• 検索結果がありません。

皮質網様体路の残存が確認された歩行不能な脳卒中重度片麻痺者に対する長下肢装具を用いた前型歩行練習と歩行および下肢近位筋の回復経過

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "皮質網様体路の残存が確認された歩行不能な脳卒中重度片麻痺者に対する長下肢装具を用いた前型歩行練習と歩行および下肢近位筋の回復経過"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 45 巻第 6 号 385 ∼皮質網様体路が残存した片麻痺者に対する歩行練習と回復経過 392 頁(2018 年). 385. 症例報告. 皮質網様体路の残存が確認された歩行不能な脳卒中重度片麻痺者に 対する長下肢装具を用いた前型歩行練習と 歩行および下肢近位筋の回復経過* 辻 本 直 秀 1)2) 阿 部 浩 明 1)# 大鹿糠 徹 1) 神   将 文 1). 要旨 【目的】拡散テンソル画像所見で皮質脊髄路(以下,CST)が描出されず,一方で皮質網様体路(以 下,CRT)の残存が確認された脳卒中重度片麻痺者の歩行再建に向けた理学療法経過について報告する。 【対象】動静脈奇形破裂による脳出血発症から約 1 ヵ月後に当院へ入院された 10 歳代後半の男性であっ た。麻痺側立脚相における下肢支持性はきわめて乏しく歩行に全介助を要した。 【方法】CST の損傷程度 から運動機能の予後は不良であると予測されたが,CRT が残存しており,麻痺側下肢近位筋の回復を予測 し,歩行再建できる可能性が高いと判断し,長下肢装具を使用した 2 動作前型歩行練習を積極的に試みた。 【結果】発症から約 4 ヵ月後,遠位筋の回復は不良であったが近位筋優位の運動機能の回復が得られ歩行能 力が改善した。 【結論】重度片麻痺者の歩行練習に際し,CST の損傷の評価のみならず CRT の損傷も評価 することでより効果的な治療が提供できる可能性がある。 キーワード 脳卒中重度片麻痺者,拡散テンソル画像,皮質網様体路,長下肢装具,歩行練習. 御. はじめに. 4). や歩行機能 5)との関連性が報告されている。.  今回,脳動静脈奇形(cerebral arteriovenous malfor-.  拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging:以下,. mation:以下,AVM)破裂による脳出血発症から約 1 ヵ. DTI)は,白質神経線維束の仮想的な描出や微細構造変. 月後に AVM 摘出術を目的とし当院へ入院した重度片麻. 化 の 定 量 的 な 評 価 が 可 能 で あ り,DTI で 皮 質 脊 髄 路. 痺者を担当した。摘出前および摘出後に撮像された. (corticospinal tract:以下,CST)の損傷の程度を評価. DTI 所見では,損傷側の CST の完全損傷がみられたが,. することは運動機能の予後を予測する一手段として有効. その一方で損傷側の CRT の残存が確認された。歩行時. 1). であると考えられている 。また近年では,体幹筋と四. の麻痺側下肢の支持性はきわめて乏しく歩行に全介助を. 肢の近位筋の支配ならびに予測的な姿勢制御や歩行に関. 要し,損傷側の CST の損傷の程度から運動機能の予後. 与することが知られる皮質網様体路(cortico-reticular. が不良であると予測された。しかし,残存した損傷側の. の損傷と近位筋優位の筋力低下との関連性 *. 2). ,CRT. CRT が支配する麻痺側下肢近位筋の回復の可能性は高. ,姿勢制. く,歩行の再建が可能であると予測し,重度片麻痺者の. tract:以下,CRT)が DTI で描出可能となり. 3). The Practice of Aggressive Gait Training using Knee-AnkleFoot-Orthosis and the Course of Recovery from Gait Disturbance and Weakness of Proximal Lower Muscles in Severe Hemiplegic Stroke Patient with Intact Cortico-reticular Tracts 1)一般財団法人広南会広南病院リハビリテーション科 (〒 982‒8523 宮城県仙台市太白区長町南 4‒20‒1) Naohide Tsujimoto, PT, Hiroaki Abe, PT, PhD, Toru Okanuka, PT, Masafumi Jin, PT: Department of Rehabilitation Medicine, Kohnan Hospital 2)西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部 Naohide Tsujimoto, PT: Department of Rehabilitation Medicine, Nishiyamato Rehabilitation Hospital # E-mail: abehi0827@gmail.com (受付日 2018 年 1 月 18 日/受理日 2018 年 8 月 6 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 10 月 4 日]. 麻痺側下肢筋活動を惹起させるうえで有効とされる長下 肢装具(Knee Ankle Foot Orthosis:以下,KAFO)を 使用した 2 動作前型歩行練習. 6)7). を積極的に実践した。. その約 3 ヵ月後(113 病日,AVM 摘出後 6 週目)には, 損傷側の CRT 残存所見から予測された近位筋優位の運 動機能の回復が得られ,T 字杖と短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:以下,AFO)使用下で前型歩行が可能 となった。  本症例の歩行再建に向けた治療戦略の立案とその後の 理学療法経過について報告する。.

(2) 386. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 図 1 発症当日の CT 像. 症例紹介. と評価者の観察(客観)に分けて評価する Catherine Bergego Scale 日本語版(以下,CBS)は主観 2 点,客.  症例は AVM 破裂による右前頭葉皮質下出血を発症し. 観 2 点で半側空間無視を認めた。また,注意障害や脱抑. た 10 歳代後半の男性であった。意識障害と左片麻痺が. 制などの前頭葉機能障害を認め,Trail Making Test(以. 出現し近院へ救急搬送され,AVM 破裂による脳出血と. 下,TMT)の Part A は 36.7 sec,Part B は遂行困難,. 診断され入院加療となった。発症当日の CT を図 1 に示. Frontal Assessment Battery(以下,FAB)は 13 点で,. した。前頭葉から頭頂葉,特に中心前回から中心後回の. 抑制課題(GO/NO-GO 課題)で減点があった。明らか. 皮質下に広範な高吸収域を認め,脳室穿破も認めた。. な関節可動域制限は認めなかった。寝返り,起き上がり,. CST および感覚路(sensory tract:以下,ST)の損傷,. 座位動作は自立し,起立と立位動作は支持物を使用すれ. ならびに側脳室体部スライスでは病巣が側方に大きく広. ば自立していたが,移乗動作は高次脳機能障害のため見. がり,上縦束や上後頭前頭束を中心とした右半球の連合. 守りを要した。歩行は平行棒内で開始したが,無装具で. 線維の損傷も考えられた。CST および ST の損傷は左. は麻痺側立脚相での支持性がきわめて乏しく,初期接地. 上下肢の重度運動麻痺と感覚障害の出現が,また上縦束. 後に急激な膝関節屈曲(膝折れ)が生じ,その際に介助. や上後頭前頭束の広範な損傷は右の頭頂葉から前頭葉に. を必要とした。膝折れが生じない場合には,立脚相前半. かけての連絡を遮り,半側空間無視や注意障害などの高. で急速な膝関節の伸展(extension thrust pattern:以. 次脳機能障害の出現が予測された。31 病日に AVM の. 下,ETP)が観察された(図 2a)。また,麻痺側下肢の. 摘出術を目的として当院へ入院し,40 病日に術前評価. 遊脚は可能であったが初期接地の位置の修正に介助を要. として DTI が撮像された。56 病日と 68 病日に AVM. し,FAC は 0 であった。. 塞栓術が施行され,71 病日に開頭 AVM 摘出術および 頭蓋形成術が施行された。AVM 破裂による脳出血発症. 2.DTI 所見. 前の ADL はすべて自立されており,Functional Ambu-.  3.0 テスラ MR 装置である Signa Excite HD scanner. lation Category(以下,FAC)は 5 であった。 当院での理学療法初回評価ならびに DTI 所見. (General Electric, Milwaukee, USA)を用い DTI 撮像 (撮影パラメーター:echo time = 59 ms,repetition time = 9.000 ms,flip angle = 90°,slice thickness = 3 mm. 1.理学療法初回評価(33 病日,AVM 摘出前). with no gap,field of view = 28.8 × 28.8 cm,acquisition.  JCS は 2,Stroke Impairment Assessment Set(以下,. matrix = 96 × 96,image matrix = 256 × 256 with a. SIAS)の運動機能項目は上肢近位 2,上肢遠位 1A,下. voxel size of 1.125 × 1.125 × 3.0 mm,number of. 肢近位(股)2,下肢近位(膝)1,下肢遠位 0 であった。. excitations = 1,band width = 250 kHz,b value =. Manual Muscle Testing(以下,MMT)は非麻痺側下. 2 1000 s/mm ,number of diffusion-encoding directions =. 肢がすべて 5,麻痺側股関節の屈曲筋と内転筋が 2,外. 15)を行った。解析には Oxford Centre for Functional. 転筋と伸展筋および膝関節周囲筋が 1,足関節周囲筋が. Magnetic Resonance Imaging of Brain Software. 0 であった。SIAS の筋緊張項目は上下肢ともにすべて 2,. Library(www.fmrib.ox.ac.uk/fsl,以下,FSL)を用い. 感覚項目は上下肢ともにすべて 0 であった。行動性無視. て拡散異等方性(fractional anisotropy:以下,FA)画. 検 査 Behavioural Inattention Test( 以 下,BIT) の 通. 像を構築し,FSL にて渦電流歪補正を行い,補正後の. 常検査は 136 点でカットオフ以上であったが,机上の検. DTI データを DSI studio(CMRM, Johns Hopkins Medical. 査ではなく ADL 上の無視症状を症例の自己評価(主観). Institute, Baltimore, USA)を用いて解析した。先行研.

(3) 皮質網様体路が残存した片麻痺者に対する歩行練習と回復経過. 387. a. b. c. d. 図 2 初回・最終評価時の歩行と長下肢装具を使用した歩行練習の様子 a. 無装具での平行棒内歩行 b. 長下肢装具装着下での 2 動作前型無杖歩行 c. 長下肢装具装着下での T 字杖歩行 d. 短下肢装具装着下での T 字杖歩行. 究 2)にしたがって関心領域(region of interest:以下,. あった(図 3b)。一方で,損傷側の CRT は血腫と周辺. ROI)設定を行い,左右半球それぞれ線維追跡(fiber. 浮腫の圧排の影響を受けつつ,その領域の前方を通過す. tracking:以下,FT)を行った。FT の stop criteria 設. るように皮質まで描出された(図 3b,c)。描出された. 定は,FA < 0.2,角度変化 > 80° とした。DTI で描出. CRT が圧排を受けて存在した CST である可能性も考え. された本症例の CST,CRT および ST の走行を図 3 に. られるが,詳細に走行路を確認すると中脳レベルで大脳. 示した。非損傷側の CST,CRT,ST はいずれも明瞭に. 脚を通過せず,中脳被蓋のみ通過しており,CRT とし. 描出された(図 3a) 。損傷側の CST および ST はまっ. て妥当な走行であることを確認した(図 3d) 。さらに. たく描出されず,完全に断裂していると思われる所見で. CST の損傷によって生じる Waller 変性の存在を評価す.

(4) 388. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 図 3 Fiber tracking 所見 a. 損傷側からの所見 b. 非損傷側からの所見 c. 左前上方からの所見 d. 左後上方からの所見 e. 中脳大脳脚の拡散異等方性を計測した関心領域 f. 拡散異等方性画像では中脳大脳脚に明らかな左右差がみられる. g および h. 摘出術後の所見. るために,評価に精通した検者 1 名が損傷側と非損傷側 の中脳大脳脚における FA 値を計測した(図 3e) 。その 結果,非損傷側が 0.71 ± 0.15,損傷側が 0.44 ± 0.12 と. 後ともに同様の DTI 所見となった(図 3g,h) 。 歩行再建に向けた治療戦略の立案. 左右差を認め,非損傷側に対する損傷側の FA 値の比.  脳卒中片麻痺者の歩行機能は麻痺側下肢筋力と高い相. (以下,FA ratio,損傷側 FA /非損傷側 FA にて算出). 9) 関を示し ,片麻痺者の歩行再建には麻痺側下肢筋力を. を算出したところ 0.62 であった。計測した FA 値と合. 強化する視点が重要になると考えられる。しかし,本症. 致して中脳レベルの FA 画像(図 3f)においても大脳. 例は重度の運動麻痺を呈しており,CST の損傷の程度. 脚に明確な左右差が確認され,Waller 変性がみられた。. からも運動麻痺の回復が十分に期待できず,麻痺側下肢. 中脳大脳脚における FA ratio については,脳卒中後の. の筋力強化が容易ではないと思われた。その一方で,本. 運動機能の回復が良好な症例(0.87 ∼ 0.96)に対して回. 症例は CRT が非損傷側のみならず損傷側でも良好に描. 復が不良な症例(0.70 ∼ 0.82)では有意に低値を示すこ. 出された。先行研究. 8). 3). では CST 損傷が明らかではなく. ,本症例の FA ratio が低値を示. CRT の損傷がみられた症例では損傷側と対側の麻痺側. したことから,運動機能の回復は不良であると予測され. 遠位筋の筋力が保たれているのに対して,麻痺側股関節. た。同様に,描出不能であった ST の所見から感覚障害. に筋力低下が生じたことが報告されている。また,CST. もまた回復不良となる可能性が推察された。なお,71. 損傷のみならず CRT 損傷を伴う場合,CRT 損傷がなく. 病日の開頭 AVM 摘出術後にも DTI が撮像されたが,. CST 損傷のみの症例より歩行機能が低いことが報告さ. 損傷側の CST,ST および CRT の描出に関しては 40 病. 5) れている 。本症例は麻痺側股関節に限ってはわずかな. 日と同様の所見で,非損傷側の CST,ST,CRT ともに. がらも随意運動が確認された。近年,DTI にて完全な. 明瞭に描出されたが,損傷側の CST および ST はまっ. CST 損傷を認めた症例においても歩行可能な症例が存. たく描出されず,CRT のみ描出された。すなわち術前. 在することが報告されており. とが報告されており. 10). ,本症例の損傷側の.

(5) 皮質網様体路が残存した片麻痺者に対する歩行練習と回復経過. 389. 図 4 Gait Solution 足継手付き長下肢装具(文献 6 より引用) 外側の足継手には油圧制動により滑らかな荷重応答を可能とし,立脚中期以降の背 屈運動を妨げない Gait solution 足継手が,そして内側には必要時に可動範囲を調節 できるようにダブルクレンザック足継手が備わっている.また,大腿カフ部には麻 痺側下肢の遊脚の介助と初期接地の位置を調節するためのループが備わっている. また,金属支柱に取り付けられたネジの操作により,長下肢装具から短下肢装具(a) のみならず semi- 長下肢装具(b)への移行も可能となっている.. CRT 残存所見から麻痺側下肢近位筋(特に股関節筋). へと段階的に移行した。無杖での 2 動作前型歩行練習の. の回復が期待でき,歩行再建できる可能性は高いと判断. 際には,治療者が後方から体幹と骨盤部を密着させ,体. した。. 幹が正中位となることに加え,麻痺側立脚相で麻痺側股.  CST の損傷により随意的な筋力発揮が困難な重度片. 関節が伸展位となるように誘導した。また,遊脚介助用. 麻痺者でも,KAFO を使用した歩行練習は歩行周期に. ループにて麻痺側下肢の遊脚を介助し,初期接地の位置. 6). ,歩行様式を 3. を調節した(図 2b) 。歩行練習は装具装着と休憩の時間. 動作揃え型から 2 動作前型にした場合,その筋活動が増. を含めて 1 日あたり約 50 分間実施し,その他に移乗練. 同調した麻痺側下肢筋活動を惹起させ 大することが報告されている 7). 7). 。そこで本症例に対し. 習や車椅子駆動練習を病棟にて約 10 分間実施した。ま. で 用 い ら れ た 足 部 が 可 動 す る Gait. た,自主練習としてブリッジ(10 回× 5 セット)や起. Solution(川村義肢社製,以下,GS)足継手付き KAFO. 立反復練習(10 回× 5 セット)といった自重を用いた. (図 4)を使用して,2 動作前型歩行練習を積極的に実践. closed kinetic chain 環境下での下肢筋力の強化を目的. し,麻痺側下肢筋力の強化を図ることで歩行自立度の改. とした練習を実施した。なお,自主練習は当院に入院し. 善に貢献でき,高次脳機能障害のため見守りは必要だが. ている期間,継続して実施するように指導した。. て, 先 行 研 究. 介助なく歩行可能になると考えた。 下肢装具を使用した歩行練習の経過の推移. 2.78 病日から 84 病日(AVM 摘出後 2 週目)  78 病日には,SIAS の下肢運動機能項目は下肢近位.  初回評価翌日(34 病日,AVM 摘出前)から最終評価. (股)3,下肢近位(膝)2,下肢遠位 1 となり,麻痺側. (113 病日,AVM 摘出後 6 週目)までの理学療法所見と. 下肢の MMT は股関節屈曲筋と内転筋が 3,外転筋と伸. 歩行練習の経過を表に示した。. 展筋および膝関節周囲筋が 2,足関節周囲筋が 1 まで改 善した。さらに,移乗動作も自立し,病棟内の移動は車. 1.34 病日(AVM 摘出前)から 77 病日(AVM 摘出後 1 週目). 椅子を使用して自立した。そのため,移乗練習や車椅子 駆動練習にかけていた時間はすべて歩行練習に費やし.  前述の 2 動作前型歩行練習では,杖を用いないことで. た。無杖歩行時の介助量も軽減したため,今後の ADL. 麻痺側下肢への十分な荷重を提供することが重要である. 場面(トイレ,洗面,風呂場への移動)を想定し,T 字. 7). と考えられている 。しかし,本症例は麻痺側下肢の支. 杖歩行練習を開始した。その際にも,治療者は麻痺側後. 持性が著しく低下しており,杖を使用しない状態(無杖). 方から体幹と骨盤部を介助し,麻痺側立脚相で麻痺側股. での 2 動作前型歩行練習の実践に難渋した。そこではじ. 関節が伸展位となるように誘導したが,麻痺側下肢の遊. めは,平行棒内での前型歩行練習から開始し,麻痺側下. 脚が自力で可能となり,その後の接地位置が過度に内. 肢の支持性向上に伴い,41 病日より無杖での歩行練習. 転・外転することなく前型歩行の様式で,ほぼ一定の位.

(6) 390. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 表 評価・練習項目. JCS. 初回評価翌日 (34 病日). 41 病日. 78 病日 85 病日. 100 病日. 最終評価 (113 病日). (56・68 病日 : AVM 塞栓術 71 病日 : AVM 摘出術). 2. 2. 1. 1. 0. 0. 2 − 1A − 2 − 1 − 0. 2 − 1A − 2 − 1 − 0. 2 − 1A − 3 − 2 − 1. 2 − 1A − 3 − 2 − 1. 3 − 1A − 3 − 2 − 1. 3 − 1A − 3 − 3 − 1. 股関節屈曲筋・内転筋:2. 股関節屈曲筋・内転筋:2. 股関節屈曲筋・内転筋:3. 股関節屈曲筋・内転筋:3. 股関節屈曲筋・内転筋:3. 股関節外転筋・伸展筋:1 膝関節伸展筋・屈曲筋:1 足関節背屈筋・底屈筋:0. 股関節外転筋・伸展筋:1 膝関節伸展筋・屈曲筋:1 足関節背屈筋・底屈筋:0. 股関節外転筋・伸展筋:2 膝関節伸展筋・屈曲筋:2 足関節背屈筋・底屈筋:1. 股関節外転筋・伸展筋:2 膝関節伸展筋・屈曲筋:2 足関節背屈筋・底屈筋:1. 股関節外転筋・伸展筋:2 膝関節伸展筋・屈曲筋:2 足関節背屈筋・底屈筋:1. 股関節屈曲筋・内転筋:4 股関節外転筋・伸展筋:3. SIAS 感覚項目. 0−0−0−0. 0−0−0−0. 0−0−0−0. 0−0−0−0. 0−0−0−0. 0−0−0−0. SIAS 筋緊張項目. SIAS 運動機能項目. 麻痺側下肢 MMT. 膝関節伸展筋:4 膝関節屈曲筋:3 足関節背屈筋・底屈筋:1. 2−2−2−2. 2−2−2−2. 2−2−2−2. 2−2−2−2. 2−2−2−2. 2−2−2−2. 最大歩行速度. 測定不可. 測定不可. 測定不可. 28.5 m/min. 37.2 m/min. 58.8 m/min. 重複歩距離. 測定不可. 測定不可. 測定不可. 69.7 cm. 87.0 cm. 105.3 cm. 0. 0. 1. 2∼3. 2∼3. 3. FAC 平行棒内歩行 無杖歩行 T 字杖歩行① T 字杖歩行② T 字杖歩行③. SIAS 運動機能項目:Stroke Impairment Assessment Set の運動機能項目を上肢近位−上肢遠位−下肢近位(股)−下肢近位(膝)−下肢遠位の順に記載した. SIAS 感覚項目:Stroke Impairment Assessment Set の感覚項目を上肢触覚−下肢触覚−上肢位置覚−下肢位置覚の順に記載した. SIAS 筋緊張項目:Stroke Impairment Assessment Set の筋緊張項目を上肢筋緊張−下肢筋緊張−上肢腱反射−下肢腱反射の順に記載した. 最大歩行速度:短下肢装具装着下での最大歩行速度 重複歩距離:短下肢装具装着下での重複歩距離 FAC:短下肢装具装着下での Functional Ambulation Category 平行棒内歩行:長下肢装具装着下での 2 動作前型平行棒内歩行練習 無杖歩行:長下肢装具装着下での 2 動作前型無杖歩行練習 T 字杖歩行①:長下肢装具装着下での 2 動作前型 T 字杖歩行練習 T 字杖歩行②:semi- 長下肢装具装着下での 2 動作前型 T 字杖歩行練習 T 字杖歩行③:短下肢装着下での 2 動作前型 T 字杖歩行練習. 置に接地可能となってきたため,介助せずに自らの視覚. 麻痺側下肢の遊脚と初期接地の位置に関しては,病棟歩. 情報を利用して成功か失敗かを認識させた。. 行の際に前方を確認し人や障害物との衝突を回避させる ため,視覚ではなく改善した下肢近位感覚を利用して成. 3.85 病日から 99 病日(AVM 摘出後 4 週目). 功か失敗かを認識するよう口頭指示しつつ練習した。.  85 病日には,SIAS の下肢運動機能項目と感覚項目に は変化がみられないものの,股関節と膝関節周囲の触覚. 4.100 病日から 112 病日(AVM 摘出後 5 週目). は強い皮膚刺激がわかる程度に改善し,さらに股関節と.  100 病 日 に は,GS 足 継 手 付 き AFO へ 移 行 し て も,. 膝関節の位置覚については他動的に運動させた際に全可. ETP,または麻痺側立脚期の前半に膝関節が過剰に屈. 動域の運動なら方向がわかる程度に改善を認めた。GS. 曲する buckling knee pattern(以下,BKP)や歩行周. 足継手付き KAFO 装着下で 2 動作前型 T 字杖歩行が見. 期を通じて膝関節の角度が 20 ∼ 30 度屈曲位となる stiff. 守りにて可能となり(図 2c),その際の最大歩行速度は. knee pattern(以下,SKP)などの歩容異常を呈してい. 35.0 m/min,重複歩距離は 82.4 cm であった。さらに,. ないことを確認し,GS 足継手付き AFO 装着下での T. GS 足継手付き AFO(図 4a)へ移行した場合にも膝折. 字杖歩行練習を開始した。この時点での最大歩行速度は. れが生じず,見守りから軽介助で歩行可能となったが,. 37.2 m/min,重複歩幅は 87.0 cm,FAC は 2 ∼ 3 であっ. 麻痺側立脚相前半で ETP が出現し,最大歩行速度は. た。また歩行練習量の増加を図るために,担当の作業療. 28.5 m/min,重複歩距離は 69.7 cm へ低下した。そこで,. 法士,言語聴覚士,看護師の協力を得て,院内を移動す. 膝関節中間位での保持を再学習させつつ歩容の再獲得を. る場面においても AFO 装着下での T 字杖歩行練習を実. 図る目的で,KAFO よりもテコの長さが短い分,膝関. 施した。. 節を固定する強度が弱く,膝関節に多少の遊びがでるた め膝関節の制御を要求される semi- 長下肢装具(以下,. 5.理学療法最終評価(113 病日,AVM 摘出後 6 週目). semi-KAFO) (図 4b)を装着し歩行練習を行った。また,.  JCS は 0,SIAS の運動機能項目は上肢近位 3,上肢遠.

(7) 皮質網様体路が残存した片麻痺者に対する歩行練習と回復経過. 391. 位 1A,下肢近位(股)3,下肢近位(膝)3,下肢遠位. 機能の改善に貢献すると考えられる。したがって,麻痺. 1 となった。麻痺側下肢の MMT は,股関節屈曲筋と内. 側下肢筋力を強化する視点を考慮し課題指向型アプロー. 転筋および膝関節伸展筋が 4,股関節外転筋と伸展筋お. チとして歩行練習を進める際には,歩行周期に合わせて. よび膝関節屈曲筋が 3 まで改善したが,足関節周囲筋は. 麻痺側下肢筋活動が生じ,その筋活動がより得られる手. 1 のままであった。筋緊張と感覚項目は初回評価時と同. 段を選択するべきであると思われる。本症例のような随. 様であった。BIT の通常検査は 146 点まで改善したが,. 意 的 な 筋 力 発 揮 が 困 難 な 重 度 片 麻 痺 者 に お い て も,. CBS では主観 0 点,客観 1 点と軽度の半側空間無視が残. KAFO を用いた歩行練習は歩行周期に同調した麻痺側. 存した。また,TMT の Part A は 23.1 sec まで改善した. 下肢筋活動を惹起させ得る. が,TMT の Part B は初回評価時と同様に遂行困難で,. 歩行様式の違いによる筋活動の変化を調査した報告. FAB も 16 点まで改善したが抑制課題で減点があり,注. によれば,3 動作揃え型杖歩行練習よりも 2 動作前型無. 意障害と脱抑制などの前頭葉機能障害が残存した。その. 杖歩行の方が下肢筋活動を増大させるとしている。ま. ため,歩行時には見守りを必要とし,FAC は 3 に留まっ. た,KAFO から AFO へ移行した直後には ETP,BKP. たものの,GS 足継手付き AFO と T 字杖を使用し,最. や SKP などの膝関節の運動に生じる異常を呈する症例. 大歩行速度は 58.8 m/min,重複歩距離は 105.3 cm まで. が少なくなく,KAFO で反復学習した歩容を AFO で再. 改善した(図 2d) 。なお,本症例は 115 病日にリハビリ. 現するには,semi-KAFO や軟性膝装具などを用いた中. テーションの継続を目的として他院へ転院した。転院先. 間的課題を設定し,段階的な誘導を経て AFO へ移行す. の担当理学療法士に診療情報の提供を求め,転院後に高. ることが重要とされている. 次脳機能障害は改善し最終的には屋内外含め歩行自立と. 時の麻痺側下肢支持性が得られ,KAFO から AFO へ移. なり,FAC は 5 となったとの情報を得た。. 行した際にも見守りから軽介助で歩行可能となったが,. 6). ことが報告されており, 7). 6). 。本症例も 85 病日に歩行. AFO 装着下での歩行時には ETP が観察された。ETP. 考   察. は初期接地から立脚中期にかけて生じる重心の上昇を妨.  一次運動野から下行する CST は対側上下肢の遠位筋. げ,立脚初期に生じた運動エネルギーを中期にかけて位. を優位に支配するのに対して,おもに補足運動野と運動. 置エネルギーへと変換できず,力学的に非効率的な歩容. 前野から下行する CRT は脳幹網様体で網様体脊髄路と. となることでエネルギーコストの増大. なり,一部は交差して体幹筋と四肢の近位筋を支配し,. 低下. 予測的な姿勢制御や歩行に関与すると考えられてい. の ETP に対してなんの策も講じずに,AFO のみでの. 11). 14). 13). や歩行速度の. を招くことが報告されている。つまり,本症例. 。DTI を 用 い た 先 行 研 究 に お い て も,Medical. 歩行練習へ移行した場合,力学的に非効率的な歩容を反. Research Council score で評価される運動機能の回復が. 復して練習していた可能性がある。我々は,本症例にみ. 末梢で良好だったが近位筋では不良であった脳損傷例に. られた SIAS と MMT で示す麻痺側下肢運動機能の改善,. おいては,CST の明らかな損傷がなく,損傷側の CRT. および T 字杖と AFO を用いて前型歩行が可能となり,. る. 3). が損傷していたことが報告されている 。また歩行機能 5). なおかつ歩容異常が改善し,約 60 m/min の歩行速度と. は被殻出血例 57 名の損. 1 m を超える重複歩距離を獲得した背景には,CRT が. 傷側の CST と CRT を DTI で描出し,CST と CRT の. 残存していたことに加えて KAFO を用いて積極的に前. 両方を損傷した者は,CST または CRT のどちらか一方. 型歩行練習を実践したこと,ならびに KAFO から semi-. を損傷した者と比較し FAC が有意に低値を示したこと. KAFO を経て AFO へ移行したことも少なからず貢献し. を報告した。近年,DTI にて CST がまったく描出でき. たものと推察した。. ない完全損傷と思われる症例においても歩行能力を再獲.  本症例の経過より,CST の損傷の程度から運動機能. 得する症例が存在することが報告され,歩行可能となっ. の予後が不良であると予測される重度片麻痺者に対して. た群は歩行に介助を要する群と比べ若年であったと報告. も,CRT 損傷の有無を含めた評価を行ったうえで,下. との関連性について,Yoo ら. されている. 10). 。これらのことから,若年である本症例. 肢装具を使用した歩行練習を積極的に実施することが重. にみられた,CST 損傷がありながらも損傷側の CRT が. 要である可能性があると思われた。. 残存した DTI 所見は近位筋と歩行能力が回復する可能.  本報告は一例の報告であり,CRT の損傷の程度と歩行. 性が高いことを示唆する所見であると解釈した。. 機能や近位筋の改善度との関係は不明であるため,多数.  脳卒中片麻痺者の歩行機能には麻痺側下肢筋力が関与. の症例を対象とした CRT の損傷と歩行機能と近位筋力. する. 9). とされていることから,歩行再建には下肢筋力. を強化する視点が重要となる。また,片麻痺者の歩行障 害に対して課題指向型アプローチの有効性が示されてお り. 12). ,歩行自体を課題とした反復トレーニングは歩行. との関係を明らかとする研究が必要であると思われる。 結   論  AVM 破裂による脳出血発症後に撮像された DTI 所.

(8) 392. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 見で損傷側の CST がまったく描出されなかったが,近 位筋と歩行機能に関連する損傷側の CRT の描出が良好 であった重度片麻痺者を担当した。本症例の DTI 所見 を参考に,麻痺側下肢筋の筋活動を惹起させるうえで有 効とされる足部に可動性を有す KAFO を使用した 2 動 作前型歩行練習を積極的に実践し,発症から約 4 ヵ月後 には近位筋優位の運動機能の回復が得られ,T 字杖と AFO 使用下で前型歩行が可能となった。重度片麻痺者 の歩行再建に向けた治療戦略を立案する際には,損傷側 の CRT 損傷についても慎重に評価したうえで積極的な 歩行練習を実践することが有益である可能性があると思 われた。 利益相反  本症例報告について開示すべき COI はない。 倫理的配慮  本人および家族には本症例報告の趣旨を説明し,理学 療法評価と経過について記載すること,脳画像や写真を 掲載することについて書面にて同意を得た。 謝辞:本症例報告にご協力いただいた対象者,関係者の 皆様に深謝申し上げます。 文  献 1)Puig J, Blasco G, et al.: Diffusion tensor imaging as a prognostic biomarker for motor recovery and rehabilitation after stroke. Neuroradiology. 2017; 59: 343‒351. 2)Yeo SS, Chang MC, et al.: Corticoreticular pathway in the human brain: diffusion tensor tractography study. Neurosci Lett. 2012; 508: 9‒12.. 3)Do KH, Yeo SS, et al.: Injury of the corticoreticular pathway in patients with proximal weakness following cerebral infarct: diffusion tensor tractography study. Neurosci Lett. 2013; 546: 21‒25. 4)Jang SH, Kim TH, et al.: Postural Instability in Patients With Injury of Corticoreticular Pathway Following Mild Traumatic Brain Injury. Am J Phys Med Rehabil. 2016; 95: 580‒587. 5)Yoo JS, Choi BY, et al.: Characteristics of injury of the corticospinal tract and corticoreticular pathway in hemiparetic patients with putaminal hemorrhage. BMC Neurol. 2014; 14: 121. 6)阿部浩明,大鹿糠徹,他:急性期から行う脳卒中重度片麻 痺例に対する歩行トレーニング.理学療法の歩み.2016; 27: 17‒27. 7)大鹿糠徹,阿部浩明,他:脳卒中重度片麻痺例に対する長 下肢装具を使用した二動作背屈遊動前型無杖歩行練習と三 動作背屈制限揃え型杖歩行練習が下肢筋活動に及ぼす影 響.東北理学療法学.2017; 29: 20‒27. 8)Kusano Y, Seguchi T, et al.: Prediction of functional outcome in acute cerebral hemorrhage using diffusion tensor imaging at 3T: a prospective study. AJNR Am J Neuroradiol. 2009; 30: 1561‒1565. 9)Bohannon RW: Muscle strength and muscle training after stroke. J Rehabil Med. 2007; 39: 14‒20. 10)Ahn YH, Ahn SH, et al.: Can stroke patients walk after complete lateral corticospinal tract injury of the affected hemisphere? Neuroreport. 2006; 17: 987‒990. 11)高草木薫:脳の可塑性と理学療法.理学療法学.2010; 37: 575‒582. 12)Wevers L, van de Port I, et al.: Effects of task-oriented circuit class training on walking competency after stroke: a systematic review. Stroke. 2009; 40: 2450‒2459. 13)Awad LN, Palmer JA, et al.: Walking speed and step length asymmetry modify the energy cost of walking after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2015; 29: 416‒423. 14)De Quervain IA, Simon SR, et al.: Gait pattern in the early recovery period after stroke. J Bone Joint Surg Am. 1996; 78: 1506‒1514..

(9)

参照

関連したドキュメント

病状は徐々に進行して数年後には,挫傷,捻挫の如き

 現在『雪』および『ブラジル連句の歩み』で確認できる作品数は、『雪』47 巻、『ブラジル 連句の歩み』104 巻、重なりのある 21 巻を除くと、計 130 巻である 7 。1984 年

Abstract This study is aimed to reveal the specific process through which the activity form and the athletic mind of the old-education-system high schools were formed by "following

は、これには該当せず、事前調査を行う必要があること。 ウ

統制の意図がない 確信と十分に練られた計画によっ (逆に十分に統制の取れた犯 て性犯罪に至る 行をする)... 低リスク

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

の改善に加え,歩行効率にも大きな改善が見られた。脳

区道 65 号の歩行者専用化