(10.9%)と 続いている。ベトナム人学生数は、平成24年度は2,039人(7.0%)だったのが、翌25年度には8,436 人(22.3%)と急増し、今や第一位の中国に並び、追い抜く勢いである。これは2009年に初めて の二国間 EPA となる「日越経済連携協定」が発効されたことなど、日越間の政治や経済関係の 強化が進んだことを顕著に表している。 経済関係の強化によるベトナム人学生数の急増は日本語教育現場にも少なからぬ影響を与えて いる。漢字圏の学習者中心であった日本国内の従来の教授法・教室活動などがうまく機能せず、 その見直しを迫られているところも出てきている。しかし、問題は、漢字にルビをふれば済むと いう問題ではない。教育内容や教育方法をさらに改善するための情報、つまり、ベトナム人学生 が言語学習に対してどのような考えや希望を持っているのか(ビリーフ1))についての情報はいま だ少なく、またベトナム人学習者を対象としたビリーフ調査に関する研究としては、後述する横 山(2010)がベトナム国内で行ったものが見られるだけである。 さらに、ビリーフ調査自体、海外における日本語学習者に対するものは既に多数実施されてい るが(髙﨑2014、片桐2005、若井・岩澤2004ほか)、日本国内における日本語学習者に対するビ リーフ調査はほとんど行われていないのが実情である。外国語学習において目標言語を学習する 学習環境の違い(自国か、目標言語国内か)は、学習者のビリーフに何らかの影響を与えている のではないだろうか。ビリーフは学習者の学習ストラテジーを強く左右すると考えられており、 学習者のビリーフを教師が理解し、それを踏まえた上で学習者に合った教育内容・方法を選択す ることが学習者の外国語学習成功への鍵であると言われている。(Horwitz1987,1988) そこで、本稿では激変する日本国内の日本語教育現場において、教育内容・方法の改善に資す る情報を得るため、神戸国際大学(以下、KIU)国際別科のベトナム人学生を対象にビリーフ調 査を行い、その結果を考察する。本調査で行った質問項目は、先述の横山がベトナム国家大学ハ ノ イ 外 国 語 大 学(University of Language and International Studies-Vietnam National University, Hanoi ; 以下、ULIS)の学生に行ったビリーフ調査の質問に凡そ準ずるものを採用 した。その理由として、(1)ベトナム人学習者を対象に行われたビリーフ調査であること、(2) 学習環境(ベトナムと日本)や学習段階(学習歴)の違いがビリーフに何らかの影響を与えるの 1) 言語学習に関する「ビリーフ」とは、言語学習の方法・効果などについて人が自覚的または無自覚的に もっている信念や確信を指す。『新版日本語教育事典』(大修館書店)ベトナム人日本語学習者の特性
-神戸国際大学国際別科のビリーフ調査結果をもとに-
瀨 古 悦 世
藤
澤
好
恵
ではないかと推測されるためである。
最後に本調査によって得られた結果を踏まえ、ベトナム人学生に適した教室活動や指導法を提 案する。
2.先行研究
1970年代から学習者のストラテジーやビリーフの研究が盛んに行われている。日本語学習者に 対 す る ビ リ ー フ 調 査 の 多 く は、Horwitz(1987)に よ る BALLI(Beliefs About Language Learning Inventories)に基づいて作成されている。Horwitz は、語学教師向けのビリーフ調査 票 FLAS(Foreign Language Attitude Survey)を基に、米国内の様々な文化背景を持つ英語学 習者(ESL)に対して BALLI によるビリーフ調査を行った。BALL の質問項目は、外国語の適 性(Foreign language aptitude)、言語学習の難易度(The difficulty of language learning)、 言語学習の本質(The nature of language learning)、学習とコミュニケーションストラテジー (Learning and communication strategies)、動機づけ(Motivations)の5領域からなり、その 調査分析によると、学習者が様々なビリーフをもっていること、ビリーフが学習者の習得や学習 ストラテジーにも影響を与えていることなどが明らかになったとしている。学習者の持つビリー フが教室活動や教授法と一致しない場合、学習者の意欲低下を引き起こし、学習到達度が低くな る可能性があるとし、言語学習ビリーフ調査の重要性を指摘している。Wenden(1987)も成人 ESL を対象としたインタビュー調査の分析から学習者が言語学習についてビリーフを持っている こと、そしてそのビリーフに基づいて学習行動を起こしていることを指摘している。 日本語学習者に対しても、多くの研究者が BALLI を基にしつつ、各自の目的に合わせた質問 項目を作り、現地で調査研究している。ロシア(木谷1998)、ハンガリー(岩井・岩澤2004)、中 国(張2012)、台湾(佐藤2007・服部2002)、フィリピン(片桐2005、高崎2006)、スペイン(阿部 2009)、メキシコ(高崎2014)など、近年、特定の言語、文化背景を持つ学習者のビリーフ把握の 研究が様々な角度からなされている。 特に、本研究と同じベトナム人学習者を対象にしたものとしては、先述のとおり、ULIS の3, 4年生107名に対して行われたビリーフ調査がある(横山2010)。横山は、先述のロシア、ハンガ リーでの調査結果と比較しつつ、ベトナム ULIS の学生は、言語学習者としての自律性の意識は 高いものの、学習者自身でその方法を確立するまでには至っておらず、教師の助言に頼る部分が 大きいと指摘している。とはいえ、文法の知識や語彙の暗記を中心とする教師主導型の授業は必 ずしも支持されず、「クラスメートとの活動や、非言語コミュニケーションに対する言語学習ビ リーフが強い傾向が観察された」と報告している。 このように、1で述べたとおり、先行研究の多くは、海外における日本語学習者のビリーフに ついての調査研究であり、日本国内における日本語学習者へのビリーフ調査研究は見当たらない。 そこで、本研究では、まずは大量にデータを集めて全体の傾向を見ることができる質問紙による 量的調査にも一定の意義2)があると考え、日本国内で日本語を学習している KIU 国際別科のベト ナム人学生を対象にビリーフ調査を行い、その結果を考察する。
2) Sakui & Gaines(1999)、小池(2002)は、質問紙の回答は質問項目の構成、言葉遣い、回答形式などに よって影響を受けることを指摘。質問紙以外にも、インタビューによるビリーフ調査(小玉・古川2001、 田中2005)などの質的調査も広がりを見せているが、まずは、ULIS との比較も兼ね、質問紙を用いて大 量にデータを集めた上での分析調査を行う。
3.調査概要
3.1 実施の概要 調査の実施概要は表1のとおりである。 表1 実施の概要 時期 2015年7月(前期終了時) 対象者 神戸国際大学経済学部国際別科在籍ベトナム人学生 回答者数 84名 調査方法 アンケート(質問紙) 3.2 調査対象者の概要 調査対象者の概要は調査票とは別にフェイスシートで回答してもらった。回答者のうち約8割 が来日前に1~4か月、残り約2割が7~12か月程度日本語を学習し、2015年4月から7月末ま で国際別科(予備教育課程)で週5日(15時間)3レベルに分かれて日本語を学習している。回 答者84名のうち「初級前半終了レベル」は43名、「初級後半終了レベル」は26名、「中級前半終了 レベル」は15名である。 表2 調査対象者の概要 年齢 18~25歳 性別 男性31名 女性53名 日本語学習歴 母国 0-3か月:5名 4-6か月:64名 7-12か月:15名 日本 4-6か月:45名 7-12か月:39名 学習段階 初級前半終了レベル43名、初級後半終了レベル26名、 中級前半終了レベル15名 3.3 調査票の概要 本調査で用いた調査票は、横山(2010)が ULIS で使用した質問項目をできるだけ採用した。 横山の調査票は Horwitz(1988)の BALLI とは異なる部分も多く、また追加された質問自体に も特定の回答を誘導しかねないものも含まれていると考えられるが、先に述べたように、(1)ベ トナム人を対象に行われたビリーフ調査であること、(2)学習環境(ベトナムと日本)や学習段 階(学習歴)の違いがビリーフに何らかの影響を与えるのではないかと推測される点などを鑑み て使用することを決めた。なお、調査票は日本語とベトナム語を併記したものを使用した。 質問項目は横山に準じて、次の4つに類別し分析する。(1)「教師の役割」、(2)「学習者の自 律性」、(3)「言語学習の本質」、(4)「学習ストラテジー・教室活動」である。 そして、今回の調査では新たに質問項目を10問追加した。片桐(2005)、阿部(2009)の「教授 法・教室活動」に関する4項目(本調査51,52,53,59番)、髙﨑(2006)の「教師の役割」に関する 1項目(55番)、阿部(2009)、高崎(2014)の「学習動機」に関する2項目(54,57番)、阿部 (2009)の「学習とコミュニケーションストラテジー」に関する1項目(56番)、佐藤(2007)の 「学習者の自律性」に関する1項目(58番)の9問と、「会話・聴解・発音・文字作文・読解・語 彙」の6つの中で、上達させたい技能・能力に関する質問(60番)の計10問である。 これらの項目を追加した理由は、本調査の目的が教育内容・方法の改善に資する情報を得た上 で、ベトナム人学生に適した教室活動や指導法を考察することにあるからである。横山の調査目的は、ベトナムでの日本語教育を念頭に置いたビリーフ情報の把握に留まっており、著者らの目 的の一つである日本国内での「教室活動・教授法」に生かすための具体的な質問項目が含まれて いない。そこで、新たに「学習ストラテジー・教室活動」の領域を増やすとともに、上達させた い技能・能力に関する質問(60番)を加えることとした。 回答方法は BALLI と同じく Likert 尺度による「強く賛成(1)」「賛成(2)」「どちらでもな い(3)」「反対(4)」「強く反対(5)」の5段階評定とした。
4.調査結果と考察
質問項目は上述3.3のとおり4つに類別し、Likert 尺度による5段階で評定する。平均の数 値は「1」に近いほど賛成を、「5」に近いほど反対を示している。平均の数値が「2.5」である 場合は賛成でも反対でもないことを示している。また、標準偏差の数値が「0.7」以下だと収集し たデータの数値のばらつき度合いが小さく、平均値周辺に集まっていることを示している。「0.8 ~1未満」だと少しばらつきがあり、「1」以上だとばらつき度合いが大きいことを意味してい る。 4.1 言語学習ビリーフ調査(BALLI) 4.1.1 教師の役割 この調査領域は学生が教師に求めていること、外国語学習における教師の必要性について問う ている。その回答の平均と標準偏差の数値を表3に示す。 表3の項目13以外はすべて平均が「1」に近くなっていることから、外国語学習おいては教師 への依存度が高いことがうかがえる。外国語学習の成功にはいい教師が必要であり(項目1)、教 師は学生の間違いを直し(項目2)、外国語学習の問題点や学習方法を教えるべき(項目4,8) だと考えていることがわかる。教師の指導力の重要性について強く賛成していることから、学習 者自身の自律性は低いことが推測される。しかし、教師への依存度が高いと考えられるにも関わ 表3 教師の役割 項目 質問 平均 標準 偏差 1 外国語学習に成功するにはいい教師が必要である。 1.40 0.51 2 日本語の間違いは、教師が直すべきだ。 1.22 0.41 3 教師に自分がどのぐらい外国語学習が進んだか教えてほしい。 1.56 0.80 4 教師に自分の外国語学習上の問題点や困難な点を教えてほしい。 1.47 0.50 5 教師による定期的な試験は学習者にとって助けとなる。 1.51 0.59 6 教師が学習者を一生懸命学習させなければならない。 1.59 0.70 7 宿題は教師が学習者に出すべきだ。 1.67 0.50 8 教師にどのように外国語学習を進めるべきか教えてほしい。 1.35 0.55 9 教師は学習しなければならないことを全て教えるべきだ。 1.48 0.70 10 教師は常になぜ教室でこのような活動をするのか、その目的や理由を学習者に説明しなければならない。 1.64 0.61 11 教師に個々の学習活動にどのぐらい時間を使えばいいのか教えてほしい。 2.04 0.81 12 教師に学習到達目標を設定してもらいたい。 1.73 0.67 13 言語学習に進歩がみられなかったら、それは教師の責任だ。 3.66 0.91 55 教師は、日本語だけでなく、日本文化も教えるべきだ。 1.50 0.53らず、学習に進歩が見られなくても、そのことを教師の責任だとは考えていない(項目13)とい う結果が出ている。これは教師に対して尊敬の気持ちを抱いているベトナムの社会背景が影響し ていると考えられ(横山2010)、教師の強いリーダシップを強く肯定していることを示しているの ではないだろうか。 横山(2010)の結果を見ると、項目2,6,11,12の数値は KIU のものよりやや高め、つまり、教師 への依存度が低めであることがわかる。教師への依存度を低める要因が何であるかは本調査では 明らかにできないが、横山の調査対象者3) は既に学習方法を身に付けていることが考えられ、そ のため教師への依存度が低くなった可能性が考えられる。 以上の点から、教師は学生の自律性だけに任せるのではなく、ファシリテーターとしての役割 を果たし、学習面に関するアドバイスを積極的に行うことが求められていると言えるだろう。 4.1.2 学習者の自律性 この調査領域は学生が言語学習において、どの程度自律性をもっているのかについて問うてい る。その回答の平均と標準偏差の数値を表4に示す。 表4から明確な目的を持ち、計画を立てて努力すれば上達すると信じ(項目14,15,19)、新しい ことに挑戦するのが好き(項目16)という学習者像が見えてくる。これは、教師への依存度が高 いという結果の出た表3から、学習者の自律性は低いと予想されていたことと相反する。さらに、 教師によるアドバイスの重要性を認める一方で、「教師の言う通り勉強すれば上達が早くなる」(項 目17)という意見に対する賛成度は、やや低くなっている。この傾向は、「教師に助言を求めるの が好きだとしながらも、教師の言ったとおりに勉強すれば上達が早いと考えているわけではない」 という、横山(2010)の傾向に相似する。 また、「学習努力・目的・計画」に対する意識の高さ(項目14,15,19)から、学習者の自律性は 高いと見られるものの、それならば自分で学習の「方法、改善点」がわかっているかといえば、 3) 調査対象者は、ULIS3年生(通訳・翻訳課程、日本語教員養成課程)と4年生(翻訳・通訳課程)であ り、既に基礎日本語は習得した学生達である。 表4 学習者の自律性 項目 質問 平均 標準偏差 14 私は努力すれば外国語が上手になると信じている。 1.71 0.70 15 はっきりとした目的があれば外国語の上達が早くなると思う。 1.57 0.59 16 自分で新しいことに挑戦するのが好きだ。 1.74 0.60 17 わたしは教師の言う通り勉強すれば、上達が速くなると思っている。 2.09 0.84 18 外国語を学習するとき、教師に助言を求めるのが好きだ。 1.50 0.53 19 計画を立てて勉強すれば外国語が上手になると思う。 1.51 0.59 20 学習意欲が強ければ学習環境が悪くても外国語が上手になると思う。 2.19 1.01 21 自分の外国語学習のどの部分を改善するべきかわかっている。 1.92 0.73 22 私は外国語をどう学習すればいいかよく知っている。 2.33 0.88 23 自分の間違いを自分でチェックするとき、一番学習できる。 2.04 0.90 24 自分自身で問題の解決を見つけるのが好きだ。 2.28 0.97 25 自分がどの程度学習できたか自分でチェックする方法がある。 2.47 1.03 26 自分の外国語学習を阻害するものについて教師と話す。 1.67 0.70 27 細かい間違いを気にせず、積極的に外国語を話せる。 2.15 0.96 58 言語学習で成功するために、積極的に授業に出席する必要がある。 1.45 0.52
相対的に賛成値は低くなっている(項目21,22)。さらに言語学習に対する自己チェック機能に対 する信頼度もやや低めで(項目23,25)、自分自身で問題の解決方法を確立しているとは言いがた い(項目24)。自分できちんと目標、計画を立てる重要性は認めているものの、では、本当に自分 自身で問題を見つけたり、改善したりする自律学習ができているとかといえば、表4の後半の質 問項目では平均値が2を超える(賛成から遠くなる)場合が多い。教師に助言を求めるのが好き だとしながらも(項目18)、自分の外国語学習を阻害するものについて、教師に積極的に相談する わけでもなさそうだ(項目26)。 これらのことから、自律的に「目標、計画」をきちんと立てる重要性は理解しているものの、 実際に自律的学習ができているのかという自己チェックができるまでには至っておらず、「教師に 解決策や具体的な解決方法を求める傾向があるのではないか」(横山2010)と同じ結果がうかがわ れる。 4.1.3 言語学習の本質 この調査領域では学習している外国語をどのような言語であるかと考えているか、日本語のど の技能を重視しているかなどを問うたものである。その回答の平均と標準偏差の数値を表5に示 す。 表5から外国語学習では文法や翻訳よりも語彙の学習を重要だと考えていることがわかる(項 目32)。その傾向は ULIS の学生と同じだが、語彙学習の重要性へのビリーフには大きな違いが見 られる。ULIS の学生の平均値は2.64とやや反対に傾いており、KIU 別科生と1以上の開きがあ る。つまり、日本国内で学習している場合、教科書以外の日本語に日常的に触れ、生活していく 中で語彙学習の必要性がより実感され、ビリーフに影響を与えたと考えられるのではないだろう か。とはいえ、現状は辞書を持っていない、またはスマートフォンの無料アプリの辞書機能に頼 るなど、語彙学習に積極的な姿勢で臨んでいるとは言えないのも事実である。語彙学習の重要性 に気付き、その必要性を感じながらもまだ行動には結びついていないということだろうか。 四技能の中では「話す」よりも「聞く」ことのほうが易しいと考えている学生がやや多く(項 目36)、「話す」ことと「読む・書く」ことを比較した場合は、難易度は同程度と考えていること 表5 言語学習の本質 項目 質問 平均 標準 偏差 28 外国語学習はその言語が話されている国で行うのが一番いい。 1.71 0.79 29 外国語を学習し始めた初期の段階で誤りを正しく訂正しなければ、誤りが残っ てしまい後で訂正するのは難しくなる。 1.51 0.63 30 外国語学習の方法は他の分野の学習とは異なる。 1.90 0.62 31 外国語をうまく話すためにはその文化を知ることが必要だ。 2.00 0.67 32 外国語学習の中で一番重要なのは、語彙の学習だ。 1.56 0.57 33 外国語学習の中で一番重要なのは母語からの翻訳の学習だ。 2.51 1.05 34 外国語学習の中で一番重要なのは、文法の学習である。 2.17 0.83 35 日本語は話すよりも聞いて理解するほうが易しい。 2.17 0.93 36 日本語は話すより読んだり書いたりするほうが易しい。 2.28 1.03 37 外国語学習の中で一番重要なのは、きれいな発音で話すことだ。 1.90 0.90 38 言葉と直接関係ない間違い(身振り、手振り)は重要ではない。 3.12 1.03 39 外国語を話すとき、正しく話せるようになるまで外国語を話すべきではないと思う。 4.00 0.69
がわかる。「読む・書く」は漢字の問題もあり苦手意識は高いかと思われたが、調査対象者が初 級、中級前半終了レベルであるため読む量・書く量ともまだ少なく、そこまでの難しさは感じて いないということかもしれない。また、外国語学習は他の分野の学習とは異なる(項目30)と考 えている。 学習面では正確性を重視する傾向もみられるが(項目29,37)、一方「外国語を話すとき、正し く話せるようになるまで外国語を話すべきではないと思う」(項目39)と考える学生は少なく、外 国語使用においては必ずしも正確性を重要視していないようだ。学習面で正確性を重視する傾向 がある場合は、教室活動は消極的になりがちだが、結果を見るとその限りではないようだ。 4.1.4 学習ストラテジー・教室活動 この調査領域は、学生が言語学習において、どのような学習ストラテジーを持っているのか、 合わせて教室活動についても問うている。その回答の平均と標準偏差の数値を表6に示す。 学習面では、文型積み上げ、大量の反復練習(項目41,42)も嫌いではなく、文法上の問題点も はっきりさせないと落ち着かない(項目43)ことがわかった。また、「教科書より、アクティビ ティ中心の応用練習が好きだ」(項目52)は、賛成の度合いがやや低いことからも、正確性を重視 する姿勢がうかがわれる。一方、言語使用面においては、「講義形式の授業が好きなので、会話練 習が嫌だ」(項目51)は強く否定され、わからない語彙の意味を推測したり、学習者同士で日本語 を話したりする活動に賛成する(項目48,49)ように、必ずしも正確さのみを追求しているわけで はなく、コミュニケーションを重視していると言えよう。これらの2点は、表5の結果と矛盾せ ず、日本国内で学習している彼らの生活実感に近いのではないだろうか。ULIS の実際の授業で は、文法・語彙説明などで「母語が使用されることは珍しいことではない」(横山2010)というこ となので、初級段階では特に、適宜、母語を使用することは有効だと考えられる。 ただし、アウトプットとして母語を使用することは、かなり否定に傾き(項目47)、「日本語を 表6 学習ストラテジー・教室活動 項目 質問 平均 標準 偏差 40 日本語を使うなら、どんな活動でも日本語の学習の役に立つ。 1.57 0.56 41 時間がかかってもやさしい文型から難しい文型へと徐々に積み上げて学習して いく方が、最終的には実力がつくと思う。 1.58 0.54 42 大量の反復練習(繰り返し練習)は重要だ。 1.63 0.62 43 文法上の問題点ははっきりさせないと落ち着かない。 1.66 0.60 44 カセットテープなどによる練習は重要だ。 1.71 0.60 45 言語学習には教科書が必要だ。 1.73 0.58 46 日本人と日本語を話すのは楽しい。 1.47 0.62 47 日本語で言いたいことが言えない時、クラスで母語を使用しても構わない。 3.09 0.97 48 分からない語彙の意味を推測しても構わない。 2.42 0.91 49 クラスメート同士で日本語を話しても役に立たない。 3.85 0.95 50 教科書以外のものは、言語学習に役立たない。 3.47 1.17 51 講義形式の授業が好きなので無理に会話させられるのは嫌だ。 3.46 0.93 52 教科書の練習より、アクティビティ中心の応用練習が好きだ。 2.23 0.96 53 授業が自分の好きなやり方で無ければ、やる気が出ない。 3.30 0.98 56 わからない日本語の単語は必ず意味を調べるべきだ。 1.74 0.55 59 学習者が、学習したことを教室の外で使える機会(日本人へのインタビュー・アンケート調査など)のある授業はいい授業だ。 1.40 0.56
使うなら、どんな活動でも日本語の学習の役に立つ」(項目40)と考えている学生も多いので、母 語使用はあくまで補足説明にとどめ、アウトプットの際は日本語での活動が望まれている。また、 「日本人と日本語を話すのは楽しい」(項目46)は、ULIS の学生たち(平均1.71)と比べても、よ り賛成の度合いが強いので、教科書以外のものも積極的に教室活動に取り入れ(項目50)、日本国 内における日本語学習というメリット(項目59)を最大限生かす教室活動が望まれていると考え られる。 4.2 上達させたい言語技能・能力 会話、聴解、発音、文字作文、読解、語彙の6つの言語技能・能力について上達させたい順に 1-6の番号で回答した結果(項目60)が図1,2である。 まず、最も注目したいことは、上達させたい言語技能・能力(図1)は、「会話」と「語彙」が 同率(36%)1位だということである。同じく6つの言語技能に関する調査をメキシコで実施し た髙﨑(2014)、スペインで実施した阿部(2009)では、「語彙」の順位はそれぞれ最下位、5位 とかなり低い順位となっている。また、世界各地の日本語学習者ビリーフ調査から文法学習と語 彙学習を取り出して比較分析した阿部(2014)の調査では、他国と比べてもベトナム人学習者は 「(文法・語彙学習の重要性について)それほど強い賛成度になっていない」という。この違いに 関しては、4.1.3でも述べたとおり、日本国内で学んでいる KIU 別科生は、語彙量の少なさが コミュニケーションの妨げとなっていることを日常での日本人との生活、アルバイトなどを通し て実感しているからではないだろうか。海外で日本語を学ぶ場合、教室で扱う以外の新出語彙に ふれることは少なく、語彙のレベルも教師がコントロールしているので、積極的に向上させたい 能力になりにくい可能性が考えられる。 また、「語彙」と並んで「発音」の順位も注目に値する。KIU の結果では、「4位」(9%)な のに対して、メキシコ、スペイン共に最下位である。普段から、「発音が悪いから、日本人に理解 してもらえない」と訴える学生が現に多く存在している。発音に関する項目「外国語学習の中で 一番重要なのはきれいな発音で話すことだ」(項目37)を支持するする学生も多い KIU (平均1.90) に対して、ULIS の学生は、反対意見に傾いている(平均2.81)。目標言語の学習環境の違いが上 達させたい言語技能の順位に影響を与えていることは確実であり、そうした経験に基づいて形成 される言語学習ビリーフも学習環境の違いによる影響があるといえるのではないだろうか。 図2は上達させたい言語技能・能力の最下位(6位)を表したものである。先に述べた「発音」 「語彙」は同率で4%、会話は3%であることからも、KIU 別科生は「発音」「語彙」を重視して いることがうかがわれる。図2において、さらに興味深いのは、80%の学生で「文字・作文」が 最下位になっていることである。図1で、最も上達させたい言語技能が、コミュニケーションに 関係する「会話」「語彙」「聴解」の3つに分かれていたのと比較しても、「文字・作文」の上達し たい技能順位の低さは際立っている。先に述べたように、日本国内で学習する KIU 別科生の日常 生活では、「会話」「聴解」「語彙」に比べ、「文字・作文」の能力が求められる場面が少ないこと が影響を与えているかもしれない。また、別の要因として、学習面において、学習段階が進めば 書く機会も必要性も増えてくるが、初級、中級前半終了レベルでは、その必要性も機会も低いこ とが考えられる。実際に、現行の KIU の別科クラスでは、教科書の設問、聴解、読解、文型練習 帳などを練習するだけで時間的に精いっぱいであり、「文字・作文」の時間がなかなか取れていな い。教室内外で「文字・作文」を必要とする経験が少ないゆえに、重要性もあまり感じていない ということかもしれない。
5.本調査結果を踏まえた教授法・教室活動への提案
5.1 KIU 別科生のビリーフの特徴 以上の調査結果の分析から KIU 別科生のビリーフの特徴は次の5つに大別される。 (1)教師への依存度が高く、学習面でのアドバイスを求めている。 (2)目標、計画を立てることの重要性は理解しているが、まだ行動には結びついていない。 (3)学習面では、教科書を用いて、文法上の問題点をはっきりさせたいなど正確性を重視して いるが、言語使用面では常に正しい日本語を話さなければならないとは考えておらず、わ からない単語の意味を推測しながらでも、日本人と話すことを楽しむ傾向にある。 (4)従来型の講義形式の授業だけでなく、アクティビティ中心の教室活動も好むなどコミュニ ケーションを重視している。 (5)国外で行われた調査と比べて、「語彙」「発音」を上達させたい言語技能の上位に挙げる学 生が多く、反対に、「文字作文」の順位は押しなべて低い。 5.2 教授法・教室活動への提案 上述のビリーフの特徴を踏まえ、授業改善策案として次の4つを挙げてみたい。 (1)学習目標、学習計画の達成確認をチェックできるシステムの構築 教師への依存度、信頼度は高い(表3)ので、学習者が重要性を認めている「学習目標、 計画」(表4)が達成できているかどうか、教師と学習者が共にチェックしていくシステム の構築が有効だと考えられる。例えば、従前の定期テストのフィードバックでは、時間的 制約もあり、クラス全体で間違いの多かったところを中心に教師が板書して直す、あるい は、学習者同士で完全答案を作るなどしていたが、可能な限り、フィードバック時に教師 が個別に誤答を指摘し、どの程度学習できているかを教師と共にチェックすること(項目 25)が有効なのではないだろうか。このことは、学習面では正確性を好む傾向にあるビリー フに沿う(項目43)活動だと考えられる。 (2)教室外におけるアクティビティの実施 コミュニケーションを重視した教室活動を好む傾向にあり(項目5,40,46,49)、「学習した ことを教室の外で使える機会(日本人へのインタビュー、アンケート調査)」なども強く支 持されている(項目59)ので、積極的に教室外へ出かける活動も随時取り入れるべきであ ろう。KIU では2015年度前期より、SA(留学生支援日本人学生)が適宜入り、その課で 習った文法項目の応用練習などに参加している。このような活動も調査結果に沿う活動と して提案される。 【図1】最も上達させたい言語技能・能力(1位) 【図2】最も上達させたい言語技能・能力(最下位) 36% 36% 17% 9% 1% 1% ヰ ㄒᙡ ⫈ゎ Ⓨ㡢 ㄞゎ ᩥᏐసᩥ 80% 7% 4% 4% 3% 2% ᩥᏐసᩥ ㄞゎ Ⓨ㡢 ㄒᙡ ヰ ⫈ゎ(3)発音練習の工夫 日本国内で学んでいる KIU 別科生の特筆すべき点として「発音」に対するビリーフ(項 目37)がある。これは学習者が「発音が悪いと日本人に通じない」という生活経験を経て 得たビリーフであり、発音の練習方法を工夫しながら更に強化すべきであると言えるだろ う。練習方法として、以下のように実施し、有効性を確かめたい。 ・ランダムに書かれた50音表を読ませる。 ・ベトナム人学習者の発音しにくい音「ザ行音・ジャ行音、ヤ行音」(ファム2006)など を教師も意識して練習させる。 ・学習者の発話を録音し、どのように聞こえているか、自己モニター力を養う。 ・5.2でも述べた SA(留学生支援日本人学生)と共に、録音した発話を聞きなおし、 教師以外の日本人に自分の日本語がどのように聞こえているのかを自覚させる。 (4)語彙力の養成 KIU 別科生は海外の日本語学習者よりも語彙学習の必要性を強く感じていることから、 学習者に「語彙ノート」を作らせることも一つの方法だと思われる。授業中に限らず、日 常生活の中で出逢う、覚えたい「新語」とその意味を母国語で書き、その横に日本語で例 文を作成する。そのノートを定期的に教師がチェックする。あるいは、SA がチューター として関わる際の教材としても活用できるのではないだろうか。「わからない日本語の単語 は必ず意味を調べるべきだ」(項目56)はかなり強く支持されているので、この「語彙ノー ト」は中級レベル以上では欠かすことのできない自律学習の習慣や、教室だけでは十分と は言えない語彙の補充にも役立つものと思われる。
6.おわりに
以上、本稿では KIU 別科生のビリーフ調査を実施し、その結果から5つの特徴と4つの授業改 善策案を示した。先行研究でも指摘されているように質問紙による調査結果の不安定さは否めな い。しかしながら、昨今の日本国内での学習者状況の激変に応じた教授法や教育内容を検討する ためにはそれに資する国内での種々のデータが必要であろう。その点においても、日本国内のベ トナム人学習者が持っているであろうビリーフを数値化することは、従来の教授法や教育内容を 再考する手掛かりになると思われる。今回の調査により、予想された「学習環境の違い」(自国 か、目標言語国内か)がビリーフに何らかの影響を与えることが確認された。ただし、教育現場 で求められるのは、こうした調査結果そのものではなく、その結果を基にどう授業を改善してい くかということである。5.2で提案した授業改善案などを実際に授業に取り入れ、その有効性を 今後も確認、再考していきたい。 また、今回の調査データは一時点のものである。KIU の別科生の多くは、今後、神戸国際大学 へと進学するので、継時的にビリーフ調査を行い、その変化の有無にも注目し、合わせて、ビリー フと成績の相関性の有無、その変化についても研究を続けていきたいと考えている。また、多く の先行研究にもあるように、教師へのビリーフも調査(松田2005)も必要であろう。今後は、質 問紙調査の中に自由記述部分も加え、できれば、グループインタビューなども実施し、質的、量 的により充実した調査を行いたい。そして、それらを踏まえた上で学習者にとって有益な授業が できるよう、よりよいカリキュラム作りに反映させたいと考えている。謝辞 本稿の執筆にあたり、関西大学の嶋津百代先生には複数回にわたり多くの貴重なご意見を賜り ました。また、調査実施の際には神戸国際大学国際別科の先生方、教学センター国際交流担当の スタッフの方々には多大なるご助力・ご協力いただきました。ここに記して深く感謝の意を表し ます。 <参考文献> (1) 阿部新(2009)「スペイン・マドリードの大学における日本語学習者の言語学習ビリーフ」『名古屋外 国語大学外国語学部紀要』第37号,25-62ページ。 (2) 阿部新(2014)「世界各地の日本語学習者の文法学習・語彙学習についてのビリーフ―ノンネイティブ 日本語教師・日本人大学生・日本人教師と比較して―」『国立国語研究所論集 NINJAL Research Papers』第8号,1-13ページ。 (3) 一般財団法人日本語教育振興協会(2015)『平成26年度 日本語教育機関実態調査 結果報告』 (4) 片桐準二(2005)「フィリピンにおける日本語学習者の言語学習 Beliefs―フィリピン大学日本語受講 生調査から―」『国際交流基金日本語教育紀要』第1号,85-101ページ。 (5) 木谷直之(1998)「極東ロシアの大学生の言語学習観について-海外日本語教師研修のための基礎デー タ作成を考える-」『日本語国際センター紀要』第8号,95-109ページ。 (6) 小池真理(2002)「質問紙の回答の不安定性を引き起こす要因:学習者ビリーフを調査する質問紙を使 用して」『北海道大学留学生センター紀要』第6号,37-52ページ。 (7) 小玉安恵・古川嘉子(2001)「ナラティブ分析によるビリーフ調査の試み―長期研修生への社会言語学 的インタビューを通して―」『日本語国際センター紀要』第11号,51-67ページ。国際交流基金日本語 国際センター (8) 佐藤紀美子(2007)「台湾人日本語学習者のビリーフス」『留学生教育』第12号,119-129ページ。 (9) 高﨑三千代(2006)「フィリピン・マニラ首都圏の大学における日本語学習者のビリーフ―歴史的・社 会的背景の視点からの考察―」『国際交流基金日本語教育紀要』第2号,65-80ページ。 (10) 高﨑三千代(2014)「メキシコにおける日本語学習者の特性―ビリーフ調査結果を中心に―」『国際交 流基金日本語教育紀要』第10号,23-38ページ。 (11) 田中信之(2005)「中国人学習者を対象としたピア・レスポンス―ビリーフ調査をもとに―」『日本語 教育学会』第126号,144-153ページ。日本語教育学会 (12) 張麗珺(2012)「中国の大学における日本語学習者のビリーフと成績の関連に関する一考察」『第9回 国際日本語教育・日本研究シンポジウム予稿集』1-8 (13) 服部美貴(2002)「台湾の日本語学習者の言語学習の「確信」について」『東京家政学院筑波女子大学 紀要』第6集,169-183ページ。 (14) ファム・トゥー・フォン(2006)「ベトナム語母語話者による日本語のザ行音・ジャ行音・ヤ行音の聞 き分け」『日本言語文化研究会論集』第2号,83-108ページ。 (15) 松田真希子(2005)「現職日本語教師のビリーフに関する質的研究」『長岡科学技術大学 言語・人文 科学論集』第19号,215-240ページ。 (16) 横山直子(2010)「ベトナム人日本語学習者の日本語学習ビリーフ -ベトナム・ハノイ国家大学外国 語大学の場合-」http://www.data.ulis.vnu.edu.vn/jspui/handle/123456789/1336(2014年6月14日 アクセス) (17) 若井誠二・岩澤和宏(2004)「ハンガリー人日本語学習者のビリーフス」『日本語国際センター紀要』 第14号,123-140ページ。
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